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第2章 神奮闘~マカダミア王国編~
第40話 聖なる夜に贖罪の誓い~サンセの過去~⑤
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ミスティーが顔を赤くしたのは、サンセが見せた気だるい表情に、あろう事か何時ぞやのビターとサンセが顔を近付けていた時の“胸元がチラリと見えていた気だるげなサンセ”が重なってしまったからだった――
(私のバカバカバカバカバカぁぁぁー! 何思い出してるの!? 私の変態! ほら! 言わんこっちゃない! サンセットさんも変なもの見る目(※前話ラスト部分のサンセの事)でこっち見てるじゃない!)
ミスティーはパニックで心の中で叫び散らかしていた、が――
サンセが自分を見ている現状に、脳内でサンセの艶っぽい姿を思い浮かべていた変態の罪悪感で、ミスティーの顔の火照りも高鳴る鼓動も酷くなる一方だった――
サンセはミスティーの様子が以前の喧嘩腰じゃない事や、ビター以外に赤く染る事のない頬が赤い事に調子を狂わされていた――
(……てか、どんどん顔赤くなってない? まさか、冗談抜きにほんとに体調悪いとか? そんな子を面倒に巻き込むとか……ビター何してくれちゃってんの……)
「……とりあえず、そこ座れば? 疲れるでしょ?」
サンセは入口付近に立ったままのミスティーに、自分が腰掛けているソファーの正面を指差して勧めた。
(へ!? 今の距離でも思い出して心臓に悪いのに、サンセットさんの正面に座るなんて今より近くなるじゃない!……でも、確かにここに立ちっぱなしの人が居たら誰だって気にして気遣うわ……)
サンセとミスティーは互いの心境を知る由もなく、この先どんどんすれ違いを生んでいく事になる――
ミスティーは動揺を悟られない様にと、サンセに怪しまれずに振る舞うミッションをやるつもりで自然にするつもりだったが――
赤い顔のままソファーまで歩く緊張を隠しきれていない足取りも、ギクシャクした座る動作も自然どころか不自然でしかなかった――
(……男嫌いは相変わらずみたいだね)
サンセはミスティーのその不自然さを、嫌いな男に近付くのが心底嫌だからだと思っていた。
「あ、あああんまり……こ 、こここっち……見ないで下さいよ!?」
ミスティーはサンセが自分を見ている事に耐えられず、ミッション設定はどこへやらの動揺しまくりの上擦り声で何とか伝えると、サンセは呆れる様に鼻で笑う――
「ハイハイ、見ないから」
(早いとこ夜会に出ないで済む方法と、脱出方法考えないと――)
サンセは言葉通り、ミスティーを見ないように顔だけ横を向けて足を組んで座ると、考える素振りで顎に手を添えた。
ミスティーは礼服で着飾った普段と違うサンセの顔立ちや、ひとつひとつの仕草の艶っぽさに、思わずまじまじと見入ってしまった――
(っ……なんでいちいち絵になる綺麗さなの!?……あ……あの唇でビター様とキキキスを!?……はっ! せっかく横向いてくれてるのに何考えてるの!? 私の変態!)
ミスティーはサンセから結局視線を逸らせず、あの時のビターとサンセが脳裏にずっとチラついて火照りも動悸もおさまらない――
そんなミスティーの様子をサンセが気付かない訳もなく――
「……こっち見るなって言う割に、やけにこっち見てるみたいけど? 僕になんか用?」
サンセはミスティーの方を見ないまま不機嫌そうに呟いた――
サンセが不機嫌なのは、嵌められて面倒に巻き込まれたからだけでなく、地下牢にいた間はまともに寝れていないせいで、脱出案を考えるべき頭が上手く回らないからだった。
「え!? よ、よよよよ用なんて――」
「無いなら僕からひとつ忠告というか、アドバイスだけど……そんな赤い顔で男見ない方がいいよ」
「へ!?」
サンセは尚もミスティーの方を見ないまま平然と喋っているのに対して、ミスティーは言われた事にドキッと動揺した――
「大抵の男……特に貴族のバカとかは、好意持たれてるって勘違いして……何かされちゃうかもね?」
「なっ!?」
サンセの口から出てきたまさかの言葉に、ミスティーは更に真っ赤になって立ち上がった――
「……もしかして僕に襲われると思った? 確かに僕も貴族だけど……僕を貴族のバカ達と一緒にしないで欲しいんだけど」
「ごごごごごめんなさい!」
サンセは一緒にされて心外だとばかりに不機嫌そうに呟いた。ミスティーは慌てて謝り、そんな意味で立ち上がった訳ではないと示す為に再び腰掛けた――
ミスティーが立ち上がったのは“何かされる”という言葉に動揺したのも半分は事実だが――
もう半分は、自分が今“好意を持たれてる”と思われるような顔をしていた事に対しての動揺だった――
(私はそんな顔でサンセットさんを見てたの? まままさか……そんなわけない――)
「……で? 結局さっき何を考えて赤い顔で僕を見てたの?」
「へ!?」
ミスティーの動揺を知ってか知らずか、サンセはミスティーを揶揄うように見てニヤリと笑った。
(まぁ……この動揺ぶりじゃ、どうせビターが僕にしがみついてた時の事辺りでしょ? あの時真っ赤になって逃げてったし……ん? じゃあ、さっきからずっと顔赤いのも体調不良じゃなくて、まさかそれ?)
(言える訳がない……あの時の艶っぽいサンセットさんを思い出したら、あの時のビター様との光景まで思い出して、この唇がビター様とキスしたのかとか考えてたなんて……絶対言えない!!)
ふたりはそう思い思いに考えていた――
サンセの考えは当たらずといえども遠からずだったが、ミスティーの考えがその遥か斜め上を行き、絶対当たる訳がなかった――
「……い、いいいい言えるような事は、とっ特にななっ無いですよ!?」
「へぇ……じゃあ、言えないような事考えてたんだ? やっらしー」
「っ!」
ミスティーはサンセの揶揄言葉を真に受け、変態の罪悪感から反射的に立ち上がったかと思うと、頭を深く下げてお詫びの礼をした――
「え……?」
「……そ、その……こここの間は……そ、その……見てしまって……ごごごめんなさい!」(※胸元チラリの艶っぽいサンセを)
突然頭を下げられてポカンと呆気に取られたサンサに、ミスティーは言いにくい部分を言わずに伝えた事で、ふたりのやり取りのすれ違いが始まる事になる――
「え……別に謝る事じゃないでしょ?」(※ハグ等のスキンシップを見たぐらいで)
「……邪魔まで……してしまったので」(※顔を近付けキスしようとしてる所)
「あんなのいつもの事だし――」(※ハグ等のスキンシップ)
「え!? いいいつも……しししてるんですか!?」(※ビターとキスを)
「え? そんな驚く事? キールだってよくするし――」(※ハグ等のスキンシップ)
「キール様とも!?」(※キスを)
ミスティーはあまりの衝撃に言葉を失い、わなわなと怒りに身体を震わせ、頬の火照りも怒りで冷えきった――
サンセはそんなミスティーの反応に違和感を感じていた――
「……確かに性格は悪いと思ってましたが……サンセットさん……最低です! 見損ないました! 女の……いえ……男の敵です!!」(※二股する事)
ミスティーはサンセを鋭く睨みつけて啖呵を切ったが、場はピリッと引き締まるどころか、緩んだ変な空気で静まり返る――
「……えっと……ごめん……何の話? 僕はハグとかのスキンシップの事を言ってたんだけど?」
「…………え?」
ミスティーが呆気に取られたのも束の間で、そのミスティーの表情から勘違いだったと察したサンセの逆襲が始まる――
「さっき……性格悪いだの、最低だの、見損なっただの色々散々な事言われたんだけど……何と勘違いしてたか……僕は聞く権利あるよね?」
「そ、そそそそそれは――」
「あるよね?」
サンセは身に覚えのない事で侮辱されたのを根に持っているフリをして聞き出そうと、冷ややかな目でミスティーを見てニヤリと笑った――
ミスティーは、手強いサンセに隠し通すのは不可能と、肌チラ案件と顔近付け案件から勘違いの経緯を話す羽目になった――
10分後――
「……あれでそこまで勘違い出来るとか……引くって言うより、逆にすごいんだけど」
サンセは呆れを通り越して、ミスティーの話を面白半分に聞いた感想を零した。
その後、サンセはミスティーにあの時の詳しい状況を質問攻めされる事になり、サンセが言える範囲(※自殺未遂の事は伏せて)で答えると、誤解は程なくして解けるのだった――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何ら関係の無いミスティーの変態告白話だったが、サンセはそれで夜会に出ないで済む方法を思いつき、突然礼服のジャケットを脱ぎ始める――
「へ!? ちょちょ、ななな何で急に服を脱ぐんですか!?」
ミスティーは顔を真っ赤にして顔を手で覆うも、ちゃっかり指先を広げて覗き見ていた――
「……あのさ……変な期待してる所申し訳ないけど、シャツは脱ぐ予定ないんだけど……。それとも……脱いだ方がいい?」
サンセは呆れてミスティーを横目で見た後、揶揄うように妖艶に微笑んだ――
「なっ!? そ、そそそそそれは――」
「っ……見る気満々とか……ブレないのはさすがだね」
ミスティーは尚も指を広げたまま見ていて、そんなミスティーの変態ぶりにサンセはクスリと笑った。
サンセは、恥ずかしさで真っ赤になったミスティーを後目に、脱いだジャケットを持って風呂場のドアを開けた――
(要するに……着れなくなればいいわけだから――)
サンセがジャケットを空のバスタブに放り込んで水で濡らし始めると、ミスティーは風呂場のドアからひょっこり顔を覗かせた――
「なるほど! この服が着れなくなれば婚約者アピールにならないですもんね! そうと決まれば私も――」
「は!? 何考えてんの……正気?」
ドレスを脱ごうと手を掛けたミスティーを、サンセは慌てて制した。
「だって、このドレスで夜会に行ったら、またサンセットさんを好きな子達にあれこれ言われるかもなんですよ!?」
「その言い分はよくわかるけど……そもそも、脱いだらどんな格好になるかわかってんの?」
ミスティーはサンセの言葉を理解するのに数秒を要して真っ赤な顔で俯き、サンセは呆れた溜息を吐く――
「……家に行けば替えの夜会のドレスってあったりする?」
「あ……両親が前もって準備してくれてたと思います。このドレスはビター様に呼ばれて急遽着せられた物なので……」
「それなら、さっさとここを出るしかないか……。この手だけは後が面倒くさくなりそうだからやりたくなかったんだけど――」
サンセはそう言いながら鍵の掛かった入口へ向かうと、ドアノブをガチャガチャと動かしたり、ドアを軽く叩き、強度や大体のドアの厚さを確認する――
「……サンセットさん?」
「……これなら大丈夫そう」
「え?」
ミスティーはサンセが何をしようとしているのか意味もわからず首を傾げたその瞬間――
サンセの華麗なる回し蹴りでドアがバキッと蹴破られたのだ――
(あーあ……これで怒られて謹慎が更に伸びるのは確定か……。ドアも蹴破れない頑丈なドアにされそうだし……)
「……なっ!? こんな事出来るなら早くやって下さいよ! 私が恥を告白し損じゃないですかー!」
サンセの憂鬱な思考を吹き飛ばすように、ミスティーが不満そうに喚いた――
「心配しなくても、ビターには言わないでいてあげる。……ミスティーがかなりの変――」
「っ!!」
ミスティーはサンセにそれ以上言わせないようにと、慌ててサンセの口を自身の手で塞ぐ――
その時間はわずかだったはずなのに、ミスティーには時が止まったように思えた――
自身の掌がサンセの唇に触れている事実や、その感触に、ジワジワと羞恥心が侵食して全身に広がり、ミスティーは動悸と顔の火照りで気が動転していた――
一方、サンセは口を突然塞がれ驚くも、自身の手でミスティーの手を剥がして下ろさせると、ミスティーの思考はお見通しとばかりに妖艶に微笑んで耳元で囁く――
「(……何想像してるの? 変・態・さん?)」
「なっ!?」
ミスティーはわかりやく顔を更に真っ赤に染めた――
「ふっ……早く逃げないとビターに見つかるよ?」
サンセはミスティーの反応を見て楽しげに笑うと、揶揄うように言い捨て走り去って行った――
すると、ミスティーは腰が砕けてその場に座り込んだ――
(っ……何なのもう……無駄に色気振り撒かないで……。サンセットさんは……心臓に悪すぎるわ――)
ミスティーは今回の件で、サンセに近付く事勿れと改めて思うのだが――
今までと違う別の意味でそう思った事に気付くのは、まだ先になりそうだ――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サンセは見つからないように隠れながら兵舎に忍び込むと、兵士に支給される外套を羽織った。
(……急がないと……見つかって連れ戻される前に――)
サンセは周囲を警戒しつつ、平民街までやって来た――
サンセはズボンのポケットに手を忍ばすと、礼服に着替えた際に一緒にしまった“血で汚れた白くて青い瞳のうさぎのぬいぐるみ”を取り出した――
(……先輩このぬいぐるみどこで買ったんだろう。確か、時期を過ぎて安く負けて貰ったって言ってたから……さすがに同じのはもうないか――)
サンセはライアンがしたかったであろう願いを叶える為に、商店街を探し歩いた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空はすっかり暗くなったが、聖なる夜を楽しむ賑わいや街灯りで明るいぐらいで、足元は昼過ぎから降り始めた雪が積もって白く輝いていた――
(っ……寒っ。幸い今は雪が止んでるけど……薄着に外套羽織るぐらいじゃ対して暖かくないや……)
サンセは口元に両手を持っていき、息を吐いて温める。その手にはプレゼント等を入れるのに適した綺麗なピンクの紙袋が下がっていた――
サンセの見据える視線の先には、ライアンの家があった――
(……知り合いだっていうお店の人に事情を説明したら、快く場所を教えてくれたのは助かったけど――)
『――あの人を返してよ――』
サンセの頭の中に響くライアンの妻の声が、サンセをその先に踏み入れる事を拒ませた。
(……さすがにまだ、ちゃんと会う勇気はない)
サンセはドアの横にピンクの紙袋を置くと、呼び出しのブザーを鳴らした――
「――はーい!」
家の中から声がして、足音が近付いて来るのを確認したサンセは、ライアンの家の前から急いで立ち去った――
サンセの姿が見えなくなった後、そのドアが開いた――
「どなたで……あら? 誰も居ない?……あら? これは……?」
ライアンの妻がサンセの置いていったピンクの紙袋に気付き、中を覗くと――
「っ! ライアン……な……の……?」
ライアンの妻は半信半疑ながらも、ポロポロと涙を零しながら中身を取り出した――
それは、小さなラッピングされた小箱と、11本のピンクのガーベラの花束で、ピンクのガーベラの意味は感謝、本数の意味と合わせるとこうなる――
――あなたは私の最愛の人、ありがとう――
ライアンの妻は号泣しながら崩れ落ちると、その目線の先に、雪が積もっていたからこそ残ったプレゼントの贈り主の痕跡に気付いた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サンセは立ち去った後、教会の敷地の奥(※孤児院がある方とは逆)にある、集団墓地のライアンの墓を訪ねていた――
先程の花束は、葬儀の時に聞こえた話を参考に、花に詳しい奥さんなら伝わるであろうと、サンセなりに考えたものだった――
ライアンは最期にサンセに感謝を伝えていた事から、“愛妻家だったっぽい先輩なら、きっと最後に奥さんにこう伝えたかっただろう”と――
ぬいぐるみは結局同じ物は見つからず、同じサイズの色違いっぽい“薄茶色のうさぎのぬいぐるみ”を購入した――
「……先輩……同じのプレゼントできるまで頑張って探すから……今回はあれで許して下さい」
(てか、限定物とか言ってたし……もう一生買えなかったりして……)
サンセは日頃ライアンに接していた通り、表面上は可愛い後輩を演じつつ、心根は途方もない買い物の予感に気分が沈む――
「……その時は僕が生きてる限り、先輩の代わりにプレゼントを贈り続けるし……僕に出来る事なら何でもするからさ――」
サンセはライアンに贖罪の誓いを述べると、外套の深めのポケットに手を忍ばせた――
「……先輩にはこれ持って来てあげたんで…………って、どうやって開けるのこれ……」
サンセが取り出したのは、ライアンが好きだったというお酒なのだが、未成年で尚且つ貴族のサンセには、栓抜きで開ける概念など知る由もなかった――
「割る訳にもいかないし……仕方ないから……先輩、根性で飲んで下さい…………ふはっ……怒りそー」
サンセはライアンの墓にお酒を供えると、最後は猫を被らず年相応の笑顔でケラケラ笑った――
もしかすると、その笑顔こそがライアンが1番見たいプレゼントだったかもしれない――
ライアンと聖なる夜の日を楽しんだのも束の間で、あの日の経験から周囲の気配察知には特に気を配っていたサンセは、人の気配を察知した――
「……っ!? 誰!?」
サンセが周囲を見回すと、上空から機嫌がすこぶる悪いビターがサンセの前に降り立った――
(うわー……ビターガチギレしてる……。予想以上に面倒な事になりそう――)【※詳しくはこの後のおまけ参照】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サンセがあの頃を思い返して苦い笑みを浮かべると、暫く俯いて反省していたランスが顔を上げ、何事もなかったように何か企む笑顔で僕を見た――
「あの……説教中のサンセ様の絵を描い――」
「は?」
「う……なんでもないっす……」
ランスのお決まりの言動を僕が冷たく遇うのはいつものお約束で、少し間を置いてどちらからともなく笑みが零れる――
それも、真面目な話や説教後の気まずさを後に残さない為の、僕らなりの暗黙のお約束だったりする――
僕なりの先輩としての在り方が、少し誰かに似てるのは“先輩”には秘密だ――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
アルファポリス版&ノベルアッププラス版おまけ
【おまけSSガチギレでビターがヤンデレ化!?】
ビターはサンセが部屋にいないとわかると、バスタブ内に水没したジャケットから夜会には行かないだろうと、空からサンセの行きそうな場所を必死に捜索していた――
あまりにも見つからず、ビターはまさかとライアンの家の場所を調べに一旦城へ戻り、その後家のドアを開けたまま途方に暮れるライアンの妻を発見する事になる――
ライアンの妻に事情を詳しく聞くと、雪に残されたプレゼントの贈り主の足跡を追いたいが、当然赤子を置いては行けないし、かと言って寒い冬の夜に赤子を連れても行けないと言う――
そこで、ビターは任せてくれと足跡を追ってサンセを発見し、サンセの前に降り立つ今に至るわけだ――
「……どうやらサンセには手枷と足の重りは必須みたいだな?」
「うっ…………ごめんね……。これには事情がちゃんとあって――」
「それならちゃんと言えよ!」
(いやいや、ビターが勝手に暴走した挙句に閉じ込めてどっか行ったんでしょ……)
ビターはガチギレのあまり、自分が理不尽なキレ方をしている自覚もなくなっていた、が――
サンセはバカなフリをしている都合上、そんなビターに変に反論すら出来なかった――
「サンセがまたあんな状態になってたらって……心配したんだからな!」
「あ…………心配かけてごめん」
「そう思うなら今後当分あの部屋にいろ! 当然、手枷と重り付きだからな!」
ビターの過剰なまでの心配ぶりは、サンセの自殺未遂や、魂の抜け殻のようなサンセを見た事がトラウマになってしまったからだった――
「え…………手枷とかはさすがにちょっと……部屋にはちゃんといるって約束するから――」
「その約束破ったら……ずっと俺の目の届く所に縛って監禁するからな?(……長時間なら……椅子よりベッドに縛る方が楽か?)」
ビターは冗談抜きに告げた後、真面目に考え込むようにボソリと呟いた――
(てか……それもう色々アウトでしょ……)
サンセは顔を引きつらせて苦い笑みを浮かべ、今後ビターを二度とガチギレさせてはいけないと心に誓うのだった――
元から心配性のビターは、この時期からサンセを必要以上に心配してしまうようになる――
サンセも原因を察して申し訳なく思うからこそ、ビターの心配に対して逆らうことは出来ないのだろう――
その証拠に、サンセは謹慎が解けてからもあの部屋で過ごすようになり、実家には呼び出されなければ帰らないようになった――
(※ビターを安心させる為もあるが、大半の理由は家から通うより楽な為)
ちなみに、ドアはサンセの予想通り頑丈なドアに代わり、鍵の数は3つに増やされたらしい――
(※ひとつは内側からも鍵が掛けれる普通タイプで、他の鍵はよっぽどの事がない限りは開けたまま)
※今回はガチギレ中の為で、普段はさすがにここまでの束縛発言はないですよ!?笑
※カクヨム版となろう版では【おまけの聖なる夜の日後日談】をお送りします!
【↓2023/07/04追記】
サンセとミスティーの夜会参加の有無や、過ごし方の簡易説明バージョンだったはずが、おまけの文章の長さを公平にしようと、少し詳細加筆したら簡易とは?なものになりました!笑
何やらその夜会は令嬢達が今も尚語り継ぐ伝説の出来事が起こったようで!?(※サンセ、ビター、キール、ミスティーが出てきます)
※気になった方は見に行って下さると嬉しいです!
――おまけおしまい――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
次回、サンセとランスは行動を共にする!? ティス達が研究所を出発してから城に入るまでの詳細が明らかに!? その時アビスは荒れていて!?
(私のバカバカバカバカバカぁぁぁー! 何思い出してるの!? 私の変態! ほら! 言わんこっちゃない! サンセットさんも変なもの見る目(※前話ラスト部分のサンセの事)でこっち見てるじゃない!)
ミスティーはパニックで心の中で叫び散らかしていた、が――
サンセが自分を見ている現状に、脳内でサンセの艶っぽい姿を思い浮かべていた変態の罪悪感で、ミスティーの顔の火照りも高鳴る鼓動も酷くなる一方だった――
サンセはミスティーの様子が以前の喧嘩腰じゃない事や、ビター以外に赤く染る事のない頬が赤い事に調子を狂わされていた――
(……てか、どんどん顔赤くなってない? まさか、冗談抜きにほんとに体調悪いとか? そんな子を面倒に巻き込むとか……ビター何してくれちゃってんの……)
「……とりあえず、そこ座れば? 疲れるでしょ?」
サンセは入口付近に立ったままのミスティーに、自分が腰掛けているソファーの正面を指差して勧めた。
(へ!? 今の距離でも思い出して心臓に悪いのに、サンセットさんの正面に座るなんて今より近くなるじゃない!……でも、確かにここに立ちっぱなしの人が居たら誰だって気にして気遣うわ……)
サンセとミスティーは互いの心境を知る由もなく、この先どんどんすれ違いを生んでいく事になる――
ミスティーは動揺を悟られない様にと、サンセに怪しまれずに振る舞うミッションをやるつもりで自然にするつもりだったが――
赤い顔のままソファーまで歩く緊張を隠しきれていない足取りも、ギクシャクした座る動作も自然どころか不自然でしかなかった――
(……男嫌いは相変わらずみたいだね)
サンセはミスティーのその不自然さを、嫌いな男に近付くのが心底嫌だからだと思っていた。
「あ、あああんまり……こ 、こここっち……見ないで下さいよ!?」
ミスティーはサンセが自分を見ている事に耐えられず、ミッション設定はどこへやらの動揺しまくりの上擦り声で何とか伝えると、サンセは呆れる様に鼻で笑う――
「ハイハイ、見ないから」
(早いとこ夜会に出ないで済む方法と、脱出方法考えないと――)
サンセは言葉通り、ミスティーを見ないように顔だけ横を向けて足を組んで座ると、考える素振りで顎に手を添えた。
ミスティーは礼服で着飾った普段と違うサンセの顔立ちや、ひとつひとつの仕草の艶っぽさに、思わずまじまじと見入ってしまった――
(っ……なんでいちいち絵になる綺麗さなの!?……あ……あの唇でビター様とキキキスを!?……はっ! せっかく横向いてくれてるのに何考えてるの!? 私の変態!)
ミスティーはサンセから結局視線を逸らせず、あの時のビターとサンセが脳裏にずっとチラついて火照りも動悸もおさまらない――
そんなミスティーの様子をサンセが気付かない訳もなく――
「……こっち見るなって言う割に、やけにこっち見てるみたいけど? 僕になんか用?」
サンセはミスティーの方を見ないまま不機嫌そうに呟いた――
サンセが不機嫌なのは、嵌められて面倒に巻き込まれたからだけでなく、地下牢にいた間はまともに寝れていないせいで、脱出案を考えるべき頭が上手く回らないからだった。
「え!? よ、よよよよ用なんて――」
「無いなら僕からひとつ忠告というか、アドバイスだけど……そんな赤い顔で男見ない方がいいよ」
「へ!?」
サンセは尚もミスティーの方を見ないまま平然と喋っているのに対して、ミスティーは言われた事にドキッと動揺した――
「大抵の男……特に貴族のバカとかは、好意持たれてるって勘違いして……何かされちゃうかもね?」
「なっ!?」
サンセの口から出てきたまさかの言葉に、ミスティーは更に真っ赤になって立ち上がった――
「……もしかして僕に襲われると思った? 確かに僕も貴族だけど……僕を貴族のバカ達と一緒にしないで欲しいんだけど」
「ごごごごごめんなさい!」
サンセは一緒にされて心外だとばかりに不機嫌そうに呟いた。ミスティーは慌てて謝り、そんな意味で立ち上がった訳ではないと示す為に再び腰掛けた――
ミスティーが立ち上がったのは“何かされる”という言葉に動揺したのも半分は事実だが――
もう半分は、自分が今“好意を持たれてる”と思われるような顔をしていた事に対しての動揺だった――
(私はそんな顔でサンセットさんを見てたの? まままさか……そんなわけない――)
「……で? 結局さっき何を考えて赤い顔で僕を見てたの?」
「へ!?」
ミスティーの動揺を知ってか知らずか、サンセはミスティーを揶揄うように見てニヤリと笑った。
(まぁ……この動揺ぶりじゃ、どうせビターが僕にしがみついてた時の事辺りでしょ? あの時真っ赤になって逃げてったし……ん? じゃあ、さっきからずっと顔赤いのも体調不良じゃなくて、まさかそれ?)
(言える訳がない……あの時の艶っぽいサンセットさんを思い出したら、あの時のビター様との光景まで思い出して、この唇がビター様とキスしたのかとか考えてたなんて……絶対言えない!!)
ふたりはそう思い思いに考えていた――
サンセの考えは当たらずといえども遠からずだったが、ミスティーの考えがその遥か斜め上を行き、絶対当たる訳がなかった――
「……い、いいいい言えるような事は、とっ特にななっ無いですよ!?」
「へぇ……じゃあ、言えないような事考えてたんだ? やっらしー」
「っ!」
ミスティーはサンセの揶揄言葉を真に受け、変態の罪悪感から反射的に立ち上がったかと思うと、頭を深く下げてお詫びの礼をした――
「え……?」
「……そ、その……こここの間は……そ、その……見てしまって……ごごごめんなさい!」(※胸元チラリの艶っぽいサンセを)
突然頭を下げられてポカンと呆気に取られたサンサに、ミスティーは言いにくい部分を言わずに伝えた事で、ふたりのやり取りのすれ違いが始まる事になる――
「え……別に謝る事じゃないでしょ?」(※ハグ等のスキンシップを見たぐらいで)
「……邪魔まで……してしまったので」(※顔を近付けキスしようとしてる所)
「あんなのいつもの事だし――」(※ハグ等のスキンシップ)
「え!? いいいつも……しししてるんですか!?」(※ビターとキスを)
「え? そんな驚く事? キールだってよくするし――」(※ハグ等のスキンシップ)
「キール様とも!?」(※キスを)
ミスティーはあまりの衝撃に言葉を失い、わなわなと怒りに身体を震わせ、頬の火照りも怒りで冷えきった――
サンセはそんなミスティーの反応に違和感を感じていた――
「……確かに性格は悪いと思ってましたが……サンセットさん……最低です! 見損ないました! 女の……いえ……男の敵です!!」(※二股する事)
ミスティーはサンセを鋭く睨みつけて啖呵を切ったが、場はピリッと引き締まるどころか、緩んだ変な空気で静まり返る――
「……えっと……ごめん……何の話? 僕はハグとかのスキンシップの事を言ってたんだけど?」
「…………え?」
ミスティーが呆気に取られたのも束の間で、そのミスティーの表情から勘違いだったと察したサンセの逆襲が始まる――
「さっき……性格悪いだの、最低だの、見損なっただの色々散々な事言われたんだけど……何と勘違いしてたか……僕は聞く権利あるよね?」
「そ、そそそそそれは――」
「あるよね?」
サンセは身に覚えのない事で侮辱されたのを根に持っているフリをして聞き出そうと、冷ややかな目でミスティーを見てニヤリと笑った――
ミスティーは、手強いサンセに隠し通すのは不可能と、肌チラ案件と顔近付け案件から勘違いの経緯を話す羽目になった――
10分後――
「……あれでそこまで勘違い出来るとか……引くって言うより、逆にすごいんだけど」
サンセは呆れを通り越して、ミスティーの話を面白半分に聞いた感想を零した。
その後、サンセはミスティーにあの時の詳しい状況を質問攻めされる事になり、サンセが言える範囲(※自殺未遂の事は伏せて)で答えると、誤解は程なくして解けるのだった――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
何ら関係の無いミスティーの変態告白話だったが、サンセはそれで夜会に出ないで済む方法を思いつき、突然礼服のジャケットを脱ぎ始める――
「へ!? ちょちょ、ななな何で急に服を脱ぐんですか!?」
ミスティーは顔を真っ赤にして顔を手で覆うも、ちゃっかり指先を広げて覗き見ていた――
「……あのさ……変な期待してる所申し訳ないけど、シャツは脱ぐ予定ないんだけど……。それとも……脱いだ方がいい?」
サンセは呆れてミスティーを横目で見た後、揶揄うように妖艶に微笑んだ――
「なっ!? そ、そそそそそれは――」
「っ……見る気満々とか……ブレないのはさすがだね」
ミスティーは尚も指を広げたまま見ていて、そんなミスティーの変態ぶりにサンセはクスリと笑った。
サンセは、恥ずかしさで真っ赤になったミスティーを後目に、脱いだジャケットを持って風呂場のドアを開けた――
(要するに……着れなくなればいいわけだから――)
サンセがジャケットを空のバスタブに放り込んで水で濡らし始めると、ミスティーは風呂場のドアからひょっこり顔を覗かせた――
「なるほど! この服が着れなくなれば婚約者アピールにならないですもんね! そうと決まれば私も――」
「は!? 何考えてんの……正気?」
ドレスを脱ごうと手を掛けたミスティーを、サンセは慌てて制した。
「だって、このドレスで夜会に行ったら、またサンセットさんを好きな子達にあれこれ言われるかもなんですよ!?」
「その言い分はよくわかるけど……そもそも、脱いだらどんな格好になるかわかってんの?」
ミスティーはサンセの言葉を理解するのに数秒を要して真っ赤な顔で俯き、サンセは呆れた溜息を吐く――
「……家に行けば替えの夜会のドレスってあったりする?」
「あ……両親が前もって準備してくれてたと思います。このドレスはビター様に呼ばれて急遽着せられた物なので……」
「それなら、さっさとここを出るしかないか……。この手だけは後が面倒くさくなりそうだからやりたくなかったんだけど――」
サンセはそう言いながら鍵の掛かった入口へ向かうと、ドアノブをガチャガチャと動かしたり、ドアを軽く叩き、強度や大体のドアの厚さを確認する――
「……サンセットさん?」
「……これなら大丈夫そう」
「え?」
ミスティーはサンセが何をしようとしているのか意味もわからず首を傾げたその瞬間――
サンセの華麗なる回し蹴りでドアがバキッと蹴破られたのだ――
(あーあ……これで怒られて謹慎が更に伸びるのは確定か……。ドアも蹴破れない頑丈なドアにされそうだし……)
「……なっ!? こんな事出来るなら早くやって下さいよ! 私が恥を告白し損じゃないですかー!」
サンセの憂鬱な思考を吹き飛ばすように、ミスティーが不満そうに喚いた――
「心配しなくても、ビターには言わないでいてあげる。……ミスティーがかなりの変――」
「っ!!」
ミスティーはサンセにそれ以上言わせないようにと、慌ててサンセの口を自身の手で塞ぐ――
その時間はわずかだったはずなのに、ミスティーには時が止まったように思えた――
自身の掌がサンセの唇に触れている事実や、その感触に、ジワジワと羞恥心が侵食して全身に広がり、ミスティーは動悸と顔の火照りで気が動転していた――
一方、サンセは口を突然塞がれ驚くも、自身の手でミスティーの手を剥がして下ろさせると、ミスティーの思考はお見通しとばかりに妖艶に微笑んで耳元で囁く――
「(……何想像してるの? 変・態・さん?)」
「なっ!?」
ミスティーはわかりやく顔を更に真っ赤に染めた――
「ふっ……早く逃げないとビターに見つかるよ?」
サンセはミスティーの反応を見て楽しげに笑うと、揶揄うように言い捨て走り去って行った――
すると、ミスティーは腰が砕けてその場に座り込んだ――
(っ……何なのもう……無駄に色気振り撒かないで……。サンセットさんは……心臓に悪すぎるわ――)
ミスティーは今回の件で、サンセに近付く事勿れと改めて思うのだが――
今までと違う別の意味でそう思った事に気付くのは、まだ先になりそうだ――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サンセは見つからないように隠れながら兵舎に忍び込むと、兵士に支給される外套を羽織った。
(……急がないと……見つかって連れ戻される前に――)
サンセは周囲を警戒しつつ、平民街までやって来た――
サンセはズボンのポケットに手を忍ばすと、礼服に着替えた際に一緒にしまった“血で汚れた白くて青い瞳のうさぎのぬいぐるみ”を取り出した――
(……先輩このぬいぐるみどこで買ったんだろう。確か、時期を過ぎて安く負けて貰ったって言ってたから……さすがに同じのはもうないか――)
サンセはライアンがしたかったであろう願いを叶える為に、商店街を探し歩いた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空はすっかり暗くなったが、聖なる夜を楽しむ賑わいや街灯りで明るいぐらいで、足元は昼過ぎから降り始めた雪が積もって白く輝いていた――
(っ……寒っ。幸い今は雪が止んでるけど……薄着に外套羽織るぐらいじゃ対して暖かくないや……)
サンセは口元に両手を持っていき、息を吐いて温める。その手にはプレゼント等を入れるのに適した綺麗なピンクの紙袋が下がっていた――
サンセの見据える視線の先には、ライアンの家があった――
(……知り合いだっていうお店の人に事情を説明したら、快く場所を教えてくれたのは助かったけど――)
『――あの人を返してよ――』
サンセの頭の中に響くライアンの妻の声が、サンセをその先に踏み入れる事を拒ませた。
(……さすがにまだ、ちゃんと会う勇気はない)
サンセはドアの横にピンクの紙袋を置くと、呼び出しのブザーを鳴らした――
「――はーい!」
家の中から声がして、足音が近付いて来るのを確認したサンセは、ライアンの家の前から急いで立ち去った――
サンセの姿が見えなくなった後、そのドアが開いた――
「どなたで……あら? 誰も居ない?……あら? これは……?」
ライアンの妻がサンセの置いていったピンクの紙袋に気付き、中を覗くと――
「っ! ライアン……な……の……?」
ライアンの妻は半信半疑ながらも、ポロポロと涙を零しながら中身を取り出した――
それは、小さなラッピングされた小箱と、11本のピンクのガーベラの花束で、ピンクのガーベラの意味は感謝、本数の意味と合わせるとこうなる――
――あなたは私の最愛の人、ありがとう――
ライアンの妻は号泣しながら崩れ落ちると、その目線の先に、雪が積もっていたからこそ残ったプレゼントの贈り主の痕跡に気付いた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サンセは立ち去った後、教会の敷地の奥(※孤児院がある方とは逆)にある、集団墓地のライアンの墓を訪ねていた――
先程の花束は、葬儀の時に聞こえた話を参考に、花に詳しい奥さんなら伝わるであろうと、サンセなりに考えたものだった――
ライアンは最期にサンセに感謝を伝えていた事から、“愛妻家だったっぽい先輩なら、きっと最後に奥さんにこう伝えたかっただろう”と――
ぬいぐるみは結局同じ物は見つからず、同じサイズの色違いっぽい“薄茶色のうさぎのぬいぐるみ”を購入した――
「……先輩……同じのプレゼントできるまで頑張って探すから……今回はあれで許して下さい」
(てか、限定物とか言ってたし……もう一生買えなかったりして……)
サンセは日頃ライアンに接していた通り、表面上は可愛い後輩を演じつつ、心根は途方もない買い物の予感に気分が沈む――
「……その時は僕が生きてる限り、先輩の代わりにプレゼントを贈り続けるし……僕に出来る事なら何でもするからさ――」
サンセはライアンに贖罪の誓いを述べると、外套の深めのポケットに手を忍ばせた――
「……先輩にはこれ持って来てあげたんで…………って、どうやって開けるのこれ……」
サンセが取り出したのは、ライアンが好きだったというお酒なのだが、未成年で尚且つ貴族のサンセには、栓抜きで開ける概念など知る由もなかった――
「割る訳にもいかないし……仕方ないから……先輩、根性で飲んで下さい…………ふはっ……怒りそー」
サンセはライアンの墓にお酒を供えると、最後は猫を被らず年相応の笑顔でケラケラ笑った――
もしかすると、その笑顔こそがライアンが1番見たいプレゼントだったかもしれない――
ライアンと聖なる夜の日を楽しんだのも束の間で、あの日の経験から周囲の気配察知には特に気を配っていたサンセは、人の気配を察知した――
「……っ!? 誰!?」
サンセが周囲を見回すと、上空から機嫌がすこぶる悪いビターがサンセの前に降り立った――
(うわー……ビターガチギレしてる……。予想以上に面倒な事になりそう――)【※詳しくはこの後のおまけ参照】
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サンセがあの頃を思い返して苦い笑みを浮かべると、暫く俯いて反省していたランスが顔を上げ、何事もなかったように何か企む笑顔で僕を見た――
「あの……説教中のサンセ様の絵を描い――」
「は?」
「う……なんでもないっす……」
ランスのお決まりの言動を僕が冷たく遇うのはいつものお約束で、少し間を置いてどちらからともなく笑みが零れる――
それも、真面目な話や説教後の気まずさを後に残さない為の、僕らなりの暗黙のお約束だったりする――
僕なりの先輩としての在り方が、少し誰かに似てるのは“先輩”には秘密だ――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
アルファポリス版&ノベルアッププラス版おまけ
【おまけSSガチギレでビターがヤンデレ化!?】
ビターはサンセが部屋にいないとわかると、バスタブ内に水没したジャケットから夜会には行かないだろうと、空からサンセの行きそうな場所を必死に捜索していた――
あまりにも見つからず、ビターはまさかとライアンの家の場所を調べに一旦城へ戻り、その後家のドアを開けたまま途方に暮れるライアンの妻を発見する事になる――
ライアンの妻に事情を詳しく聞くと、雪に残されたプレゼントの贈り主の足跡を追いたいが、当然赤子を置いては行けないし、かと言って寒い冬の夜に赤子を連れても行けないと言う――
そこで、ビターは任せてくれと足跡を追ってサンセを発見し、サンセの前に降り立つ今に至るわけだ――
「……どうやらサンセには手枷と足の重りは必須みたいだな?」
「うっ…………ごめんね……。これには事情がちゃんとあって――」
「それならちゃんと言えよ!」
(いやいや、ビターが勝手に暴走した挙句に閉じ込めてどっか行ったんでしょ……)
ビターはガチギレのあまり、自分が理不尽なキレ方をしている自覚もなくなっていた、が――
サンセはバカなフリをしている都合上、そんなビターに変に反論すら出来なかった――
「サンセがまたあんな状態になってたらって……心配したんだからな!」
「あ…………心配かけてごめん」
「そう思うなら今後当分あの部屋にいろ! 当然、手枷と重り付きだからな!」
ビターの過剰なまでの心配ぶりは、サンセの自殺未遂や、魂の抜け殻のようなサンセを見た事がトラウマになってしまったからだった――
「え…………手枷とかはさすがにちょっと……部屋にはちゃんといるって約束するから――」
「その約束破ったら……ずっと俺の目の届く所に縛って監禁するからな?(……長時間なら……椅子よりベッドに縛る方が楽か?)」
ビターは冗談抜きに告げた後、真面目に考え込むようにボソリと呟いた――
(てか……それもう色々アウトでしょ……)
サンセは顔を引きつらせて苦い笑みを浮かべ、今後ビターを二度とガチギレさせてはいけないと心に誓うのだった――
元から心配性のビターは、この時期からサンセを必要以上に心配してしまうようになる――
サンセも原因を察して申し訳なく思うからこそ、ビターの心配に対して逆らうことは出来ないのだろう――
その証拠に、サンセは謹慎が解けてからもあの部屋で過ごすようになり、実家には呼び出されなければ帰らないようになった――
(※ビターを安心させる為もあるが、大半の理由は家から通うより楽な為)
ちなみに、ドアはサンセの予想通り頑丈なドアに代わり、鍵の数は3つに増やされたらしい――
(※ひとつは内側からも鍵が掛けれる普通タイプで、他の鍵はよっぽどの事がない限りは開けたまま)
※今回はガチギレ中の為で、普段はさすがにここまでの束縛発言はないですよ!?笑
※カクヨム版となろう版では【おまけの聖なる夜の日後日談】をお送りします!
【↓2023/07/04追記】
サンセとミスティーの夜会参加の有無や、過ごし方の簡易説明バージョンだったはずが、おまけの文章の長さを公平にしようと、少し詳細加筆したら簡易とは?なものになりました!笑
何やらその夜会は令嬢達が今も尚語り継ぐ伝説の出来事が起こったようで!?(※サンセ、ビター、キール、ミスティーが出てきます)
※気になった方は見に行って下さると嬉しいです!
――おまけおしまい――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
次回、サンセとランスは行動を共にする!? ティス達が研究所を出発してから城に入るまでの詳細が明らかに!? その時アビスは荒れていて!?
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