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はじめての作曲依頼
犯人発覚
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「痛まないか?」
「はい、大丈夫です。心配してくださりありがとうございます」
「礼を言う必要はない。傷つけたのは俺だぞ」
フォルテの手から青白い光が発している。それをピアニーの皮が剥けた手首に浴びせるとみるみるうちに回復していく。治癒魔法の効果だ。
二人は地下室から上がり、寝室のベッドに腰を掛けていた。
「……よし、こんなもんだろう。他に痛むところはないか」
「ええ、万全です。全身どこも痛みません!」
「……それは尻もか?」
「ぼっちゃま? デリカシーがなっておりませんよ?」
「一番痛めつけてしまったところだからな。他意はない」
「本当ですか~?」
主人にジト目を向ける。
気まずそうに目を逸らしながら、
「それよりピアニー。完治してもらったところ悪いんだがお願いを頼めるか?」
「はい、なんでしょう。私でよろしければ」
「……紅茶が飲みたい。今度はちゃんと味わって」
「よろしいですが……飲まれると夜眠れなくなりますよ?」
「それでいいんだ。今日一日つまらないことで時間を潰してしまった。遅れを取り戻す。なんなら明日の分も終わらせる」
「いけませんよ、ぼっちゃま。夜更かしは身体の成長を阻害します」
「それでもだ。頼む」
「理由をお聞かせください。今日中に片付けないといけないお仕事なのですか?」
「仕事自体は急ぎではない。でも、どうしても時間を作りたいんだ」
「時間を作ってどうなされるおつもりなのですか?」
「……その、なんだ」
問い詰めると歯切れが悪くなる。
ピアニーはじっと視線を向け続けると白状する。
「練習が……したい……ピアノの……俺にいろんな曲を弾いてほしいんだろ」
「ぼ、ぼっちゃま……」
ピアニーの目にじわりと涙が浮かぶ。
そして飛びつくのも早かった。
「ピアニー感動しております! ぜひ! ぜひ練習なさってください!」
抱き着いてはフォルテの衣服を涙で濡らす。
「ええい! 暑苦しい! これが時間の無駄だ!」
「あだだだだ! 感動してるのに鼻を掴まないでください!」
「正当防衛だ。鼻水まで付着されたらかなわん!」
ピアニーは名残惜しそうに鼻を労わりながら離れる。
「それでしたら紅茶を淹れた後も私、もう少し頑張りたいと思います」
「ん? 何を頑張るか知らんがお前は寝ててもいいんだぞ?」
「いえいえ。ご主人様がやる気になってるのに寝ていられる従者ではございません。汚名を返上しなくてはいけませんので」
「汚名?」
「エルメス様からのアンケートでございます。未だに行方不明なのでしょう。しっかり探さないとです」
「ああ、その件か……別に気にすることはないんだがな……アンケートに答えても大して得はしない。抽選で景品が当たるかもしれないだけだ」
「まあ、景品ですか。やはり探さないと」
「その景品も当たってからのお楽しみだとかふざけてやがる。当選発表は景品の発送を以って代えさせていただきますとかますますふざけてやがる」
「とにかく私が勝手にやることなのでフォルテ様のお手を煩わせません。ですがもう少しこの部屋に居させていただいてもよろしいですか? 当時の記憶を思い出すには現場での再現が一番ですから」
「そうかよ。好きにしろ」
ピアニーはベッドから立ち上がると真っ先に机に向かった。
「ううむ、机……やはり今朝はここに置いた気がするんですよね……」
屈んで机の下を覗く。
「床に落ちては……いませんね……おや?」
ピアニーは気付く。
机には引き出しがあった。
「ぼっちゃま? ここを開けてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ。開けられるならな」
「……開けられるなら?」
引き出しには鍵穴は備わっていない。
試しに引っ張ってみると言葉の意味がわかった。
「開か……ない!」
「開かないも当然。なにせ魔法の机だからな。シュバルツカッツェ家の人間、つまり俺と両親にしか開けられないようになっている。アレグロですら開けられない厳重なセキュリティになってるのだよ」
「それはすごい。本当にぼっちゃまは開けられるのですか?」
「ああ、開けられるとも。こう、すんなりとな」
フォルテの言う通り、引き出しはすんなりと開く。
そして気付く。
「……あれ」
引き出しの中には目新しい手紙。
「……」
無言で取り出す。
それは失くしていたとされたエルメス商団からのアンケートだった。
「ぼっちゃま」
「あー、そっかー……出かける前に俺、この部屋に戻ってたんだっけ……その時にこれが目に入って、とりあえず引き出しの中に入れてたわ、そうえいば」
「ぼっちゃま」
ピアニーは静かに呼ぶが、フォルテは目を合わせられない。
「ま、まあ、こういうこともあるよな……うん。冷静沈着頭脳明晰な俺でもこういうミスも犯すわな」
「ぼっちゃま」
「なにはともあれ、見つかって良かった! 万事解決! 一件落着! オールオッケー!」
「ぼっちゃま」
「そうだ、ピアニー。この幸運を祝してボーナスをやろう! うん、出血大サービス、肩代わりした借金を全部チャラに」
「ぼっちゃま」
さすがに誤魔化しきれない。
フォルテは全力で頭を下げる。
「すまない! 今回の件は全部俺が悪い! なのに責任を全部お前に擦り付けて、この通り、許してほしい!」
「ぼっちゃま。お顔をお上げください。私、怒っておりませんので」
女神のように慈しみのある優しい声。
「ああ、ピアニー……やはりお前は最高の」
頭を上げ、それを見た瞬間、フォルテは全身が固まる。
どこに仕舞っていたのか、ピアニーの手にはあの猫耳。
「怒るわけないではありませんか。ぼっちゃまに猫耳をつけていただく絶好の機会、大義名分を手に入れたのですから」
ピアニーからは本当に怒りの感情は見られない、純度百パーセントの満面の笑み。だからこそ不気味で怖い。
「まて、ピアニー、償いは別の方法で」
「シュバルツカッツェ家の家訓」
「え?」
「謝罪は言葉ではなく態度で示せ。ちゃんと覚えております」
「まて、それいじょう、おれに……う、うわあああああああ!!!!」
「はい、大丈夫です。心配してくださりありがとうございます」
「礼を言う必要はない。傷つけたのは俺だぞ」
フォルテの手から青白い光が発している。それをピアニーの皮が剥けた手首に浴びせるとみるみるうちに回復していく。治癒魔法の効果だ。
二人は地下室から上がり、寝室のベッドに腰を掛けていた。
「……よし、こんなもんだろう。他に痛むところはないか」
「ええ、万全です。全身どこも痛みません!」
「……それは尻もか?」
「ぼっちゃま? デリカシーがなっておりませんよ?」
「一番痛めつけてしまったところだからな。他意はない」
「本当ですか~?」
主人にジト目を向ける。
気まずそうに目を逸らしながら、
「それよりピアニー。完治してもらったところ悪いんだがお願いを頼めるか?」
「はい、なんでしょう。私でよろしければ」
「……紅茶が飲みたい。今度はちゃんと味わって」
「よろしいですが……飲まれると夜眠れなくなりますよ?」
「それでいいんだ。今日一日つまらないことで時間を潰してしまった。遅れを取り戻す。なんなら明日の分も終わらせる」
「いけませんよ、ぼっちゃま。夜更かしは身体の成長を阻害します」
「それでもだ。頼む」
「理由をお聞かせください。今日中に片付けないといけないお仕事なのですか?」
「仕事自体は急ぎではない。でも、どうしても時間を作りたいんだ」
「時間を作ってどうなされるおつもりなのですか?」
「……その、なんだ」
問い詰めると歯切れが悪くなる。
ピアニーはじっと視線を向け続けると白状する。
「練習が……したい……ピアノの……俺にいろんな曲を弾いてほしいんだろ」
「ぼ、ぼっちゃま……」
ピアニーの目にじわりと涙が浮かぶ。
そして飛びつくのも早かった。
「ピアニー感動しております! ぜひ! ぜひ練習なさってください!」
抱き着いてはフォルテの衣服を涙で濡らす。
「ええい! 暑苦しい! これが時間の無駄だ!」
「あだだだだ! 感動してるのに鼻を掴まないでください!」
「正当防衛だ。鼻水まで付着されたらかなわん!」
ピアニーは名残惜しそうに鼻を労わりながら離れる。
「それでしたら紅茶を淹れた後も私、もう少し頑張りたいと思います」
「ん? 何を頑張るか知らんがお前は寝ててもいいんだぞ?」
「いえいえ。ご主人様がやる気になってるのに寝ていられる従者ではございません。汚名を返上しなくてはいけませんので」
「汚名?」
「エルメス様からのアンケートでございます。未だに行方不明なのでしょう。しっかり探さないとです」
「ああ、その件か……別に気にすることはないんだがな……アンケートに答えても大して得はしない。抽選で景品が当たるかもしれないだけだ」
「まあ、景品ですか。やはり探さないと」
「その景品も当たってからのお楽しみだとかふざけてやがる。当選発表は景品の発送を以って代えさせていただきますとかますますふざけてやがる」
「とにかく私が勝手にやることなのでフォルテ様のお手を煩わせません。ですがもう少しこの部屋に居させていただいてもよろしいですか? 当時の記憶を思い出すには現場での再現が一番ですから」
「そうかよ。好きにしろ」
ピアニーはベッドから立ち上がると真っ先に机に向かった。
「ううむ、机……やはり今朝はここに置いた気がするんですよね……」
屈んで机の下を覗く。
「床に落ちては……いませんね……おや?」
ピアニーは気付く。
机には引き出しがあった。
「ぼっちゃま? ここを開けてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ。開けられるならな」
「……開けられるなら?」
引き出しには鍵穴は備わっていない。
試しに引っ張ってみると言葉の意味がわかった。
「開か……ない!」
「開かないも当然。なにせ魔法の机だからな。シュバルツカッツェ家の人間、つまり俺と両親にしか開けられないようになっている。アレグロですら開けられない厳重なセキュリティになってるのだよ」
「それはすごい。本当にぼっちゃまは開けられるのですか?」
「ああ、開けられるとも。こう、すんなりとな」
フォルテの言う通り、引き出しはすんなりと開く。
そして気付く。
「……あれ」
引き出しの中には目新しい手紙。
「……」
無言で取り出す。
それは失くしていたとされたエルメス商団からのアンケートだった。
「ぼっちゃま」
「あー、そっかー……出かける前に俺、この部屋に戻ってたんだっけ……その時にこれが目に入って、とりあえず引き出しの中に入れてたわ、そうえいば」
「ぼっちゃま」
ピアニーは静かに呼ぶが、フォルテは目を合わせられない。
「ま、まあ、こういうこともあるよな……うん。冷静沈着頭脳明晰な俺でもこういうミスも犯すわな」
「ぼっちゃま」
「なにはともあれ、見つかって良かった! 万事解決! 一件落着! オールオッケー!」
「ぼっちゃま」
「そうだ、ピアニー。この幸運を祝してボーナスをやろう! うん、出血大サービス、肩代わりした借金を全部チャラに」
「ぼっちゃま」
さすがに誤魔化しきれない。
フォルテは全力で頭を下げる。
「すまない! 今回の件は全部俺が悪い! なのに責任を全部お前に擦り付けて、この通り、許してほしい!」
「ぼっちゃま。お顔をお上げください。私、怒っておりませんので」
女神のように慈しみのある優しい声。
「ああ、ピアニー……やはりお前は最高の」
頭を上げ、それを見た瞬間、フォルテは全身が固まる。
どこに仕舞っていたのか、ピアニーの手にはあの猫耳。
「怒るわけないではありませんか。ぼっちゃまに猫耳をつけていただく絶好の機会、大義名分を手に入れたのですから」
ピアニーからは本当に怒りの感情は見られない、純度百パーセントの満面の笑み。だからこそ不気味で怖い。
「まて、ピアニー、償いは別の方法で」
「シュバルツカッツェ家の家訓」
「え?」
「謝罪は言葉ではなく態度で示せ。ちゃんと覚えております」
「まて、それいじょう、おれに……う、うわあああああああ!!!!」
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