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第一話
しおりを挟む「プラムが呼んでる、行かなくちゃ」
私の婚約者、オッズ卿の口癖。毎日のようにこの言葉をつぶやいては、いそいそと家を出ていきます。そのまま、朝になるまで帰ってこないこともしばしばです。
プラムとは、どうやら彼の幼馴染のよう。本人曰く「妹のよう」な存在らしいですが、少なくともプラム嬢の方はどう考えてもオッズ卿に気があります。でなければ、婚約者がいる男性を頻繁に夜中に呼び出すなんてありえません。
それに、彼の「妹のよう」理論も怪しいものです。何度か彼のあとを尾けていったことがあるのですが、その時に見た二人の様子は、どう見たって兄妹ではなく恋人同士のそれでした。何ならキスとかしちゃってましたし。
彼は、私を舐めているのだと思います。親同士が決めた政略結婚、どうせ何をしたって婚約が解消されることはないと。悔しかったらそっちも愛人の一人くらい作っても構わない、とさえ思っているかもしれません。
でも、私はこんな形で、人生における大事な一区切りである結婚を、棒に振りたくはないのです。この先一生、別の女のところに通い続ける男性と一緒に暮らすなど、到底耐えられないのです。
だから、私は、彼を問い詰めることにしました。
「私との結婚か、プラム嬢か。今ここで、どちらを選ぶかはっきりさせてください」
彼は笑って、こう答えました。
「当然、プラムだ。彼女には私がいないとダメなんだ。君が私を必要としないというのなら、どうぞ出ていけばいい。行く場所があれば、の話だが」
余裕のある返事でした。まさか私が本当に出ていくとは、少しも思っていないのでしょう。
確かに、私に行く場所はありません。この婚約を破棄したら、両親からは勘当されるでしょう。そんな女を拾ってくれる男性も、どこにもいないかもしれません。
それでも、私は。
ここで意地を張らなければ、この先一生後悔するような、おぼろげな予感。
その感覚に身を任せ、勢いよく書類を叩きつけたのです。
「リゼ・リィンカーネーション。今ここで正式に、貴方との婚約を破棄します!」
オッズ卿の笑みが消え、濁った眼がこちらを睨みつけます。
「本当にいいんだな?後悔しても遅いぞ」
私は、内心で震えながら、気丈を装って言いました。
「後悔上等。このまま貴方の背中を見つめ続けるより、ずっとまし」
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