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第2章 神奮闘~マカダミア王国編~
第30話 それぞれの思惑
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昼を迎えたチョコランタ城の執務室では、バトスが早々に昼食を食べに飛び出して行った。
(バトスはジッとする護衛任務にほんと向いてないな……)
ビターは苦い笑みを浮かべ、ひとりだからこそゆっくり考え込む――
グレイからの連絡で、メティーが“自分自身に力を使っていた”と聞いた。
確かに【伝記】にはその事柄はないし、むしろ“使えたら不味い筈”だ――
【伝記】の“結末”がそう告げている――
そんな時に丁度メティーから連絡があったものの、俺の声色を察してすぐ会話は終わった。
(メティーに気を使わせたな……)
メティーは幼い子供のようで、大人顔負けに察する事も出来る――
(バトスに見習わせたいぐらいだ)
メティーと会って話した時、記憶を失ってると言っていたが、何かしっくり来ない――
記憶を失ってるんだから、きっと【伝記】に記された神の“帰るべき場所”がどこかも知らないだろう――
そう、忘れてるんじゃなくて、始めから知らないような――
それが、【伝記】とは違う赤ん坊の姿で降りて来た事に関係してるのか――
(……赤ん坊? 新たに産まれる? もしかして……メシスの言葉を借りるなら、メティーは“メシアだけど、メシアじゃない”という事か?)
何にせよ、大臣のように考える奴がいる時点で伝記の結末が起こりえる――
帰るべき場所の手掛かりを探し、早くメティーを帰さなければ――
メティーを守る為に――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マカダミア王国の廃墟にて、新たに出会ったクロウを探っていたサンセは――
最初は見た目の怪しさでクロウを疑ったものの、クロウからは大臣のような悪どい不快な気配を感じない――
クロウを信用しても良さそうだとメティーを任せ、カイトと共に2階へ上がってきた。
(にしても、メティーは大分クロウに懐いてるね……この苛立つ気持ちが何なのか……)
メティーが会って間もない人物に懐いているからなのか、クロウに嫉妬しているのか――
前者ならクロウに任せず見張る事を選ぶから、この苛立ちが後者だと思うとカイトの件と合わさり複雑だ――
部屋の前の通路で立ち止まり、先程中断した話をカイトに切り出した。
「……で? いつ思い出したの?」
「……ちゃんと思い出したのは……メティーがサンセを治した時……」
「ちゃんとって事は、その前から?」
「……僕の怪我……治してくれた時から……なんか……変だった……」
(それってビターもいた時じゃ……)
僕は思わず呆れた苦い笑みが浮かぶ――
「……騎士見習いの時習ったでしょ? 何かあったら“報・連・相”だって」(※報告・連絡・相談)
「……何が変か……よくわからなかったから……」
「あのさ、僕ら何年一緒に居ると思ってるの? そのまま言えば、いつも僕らが推測して答え導き出してるでしょ?」
(何度バトスとカイトの意味不明な発言に振り回された事か。まぁ、それで昔は“バカな振り”してビターに丸投げしてた訳だけど……)
“メシア様”を利用しようとする奴らを前にして、もう“バカな振り”をしてる場合じゃなくなった――
本性を見せた日のビターの驚いた顔は印象的だった。絶交も覚悟してたけど、冗談のように怒って不貞腐れる“親友”として変わらず接してくれた――
(……ほんと、ビターには敵わない……)
僕が当時を懐かしむ時間がある程に、カイトはずっと黙り込んでいた。カイトなりに必死に考えてはいるんだろう――
「……暖かくて……笑うと……暖かい……」
「……え?」
カイトがやっと話したと思えば、主語のない謎掛けのような暗号――
(まぁ、こんなの慣れてるけど……)
推測するに、メティーに治してもらった時の話だから『癒しの力の光が“暖かくて”』だろう。
僕自身も“優しいぬくもり”だと思ったし――
その後の“笑うと暖かい”の主語は、おそらくメティーが笑うとって事だろう――
普通なら“メティーを守るべきものと認めて”って意味に取る所だけど、カイトの今までの行動から“別の意味”も有り得る――
いつも指示以外の事をしないカイトが、メティーを抱き上げて階段を降りるなんて――
異性に優しく接するカイトは見た事がない。半分は僕の所為で苦手になってしまったようだけど――(※カイトの番外編③参照)
(……メティーは子供だから平気なのか、それとも“特別”なのか……)
僕が考え込んでる様子を伺うカイトは、至っていつも通りのぼんやり顔だから苛立つ――
「カイトは……メティーの事……どう思ってるの?」
カイトは無表情で黙り込む――
長い付き合いだからわかる“少し憂いを帯びた無表情”は、困惑――
(いつもなら黙って首を傾げるけど……少しは動揺してるっぽいね……)
「……メティーが……笑えるように……守る……」
カイトの目は真剣に僕を見据えた――
(またどっちの意味にも取れる言い方を……)
今日だけで何度目かわからない呆れた溜息を吐く――
「……そうだね。その通りだ。だからこそ、今はしっかり休まないといけない。ひとまず寝ようか」
僕がそう言うと、カイトは頷いてクロウの部屋の向かいの部屋へと入って行く。それを見届け、僕も部屋に入りベッドに寝転んだ――
(……カイト自身が“自覚ない”というか、むしろ“わかってない”んだろうな……。僕が気にしすぎなだけな気もしてきた……。ほんとに厄介な感情だ……)
カイトの気持ちがどうであろうと僕には関係ない――
僕の気持ちも“メティーの姿が成長する事”が前提で、そうじゃなきゃ抱いてはいけない想い――
(メティーは誰だって構いたくなる“可愛らしい子供”なんだから、いちいち嫉妬してたらキリがない)
邪念に現を抜かして守れなかったじゃ許されないんだ――
(蓋をして奥底へしまい込むのは慣れてる……)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
遡ること日の入り前の早朝、マカダミア研究所の薄暗い研究室に人影がふたつあった――
「……こんな時間に急に呼び出すなんて非常識極まりない」
緑髪のケールは、不機嫌そうにそう言って呼び出した人物を睨みつけた。
「……非常識? それは誰の事だろうね?」
長い黒髪のロイドが冷たい目で睨み返すと、ケールはビクッと姿勢を正して黙り込んだ。
(ロイドのこの怒り……まさか、気付かれたのか?)
ケールがそう思い動揺すると、ちょうど黒い靄がふたりの頭上に現れ、そこから出てきたアビスが綺麗に着地した。
「……思ったより早い帰りだね? アビス」
「……僕に任せたらなんだって早く終わるってわかってる癖にさー」
ロイドの嫌味に、アビスは不貞腐れたように口を尖らせながら、持ち帰った黒い半透明な球体をロイドに渡した。
(ロイドがアビスに何か頼んだのか?)
ケールはふたりのやり取りを何食わぬ顔で様子見る――
「……随分粉々だけど……アビス、手加減しろと言ったよね?」
「煩いなー。いーじゃん、どうせ再生するんだし」
ロイドの冷ややかな視線にアビスは悪びれる様子もなくケロッと返事をして、ロイドは諦めにも近い呆れた溜息を吐いた――
「……それで、実験体はどうだった?」
「……僕が斬った部分が再生して生えてきて……面倒だから壊しちゃった」
ロイドの問いかけに、アビスは再びケロッと嘘も混ぜて答え、舌を出して笑った。
「……再生か……実に素晴らしい。今再生しない所を見ると……一応、最初は手加減したようだね。アビスの攻撃だと、いつも治りが遅いからね……」
ロイドは何か含みのある言い方でアビスをジロリと眺めた――
「……ちゃんと約束守ったし、もういいよね?」
アビスはロイドの纏わり付くような視線を跳ね除けるように冷たい目で睨み返し、返事を待つ事なく再び出した黒い靄の中へと姿を消した――
「……ロイド! 私の“実験体”を勝手に使うとはどういうつもりだ!」
アビスが居なくなるや否や、ケールが怒りの声を上げた。
「……勝手に使ったのは、ケールが先だと記憶しているけど……可笑しいな?」
「っ! 使ったのはあの人だって――」
ロイドの言葉に自分が墓穴を掘ったと気付いたケールは、言い訳のように口走って悔しげに口を噤んだ。
「……あの人も本当に困ったものだね。口煩く指示して文句ばかりで、挙句に“敬うべきあの方”に……」
ロイドは呆れと失望の眼差しで机に置かれた封書を眺めた後、拳を強く握り締めた――
「……君らと“遠い親戚”だなんて不快でしかないけど……悪知恵だけは認めているよ」
そう言ってロイドは封書をケールの足元へと粗雑に投げ渡した。
「……チョコランタの消印? これは……あの人から?」
ケールは封書を開けて手紙を取り出し、内容に目を通す――
「……これは……逃げたアイツを捕まえる策?」
「ああ、その通り。ケール、お前が“ティス”を連れて行け」
「は!? なぜ私が……あの人形の事ならセルフィーに任せれば――」
「“あの女”はひとりにしたら逃げ出すかもしれないだろう?」
ケールの言葉に被せるようにロイドが鼻で笑って答えれば、今度はケールがニヤリと嗤う――
「逃げないように脅せばいい……クックック……」
「……実に素晴らしい“悪知恵”だな……」
ケールの嗤う声に、ロイドも鼻で笑ってからニヤリと嗤った――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ブロバイン大臣の事?」
「はい。どんな些細な事でも構いませんので教えて頂けませんか?」
夕暮れ時のチョコランタの城内で、帰り支度をする50代ぐらいのメイドに聞き込みをするメイドがいた――
「アンタねえ、ここの仕事を続けたいのならこんな事やめときな」
「ご忠告ありがとうございます。けれど、ご心配には及びません」
そう言うや否やそのメイドは“変装の”顔マスクを取った――
現れたのは紫の髪と瞳を持つ、清楚で儚げな美しい顔立ちの女性――
「あ、あなた様は!……た、大変失礼致しました」
「顔を上げて下さい。あ、くれぐれも私が聞き込みした事はご内密に……」
「もちろん言うわけないさ! アンタは“女の希望”なんだから!……な、馴れ馴れしく失礼しました!」
「楽な言葉使いでいいですよ」
そう言ってクスクスと笑う“女の希望”と言われたこの女性こそが、歴代初の女性王族近衛騎士、ミスティー・ランズベリー。
ビターがサンセの代わりに大臣の動向調査を任せた人物だ――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
次回、ビターの所に戻ったミスティーからの報告とは!? メティー達もティス捜索に向けて作戦会議!?
(バトスはジッとする護衛任務にほんと向いてないな……)
ビターは苦い笑みを浮かべ、ひとりだからこそゆっくり考え込む――
グレイからの連絡で、メティーが“自分自身に力を使っていた”と聞いた。
確かに【伝記】にはその事柄はないし、むしろ“使えたら不味い筈”だ――
【伝記】の“結末”がそう告げている――
そんな時に丁度メティーから連絡があったものの、俺の声色を察してすぐ会話は終わった。
(メティーに気を使わせたな……)
メティーは幼い子供のようで、大人顔負けに察する事も出来る――
(バトスに見習わせたいぐらいだ)
メティーと会って話した時、記憶を失ってると言っていたが、何かしっくり来ない――
記憶を失ってるんだから、きっと【伝記】に記された神の“帰るべき場所”がどこかも知らないだろう――
そう、忘れてるんじゃなくて、始めから知らないような――
それが、【伝記】とは違う赤ん坊の姿で降りて来た事に関係してるのか――
(……赤ん坊? 新たに産まれる? もしかして……メシスの言葉を借りるなら、メティーは“メシアだけど、メシアじゃない”という事か?)
何にせよ、大臣のように考える奴がいる時点で伝記の結末が起こりえる――
帰るべき場所の手掛かりを探し、早くメティーを帰さなければ――
メティーを守る為に――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
マカダミア王国の廃墟にて、新たに出会ったクロウを探っていたサンセは――
最初は見た目の怪しさでクロウを疑ったものの、クロウからは大臣のような悪どい不快な気配を感じない――
クロウを信用しても良さそうだとメティーを任せ、カイトと共に2階へ上がってきた。
(にしても、メティーは大分クロウに懐いてるね……この苛立つ気持ちが何なのか……)
メティーが会って間もない人物に懐いているからなのか、クロウに嫉妬しているのか――
前者ならクロウに任せず見張る事を選ぶから、この苛立ちが後者だと思うとカイトの件と合わさり複雑だ――
部屋の前の通路で立ち止まり、先程中断した話をカイトに切り出した。
「……で? いつ思い出したの?」
「……ちゃんと思い出したのは……メティーがサンセを治した時……」
「ちゃんとって事は、その前から?」
「……僕の怪我……治してくれた時から……なんか……変だった……」
(それってビターもいた時じゃ……)
僕は思わず呆れた苦い笑みが浮かぶ――
「……騎士見習いの時習ったでしょ? 何かあったら“報・連・相”だって」(※報告・連絡・相談)
「……何が変か……よくわからなかったから……」
「あのさ、僕ら何年一緒に居ると思ってるの? そのまま言えば、いつも僕らが推測して答え導き出してるでしょ?」
(何度バトスとカイトの意味不明な発言に振り回された事か。まぁ、それで昔は“バカな振り”してビターに丸投げしてた訳だけど……)
“メシア様”を利用しようとする奴らを前にして、もう“バカな振り”をしてる場合じゃなくなった――
本性を見せた日のビターの驚いた顔は印象的だった。絶交も覚悟してたけど、冗談のように怒って不貞腐れる“親友”として変わらず接してくれた――
(……ほんと、ビターには敵わない……)
僕が当時を懐かしむ時間がある程に、カイトはずっと黙り込んでいた。カイトなりに必死に考えてはいるんだろう――
「……暖かくて……笑うと……暖かい……」
「……え?」
カイトがやっと話したと思えば、主語のない謎掛けのような暗号――
(まぁ、こんなの慣れてるけど……)
推測するに、メティーに治してもらった時の話だから『癒しの力の光が“暖かくて”』だろう。
僕自身も“優しいぬくもり”だと思ったし――
その後の“笑うと暖かい”の主語は、おそらくメティーが笑うとって事だろう――
普通なら“メティーを守るべきものと認めて”って意味に取る所だけど、カイトの今までの行動から“別の意味”も有り得る――
いつも指示以外の事をしないカイトが、メティーを抱き上げて階段を降りるなんて――
異性に優しく接するカイトは見た事がない。半分は僕の所為で苦手になってしまったようだけど――(※カイトの番外編③参照)
(……メティーは子供だから平気なのか、それとも“特別”なのか……)
僕が考え込んでる様子を伺うカイトは、至っていつも通りのぼんやり顔だから苛立つ――
「カイトは……メティーの事……どう思ってるの?」
カイトは無表情で黙り込む――
長い付き合いだからわかる“少し憂いを帯びた無表情”は、困惑――
(いつもなら黙って首を傾げるけど……少しは動揺してるっぽいね……)
「……メティーが……笑えるように……守る……」
カイトの目は真剣に僕を見据えた――
(またどっちの意味にも取れる言い方を……)
今日だけで何度目かわからない呆れた溜息を吐く――
「……そうだね。その通りだ。だからこそ、今はしっかり休まないといけない。ひとまず寝ようか」
僕がそう言うと、カイトは頷いてクロウの部屋の向かいの部屋へと入って行く。それを見届け、僕も部屋に入りベッドに寝転んだ――
(……カイト自身が“自覚ない”というか、むしろ“わかってない”んだろうな……。僕が気にしすぎなだけな気もしてきた……。ほんとに厄介な感情だ……)
カイトの気持ちがどうであろうと僕には関係ない――
僕の気持ちも“メティーの姿が成長する事”が前提で、そうじゃなきゃ抱いてはいけない想い――
(メティーは誰だって構いたくなる“可愛らしい子供”なんだから、いちいち嫉妬してたらキリがない)
邪念に現を抜かして守れなかったじゃ許されないんだ――
(蓋をして奥底へしまい込むのは慣れてる……)
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
遡ること日の入り前の早朝、マカダミア研究所の薄暗い研究室に人影がふたつあった――
「……こんな時間に急に呼び出すなんて非常識極まりない」
緑髪のケールは、不機嫌そうにそう言って呼び出した人物を睨みつけた。
「……非常識? それは誰の事だろうね?」
長い黒髪のロイドが冷たい目で睨み返すと、ケールはビクッと姿勢を正して黙り込んだ。
(ロイドのこの怒り……まさか、気付かれたのか?)
ケールがそう思い動揺すると、ちょうど黒い靄がふたりの頭上に現れ、そこから出てきたアビスが綺麗に着地した。
「……思ったより早い帰りだね? アビス」
「……僕に任せたらなんだって早く終わるってわかってる癖にさー」
ロイドの嫌味に、アビスは不貞腐れたように口を尖らせながら、持ち帰った黒い半透明な球体をロイドに渡した。
(ロイドがアビスに何か頼んだのか?)
ケールはふたりのやり取りを何食わぬ顔で様子見る――
「……随分粉々だけど……アビス、手加減しろと言ったよね?」
「煩いなー。いーじゃん、どうせ再生するんだし」
ロイドの冷ややかな視線にアビスは悪びれる様子もなくケロッと返事をして、ロイドは諦めにも近い呆れた溜息を吐いた――
「……それで、実験体はどうだった?」
「……僕が斬った部分が再生して生えてきて……面倒だから壊しちゃった」
ロイドの問いかけに、アビスは再びケロッと嘘も混ぜて答え、舌を出して笑った。
「……再生か……実に素晴らしい。今再生しない所を見ると……一応、最初は手加減したようだね。アビスの攻撃だと、いつも治りが遅いからね……」
ロイドは何か含みのある言い方でアビスをジロリと眺めた――
「……ちゃんと約束守ったし、もういいよね?」
アビスはロイドの纏わり付くような視線を跳ね除けるように冷たい目で睨み返し、返事を待つ事なく再び出した黒い靄の中へと姿を消した――
「……ロイド! 私の“実験体”を勝手に使うとはどういうつもりだ!」
アビスが居なくなるや否や、ケールが怒りの声を上げた。
「……勝手に使ったのは、ケールが先だと記憶しているけど……可笑しいな?」
「っ! 使ったのはあの人だって――」
ロイドの言葉に自分が墓穴を掘ったと気付いたケールは、言い訳のように口走って悔しげに口を噤んだ。
「……あの人も本当に困ったものだね。口煩く指示して文句ばかりで、挙句に“敬うべきあの方”に……」
ロイドは呆れと失望の眼差しで机に置かれた封書を眺めた後、拳を強く握り締めた――
「……君らと“遠い親戚”だなんて不快でしかないけど……悪知恵だけは認めているよ」
そう言ってロイドは封書をケールの足元へと粗雑に投げ渡した。
「……チョコランタの消印? これは……あの人から?」
ケールは封書を開けて手紙を取り出し、内容に目を通す――
「……これは……逃げたアイツを捕まえる策?」
「ああ、その通り。ケール、お前が“ティス”を連れて行け」
「は!? なぜ私が……あの人形の事ならセルフィーに任せれば――」
「“あの女”はひとりにしたら逃げ出すかもしれないだろう?」
ケールの言葉に被せるようにロイドが鼻で笑って答えれば、今度はケールがニヤリと嗤う――
「逃げないように脅せばいい……クックック……」
「……実に素晴らしい“悪知恵”だな……」
ケールの嗤う声に、ロイドも鼻で笑ってからニヤリと嗤った――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――ブロバイン大臣の事?」
「はい。どんな些細な事でも構いませんので教えて頂けませんか?」
夕暮れ時のチョコランタの城内で、帰り支度をする50代ぐらいのメイドに聞き込みをするメイドがいた――
「アンタねえ、ここの仕事を続けたいのならこんな事やめときな」
「ご忠告ありがとうございます。けれど、ご心配には及びません」
そう言うや否やそのメイドは“変装の”顔マスクを取った――
現れたのは紫の髪と瞳を持つ、清楚で儚げな美しい顔立ちの女性――
「あ、あなた様は!……た、大変失礼致しました」
「顔を上げて下さい。あ、くれぐれも私が聞き込みした事はご内密に……」
「もちろん言うわけないさ! アンタは“女の希望”なんだから!……な、馴れ馴れしく失礼しました!」
「楽な言葉使いでいいですよ」
そう言ってクスクスと笑う“女の希望”と言われたこの女性こそが、歴代初の女性王族近衛騎士、ミスティー・ランズベリー。
ビターがサンセの代わりに大臣の動向調査を任せた人物だ――
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