妹は、私を家から追い出すだけでなく婚約者まで欲しいようです

法華

文字の大きさ
上 下
1 / 3

第1話

しおりを挟む

「エリーゼ。君との婚約を、破棄したいんだ」

レイモンド様は、唐突にそう言いました。
本当に、突然のことでした。遠方での舞踏会も無事終わり、宿泊先に戻ってきた、ちょうどその時。ぽつり、と独り言をつぶやくように、彼は婚約破棄を切り出したのです。

「......一体、どういうことですか?」
「本当に申し訳ないと思ってる。だが......君の妹のライラが、僕と結婚したいと。ご両親を通じて、そう申し入れがあった」

ああ、そういうことですか。
その名前を聞いたときに、私はすとんと腑に落ちました。

私は、大公の娘です。父は優れた施政者であり、人としても親としても、とても素敵なお方でした。
ですが、一人目の妻.....つまり私の母が死に、傷心の父に悪い女が擦り寄ってきたせいで、あの人は変わってしまった。
あの女と、あの女の子供.....ライラの言いなりになった父は、私を理不尽にも家から追い出し、勘当したのです。

その時、私はまだ十三歳。一人で生きていくことなど、できやしない年齢でした。
そんな私を引き取ってくれたのが、中小貴族だったレイモンド様のお父様。彼の家で私はすくすくと育ち、未来の婚約者、つまりレイモンド様と出会い、愛し合うようになったのです。

そんな私が、ライラは妬ましかったのでしょう。不幸のどん底に落としたはずなのに、ささやかな幸せをつかもうとしている私が。
それで、嫌がらせをしようとした。彼女が思いついた一番効果的なやり方が、レイモンドを奪うことだった。つまりは、そういうことです。

「ライラが、どんな女かは分かっている。それに僕は、エリーゼ、君を心から愛しているんだ。ただ.....大公の命に背くことなど、僕にはできない。そんな事をしたら、お父様や、ご先祖様が創り上げてきた、このレイモンド家は......!」
「.....いいんです。レイモンド様は、何も悪くありません」

大公の娘を名乗る事を許されなくなった今の私は、ただの庶民。
そもそもそんな私とレイモンド様が結婚しようとすること自体が、身の程知らずだったのです。



でも。
それでも、やっぱり、私はレイモンド様と結婚したかった。

悔しくてたまらない思いをぐっと堪え、私は自室の扉を閉めました。
翌朝になれば、私たちは他人同士、別々の道を歩む。

さようなら、レイモンド様。
もう、貴方とは一生会えないかもしれません。


ですが、私も黙って去るほど物分かりのいい女ではありません。
ライラの......あの女の思い通りにはさせない。
レイモンド様の迷惑にならないように、最後まで、足掻いてみせます。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

妹の方が好みなのかと思っていたら……実は

四季
恋愛
領地持ちの家の長女として生まれたリリーナ・フォレストは、家の事情で、同じ領地持ちの家であるノーザン家の長男カストロフ・ノーザンと婚約したのだが……。

婚約者を妹に奪われました。気分が悪いので二人を見なくて良い場所へ行って生きようと思います。

四季
恋愛
婚約者を妹に奪われました。気分が悪いので二人を見なくて良い場所へ行って生きようと思います。

ヒロインは嘲笑う

真麻一花
恋愛
婚約破棄を宣言された少女は、原因となった女とそれを取り巻く婚約者達を見つめながら、なぜこんな事になったのかを思い返していた。

婚約破棄してきた王子、我が父に復讐される。~彼はすべてを失いました……意外な形で~

四季
恋愛
婚約破棄してきた王子、我が父に復讐される。

婚約者を奪えて良かったですね! 今どんなお気持ちですか?

四季
恋愛
「お姉様、申し訳ありませんけれど、ダルビン様はいただきますわ」 ある日突然腹違いの妹からそんなことを告げられた。 気付いた時には既に婚約者を奪われていて……。

ことあるごとに絡んでくる妹が鬱陶しいので、罠にかけました

四季
恋愛
わがままに育った妹は、私の大事なものをことあるごとに奪ってくる。しかも父親は妹を可愛がっていてまっとうな判断ができない。 これまでは諦めるだけだった。 でももう許さない。 妹の特性を利用し、罠にはめるーー!

妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った

ルイス
恋愛
伯爵令嬢のファラ・イグリオは19歳の誕生日に侯爵との婚約が決定した。 昔からひたむきに続けていた貴族令嬢としての努力が報われた感じだ。 しかし突然、妹のシェリーによって奪われてしまう。 両親もシェリーを優先する始末で、ファラの婚約は解消されてしまった。 「お前はお姉さんなのだから、我慢できるだろう? お前なら他にも良い相手がきっと見つかるさ」 父親からの無常な一言にファラは愕然としてしまう。彼女は幼少の頃から自分の願いが聞き届けられた ことなど1つもなかった。努力はきっと報われる……そう信じて頑張って来たが、今回の件で心が折れそうになっていた。 だが、ファラの努力を知っていた幼馴染の公爵令息に助けられることになる。妹のシェリーは侯爵との婚約が思っていたのと違うということで、返したいと言って来るが……はあ? もう遅いわよ。

ずっと嫌なことと迷惑なことしかしてこなかった父とは縁を切りますね。~後は一人寂しく生きてください~

四季
恋愛
ずっと嫌なことと迷惑なことしかしてこなかった父とは縁を切りますね。

処理中です...