兄のために嫌々婚約したのに、妹が邪魔してきて婚約破棄されました。絶対に許しません!

法華

文字の大きさ
上 下
1 / 1

兄のために嫌々婚約したのに、妹が邪魔してきて婚約破棄されました。絶対に許しません!

しおりを挟む


「......えっ?」

思わず、息が止まりました。
目の前の男性が、私の婚約者が一体何を言っているのか、少しもわかりませんでした。

「だから、お前との婚約を破棄したいって、そういう話だよ」

面倒臭そうな顔でそう言うのは、ローワン。腕のいいシェフを集めてきて、レストラン経営で成り上がった典型的成金男であり、私の婚約者でもあります。
どうしてそんな男と私、カラ=ブライトが婚約したのかというと、料理人の私の兄が勤めていたお店が半年前に潰れてしまったからです。
私がローワンと結婚する代わりに、ローワンの店で兄を雇う。そういう約束でした。

「......ど、どういうことです?だって、私は」
「うるせぇな。とにかく辞めたくなったんだから、辞めるんだよ」
 
こちらに話す時間を与えてくれないローワン。
そんな。結婚式の準備も進んで、こんな土壇場になって。

「兄の話は!?兄を雇ってくれるという話は、どうなるんです!?」
「......知るかよ、そんなの」

ローワンの視線は冷たかった。顔には、邪悪な笑みが張り付いていた。

こんなことって。信じた私が馬鹿だった、と思う反面、「もう着ることはないだろうから」と、愛用していた割烹着を捨てようとまでした兄のためだと思って、屈辱に耐えてきたこの半年間は何だったのか、という怒りが湧いてきました。

驚きが怒りに変わると、同時にこれまで気づかなかった違和感にも気付き始めました。
ここはローワンの店です。なのに、なぜ関係のない妹、ミーシャがいるのでしょう。

「......あんたは、何でここにいるのよ」

聞いてみると、ローワンが彼女を庇うようにこちらを睨みつけました。

「俺は、こいつと結婚するんだ。だから、お前はもう要らないんだよ」

絶句しました。妹だって、私とローワンの婚約の意味を知っていたはずなのです。
知っていながら、ローワンの誘いに乗った。どうして?

私は、ミーシャがにやりと笑っているのを見逃しませんでした。
彼女は、兄に嫌がらせをしているのです。兄は私にもミーシャにもとても優しかったけれど、妹は私より可愛いから、半分の愛なんかでは満足できませんでした。それで、以前から兄に対して憎しみのようなものを抱いているようなのです。

彼女の目的は私とローワンの婚約をご破算にすることで、最初彼と結婚する気なんてないのでしょう。トラブルになっても、容姿端麗で可憐なミーシャと醜悪な成金のローワンでは、前者に分があるに決まっています。
それに気づかないローワンも、とんでもない馬鹿だと言えるでしょう。

そんな身勝手な理由で、私の決意を、兄の人生を踏みにじられたらたまったものではありません。
私は怒りにわなわな震えながら、その場は帰るしかありませんでした。





 一週間後、私が彼の店の前を通りかかると、そこには既に閉店の張り紙がありました。
理由は分かっています。シェフが全員、彼の店を去ったのです。

私が果たして本当にローワンに好かれていたかは分かりませんが、少なくともローワンの店のシェフたちには気に入られていました。それは私が暇があれば仕込みを手伝うからなのか、普段ローワンには決してかけてもらえないだろう労いの言葉を口にするからなのか、理由はわかりませんが、とにかくそうでした。

私とローワンとの婚約破棄が伝えられると、シェフたちは私の元へと駆けつけ、本当は何があったのか、事情を聞いてくれました。
そして真実を知ると、あんな店からは前から出ていきたいと思っていた、いい機会だ、と、我先にと辞表を叩きつけたのです。

可哀想......ではありませんが、全てを失ってしまったローワンは、ミーシャに異常なまでに固執し、彼女は半ば軟禁状態に置かれていると聞きます。
まぁずる賢い彼女ならそのうち隙を見て逃げ出すでしょうが、いいお灸にはなるでしょう。もしどうにも出られないようなら、その時は姉妹のよしみで助けてあげましょうかね。

そして辞めたシェフたちは、私に新しいレストランのオーナーをやってくれないかと持ちかけてきました。
資金は皆で出し合って、ローワンの店よりはずっと小さいですが、レストランをオープンさせることができました。もちろん、兄もその一員として頑張っています。
もともと有名店のシェフたちだったこともあり評判は上々で、毎日たくさんのお客さんが入るようになりました。

何より、兄がいきいきと働いている姿を見られるのが、本当に嬉しいです。



fin.
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

2021.05.16 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2021.05.16 法華

感想ありがとうございます!
よりよい作品が書けるよう精進します!

解除

あなたにおすすめの小説

【短編完結】記憶なしで婚約破棄、常識的にざまあです。だってそれまずいって

鏑木 うりこ
恋愛
お慕いしておりましたのにーーー  残った記憶は強烈な悲しみだけだったけれど、私が目を開けると婚約破棄の真っ最中?! 待って待って何にも分からない!目の前の人の顔も名前も、私の腕をつかみ上げている人のことも!  うわーーうわーーどうしたらいいんだ!  メンタルつよつよ女子がふわ~り、さっくりかる~い感じの婚約破棄でざまぁしてしまった。でもメンタルつよつよなので、ザクザク切り捨てて行きます!

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】妹が欲しがるならなんでもあげて令嬢生活を満喫します。それが婚約者の王子でもいいですよ。だって…

西東友一
恋愛
私の妹は昔から私の物をなんでも欲しがった。 最初は私もムカつきました。 でも、この頃私は、なんでもあげるんです。 だって・・・ね

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。  この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

私、物語りを改竄します。だって、女神様が全否定するんだもん

紅月
恋愛
病気で死んだけど、生まれ変わる前に号泣する女神様に会った。 何やらゲームのパッケージを見て泣きながら怒っている。 「こんなの私の世界で起こるなんて認めない」 あらすじを読んでいた私に向かって女神様は激おこです。 乙女ゲームはやった事ないけど、この悪役令嬢って書かれている女の子に対してのシナリオ、悲惨だ。 どのストーリーを辿っても処刑一択。 ならば私がこの子になってゲームのシナリオ、改ざんすると女神様に言うと号泣していた女神様が全属性の魔力と女神様の加護をくれる、と商談成立。 私は悪役令嬢、アデリーン・アドラー公爵令嬢としてサレイス王国で新しい家族と共に暮らす事になった。

【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?

ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。 卒業3か月前の事です。 卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。 もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。 カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。 でも大丈夫ですか? 婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。 ※ゆるゆる設定です ※軽い感じで読み流して下さい

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。