婚約破棄された元貴族令嬢、今更何を言われても戻りません

法華

文字の大きさ
上 下
5 / 5

第五話

しおりを挟む
 伯爵は、暴行と殺人未遂の罪で王室法廷で裁かれた。彼の地位と財産にも関わらず、伯爵に不利な証拠は圧倒的だった。
 伯爵は王国の鉱山で5年間の重労働を言い渡された。彼の爵位と土地は剥奪され、全財産は王室によって差し押さえられた。伯爵は「不当な」判決に激怒したが、王は動じなかった。

「その残忍さと暴力で、貴族の称号を汚した。もはや伯爵と呼ばれる資格はない。彼を鉱山に連れて行け!」

 元伯爵は鎖につながれ、上等な衣服を剥がされ、ぼろきれの服を着せられて引きずり出された。彼は都から遠く離れた、人里離れた鉱山で働かされた。そこでは、原始的な道具で岩を削りながら、長く過酷な労働を強いられた。

 夜は、囚人たちのバラックのむき出しの石の床の上で眠った。夜が明けるたびに、伯爵は看守の叫び声と鎖の音で起こされ、他の囚人たちとともに鉱山に連れ戻された。

 月日が経つにつれ、伯爵の柔らかく甘やかされた手は、ひび割れ、水ぶくれができた。顔色は日焼けして浅黒くなり、体はやせ衰えた。しかしそれも、アメリアにとってはどうでもいいことだった。



 伯爵の襲撃から数週間、ジェイコブは負傷した肩が治るまで入念に治療していた。アメリアは一日に何度も彼の様子を見に来て、心配していた。彼の体力を回復させるために、毎日栄養のある食事を用意した。

 ある晩、アメリアが刺繍をしている間、ジェイコブは座って本を読んでいた。焚き火の光が彼女の顔を照らし、繊細な顔立ちを際立たせていた。丁寧に刺繍をするアメリアは唇をかみしめて集中していた。

 伯爵に襲われたときに感じた彼女を守りたいという激しい衝動とは違う、温かい感情がジェイコブの中に広がった。ジェイコブは今、アメリアへの献身が単なる義務を超えていることに気づいた。慈愛に満ちた賢明な女性として、彼女のことを深く気にかけるようになっていたのだ。

 それから、ジェイコブはアメリアの近くにいる機会を求めるようになった。アメリアが庭の手入れをしているとき、彼は彼女と一緒に豊かな土を掘った。食事の支度をしているときは、偶然にもアメリアの手に触れ、視線を交わす機会を大切にした。

 夜には、ジェイコブは友情がロマンスへと発展していく詩や戯曲を選んで音読した。アメリアはその詩の一節にかすかに顔を赤らめたが、彼にやめてくれとは言わなかった。彼女もまた、二人の間に親密さが増していくのを楽しんでいるようだった。

 ある晴れた日、アメリアとジェイコブはコテージ近くの芝生の丘にピクニックに出かけた。二人は毛布を広げ、ジェイコブが用意したサンドイッチとフルーツを楽しんだ。

 そしてふかふかの芝生に横たわり、青空を流れる雲を眺めた。最初はためらいがちに、ジェイコブはアメリアの手に手を伸ばした。彼女が彼の手を温かく握り返すと、彼の心は希望で高鳴った。

 二人は横向きになり、向かい合った。ジェイコブはゆっくりと身を乗り出し、アメリアの唇に優しくキスをした。アメリアは離れなかった。その瞬間、二人の深い愛情は、唇の感触と高鳴る心臓の鼓動によって証明されたのだ。

 それから二人は、野草の咲く田園地帯を長いこと散歩し、肩を寄せ合い、手を繋いで歩いた。夜には焚き火のそばで一緒に本を読み、アメリアはジェイコブの肩に頭を置き、疲れを癒した。

 二人が一緒に出かけているのを見た町の人たちは、みんな訳知り顔で微笑んだ。ジェイコブとアメリアの甘く美しい関係は誰の目にも明らかだった。

 それからの二人の未来は絶えず明るく、喜びに満ちているのであった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約破棄?喜んで!!

もちもち太郎
恋愛
「お前とは婚約破棄をする!公爵家令嬢ミリアンナ!」 卒業を祝う夜会で婚約者であり王太子のノエルに婚約を破棄された。 だがしかし、そんなことでへこたれるミリアンナではない。 婚約破棄?喜んで!

貴方に必要とされたいとは望みましたが……

こことっと
恋愛
侯爵令嬢ラーレ・リンケは『侯爵家に相応しい人間になれ』との言葉に幼い頃から悩んでいた。 そんな私は、学園に入学しその意味を理解したのです。 ルドルフ殿下をお支えするのが私の生まれた意味。 そして私は努力し、ルドルフ殿下の婚約者となったのでした。 だけど、殿下の取り巻き女性の1人グレーテル・ベッカー男爵令嬢が私に囁きました。 「私はルドルフ殿下を愛しております。 そして殿下は私を受け入れ一夜を共にしてくださいました。 彼も私を愛してくれていたのです」

第一王子様は妹の事しか見えていないようなので、婚約破棄でも構いませんよ?

新野乃花(大舟)
恋愛
ルメル第一王子は貴族令嬢のサテラとの婚約を果たしていたが、彼は自身の妹であるシンシアの事を盲目的に溺愛していた。それゆえに、シンシアがサテラからいじめられたという話をでっちあげてはルメルに泣きつき、ルメルはサテラの事を叱責するという日々が続いていた。そんなある日、ついにルメルはサテラの事を婚約破棄の上で追放することを決意する。それが自分の王国を崩壊させる第一歩になるとも知らず…。

裏切者には神罰を

夜桜
恋愛
 幸せな生活は途端に終わりを告げた。  辺境伯令嬢フィリス・クラインは毒殺、暗殺、撲殺、絞殺、刺殺――あらゆる方法で婚約者の伯爵ハンスから命を狙われた。  けれど、フィリスは全てをある能力で神回避していた。  あまりの殺意に復讐を決め、ハンスを逆に地獄へ送る。

【短編】公爵子息は王太子から愛しい彼女を取り戻したい

宇水涼麻
恋愛
ジノフィリアは王太子の部屋で婚約解消を言い渡された。 それを快諾するジノフィリア。 この婚約解消を望んだのは誰か? どうやって婚約解消へとなったのか? そして、婚約解消されたジノフィリアは?

大魔法使いの娘ですが、王子からの婚約破棄は気にせず、この力をもって幸せに生きていきます。

四季
恋愛
一見栗色の髪を生まれ持った十八歳の平凡な娘でしかない私――ガーベラには、実は秘密がある。

婚約破棄とのことですが、後悔しないでくださいね?

マルローネ
恋愛
「エリザ、お前は私の家宝を壊した。その罰として婚約破棄をしてもらう」 「えっ?」 伯爵令嬢のエリザは婚約者のニック侯爵令息によって無実の罪で婚約破棄されてしまう。 しかし、ニックは気付いていなかった。この選択が後悔に繋がることを……。

まさか、今更婚約破棄……ですか?

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
チャールストン伯爵家はエンバー伯爵家との家業の繋がりから、お互いの子供を結婚させる約束をしていた。 エンバー家の長男ロバートは、許嫁であるチャールストン家の長女オリビアのことがとにかく気に入らなかった。 なので、卒業パーティーの夜、他の女性と一緒にいるところを見せつけ、派手に恥を掻かせて婚約破棄しようと画策したが……!? 色々こじらせた男の結末。 数話で終わる予定です。 ※タイトル変更しました。

処理中です...