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Ⅰ 魔法使いのお仕事
第4.5話 ある日の魔女のアリア
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アリア・エインズワース:帝都のはずれにある森で店を構えている魔女。21歳。
アーロン・ストライフ:ひょんなことからアリアの助手になった青年。21歳。
ソフィー:記憶をなくした少女。18歳くらい。
ソフィーが魔法使いの店に来て、初めての朝が来た。
(SE 扉を開ける音)
アリア 「……おはよう、良い朝だね」
アーロン 「おい、もう昼だぞ」
ソフィー 「おそようってやつですね」
アリア 「なんだい、それは」
アーロン 「ああ、そうだ、アリアから貰ったあのナイフ、昨日使っちまった。補充できないか?」
アリア 「……貴重な鉱石から作っているんだけどね」
アーロン 「作れないのか?」
アリア 「今すぐには無理だね。それに、ナイフを渡したときに言ったよね、これは貴重なもので量産ができない、とね」
アーロン 「いや、便利な道具だったから、つい」
ソフィー 「そういえば、あのナイフ、凄い威力でしたよね」
アリア 「あれは、狙ったものにまっすぐ向かって飛んでいき、そのまま魔力を分解するという代物でね」
アーロン 「そんな凄いもんだったのかよ」
アリア 「それも、渡したときに言ったつもりだったんだけどね」
アーロン 「そうだったか?」
アリア 「はあ、それより、朝食、いや、昼食はまだかな?」
アーロン 「おう、ちょうど作ろうと思ってたんだ」
ソフィー 「私も手伝います」
アーロン 「ありがとな、どっかの魔法使いと違って、ソフィーは良い子だな」
アリア 「なぜそこで私を引き合いに出すんだい?」
アーロン 「さて、どうしてだろうなあ?」
◇
昼食後、アリアは部屋に籠り調合に勤しんでいた。
アリア 「……ここで、この材料を入れて……。よし」
アリア(M) それにしても、ホムンクルスである彼女が治癒術を発動できたというのは、どういうことだろう。仮に使えたとしても、治癒術のような高度な魔法はホムンクルスの身体が耐えられるはずがない。それなのに平然としている。彼女はいったいなんなんだ?
アリア 「……あ、しまった」
(SE 爆発音)
アリア 「失敗か……、ケホッケホッ」
アリア 「……とりあえず、換気を」
(SE 窓を開ける音)
アリア 「私としたことが考え事に気を取られて調合を失敗するなんてね」
アリア(M) ホムンクルス、人体を模倣して作られた人形にも関わらず、生命として機能してしまう存在。生命は魔力の構成が複雑だ。故に、ホムンクルスは錬金術の中でも特別難しい部類に入る。そのはずが、条件さえ揃えれば、錬金術を齧った程度の魔法使いでも作れるようになってしまった。
アーロン 「(部屋の外から)おい、アリア、大丈夫か?」
アリア 「心配ないよ」
アリア(M) 最初は、世紀の大発明だと思った。これならば、誰でもホムンクルスを作れるようになる、と。だが、そうはならなかった。技術は秘匿され、帝国の一部の魔法使いが独占することとなった。
(SE 部屋の扉の開閉音)
アリア 「……私は、どうしようもない馬鹿だ」
アーロン 「……あんたが自分を卑下するなんて珍しいな。体調でも悪いのか?」
アリア 「アーロン!?」
アーロン 「あ、ノックはしたからな」
アリア 「聞こえていなかったよ」
アーロン 「そりゃ悪かった。……それで、どうしたんだよ」
アリア 「なんでもないよ」
アーロン 「そうかよ。……って、部屋の中ぐちゃぐちゃじゃねえか」
(SE 本のススを払う音)
アリア 「アーロン、そこは私が片づける」
アーロン 「あ? って、『帝国魔法研究』? この本、皇帝の承諾印が押されてるじゃねえか。アリア、もしかして帝国関係者だったのか」
アリア 「……元、だけどね」
アーロン 「なるほど、それであの騎士団長とも面識があったわけだ」
アリア 「……」
アーロン 「アリア?」
アリア 「ああいや、なんでもない」
アーロン 「今日はそればっかりだな。本当にどこか体調が悪いんじゃねえの?」
アリア(M) アーロンはそう言って、その手の平を私の額に押し当てた。ただそれだけの行動なのに、私の時間を止めてしまう魔力を持っていた。……アーロンをこんな真正面から見たことはなかったが、やはり顔は整っているな。真剣な表情をしている……。アーロンは、私を心配してくれているのか。
アーロン 「……熱はないみたいだな」
アリア 「ふふ、なんだい、私を心配してくれているのかい?」
アーロン 「そりゃな、一緒に暮らしてるんだ、心配くらいするだろ」
アリア 「……それはどうも」
アーロン 「おう。んで、体調が悪いんじゃないんだったら、どうしたんだよ」
アリア 「少し、考え事をしていてね」
アーロン 「考え事、ね。ソフィーのことか?」
アリア 「彼女、というより、ホムンクルスのことかな」
アーロン 「そういえば、アリア、ホムンクルスについて詳しかったよな」
アリア 「私は以前、ホムンクルスについて研究していたからね」
アーロン 「なるほどな」
アリア 「私は、彼女とどう接すればいいのか、わからないんだ」
アーロン 「どういうことだよ」
アリア 「……っ」
アーロン 「アリア、俺はあんたの助手だ。できることなら、力になる」
アリア 「……少し、昔の話をしてもいいかな」
アーロン 「ああ、聞いてやる」
アリア 「…………私は、幼少の頃から魔法の研究をしていたんだ。特に錬金術に興味を持ってね、毎日調合に明け暮れていた」
アーロン 「それは、今もあんまり変わらないな」
アリア 「……そうだね。そんな幼い私は、魔法使いの女性と出会ったんだ。彼女は、助手と二人で旅をしていてね、二人は気の置けない仲間といった感じだった」
アリア 「それまで、ずっと一人で研究してきた私には眩しかった。私も、一緒に研究をする人が欲しかったんだ」
アーロン 「…………」
アリア 「だから、私はホムンクルスを作ったんだ。最初はうまくいかなくてね、ただの人形にしかならなかった。だが、次第に人形が自我を持ち始め、私の研究を手伝えるほどになってきた」
アリア 「これで、研究仲間ができた、と思っていた」
アーロン 「思っていた……」
アリア 「ホムンクルスには、魔法の研究はできなかったんだ」
アーロン 「それ、どういうことだ?」
アリア 「ホムンクルスは、身体のほとんどを魔力で繋ぎとめているんだ。そんなホムンクルスが魔法を行使したら、身体を繋ぎとめている魔力が解け、消滅する」
アリア 「私は、それを知らずに魔法を強要したんだ。ホムンクルスからしたら、自分を作り上げた親のような存在に、命令されたんだ。そのホムンクルスは、従順にも魔法を行使した」
アーロン 「そんなことが……」
アリア 「……と、少し話し過ぎたね」
アーロン 「いいや、話してくれて、ありがとな。……だけど、ホムンクルスが魔法を使えないって言うんなら、どうしてソフィーは治癒術を使えたんだ?」
アリア 「……それは、わからない。帝国が新しく開発したのかもしれない」
アーロン 「そういえば、帝国はホムンクルスを簡単に製造できるようにしたんだっけ?」
アリア 「……ああ、そうだ」
アーロン 「じゃあ、帝国が新しく開発したっていうのも、間違いじゃなさそうだな」
アリア 「……まあ、すまなかったね、色々と。ほら、これをやろう」
アーロン 「これ、あのナイフか」
アリア 「ああ、予備のものだけど、効果は変わらない」
アーロン 「ありがとよ、今度は大事に使うわ」
アリア 「そうしてくれ。その間に新しいナイフを作っておくよ」
アーロン 「頼んだぜ、相棒」
アリア 「……! な、何を言ってるんだ、馴れ馴れしい。私はこの店の店主で、キミは私の助手だ」
アーロン 「そうだったな。じゃあ、俺は店番でもしてるわ」
アリア 「シルヴィアが来たら教えてくれ」
アーロン 「はいよ」
(SE 部屋の扉の開閉音)
アリア 「……馬鹿だったね、昔の私は」
アリア(M) それにしても、帝国が未だにお人形遊びにご執心とはね。反吐が出そうだ。ホムンクルスは、私が必ず……。
アリアは、秘めた思いを胸に、調合を続けたのだった。
つづく
アーロン・ストライフ:ひょんなことからアリアの助手になった青年。21歳。
ソフィー:記憶をなくした少女。18歳くらい。
ソフィーが魔法使いの店に来て、初めての朝が来た。
(SE 扉を開ける音)
アリア 「……おはよう、良い朝だね」
アーロン 「おい、もう昼だぞ」
ソフィー 「おそようってやつですね」
アリア 「なんだい、それは」
アーロン 「ああ、そうだ、アリアから貰ったあのナイフ、昨日使っちまった。補充できないか?」
アリア 「……貴重な鉱石から作っているんだけどね」
アーロン 「作れないのか?」
アリア 「今すぐには無理だね。それに、ナイフを渡したときに言ったよね、これは貴重なもので量産ができない、とね」
アーロン 「いや、便利な道具だったから、つい」
ソフィー 「そういえば、あのナイフ、凄い威力でしたよね」
アリア 「あれは、狙ったものにまっすぐ向かって飛んでいき、そのまま魔力を分解するという代物でね」
アーロン 「そんな凄いもんだったのかよ」
アリア 「それも、渡したときに言ったつもりだったんだけどね」
アーロン 「そうだったか?」
アリア 「はあ、それより、朝食、いや、昼食はまだかな?」
アーロン 「おう、ちょうど作ろうと思ってたんだ」
ソフィー 「私も手伝います」
アーロン 「ありがとな、どっかの魔法使いと違って、ソフィーは良い子だな」
アリア 「なぜそこで私を引き合いに出すんだい?」
アーロン 「さて、どうしてだろうなあ?」
◇
昼食後、アリアは部屋に籠り調合に勤しんでいた。
アリア 「……ここで、この材料を入れて……。よし」
アリア(M) それにしても、ホムンクルスである彼女が治癒術を発動できたというのは、どういうことだろう。仮に使えたとしても、治癒術のような高度な魔法はホムンクルスの身体が耐えられるはずがない。それなのに平然としている。彼女はいったいなんなんだ?
アリア 「……あ、しまった」
(SE 爆発音)
アリア 「失敗か……、ケホッケホッ」
アリア 「……とりあえず、換気を」
(SE 窓を開ける音)
アリア 「私としたことが考え事に気を取られて調合を失敗するなんてね」
アリア(M) ホムンクルス、人体を模倣して作られた人形にも関わらず、生命として機能してしまう存在。生命は魔力の構成が複雑だ。故に、ホムンクルスは錬金術の中でも特別難しい部類に入る。そのはずが、条件さえ揃えれば、錬金術を齧った程度の魔法使いでも作れるようになってしまった。
アーロン 「(部屋の外から)おい、アリア、大丈夫か?」
アリア 「心配ないよ」
アリア(M) 最初は、世紀の大発明だと思った。これならば、誰でもホムンクルスを作れるようになる、と。だが、そうはならなかった。技術は秘匿され、帝国の一部の魔法使いが独占することとなった。
(SE 部屋の扉の開閉音)
アリア 「……私は、どうしようもない馬鹿だ」
アーロン 「……あんたが自分を卑下するなんて珍しいな。体調でも悪いのか?」
アリア 「アーロン!?」
アーロン 「あ、ノックはしたからな」
アリア 「聞こえていなかったよ」
アーロン 「そりゃ悪かった。……それで、どうしたんだよ」
アリア 「なんでもないよ」
アーロン 「そうかよ。……って、部屋の中ぐちゃぐちゃじゃねえか」
(SE 本のススを払う音)
アリア 「アーロン、そこは私が片づける」
アーロン 「あ? って、『帝国魔法研究』? この本、皇帝の承諾印が押されてるじゃねえか。アリア、もしかして帝国関係者だったのか」
アリア 「……元、だけどね」
アーロン 「なるほど、それであの騎士団長とも面識があったわけだ」
アリア 「……」
アーロン 「アリア?」
アリア 「ああいや、なんでもない」
アーロン 「今日はそればっかりだな。本当にどこか体調が悪いんじゃねえの?」
アリア(M) アーロンはそう言って、その手の平を私の額に押し当てた。ただそれだけの行動なのに、私の時間を止めてしまう魔力を持っていた。……アーロンをこんな真正面から見たことはなかったが、やはり顔は整っているな。真剣な表情をしている……。アーロンは、私を心配してくれているのか。
アーロン 「……熱はないみたいだな」
アリア 「ふふ、なんだい、私を心配してくれているのかい?」
アーロン 「そりゃな、一緒に暮らしてるんだ、心配くらいするだろ」
アリア 「……それはどうも」
アーロン 「おう。んで、体調が悪いんじゃないんだったら、どうしたんだよ」
アリア 「少し、考え事をしていてね」
アーロン 「考え事、ね。ソフィーのことか?」
アリア 「彼女、というより、ホムンクルスのことかな」
アーロン 「そういえば、アリア、ホムンクルスについて詳しかったよな」
アリア 「私は以前、ホムンクルスについて研究していたからね」
アーロン 「なるほどな」
アリア 「私は、彼女とどう接すればいいのか、わからないんだ」
アーロン 「どういうことだよ」
アリア 「……っ」
アーロン 「アリア、俺はあんたの助手だ。できることなら、力になる」
アリア 「……少し、昔の話をしてもいいかな」
アーロン 「ああ、聞いてやる」
アリア 「…………私は、幼少の頃から魔法の研究をしていたんだ。特に錬金術に興味を持ってね、毎日調合に明け暮れていた」
アーロン 「それは、今もあんまり変わらないな」
アリア 「……そうだね。そんな幼い私は、魔法使いの女性と出会ったんだ。彼女は、助手と二人で旅をしていてね、二人は気の置けない仲間といった感じだった」
アリア 「それまで、ずっと一人で研究してきた私には眩しかった。私も、一緒に研究をする人が欲しかったんだ」
アーロン 「…………」
アリア 「だから、私はホムンクルスを作ったんだ。最初はうまくいかなくてね、ただの人形にしかならなかった。だが、次第に人形が自我を持ち始め、私の研究を手伝えるほどになってきた」
アリア 「これで、研究仲間ができた、と思っていた」
アーロン 「思っていた……」
アリア 「ホムンクルスには、魔法の研究はできなかったんだ」
アーロン 「それ、どういうことだ?」
アリア 「ホムンクルスは、身体のほとんどを魔力で繋ぎとめているんだ。そんなホムンクルスが魔法を行使したら、身体を繋ぎとめている魔力が解け、消滅する」
アリア 「私は、それを知らずに魔法を強要したんだ。ホムンクルスからしたら、自分を作り上げた親のような存在に、命令されたんだ。そのホムンクルスは、従順にも魔法を行使した」
アーロン 「そんなことが……」
アリア 「……と、少し話し過ぎたね」
アーロン 「いいや、話してくれて、ありがとな。……だけど、ホムンクルスが魔法を使えないって言うんなら、どうしてソフィーは治癒術を使えたんだ?」
アリア 「……それは、わからない。帝国が新しく開発したのかもしれない」
アーロン 「そういえば、帝国はホムンクルスを簡単に製造できるようにしたんだっけ?」
アリア 「……ああ、そうだ」
アーロン 「じゃあ、帝国が新しく開発したっていうのも、間違いじゃなさそうだな」
アリア 「……まあ、すまなかったね、色々と。ほら、これをやろう」
アーロン 「これ、あのナイフか」
アリア 「ああ、予備のものだけど、効果は変わらない」
アーロン 「ありがとよ、今度は大事に使うわ」
アリア 「そうしてくれ。その間に新しいナイフを作っておくよ」
アーロン 「頼んだぜ、相棒」
アリア 「……! な、何を言ってるんだ、馴れ馴れしい。私はこの店の店主で、キミは私の助手だ」
アーロン 「そうだったな。じゃあ、俺は店番でもしてるわ」
アリア 「シルヴィアが来たら教えてくれ」
アーロン 「はいよ」
(SE 部屋の扉の開閉音)
アリア 「……馬鹿だったね、昔の私は」
アリア(M) それにしても、帝国が未だにお人形遊びにご執心とはね。反吐が出そうだ。ホムンクルスは、私が必ず……。
アリアは、秘めた思いを胸に、調合を続けたのだった。
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