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Ⅰ 魔法使いのお仕事
第6話 おっさん登場
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アリア・エインズワース:帝都の近くにある森に店を構える魔女。21歳。
アーロン・ストライフ:ひょんなことからアリアの助手をすることになった青年。21歳。
ソフィー:皇女を模したホムンクルスだと思われる少女。18歳くらい。
フィリップ・ベルナルド:鳥使いの弓の名手。ヴァンという名前の怪鳥が相棒。32歳。
ルーナ:アルトリウスの護衛をしている女性。20歳。
アルトリウス:次期皇帝候補の第4皇子。18歳。
シルヴィア:魔法使いの店の常連。普段は酒場で働いている少女。17歳。
バジリスクの一件から翌日。帝都では、バジリスク討伐、行方不明となっていた人々の救出に成功した魔法使い一行の話題で持ちきりとなっていた。しかし、アーロンが貴族と揉めているということもあり、依然魔法使いの店は閑古鳥が鳴いていた。
そして、帝都の話題の中心である魔法使いの店では、アーロンが昼食を作っていた。
(SE 部屋の扉の開閉音)
アリア 「お、おはよう……」
アーロン 「おう、もう昼だぞ」
アリア 「わかっている」
アーロン 「じゃあ、飯でも食うか?」
アリア 「…………」
アーロン 「アリア?」
アリア 「……昨夜は、変なことを言ってすまなかった」
アーロン 「……いいや、俺も頭に血が上り過ぎてた」
アリア 「そんなことはない。自分の父親と友人が殺されたんだ、平常心でいる方が難しいよ。それを私は……」
アーロン 「親父とジョンを殺したのは許せねえ。……だけど、俺が、俺たちがやらなくちゃいけないのは、アルトリウスを皇帝にして、この国を変えることだ」
アリア 「ああ、貴族だからと言って、あのような横暴は許されない」
アーロン 「そうだ、親父とジョンみたいな人をこれ以上増やしちゃいけない」
アリア 「アーロン……」
アーロン 「……そういえば、ソフィーはまだ起きてこないのか」
(SE 部屋の扉の開閉音)
ソフィー 「おはようございまーす」
アリア 「ふふ、今日は、ずいぶんとゆっくりじゃないか」
ソフィー 「アリアさんには言われたくないですー」
アリア 「そういうことは、寝癖を直してから言うんだな」
ソフィー 「……!」
アーロン 「おう、寝癖直したら飯にするぞ」
ソフィー 「はーい」
アリア 「今日は、シチューかい?」
アーロン 「好きだろ、シチュー」
アリア 「ああ、好きだよ」
ソフィー 「…………」
アリア 「ふむ、良い匂いだ」
アーロン 「だろ、今日のは、かなり自信作なんだ」
アリア 「それは楽しみだ」
ソフィー 「……寝癖直してきましたよ」
アーロン 「ああ、ばっちり直ってるな」
アリア 「それでは、頂こうか」
ソフィー 「いただきます」
アーロン 「おう」
アリア 「ふむ、美味しいよ」
アーロン 「お、珍しいな、アリアが感想を言うなんて」
アリア 「な、なんだい、私だって、素直に感想を言うさ」
ソフィー 「…………」
アーロン 「ソフィー、なにをそんなにそわそわしてるんだよ」
アリア 「先ほどから少し、鬱陶しい気がするね」
ソフィー 「え、ああ、いや、その……」
アリア 「なんだか煮え切らないね」
ソフィー 「それは、だって、その、アリアさんと、アーロンさん……」
アーロン 「なんだよ」
ソフィー 「え、ええ、えっち、なこと、したんですよね?」
アリア 「ぶふっ!!」
アーロン 「……はあ」
ソフィー 「うわ、汚いですよ、アリアさん!」
アーロン 「これまた珍しいな。アリアがシチューを吹き出すなんて」
アリア 「こほん、失礼」
ソフィー 「それで、どうなんですか?」
アリア 「……ふむ、確かに昨夜は、好きにしていい、と言ったけれど、さすがに激しくし過ぎだ、アーロン」
ソフィー 「ほらー! やっぱり!」
アーロン 「してねーよ」
ソフィー 「なーんだ、アリアさんの嘘か」
アリア 「キミ、なぜ私が嘘をついたと思うんだい?」
ソフィー 「だって、アーロンさんの方が余裕ある感じでしたもん」
アリア 「ぐぬぬ……」
アーロン 「まあそれはそれとして、今日はどうすんだよ」
アリア 「……依頼を斡旋してくれていたジョンを亡くしてしまったからね」
アーロン 「酒場の方で依頼を受けるか」
アリア 「しばらくは、そうした方がいいだろうね」
アーロン 「じゃあ、これから酒場の方に行ってみるか」
アリア 「ああ、悪いけど、今日は私は調合をしたいから、ここにいるよ」
アーロン 「だったら俺一人で行くか」
アリア 「頼んだよ」
アーロン 「おう。あ、ソフィーはどうする?」
ソフィー 「え、私ですか?」
アーロン 「一緒に来るか?」
ソフィー 「酒場に?! お酒飲ませてくれるんですか?!」
アーロン 「それはダメだ」
ソフィー 「けちー」
アリア 「飲むなら、私も行こうかな」
アーロン 「おい、調合はどうした?」
アリア 「うぐ、夕方までには終わらせる」
アーロン 「……それじゃあ、夜、飲みに行くか」
アリア 「私から言っておいてなんだけど、いいのかい?」
アーロン 「ああ、俺も飲みたい気分だからな」
ソフィー 「私もお供します!」
アーロン 「いいけど、そんな楽しいもんでもないし、ソフィーには飲ませないからな」
ソフィー 「はーい」
アリア 「そうだ、依頼を受けるついでにソフィーに街を見せてきたらどうだい?」
アーロン 「ああ、そうだな。ソフィーもなにか思い出すかもしれないし。ソフィーは、それで大丈夫か?」
ソフィー 「はい、大丈夫ですよ」
アリア 「夕方くらいになったら、そっちに向かうよ」
アーロン 「おう、じゃあ、いつもの場所で合流しようぜ」
アリア 「わかったよ」
ソフィー 「ということは、夕方までアーロンさんとデートですね」
アーロン 「そういうことになるな。デートってのとはちょっと違うけど」
アリア 「そうだ、デートじゃない。これは、極めて純粋な医療行為だ。勘違いするな」
アーロン 「アリア?」
ソフィー 「にひひ、アリアさん、楽しんできますね」
アリア 「やはり、私も同伴しよう」
アーロン 「はあ、傷薬とか店に出す薬が足りないんだから、しっかり仕事をしてくれ」
アリア 「む、仕方ない」
アーロン 「よし、じゃあ飯食ったら出かけるか」
ソフィー 「はーい!」
◇
帝都、酒場。
アーロン 「ここが行きつけの酒場だ。この掲示板から、依頼を受けるんだ」
ソフィー 「なるほど~」
シルヴィア 「あ、アーロンさんじゃないですか」
アーロン 「おう、シルヴィアか」
ソフィー 「私もいますよー」
シルヴィア 「えっと、確か、ソフィーさん?」
ソフィー 「ですです、ソフィーです」
シルヴィア 「お二人とも、どうしたんですか?」
アーロン 「ちょっと、依頼を受けにきた」
シルヴィア 「珍しいですね、アーロンさんがここに来て依頼を受けるなんて」
アーロン 「ああ、まあ、ちょっとな」
シルヴィア 「あ、もしかして、昨日のこと……」
アーロン 「そういえば、ここの依頼、少なくなってないか?」
シルヴィア 「……私もマスターから聞いただけですけど、討伐依頼を専門に受けている人が新しく来たみたいで、その関係で減ってるんですよ」
アーロン 「傭兵かなんかが帝都に立ち寄ってるんだろうな」
シルヴィア 「そうかもしれないですね。魔物の動きも活発ですからね」
ソフィー 「……あ、アーロンさん、この依頼、どうですか?」
アーロン 「なになに、湖の近くにいる魔物の討伐依頼か。残ってたんだな」
シルヴィア 「ああ、確かそれ、グリフォンの討伐だったはずです」
アーロン 「グリフォンか」
シルヴィア 「はい、なんでも、以前その湖のあたりで違うグリフォンが倒されたみたいで、仲間のグリフォンが何頭か飛来したっていう噂ですよ」
アーロン 「なるほど。そりゃ、俺たちがやらなくちゃいけないな」
ソフィー 「え、どうしてです?」
アーロン 「いや、そのグリフォンを倒したのは、俺たちなんだ」
シルヴィア 「グリフォンを倒したんですか!? 凄いです!」
アーロン 「まあ、アリアも一緒だったしな」
アルトリウス 「いやいや、ボクはそれに助けられましたからね。見事なものですよ」
アーロン 「アルトリウスじゃないか」
アルトリウス 「お久しぶりです」
シルヴィア 「って、殿下!?」
アルトリウス 「……アーロンさん、ご活躍聞き及んでいます」
アーロン 「ってことは、あのことも聞いてるな。悪かった、危うく問題を起こして、約束を果たせなくなるところだった」
アルトリウス 「いえ、貴方が謝ることではありません。あのような暴虐を赦しているこの国に責があります」
アーロン 「そう言ってもらえるなら、少し気が楽になる」
アルトリウス 「しかし、バジリスクを倒して、人々を救ったというのは、非常に大きな功績です。これならば推薦人として、申し分ないでしょう」
アーロン 「本当か?」
アルトリウス 「ええ。時機を見て、正式に発表いたします」
シルヴィア 「え、アーロンさんが、殿下の推薦人?!」
アーロン 「おいおい、シルヴィア、さっきから驚いてばっかりだな」
シルヴィア 「当然です! だって、殿下の推薦人ですよ!?」
アルトリウス 「……それと、先ほどから気になっていたのですが、そちらの方は?」
アーロン 「ああ、こいつは……」
ソフィー 「ソフィーです。傷があるゆえ、顔を見せない無礼をお許しください」
アルトリウス 「……ソフィーさん、ですか」
ソフィー 「なにか……?」
アルトリウス 「ああいえ、知り合いと声が似ていたものですから」
ソフィー 「そうなんですか?」
アーロン 「……」
(SE 店の扉が開く音)
シルヴィア 「いらっしゃいませ。……あ」
ルーナ 「アルトリウス殿下、ここにおられたのですね」
アルトリウス 「ルーナさんですか。よくここがおわかりになりましたね」
ルーナ 「あいにく、ここの店主には世話になっておりまして、話を聞こうと思った矢先に殿下がおられましたので。……この方たちは?」
アルトリウス 「友人であり、ボクの推薦人になる予定のアーロンさんとソフィーさんです」
アーロン 「どうも」
ソフィー 「ソフィーです」
ルーナ 「ルーナと申します。現在は、殿下の護衛をしております」
アルトリウス 「それと、ここにはいませんが、もう一人、アリアという魔法使いも推薦人となる予定です」
ルーナ 「アリア? もしや、アリア・メイザースですか?」
アルトリウス 「確か、姓はエインズワースだったはずですが、知っているのですか?」
ルーナ 「エインズワース……。ああ、いえ。なんでもありません」
アーロン 「……あんた、騎士じゃないな。それに、よほどの実力者に見える」
ルーナ 「それは、どうでしょう」
アーロン 「あんたの立ち居振る舞いから、騎士じゃないことはわかる。坊っちゃん騎士どもにはわからねえだろうけど」
ルーナ 「……確かに、貴方はどの騎士よりも骨がありそうですね」
アーロン 「団長閣下よりも?」
ルーナ 「それはどうでしょう」
アルトリウス 「ふふ、やはり武人同士、気が合うのでしょうか」
ルーナ 「これは、失礼しました。恐らくこの方は、本質が私と同じなのでしょう。一度、手合わせしたいものです」
アーロン 「お、そりゃいいな」
アルトリウス 「さすが、アーロンさんですね。ルーナさんは、付き人としてボクに仕えていただいているんです。彼女は、アーロンさんを退屈させませんよ」
アーロン 「なるほど」
ルーナ 「……殿下、そろそろお時間です」
アルトリウス 「わかりました。それでは、私はこれで。……紅茶、美味しかったです、と店主にお伝えください」
シルヴィア 「あ、ありがとうございます!」
(SE 店の扉の開閉音)
シルヴィア 「……ふ、ふう」
ソフィー 「シルヴィアちゃん、どうかしたの?」
シルヴィア 「え、ああ、いえ。ただ、あのルーナって人、少し怖いなって思いまして」
アーロン 「ああ、あれは人を簡単に殺せる者の目だ」
シルヴィア 「それじゃあ、殿下は大丈夫なんでしょうか?」
アーロン 「どうだろうな。だけど、ああいう手合いは殺せるなら殺すからな。今無事なら多分大丈夫だ」
シルヴィア 「……気を付けてくださいね」
アーロン 「おう。それじゃ、俺たちも出るわ。邪魔したな」
シルヴィア 「あ、いえ、邪魔なんて! また来てくださいね!」
アーロン 「夜にまた来る」
シルヴィア 「わかりました。お待ちしてますね」
アーロン 「おう」
(SE 店の扉の開閉音)
◇
帝都、大通り。
アーロン 「ソフィー、ここが帝都で一番賑わっている場所だ」
ソフィー 「ここが……」
アーロン 「あそこの道を行くと、噴水のある中央広場に出る」
ソフィー 「広場……。それじゃあ、そこを目指しながら、少し回りませんか?」
アーロン 「おう。……あ、これ二つ。……ほい、お代」
(SE お金を支払う音)
アーロン 「ほら、これ食うだろ?」
ソフィー 「串焼き、ですか?」
アーロン 「ああ、食べたいかなーって思って」
ソフィー 「あむ、……美味しいです!」
アーロン 「そりゃよかった」
ソフィー 「どうして、私の食べたいものがわかったんですか?」
アーロン 「いや、わかるだろ。ソフィー、よだれ出てたぞ」
ソフィー 「え!? 言ってくださいよ!」
アーロン 「悪い、ウソだ。だけど、見てたよな、あの店」
ソフィー 「バレてました? ローブ着てるのに」
アーロン 「なんとなく、な」
ソフィー 「えっち」
アーロン 「なんでそうなる」
ソフィー 「だって、私のこと見てたんですよね? 舐め回すように」
アーロン 「見てねーよ」
ソフィー 「……やっぱり、アーロンさん、こういうの、慣れてますよね」
アーロン 「ああ? 別にそんなことねーよ」
ソフィー 「からかおうと思っても、なんか調子を狂わせられるというか……」
アーロン 「そりゃ、年下にからかわれるなんてバカげてるからな。それにからかうんなら、俺よりアリアの方がいいだろ」
ソフィー 「それはそうかもしれませんけど、私としては、アーロンさんの狼狽える姿を見てみたいと思って」
アーロン 「ソフィーじゃまだまだ色気が足りない。最低でもアリアくらいの胸でもあれば、少しは狼狽えるかもな」
ソフィー 「……! アーロンさん! 私だってあるにはあるんですよ!」
アーロン 「悪い悪い」
ソフィー 「もう!」
アーロン 「ほら、ここが広場だ」
ソフィー 「わあ、綺麗なところですね」
アーロン 「まあ、帝都の名所のひとつだからな」
ソフィー 「やっぱり慣れてますね! このこの~!」
アーロン 「ソフィー、今日はやけにテンション高いな。少し空回りしてるぞ」
ソフィー 「……すみません、ウザかったですか?」
アーロン 「ウザいとかそういうんじゃなくて、俺が聞きたいのは、なんで無理してるんだってこと」
ソフィー 「え、そんな、無理だなんて……」
アーロン 「ソフィーのことだ、変な気を回してるんだろ?」
ソフィー 「……アーロンさんには、隠し事できませんね。すみません、私、アーロンさんに元気になってもらいたくて……」
アーロン 「別に、謝ることじゃねえよ。気分転換にはなったしな」
ソフィー 「アーロンさん……!」
アーロン 「それより、ソフィー、記憶はどうだ? 街を見て回ったけど、なにか思い出せそうか?」
ソフィー 「え、えーと……、実はアルトリウス殿下にお会いしたときに、なにかを感じたんですよね」
アーロン 「……やっぱりか」
ソフィー 「え、やっぱりって……?」
アーロン 「あ、ああ、アルトリウスも、ソフィーが知り合いに似てたって言ってたし、なにか関係があるのかもな」
ソフィー 「……殿下に、詳しくお聞きしていればよかったんですけど」
アーロン 「まあ、あのルーナとかいう女剣士が入ってきたからな。今度聞いてみるのもいいかもな」
ソフィー 「……アーロンさんは、なにか知っていたりしますか?」
アーロン 「……まあ、ソフィーが皇族関係者じゃないか、ってことくらいだな」
ソフィー 「アリアさんだったら、知っていますか?」
アーロン 「どうだろうな。あいつも、元はあのでっかい城で魔法を研究してたらしいしな」
ソフィー 「私も、あのお城で働いていたんでしょうか?」
アーロン 「まあ、ソフィーって、育ち良さそうだからな。所作が綺麗っていうか」
ソフィー 「そ、そんなことないですよ」
アーロン 「謙遜すんなって。……あ、そろそろ日暮れか」
ソフィー 「そうみたい、ですね」
アーロン 「それじゃあ、あの店に戻ってアリアと合流するか」
◇
魔法使いの店。
アリア 「よし、これで終わり、と」
アリア 「……ふむ、ちょうどいい時間だ。街に向かうとするか」
(SE 店の扉の開閉音)
フィリップ 「魔法使いの店ってのは、ここかい?」
アリア 「そうだけど、……キミは?」
フィリップ 「俺は、フィリップ・ベルナルド。各地を旅して回ってるんだが、相棒が怪我をしちゃって、ここに来てみたってわけだ」
アリア 「アリア・エインズワース、魔法使いだ。その、相棒というのは?」
フィリップ 「この先の川辺で休んでる。カイザーアードラにも効く薬はあるか?」
アリア 「カイザーアードラ? 怪鳥と呼ばれる獰猛な鷲のことかい?」
フィリップ 「そう。俺はそいつに乗って旅してるんだ」
アリア 「ふむ、わかった。少し待っていてもらえるかな?」
フィリップ 「おう」
(SE 店の扉の開閉音)
(SE 店の扉の開閉音)
アリア 「待たせたね」
フィリップ 「いいや、それほど待ってないよ」
アリア 「では、相棒のもとに案内してくれるかな」
フィリップ 「こっちだ」
◇
川辺。
アリア 「……これは、思っていたよりも、ひどい怪我だ」
フィリップ 「グリフォンにやられたんだ。治せるか?」
アリア 「もちろんだ」
フィリップ 「そりゃ頼もしい。……よかったな、綺麗なお姉ちゃんに治療してもらえるんだぞ? 羨ましいぞ、ヴァン」
ヴァン 「キュウウン」
アリア 「では、薬を塗ろう」
(SE 傷が治る音)
ヴァン 「キイイイイッ!」
フィリップ 「本当に一瞬で治るんだな」
アリア 「当然だ。彼はもう飛べるはずだよ」
フィリップ 「魔法使いには何人か会ったことがあるけど、アリアちゃん程の実力を持ってる魔法使いは初めてだよ」
アリア 「それはそれは、幸運だったね」
フィリップ 「……幸運ついでに、お代、まけてくれないかな?」
アリア 「そうだね、まけてやらないこともない」
フィリップ 「お、そりゃいい」
アリア 「ただし、条件がある。私を帝都まで送ってくれないか?」
フィリップ 「お安い御用だよ。ヴァン、行けるか?」
ヴァン 「キイイイイ!」
フィリップ 「さあ、乗っていいよ」
アリア 「やはり、図鑑の記述よりも大きくないかい?」
フィリップ 「ああ、ヴァンはちょっと特別でな。ほら早く乗って」
アリア 「では、失礼するよ」
◇
帝都、酒場。
アーロン 「アリア、遅いな」
ソフィー 「そうですねー。……あ」
アリア 「すまない、遅くなったね」
アーロン 「おう、なんかあったのか?」
アリア 「ああ、少しね」
アーロン 「まあいいや、入ろうぜ」
(SE 店の扉の開閉音)
シルヴィア 「いらっしゃいませー! あ、アーロンさん」
アーロン 「よ、来たぞ」
アリア 「今日は終わりまでかい?」
シルヴィア 「お母さんの容態が少し安定してるので……」
アリア 「そうか。それならよかった」
シルヴィア 「あ、席、こちらどうぞー」
(SE 席に着く音)
アーロン 「それじゃ、蒸留酒2つと、オレンジジュース1つ」
ソフィー 「ぶー、私もお酒がいいです!」
アーロン 「我慢しろ」
ソフィー 「ちぇー」
シルヴィア 「ふふ、はい、じゃあ、エール2つとオレンジジュースですね」
アーロン 「あ、そうだ、さっきアルトリウスに会ったぞ」
アリア 「おや、城の方まで行ったのかい?」
ソフィー 「いえいえ、ここに来ていたんですよ」
アーロン 「ああ、それに、俺らはもう推薦人として認められてるってよ」
アリア 「バジリスクの件が伝わっていたのか」
アーロン 「みたいだ」
アリア 「少々急すぎる気もするけれど……」
ソフィー 「あ、そういえば、アリアさんのことを知っている人にも会いましたよ」
アリア 「私を知っている人?」
アーロン 「ああ、確か、ルーナとか言ってたっけ」
アリア 「ルーナ……? 聞いたことのない名前だ」
アーロン 「じゃあ、ルーナが一方的に知ってるだけか」
ソフィー 「アリアさんなら不思議じゃないですよね」
アーロン 「……だけど、ルーナのやつ、アリアの姓を間違えてたな」
アリア 「……なんと?」
アーロン 「確か、メイザース、だったか」
アリア 「……。おかしなことを言う人だね。私は、アリア・エインズワースだ」
シルヴィア 「お待たせしましたー」
アーロン 「ちょうどいいところに来たな」
アリア 「…………」
アーロン 「さて、飲むか」
アリア 「そうだね」
アーロン 「……献杯」
アリア 「……うん」
ソフィー 「……けんぱい」
アーロン 「別に付き合わなくてもいいぞ、ソフィー」
アーロンは、父親とジョンのことを語った。
◇
しばらくして。
シルヴィア 「お待たせしましたー。葡萄酒2つです」
アリア 「まさかキミも葡萄酒を頼むなんてね」
アーロン 「たまにはな」
ソフィー 「葡萄酒、なんだかジュースみたいですね」
アーロン 「飲むなよ?」
ソフィー 「はいはい、飲みませんよー」
アーロン 「……お、案外いけるな」
アリア 「ふふ、だろ?」
フィリップ 「およ、アリアちゃんもここで飲んでたんだ」
ソフィー (なんか知らないおじさんが話しかけてきた。……今ならちょっとだけお酒を飲んでも……)
アリア 「……キミは」
アーロン 「なんだよ、知り合いか?」
アリア 「ああ、先ほど店を訪ねてきた旅する鳥使いだ」
ソフィー (なるほど、お客さんか。……なんだ、ちょっと苦いけど、ただのジュースじゃん)
ソフィー 「……ふひ」
アーロン 「鳥使い? このおっさんが?」
フィリップ 「フィリップ・ベルナルドだ」
アーロン 「アーロン・ストライフ。アーロンでいい」
フィリップ 「単刀直入に聞くけど、青年はアリアちゃんの恋人だったりするの?」
アーロン 「急になんだよ」
フィリップ 「まあまあ、別にいいじゃないの~」
アーロン 「はあ、そんなんじゃない。アリアは、言うなれば俺の上司だ」
アリア 「む……」
ソフィー 「そうです! アーロンさんは、私の恋人なんですよ!」
アーロン 「ソフィー?」
フィリップ 「ほほう、青年、両手に華で羨ましいね」
アーロン 「……俺の酒が減ってる。ソフィー、飲んだのか?」
ソフィー 「ちょっとだけですよー」
フィリップ 「うんうん、若いっていいね!」
(SE フィリップが席に着く音)
アリア 「同席を許した覚えはないが?」
フィリップ 「まあまあ、いいじゃないの。俺にも美女と飲ませてくれよ」
ソフィー 「美女だなんて~。私にはアーロンさんがいるんですよ~?」
アリア 「はは、まさか一口でそこまで酔うとはね」
アーロン 「アリア、そんな顔もできたんだな。さすがに酒が回ってきたか?」
アリア 「う、うるさいな……」
フィリップ 「うん、いちゃいちゃを肴に飲む酒はうまいね」
アーロン 「いちゃいちゃて……」
フィリップ 「違うの?」
ソフィー 「もう、アーロンさん、私のこともちゃんと見てください!」
フィリップ 「ソフィーちゃん、だっけ? そんなローブ着て、暑くないの?」
ソフィー 「ちょっと、熱くなってきちゃいました……」
アーロン 「なんか、意味が違わないか?」
アリア 「彼女は、顔に傷を負っていてね。察してあげて欲しい」
フィリップ 「おっと、それは失礼」
アーロン 「……で、おっさんはどうして、俺たちの席まで来たんだ?」
フィリップ 「え、そりゃ、あたしだって美女と飲みたいわよ」
アリア 「…………」
フィリップ 「いや、そんな蔑んだ目で見られると、俺興奮しちゃうよ」
アリア 「なっ」
アーロン 「おっさん、あんまりアリアをからかわないでくれ」
フィリップ 「ごめんごめん」
アリア 「こほん、それで、キミはどうしてここに?」
フィリップ 「いやあ、あの可愛い女性店員にキミたちのことを教えてもらってね。若干、青年の情報が多かったけど」
アリア 「シルヴィアか」
フィリップ 「まあその娘に、キミたちが湖のグリフォンを討伐する依頼を受けたって聞いてね。おじさんも同行させてもらおうかと思って」
アリア 「確か、グリフォンがキミのカイザーアードラに傷を負わせたんだったね」
フィリップ 「そゆこと。どうかな?」
アーロン 「……まあ、いいんじゃねーの」
フィリップ 「よっしゃ、じゃあ決まりだな。おっさんも飲も」
ソフィー 「……きゅー」
アーロン 「まったく、たった一口でダウンかよ」
アリア 「とりあえず、グリフォンの件はまた次回話そうか」
ソフィー 「ふへへ……」
つづく
アーロン・ストライフ:ひょんなことからアリアの助手をすることになった青年。21歳。
ソフィー:皇女を模したホムンクルスだと思われる少女。18歳くらい。
フィリップ・ベルナルド:鳥使いの弓の名手。ヴァンという名前の怪鳥が相棒。32歳。
ルーナ:アルトリウスの護衛をしている女性。20歳。
アルトリウス:次期皇帝候補の第4皇子。18歳。
シルヴィア:魔法使いの店の常連。普段は酒場で働いている少女。17歳。
バジリスクの一件から翌日。帝都では、バジリスク討伐、行方不明となっていた人々の救出に成功した魔法使い一行の話題で持ちきりとなっていた。しかし、アーロンが貴族と揉めているということもあり、依然魔法使いの店は閑古鳥が鳴いていた。
そして、帝都の話題の中心である魔法使いの店では、アーロンが昼食を作っていた。
(SE 部屋の扉の開閉音)
アリア 「お、おはよう……」
アーロン 「おう、もう昼だぞ」
アリア 「わかっている」
アーロン 「じゃあ、飯でも食うか?」
アリア 「…………」
アーロン 「アリア?」
アリア 「……昨夜は、変なことを言ってすまなかった」
アーロン 「……いいや、俺も頭に血が上り過ぎてた」
アリア 「そんなことはない。自分の父親と友人が殺されたんだ、平常心でいる方が難しいよ。それを私は……」
アーロン 「親父とジョンを殺したのは許せねえ。……だけど、俺が、俺たちがやらなくちゃいけないのは、アルトリウスを皇帝にして、この国を変えることだ」
アリア 「ああ、貴族だからと言って、あのような横暴は許されない」
アーロン 「そうだ、親父とジョンみたいな人をこれ以上増やしちゃいけない」
アリア 「アーロン……」
アーロン 「……そういえば、ソフィーはまだ起きてこないのか」
(SE 部屋の扉の開閉音)
ソフィー 「おはようございまーす」
アリア 「ふふ、今日は、ずいぶんとゆっくりじゃないか」
ソフィー 「アリアさんには言われたくないですー」
アリア 「そういうことは、寝癖を直してから言うんだな」
ソフィー 「……!」
アーロン 「おう、寝癖直したら飯にするぞ」
ソフィー 「はーい」
アリア 「今日は、シチューかい?」
アーロン 「好きだろ、シチュー」
アリア 「ああ、好きだよ」
ソフィー 「…………」
アリア 「ふむ、良い匂いだ」
アーロン 「だろ、今日のは、かなり自信作なんだ」
アリア 「それは楽しみだ」
ソフィー 「……寝癖直してきましたよ」
アーロン 「ああ、ばっちり直ってるな」
アリア 「それでは、頂こうか」
ソフィー 「いただきます」
アーロン 「おう」
アリア 「ふむ、美味しいよ」
アーロン 「お、珍しいな、アリアが感想を言うなんて」
アリア 「な、なんだい、私だって、素直に感想を言うさ」
ソフィー 「…………」
アーロン 「ソフィー、なにをそんなにそわそわしてるんだよ」
アリア 「先ほどから少し、鬱陶しい気がするね」
ソフィー 「え、ああ、いや、その……」
アリア 「なんだか煮え切らないね」
ソフィー 「それは、だって、その、アリアさんと、アーロンさん……」
アーロン 「なんだよ」
ソフィー 「え、ええ、えっち、なこと、したんですよね?」
アリア 「ぶふっ!!」
アーロン 「……はあ」
ソフィー 「うわ、汚いですよ、アリアさん!」
アーロン 「これまた珍しいな。アリアがシチューを吹き出すなんて」
アリア 「こほん、失礼」
ソフィー 「それで、どうなんですか?」
アリア 「……ふむ、確かに昨夜は、好きにしていい、と言ったけれど、さすがに激しくし過ぎだ、アーロン」
ソフィー 「ほらー! やっぱり!」
アーロン 「してねーよ」
ソフィー 「なーんだ、アリアさんの嘘か」
アリア 「キミ、なぜ私が嘘をついたと思うんだい?」
ソフィー 「だって、アーロンさんの方が余裕ある感じでしたもん」
アリア 「ぐぬぬ……」
アーロン 「まあそれはそれとして、今日はどうすんだよ」
アリア 「……依頼を斡旋してくれていたジョンを亡くしてしまったからね」
アーロン 「酒場の方で依頼を受けるか」
アリア 「しばらくは、そうした方がいいだろうね」
アーロン 「じゃあ、これから酒場の方に行ってみるか」
アリア 「ああ、悪いけど、今日は私は調合をしたいから、ここにいるよ」
アーロン 「だったら俺一人で行くか」
アリア 「頼んだよ」
アーロン 「おう。あ、ソフィーはどうする?」
ソフィー 「え、私ですか?」
アーロン 「一緒に来るか?」
ソフィー 「酒場に?! お酒飲ませてくれるんですか?!」
アーロン 「それはダメだ」
ソフィー 「けちー」
アリア 「飲むなら、私も行こうかな」
アーロン 「おい、調合はどうした?」
アリア 「うぐ、夕方までには終わらせる」
アーロン 「……それじゃあ、夜、飲みに行くか」
アリア 「私から言っておいてなんだけど、いいのかい?」
アーロン 「ああ、俺も飲みたい気分だからな」
ソフィー 「私もお供します!」
アーロン 「いいけど、そんな楽しいもんでもないし、ソフィーには飲ませないからな」
ソフィー 「はーい」
アリア 「そうだ、依頼を受けるついでにソフィーに街を見せてきたらどうだい?」
アーロン 「ああ、そうだな。ソフィーもなにか思い出すかもしれないし。ソフィーは、それで大丈夫か?」
ソフィー 「はい、大丈夫ですよ」
アリア 「夕方くらいになったら、そっちに向かうよ」
アーロン 「おう、じゃあ、いつもの場所で合流しようぜ」
アリア 「わかったよ」
ソフィー 「ということは、夕方までアーロンさんとデートですね」
アーロン 「そういうことになるな。デートってのとはちょっと違うけど」
アリア 「そうだ、デートじゃない。これは、極めて純粋な医療行為だ。勘違いするな」
アーロン 「アリア?」
ソフィー 「にひひ、アリアさん、楽しんできますね」
アリア 「やはり、私も同伴しよう」
アーロン 「はあ、傷薬とか店に出す薬が足りないんだから、しっかり仕事をしてくれ」
アリア 「む、仕方ない」
アーロン 「よし、じゃあ飯食ったら出かけるか」
ソフィー 「はーい!」
◇
帝都、酒場。
アーロン 「ここが行きつけの酒場だ。この掲示板から、依頼を受けるんだ」
ソフィー 「なるほど~」
シルヴィア 「あ、アーロンさんじゃないですか」
アーロン 「おう、シルヴィアか」
ソフィー 「私もいますよー」
シルヴィア 「えっと、確か、ソフィーさん?」
ソフィー 「ですです、ソフィーです」
シルヴィア 「お二人とも、どうしたんですか?」
アーロン 「ちょっと、依頼を受けにきた」
シルヴィア 「珍しいですね、アーロンさんがここに来て依頼を受けるなんて」
アーロン 「ああ、まあ、ちょっとな」
シルヴィア 「あ、もしかして、昨日のこと……」
アーロン 「そういえば、ここの依頼、少なくなってないか?」
シルヴィア 「……私もマスターから聞いただけですけど、討伐依頼を専門に受けている人が新しく来たみたいで、その関係で減ってるんですよ」
アーロン 「傭兵かなんかが帝都に立ち寄ってるんだろうな」
シルヴィア 「そうかもしれないですね。魔物の動きも活発ですからね」
ソフィー 「……あ、アーロンさん、この依頼、どうですか?」
アーロン 「なになに、湖の近くにいる魔物の討伐依頼か。残ってたんだな」
シルヴィア 「ああ、確かそれ、グリフォンの討伐だったはずです」
アーロン 「グリフォンか」
シルヴィア 「はい、なんでも、以前その湖のあたりで違うグリフォンが倒されたみたいで、仲間のグリフォンが何頭か飛来したっていう噂ですよ」
アーロン 「なるほど。そりゃ、俺たちがやらなくちゃいけないな」
ソフィー 「え、どうしてです?」
アーロン 「いや、そのグリフォンを倒したのは、俺たちなんだ」
シルヴィア 「グリフォンを倒したんですか!? 凄いです!」
アーロン 「まあ、アリアも一緒だったしな」
アルトリウス 「いやいや、ボクはそれに助けられましたからね。見事なものですよ」
アーロン 「アルトリウスじゃないか」
アルトリウス 「お久しぶりです」
シルヴィア 「って、殿下!?」
アルトリウス 「……アーロンさん、ご活躍聞き及んでいます」
アーロン 「ってことは、あのことも聞いてるな。悪かった、危うく問題を起こして、約束を果たせなくなるところだった」
アルトリウス 「いえ、貴方が謝ることではありません。あのような暴虐を赦しているこの国に責があります」
アーロン 「そう言ってもらえるなら、少し気が楽になる」
アルトリウス 「しかし、バジリスクを倒して、人々を救ったというのは、非常に大きな功績です。これならば推薦人として、申し分ないでしょう」
アーロン 「本当か?」
アルトリウス 「ええ。時機を見て、正式に発表いたします」
シルヴィア 「え、アーロンさんが、殿下の推薦人?!」
アーロン 「おいおい、シルヴィア、さっきから驚いてばっかりだな」
シルヴィア 「当然です! だって、殿下の推薦人ですよ!?」
アルトリウス 「……それと、先ほどから気になっていたのですが、そちらの方は?」
アーロン 「ああ、こいつは……」
ソフィー 「ソフィーです。傷があるゆえ、顔を見せない無礼をお許しください」
アルトリウス 「……ソフィーさん、ですか」
ソフィー 「なにか……?」
アルトリウス 「ああいえ、知り合いと声が似ていたものですから」
ソフィー 「そうなんですか?」
アーロン 「……」
(SE 店の扉が開く音)
シルヴィア 「いらっしゃいませ。……あ」
ルーナ 「アルトリウス殿下、ここにおられたのですね」
アルトリウス 「ルーナさんですか。よくここがおわかりになりましたね」
ルーナ 「あいにく、ここの店主には世話になっておりまして、話を聞こうと思った矢先に殿下がおられましたので。……この方たちは?」
アルトリウス 「友人であり、ボクの推薦人になる予定のアーロンさんとソフィーさんです」
アーロン 「どうも」
ソフィー 「ソフィーです」
ルーナ 「ルーナと申します。現在は、殿下の護衛をしております」
アルトリウス 「それと、ここにはいませんが、もう一人、アリアという魔法使いも推薦人となる予定です」
ルーナ 「アリア? もしや、アリア・メイザースですか?」
アルトリウス 「確か、姓はエインズワースだったはずですが、知っているのですか?」
ルーナ 「エインズワース……。ああ、いえ。なんでもありません」
アーロン 「……あんた、騎士じゃないな。それに、よほどの実力者に見える」
ルーナ 「それは、どうでしょう」
アーロン 「あんたの立ち居振る舞いから、騎士じゃないことはわかる。坊っちゃん騎士どもにはわからねえだろうけど」
ルーナ 「……確かに、貴方はどの騎士よりも骨がありそうですね」
アーロン 「団長閣下よりも?」
ルーナ 「それはどうでしょう」
アルトリウス 「ふふ、やはり武人同士、気が合うのでしょうか」
ルーナ 「これは、失礼しました。恐らくこの方は、本質が私と同じなのでしょう。一度、手合わせしたいものです」
アーロン 「お、そりゃいいな」
アルトリウス 「さすが、アーロンさんですね。ルーナさんは、付き人としてボクに仕えていただいているんです。彼女は、アーロンさんを退屈させませんよ」
アーロン 「なるほど」
ルーナ 「……殿下、そろそろお時間です」
アルトリウス 「わかりました。それでは、私はこれで。……紅茶、美味しかったです、と店主にお伝えください」
シルヴィア 「あ、ありがとうございます!」
(SE 店の扉の開閉音)
シルヴィア 「……ふ、ふう」
ソフィー 「シルヴィアちゃん、どうかしたの?」
シルヴィア 「え、ああ、いえ。ただ、あのルーナって人、少し怖いなって思いまして」
アーロン 「ああ、あれは人を簡単に殺せる者の目だ」
シルヴィア 「それじゃあ、殿下は大丈夫なんでしょうか?」
アーロン 「どうだろうな。だけど、ああいう手合いは殺せるなら殺すからな。今無事なら多分大丈夫だ」
シルヴィア 「……気を付けてくださいね」
アーロン 「おう。それじゃ、俺たちも出るわ。邪魔したな」
シルヴィア 「あ、いえ、邪魔なんて! また来てくださいね!」
アーロン 「夜にまた来る」
シルヴィア 「わかりました。お待ちしてますね」
アーロン 「おう」
(SE 店の扉の開閉音)
◇
帝都、大通り。
アーロン 「ソフィー、ここが帝都で一番賑わっている場所だ」
ソフィー 「ここが……」
アーロン 「あそこの道を行くと、噴水のある中央広場に出る」
ソフィー 「広場……。それじゃあ、そこを目指しながら、少し回りませんか?」
アーロン 「おう。……あ、これ二つ。……ほい、お代」
(SE お金を支払う音)
アーロン 「ほら、これ食うだろ?」
ソフィー 「串焼き、ですか?」
アーロン 「ああ、食べたいかなーって思って」
ソフィー 「あむ、……美味しいです!」
アーロン 「そりゃよかった」
ソフィー 「どうして、私の食べたいものがわかったんですか?」
アーロン 「いや、わかるだろ。ソフィー、よだれ出てたぞ」
ソフィー 「え!? 言ってくださいよ!」
アーロン 「悪い、ウソだ。だけど、見てたよな、あの店」
ソフィー 「バレてました? ローブ着てるのに」
アーロン 「なんとなく、な」
ソフィー 「えっち」
アーロン 「なんでそうなる」
ソフィー 「だって、私のこと見てたんですよね? 舐め回すように」
アーロン 「見てねーよ」
ソフィー 「……やっぱり、アーロンさん、こういうの、慣れてますよね」
アーロン 「ああ? 別にそんなことねーよ」
ソフィー 「からかおうと思っても、なんか調子を狂わせられるというか……」
アーロン 「そりゃ、年下にからかわれるなんてバカげてるからな。それにからかうんなら、俺よりアリアの方がいいだろ」
ソフィー 「それはそうかもしれませんけど、私としては、アーロンさんの狼狽える姿を見てみたいと思って」
アーロン 「ソフィーじゃまだまだ色気が足りない。最低でもアリアくらいの胸でもあれば、少しは狼狽えるかもな」
ソフィー 「……! アーロンさん! 私だってあるにはあるんですよ!」
アーロン 「悪い悪い」
ソフィー 「もう!」
アーロン 「ほら、ここが広場だ」
ソフィー 「わあ、綺麗なところですね」
アーロン 「まあ、帝都の名所のひとつだからな」
ソフィー 「やっぱり慣れてますね! このこの~!」
アーロン 「ソフィー、今日はやけにテンション高いな。少し空回りしてるぞ」
ソフィー 「……すみません、ウザかったですか?」
アーロン 「ウザいとかそういうんじゃなくて、俺が聞きたいのは、なんで無理してるんだってこと」
ソフィー 「え、そんな、無理だなんて……」
アーロン 「ソフィーのことだ、変な気を回してるんだろ?」
ソフィー 「……アーロンさんには、隠し事できませんね。すみません、私、アーロンさんに元気になってもらいたくて……」
アーロン 「別に、謝ることじゃねえよ。気分転換にはなったしな」
ソフィー 「アーロンさん……!」
アーロン 「それより、ソフィー、記憶はどうだ? 街を見て回ったけど、なにか思い出せそうか?」
ソフィー 「え、えーと……、実はアルトリウス殿下にお会いしたときに、なにかを感じたんですよね」
アーロン 「……やっぱりか」
ソフィー 「え、やっぱりって……?」
アーロン 「あ、ああ、アルトリウスも、ソフィーが知り合いに似てたって言ってたし、なにか関係があるのかもな」
ソフィー 「……殿下に、詳しくお聞きしていればよかったんですけど」
アーロン 「まあ、あのルーナとかいう女剣士が入ってきたからな。今度聞いてみるのもいいかもな」
ソフィー 「……アーロンさんは、なにか知っていたりしますか?」
アーロン 「……まあ、ソフィーが皇族関係者じゃないか、ってことくらいだな」
ソフィー 「アリアさんだったら、知っていますか?」
アーロン 「どうだろうな。あいつも、元はあのでっかい城で魔法を研究してたらしいしな」
ソフィー 「私も、あのお城で働いていたんでしょうか?」
アーロン 「まあ、ソフィーって、育ち良さそうだからな。所作が綺麗っていうか」
ソフィー 「そ、そんなことないですよ」
アーロン 「謙遜すんなって。……あ、そろそろ日暮れか」
ソフィー 「そうみたい、ですね」
アーロン 「それじゃあ、あの店に戻ってアリアと合流するか」
◇
魔法使いの店。
アリア 「よし、これで終わり、と」
アリア 「……ふむ、ちょうどいい時間だ。街に向かうとするか」
(SE 店の扉の開閉音)
フィリップ 「魔法使いの店ってのは、ここかい?」
アリア 「そうだけど、……キミは?」
フィリップ 「俺は、フィリップ・ベルナルド。各地を旅して回ってるんだが、相棒が怪我をしちゃって、ここに来てみたってわけだ」
アリア 「アリア・エインズワース、魔法使いだ。その、相棒というのは?」
フィリップ 「この先の川辺で休んでる。カイザーアードラにも効く薬はあるか?」
アリア 「カイザーアードラ? 怪鳥と呼ばれる獰猛な鷲のことかい?」
フィリップ 「そう。俺はそいつに乗って旅してるんだ」
アリア 「ふむ、わかった。少し待っていてもらえるかな?」
フィリップ 「おう」
(SE 店の扉の開閉音)
(SE 店の扉の開閉音)
アリア 「待たせたね」
フィリップ 「いいや、それほど待ってないよ」
アリア 「では、相棒のもとに案内してくれるかな」
フィリップ 「こっちだ」
◇
川辺。
アリア 「……これは、思っていたよりも、ひどい怪我だ」
フィリップ 「グリフォンにやられたんだ。治せるか?」
アリア 「もちろんだ」
フィリップ 「そりゃ頼もしい。……よかったな、綺麗なお姉ちゃんに治療してもらえるんだぞ? 羨ましいぞ、ヴァン」
ヴァン 「キュウウン」
アリア 「では、薬を塗ろう」
(SE 傷が治る音)
ヴァン 「キイイイイッ!」
フィリップ 「本当に一瞬で治るんだな」
アリア 「当然だ。彼はもう飛べるはずだよ」
フィリップ 「魔法使いには何人か会ったことがあるけど、アリアちゃん程の実力を持ってる魔法使いは初めてだよ」
アリア 「それはそれは、幸運だったね」
フィリップ 「……幸運ついでに、お代、まけてくれないかな?」
アリア 「そうだね、まけてやらないこともない」
フィリップ 「お、そりゃいい」
アリア 「ただし、条件がある。私を帝都まで送ってくれないか?」
フィリップ 「お安い御用だよ。ヴァン、行けるか?」
ヴァン 「キイイイイ!」
フィリップ 「さあ、乗っていいよ」
アリア 「やはり、図鑑の記述よりも大きくないかい?」
フィリップ 「ああ、ヴァンはちょっと特別でな。ほら早く乗って」
アリア 「では、失礼するよ」
◇
帝都、酒場。
アーロン 「アリア、遅いな」
ソフィー 「そうですねー。……あ」
アリア 「すまない、遅くなったね」
アーロン 「おう、なんかあったのか?」
アリア 「ああ、少しね」
アーロン 「まあいいや、入ろうぜ」
(SE 店の扉の開閉音)
シルヴィア 「いらっしゃいませー! あ、アーロンさん」
アーロン 「よ、来たぞ」
アリア 「今日は終わりまでかい?」
シルヴィア 「お母さんの容態が少し安定してるので……」
アリア 「そうか。それならよかった」
シルヴィア 「あ、席、こちらどうぞー」
(SE 席に着く音)
アーロン 「それじゃ、蒸留酒2つと、オレンジジュース1つ」
ソフィー 「ぶー、私もお酒がいいです!」
アーロン 「我慢しろ」
ソフィー 「ちぇー」
シルヴィア 「ふふ、はい、じゃあ、エール2つとオレンジジュースですね」
アーロン 「あ、そうだ、さっきアルトリウスに会ったぞ」
アリア 「おや、城の方まで行ったのかい?」
ソフィー 「いえいえ、ここに来ていたんですよ」
アーロン 「ああ、それに、俺らはもう推薦人として認められてるってよ」
アリア 「バジリスクの件が伝わっていたのか」
アーロン 「みたいだ」
アリア 「少々急すぎる気もするけれど……」
ソフィー 「あ、そういえば、アリアさんのことを知っている人にも会いましたよ」
アリア 「私を知っている人?」
アーロン 「ああ、確か、ルーナとか言ってたっけ」
アリア 「ルーナ……? 聞いたことのない名前だ」
アーロン 「じゃあ、ルーナが一方的に知ってるだけか」
ソフィー 「アリアさんなら不思議じゃないですよね」
アーロン 「……だけど、ルーナのやつ、アリアの姓を間違えてたな」
アリア 「……なんと?」
アーロン 「確か、メイザース、だったか」
アリア 「……。おかしなことを言う人だね。私は、アリア・エインズワースだ」
シルヴィア 「お待たせしましたー」
アーロン 「ちょうどいいところに来たな」
アリア 「…………」
アーロン 「さて、飲むか」
アリア 「そうだね」
アーロン 「……献杯」
アリア 「……うん」
ソフィー 「……けんぱい」
アーロン 「別に付き合わなくてもいいぞ、ソフィー」
アーロンは、父親とジョンのことを語った。
◇
しばらくして。
シルヴィア 「お待たせしましたー。葡萄酒2つです」
アリア 「まさかキミも葡萄酒を頼むなんてね」
アーロン 「たまにはな」
ソフィー 「葡萄酒、なんだかジュースみたいですね」
アーロン 「飲むなよ?」
ソフィー 「はいはい、飲みませんよー」
アーロン 「……お、案外いけるな」
アリア 「ふふ、だろ?」
フィリップ 「およ、アリアちゃんもここで飲んでたんだ」
ソフィー (なんか知らないおじさんが話しかけてきた。……今ならちょっとだけお酒を飲んでも……)
アリア 「……キミは」
アーロン 「なんだよ、知り合いか?」
アリア 「ああ、先ほど店を訪ねてきた旅する鳥使いだ」
ソフィー (なるほど、お客さんか。……なんだ、ちょっと苦いけど、ただのジュースじゃん)
ソフィー 「……ふひ」
アーロン 「鳥使い? このおっさんが?」
フィリップ 「フィリップ・ベルナルドだ」
アーロン 「アーロン・ストライフ。アーロンでいい」
フィリップ 「単刀直入に聞くけど、青年はアリアちゃんの恋人だったりするの?」
アーロン 「急になんだよ」
フィリップ 「まあまあ、別にいいじゃないの~」
アーロン 「はあ、そんなんじゃない。アリアは、言うなれば俺の上司だ」
アリア 「む……」
ソフィー 「そうです! アーロンさんは、私の恋人なんですよ!」
アーロン 「ソフィー?」
フィリップ 「ほほう、青年、両手に華で羨ましいね」
アーロン 「……俺の酒が減ってる。ソフィー、飲んだのか?」
ソフィー 「ちょっとだけですよー」
フィリップ 「うんうん、若いっていいね!」
(SE フィリップが席に着く音)
アリア 「同席を許した覚えはないが?」
フィリップ 「まあまあ、いいじゃないの。俺にも美女と飲ませてくれよ」
ソフィー 「美女だなんて~。私にはアーロンさんがいるんですよ~?」
アリア 「はは、まさか一口でそこまで酔うとはね」
アーロン 「アリア、そんな顔もできたんだな。さすがに酒が回ってきたか?」
アリア 「う、うるさいな……」
フィリップ 「うん、いちゃいちゃを肴に飲む酒はうまいね」
アーロン 「いちゃいちゃて……」
フィリップ 「違うの?」
ソフィー 「もう、アーロンさん、私のこともちゃんと見てください!」
フィリップ 「ソフィーちゃん、だっけ? そんなローブ着て、暑くないの?」
ソフィー 「ちょっと、熱くなってきちゃいました……」
アーロン 「なんか、意味が違わないか?」
アリア 「彼女は、顔に傷を負っていてね。察してあげて欲しい」
フィリップ 「おっと、それは失礼」
アーロン 「……で、おっさんはどうして、俺たちの席まで来たんだ?」
フィリップ 「え、そりゃ、あたしだって美女と飲みたいわよ」
アリア 「…………」
フィリップ 「いや、そんな蔑んだ目で見られると、俺興奮しちゃうよ」
アリア 「なっ」
アーロン 「おっさん、あんまりアリアをからかわないでくれ」
フィリップ 「ごめんごめん」
アリア 「こほん、それで、キミはどうしてここに?」
フィリップ 「いやあ、あの可愛い女性店員にキミたちのことを教えてもらってね。若干、青年の情報が多かったけど」
アリア 「シルヴィアか」
フィリップ 「まあその娘に、キミたちが湖のグリフォンを討伐する依頼を受けたって聞いてね。おじさんも同行させてもらおうかと思って」
アリア 「確か、グリフォンがキミのカイザーアードラに傷を負わせたんだったね」
フィリップ 「そゆこと。どうかな?」
アーロン 「……まあ、いいんじゃねーの」
フィリップ 「よっしゃ、じゃあ決まりだな。おっさんも飲も」
ソフィー 「……きゅー」
アーロン 「まったく、たった一口でダウンかよ」
アリア 「とりあえず、グリフォンの件はまた次回話そうか」
ソフィー 「ふへへ……」
つづく
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