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第1部 星野シキア編
第1章 緑草に包まれて (星野シキア編) 後編
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六郭星学園 音楽室
昼休みに僕は星野さんに誘われて、音楽室に向かっていた。
真瀬莉緒
「今日も練習するんですか?」
星野シキア
「ええ、せっかくだから練習するわよ。」
音楽室のドアを開けるとそこにはタクトくんがいた。
月川タクト
「お、シキア。練習か?なら一緒に練習する?」
タクトくんは気軽に声かけてくれた。……けど。
星野シキア
「嫌。」
月川タクト
「…………。」
その一言を聞いたタクトくんはムッとした表情になった。
このままだと喧嘩になりかねない。僕は星野さんにこう言った。
真瀬莉緒
「星野さん。もし良ければ、別の場所で練習しませんか?」
星野シキア
「そうね。じゃあ……せっかくのパートナーだから私の憩いの場所を教えてあげる。そこで練習をしましょう。」
真瀬莉緒
「はい!そうしましょう!」
月川タクト
「…………。」
僕はタクトくんに頭を下げたあと、音楽室から離れた。
六郭星学園 裏庭
星野さんに言われるがままついていく。ついた先はあたり一面が緑草が生えている。ここらへんは静かなのか、小鳥のさえずりが聞こえる。
真瀬莉緒
「ここは……?」
星野シキア
「ここは私のお気に入りの場所。昔はここで練習していたの。」
真瀬莉緒
「そうだったんですね。」
たしかにここはとても静かで、緑草の匂いもいい匂いで居心地のいい場所だ。
星野シキア
「元々ここの敷地は翠木高等学校の敷地をさらに拡大させた場所だから、この場所も2年くらい使っているの。」
真瀬莉緒
「居心地いい場所……ですね。」
星野シキア
「ありがとう。そう言われるとこっちまで嬉しくなるわ。お世辞が上手いわね。」
真瀬莉緒
「本当のことを言っただけですよ。」
星野シキア
「そうしておくわ。」
満足気に星野さんはそう言う。
星野シキア
「さて……作曲をするのならコンセプトを考えないとね。」
星野さんはそう言うと若竹色の柄の鉛筆とノートをカバンから出す。
真瀬莉緒
「若竹色って珍しいですね。」
星野シキア
「やっぱり?でも私は若竹色が好きよ。」
そう言うと意気揚々と若竹色について話してくれた。
星野シキア
「若竹色って赤とか青とかと比べるとたしかに認知度や知名度は少ないけど、私にとっては1番好きな色なの。若竹色は淡く優しい色って気持ちがして、心の底から楽しくなるの。……ただ、タクトも若竹色が好きだからそこだけは懸念点ではわるわね。まあ、若竹色が好きってのはとてもわかるけどね。」
若竹色について話してくれる。その時の星野さんには笑顔が出ていた。
本当に若竹色が好きなんだろう。
僕はその好意を尊重しなければならない。星野さんの話を真剣に聞いた。
星野シキア
「それでね……。……あ、ごめん。もうそろそろコンセプトを考えましょうか。」
真瀬莉緒
「あ、はい。そうですね。コンセプトは……何にしますか?」
星野シキア
「そうね……。楽器をただ鳴らすのだけじゃあ味足りないわね。……作曲にする?」
真瀬莉緒
「作曲……?」
星野シキア
「ええ。……あまりしたくはないけど……どうかしら……?」
僕は特に考えていなかったから拒否をする理由はなかった。
真瀬莉緒
「わかりました。作曲にしましょう。」
僕がそう言うと星野さんはゆっくりと頷いた。
真瀬莉緒
「それじゃあ、コンセプトは何にしますか?」
星野シキア
「そうね……ちなみに莉緒は何か考えているの?」
真瀬莉緒
「そうですね……。この声優さんに曲を提供する程でやってみますか?」
そう言って、僕は携帯から声優さんの画像を星野さんに見せる。
星野シキア
「…………。」
真瀬莉緒
「星野さん?」
星野さんは声優さんの画像を見ると目を逸らす仕草が見られた。この声優さんはあまり好きではないのだろうか?
星野シキア
「いえ……大丈夫。いいわ。そうしましょう。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。じゃあ早速曲調あたりを決めて行きましょう!」
僕たちは曲調はどうするかをひたすら考えていた。思いのほか長引き昼休憩が終わりそうなため、僕たちは放課後に音楽室に向かった。
六郭星学園 音楽室
音楽室に入るとそこには見慣れない先生らしき人がいた。
??
「ん?君たちは……?」
真瀬莉緒
「失礼します。僕は真瀬莉緒。Kクラスです。」
星野シキア
「星野シキアです。同じくKクラスです。」
鹿崎咲也
「そうかそうか!俺は鹿崎咲也(しかさき さくや)。Eクラスの担任を努めている。よろしくな!」
真瀬莉緒
「は、はい。よろしくお願いします。」
Eクラス……この人が姉さんの担任か……。たしかに聞いたことがある。2年間同じ担任だったって言っていたのは知っていたけど……3年生でも同じ担任とは……。姉さんも運がすごいな。
真瀬莉緒
「ちなみに……先生はここで何を……?」
鹿崎咲也
「ああ、今は月川と真瀬の作曲を聞いていたところなんだ。」
真瀬莉緒
「え、それじゃあ、姉さんもここに今いるんですか?」
鹿崎咲也
「おお!やっぱり君が莉緒くんか!双子だとは聞いたけど、瓜二つだな!」
真瀬莉緒
「はい……よく言われます。」
鹿崎咲也
「今、真瀬たちもいて準備室で練習しているけど、どうだ。呼ぼうか?」
真瀬莉緒
「ああ、それは……。」
星野シキア
「大丈夫です。」
星野さんはタクトくんがあまり好きではないのだろうか、僕が答える前に返答した。
真瀬莉緒
「……大丈夫です。いつでも会えますから。」
僕は星野さんの意見を汲み取り、断ることにした。
鹿崎咲也
「そうか。それもそうだな!」
真瀬莉緒
「はい。それでは失礼しま……」
??
「あら、莉緒じゃない。」
真瀬莉緒
「ね、姉さん……!」
声をかけてきたのは姉さんだった。隣にはタクトくんもいる。
真瀬志奈
「莉緒。ちゃんと課題やってるの?相手に失礼のないようにね。」
真瀬莉緒
「わかってるよ。ちゃんとやってます。」
真瀬志奈
「ふーん。それならいいけど。あ、私の隣の人、月川さんって言うの。」
月川タクト
「ああ、真瀬さん。莉緒とはルームメイトだから知ってるよ。」
真瀬志奈
「えっ、そうなんですか?」
真瀬莉緒
「うん。ちゃんと挨拶もしたよ。僕の隣の方は……」
真瀬志奈
「星野さんね。私のルームメイトだから。」
真瀬莉緒
「え?そ、そうなの?」
星野シキア
「ええ、ご挨拶も丁寧にしてくれたわ。姉弟揃って礼儀正しいのね。」
真瀬莉緒
「ま、まあ……ありがとうございます。」
星野シキア
「それにしても……やっぱり作曲なのね。タクト。」
月川タクト
「ああ、真瀬さんは楽器も弾ける。それに俺には声優さんに歌を作ると言う夢があるんだ。」
星野シキア
「夢物語ね……。叶うものも叶わない……そうなのに……。」
月川タクト
「なっ……!?シキア!」
タクトくんが詰め寄りそうになったとき、鹿崎先生が、止めに入った。
鹿崎咲也
「こらこら、喧嘩はやめろ!2人とも同じ課題でもいいだろ!それに夢を持つのも持たないのも自由だ!個人で任せればいいだろ?」
星野シキア
「……。わかりました。」
月川タクト
「すみません。少し、血迷いました。」
鹿崎咲也
「いいんだよ。さ、練習再開するか!」
月川タクト
「ああ、先生すみません。僕たち他に用事があってそろそろ寮に戻ろうと思っていたんです。」
鹿崎咲也
「そうか、じゃあ莉緒くんたちがよければ先生に練習の様子を見てもいいかな?」
真瀬莉緒
「僕はかまいませんが……。」
隣の星野さんをチラッと見る。
星野シキア
「構いません。意見は必要ですので……。」
鹿崎咲也
「そうか……ありがとう!では見させてもらいます!」
真瀬志奈
「それでは先生……失礼します。」
月川タクト
「失礼します。」
タクトくんは星野さんを睨むように見ながら音楽室を離れた。
鹿崎咲也
「さて……練習する前に聞きたいことがあるんだが……。」
星野シキア
「なんでしょうか?」
鹿崎咲也
「作曲練習だろ?コンセプトとかあれば教えてほしいんだけど……。」
星野シキア
「…………。」
星野さんは黙り込んでいる。答える様子はあまり見えないため、僕が答えることにした。
真瀬莉緒
「コンセプトとしてはこの声優さんに歌ってほしいと思っているのですが……。」
鹿崎咲也
「おお、この声優さんか!……ん?この声優さんなら確か3月に曲のオーディション開催するはずだぞ。」
真瀬莉緒
「本当ですか!?」
鹿崎咲也
「もしあれなら応募してみたらどうだ?課題の方も6月の予定だったけど、3月になったから1年かけたら相当な曲になるだろう。」
真瀬莉緒
「え!?3月になったんですか?」
鹿崎咲也
「ああ、色々あってな……もし良ければだけど……どうだ?」
真瀬莉緒
「僕は……構いませんけど……。」
僕は星野さんの顔をチラッと見る。
星野シキア
「……少し……考えてもいいですか?」
鹿崎咲也
「ああ、別に課題だけでも問題ないからな。」
星野シキア
「ありがとうございます。では……練習の方に取り掛からせていただきます。」
鹿崎咲也
「おう!是非見させてくれ!」
僕たちはそれぞれエレキギターを持ち2人で軽くセッションを始めた。
それを見た鹿崎先生は圧巻の様子で見ていた。
鹿崎咲也
「おお……!なかなかのセンスだな!これなら1年あればかなりの実力になるぞ!」
真瀬莉緒
「あ、ありがとうございます。」
星野シキア
「ありがとうございます。このくらいなら余裕です。」
鹿崎咲也
「そうか、そうか。これからも頑張れよ!じゃあ俺はそろそろ職員室に戻る。何かあった時は相談に乗るからな!」
そう言って鹿崎先生は教室から出てった。
星野シキア
「さて……練習を続けましょう。莉緒。なかなかやるわね。」
真瀬莉緒
「まあ……色々と楽器を教わったからね。両親に。」
星野シキア
「そう……。」
真瀬莉緒
「何があっても楽器をやっていたらなんとかなるよって言われてね……。今はこうして色々楽器を弾いていたおかげで音楽関係者の知り合いも多いよ。」
星野シキア
「そう…………羨ましい……。」
真瀬莉緒
「え?」
星野シキア
「いえ、なんでもないわ。こっちの話。さあ、練習を続けましょう。」
真瀬莉緒
「…………はい。」
その後、僕たちはコンセプトや曲調などの話さないといけないこと以外、僕たちは何も話さなかった。
ある程度話したあと、練習を切り上げ、寮の方に戻った。
六郭星学園寮 莉緒・タクトの部屋
月川タクト
「お疲れ様!練習の方はどうだった?」
真瀬莉緒
「なんとかね……。曲調はある程度決まったよ。」
月川タクト
「そうか。それなら順調だね!」
放課後のタクトくんの様子とは違い、明るく話しかけてくれる。見た感じでは無理をしているようには見えない。
真瀬莉緒
「あの時……大丈夫だった?」
月川タクト
「ああ、シキアとのやりとりね。大丈夫。まあ……少し取り乱したと言えば取り乱したけど……。」
真瀬莉緒
「…………。」
何を言えばいいのかわからない……。そのまま沈黙が続くと思ったが、タクトくんはこんなことを言った。
月川タクト
「少しさ、シキアと作った曲聞かせてよ。」
真瀬莉緒
「星野さんと作った曲……?」
月川タクト
「ある程度はできているの?」
真瀬莉緒
「まあ……曲のベースくらいならできてはいるけど……。」
月川タクト
「それなら是非聞かせてよ!どんな曲なのか楽しみだよ!」
真瀬莉緒
「……わかった。少しだけなら。」
僕は言われるがままにタクトくんに曲を弾く……。
タクトくんは目を瞑っていた。演奏が終わるとすぐにその目を開いた。
月川タクト
「うん。とてもいい曲だね。」
真瀬莉緒
「あ、ありがとう。」
月川タクト
「……もしかすると莉緒なら……。」
真瀬莉緒
「僕なら……。」
月川タクト
「……シキアはあまり夢に対して否定的だろ?」
真瀬莉緒
「確かに……そう言われるとそうだけど……。」
月川タクト
「でもこの曲なら、きっと……シキアも夢を目指すことができるかもしれない!莉緒、鹿崎先生から聞いたよ。この曲、あの声優さんに応募するかもしれないんだろ?」
真瀬莉緒
「それは……星野さん次第だと思う。」
月川タクト
「そうか……なら……!説得するんだよ!この曲で夢を目指すことを!」
真瀬莉緒
「夢……。」
月川タクト
「期待している。どんなことでもいい。説得して欲しい……このとおり!」
タクトくんは頭を下げる。説得できるかといえば……自信はあまりない。ただ……こうして頭を下げられると断ることもそれは辛い。
真瀬莉緒
「出来るかはわからないけど……説得はしてみるよ……。」
月川タクト
「そうか、ありがとう!きっとこの曲なら大丈夫だよ!シキアのことよろしく!」
真瀬莉緒
「はい……。」
月川タクト
「よし、じゃあ少しだけ出かけるからあとは自由にしていいからね!じゃあ!」
そう言ってタクトくんは部屋から離れた。
真瀬莉緒
「説得か……。」
僕には説得できるんだろうか……。無理矢理でも夢を持たせるのもどうかとは思うけど……。
星野さんはどうして夢に否定的なのか……そこを知らないと説得は難しいかもしれない。
僕はもう少し親しくなってから説得しようと思い……そのまま寝床に着くことにした……。
昼休みに僕は星野さんに誘われて、音楽室に向かっていた。
真瀬莉緒
「今日も練習するんですか?」
星野シキア
「ええ、せっかくだから練習するわよ。」
音楽室のドアを開けるとそこにはタクトくんがいた。
月川タクト
「お、シキア。練習か?なら一緒に練習する?」
タクトくんは気軽に声かけてくれた。……けど。
星野シキア
「嫌。」
月川タクト
「…………。」
その一言を聞いたタクトくんはムッとした表情になった。
このままだと喧嘩になりかねない。僕は星野さんにこう言った。
真瀬莉緒
「星野さん。もし良ければ、別の場所で練習しませんか?」
星野シキア
「そうね。じゃあ……せっかくのパートナーだから私の憩いの場所を教えてあげる。そこで練習をしましょう。」
真瀬莉緒
「はい!そうしましょう!」
月川タクト
「…………。」
僕はタクトくんに頭を下げたあと、音楽室から離れた。
六郭星学園 裏庭
星野さんに言われるがままついていく。ついた先はあたり一面が緑草が生えている。ここらへんは静かなのか、小鳥のさえずりが聞こえる。
真瀬莉緒
「ここは……?」
星野シキア
「ここは私のお気に入りの場所。昔はここで練習していたの。」
真瀬莉緒
「そうだったんですね。」
たしかにここはとても静かで、緑草の匂いもいい匂いで居心地のいい場所だ。
星野シキア
「元々ここの敷地は翠木高等学校の敷地をさらに拡大させた場所だから、この場所も2年くらい使っているの。」
真瀬莉緒
「居心地いい場所……ですね。」
星野シキア
「ありがとう。そう言われるとこっちまで嬉しくなるわ。お世辞が上手いわね。」
真瀬莉緒
「本当のことを言っただけですよ。」
星野シキア
「そうしておくわ。」
満足気に星野さんはそう言う。
星野シキア
「さて……作曲をするのならコンセプトを考えないとね。」
星野さんはそう言うと若竹色の柄の鉛筆とノートをカバンから出す。
真瀬莉緒
「若竹色って珍しいですね。」
星野シキア
「やっぱり?でも私は若竹色が好きよ。」
そう言うと意気揚々と若竹色について話してくれた。
星野シキア
「若竹色って赤とか青とかと比べるとたしかに認知度や知名度は少ないけど、私にとっては1番好きな色なの。若竹色は淡く優しい色って気持ちがして、心の底から楽しくなるの。……ただ、タクトも若竹色が好きだからそこだけは懸念点ではわるわね。まあ、若竹色が好きってのはとてもわかるけどね。」
若竹色について話してくれる。その時の星野さんには笑顔が出ていた。
本当に若竹色が好きなんだろう。
僕はその好意を尊重しなければならない。星野さんの話を真剣に聞いた。
星野シキア
「それでね……。……あ、ごめん。もうそろそろコンセプトを考えましょうか。」
真瀬莉緒
「あ、はい。そうですね。コンセプトは……何にしますか?」
星野シキア
「そうね……。楽器をただ鳴らすのだけじゃあ味足りないわね。……作曲にする?」
真瀬莉緒
「作曲……?」
星野シキア
「ええ。……あまりしたくはないけど……どうかしら……?」
僕は特に考えていなかったから拒否をする理由はなかった。
真瀬莉緒
「わかりました。作曲にしましょう。」
僕がそう言うと星野さんはゆっくりと頷いた。
真瀬莉緒
「それじゃあ、コンセプトは何にしますか?」
星野シキア
「そうね……ちなみに莉緒は何か考えているの?」
真瀬莉緒
「そうですね……。この声優さんに曲を提供する程でやってみますか?」
そう言って、僕は携帯から声優さんの画像を星野さんに見せる。
星野シキア
「…………。」
真瀬莉緒
「星野さん?」
星野さんは声優さんの画像を見ると目を逸らす仕草が見られた。この声優さんはあまり好きではないのだろうか?
星野シキア
「いえ……大丈夫。いいわ。そうしましょう。」
真瀬莉緒
「ありがとうございます。じゃあ早速曲調あたりを決めて行きましょう!」
僕たちは曲調はどうするかをひたすら考えていた。思いのほか長引き昼休憩が終わりそうなため、僕たちは放課後に音楽室に向かった。
六郭星学園 音楽室
音楽室に入るとそこには見慣れない先生らしき人がいた。
??
「ん?君たちは……?」
真瀬莉緒
「失礼します。僕は真瀬莉緒。Kクラスです。」
星野シキア
「星野シキアです。同じくKクラスです。」
鹿崎咲也
「そうかそうか!俺は鹿崎咲也(しかさき さくや)。Eクラスの担任を努めている。よろしくな!」
真瀬莉緒
「は、はい。よろしくお願いします。」
Eクラス……この人が姉さんの担任か……。たしかに聞いたことがある。2年間同じ担任だったって言っていたのは知っていたけど……3年生でも同じ担任とは……。姉さんも運がすごいな。
真瀬莉緒
「ちなみに……先生はここで何を……?」
鹿崎咲也
「ああ、今は月川と真瀬の作曲を聞いていたところなんだ。」
真瀬莉緒
「え、それじゃあ、姉さんもここに今いるんですか?」
鹿崎咲也
「おお!やっぱり君が莉緒くんか!双子だとは聞いたけど、瓜二つだな!」
真瀬莉緒
「はい……よく言われます。」
鹿崎咲也
「今、真瀬たちもいて準備室で練習しているけど、どうだ。呼ぼうか?」
真瀬莉緒
「ああ、それは……。」
星野シキア
「大丈夫です。」
星野さんはタクトくんがあまり好きではないのだろうか、僕が答える前に返答した。
真瀬莉緒
「……大丈夫です。いつでも会えますから。」
僕は星野さんの意見を汲み取り、断ることにした。
鹿崎咲也
「そうか。それもそうだな!」
真瀬莉緒
「はい。それでは失礼しま……」
??
「あら、莉緒じゃない。」
真瀬莉緒
「ね、姉さん……!」
声をかけてきたのは姉さんだった。隣にはタクトくんもいる。
真瀬志奈
「莉緒。ちゃんと課題やってるの?相手に失礼のないようにね。」
真瀬莉緒
「わかってるよ。ちゃんとやってます。」
真瀬志奈
「ふーん。それならいいけど。あ、私の隣の人、月川さんって言うの。」
月川タクト
「ああ、真瀬さん。莉緒とはルームメイトだから知ってるよ。」
真瀬志奈
「えっ、そうなんですか?」
真瀬莉緒
「うん。ちゃんと挨拶もしたよ。僕の隣の方は……」
真瀬志奈
「星野さんね。私のルームメイトだから。」
真瀬莉緒
「え?そ、そうなの?」
星野シキア
「ええ、ご挨拶も丁寧にしてくれたわ。姉弟揃って礼儀正しいのね。」
真瀬莉緒
「ま、まあ……ありがとうございます。」
星野シキア
「それにしても……やっぱり作曲なのね。タクト。」
月川タクト
「ああ、真瀬さんは楽器も弾ける。それに俺には声優さんに歌を作ると言う夢があるんだ。」
星野シキア
「夢物語ね……。叶うものも叶わない……そうなのに……。」
月川タクト
「なっ……!?シキア!」
タクトくんが詰め寄りそうになったとき、鹿崎先生が、止めに入った。
鹿崎咲也
「こらこら、喧嘩はやめろ!2人とも同じ課題でもいいだろ!それに夢を持つのも持たないのも自由だ!個人で任せればいいだろ?」
星野シキア
「……。わかりました。」
月川タクト
「すみません。少し、血迷いました。」
鹿崎咲也
「いいんだよ。さ、練習再開するか!」
月川タクト
「ああ、先生すみません。僕たち他に用事があってそろそろ寮に戻ろうと思っていたんです。」
鹿崎咲也
「そうか、じゃあ莉緒くんたちがよければ先生に練習の様子を見てもいいかな?」
真瀬莉緒
「僕はかまいませんが……。」
隣の星野さんをチラッと見る。
星野シキア
「構いません。意見は必要ですので……。」
鹿崎咲也
「そうか……ありがとう!では見させてもらいます!」
真瀬志奈
「それでは先生……失礼します。」
月川タクト
「失礼します。」
タクトくんは星野さんを睨むように見ながら音楽室を離れた。
鹿崎咲也
「さて……練習する前に聞きたいことがあるんだが……。」
星野シキア
「なんでしょうか?」
鹿崎咲也
「作曲練習だろ?コンセプトとかあれば教えてほしいんだけど……。」
星野シキア
「…………。」
星野さんは黙り込んでいる。答える様子はあまり見えないため、僕が答えることにした。
真瀬莉緒
「コンセプトとしてはこの声優さんに歌ってほしいと思っているのですが……。」
鹿崎咲也
「おお、この声優さんか!……ん?この声優さんなら確か3月に曲のオーディション開催するはずだぞ。」
真瀬莉緒
「本当ですか!?」
鹿崎咲也
「もしあれなら応募してみたらどうだ?課題の方も6月の予定だったけど、3月になったから1年かけたら相当な曲になるだろう。」
真瀬莉緒
「え!?3月になったんですか?」
鹿崎咲也
「ああ、色々あってな……もし良ければだけど……どうだ?」
真瀬莉緒
「僕は……構いませんけど……。」
僕は星野さんの顔をチラッと見る。
星野シキア
「……少し……考えてもいいですか?」
鹿崎咲也
「ああ、別に課題だけでも問題ないからな。」
星野シキア
「ありがとうございます。では……練習の方に取り掛からせていただきます。」
鹿崎咲也
「おう!是非見させてくれ!」
僕たちはそれぞれエレキギターを持ち2人で軽くセッションを始めた。
それを見た鹿崎先生は圧巻の様子で見ていた。
鹿崎咲也
「おお……!なかなかのセンスだな!これなら1年あればかなりの実力になるぞ!」
真瀬莉緒
「あ、ありがとうございます。」
星野シキア
「ありがとうございます。このくらいなら余裕です。」
鹿崎咲也
「そうか、そうか。これからも頑張れよ!じゃあ俺はそろそろ職員室に戻る。何かあった時は相談に乗るからな!」
そう言って鹿崎先生は教室から出てった。
星野シキア
「さて……練習を続けましょう。莉緒。なかなかやるわね。」
真瀬莉緒
「まあ……色々と楽器を教わったからね。両親に。」
星野シキア
「そう……。」
真瀬莉緒
「何があっても楽器をやっていたらなんとかなるよって言われてね……。今はこうして色々楽器を弾いていたおかげで音楽関係者の知り合いも多いよ。」
星野シキア
「そう…………羨ましい……。」
真瀬莉緒
「え?」
星野シキア
「いえ、なんでもないわ。こっちの話。さあ、練習を続けましょう。」
真瀬莉緒
「…………はい。」
その後、僕たちはコンセプトや曲調などの話さないといけないこと以外、僕たちは何も話さなかった。
ある程度話したあと、練習を切り上げ、寮の方に戻った。
六郭星学園寮 莉緒・タクトの部屋
月川タクト
「お疲れ様!練習の方はどうだった?」
真瀬莉緒
「なんとかね……。曲調はある程度決まったよ。」
月川タクト
「そうか。それなら順調だね!」
放課後のタクトくんの様子とは違い、明るく話しかけてくれる。見た感じでは無理をしているようには見えない。
真瀬莉緒
「あの時……大丈夫だった?」
月川タクト
「ああ、シキアとのやりとりね。大丈夫。まあ……少し取り乱したと言えば取り乱したけど……。」
真瀬莉緒
「…………。」
何を言えばいいのかわからない……。そのまま沈黙が続くと思ったが、タクトくんはこんなことを言った。
月川タクト
「少しさ、シキアと作った曲聞かせてよ。」
真瀬莉緒
「星野さんと作った曲……?」
月川タクト
「ある程度はできているの?」
真瀬莉緒
「まあ……曲のベースくらいならできてはいるけど……。」
月川タクト
「それなら是非聞かせてよ!どんな曲なのか楽しみだよ!」
真瀬莉緒
「……わかった。少しだけなら。」
僕は言われるがままにタクトくんに曲を弾く……。
タクトくんは目を瞑っていた。演奏が終わるとすぐにその目を開いた。
月川タクト
「うん。とてもいい曲だね。」
真瀬莉緒
「あ、ありがとう。」
月川タクト
「……もしかすると莉緒なら……。」
真瀬莉緒
「僕なら……。」
月川タクト
「……シキアはあまり夢に対して否定的だろ?」
真瀬莉緒
「確かに……そう言われるとそうだけど……。」
月川タクト
「でもこの曲なら、きっと……シキアも夢を目指すことができるかもしれない!莉緒、鹿崎先生から聞いたよ。この曲、あの声優さんに応募するかもしれないんだろ?」
真瀬莉緒
「それは……星野さん次第だと思う。」
月川タクト
「そうか……なら……!説得するんだよ!この曲で夢を目指すことを!」
真瀬莉緒
「夢……。」
月川タクト
「期待している。どんなことでもいい。説得して欲しい……このとおり!」
タクトくんは頭を下げる。説得できるかといえば……自信はあまりない。ただ……こうして頭を下げられると断ることもそれは辛い。
真瀬莉緒
「出来るかはわからないけど……説得はしてみるよ……。」
月川タクト
「そうか、ありがとう!きっとこの曲なら大丈夫だよ!シキアのことよろしく!」
真瀬莉緒
「はい……。」
月川タクト
「よし、じゃあ少しだけ出かけるからあとは自由にしていいからね!じゃあ!」
そう言ってタクトくんは部屋から離れた。
真瀬莉緒
「説得か……。」
僕には説得できるんだろうか……。無理矢理でも夢を持たせるのもどうかとは思うけど……。
星野さんはどうして夢に否定的なのか……そこを知らないと説得は難しいかもしれない。
僕はもう少し親しくなってから説得しようと思い……そのまま寝床に着くことにした……。
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その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
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