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Ⅱ 騎士団の陰謀
第10.5話 独唱
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アリア・メイザース:若くして宮廷錬金術師となった少女。12歳~17歳。
セシル・エインズワース:帝都に立ち寄った魔法使いの女性。21歳。
アレン:魔法使いの助手。21歳。
アリア・エインズワース:帝都郊外の森で店を営んでいる魔女。21歳。語りと終盤に登場。
アーロン・ストライフ:帝都にある少しさびれた酒場の息子。21歳。
ルーナ:東の地方にある町に住んでいる少女。16歳。
ステラ:ルーナの妹。14歳。
ホムンクルス:アリア・メイザースの助手として作られたホムンクルス。通称ホムさん。
エドワード・ストライフ:アリアにシチューを出してくれる酒場の店主。
バーナード:帝国騎士団団長を務める男。
~モブ~
騎士①②:貴族出身の頼りない騎士。
見張り:城の門に常駐している騎士。
アリア(M) これは、あるひとりの魔女が魔法使いを名乗る前の独唱。
城内、工房。
アリア 「……なるほど、ホムンクルスの作り方は……、~~~~!!」
(SE 本を勢いよく閉じる音)
アリア 「……っと、いけないいけない、この天才錬金術師である私がこの程度で……この程度で……!」
(SE 本を勢いよく閉じる音)
(SE 扉が開く音)
セシル 「おや、ずいぶんと若い錬金術師がいるんだね」
アレン 「邪魔するぜ。って、セシルよりずっと若いお嬢ちゃんじゃねえか」
セシル 「アレン、丸焼きか氷漬け、どちらがお好みかな?」
アレン 「そりゃ勘弁してくれ」
アリア 「……あなたたちは?」
セシル 「おっと、これは失礼。私はセシル・エインズワース、魔法使いだ」
アレン 「俺はアレン、この魔女の助手をやっている。よろしくな」
アリア 「……よ、よろしく、お願いします」
アレン 「あんたは?」
アリア 「あ、アリア・メイザースです」
セシル 「ふむ、その本は、いささかキミには早すぎるんじゃないか?」
アリア 「そ、そんなことないですよ! 私にだって、できますもん」
セシル 「では……、ホムンクルスの材料を言ってみたまえ」
アリア 「ふぇ!? それは、せ、せせせ!」
アレン 「おい、こんな小さい娘にセクハラすんなよ」
セシル 「ふふふ、すまない。つい、ね」
アリア 「……魔法使い、と言っていましたが、どうしてここに?」
セシル 「私たちは旅の途中でね。帝都に寄った際に、なぜか騎士団に追われる身となってしまって……、逃げている最中なんだ」
アリア 「……じゃあどうしてまだお城にいるんですか?」
セシル 「ふふふ、灯台下暗しというやつだよ。まさかまだ城にいるとは思うまい」
アリア 「そういうものなんですかね……?」
騎士① 「(部屋の外から)アリア様! こちらに怪しい魔法使いは来ませんでしたか?」
アリア 「……(じとー)」
セシル 「まあ、こういうこともあるさ」
騎士① 「(部屋の外から)アリア様? 大丈夫ですか?」
アリア 「だ、大丈夫です! すみません、今調合中なので!」
騎士① 「(部屋の外から)はっ、失礼いたしました!」
アリア 「……ふう」
アレン 「おいおい、いいのかよ」
アリア 「大丈夫ですよ。これは貸しにしておきますから」
アレン 「な……、はは、こりゃ食えない嬢ちゃんだな、セシル」
セシル 「ふふ、そうだね」
アリア(M) こうして、私と師匠との邂逅は果たされた。
◇
帝都、秘密の抜け道。
セシル 「こんなところに抜け道があったなんてね」
アレン 「ここは、どこに抜けるんだ?」
アリア 「えと、セレーネ山に出ます。近くには水源もあるので、隠れるにはちょうどいいかと思います」
アレン 「なるほどな。助かるよ、アリア」
アリア 「……! えへへ」
セシル 「アレン、いたいけな少女を誑かすのはやめた方がいい」
アレン 「誑かしてなんかいねーよ」
アリア 「たぶら……え?」
アレン 「ほら、セシルが変なことを言うから、アリアが赤くなったじゃねえか」
セシル 「これくらいで顔を赤らめるなんて、まだまだだね」
アレン 「あんただってそういう雰囲気になるとすぐ照れるだろ」
セシル 「ば、馬鹿、こんな子どもの前でなんてことを……!」
アリア 「へ……?」
アレン 「悪い悪い、子どもにはまだ早かったよな」
セシル 「ところで、ここは魔物は出ないのかい?」
アリア 「はい、一応魔物除けがありますから、よほど強い魔物でもない限り、ここには来ませんよ」
アレン 「つまり、強い魔物は入ってくるかもしれないんだな?」
アリア 「はい、けど、この辺にそんな強い魔物はいませんよ?」
セシル 「さすがは花の帝都、こんな抜け道にも魔物除けを置いてあるんだね」
アリア 「そ、そういうわけではっ……。私が設置したんです」
セシル 「キミが……?」
アリア 「ふふん、こっそり採取に行くときはここを使うので、作ったんです」
セシル 「なるほど、調合の難易度が高い魔物除けを作れるのか……」
アレン 「だけど、魔物除けって手入れが必要なんだろ?」
アリア 「それも、私がやってます。毎週ですよ、毎週」
セシル 「ふむ、それなら……」
ヒュドラ 「シャアアアアアッ!」
アレン 「アリアッ!!」
(SE 剣と牙がぶつかる音)
アリア 「…………!」
セシル 「ヒュドラだね。まさか、こんなところにこんな強力な魔物が出るなんて」
アレン 「川を上ってきたか? ご苦労なこった」
セシル 「とりあえず、倒してしまうよ! 可愛い錬金術師、サポートは頼んだよ」
アレン 「期待してるぞ」
アリア 「あ、はいっ!」
ヒュドラ 「キシャアアッ!」
アリア 「……これをくらえっ!」
(SE 瓶が割れる音)
ヒュドラ 「キシャ……」
(SE 炎上する音)
ヒュドラ 「キシャアアッ!?」
セシル 「いいね。────雷よ茨となりてからみつけ、薔薇の雷……!」
(SE 雷魔法が発動する音)
ヒュドラ 「シャアアッ!」
アリア (すごい、操るのが難しい雷魔法をこんな緻密な術式で発動するなんて……)
セシル 「さあ、今なら仕留められるよ、アレン!」
アレン 「はいよ! これで終わりだ!」
(SE 剣が一閃する音)
ヒュドラ 「キシャアアアアッ!!」
(SE ヒュドラが消滅する音)
アレン 「いっちょ上がり!」
アリア 「お2人とも、強いんですね」
アレン 「まあ、俺らは各地を旅してるからな。それに今回は、アリアのナイスアシストがあったのもデカいな」
セシル 「うん、そうだね」
アレン 「ヒュドラにぶつけてたあの薬はなんだったんだ?」
アリア 「あれは、毒に反応して発火する薬品です」
セシル 「考えたね。本来その薬品は、毒によって炎の色が変わるから、試薬以上の価値はないとされていたが……。なるほど、キミは本当に優秀な錬金術師だったみたいだね」
アレン 「セシル、あんた素直に人を褒められたんだな」
セシル 「なっ、私だって、人を褒めるときだってあるさ」
アリア 「あはは。……って、そうだ、アレンさん、さっきは助けてくれてありがとうございました!」
アレン 「礼なんていらねーよ。こんな可愛いお嬢さんに傷をつけたら、バチが当たるだろ」
アリア 「か、かわいい……」
アレン 「(小声で)セシル、今のキマってたよな?」
セシル 「(小声で)キミのセンスを疑うよ」
セシル 「まあ、なんにせよ危機は去った。他に魔物がいないことを見るに、魔物除けはちゃんと機能しているようだね。ふむ、やはりヒュドラクラスの魔物は防げないか……」
アレン 「まあでも、こんな洞窟を好む強い魔物なんてそうそういないし、帝都付近の魔物自体そこまで手強くはない」
セシル 「それこそ、誰かが魔物を連れてこない限り、ね」
アリア 「え……?」
セシル 「なんてね」
アレン 「っと、あそこに横穴があるな」
アリア 「あ、あそこは行き止まりです……」
(SE セシルが横穴に進んでいく音)
アリア 「って、セシルさん?」
セシル 「……ふむ。ここを工房にしたいのだけど、構わないかい?」
アリア 「……はい、大丈夫だと思います」
セシル 「そうか、よかった。アレン、あれを出してくれ」
アレン 「あれか、わかった」
アリア (すごい、通じ合ってる……! いいなぁ)
セシル 「じゃあこれとこれで……」
(SE 調合する音)
アリア 「え、釜なしで錬金術を!?」
セシル 「よし、できた」
アリア 「……これは、錬金釜ですか?」
セシル 「そうだ、これならキミでも錬金術を行使できるだろう?」
アリア 「はい……、でもどうして……?」
セシル 「アリア、キミには私の工房を作る手伝いをしてほしい。もちろん、それに必要な知識は教える。どうかな?」
アレン 「つまり、セシルがアリアの師匠になるってことか?」
アリア 「師匠……。もちろんです! お手伝いします!」
セシル 「ふふ、決まりだね。……では、ここにあるものを作ってもらおうか」
(SE 紙を取り出す音)
アリア 「これ、結構難しいですね」
セシル 「無理ではないだろう?」
アリア 「はい、作ってみせます!」
◇
アリア(M) それから私は、師匠からの課題をこなしながら工房を作っていった。もちろん私は天才だからね、工房の完成には、1か月もかからなかった。
アリア 「ふう、これで完成ですね! 師匠!」
セシル 「ふむ、なかなかの出来だよ。さすがは私の弟子、といったところか」
アレン 「おお、こうして完成すると、ただの洞窟からずいぶんと見栄えが良くなったな」
セシル 「これで私たちの拠点ができた」
アリア 「作っておいてなんですけど、この工房、凄いですね。魔力が満ちていく感じがします」
セシル 「ああ、そういう材料を選んだからね」
アリア 「材料……」
セシル 「もちろん、キミが調合しなければ、このような効果は発揮できなかったと思うよ」
アリア 「……! ありがとうございます」
(SE セシルが魔法を発動させる音)
セシル 「む、騎士がアリアのことを探しているようだ」
アリア 「その千里眼の魔法、難しいはずなのに、そんな簡単にできちゃうんですね」
セシル 「なに、私の魔法特性と相性が良いだけだ。それより、行かなくていいのかい?」
アリア 「あ、そうでした、いってきます。……そうだ、夜になったら、街に出てみませんか?」
アレン 「おいおい、俺たち一応追われてるんだぞ?」
アリア 「大丈夫です! 良いお店を知ってるので!」
セシル 「ふふ、楽しみにしてるよ」
◇
帝都、飲み屋街のはずれ。
アレン 「あんた、まだ子どもだろ? 大丈夫なのか? こんなところ歩いてて」
アリア 「大丈夫ですよ、お酒は飲みませんから」
アレン 「いや、そういう意味じゃなくて……」
アリア 「あ、ここです!」
アレン 「……って、ここは……」
アリア 「ほらほら、入りましょう」
(SE 扉の開閉音)
エドワード 「お、錬金術師のお嬢ちゃん、いらっしゃい。今日は賑やかだな」
アリア 「師匠とその助手です!」
エドワード 「おお、アリアちゃんの師匠。2人とも、錬金術師なのか?」
セシル 「まあ、そんなところだ」
アレン 「……俺は違うけどな」
アリア 「あ、私、いつもの!」
エドワード 「はいはい、わかったよ」
セシル 「……常連なのかい?」
エドワード 「ああ、この嬢ちゃん、城で暮らしてるくせに、森の近くで腹を空かして倒れてたんだ。俺にもこの嬢ちゃんくらいのガキがいるもんだからほっとけなくてよ、店の飯を食わせてやったら、たまに来るようになったんだ」
アリア 「いやあ、採取に夢中になってお昼ご飯のお弁当を落としてしまって……」
セシル 「キミ、案外抜けてるところがあるよね」
アレン 「飲み屋なのに、子どもが食えるような料理を置いてたのか」
エドワード 「種類は少ないけど、嫁の趣味だったからな」
セシル 「ふむ、では私たちにも同じものを貰えるかな?」
エドワード 「あいよ」
アリア 「いいですね! ここのシチューは美味しいんですよ!」
しばらくして。
エドワード 「はいよ、シチュー3人前」
アリア 「はーい、ああ~、美味しそうです~!」
セシル 「ふむ、ではいただこうか」
アレン 「…………美味い」
アリア 「でしょう! 私はこれに救われてますからね~」
エドワード 「もう、森で倒れるのはやめてくれよ」
アリア 「わかってますって」
エドワード 「ところで、お2人さんはこの辺じゃ見かけねえ顔だけど、旅の者かい?」
セシル 「ああ、いわゆるハネムーンというやつだよ」
エドワード 「おお、若いのに結構なこった」
(SE 後ろの棚からボトルを取り出す音)
アリア 「おじさん、それはなんです?」
エドワード 「これは、少々強い酒だが、この店では上物だ」
アレン 「おいおい、俺たち、そこまで金なんて持ってないって」
エドワード 「お2人さん、新婚なんだろ? それに嬢ちゃんと仲が良いみたいだしな。店の奢りだ」
セシル 「……そういうことなら、ありがたく頂戴しようじゃないか、アレン」
アレン 「いやでもこれ……、本当にいいのか?」
エドワード 「いいってことよ」
アリア 「というか、お2人って、結婚してたんですか?」
セシル 「む? 言ってなかったか?」
アリア 「言ってないです!」
セシル 「それは悪かったね」
アリア 「まあいいです。今はお二方をお祝いしましょう!」
◇
帝都、秘密の抜け道。セシルの工房。
セシル 「そういえば、アリアは魔法をどれくらい使えるんだい? 属性は?」
アリア 「えーと、本業は錬金術なのでそこまで使えませんけど、一応父から手ほどきは受けています。あ、使える属性は、地水火風に氷と雷です」
セシル 「なるほど、四元素すべてを使えるうえに、氷と雷か。私と一緒で、魔法の才能がずばぬけてあるようだね。その才能を錬金術だけに注いでしまうのはもったいない」
アリア 「師匠の使える属性は、なんなんですか?」
セシル 「ふふ、良い女には、秘密があるものだ。覚えておくといい」
アリア 「……そういうものなんでしょうか……?」
アレン 「こいつが使える属性は、アリアと同じで地水火風に氷と雷だ」
セシル 「おい、アレン! なんで言ってしまうんだ!」
アレン 「まあいいじゃねえか。ヒュドラ戦で雷魔法は見せたんだし」
セシル 「それはそうだが、そういうことは、もっとかっこよく言いたいじゃないか」
アレン 「そんなもんか?」
セシル 「そういうものだ」
セシル 「こほん。それで、アリアは魔法を鍛えたいと思っているかい?」
アリア 「……思っています。強力な魔法を使えたら、色んなところに採取に行けますし……。それに、釜なしで錬金術もできるようになりたいです」
セシル 「ふむ、いいだろう。キミの素質は見極めた。キミを、本格的に鍛えよう」
アリア 「ありがとうございます!」
◇
アリア(M) それから3年間、私は表では宮廷錬金術師として、裏では師匠に魔法を教わる日々を送っていた。そして、私の15歳の誕生日を迎える1日前、師匠とアレンは帝都を去っていくこととなった。
セシル 「アリア、私たちはもう旅立つよ」
アリア 「え……? そんな急に……」
セシル 「すまない。もともとは、旅行のつもりだったからね。許してくれ」
アレン 「帝都でやることも終わっちまったしな」
アリア 「そうですよね。今まで、ありがとうございました」
アレン 「なに、生きていれば、またどこかで会えるって」
セシル 「そうだ。それと……」
(SE 懐からものを取り出す音)
セシル 「……これを、キミに進呈しよう」
アリア 「これは……、ペンダント、ですか?」
セシル 「ああ、これが必要になる時が必ず来る。それまで、持っていてくれ」
アリア 「いったいなんなんですか? この石から、凄い生命力を感じますけど」
セシル 「教えられない。だから、今はお守りとして持っていてくれ」
アリア 「……ありがとうございます」
セシル 「じゃあ、私たちはそろそろ行くよ」
アレン 「元気でな」
セシル 「いずれまた会おう」
アリア 「はい……! お2人もお元気で!」
◇
アリア(M) それから1か月後。師匠たちのいない生活に慣れてきた頃。私は、採取に出かけては調合、素材を仕入れては調合、と錬金術に明け暮れていた。
騎士① 「おい、アリア様だ」
騎士② 「あれだろ、天才的な錬金術の腕前に加えて、使い手が少ない雷魔法を得意とするっていう……。生で見たのは初めてだ」
アリア 「…………」
騎士① 「しっかし、15歳であの外見の良さ、ありゃ成長が楽しみだな」
騎士② 「俺はあのままでもいけるけどな」
騎士① 「はは、違いねえ」
アリア 「……はあ」
見張り 「アリア様、今日は、どちらまで……?」
アリア 「湖の方まで行ってきます」
見張り 「確か、今あそこは……。護衛はつけなくてよろしいのですか?」
アリア 「ひとりで大丈夫ですよ」
見張り 「御父君がご心配されますよ」
アリア 「……ちょっと心配させた方がいいんですよ。帝国騎士の鑑だかなんだか知りませんけど」
見張り 「しかし……」
アリア 「それじゃ、いってきますね」
見張り 「あ、アリア様!」
◇
ルミナス湖。
ドラゴン 「グオオオオオッ!!」
アリア 「ドラゴンの子どもとはいえ、大きいですねえ」
アリア 「──────雷よ、喰らいつくせ、雷竜の顎」
(SE 雷が落ちる音)
ドラゴン 「ギャオンッ!!」
(SE ドラゴンが消滅する音)
アリア 「どうってことありませんね。あ、この素材……。欲しかったやつですね。見てください、ししょ……」
(SE 風が吹く音)
アリア 「…………」
アリア(M) ふと、寂しくなる時があった。私も、師匠とアレンさんのように同じ時間を共有する人が欲しかった。
◇
アリア(M) そうして私は、ホムンクルスに目をつけた。そう、ホムンクルスを作り、寂しさを埋めようとしたんだ。このときのことを何度後悔しただろうか。
アリア 「……やっぱりホムンクルスは、材料が難しい……。これをなんとかしないと……」
アリア 「……馬糞、とかどうかな? ……試してみよう」
(SE 調合する音)
アリア 「……これと、これを合わせれば……」
(SE 完成する音)
アリア 「とりあえずはできた……」
ホムンクルス 「…………」
アリア 「……人形でしかない、か」
アリア(M) ホムンクルスの錬金は、思いのほか簡単にできてしまった。だが、当時の私は満足しなかった。私が欲したのは、人形ではなく、”人”だった。
アリア 「これじゃ、意思疎通もままならないですよね」
ホムンクルス 「…………」
アリア 「それに、人と呼ぶには小さいですし……」
アリア 「もっと考えてみよう」
◇
アリア(M) それから、一ヶ月が経った。私はホムンクルスに魂を入れるというアプローチを試していた。魂を扱う錬金術は非常に難易度が高いとされていたが、私にはそれができてしまった。人の髪の毛や爪といった身体の一部から魂の素となるものを取り出すことで、簡易魂魄を形成した。そうすることで、もともと人として備わっていた機能を発現させることができた。
ホムンクルス 「あー、ああ」
アリア 「なるほど、簡易的な魂魄だと、生後間もない赤ちゃんみたいになるんですね……。身体は大人なのに歩けないし喋れない……。この際、完璧な人間じゃなくてもいいか……」
アリア 「ある程度の知能や身体の機能は、調合の際に魔法で調整して……」
(SE 魔法が発動する音)
ホムンクルス 「……ご主人様、ご命令を」
アリア 「命令魔法も念のため入れてみたけど、不具合はなさそうですね……。こほん、とりあえず跳ねてみて」
ホムンクルス 「かしこまりました」
(SE 跳ねる音)
アリア 「……じゃあ、命令魔法を解除してみよう」
アリア 「魔法解除」
(SE 魔法が解除される音)
ホムンクルス 「……ここは?」
アリア 「なるほど、精神が成熟しているのに記憶がないと、こういう感じになるんですね」
アリア 「性格とかのすり込み自体は、簡単な魔法でできそうですね。あ、でも、魔法のように複雑な知識はすり込みが難しい、か。まあそれは練習すればいいか」
アリア 「……問題は、簡易的とはいえ魂魄を精製するのがちょっと難しいっていうことか。この技術をもっと簡単にできたら、医療に応用できそうですし、人類の発展に繋がりますよね……。そうしたら、お父様は私を認めてくれるでしょうか」
アリア(M) 今思えば、父に認めてもらいたい、というこの年齢の子どもには大して珍しくもない感情が寂しさの根底にあったのかもしれないな。
◇
アリア(M) そして、2年後。私は、簡易魂魄の形成とホムンクルスの身体を簡単に作れる技術を編み出した。これによって、宮廷で魔法を扱う者であれば、誰でもホムンクルスを作れるようになった。
アリア(M) 私は、この帝国が発展できるように、この技術を帝国騎士の鑑といわれる父に話した。結論から言ってしまえば、この技術は即刻封印するべきだった。
アリア 「お父様にホムンクルスの話をしたら、面食らってましたよ、ホムさん」
ホムンクルス 「そうですか、あの御父君が……」
アリア 「でも、まだ話してないこともあるんですよ?」
ホムンクルス 「話してないこと、ですか?」
アリア 「はい、実は、魔法の知識のすり込みがようやくできそうなんです」
ホムンクルス 「これで、私も魔法を使えるようになるんですね」
アリア 「はい、記念すべき第1号は、ホムさんですよ」
ホムンクルス 「いいんですか? 光栄です」
アリア 「じゃあ、さっそくやりますよ。準備はいいですか?」
ホムンクルス 「はい。いつでも大丈夫です」
アリア 「うん、じゃあ、いきますよ」
(SE 魔法が発動する音)
アリア 「……どうですか?」
ホムンクルス 「いけそうな気がします」
アリア 「いいですね。それじゃあ、さっそく簡単な薬を調合してもらいましょうか」
ホムンクルス 「はい」
アリア 「材料は、これとこれを使ってください」
ホムンクルス 「わかりました。では、始めます」
(SE 調合する音)
ホムンクルス 「…………っ」
アリア 「……? どうしました?」
ホムンクルス 「アリア、まさか……」
アリア 「え? どうして……」
ホムンクルス 「ぐ、ぐあああっ……。身体が熱い……! 魔力を維持できない……っ」
アリア 「なんで……! 身体が、消えかかって……」
ホムンクルス 「ぐ、騙したのか……っ?」
アリア 「え、ち、違う……!」
ホムンクルス 「あなたしか、いなかったのに……!」
アリア 「なんで……」
ホムンクルス 「消えたくない……! 騙していないというのなら、なんとか、しろ……っ!」
(SE ホムンクルスがアリアの首を絞める音)
アリア 「くっ、やめて、くるし、い……」
ホムンクルス 「なんとかしろ!」
アリア 「す、するから、離して……!」
ホムンクルス 「離したら、逃げるかもしれない……!」
アリア 「に、逃げない、から……っ」
ホムンクルス 「あ、あああああっ!! 消えたくない!」
アリア 「……っ!!」
ホムンクルス 「ぐあああああッ!!」
(SE ホムンクルスが消滅する音)
(SE アリアが倒れる音)
アリア 「げほっ! げほっ! ……どうして?」
アリア(M) 高密度の魔素で構成されているホムンクルスは、魔法を行使するとその魔法で扱う魔力に身体を構成する魔素が反応してしまう。そうすると魔素どうしのつながりに綻びが生じ、次第にほどけていく。少し考えればわかったはずだった。それなのに私は、目的ばかりに囚われて見落としていた。
アリア 「……ホムさん、ごめんなさい……っ!」
◇
アリア(M) それから私は、錬金術から距離を置いていた。ホムさんを失った傷は、癒えつつあった。そんなときに、事件は起こった。
アリア 「こんな馬車に乗せられて、どこへ行こうと言うんですか?」
騎士① 「ホロロコリスです。そこでホムンクルスを医療に応用できるかどうか、実験しているのですよ。御父君から、聞いていませんでしたか?」
アリア 「ホムンクルス……」
騎士② 「愁いを帯びた表情も可愛いですね」
騎士① 「おい」
騎士② 「失礼しました」
騎士① 「そろそろ到着し……。え?」
騎士② 「どうした?」
騎士① 「街が、燃えてる……」
◇
ホロロコリス。住民たちが悲鳴を上げている。
(SE 火が燃え盛る音)
ホムンクルス 「うがああああっ!!」
アリア 「…………!!」
騎士① 「おいおい、ホムンクルスが暴走してるってのか?」
騎士② 「ちっ、この町はもうだめだ。早いとこ、帝都に戻ろうぜ」
(SE 馬の悲鳴)
ホムンクルス 「うがあああっ!!」
騎士② 「ウソだろ。馬がやられた……!」
騎士① 「うわああああっ!」
アリア 「……っ!」
アリア (とりあえず、魔法を……)
アリア 「……水流よ、押し流せ……あれ?」
アリア (恐怖で、魔力をうまく練れない……!)
ホムンクルス 「うがああああっ!!」
騎士① 「ひ、来るな! 来るな!」
アリア 「…………」
アリア 「……………………ごめんなさい」
(SE アリアが駆け出す音)
騎士② 「え、アリア様!? 置いていかないで!! うわあああ!!」
(SE 騎士たちが倒れる音)
アリア (なんで、ホムンクルスが暴れてるの?)
ホムンクルス 「うがああああ!!」
アリア (ホムンクルスが追いかけてきてる……! 逃げないと……!)
アリア 「……わあっ!」
(SE アリアが転ぶ音)
ホムンクルス 「うううう!」
アリア (あ、私、死ぬんだ……)
ステラ 「─────斬月……!」
(SE 刀を振る音)
ホムンクルス 「うがああっ!」
(SE ホムンクルスが消滅する音)
ステラ 「大丈夫ですか?」
アリア 「……ありがとうございます。……えっと、あなたは?」
ステラ 「話はあとです。とにかく、逃げましょう」
アリア 「はい……」
ホムンクルス 「うがああああああっ!!」
ステラ 「危ない!!」
(SE 刀を振る音)
(SE 腹を刺される音)
ステラ 「がふっ! うそ……」
(SE ホムンクルスが消滅する音)
(SE ステラが倒れる音)
アリア 「え……?」
ステラ 「……に、げて……っ」
アリア 「…………っ!」
(SE アリアが駆け出す音)
◇
アリア 「私のせいだ……」
アリア 「私が、ホムンクルスを作ったから……!」
ホムンクルス 「(遠くから)うがああああっ!!」
アリア 「……私のせいで、あの子が……」
アリア (……このままじゃいけない)
アリア (……私が、責任を取らないと……)
アリア 「……どこか、街全体を見渡せる場所……」
アリア 「時計塔……、あそこなら……」
(SE アリアが駆け出す音)
◇
時計塔、頂上。
ホムンクルス 「うがあああっ!」
アリア (私の仮説が正しければ、ホムンクルスを魔力に変換して魔法を強化できるはず。できる限りホムンクルスを時計塔まで引き連れてきた)
ホムンクルス 「うがああああっ!」
アリア 「やるしかない……!」
アリア (対象を火とホムンクルスに絞った。これなら……)
ホムンクルス 「うが?」
(SE ホムンクルスたちが消滅する音)
アリア 「─────────氷塵!!」
(SE 凍りつく音)
(SE 氷が砕ける音)
アリア 「……これで、終わった……」
(SE アリアが倒れる音)
セシル 「騒ぎを聞いて来てみれば、アリアか……」
アリア (……し、師匠……? 助けに来てくれたんだ……)
アリア (もう、意識が……)
□
セシル 「……ふう、ようやく広場まで戻れたか。意識のない人間は、やはり重いな」
バーナード 「……セシル、といったか」
セシル 「おや、キミも来たのかい」
バーナード 「ホムンクルスを騎士団の兵器として扱う実験の進捗を、この目で見ておきたかったのだが、それが騒ぎを鎮めたか」
セシル 「ふふ、それ呼ばわりとはね」
バーナード 「たまに役立ったと思えば、ホムンクルスを全滅させるとはな。殿下の予言が的中したか……。皇族の魔法は恐ろしいな」
セシル 「……どうでもいいが、アリアを帝都に連れ帰ってくれよ。アリアにはまだ果たすべき役目がある」
バーナード 「役目、か……」
ルーナ 「ステラ!! 目を開けて!! ステラ!!」
バーナード 「む……」
ルーナ 「……アンタら、誰!? ホロロコリスの人間じゃないわね」
バーナード 「お前、さてはルーナ、か?」
ルーナ 「なんで、私の名前を知っているの!」
バーナード 「……良いことを教えてやろう」
ルーナ 「良いこと?」
バーナード 「アリア・メイザース。この惨劇を引き起こした者の名だ」
ルーナ 「アリア・メイザース……。そいつが、ステラを……?」
バーナード 「……」
(SE バーナードとセシルが去っていく音)
セシル 「あれも、殿下の予言かい?」
バーナード 「そうだ。恐ろしいお方だよ」
□
アリア(M) ホムンクルスの暴動後。しばらくのあいだ私は、あの師匠たちと過ごした工房で暮らしていた。家も錬金術師の地位も捨て、私は魔法使い、アリア・エインズワースと名乗ることにした。それが、せめてもの贖いとして選んだ、私の道だ。
アリア(M) そして、その暴動から4年後。私は、帝都郊外の森で店をやっていた。開店して2年が経つが、あいかわらず閑古鳥が鳴いている。私はそこで、平民派の貴族騎士を仲介人として、騎士団に薬品を卸していた。当然、生活費を稼ぐという目的もあるが、帝国の動きを見張る目的がある。
帝都。雨が降っている。
アリア 「私としたことが、薬の納品を忘れるとはね。あの若店主のおかげで思い出せたが……」
アリア 「……しかし、昨日は私も飲み過ぎた。あの店であの酒とシチューを食べるはずが、若店主と飲み比べになるとはね……」
アリア 「……そういえば、あの若店主、どこかアレンさんに似ていたな……と」
アリア 「……こんなところでお昼寝かい?」
アーロン 「…………」
アリア 「……心臓が止まっているな。とりあえず、これを……」
(SE 雷魔法が発動する音)
(SE 心臓の鼓動)
アリア (ここから……、あ、あのペンダントに付いていた石……)
アリア 「……よし、これを飲むんだ」
(SE 固形物が歯に当たる音)
アーロン 「……ぅ」
アリア 「…………」
アーロン 「げほっ、がはっ!」
アリア 「……目が覚めたかい?」
アーロン 「あんた、は……」
アリア 「まだ治療は済んでいない。無理はしない方がいい」
アリア(M) いつの間にか、雨は止んでいた。この出会いから、私の運命が大きく変わっていくことを、このときの私はまだ知らない。
つづく
セシル・エインズワース:帝都に立ち寄った魔法使いの女性。21歳。
アレン:魔法使いの助手。21歳。
アリア・エインズワース:帝都郊外の森で店を営んでいる魔女。21歳。語りと終盤に登場。
アーロン・ストライフ:帝都にある少しさびれた酒場の息子。21歳。
ルーナ:東の地方にある町に住んでいる少女。16歳。
ステラ:ルーナの妹。14歳。
ホムンクルス:アリア・メイザースの助手として作られたホムンクルス。通称ホムさん。
エドワード・ストライフ:アリアにシチューを出してくれる酒場の店主。
バーナード:帝国騎士団団長を務める男。
~モブ~
騎士①②:貴族出身の頼りない騎士。
見張り:城の門に常駐している騎士。
アリア(M) これは、あるひとりの魔女が魔法使いを名乗る前の独唱。
城内、工房。
アリア 「……なるほど、ホムンクルスの作り方は……、~~~~!!」
(SE 本を勢いよく閉じる音)
アリア 「……っと、いけないいけない、この天才錬金術師である私がこの程度で……この程度で……!」
(SE 本を勢いよく閉じる音)
(SE 扉が開く音)
セシル 「おや、ずいぶんと若い錬金術師がいるんだね」
アレン 「邪魔するぜ。って、セシルよりずっと若いお嬢ちゃんじゃねえか」
セシル 「アレン、丸焼きか氷漬け、どちらがお好みかな?」
アレン 「そりゃ勘弁してくれ」
アリア 「……あなたたちは?」
セシル 「おっと、これは失礼。私はセシル・エインズワース、魔法使いだ」
アレン 「俺はアレン、この魔女の助手をやっている。よろしくな」
アリア 「……よ、よろしく、お願いします」
アレン 「あんたは?」
アリア 「あ、アリア・メイザースです」
セシル 「ふむ、その本は、いささかキミには早すぎるんじゃないか?」
アリア 「そ、そんなことないですよ! 私にだって、できますもん」
セシル 「では……、ホムンクルスの材料を言ってみたまえ」
アリア 「ふぇ!? それは、せ、せせせ!」
アレン 「おい、こんな小さい娘にセクハラすんなよ」
セシル 「ふふふ、すまない。つい、ね」
アリア 「……魔法使い、と言っていましたが、どうしてここに?」
セシル 「私たちは旅の途中でね。帝都に寄った際に、なぜか騎士団に追われる身となってしまって……、逃げている最中なんだ」
アリア 「……じゃあどうしてまだお城にいるんですか?」
セシル 「ふふふ、灯台下暗しというやつだよ。まさかまだ城にいるとは思うまい」
アリア 「そういうものなんですかね……?」
騎士① 「(部屋の外から)アリア様! こちらに怪しい魔法使いは来ませんでしたか?」
アリア 「……(じとー)」
セシル 「まあ、こういうこともあるさ」
騎士① 「(部屋の外から)アリア様? 大丈夫ですか?」
アリア 「だ、大丈夫です! すみません、今調合中なので!」
騎士① 「(部屋の外から)はっ、失礼いたしました!」
アリア 「……ふう」
アレン 「おいおい、いいのかよ」
アリア 「大丈夫ですよ。これは貸しにしておきますから」
アレン 「な……、はは、こりゃ食えない嬢ちゃんだな、セシル」
セシル 「ふふ、そうだね」
アリア(M) こうして、私と師匠との邂逅は果たされた。
◇
帝都、秘密の抜け道。
セシル 「こんなところに抜け道があったなんてね」
アレン 「ここは、どこに抜けるんだ?」
アリア 「えと、セレーネ山に出ます。近くには水源もあるので、隠れるにはちょうどいいかと思います」
アレン 「なるほどな。助かるよ、アリア」
アリア 「……! えへへ」
セシル 「アレン、いたいけな少女を誑かすのはやめた方がいい」
アレン 「誑かしてなんかいねーよ」
アリア 「たぶら……え?」
アレン 「ほら、セシルが変なことを言うから、アリアが赤くなったじゃねえか」
セシル 「これくらいで顔を赤らめるなんて、まだまだだね」
アレン 「あんただってそういう雰囲気になるとすぐ照れるだろ」
セシル 「ば、馬鹿、こんな子どもの前でなんてことを……!」
アリア 「へ……?」
アレン 「悪い悪い、子どもにはまだ早かったよな」
セシル 「ところで、ここは魔物は出ないのかい?」
アリア 「はい、一応魔物除けがありますから、よほど強い魔物でもない限り、ここには来ませんよ」
アレン 「つまり、強い魔物は入ってくるかもしれないんだな?」
アリア 「はい、けど、この辺にそんな強い魔物はいませんよ?」
セシル 「さすがは花の帝都、こんな抜け道にも魔物除けを置いてあるんだね」
アリア 「そ、そういうわけではっ……。私が設置したんです」
セシル 「キミが……?」
アリア 「ふふん、こっそり採取に行くときはここを使うので、作ったんです」
セシル 「なるほど、調合の難易度が高い魔物除けを作れるのか……」
アレン 「だけど、魔物除けって手入れが必要なんだろ?」
アリア 「それも、私がやってます。毎週ですよ、毎週」
セシル 「ふむ、それなら……」
ヒュドラ 「シャアアアアアッ!」
アレン 「アリアッ!!」
(SE 剣と牙がぶつかる音)
アリア 「…………!」
セシル 「ヒュドラだね。まさか、こんなところにこんな強力な魔物が出るなんて」
アレン 「川を上ってきたか? ご苦労なこった」
セシル 「とりあえず、倒してしまうよ! 可愛い錬金術師、サポートは頼んだよ」
アレン 「期待してるぞ」
アリア 「あ、はいっ!」
ヒュドラ 「キシャアアッ!」
アリア 「……これをくらえっ!」
(SE 瓶が割れる音)
ヒュドラ 「キシャ……」
(SE 炎上する音)
ヒュドラ 「キシャアアッ!?」
セシル 「いいね。────雷よ茨となりてからみつけ、薔薇の雷……!」
(SE 雷魔法が発動する音)
ヒュドラ 「シャアアッ!」
アリア (すごい、操るのが難しい雷魔法をこんな緻密な術式で発動するなんて……)
セシル 「さあ、今なら仕留められるよ、アレン!」
アレン 「はいよ! これで終わりだ!」
(SE 剣が一閃する音)
ヒュドラ 「キシャアアアアッ!!」
(SE ヒュドラが消滅する音)
アレン 「いっちょ上がり!」
アリア 「お2人とも、強いんですね」
アレン 「まあ、俺らは各地を旅してるからな。それに今回は、アリアのナイスアシストがあったのもデカいな」
セシル 「うん、そうだね」
アレン 「ヒュドラにぶつけてたあの薬はなんだったんだ?」
アリア 「あれは、毒に反応して発火する薬品です」
セシル 「考えたね。本来その薬品は、毒によって炎の色が変わるから、試薬以上の価値はないとされていたが……。なるほど、キミは本当に優秀な錬金術師だったみたいだね」
アレン 「セシル、あんた素直に人を褒められたんだな」
セシル 「なっ、私だって、人を褒めるときだってあるさ」
アリア 「あはは。……って、そうだ、アレンさん、さっきは助けてくれてありがとうございました!」
アレン 「礼なんていらねーよ。こんな可愛いお嬢さんに傷をつけたら、バチが当たるだろ」
アリア 「か、かわいい……」
アレン 「(小声で)セシル、今のキマってたよな?」
セシル 「(小声で)キミのセンスを疑うよ」
セシル 「まあ、なんにせよ危機は去った。他に魔物がいないことを見るに、魔物除けはちゃんと機能しているようだね。ふむ、やはりヒュドラクラスの魔物は防げないか……」
アレン 「まあでも、こんな洞窟を好む強い魔物なんてそうそういないし、帝都付近の魔物自体そこまで手強くはない」
セシル 「それこそ、誰かが魔物を連れてこない限り、ね」
アリア 「え……?」
セシル 「なんてね」
アレン 「っと、あそこに横穴があるな」
アリア 「あ、あそこは行き止まりです……」
(SE セシルが横穴に進んでいく音)
アリア 「って、セシルさん?」
セシル 「……ふむ。ここを工房にしたいのだけど、構わないかい?」
アリア 「……はい、大丈夫だと思います」
セシル 「そうか、よかった。アレン、あれを出してくれ」
アレン 「あれか、わかった」
アリア (すごい、通じ合ってる……! いいなぁ)
セシル 「じゃあこれとこれで……」
(SE 調合する音)
アリア 「え、釜なしで錬金術を!?」
セシル 「よし、できた」
アリア 「……これは、錬金釜ですか?」
セシル 「そうだ、これならキミでも錬金術を行使できるだろう?」
アリア 「はい……、でもどうして……?」
セシル 「アリア、キミには私の工房を作る手伝いをしてほしい。もちろん、それに必要な知識は教える。どうかな?」
アレン 「つまり、セシルがアリアの師匠になるってことか?」
アリア 「師匠……。もちろんです! お手伝いします!」
セシル 「ふふ、決まりだね。……では、ここにあるものを作ってもらおうか」
(SE 紙を取り出す音)
アリア 「これ、結構難しいですね」
セシル 「無理ではないだろう?」
アリア 「はい、作ってみせます!」
◇
アリア(M) それから私は、師匠からの課題をこなしながら工房を作っていった。もちろん私は天才だからね、工房の完成には、1か月もかからなかった。
アリア 「ふう、これで完成ですね! 師匠!」
セシル 「ふむ、なかなかの出来だよ。さすがは私の弟子、といったところか」
アレン 「おお、こうして完成すると、ただの洞窟からずいぶんと見栄えが良くなったな」
セシル 「これで私たちの拠点ができた」
アリア 「作っておいてなんですけど、この工房、凄いですね。魔力が満ちていく感じがします」
セシル 「ああ、そういう材料を選んだからね」
アリア 「材料……」
セシル 「もちろん、キミが調合しなければ、このような効果は発揮できなかったと思うよ」
アリア 「……! ありがとうございます」
(SE セシルが魔法を発動させる音)
セシル 「む、騎士がアリアのことを探しているようだ」
アリア 「その千里眼の魔法、難しいはずなのに、そんな簡単にできちゃうんですね」
セシル 「なに、私の魔法特性と相性が良いだけだ。それより、行かなくていいのかい?」
アリア 「あ、そうでした、いってきます。……そうだ、夜になったら、街に出てみませんか?」
アレン 「おいおい、俺たち一応追われてるんだぞ?」
アリア 「大丈夫です! 良いお店を知ってるので!」
セシル 「ふふ、楽しみにしてるよ」
◇
帝都、飲み屋街のはずれ。
アレン 「あんた、まだ子どもだろ? 大丈夫なのか? こんなところ歩いてて」
アリア 「大丈夫ですよ、お酒は飲みませんから」
アレン 「いや、そういう意味じゃなくて……」
アリア 「あ、ここです!」
アレン 「……って、ここは……」
アリア 「ほらほら、入りましょう」
(SE 扉の開閉音)
エドワード 「お、錬金術師のお嬢ちゃん、いらっしゃい。今日は賑やかだな」
アリア 「師匠とその助手です!」
エドワード 「おお、アリアちゃんの師匠。2人とも、錬金術師なのか?」
セシル 「まあ、そんなところだ」
アレン 「……俺は違うけどな」
アリア 「あ、私、いつもの!」
エドワード 「はいはい、わかったよ」
セシル 「……常連なのかい?」
エドワード 「ああ、この嬢ちゃん、城で暮らしてるくせに、森の近くで腹を空かして倒れてたんだ。俺にもこの嬢ちゃんくらいのガキがいるもんだからほっとけなくてよ、店の飯を食わせてやったら、たまに来るようになったんだ」
アリア 「いやあ、採取に夢中になってお昼ご飯のお弁当を落としてしまって……」
セシル 「キミ、案外抜けてるところがあるよね」
アレン 「飲み屋なのに、子どもが食えるような料理を置いてたのか」
エドワード 「種類は少ないけど、嫁の趣味だったからな」
セシル 「ふむ、では私たちにも同じものを貰えるかな?」
エドワード 「あいよ」
アリア 「いいですね! ここのシチューは美味しいんですよ!」
しばらくして。
エドワード 「はいよ、シチュー3人前」
アリア 「はーい、ああ~、美味しそうです~!」
セシル 「ふむ、ではいただこうか」
アレン 「…………美味い」
アリア 「でしょう! 私はこれに救われてますからね~」
エドワード 「もう、森で倒れるのはやめてくれよ」
アリア 「わかってますって」
エドワード 「ところで、お2人さんはこの辺じゃ見かけねえ顔だけど、旅の者かい?」
セシル 「ああ、いわゆるハネムーンというやつだよ」
エドワード 「おお、若いのに結構なこった」
(SE 後ろの棚からボトルを取り出す音)
アリア 「おじさん、それはなんです?」
エドワード 「これは、少々強い酒だが、この店では上物だ」
アレン 「おいおい、俺たち、そこまで金なんて持ってないって」
エドワード 「お2人さん、新婚なんだろ? それに嬢ちゃんと仲が良いみたいだしな。店の奢りだ」
セシル 「……そういうことなら、ありがたく頂戴しようじゃないか、アレン」
アレン 「いやでもこれ……、本当にいいのか?」
エドワード 「いいってことよ」
アリア 「というか、お2人って、結婚してたんですか?」
セシル 「む? 言ってなかったか?」
アリア 「言ってないです!」
セシル 「それは悪かったね」
アリア 「まあいいです。今はお二方をお祝いしましょう!」
◇
帝都、秘密の抜け道。セシルの工房。
セシル 「そういえば、アリアは魔法をどれくらい使えるんだい? 属性は?」
アリア 「えーと、本業は錬金術なのでそこまで使えませんけど、一応父から手ほどきは受けています。あ、使える属性は、地水火風に氷と雷です」
セシル 「なるほど、四元素すべてを使えるうえに、氷と雷か。私と一緒で、魔法の才能がずばぬけてあるようだね。その才能を錬金術だけに注いでしまうのはもったいない」
アリア 「師匠の使える属性は、なんなんですか?」
セシル 「ふふ、良い女には、秘密があるものだ。覚えておくといい」
アリア 「……そういうものなんでしょうか……?」
アレン 「こいつが使える属性は、アリアと同じで地水火風に氷と雷だ」
セシル 「おい、アレン! なんで言ってしまうんだ!」
アレン 「まあいいじゃねえか。ヒュドラ戦で雷魔法は見せたんだし」
セシル 「それはそうだが、そういうことは、もっとかっこよく言いたいじゃないか」
アレン 「そんなもんか?」
セシル 「そういうものだ」
セシル 「こほん。それで、アリアは魔法を鍛えたいと思っているかい?」
アリア 「……思っています。強力な魔法を使えたら、色んなところに採取に行けますし……。それに、釜なしで錬金術もできるようになりたいです」
セシル 「ふむ、いいだろう。キミの素質は見極めた。キミを、本格的に鍛えよう」
アリア 「ありがとうございます!」
◇
アリア(M) それから3年間、私は表では宮廷錬金術師として、裏では師匠に魔法を教わる日々を送っていた。そして、私の15歳の誕生日を迎える1日前、師匠とアレンは帝都を去っていくこととなった。
セシル 「アリア、私たちはもう旅立つよ」
アリア 「え……? そんな急に……」
セシル 「すまない。もともとは、旅行のつもりだったからね。許してくれ」
アレン 「帝都でやることも終わっちまったしな」
アリア 「そうですよね。今まで、ありがとうございました」
アレン 「なに、生きていれば、またどこかで会えるって」
セシル 「そうだ。それと……」
(SE 懐からものを取り出す音)
セシル 「……これを、キミに進呈しよう」
アリア 「これは……、ペンダント、ですか?」
セシル 「ああ、これが必要になる時が必ず来る。それまで、持っていてくれ」
アリア 「いったいなんなんですか? この石から、凄い生命力を感じますけど」
セシル 「教えられない。だから、今はお守りとして持っていてくれ」
アリア 「……ありがとうございます」
セシル 「じゃあ、私たちはそろそろ行くよ」
アレン 「元気でな」
セシル 「いずれまた会おう」
アリア 「はい……! お2人もお元気で!」
◇
アリア(M) それから1か月後。師匠たちのいない生活に慣れてきた頃。私は、採取に出かけては調合、素材を仕入れては調合、と錬金術に明け暮れていた。
騎士① 「おい、アリア様だ」
騎士② 「あれだろ、天才的な錬金術の腕前に加えて、使い手が少ない雷魔法を得意とするっていう……。生で見たのは初めてだ」
アリア 「…………」
騎士① 「しっかし、15歳であの外見の良さ、ありゃ成長が楽しみだな」
騎士② 「俺はあのままでもいけるけどな」
騎士① 「はは、違いねえ」
アリア 「……はあ」
見張り 「アリア様、今日は、どちらまで……?」
アリア 「湖の方まで行ってきます」
見張り 「確か、今あそこは……。護衛はつけなくてよろしいのですか?」
アリア 「ひとりで大丈夫ですよ」
見張り 「御父君がご心配されますよ」
アリア 「……ちょっと心配させた方がいいんですよ。帝国騎士の鑑だかなんだか知りませんけど」
見張り 「しかし……」
アリア 「それじゃ、いってきますね」
見張り 「あ、アリア様!」
◇
ルミナス湖。
ドラゴン 「グオオオオオッ!!」
アリア 「ドラゴンの子どもとはいえ、大きいですねえ」
アリア 「──────雷よ、喰らいつくせ、雷竜の顎」
(SE 雷が落ちる音)
ドラゴン 「ギャオンッ!!」
(SE ドラゴンが消滅する音)
アリア 「どうってことありませんね。あ、この素材……。欲しかったやつですね。見てください、ししょ……」
(SE 風が吹く音)
アリア 「…………」
アリア(M) ふと、寂しくなる時があった。私も、師匠とアレンさんのように同じ時間を共有する人が欲しかった。
◇
アリア(M) そうして私は、ホムンクルスに目をつけた。そう、ホムンクルスを作り、寂しさを埋めようとしたんだ。このときのことを何度後悔しただろうか。
アリア 「……やっぱりホムンクルスは、材料が難しい……。これをなんとかしないと……」
アリア 「……馬糞、とかどうかな? ……試してみよう」
(SE 調合する音)
アリア 「……これと、これを合わせれば……」
(SE 完成する音)
アリア 「とりあえずはできた……」
ホムンクルス 「…………」
アリア 「……人形でしかない、か」
アリア(M) ホムンクルスの錬金は、思いのほか簡単にできてしまった。だが、当時の私は満足しなかった。私が欲したのは、人形ではなく、”人”だった。
アリア 「これじゃ、意思疎通もままならないですよね」
ホムンクルス 「…………」
アリア 「それに、人と呼ぶには小さいですし……」
アリア 「もっと考えてみよう」
◇
アリア(M) それから、一ヶ月が経った。私はホムンクルスに魂を入れるというアプローチを試していた。魂を扱う錬金術は非常に難易度が高いとされていたが、私にはそれができてしまった。人の髪の毛や爪といった身体の一部から魂の素となるものを取り出すことで、簡易魂魄を形成した。そうすることで、もともと人として備わっていた機能を発現させることができた。
ホムンクルス 「あー、ああ」
アリア 「なるほど、簡易的な魂魄だと、生後間もない赤ちゃんみたいになるんですね……。身体は大人なのに歩けないし喋れない……。この際、完璧な人間じゃなくてもいいか……」
アリア 「ある程度の知能や身体の機能は、調合の際に魔法で調整して……」
(SE 魔法が発動する音)
ホムンクルス 「……ご主人様、ご命令を」
アリア 「命令魔法も念のため入れてみたけど、不具合はなさそうですね……。こほん、とりあえず跳ねてみて」
ホムンクルス 「かしこまりました」
(SE 跳ねる音)
アリア 「……じゃあ、命令魔法を解除してみよう」
アリア 「魔法解除」
(SE 魔法が解除される音)
ホムンクルス 「……ここは?」
アリア 「なるほど、精神が成熟しているのに記憶がないと、こういう感じになるんですね」
アリア 「性格とかのすり込み自体は、簡単な魔法でできそうですね。あ、でも、魔法のように複雑な知識はすり込みが難しい、か。まあそれは練習すればいいか」
アリア 「……問題は、簡易的とはいえ魂魄を精製するのがちょっと難しいっていうことか。この技術をもっと簡単にできたら、医療に応用できそうですし、人類の発展に繋がりますよね……。そうしたら、お父様は私を認めてくれるでしょうか」
アリア(M) 今思えば、父に認めてもらいたい、というこの年齢の子どもには大して珍しくもない感情が寂しさの根底にあったのかもしれないな。
◇
アリア(M) そして、2年後。私は、簡易魂魄の形成とホムンクルスの身体を簡単に作れる技術を編み出した。これによって、宮廷で魔法を扱う者であれば、誰でもホムンクルスを作れるようになった。
アリア(M) 私は、この帝国が発展できるように、この技術を帝国騎士の鑑といわれる父に話した。結論から言ってしまえば、この技術は即刻封印するべきだった。
アリア 「お父様にホムンクルスの話をしたら、面食らってましたよ、ホムさん」
ホムンクルス 「そうですか、あの御父君が……」
アリア 「でも、まだ話してないこともあるんですよ?」
ホムンクルス 「話してないこと、ですか?」
アリア 「はい、実は、魔法の知識のすり込みがようやくできそうなんです」
ホムンクルス 「これで、私も魔法を使えるようになるんですね」
アリア 「はい、記念すべき第1号は、ホムさんですよ」
ホムンクルス 「いいんですか? 光栄です」
アリア 「じゃあ、さっそくやりますよ。準備はいいですか?」
ホムンクルス 「はい。いつでも大丈夫です」
アリア 「うん、じゃあ、いきますよ」
(SE 魔法が発動する音)
アリア 「……どうですか?」
ホムンクルス 「いけそうな気がします」
アリア 「いいですね。それじゃあ、さっそく簡単な薬を調合してもらいましょうか」
ホムンクルス 「はい」
アリア 「材料は、これとこれを使ってください」
ホムンクルス 「わかりました。では、始めます」
(SE 調合する音)
ホムンクルス 「…………っ」
アリア 「……? どうしました?」
ホムンクルス 「アリア、まさか……」
アリア 「え? どうして……」
ホムンクルス 「ぐ、ぐあああっ……。身体が熱い……! 魔力を維持できない……っ」
アリア 「なんで……! 身体が、消えかかって……」
ホムンクルス 「ぐ、騙したのか……っ?」
アリア 「え、ち、違う……!」
ホムンクルス 「あなたしか、いなかったのに……!」
アリア 「なんで……」
ホムンクルス 「消えたくない……! 騙していないというのなら、なんとか、しろ……っ!」
(SE ホムンクルスがアリアの首を絞める音)
アリア 「くっ、やめて、くるし、い……」
ホムンクルス 「なんとかしろ!」
アリア 「す、するから、離して……!」
ホムンクルス 「離したら、逃げるかもしれない……!」
アリア 「に、逃げない、から……っ」
ホムンクルス 「あ、あああああっ!! 消えたくない!」
アリア 「……っ!!」
ホムンクルス 「ぐあああああッ!!」
(SE ホムンクルスが消滅する音)
(SE アリアが倒れる音)
アリア 「げほっ! げほっ! ……どうして?」
アリア(M) 高密度の魔素で構成されているホムンクルスは、魔法を行使するとその魔法で扱う魔力に身体を構成する魔素が反応してしまう。そうすると魔素どうしのつながりに綻びが生じ、次第にほどけていく。少し考えればわかったはずだった。それなのに私は、目的ばかりに囚われて見落としていた。
アリア 「……ホムさん、ごめんなさい……っ!」
◇
アリア(M) それから私は、錬金術から距離を置いていた。ホムさんを失った傷は、癒えつつあった。そんなときに、事件は起こった。
アリア 「こんな馬車に乗せられて、どこへ行こうと言うんですか?」
騎士① 「ホロロコリスです。そこでホムンクルスを医療に応用できるかどうか、実験しているのですよ。御父君から、聞いていませんでしたか?」
アリア 「ホムンクルス……」
騎士② 「愁いを帯びた表情も可愛いですね」
騎士① 「おい」
騎士② 「失礼しました」
騎士① 「そろそろ到着し……。え?」
騎士② 「どうした?」
騎士① 「街が、燃えてる……」
◇
ホロロコリス。住民たちが悲鳴を上げている。
(SE 火が燃え盛る音)
ホムンクルス 「うがああああっ!!」
アリア 「…………!!」
騎士① 「おいおい、ホムンクルスが暴走してるってのか?」
騎士② 「ちっ、この町はもうだめだ。早いとこ、帝都に戻ろうぜ」
(SE 馬の悲鳴)
ホムンクルス 「うがあああっ!!」
騎士② 「ウソだろ。馬がやられた……!」
騎士① 「うわああああっ!」
アリア 「……っ!」
アリア (とりあえず、魔法を……)
アリア 「……水流よ、押し流せ……あれ?」
アリア (恐怖で、魔力をうまく練れない……!)
ホムンクルス 「うがああああっ!!」
騎士① 「ひ、来るな! 来るな!」
アリア 「…………」
アリア 「……………………ごめんなさい」
(SE アリアが駆け出す音)
騎士② 「え、アリア様!? 置いていかないで!! うわあああ!!」
(SE 騎士たちが倒れる音)
アリア (なんで、ホムンクルスが暴れてるの?)
ホムンクルス 「うがああああ!!」
アリア (ホムンクルスが追いかけてきてる……! 逃げないと……!)
アリア 「……わあっ!」
(SE アリアが転ぶ音)
ホムンクルス 「うううう!」
アリア (あ、私、死ぬんだ……)
ステラ 「─────斬月……!」
(SE 刀を振る音)
ホムンクルス 「うがああっ!」
(SE ホムンクルスが消滅する音)
ステラ 「大丈夫ですか?」
アリア 「……ありがとうございます。……えっと、あなたは?」
ステラ 「話はあとです。とにかく、逃げましょう」
アリア 「はい……」
ホムンクルス 「うがああああああっ!!」
ステラ 「危ない!!」
(SE 刀を振る音)
(SE 腹を刺される音)
ステラ 「がふっ! うそ……」
(SE ホムンクルスが消滅する音)
(SE ステラが倒れる音)
アリア 「え……?」
ステラ 「……に、げて……っ」
アリア 「…………っ!」
(SE アリアが駆け出す音)
◇
アリア 「私のせいだ……」
アリア 「私が、ホムンクルスを作ったから……!」
ホムンクルス 「(遠くから)うがああああっ!!」
アリア 「……私のせいで、あの子が……」
アリア (……このままじゃいけない)
アリア (……私が、責任を取らないと……)
アリア 「……どこか、街全体を見渡せる場所……」
アリア 「時計塔……、あそこなら……」
(SE アリアが駆け出す音)
◇
時計塔、頂上。
ホムンクルス 「うがあああっ!」
アリア (私の仮説が正しければ、ホムンクルスを魔力に変換して魔法を強化できるはず。できる限りホムンクルスを時計塔まで引き連れてきた)
ホムンクルス 「うがああああっ!」
アリア 「やるしかない……!」
アリア (対象を火とホムンクルスに絞った。これなら……)
ホムンクルス 「うが?」
(SE ホムンクルスたちが消滅する音)
アリア 「─────────氷塵!!」
(SE 凍りつく音)
(SE 氷が砕ける音)
アリア 「……これで、終わった……」
(SE アリアが倒れる音)
セシル 「騒ぎを聞いて来てみれば、アリアか……」
アリア (……し、師匠……? 助けに来てくれたんだ……)
アリア (もう、意識が……)
□
セシル 「……ふう、ようやく広場まで戻れたか。意識のない人間は、やはり重いな」
バーナード 「……セシル、といったか」
セシル 「おや、キミも来たのかい」
バーナード 「ホムンクルスを騎士団の兵器として扱う実験の進捗を、この目で見ておきたかったのだが、それが騒ぎを鎮めたか」
セシル 「ふふ、それ呼ばわりとはね」
バーナード 「たまに役立ったと思えば、ホムンクルスを全滅させるとはな。殿下の予言が的中したか……。皇族の魔法は恐ろしいな」
セシル 「……どうでもいいが、アリアを帝都に連れ帰ってくれよ。アリアにはまだ果たすべき役目がある」
バーナード 「役目、か……」
ルーナ 「ステラ!! 目を開けて!! ステラ!!」
バーナード 「む……」
ルーナ 「……アンタら、誰!? ホロロコリスの人間じゃないわね」
バーナード 「お前、さてはルーナ、か?」
ルーナ 「なんで、私の名前を知っているの!」
バーナード 「……良いことを教えてやろう」
ルーナ 「良いこと?」
バーナード 「アリア・メイザース。この惨劇を引き起こした者の名だ」
ルーナ 「アリア・メイザース……。そいつが、ステラを……?」
バーナード 「……」
(SE バーナードとセシルが去っていく音)
セシル 「あれも、殿下の予言かい?」
バーナード 「そうだ。恐ろしいお方だよ」
□
アリア(M) ホムンクルスの暴動後。しばらくのあいだ私は、あの師匠たちと過ごした工房で暮らしていた。家も錬金術師の地位も捨て、私は魔法使い、アリア・エインズワースと名乗ることにした。それが、せめてもの贖いとして選んだ、私の道だ。
アリア(M) そして、その暴動から4年後。私は、帝都郊外の森で店をやっていた。開店して2年が経つが、あいかわらず閑古鳥が鳴いている。私はそこで、平民派の貴族騎士を仲介人として、騎士団に薬品を卸していた。当然、生活費を稼ぐという目的もあるが、帝国の動きを見張る目的がある。
帝都。雨が降っている。
アリア 「私としたことが、薬の納品を忘れるとはね。あの若店主のおかげで思い出せたが……」
アリア 「……しかし、昨日は私も飲み過ぎた。あの店であの酒とシチューを食べるはずが、若店主と飲み比べになるとはね……」
アリア 「……そういえば、あの若店主、どこかアレンさんに似ていたな……と」
アリア 「……こんなところでお昼寝かい?」
アーロン 「…………」
アリア 「……心臓が止まっているな。とりあえず、これを……」
(SE 雷魔法が発動する音)
(SE 心臓の鼓動)
アリア (ここから……、あ、あのペンダントに付いていた石……)
アリア 「……よし、これを飲むんだ」
(SE 固形物が歯に当たる音)
アーロン 「……ぅ」
アリア 「…………」
アーロン 「げほっ、がはっ!」
アリア 「……目が覚めたかい?」
アーロン 「あんた、は……」
アリア 「まだ治療は済んでいない。無理はしない方がいい」
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つづく
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