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Ⅰ 魔法使いのお仕事

第8話 皇帝候補推薦人

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アリア・エインズワース:帝都郊外の森で店を営んでいる魔女。21歳。
アーロン・ストライフ:魔法使いの助手兼用心棒をしている青年。21歳。
ソフィー:皇女を模したホムンクルスだと思われる少女。18歳くらい。
フィリップ・ベルナルド:ヴァンという怪鳥を相棒にしている鳥使いのおっさん。32歳。

ルーナ:アリアに恨みを抱いている女性。20歳。
アルトリウス・フォン・ハルモニア:ハルモニア帝国皇帝候補の第4皇子。18歳。
バーナード:帝国騎士団団長の男。42歳。
アレキサンダー・ザ・ハルモニア:ハルモニア帝国皇帝候補の第1皇子。27歳。
ソフィア・リ・ハルモニア:ハルモニア帝国皇帝候補の第2皇女。どこか生気が抜けているような印象を受ける。18歳。
ウィリアム・パーシー:快楽主義の伯爵。大臣を務めている。35歳。

~モブ~
騎士


 グリフォン討伐から2日後。アルトリウスから城に来て欲しいと手紙があり、魔法使い一行は城に来ていた。

アーロン 「……で、なんでまだおっさんがいるんだよ」

フィリップ 「いいじゃないの。このフィリップ・ベルナルドは、相棒のヴァンをアリアちゃんに助けられてから、しばらく同行しようと決めたんだ」

アリア 「それよりも、キミは、ここに来てよかったのかい? 私の店に来た当初は、城と聞いただけで、脅えていたじゃないか」

ソフィー 「あはは、ちょっと怖いですけど、自分の記憶もちゃんと取り戻さないとって思って……」

アリア 「……無理はするなよ」

ソフィー 「アリアさん……」

(SE ノックの音)

アーロン 「お、アルトリウスが来たみたいだぜ」

(SE 扉の開閉音)

アルトリウス 「皆さん、今日は来ていただいてありがとうございます」

ルーナ 「…………」

アリア 「こちらこそ、お招きいただいて光栄に思うよ。できれば、そちらのお嬢さんには席を外してもらいたいところだけどね」

ルーナ 「殿下の推薦人とはいえ、外部の人間と空間を共有するなど、危険ではありませんか。もしそんなことをしてしまったら、護衛である私の立つ瀬がないですよ」

アーロン 「2日ぶりだな、もうちょいフランクでもいいんだぜ」

ルーナ 「アーロン様、その節はどうも。今は仕事中ですので」

アルトリウス 「2日前、というと、確かグリフォンを討伐された日ですよね?」

ルーナ 「え、ええ、はい、そうですよ。そのときにアーロン様とお手合わせをする機会がありまして……」

アルトリウス 「なるほど……」

アーロン 「アルトリウス、ご主人様なら飼い犬の躾はちゃんとしとけよ」

ルーナ 「あなたこそ、上司は選んだ方が良いですよ」

アーロン 「どういう意味だ?」

ルーナ 「いえ、いつ錬金術の犠牲者になるかわかりませんよ、と助言したまでです」

ソフィー 「……あなた、なんなんですか?! アリアさんがそんなことするはずがないじゃないですか!!」

ルーナ 「それは、あなたがそこの錬金術師にそう思わされているのでは?」

ソフィー 「なっ! なんでそんなことが言えるんですか!? 確かにアリアさんは、少し誤解されやすい人かもしれないですけど、とても優しい人なんです!」

ルーナ 「どうでしょうね。腹の底ではどう思っているかなんて、誰にもわかりませんよ」

アルトリウス 「ルーナさん、口を慎みなさい」

ルーナ 「……! 失礼いたしました……」

アルトリウス 「アリアさん、大変申し訳ないことをしました。しかし、今日は騎士団の者に手の空いてる者がおらず、彼女を外すことはご容赦を」

アリア 「構わないよ。荒事を起こす気は、こちらにもない」

アルトリウス 「申し訳ありません」

ルーナ 「…………」

フィリップ 「それで、今日はどうしたらいいの?」

アルトリウス 「そうでした。まずは、民衆の皆さんに公表しますので、バルコニーに上がってもらいます」

フィリップ 「それは、俺とソフィーちゃんも?」

アルトリウス 「申し訳ありません。バルコニーには、アリアさんとアーロンさんのお二人に上がっていただきます」

ソフィー 「ほっ、よかった……」

アルトリウス 「そのあとに企画している、宴席にはご出席いただいて大丈夫ですよ」

フィリップ 「宴席! お酒出る?」

アルトリウス 「ええ。出ますよ」

フィリップ 「おじさん、アリアちゃんたちについてきてよかったよ」

アーロン 「おっさん、あんまり羽目を外し過ぎんなよ?」

フィリップ 「わかってるって」

ルーナ 「……。殿下、そろそろお時間です」

アルトリウス 「わかりました。それでは皆さん、また後でお会いしましょう」



 城、バルコニー。観衆が大勢集まっている。

アルトリウス 「皆さん、本日は集まっていただき、ありがとうございます。この度は、私、アルトリウス・フォン・ハルモニアが推薦人をご紹介いたします」

(SE ざわざわ)

アルトリウス 「……それでは、さっそくご紹介いたしましょう。私の推薦人のお二方、アリア・エインズワースとアーロン。・ストライフです」

(SE ざわざわ)

男 「おい、あれ、バジリスクを討伐したっていう……」

女 「魔法使いだわ」

アルトリウス 「皆さんのなかには、この二方を知っているという方もいらっしゃるかと思います。もちろん、彼女たちの功績も」

アリア 「……アーロン、少々気恥ずかしいな(小声)」

アーロン 「そんなことより、うしろで睨んでる貴族どもが気になってしかたねえよ(小声)」

アリア 「我慢するしかない。私たちはもう表舞台に立ったんだ。今後は露骨な嫌がらせがあるだろうね(小声)」

アーロン 「嫌がらせついでに店が繫盛するといいけどな(小声)」

アリア 「ふふふ、違いない(小声)」

アルトリウス 「──これで、私も皇帝選に出馬できます。私は、この国をより良いものに変えて見せます。民衆が虐げられない、そんな国を目指します」

アーロン 「……!」

(SE 歓声)

アルトリウス 「それでは、この場はこれにて……。皆さん、お集まりいただきありがとうございました」



 城内、宴席。

バーナード 「殿下、恐れながらあのような過激な発言は慎んでいただきたい」

アルトリウス 「私の発言のどこが過激なのでしょう」

パーシー 「お戯れを、殿下。あの発言は、貴族に対する挑発行為ととられても仕方ありませんよ」

アルトリウス 「これはパーシー大臣、いらしていたのですね」

アレキサンダー 「俺もいるぞ。相変わらず綺麗ごとばっかりだな、アルトリウス」

アルトリウス 「兄上まで」

バーナード 「殿下、平民を推薦人にするという事例は少ないのです。どうか慎重になっていただきたい」

パーシー 「バーナード卿、もうその辺でいいではありませんか。この席は皇帝候補とその推薦人のお披露目会も兼ねているのですから」

バーナード 「……」

アレキサンダー 「そういや、あれが魔法使いの一行か。魔法使いは良いとして、いかにも粗暴そうな男と場違いなローブ女、それと胡散臭いおっさん。いくらなんでも推薦人はちゃんと選んだ方がいいぜ」

アルトリウス 「彼らはボクの恩人です。いくら兄上でも侮辱は許しませんよ」

アレキサンダー 「おーこわ」

──────

フィリップ 「なんか、国の大物が揃い踏みね」

ソフィー 「そりゃそうですよ。こんな大きな会場なんですから」

フィリップ 「で、あの貴族は?」

アリア 「ウィリアム・パーシー、快楽主義の変態だ」

フィリップ 「ふーん、あれが……」

アーロン 「んで、その隣のがアレキサンダー殿下だっけ?」

アリア 「そうだよ。確か、議会側の皇帝候補だね。筆頭推薦人は、パーシーだね」

アーロン 「ふうん。そういえば、騎士団側の候補は?」

アリア 「おそらくだけど……」

ソフィア 「遅れてしまい、申し訳ありません」

ソフィー 「…………っ!!」

──────

バーナード 「……ソフィア殿下、お待ちしておりました」

アルトリウス 「ソフィア、貴女が騎士団側の候補なのですか?」

ソフィア 「そうです」

アルトリウス 「体調は、大丈夫なのですか? ひどい病気だと伺っていましたが……」

バーナード 「御心配には及びませんよ、アルトリウス殿下。宮廷錬金術師の者に良い薬を頂いております。ソフィア殿下の病も快方に向かっております」

アルトリウス 「だといいのですが」

──────

アリア 「やはり、か」

アーロン 「まじかよ」

ソフィー 「……どうし、て?」

フィリップ 「へえ、あのお嬢ちゃんがソフィア皇女殿下か。なんか、ソフィーちゃんに声が似てるね。……って、どうしたの?」

ソフィー 「すみません、私、ちょっと席を外しますね」

フィリップ 「ええ? 気分悪くなっちゃった?」

アリア 「……これも、私の罪か……」

アーロン 「アリア?」

アリア 「すまない、私も席を外す」



 城内、廊下。

ソフィー 「…………」

アリア 「…………ソフィー」

ソフィー 「……アリアさん、どうし、たんですか?」

アリア 「すまない」

ソフィー 「え?」

アリア 「私は、キミについて、大方の見当がついていたんだ」

ソフィー 「なんとなく、そうなんじゃないかって思ってました」

アリア 「そうか」

ソフィー 「黙っていたのは、私を傷つけないため、ですよね?」

アリア 「……ふふ、私はそこまで優しくないよ」

ソフィー 「ウソですよ」

アリア 「では、そういうことにしておいてくれ」

ソフィー 「はい。……なんで、あの皇女殿下、私と同じ顔なんですか?」

アリア 「それは、あの皇女殿下と呼ばれていたものもキミもオリジナルの皇女を模したホムンクルスだからだ」

ソフィー 「ホムンクルス……。確か、4年前に暴走して事件を起こしたっていう」

アリア 「……そうだ」

ソフィー 「じゃあ、私もいつか暴走しちゃうんですか?」

アリア 「大丈夫だ。そんなことにはならない」

ソフィー 「どうして、そう言えるんですか?」

アリア 「あの事件は、ホムンクルスが暴走して起こったのではなく、ホムンクルスを暴走させて起きたんだ」

ソフィー 「暴走させて……?」

アリア 「ああ、だから、ホムンクルスが暴走するなんてことは起こらない」

ソフィー 「……!」

アリア 「……今まで黙っていてすまなかった」

ソフィー 「アリアさんは悪くないですよ」

アリア 「……」

ソフィー 「オリジナルの皇女殿下がどこにいるかわかりますか?」

アリア 「わからない。もしかしたら、もう……」

ソフィー 「そう、ですか」

アリア 「大丈夫だ。私がなんとかする」

ソフィー 「え……?」

アリア 「オリジナルの皇女も、そのホムンクルスも私が救ってみせる」

ソフィー 「……! あはは、なんだか、アーロンさんに似てきましたね、アリアさん」

アリア 「……へ、変なことを言うな」

(SE 足音)

ソフィー 「……!」

アリア 「……アルトリウスの護衛が、こんなところにいていいのかな?」

ルーナ 「許可は得ています」

アリア 「何の用だ」

ルーナ 「貴女方は殿下の推薦人なのですから、護衛である私が付かない理由はありませんよね」

アリア 「ふふ、外からの脅威よりもキミの方が危険だと思うけどね」

ルーナ 「それは、貴女次第ですよ。アリア・メイザース」

アリア 「エインズワースだ」

ルーナ 「それは失礼いたしました。……ところで、そちらの方は、ローブを脱がないのですか?」

ソフィー 「言いませんでしたっけ。顔に傷があるので、見せられないと」

ルーナ 「私はこれでも武人です。傷に抵抗はありませんよ。それとも、他に見せられない理由が?」

アリア 「ソフィーも女の子なんだ。察してやってくれ」

ルーナ 「そうですよね。ただ、ソフィア殿下に似ていると思いましたので、皇族に関係があるのかと」

ソフィー 「……!」

ルーナ 「失礼しました。そんなはずはありませんよね」

アリア 「難癖をつけにきただけなら、さっさと持ち場に戻ったらどうだい?」

(SE 城が揺れる音)

ソフィー 「うわあっ!」

(SE ソフィーが尻もちをつく音)

ルーナ 「……っ!?」

アリア 「これは……?!」

ソフィー 「いたたた……」

アリア 「とりあえず戻ろう」

ルーナ 「……そうですね」



 城内、宴席。

アーロン 「な、なんだ、今の揺れ」

フィリップ 「余興ってわけじゃなさそうだよね」

アルトリウス 「皆さん、落ち着いてください」

バーナード 「……異変を調べろ」

騎士 「はっ」

(SE 騎士たちが走っていく音)

アレキサンダー 「大臣、お前じゃねえよな?」

パーシー 「殿下、なんのことでしょう」

アレキサンダー 「けっ、勝手にしろ」

フィリップ 「…………」

アリア 「大丈夫か?」

アーロン 「アリアとソフィーか」

フィリップ 「ソフィーちゃん、大丈夫なの?」

ソフィー 「はい、大丈夫です」

ルーナ 「殿下、お怪我は?」

アルトリウス 「いいえ、ボクは大丈夫です」

バーナード 「……アルトリウス殿下、私はソフィア皇女殿下を部屋までお送りいたします」

アルトリウス 「頼みましたよ」

バーナード 「殿下、こちらへ」

ソフィア 「はい……」

アルトリウス 「アーロンさん、こちらに」

アーロン 「どうした?」

アルトリウス 「貴方方には、この異変を調べていただきたい」

アリア 「それは構わないけれど、なにか心当たりが?」

アルトリウス 「はい、おそらく大臣……、ウィリアム・パーシーによるものだと思われます」

フィリップ 「大臣がね」

アーロン 「まあ、殿下の頼みってんならやるしかねえよな」

アルトリウス 「ありがとうございます。……ルーナさんも彼らに同行してください」

ルーナ 「……! 私がですか? 恐れながら、それはお引き受けしかねます」

アルトリウス 「そうでしょうね。ですが、これは命令です。今回はおそらく、あのバジリスクよりも厄介な魔物を投じているでしょう。貴女の戦力が必要なのです」

ルーナ 「…………承知しました」

アルトリウス 「アリアさんは、構いませんか?」

アリア 「……構わないさ」

アルトリウス 「ありがとうございます。それでは、異変調査、お願いいたします」

────

 城内、地下。

(SE なにかが蠢く音)

パーシー 「……ホムンクルスの新たな可能性。それを試す日にあの錬金術師と相まみえることになろうとは……。これも宿命か」

アレキサンダー 「やっぱりお前、良い感じに狂ってるな」

パーシー 「ただこの帝国を蝕む毒を浄化したいがためでございます」

アレキサンダー 「はっ、そうかよ。ま、それも俺が皇帝になるためには必要なことだからな。この帝国を変えるのは俺だ」

パーシー 「イエスユアマジェスティ」

アレキサンダー 「ま、その前に、この帝国はぶち壊さねえとな。準備の方はどうだ?」

パーシー 「滞りなく。世界樹は順調に成長しています」

アレキサンダー 「ならいい。だけど、あのアルトリウスの推薦人には気を付けることだな」

パーシー 「アリア・メイザースですか?」

アレキサンダー 「違う。もう一人の方だ」

パーシー 「アーロン・ストライフですか? お言葉ですが、あれは力こそあれど、脅威になるほどではないかと……」

アレキサンダー 「はっ、皇族が特殊な魔法を使えるってこと忘れてないか? 俺の右眼は見通す眼、少々使い勝手は悪いがちょっと先の未来なら見ることができるんだぜ」

パーシー 「失礼しました」

アレキサンダー 「ま、この世界樹の成長を待つとしようか。露払いは任せた」

パーシー 「イエスユアマジェスティ」

つづく
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