1 / 5
1
しおりを挟む
ボディから出たミシッていうヤバめの音であたしの浅い眠りは中断させられた。
「ヤッバイ音した」
「アンタが雑に扱うからでしょ。まだローンも終わってないのに」
「だったら自分で運転すりゃいいじゃん。」
「うっさい。順番じゃん」
お尻に敷かれて曲がっちゃたナインスターを一吸いして、伸びをすると体がポキポキなった。なんかロッカーっぽくてこっそりニヤついていると、サクがこちらに右手を伸ばしてきたので一本握らせる。
「で、今どの辺?」
「ふえーふうほんーゆ」
「わかんねーよ。タバコおけ」
網膜に滑り込んできたeye phoneの通知を開くとマップが表示された。まだ道のりの半分とちょっとしかきていない。
「めんどくさいなースイは。いいかげんオープン・ワイア使いなよ。いちいち送るのめんどくさいんだから」
「それだけはヤ」
サクがわざとらしくため息を漏らす。あたしがO・Wを使えないことを知ってるくせに。
O・Wはあたしが生まれる少し前から主に人間に普及し始めた、ある種の通信装置だ。これをインストールした人間どうしが近づくと、相手が考えていることがリアルタイムで頭の中に入ってくる。さっきみたいに言葉で伝えづらいイメージを瞬時に共有できるから便利なのはわかるけど、あたしはなぜかうまく使いこなせない。
まだスターチャイルドだった頃、初めてママにO・Wをつけてもらった日、あたしはウキウキで、クラスで一番髪の色が綺麗だったソーマ君に会いにいった。ソーマ君の髪は彼の母星を照らす恒星の影響で、透き通った群青色をしていた。根本の方は夜を、毛先は明け方の色を写しとったみたいで、おまけに見る角度によっては金色に輝いて見えた。あたしはソーマ君とその髪を、影からこっそり見てはいろんなことを想像した。彼の髪は夜から明け方にかけての御伽噺を綴った絵巻物だった。そこでは美しく、熱く、切ないお話が生きていた。その時のあたしは、ソーマ君から生まれるあまりにも綺麗なイメージをどうしても伝えたかったんだと思う。
でもソーマ君はあたしが近くに行こうとすると顔に恐怖を浮かべて逃げていってしまった。あたしはわけがわからなくなった。その後、悲しさが押し寄せてきて泣き始めた。すると、周りにいた他の生徒たちも頭を抑えて足早に遠ざかっていった。
後で分かったことだけど、あたしはO・Wをつけると、自分の思考の全てを周囲の人にぶつけてしまうようだった。あたしの思考は他の人にノイズとして飛んでいってしまう。あたしはすぐにオープンワイヤを外した。「自分の心を一つの星としてイメージすればいいんだよ。大事なことは星の真ん中に隠して、外向きの考えとか情報をその周りに衛星として浮かべとけばいいだけ。衛星はぐるぐる回るからその勢いのまま外に出せばいいのよ」ソーマ君の一件の後サクはこう言ったけれどあたしの心の星はそんなロマンチックな喩えなんて受け付けないくらいにゴツゴツした岩石惑星だった。
「あと20分で交代だかんね」
「あいあい」
窓の外にはつるりとした黄色い小惑星が浮かんでいた。
「ヤッバイ音した」
「アンタが雑に扱うからでしょ。まだローンも終わってないのに」
「だったら自分で運転すりゃいいじゃん。」
「うっさい。順番じゃん」
お尻に敷かれて曲がっちゃたナインスターを一吸いして、伸びをすると体がポキポキなった。なんかロッカーっぽくてこっそりニヤついていると、サクがこちらに右手を伸ばしてきたので一本握らせる。
「で、今どの辺?」
「ふえーふうほんーゆ」
「わかんねーよ。タバコおけ」
網膜に滑り込んできたeye phoneの通知を開くとマップが表示された。まだ道のりの半分とちょっとしかきていない。
「めんどくさいなースイは。いいかげんオープン・ワイア使いなよ。いちいち送るのめんどくさいんだから」
「それだけはヤ」
サクがわざとらしくため息を漏らす。あたしがO・Wを使えないことを知ってるくせに。
O・Wはあたしが生まれる少し前から主に人間に普及し始めた、ある種の通信装置だ。これをインストールした人間どうしが近づくと、相手が考えていることがリアルタイムで頭の中に入ってくる。さっきみたいに言葉で伝えづらいイメージを瞬時に共有できるから便利なのはわかるけど、あたしはなぜかうまく使いこなせない。
まだスターチャイルドだった頃、初めてママにO・Wをつけてもらった日、あたしはウキウキで、クラスで一番髪の色が綺麗だったソーマ君に会いにいった。ソーマ君の髪は彼の母星を照らす恒星の影響で、透き通った群青色をしていた。根本の方は夜を、毛先は明け方の色を写しとったみたいで、おまけに見る角度によっては金色に輝いて見えた。あたしはソーマ君とその髪を、影からこっそり見てはいろんなことを想像した。彼の髪は夜から明け方にかけての御伽噺を綴った絵巻物だった。そこでは美しく、熱く、切ないお話が生きていた。その時のあたしは、ソーマ君から生まれるあまりにも綺麗なイメージをどうしても伝えたかったんだと思う。
でもソーマ君はあたしが近くに行こうとすると顔に恐怖を浮かべて逃げていってしまった。あたしはわけがわからなくなった。その後、悲しさが押し寄せてきて泣き始めた。すると、周りにいた他の生徒たちも頭を抑えて足早に遠ざかっていった。
後で分かったことだけど、あたしはO・Wをつけると、自分の思考の全てを周囲の人にぶつけてしまうようだった。あたしの思考は他の人にノイズとして飛んでいってしまう。あたしはすぐにオープンワイヤを外した。「自分の心を一つの星としてイメージすればいいんだよ。大事なことは星の真ん中に隠して、外向きの考えとか情報をその周りに衛星として浮かべとけばいいだけ。衛星はぐるぐる回るからその勢いのまま外に出せばいいのよ」ソーマ君の一件の後サクはこう言ったけれどあたしの心の星はそんなロマンチックな喩えなんて受け付けないくらいにゴツゴツした岩石惑星だった。
「あと20分で交代だかんね」
「あいあい」
窓の外にはつるりとした黄色い小惑星が浮かんでいた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?
俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。
この他、
「新訳 零戦戦記」
「総統戦記」もよろしくお願いします。


【本格ハードSF】人類は孤独ではなかった――タイタン探査が明らかにした新たな知性との邂逅
シャーロット
SF
土星の謎めいた衛星タイタン。その氷と液体メタンに覆われた湖の底で、独自の知性体「エリディアン」が進化を遂げていた。透き通った体を持つ彼らは、精緻な振動を通じてコミュニケーションを取り、環境を形作ることで「共鳴」という文化を育んできた。しかし、その平穏な世界に、人類の探査機が到着したことで大きな転機が訪れる。
探査機が発するリズミカルな振動はエリディアンたちの関心を引き、慎重なやり取りが始まる。これが、異なる文明同士の架け橋となる最初の一歩だった。「エンデュランスII号」の探査チームはエリディアンの振動信号を解読し、応答を送り返すことで対話を試みる。エリディアンたちは興味を抱きつつも警戒を続けながら、人類との画期的な知識交換を進める。
その後、人類は振動を光のパターンに変換できる「光の道具」をエリディアンに提供する。この装置は、彼らのコミュニケーション方法を再定義し、文化の可能性を飛躍的に拡大させるものだった。エリディアンたちはこの道具を受け入れ、新たな形でネットワークを調和させながら、光と振動の新しい次元を発見していく。
エリディアンがこうした革新を適応し、統合していく中で、人類はその変化を見守り、知識の共有がもたらす可能性の大きさに驚嘆する。同時に、彼らが自然現象を調和させる能力、たとえばタイタン地震を振動によって抑える力は、人類の理解を超えた生物学的・文化的な深みを示している。
この「ファーストコンタクト」の物語は、共存や進化、そして異なる知性体がもたらす無限の可能性を探るものだ。光と振動の共鳴が、2つの文明が未知へ挑む新たな時代の幕開けを象徴し、互いの好奇心と尊敬、希望に満ちた未来を切り開いていく。
--
プロモーション用の動画を作成しました。
オリジナルの画像をオリジナルの音楽で紹介しています。
https://www.youtube.com/watch?v=G_FW_nUXZiQ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる