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Ⅰ 魔法使いのお仕事
第2話 初めての依頼
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アリア・エインズワース:帝都の近くにある森で店を開いている魔女。21歳
アーロン・ストライフ:ひょんなことから魔法使いの助手をすることになった青年。21歳
シルヴィア:魔法使いの店に通う女の子。17歳。
ジョン:行商人の男。44歳。
酒場の店主:男
アーロンが魔法使いの店に来て一週間が経った。アーロンは朝食を作っていた。
アリア 「おはよう、良い朝だね」
アーロン 「そうだな、ほら、朝飯できてるぞ」
アリア 「ふむ、これは、昨夜の残りじゃないか」
アーロン 「食材が無駄にならなくていいだろ」
アリア 「キミが来てから食に悩むことはなくなったが、お小言がたまに瑕だね」
アーロン 「あんたがだらしないからだろ。ほら早く食え」
アリア 「ではいただくよ」
アーロン 「それで、今日の予定は?」
アリア 「……特にない。今日は店にいるよ」
アーロン 「そうか、ならよかった。あんたがいないと話し相手がいなくてな。この店、ちゃんと客来るのか?」
アリア 「収入の方は気にするな。一ヶ月に一度、騎士団に薬を届けているからね」
アーロン 「そうじゃねえよ。俺が言いたいのは、普通の客も来るのかってことだよ」
アリア 「……なぜキミがそんなことを気にするんだい?」
アーロン 「店にいても暇なんだよ」
アリア 「それなら、常連のシルヴィアがいるじゃないか」
アーロン 「シルヴィアか、接客は一度きりだな」
アリア 「そうだったかい? 確かに最近見てない気がするね」
アーロン 「ああ、最近は俺が店番してるからな。それでシルヴィアが来なくなったんじゃないか?」
アリア 「……そうか。では、今日は私の採取に付き合ってもらおうか」
アーロン 「採取?」
アリア 「ああ、男のキミにしか頼めないことだ」
アーロン 「俺にしか……?」
アーロン (魔法使いの調合には、男のアレを使うことがあると本で読んだな。つまり、あんなことやこんなことを……)
◇
森の中。
アリア 「ここだ。このあたりは魔物が出るからね、キミのような戦闘の経験がある男がいると心強い」
アーロン 「なんだ、そんなことか」
アリア 「どうしたんだい? そんな残念そうな顔をして」
アーロン 「なんでもねえよ。ほら、採取するんだろ」
アリア 「ああ。……ふむ、やはりここの土壌が良いのか、植物に良いものが多いね」
アーロン 「そんなもんなのか? 俺には違いがわからないけどな」
アリア 「ああ、例えば、これだ。他の場所で採れたものよりも色とつやが違うのがわかるだろう?」
アーロン 「言われてみれば、そうだな」
アリア 「キミもじきにわかるようになるよ」
アーロン 「俺、そういうの苦手なんだよな。こんな風に剣を振ってる方が性に合ってるかもしれないな」
アリア 「……そういえば、私が作った剣はどうかな? 使いやすいかい?」
アーロン 「これ、あんたが作ったのか? 魔法使いってのは鍛冶もできるのか?」
アリア 「薬を調合するのと同じように、剣を調合したのさ」
アーロン 「なんでもできるんだな」
アリア 「魔法使いだからね」
アーロン 「……と、この剣の使い心地だったよな? ……悪くない。重さもちょうどいい」
アリア 「それならよかった」
(SE 草が揺れる音)
アーロン 「なんかいるぞ……!」
魔物 「ぐるるるるっ」
アリア 「狼型の魔物だね。アーロン、それでは頼むよ」
アーロン 「了解!」
(SE 剣を抜く音)
魔物 「ガウッ!!」
アーロン 「よっと!!」
(SE 魔物が消滅する音)
アリア 「やはり、助手を連れてきてよかった」
アーロン 「助手っていうより、用心棒だな」
アリア 「それもいいかもしれないね」
アーロン 「ああ、魔物相手には負けないぜ」
アリア 「頼もしいね。これなら、魔物討伐の依頼もこなせるかもしれないね」
アーロン 「依頼?」
アリア 「繁盛している酒場では、魔物討伐や薬の納品といった人々の悩みを聞いていたりするんだ」
アーロン 「へえ、じゃあ、アリアもその依頼をこなしているんだな」
アリア 「いいや、私がそんなことするわけがないだろう」
アーロン 「は? 依頼をこなしていけば、店の認知度をあげることにも繋がるだろ」
アリア 「私は魔法の研究とお酒があればそれでいい」
アーロン 「だから店に客が来ないんじゃないか?」
アリア 「そうなのか?」
アーロン 「実際俺は、シルヴィアに聞くまで、アリアの店を知らなかった」
アリア 「なるほど」
アーロン 「そういうことだ。もっと依頼をこなしていけばいいだろ。依頼をこなすことが魔法の研究にも繋がるんじゃないか?」
アリア 「ふむ、一理あるね」
アーロン 「よし、これからは依頼を受けるぞ」
アリア 「ああ、頼むよ。アーロン」
アーロン 「おう。……ってあんたもやるんだよ!」
アリア 「私も? なぜだい? そういう面倒くさいことは、助手の仕事だろう?」
アーロン 「依頼にはきっと、アリアの力も必要になってくる。それぐらいいいじゃねえか」
アリア 「……仕方ない」
アーロン 「仕方ないじゃねえよ」
アリア 「そういえばキミ、魔物の素材は採っておいたかい?」
アーロン 「あ? これのことか? この牙と毛皮の一部」
アリア 「ああ、魔物は倒されると魔力の元となる魔素に分解されて消滅するが、魔力が強く残っている部位は消滅しないんだよ。だから、見つけたら採っておくようにしてくれ」
アーロン 「へえ、そんな法則があったのか。さすが物知りだな」
アリア 「魔法使いだからね」
アーロン 「……そろそろ昼だな。どうする、店に戻るか?」
アリア 「そうしよう、お腹が空いた」
◇
アリア 「……ふう、ごちそうさま」
アーロン 「おう」
(SE 店の扉がノックされる音)
アーロン 「客か?」
アリア 「私は食後の紅茶を嗜んでいる。キミが出てくれ」
アーロン 「はいよ」
(SE 店の扉が開く音)
アーロン 「はい、いらっしゃい」
シルヴィア 「あ、アーロン、さん……!」
アーロン 「シルヴィアか。今日はどうした?」
シルヴィア 「今日はアリアさんいますか?」
アーロン 「おう、ナイスタイミング、ちょうどいるぜ」
シルヴィア 「よかった……」
アーロン 「まあ、入れよ」
シルヴィア 「は、はい……」
アーロン 「なんか顔赤いけど、風邪か?」
シルヴィア 「か、風邪じゃないです!」
アリア 「アーロン、シルヴィアは風邪じゃないよ。キミにはわからない、心の病さ」
アーロン 「なおさらやばいじゃねえか!」
シルヴィア 「え! アリアさん!」
アリア 「なに、キミぐらいの年頃なら当然のことだろう」
アーロン 「大丈夫、なのか?」
シルヴィア 「大丈夫です!」
アーロン 「おお、元気があるならいいか」
アリア 「……それで、シルヴィア、いつもの薬でいいかい?」
シルヴィア 「はい、ありがとうございます」
アーロン 「その薬は?」
シルヴィア 「……私の母の薬なんです」
アーロン 「……そうだったのか」
シルヴィア 「はい……」
アリア 「シルヴィア、これを」
シルヴィア 「ありがとうございます。……これで」
アリア 「お代は確かに頂いたよ」
シルヴィア 「……それじゃあ、ありがとうございました」
アリア 「ああ、また来るといい」
シルヴィア 「はい」
(SE 店の扉が開く音)
アリア 「アーロン、紅茶のおかわりを淹れてくれ」
アーロン 「はいよ」
アリア 「……私は、シルヴィアの母親の病を治すことも目標にしているんだ」
アーロン 「……シルヴィアの母親は、どんな病気を?」
アリア 「身体がどんどん動かなくなっていくというものでね」
アーロン 「そんな病気があるのか」
アリア 「なんでも、貴族のせいでそうなったとか……」
アーロン 「また貴族かよ」
アリア 「まあ、そういう理由があるから、彼女に対して不用意な発言はしないようにしてくれ」
アーロン 「……ああ、そうだな」
アリア 「それと、紅茶はまだかな?」
アーロン 「へいへい」
◇
その夜、酒場。
アーロン 「久しぶりの酒場の匂いだ」
アリア 「キミにとってはそうだろうね」
アーロン 「おい、まさか、あんたひとりで楽しんでいたとか、ないよな?」
アリア 「さあ、どうだろうね」
アーロン 「あんたってやつは……」
アリア 「あ、エールをふたつ、貰えるかな」
アーロン 「おい、なに注文してんだよ」
アリア 「え? 飲みにきたんだろう?」
アーロン 「違うだろ。依頼を受けに来たんだよ」
アリア 「そういえば、そんな話をしていたね」
アーロン 「だけど、頼んだなら仕方ない。飲むか」
アリア 「ふふ、キミも飲みたかったんじゃないか」
アーロン 「うるせぇ」
アリア 「……来たようだね」
アーロン 「アリア、エールも飲むんだな」
アリア 「蒸留酒もいいけれど、やはり舌に合っているのはエールだね」
アーロン 「そうかよ。まあいいや、飲もうぜ」
(SE 木製のコップが鳴る音)
アーロン 「久しぶりだからか、しみるな」
アリア 「ふふ、おじさん臭いことを言うね」
アーロン 「そういえば、アリアはいくつなんだ? 俺とあまり大差ないと思うけど」
アリア 「女性に年齢を聞くなんて、失礼だと思わないのかい?」
アーロン 「え? いや、アリアは充分若いだろ。俺より年上には見えないけどな」
アリア 「……21だ」
アーロン 「おお、同い年か」
アリア 「そうなのかい? 私はてっきりキミの方が年下だと思っていたよ」
アーロン 「悪かったな、言動が幼稚で」
アリア 「ふふふ、そうやってすぐムキになるところが幼いところだね」
アーロン 「そういう性質なんだ」
アリア 「さて、もう一杯いいかな?」
アーロン 「なに言ってるんだ。依頼を受けにきたって言ったよな?」
アリア 「そうだったね。だけど、もう一杯くらいいいじゃないか」
アーロン 「ダメだ」
アリア 「ケチだね」
アーロン 「なんとでも言え。ほら、行くぞ」
アリア 「まだ飲み足りない……」
アーロン 「我慢しろ。……お、ここだな」
アリア 「……なるべく面倒くさくない依頼を受けてくれ」
アーロン 「そうだな、これなんてどうだ?」
アリア 「薬の納品? これなら、持ち合わせのものがあるね。すぐに渡してこよう」
アーロン 「おお、備えあればなんとやらってやつだな」
アリア 「依頼の品は、酒場の店主に渡すんだったね」
アーロン 「そうなんじゃねえの」
アリア 「……店主、これを」
店主 「依頼の品ですね。……はい、確かに頂きました。こちら報酬です」
(SE 硬貨が入った袋が置かれる音)
アリア 「どうも。……どうだい、アーロン、私は依頼を受けたよ」
アーロン 「ああ、この調子でどんどん受けてくぞ」
アリア 「これでは、まだ足りない、というのかい?」
アーロン 「当たり前だ。どんどん名前を売っていこうぜ」
アリア 「……手厳しいな、キミは」
アーロン 「手厳しい? こんなのまだ序の口だ」
ジョン 「あれ、アーロンじゃないか」
アーロン 「ジョンか。久しぶり」
ジョン 「久しぶり、じゃねえよ! 急にいなくなりやがって!」
アーロン 「悪かったな。……それで、親父は?」
ジョン 「エドの店主なら、帝都から西に行ったとこにあるアルトで暮らしている」
アーロン 「そうか、よかった」
ジョン 「アーロン、お前こそどこでなにしてるんだよ。……って、いつぞやの姉ちゃんと一緒じゃないか。なんだ、そういうことか。アーロンも隅に置けないな」
アーロン 「そういうんじゃねえよ」
アリア 「私は、アリア・エインズワース、魔法使いだ。郊外の森で店を開いている。アーロンには、私の助手をしてもらっていてね」
ジョン 「森で店を?」
アーロン 「客は全然来ないけどな」
ジョン 「そりゃ、森にあるんじゃな」
アーロン 「ああ、だから依頼を受けて、店の名前を売ろうっていうわけだ」
ジョン 「なるほどな」
アリア 「……今日はもう依頼をこなした」
ジョン 「ほおん……、魔法使いってのは、薬とか色々作るんだろ? どういうのを作ってるんだ?」
アリア 「そうだね……、今アーロンが持っている剣は、私が作ったものだ」
アーロン 「…………」
(SE 剣を鞘から抜く音)
ジョン 「品質が良いな。俺もこんな業物、見たことないぞ」
アリア 「ふふ、当然だ」
ジョン 「これなら、大丈夫そうだな」
アーロン 「どういうことだ?」
ジョン 「店の名前を売るために、依頼を探してるんだろう?」
アーロン 「ああ、そうだな」
ジョン 「俺は職業柄、色んな人の話を聞くんだ。俺が依頼の斡旋をしようか?」
アリア 「それはいいね」
アーロン 「ありがたいな。……で、条件は?」
ジョン 「ああ、依頼を斡旋するかわりに、商品を少しお手ごろな価格で売ってくれないか?」
アリア 「いいだろう」
アーロン 「おい、即答でいいのかよ」
アリア 「いいんだよ。こういうのは、思い切りが重要だ」
ジョン 「いいね、姉ちゃん。それじゃ、決まりだな」
アーロン 「…………」
ジョン 「そうだ、アーロン、お前にも頼みたいことがある。俺らみたいな行商人が使っている通行路の近くに魔物が巣を作っちまってな」
アーロン 「なるほど、その魔物を俺らに退治してほしいってことか?」
アリア 「そんなの、騎士団に頼めばいいじゃないか」
ジョン 「俺らが使っていた道は、通行税を払わなくていい道なんだぞ。そんな場所を通れるようにするわけがないだろう」
アーロン 「そういうことか」
ジョン 「ああ、これを受けてくれたら、俺の商売仲間にもウワサが広がって、依頼が受けやすくなるだろうな」
アーロン 「……悪くないな、受けようぜ、アリア」
アリア 「そうだね、少々面倒臭いが、私も協力しよう」
ジョン 「よし、いいな。討伐出来たら俺に知らせてくれ」
アーロン 「おう」
ジョン 「そういえば、姉ちゃんの店の場所を知らないな」
(SE 羊皮紙を取り出し、地図を書く音)
アリア 「…………ここだよ」
アーロン 「ありがとよ」
◇
翌日、行商人の道。
アリア 「この辺だね、ジョンが言っていた場所は」
アーロン 「ああ、みたいだな。魔物の臭いが強くなってきた」
アリア 「昨日、採取に行ったときに遭遇した狼型の魔物の巣だろうね」
アーロン 「作戦はあれでいいんだよな?」
アリア 「ああ、キミは群れに突っ込んでただ帰ってくるだけでいい」
アーロン 「簡単に言うけど、大丈夫なのか?」
アリア 「問題ないよ。私は魔法使いだからね」
アーロン 「頼んだぜ。じゃあ、俺は行く」
アリア 「ああ、任せたまえ」
(SE 剣を鞘から抜く音)
魔物 「ワオーーーン!」
アーロン 「さあ、こっちだ!」
アーロン 「……くッ、多いな」
(SE 魔物が消滅する音)
アーロン 「アリア、ここでいいか?!」
アリア 「ああ、問題ないよ! 早く離脱したまえ!」
アーロン 「……了解!」
(SE 魔物が消滅する音)
アーロン 「アリア、今だ!」
アリア 「……さあ、こいつの威力を味わうがいい!」
(SE 爆発音)
アーロン 「おお、うまくいったな!」
アリア 「ふふふ、火の魔法なんて久しぶりに使ったけれど、案外いけるものだね」
アーロン 「これで依頼は完了だな」
アリア 「いいや、まだみたいだよ」
アーロン 「あ? おい、嘘だろ」
魔物 「グルルルルッ!」
アリア 「大型だね」
アーロン 「群れのボスってか」
魔物 「ガウガウッ!!」
アーロン 「ぐッ! アリア!」
アリア 「うっ……! 大丈夫、かすっただけだよ」
アーロン 「あとは俺がやる」
魔物 「ガウッ!」
(SE 剣と爪がぶつかる音)
アーロン 「……ちっ、さすがに重いな……! まともに打ち合ったらもたない。どうしたら……」
魔物 「ガオウッ!!」
アーロン 「……あの木、あれくらいの幹の太さなら……」
アーロン 「……ッ!! こっちだっ!」
魔物 「ガウッ!」
アーロン 「よっ、と!」
(SE 魔物の牙が木の幹に食い込む音)
魔物 「ガガグッ……!」
アーロン 「狙い通り! これで終わりだ!」
(SE 魔物が消滅する音)
アリア 「よくやったね、アーロン」
アーロン 「これでジョンからの依頼は完了だな」
アリア 「ああ、それにこの牙を見たまえ。これがあれば、当分素材には困らないね」
アーロン 「へえ、そうなのか」
アリア 「ああ、だからしばらくは採取に出かけなくてもいいんだ」
アーロン 「依頼は受けるぞ」
アリア 「引きこもっていたいという私の願いは無視かい?」
アーロン 「だから店の名前が売れないんじゃないか?」
アリア 「ああ、引きこもったまま研究だけしていたい……」
アーロン 「まったく、あんたってやつは……」
アリア 「まあ、依頼は完了したんだ。帰らないかい?」
アーロン 「アリア、さっそく調合か?」
アリア 「当然だよ」
◇
翌日、魔法使いの店。
アーロン 「はあ……、アリアのやつ、昨日から魔法の研究とか言ってずっと部屋に引きこもってやがる」
(SE アリアの部屋の扉が開く音)
アリア 「アーロン、今日もしばらく部屋から出ないから、店番頼むよ」
アーロン 「はいはい、わかったよ。あ、ジョンが来たら呼ぶからな」
アリア 「構わないけど、私の邪魔はしないでくれよ?」
アーロン 「善処する」
(SE アリアの部屋の扉が閉まる音)
アーロン 「…………」
アーロン 「……ふぁあ」
アーロン 「…………」
アーロン 「…………暇だ」
アーロン 「この空間に俺一人だけ……。まさに閑古鳥が鳴いてるってやつだな」
(SE 店の扉が開く音)
ジョン 「邪魔するぜ」
アーロン 「ジョン、いらっしゃい」
ジョン 「おう、魔物、退治してくれたみたいだな。助かったよ」
アーロン 「そういう約束だろ。それで、仕入は?」
ジョン 「ああ、これとこれとこれが欲しいんだけどよ、姉ちゃんはいるのか?」
アーロン 「いるにはいるが、ちょっと部屋に引きこもっててな、呼んでくるわ」
ジョン 「へーい」
(SE アリアの部屋の扉を開ける音)
アーロン 「おい、ジョンが来たぞ……って、なんで服を着てないんだよ!」
アリア 「……む? ああ、調合に失敗してしまってね。服がなくなってしまったんだ」
アーロン 「どういう状況だよ。ったく、服着たらこっち来い」
アリア 「そうするよ」
(SE アリアの部屋の扉を閉める音)
アーロン 「ジョン、ちょっとだけ待っててくれ」
ジョン 「ああ、悪かったな、お楽しみだったんだろ?」
アーロン 「なんでそうなるんだよ!?」
ジョン 「いや、服がどうのって聞こえたから」
アリア 「ジョン、私がアーロンと関係を持つと思っているのなら、心外だね」
ジョン 「え、違うの?」
アリア 「確かに、アーロンは使用人としては悪くないが、私の好みではない」
アーロン 「なに、俺貶されてんの?」
アリア 「そんなことよりも、ジョンが欲しいものは?」
ジョン 「ああ、ここに書いてあるやつが欲しいんだが」
アリア 「ふむ、これならすぐに用意できる」
ジョン 「本当か」
アリア 「ああ、少し待っていてくれ」
ジョン 「おう」
アリア 「確かここに……、あった。これでいいかな?」
ジョン 「おお、やはり品質が良いな」
アリア 「お代はこれくらいになるが」
ジョン 「この品質でその値段……、大丈夫なのか?」
アリア 「なに、心配はいらない」
ジョン 「じゃあ、そうさせてもらうか。ほらよ」
アリア 「……確かに頂いたよ」
アーロン 「あ、ジョン、ここの名前を広めてくれよ」
ジョン 「おう、適当に広めておいてやる。それじゃ、ありがとな」
(SE 店の扉の開閉音)
アーロン 「…………」
アリア 「……では、私も研究に戻るよ」
アーロン 「おう」
(SE アリアの部屋の扉の開閉音)
アーロン 「……また暇になったな」
アーロン 「それでも、依頼を受けるようになったし、これからが頑張り時だな」
(SE アリアの部屋から爆発音がする)
アーロン 「まあ、今日は閑古鳥じゃなくて爆発音が鳴っているけどな」
つづく
アーロン・ストライフ:ひょんなことから魔法使いの助手をすることになった青年。21歳
シルヴィア:魔法使いの店に通う女の子。17歳。
ジョン:行商人の男。44歳。
酒場の店主:男
アーロンが魔法使いの店に来て一週間が経った。アーロンは朝食を作っていた。
アリア 「おはよう、良い朝だね」
アーロン 「そうだな、ほら、朝飯できてるぞ」
アリア 「ふむ、これは、昨夜の残りじゃないか」
アーロン 「食材が無駄にならなくていいだろ」
アリア 「キミが来てから食に悩むことはなくなったが、お小言がたまに瑕だね」
アーロン 「あんたがだらしないからだろ。ほら早く食え」
アリア 「ではいただくよ」
アーロン 「それで、今日の予定は?」
アリア 「……特にない。今日は店にいるよ」
アーロン 「そうか、ならよかった。あんたがいないと話し相手がいなくてな。この店、ちゃんと客来るのか?」
アリア 「収入の方は気にするな。一ヶ月に一度、騎士団に薬を届けているからね」
アーロン 「そうじゃねえよ。俺が言いたいのは、普通の客も来るのかってことだよ」
アリア 「……なぜキミがそんなことを気にするんだい?」
アーロン 「店にいても暇なんだよ」
アリア 「それなら、常連のシルヴィアがいるじゃないか」
アーロン 「シルヴィアか、接客は一度きりだな」
アリア 「そうだったかい? 確かに最近見てない気がするね」
アーロン 「ああ、最近は俺が店番してるからな。それでシルヴィアが来なくなったんじゃないか?」
アリア 「……そうか。では、今日は私の採取に付き合ってもらおうか」
アーロン 「採取?」
アリア 「ああ、男のキミにしか頼めないことだ」
アーロン 「俺にしか……?」
アーロン (魔法使いの調合には、男のアレを使うことがあると本で読んだな。つまり、あんなことやこんなことを……)
◇
森の中。
アリア 「ここだ。このあたりは魔物が出るからね、キミのような戦闘の経験がある男がいると心強い」
アーロン 「なんだ、そんなことか」
アリア 「どうしたんだい? そんな残念そうな顔をして」
アーロン 「なんでもねえよ。ほら、採取するんだろ」
アリア 「ああ。……ふむ、やはりここの土壌が良いのか、植物に良いものが多いね」
アーロン 「そんなもんなのか? 俺には違いがわからないけどな」
アリア 「ああ、例えば、これだ。他の場所で採れたものよりも色とつやが違うのがわかるだろう?」
アーロン 「言われてみれば、そうだな」
アリア 「キミもじきにわかるようになるよ」
アーロン 「俺、そういうの苦手なんだよな。こんな風に剣を振ってる方が性に合ってるかもしれないな」
アリア 「……そういえば、私が作った剣はどうかな? 使いやすいかい?」
アーロン 「これ、あんたが作ったのか? 魔法使いってのは鍛冶もできるのか?」
アリア 「薬を調合するのと同じように、剣を調合したのさ」
アーロン 「なんでもできるんだな」
アリア 「魔法使いだからね」
アーロン 「……と、この剣の使い心地だったよな? ……悪くない。重さもちょうどいい」
アリア 「それならよかった」
(SE 草が揺れる音)
アーロン 「なんかいるぞ……!」
魔物 「ぐるるるるっ」
アリア 「狼型の魔物だね。アーロン、それでは頼むよ」
アーロン 「了解!」
(SE 剣を抜く音)
魔物 「ガウッ!!」
アーロン 「よっと!!」
(SE 魔物が消滅する音)
アリア 「やはり、助手を連れてきてよかった」
アーロン 「助手っていうより、用心棒だな」
アリア 「それもいいかもしれないね」
アーロン 「ああ、魔物相手には負けないぜ」
アリア 「頼もしいね。これなら、魔物討伐の依頼もこなせるかもしれないね」
アーロン 「依頼?」
アリア 「繁盛している酒場では、魔物討伐や薬の納品といった人々の悩みを聞いていたりするんだ」
アーロン 「へえ、じゃあ、アリアもその依頼をこなしているんだな」
アリア 「いいや、私がそんなことするわけがないだろう」
アーロン 「は? 依頼をこなしていけば、店の認知度をあげることにも繋がるだろ」
アリア 「私は魔法の研究とお酒があればそれでいい」
アーロン 「だから店に客が来ないんじゃないか?」
アリア 「そうなのか?」
アーロン 「実際俺は、シルヴィアに聞くまで、アリアの店を知らなかった」
アリア 「なるほど」
アーロン 「そういうことだ。もっと依頼をこなしていけばいいだろ。依頼をこなすことが魔法の研究にも繋がるんじゃないか?」
アリア 「ふむ、一理あるね」
アーロン 「よし、これからは依頼を受けるぞ」
アリア 「ああ、頼むよ。アーロン」
アーロン 「おう。……ってあんたもやるんだよ!」
アリア 「私も? なぜだい? そういう面倒くさいことは、助手の仕事だろう?」
アーロン 「依頼にはきっと、アリアの力も必要になってくる。それぐらいいいじゃねえか」
アリア 「……仕方ない」
アーロン 「仕方ないじゃねえよ」
アリア 「そういえばキミ、魔物の素材は採っておいたかい?」
アーロン 「あ? これのことか? この牙と毛皮の一部」
アリア 「ああ、魔物は倒されると魔力の元となる魔素に分解されて消滅するが、魔力が強く残っている部位は消滅しないんだよ。だから、見つけたら採っておくようにしてくれ」
アーロン 「へえ、そんな法則があったのか。さすが物知りだな」
アリア 「魔法使いだからね」
アーロン 「……そろそろ昼だな。どうする、店に戻るか?」
アリア 「そうしよう、お腹が空いた」
◇
アリア 「……ふう、ごちそうさま」
アーロン 「おう」
(SE 店の扉がノックされる音)
アーロン 「客か?」
アリア 「私は食後の紅茶を嗜んでいる。キミが出てくれ」
アーロン 「はいよ」
(SE 店の扉が開く音)
アーロン 「はい、いらっしゃい」
シルヴィア 「あ、アーロン、さん……!」
アーロン 「シルヴィアか。今日はどうした?」
シルヴィア 「今日はアリアさんいますか?」
アーロン 「おう、ナイスタイミング、ちょうどいるぜ」
シルヴィア 「よかった……」
アーロン 「まあ、入れよ」
シルヴィア 「は、はい……」
アーロン 「なんか顔赤いけど、風邪か?」
シルヴィア 「か、風邪じゃないです!」
アリア 「アーロン、シルヴィアは風邪じゃないよ。キミにはわからない、心の病さ」
アーロン 「なおさらやばいじゃねえか!」
シルヴィア 「え! アリアさん!」
アリア 「なに、キミぐらいの年頃なら当然のことだろう」
アーロン 「大丈夫、なのか?」
シルヴィア 「大丈夫です!」
アーロン 「おお、元気があるならいいか」
アリア 「……それで、シルヴィア、いつもの薬でいいかい?」
シルヴィア 「はい、ありがとうございます」
アーロン 「その薬は?」
シルヴィア 「……私の母の薬なんです」
アーロン 「……そうだったのか」
シルヴィア 「はい……」
アリア 「シルヴィア、これを」
シルヴィア 「ありがとうございます。……これで」
アリア 「お代は確かに頂いたよ」
シルヴィア 「……それじゃあ、ありがとうございました」
アリア 「ああ、また来るといい」
シルヴィア 「はい」
(SE 店の扉が開く音)
アリア 「アーロン、紅茶のおかわりを淹れてくれ」
アーロン 「はいよ」
アリア 「……私は、シルヴィアの母親の病を治すことも目標にしているんだ」
アーロン 「……シルヴィアの母親は、どんな病気を?」
アリア 「身体がどんどん動かなくなっていくというものでね」
アーロン 「そんな病気があるのか」
アリア 「なんでも、貴族のせいでそうなったとか……」
アーロン 「また貴族かよ」
アリア 「まあ、そういう理由があるから、彼女に対して不用意な発言はしないようにしてくれ」
アーロン 「……ああ、そうだな」
アリア 「それと、紅茶はまだかな?」
アーロン 「へいへい」
◇
その夜、酒場。
アーロン 「久しぶりの酒場の匂いだ」
アリア 「キミにとってはそうだろうね」
アーロン 「おい、まさか、あんたひとりで楽しんでいたとか、ないよな?」
アリア 「さあ、どうだろうね」
アーロン 「あんたってやつは……」
アリア 「あ、エールをふたつ、貰えるかな」
アーロン 「おい、なに注文してんだよ」
アリア 「え? 飲みにきたんだろう?」
アーロン 「違うだろ。依頼を受けに来たんだよ」
アリア 「そういえば、そんな話をしていたね」
アーロン 「だけど、頼んだなら仕方ない。飲むか」
アリア 「ふふ、キミも飲みたかったんじゃないか」
アーロン 「うるせぇ」
アリア 「……来たようだね」
アーロン 「アリア、エールも飲むんだな」
アリア 「蒸留酒もいいけれど、やはり舌に合っているのはエールだね」
アーロン 「そうかよ。まあいいや、飲もうぜ」
(SE 木製のコップが鳴る音)
アーロン 「久しぶりだからか、しみるな」
アリア 「ふふ、おじさん臭いことを言うね」
アーロン 「そういえば、アリアはいくつなんだ? 俺とあまり大差ないと思うけど」
アリア 「女性に年齢を聞くなんて、失礼だと思わないのかい?」
アーロン 「え? いや、アリアは充分若いだろ。俺より年上には見えないけどな」
アリア 「……21だ」
アーロン 「おお、同い年か」
アリア 「そうなのかい? 私はてっきりキミの方が年下だと思っていたよ」
アーロン 「悪かったな、言動が幼稚で」
アリア 「ふふふ、そうやってすぐムキになるところが幼いところだね」
アーロン 「そういう性質なんだ」
アリア 「さて、もう一杯いいかな?」
アーロン 「なに言ってるんだ。依頼を受けにきたって言ったよな?」
アリア 「そうだったね。だけど、もう一杯くらいいいじゃないか」
アーロン 「ダメだ」
アリア 「ケチだね」
アーロン 「なんとでも言え。ほら、行くぞ」
アリア 「まだ飲み足りない……」
アーロン 「我慢しろ。……お、ここだな」
アリア 「……なるべく面倒くさくない依頼を受けてくれ」
アーロン 「そうだな、これなんてどうだ?」
アリア 「薬の納品? これなら、持ち合わせのものがあるね。すぐに渡してこよう」
アーロン 「おお、備えあればなんとやらってやつだな」
アリア 「依頼の品は、酒場の店主に渡すんだったね」
アーロン 「そうなんじゃねえの」
アリア 「……店主、これを」
店主 「依頼の品ですね。……はい、確かに頂きました。こちら報酬です」
(SE 硬貨が入った袋が置かれる音)
アリア 「どうも。……どうだい、アーロン、私は依頼を受けたよ」
アーロン 「ああ、この調子でどんどん受けてくぞ」
アリア 「これでは、まだ足りない、というのかい?」
アーロン 「当たり前だ。どんどん名前を売っていこうぜ」
アリア 「……手厳しいな、キミは」
アーロン 「手厳しい? こんなのまだ序の口だ」
ジョン 「あれ、アーロンじゃないか」
アーロン 「ジョンか。久しぶり」
ジョン 「久しぶり、じゃねえよ! 急にいなくなりやがって!」
アーロン 「悪かったな。……それで、親父は?」
ジョン 「エドの店主なら、帝都から西に行ったとこにあるアルトで暮らしている」
アーロン 「そうか、よかった」
ジョン 「アーロン、お前こそどこでなにしてるんだよ。……って、いつぞやの姉ちゃんと一緒じゃないか。なんだ、そういうことか。アーロンも隅に置けないな」
アーロン 「そういうんじゃねえよ」
アリア 「私は、アリア・エインズワース、魔法使いだ。郊外の森で店を開いている。アーロンには、私の助手をしてもらっていてね」
ジョン 「森で店を?」
アーロン 「客は全然来ないけどな」
ジョン 「そりゃ、森にあるんじゃな」
アーロン 「ああ、だから依頼を受けて、店の名前を売ろうっていうわけだ」
ジョン 「なるほどな」
アリア 「……今日はもう依頼をこなした」
ジョン 「ほおん……、魔法使いってのは、薬とか色々作るんだろ? どういうのを作ってるんだ?」
アリア 「そうだね……、今アーロンが持っている剣は、私が作ったものだ」
アーロン 「…………」
(SE 剣を鞘から抜く音)
ジョン 「品質が良いな。俺もこんな業物、見たことないぞ」
アリア 「ふふ、当然だ」
ジョン 「これなら、大丈夫そうだな」
アーロン 「どういうことだ?」
ジョン 「店の名前を売るために、依頼を探してるんだろう?」
アーロン 「ああ、そうだな」
ジョン 「俺は職業柄、色んな人の話を聞くんだ。俺が依頼の斡旋をしようか?」
アリア 「それはいいね」
アーロン 「ありがたいな。……で、条件は?」
ジョン 「ああ、依頼を斡旋するかわりに、商品を少しお手ごろな価格で売ってくれないか?」
アリア 「いいだろう」
アーロン 「おい、即答でいいのかよ」
アリア 「いいんだよ。こういうのは、思い切りが重要だ」
ジョン 「いいね、姉ちゃん。それじゃ、決まりだな」
アーロン 「…………」
ジョン 「そうだ、アーロン、お前にも頼みたいことがある。俺らみたいな行商人が使っている通行路の近くに魔物が巣を作っちまってな」
アーロン 「なるほど、その魔物を俺らに退治してほしいってことか?」
アリア 「そんなの、騎士団に頼めばいいじゃないか」
ジョン 「俺らが使っていた道は、通行税を払わなくていい道なんだぞ。そんな場所を通れるようにするわけがないだろう」
アーロン 「そういうことか」
ジョン 「ああ、これを受けてくれたら、俺の商売仲間にもウワサが広がって、依頼が受けやすくなるだろうな」
アーロン 「……悪くないな、受けようぜ、アリア」
アリア 「そうだね、少々面倒臭いが、私も協力しよう」
ジョン 「よし、いいな。討伐出来たら俺に知らせてくれ」
アーロン 「おう」
ジョン 「そういえば、姉ちゃんの店の場所を知らないな」
(SE 羊皮紙を取り出し、地図を書く音)
アリア 「…………ここだよ」
アーロン 「ありがとよ」
◇
翌日、行商人の道。
アリア 「この辺だね、ジョンが言っていた場所は」
アーロン 「ああ、みたいだな。魔物の臭いが強くなってきた」
アリア 「昨日、採取に行ったときに遭遇した狼型の魔物の巣だろうね」
アーロン 「作戦はあれでいいんだよな?」
アリア 「ああ、キミは群れに突っ込んでただ帰ってくるだけでいい」
アーロン 「簡単に言うけど、大丈夫なのか?」
アリア 「問題ないよ。私は魔法使いだからね」
アーロン 「頼んだぜ。じゃあ、俺は行く」
アリア 「ああ、任せたまえ」
(SE 剣を鞘から抜く音)
魔物 「ワオーーーン!」
アーロン 「さあ、こっちだ!」
アーロン 「……くッ、多いな」
(SE 魔物が消滅する音)
アーロン 「アリア、ここでいいか?!」
アリア 「ああ、問題ないよ! 早く離脱したまえ!」
アーロン 「……了解!」
(SE 魔物が消滅する音)
アーロン 「アリア、今だ!」
アリア 「……さあ、こいつの威力を味わうがいい!」
(SE 爆発音)
アーロン 「おお、うまくいったな!」
アリア 「ふふふ、火の魔法なんて久しぶりに使ったけれど、案外いけるものだね」
アーロン 「これで依頼は完了だな」
アリア 「いいや、まだみたいだよ」
アーロン 「あ? おい、嘘だろ」
魔物 「グルルルルッ!」
アリア 「大型だね」
アーロン 「群れのボスってか」
魔物 「ガウガウッ!!」
アーロン 「ぐッ! アリア!」
アリア 「うっ……! 大丈夫、かすっただけだよ」
アーロン 「あとは俺がやる」
魔物 「ガウッ!」
(SE 剣と爪がぶつかる音)
アーロン 「……ちっ、さすがに重いな……! まともに打ち合ったらもたない。どうしたら……」
魔物 「ガオウッ!!」
アーロン 「……あの木、あれくらいの幹の太さなら……」
アーロン 「……ッ!! こっちだっ!」
魔物 「ガウッ!」
アーロン 「よっ、と!」
(SE 魔物の牙が木の幹に食い込む音)
魔物 「ガガグッ……!」
アーロン 「狙い通り! これで終わりだ!」
(SE 魔物が消滅する音)
アリア 「よくやったね、アーロン」
アーロン 「これでジョンからの依頼は完了だな」
アリア 「ああ、それにこの牙を見たまえ。これがあれば、当分素材には困らないね」
アーロン 「へえ、そうなのか」
アリア 「ああ、だからしばらくは採取に出かけなくてもいいんだ」
アーロン 「依頼は受けるぞ」
アリア 「引きこもっていたいという私の願いは無視かい?」
アーロン 「だから店の名前が売れないんじゃないか?」
アリア 「ああ、引きこもったまま研究だけしていたい……」
アーロン 「まったく、あんたってやつは……」
アリア 「まあ、依頼は完了したんだ。帰らないかい?」
アーロン 「アリア、さっそく調合か?」
アリア 「当然だよ」
◇
翌日、魔法使いの店。
アーロン 「はあ……、アリアのやつ、昨日から魔法の研究とか言ってずっと部屋に引きこもってやがる」
(SE アリアの部屋の扉が開く音)
アリア 「アーロン、今日もしばらく部屋から出ないから、店番頼むよ」
アーロン 「はいはい、わかったよ。あ、ジョンが来たら呼ぶからな」
アリア 「構わないけど、私の邪魔はしないでくれよ?」
アーロン 「善処する」
(SE アリアの部屋の扉が閉まる音)
アーロン 「…………」
アーロン 「……ふぁあ」
アーロン 「…………」
アーロン 「…………暇だ」
アーロン 「この空間に俺一人だけ……。まさに閑古鳥が鳴いてるってやつだな」
(SE 店の扉が開く音)
ジョン 「邪魔するぜ」
アーロン 「ジョン、いらっしゃい」
ジョン 「おう、魔物、退治してくれたみたいだな。助かったよ」
アーロン 「そういう約束だろ。それで、仕入は?」
ジョン 「ああ、これとこれとこれが欲しいんだけどよ、姉ちゃんはいるのか?」
アーロン 「いるにはいるが、ちょっと部屋に引きこもっててな、呼んでくるわ」
ジョン 「へーい」
(SE アリアの部屋の扉を開ける音)
アーロン 「おい、ジョンが来たぞ……って、なんで服を着てないんだよ!」
アリア 「……む? ああ、調合に失敗してしまってね。服がなくなってしまったんだ」
アーロン 「どういう状況だよ。ったく、服着たらこっち来い」
アリア 「そうするよ」
(SE アリアの部屋の扉を閉める音)
アーロン 「ジョン、ちょっとだけ待っててくれ」
ジョン 「ああ、悪かったな、お楽しみだったんだろ?」
アーロン 「なんでそうなるんだよ!?」
ジョン 「いや、服がどうのって聞こえたから」
アリア 「ジョン、私がアーロンと関係を持つと思っているのなら、心外だね」
ジョン 「え、違うの?」
アリア 「確かに、アーロンは使用人としては悪くないが、私の好みではない」
アーロン 「なに、俺貶されてんの?」
アリア 「そんなことよりも、ジョンが欲しいものは?」
ジョン 「ああ、ここに書いてあるやつが欲しいんだが」
アリア 「ふむ、これならすぐに用意できる」
ジョン 「本当か」
アリア 「ああ、少し待っていてくれ」
ジョン 「おう」
アリア 「確かここに……、あった。これでいいかな?」
ジョン 「おお、やはり品質が良いな」
アリア 「お代はこれくらいになるが」
ジョン 「この品質でその値段……、大丈夫なのか?」
アリア 「なに、心配はいらない」
ジョン 「じゃあ、そうさせてもらうか。ほらよ」
アリア 「……確かに頂いたよ」
アーロン 「あ、ジョン、ここの名前を広めてくれよ」
ジョン 「おう、適当に広めておいてやる。それじゃ、ありがとな」
(SE 店の扉の開閉音)
アーロン 「…………」
アリア 「……では、私も研究に戻るよ」
アーロン 「おう」
(SE アリアの部屋の扉の開閉音)
アーロン 「……また暇になったな」
アーロン 「それでも、依頼を受けるようになったし、これからが頑張り時だな」
(SE アリアの部屋から爆発音がする)
アーロン 「まあ、今日は閑古鳥じゃなくて爆発音が鳴っているけどな」
つづく
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