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第2章 神奮闘~マカダミア王国編~

第27話 不審な人物①

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――危険もあったけど、メティー達は早朝にマカダミアの街へ到着した――
 私は再びカイトにおんぶされ、マントで隠されている。

 マカダミアの街は、早朝なだけあって人影もなく、静かな朝の街並みだった。
 
(まずは、休む所……宿屋を探さないと! ふたりは夜通し歩いてるんだから休ませてあげたい!)

「ふたりとも ちゅかれたでちょー?“やどや”いこー!」
「……気遣いは有難いけど、宿屋はやめた方がいいかもね……」
(ん?)

「しばらく滞在する事になるだろうから、店の人に覚えられてバレちゃうかもだしね……」

 サンセは、また私の顔で考えている事を察して、苦笑いしつつ教えてくれた。

「あ……」

 私は言葉を詰まらせ俯く。
 つくづく私はこの世界に歓迎されてないと思えてしまう――

(ただ、ふたりにちゃんと休んで欲しかっただけなのに……)

「わたちのしぇいで“まかだみあ”でも かくれなきゃで ごめんね……」

「気にしないで。見つかったら利用されるに決まってる……もちろん、全ての人がそうではないけど……警戒するに越したことないよ」

 サンセは怖い顔をした。この顔の時は本気で心配してくれているからこそ、怖く感じる程に真剣なんだとわかっているのに――

(それでもビクッとしちゃうのは……やっぱり私がお子ちゃまだからなのかな……)

「……前に少し話したけど、僕自身がマカダミアに良いイメージがなくてね……主に研究所の奴らの所為せいだけど……」
「あ……“べりあんと”の にんむの……」

 前に、サンセから聞いた“王族近衛騎士ロイヤルナイトを殺す為の任務”の話を思い出し、言葉に詰まる。

「……その任務にしても、異形生物ベリアントにしても、研究者達奴らはこの世の生物を“生きるモノ”と思ってない……奴らこそ“利用する者”だから……」

 サンセの言いたい事は、私が捕まったら“実験材料”にされるって事だよね――

(ん!? それじゃあ、チョコランタの王族だけが使える【魔法】って……研究所の人が喜びそうな“実験材料”なんじゃ!? まさか、それで連絡取れないとかじゃないよね!?)

「じゃあ“てぃしゅしゃん”があぶない! はやく しゃがしゃなきゃ!」
「うん……まずは住む家を確保しないとかな。……、さっきからそこに隠れてこっちを見てる……何なのかな?」

 サンセが物陰に隠れた人物の気配に気付き、敵か判断するために、あえて喋って様子を探ってたらしい――

(全然気付かなかった……)

 すると、物陰から華奢きゃしゃな体格で肩程の長さの茶髪の“独特な”眼鏡をかけた人が恐る恐る出てきた――
 背丈的にもサンセ達と歳の近そうな男の人だろうか――

(すごい眼鏡……あれで前見えてるのかな……)

 なぜなら、見た目はサングラスでもない普通の眼鏡なのに、こっちからだと反射して相手の目が全く見えないのである――

(魔法がある世界だし、不思議な眼鏡だってあるかも! どんな風に見えてるんだろー?)

「ご、ごめんなさい。は、話を聞くつもりは……なくて……そ、その……ゆ、友人の……な、名前が……聞こえて……」

 その男の人は、サンセとカイトの視線に緊張してしまっているのか、オドオドと口ごもる。

(ん? 友人?)

 ちゃんと警戒しないといけないのに、お子ちゃま思考で“独特な”眼鏡の事で頭の中がいっぱいだった私は、その言葉に我に返る――

「“てぃしゅしゃん”のことー?」

 カイトの後ろから私が声を掛けると、その人は驚いたのかビクッと一瞬固まった。

「あ……は、はい。……そろそろ人が増えてくる時間です。ここでは長く喋るには目立つので……よろしければ“僕の家”へ来て下さい」

 その人は周囲を警戒して狭い路地へと歩き出した――

 サンセとカイトは顔を見合わせ頷き、警戒して後ろを付いて歩く。

(サンセ、絶対疑ってる顔だったなぁ……確かに怪しいと言えば怪しいけど――)


――入り組んだ家と家の間の細い道をぐねぐね歩き続け、もはや私は道を覚えていない――

「お待たせしました……ここが“僕の家”です」

 言われなければ人が住んでいなそうに見える廃墟のような外観――
 サンセはその人を余計怪しむようにジロリと睨み、カイトも警戒して空気が張り詰める――

「こ、こんな外観ですが……な、中はちゃんとしてますので……」

 サンセ達の痛い程怪しむ視線に、その人の口元は苦い笑みを浮かべ、扉を開けて中に入って行った――

 サンセ達も警戒して中に入ると、言ってた通り中はそこまで廃墟じゃなかった。
 一通りの椅子や机、照明、キッチン等々、視界に入るだけでも生活に困らない物が揃っていると思う。

「……どうぞ、そちらに座ってお待ち下さい……お茶を用意します……」と、ソファーに座っているよう促された。

「……すぐ信用出来るとでも? 僕もそばで見させてもらう」

 サンセがそう言うとその人も了承し、ふたりがキッチンへ向かうのを見届けると、カイトは私を降ろしてソファーに座らせてくれた。

(とりあえず、マントのフードは被ったままでいよう)

 カイトは私の後ろに立ったままだ――

「カイトも しゅわろー?」
「……大丈夫……」

 カイトは無表情ながら周囲を警戒しているのか、いつものぼんやりしたカイトより少し怖く感じた――


「――お待たせし――っ」

 その人はキッチンからそう言って歩いて来たものの、何かに驚いたように立ち止まった。

(あ、もしかして……部屋の中でもフード深く被ってるから、私……怪しまれてる?)

 かと言って、様子を覗うにもカイトの背に隠れていた時と違い、明るいこの場所じゃ瞳を見られてしまうと思いとどまり俯く――

「あ……失礼しました……お待たせしました」

 その人はハッと改め、ソファーの前の机にお茶じゃなく牛乳ミルクが入ったグラスを4つ並べていく――

(ちびっ子の私の為に!?)

 さっきのサンセの疑いぶりからして、たぶん私だけ違う物だと怪しいと疑って、サンセ達も牛乳ミルクでいいと言ったんだろう――

 私の前に出されると、隣に座ったサンセが「……毒味する」と言い出し、この人もここまで疑われて戸惑っているようだ――

(……なんだか疑いすぎも可哀想)

「だいじょーぶ! このひと“どく”なんて いれてないよ?」

 私はそう直感的に感じたまま述べ、一口飲むとサンセがそれを見て固まる――

「……おいちー! ほら! へーきよ?」

 私がにっこり笑うと、サンセは安堵の溜息を吐いた――

「……疑いすぎたようで申し訳ない……」
「……いえ……住む家を探すようなことも言っておられたので……この街に入って来たばかりのようですから……疑うのは……仕方ありません……」

 サンセが謝ると、この人は怒ってはいないけど相変わらず緊張しているのか、ぽつりぽつりとゆっくり語る――

「あ……申し遅れました……僕は……クロウといいます。……ティスとは……勉学を共にした……仲間でした……」

(? 過去形?)

「いまは ちがうのー?」
「……はい……勉学を……研究を共にして……僕はもう必要ないと……」

 クロウさんは言いずらそうに声量も次第に落ちて俯いた――

「……あんな早朝に出歩いたり、入り組んだわかりにくい場所にある、こんな廃墟のような所にって事?」

 サンセは何かを察したのか、痛い所を突くように問う――

「……はい……命を狙われています……」
「え!?」

 クロウさんは俯き言葉を濁し、私は思いがけない物騒な言葉に声を上げ固まる――

 チラリと横を見ると、サンセは思った通りだったのか驚きもしていない。

「……それは“ティス様”に狙われてるってこと?」
「……いえ……他の研究者達にです……ティスは、あの者達の“操り人形”のようなもの……」
「あやつりにんぎょう!? ひどい……だから“おへんじ”できないんだね……」
「……返事?」

 クロウさんは不思議そうに私に聞き返した。

「わたちたち“てぃしゅしゃん”のおとーしゃんにたのまれたの!“おへんじ”なくて しんぱいーって!」
「……そうでしたか……それは心配されているでしょうね……」

 クロウさんが納得したように俯く――

「……研究って、何の研究?」

 サンセは既に察したのか、怖い顔でクロウさんを見つめる――

(サンセのこの雰囲気……私のさっきの嫌な予感をサンセも予感してる?)

 クロウさんは唇を噛み締め言葉を絞り出す――

「……ティスの…………について……」

(あ……やっぱり)

 私の気持ちが沈むと同様に俯き、隣に座るサンセを横目で見ると、膝の上に置かれた拳を強く握り締めていた――

「……その研究は成功したの?」
「……いえ……成功したと思い込んでいた……といった所でしょうか……。だから……血眼ちまなこになってまた……僕を探してる……」

「……君はマカダミア王国の極秘機密を完成させる上で必要な頭脳で、完成したら機密を知る者として命を狙われている……って事?」

 サンセが話の流れから推測して尋ねると、クロウさんは唇を噛み締め「……はい……」と俯いた。

「しゃんしぇ! カイト!“くりょーしゃん”を まもってあげて!」
「はぁ……メティーはそう言うだろうと思った。……どっちみちティス様の手掛かりを持ってるのは彼だし……わかったよ」

 サンセは呆れた溜息を吐き、カイトもコクリと頷く――

「あ……皆さん、ありがとうございます……」

 クロウさんは深々と頭を下げた――

「この家でよければ好きに使って下さい……2階に休める部屋も余っていますので」
「わぁーありがとー!」

 クロウさんの表情は眼鏡でよくわからないけど、口元はにっこり微笑んでいて、声も緊張が解けたのか柔らかく感じる。

(そういえば、クロウさんに尋ねるばかりで私達の自己紹介してない!)

 慌ててサンセとカイトを紹介し、私も失礼のないようフードを取り「わたち、めてぃあ!“めてぃー”ってよんでねー」とにっこり笑う――

「(やっぱり白銀の――)」

 クロウさんが私を見て小声で呟いて口をつぐみ、サンセとカイトがクロウさんに警戒する視線を送る――

「あ、ごめんなさい……勉学を学ぶ者なら知っています。……隣国チョコランタ王国に降りた……神の物語を……。決して他言はしません! ご安心を!……お疲れでしょうからベッドの準備をしてきますね」

 そう言ってクロウさんは足早に2階に上っていった――

「……いいひとにあえて よかったねー」
「メティーはもう少し人を疑った方がいいと思うよ……」

 ニコニコ笑う私を見て、サンセは呆れたように溜息を吐いた――

「だって、ちがうのに うたがわれりゅの かわいしょー……ふわぁーっ」

 “可哀想だし”と言い終わる前にあくびが出た。

 昼寝したとはいえ、夜中から日が昇って人が活動し出す時間まで起きていたのだから、当然眠気は来てしまう――

「ふっ……ベッドの準備が終わったら運んであげるから寝てていいよ」

 サンセがクスリと微笑む。

「だーめー……しゃんしぇと……カイトのが……つかれてりゅ……だか……りゃ……」

 私は重いまぶたと必死に戦うも、どんどん閉じていき――ついに負けてしまった――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 サンセの膝で眠るメティーの無垢な寝顔を眺め、ふと思う――

(メティーには本当に驚かされる……)

 敵か味方かもわからない相手の出した飲み物を平気で飲むし――
 さっきも彼が髪色を呟いてメティーを見ていたって事は、おそらくメティーの瞳を見ていた。なのに、メティーはあっけらかんと笑ってるし。

(あの後、誤魔化すようにそそくさと2階へ上って行ったのも……何だか怪しい……)

 街の入口でペラペラと僕らの素性を話したのは、最悪すればいいと思っての事だった――

 でも、メティーは疑ってもいないし、そんな彼が突然――

(僕の事を軽蔑して、二度と笑いかけてくれないかもね……)

 そもそも、あの怪しい眼鏡で目元が見えないのが厄介だ。大抵、目元の動きで思考がわかったりするものだから――
 少なくとも、彼の話した事はなのだろう。緊張しつつも真剣なのは伝わってきたから――

(彼がティス様の情報を持ってるのは確かだし……もう少し詳しく追求したい所ではあるね……)

「……サンセ……」

 思考を巡らせた僕に、カイトが不意に声を掛けてきた。

 カイトは任務の伝達事項は別として、基本こっちから話さないと話し掛けてこない――

(……カイトが僕に話し掛ける“用件”?)



 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

次回、カイトの用件とは!? サンセ動揺!? クロウへ更なる追求!?
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