上 下
2 / 4

第二話

しおりを挟む


「ど、どういうことだ、ニード?」

国王様が動揺した様子でニードに問いかけます。

「詳しいことは、彼女から」

どこから出てきたのかさっぱりわからりませんが、とにかくニード殿下は自信満々です。
そんな彼の背後から、ひょっこりと一人の女が出てきました。

「......えっとー、エリスといいます。昔マシューさんから、ひどいいじめを受けました!」

おいおいおい。
目が泳ぎまくっているのですが。というか、この女はいったい誰ですか?顔も見たことがないのですが。
ていうか、その程度の下準備で王室に喧嘩売るとか、もしかして馬鹿?

「彼女は学院時代、同じクラスだったマシューから執拗な暴力、嫌がらせの数々を受けたのです。理由は彼女が好きだった男性をエリスが横取りしたから、という身勝手なものです。父上は、この事実をご存じでしたか?」
「い、いや......」
「この女は、王室に相応しくありません!選んだあなたが責任をもって、しかるべき処分をしていただきたい!」

激しい口調で国王様をなじるニード殿下。

「そもそも、私は怪しいと思っていたんだ!この女ときたら、まるで何もできやしない!受け答えも生意気だし、のろまで時間にもルーズだしで、もううんざりしていたんだ。皆だってそうだろ!?」

そう言って、彼はその場にいた来客たちに同意を求めました。

しかし、

「さあ......」
「いや......」
「そんなことは.......」

来客たちの反応は、なんだか鈍いようです。

「ど、どうした!もうこの女に遠慮する必要なんてないぞ!」

焦るニード殿下ですが、それ以上に動揺しているのが、エリスとかいう女。
ははん。私は、どうしてこの女がこんなに無謀な挑戦をしてきたのかわかってきました。

おそらく、彼女は毎日のようにニード殿下から私の愚痴を聞かされてきたのでしょう。
そして、殿下の「皆本当はマシューのことが嫌いなんだ」なんて言葉を真に受けて、そうであるならば騙し通せると踏んだ。

けれど、お生憎様。
私は今まで、ニード殿下のわがままに耐えながら、それはもうがむしゃらに公務に、また貴族たちとの関係作りに励んできました。それが、内戦を起こさないため私に課せられた責務だったからです。
その結果、私についたあだ名は「鉄の皇太子妃」。万に一つも間違いがあってはならないと神経を尖らせた結果、周りからは完全無欠、過去最高の皇太子妃とまで言われてしまいました。

そんな私が、学院時代とは言え、いじめという生涯付きまとうような弱みを握らせるなんて、にわかには信じられないでしょう。
後は、私がちょっと一押しすれば、すぐに誤解は晴れます。


ずいぶん面倒なことをしてくれましたね、ニード殿下。
責任を取る覚悟は、おありで?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

真実の愛、その結末は。

もふっとしたクリームパン
恋愛
こうしてシンディは幸せに暮らしました、とさ。 前編、後編、おまけ、の三話で完結します。 カクヨム様にも投稿してる小説です。内容は変わりません。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

【完結】あなた方は信用できません

玲羅
恋愛
第一王子から婚約破棄されてしまったラスナンド侯爵家の長女、ファシスディーテ。第一王子に寄り添うはジプソフィル子爵家のトレニア。 第一王子はひどい言いがかりをつけ、ファシスディーテをなじり、断罪する。そこに救いの手がさしのべられて……?

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

婚約者に「愛することはない」と言われたその日にたまたま出会った隣国の皇帝から溺愛されることになります。~捨てる王あれば拾う王ありですわ。

松ノ木るな
恋愛
 純真無垢な心の侯爵令嬢レヴィーナは、国の次期王であるフィリベールと固い絆で結ばれる未来を夢みていた。しかし王太子はそのような意思を持つ彼女を生意気と見なして疎み、気まぐれに婚約破棄を言い渡す。  伴侶と寄り添う心穏やかな人生を諦めた彼女は悲観し、井戸に身を投げたのだった。  あの世だと思って辿りついた先は、小さな貴族の家の、こじんまりとした食堂。そこには呑めもしないのに酒を舐め、身分社会に恨み節を唱える美しい青年がいた。  どこの家の出の、どの立場とも知らぬふたりが、一目で恋に落ちたなら。  たまたま出会って離れていてもその存在を支えとする、そんなふたりが再会して結ばれる初恋ストーリーです。

やめてくれないか?ですって?それは私のセリフです。

あおくん
恋愛
公爵令嬢のエリザベートはとても優秀な女性だった。 そして彼女の婚約者も真面目な性格の王子だった。だけど王子の初めての恋に2人の関係は崩れ去る。 貴族意識高めの主人公による、詰問ストーリーです。 設定に関しては、ゆるゆる設定でふわっと進みます。

処理中です...