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第2章 神奮闘~マカダミア王国編~
第27話 不審な人物①
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――危険もあったけど、メティー達は早朝にマカダミアの街へ到着した――
私は再びカイトにおんぶされ、マントで隠されている。
マカダミアの街は、早朝なだけあって人影もなく、静かな朝の街並みだった。
(まずは、休む所……宿屋を探さないと! ふたりは夜通し歩いてるんだから休ませてあげたい!)
「ふたりとも ちゅかれたでちょー?“やどや”いこー!」
「……気遣いは有難いけど、宿屋はやめた方がいいかもね……」
(ん?)
「しばらく滞在する事になるだろうから、店の人に覚えられてバレちゃうかもだしね……」
サンセは、また私の顔で考えている事を察して、苦笑いしつつ教えてくれた。
「あ……」
私は言葉を詰まらせ俯く。
つくづく私はこの世界に歓迎されてないと思えてしまう――
(ただ、ふたりにちゃんと休んで欲しかっただけなのに……)
「わたちのしぇいで“まかだみあ”でも かくれなきゃで ごめんね……」
「気にしないで。見つかったら利用されるに決まってる……もちろん、全ての人がそうではないけど……警戒するに越したことないよ」
サンセは怖い顔をした。この顔の時は本気で心配してくれているからこそ、怖く感じる程に真剣なんだとわかっているのに――
(それでもビクッとしちゃうのは……やっぱり私がお子ちゃまだからなのかな……)
「……前に少し話したけど、僕自身がマカダミアに良いイメージがなくてね……主に研究所の奴らの所為だけど……」
「あ……“べりあんと”の にんむの……」
前に、サンセから聞いた“王族近衛騎士を殺す為の任務”の話を思い出し、言葉に詰まる。
「……その任務にしても、さっきの異形生物にしても、研究者達はこの世の生物を“生きる物”と思ってない……奴らこそ“最低な利用する者”だから……」
サンセの言いたい事は、私が捕まったら“実験材料”にされるって事だよね――
(ん!? それじゃあ、チョコランタの王族だけが使える【魔法】って……研究所の人が喜びそうな“実験材料”なんじゃ!? まさか、それで連絡取れないとかじゃないよね!?)
「じゃあ“てぃしゅしゃん”があぶない! はやく しゃがしゃなきゃ!」
「うん……まずは住む家を確保しないとかな。……ところで、さっきからそこに隠れてこっちを見てる君は……何なのかな?」
サンセが物陰に隠れた人物の気配に気付き、敵か判断するために、あえて喋って様子を探ってたらしい――
(全然気付かなかった……)
すると、物陰から華奢な体格で肩程の長さの茶髪の“独特な”眼鏡をかけた人が恐る恐る出てきた――
背丈的にもサンセ達と歳の近そうな男の人だろうか――
(すごい眼鏡……あれで前見えてるのかな……)
なぜなら、見た目はサングラスでもない普通の眼鏡なのに、こっちからだと反射して相手の目が全く見えないのである――
(魔法がある世界だし、不思議な眼鏡だってあるかも! どんな風に見えてるんだろー?)
「ご、ごめんなさい。は、話を聞くつもりは……なくて……そ、その……ゆ、友人の……な、名前が……聞こえて……」
その男の人は、サンセとカイトの視線に緊張してしまっているのか、オドオドと口篭る。
(ん? 友人?)
ちゃんと警戒しないといけないのに、お子ちゃま思考で“独特な”眼鏡の事で頭の中がいっぱいだった私は、その言葉に我に返る――
「“てぃしゅしゃん”のことー?」
カイトの後ろから私が声を掛けると、その人は驚いたのかビクッと一瞬固まった。
「あ……は、はい。……そろそろ人が増えてくる時間です。ここでは長く喋るには目立つので……よろしければ“僕の家”へ来て下さい」
その人は周囲を警戒して狭い路地へと歩き出した――
サンセとカイトは顔を見合わせ頷き、警戒して後ろを付いて歩く。
(サンセ、絶対疑ってる顔だったなぁ……確かに怪しいと言えば怪しいけど――)
――入り組んだ家と家の間の細い道をぐねぐね歩き続け、もはや私は道を覚えていない――
「お待たせしました……ここが“僕の家”です」
言われなければ人が住んでいなそうに見える廃墟のような外観――
サンセはその人を余計怪しむようにジロリと睨み、カイトも警戒して空気が張り詰める――
「こ、こんな外観ですが……な、中はちゃんとしてますので……」
サンセ達の痛い程怪しむ視線に、その人の口元は苦い笑みを浮かべ、扉を開けて中に入って行った――
サンセ達も警戒して中に入ると、言ってた通り中はそこまで廃墟じゃなかった。
一通りの椅子や机、照明、キッチン等々、視界に入るだけでも生活に困らない物が揃っていると思う。
「……どうぞ、そちらに座ってお待ち下さい……お茶を用意します……」と、ソファーに座っているよう促された。
「……すぐ信用出来るとでも? 僕もそばで見させてもらう」
サンセがそう言うとその人も了承し、ふたりがキッチンへ向かうのを見届けると、カイトは私を降ろしてソファーに座らせてくれた。
(とりあえず、マントのフードは被ったままでいよう)
カイトは私の後ろに立ったままだ――
「カイトも しゅわろー?」
「……大丈夫……」
カイトは無表情ながら周囲を警戒しているのか、いつものぼんやりしたカイトより少し怖く感じた――
「――お待たせし――っ」
その人はキッチンからそう言って歩いて来たものの、何かに驚いたように立ち止まった。
(あ、もしかして……部屋の中でもフード深く被ってるから、私……怪しまれてる?)
かと言って、様子を覗うにもカイトの背に隠れていた時と違い、明るいこの場所じゃ瞳を見られてしまうと思いとどまり俯く――
「あ……失礼しました……お待たせしました」
その人はハッと改め、ソファーの前の机にお茶じゃなく牛乳が入ったグラスを4つ並べていく――
(ちびっ子の私の為に!?)
さっきのサンセの疑いぶりからして、たぶん私だけ違う物だと怪しいと疑って、サンセ達も牛乳でいいと言ったんだろう――
私の前に出されると、隣に座ったサンセが「……毒味する」と言い出し、この人もここまで疑われて戸惑っているようだ――
(……なんだか疑いすぎも可哀想)
「だいじょーぶ! このひと“どく”なんて いれてないよ?」
私はそう直感的に感じたまま述べ、一口飲むとサンセがそれを見て固まる――
「……おいちー! ほら! へーきよ?」
私がにっこり笑うと、サンセは安堵の溜息を吐いた――
「……疑いすぎたようで申し訳ない……」
「……いえ……住む家を探すようなことも言っておられたので……この街に入って来たばかりのようですから……疑うのは……仕方ありません……」
サンセが謝ると、この人は怒ってはいないけど相変わらず緊張しているのか、ぽつりぽつりとゆっくり語る――
「あ……申し遅れました……僕は……クロウといいます。……ティスとは……勉学を共にした……仲間でした……」
(でした? 過去形?)
「いまは ちがうのー?」
「……はい……勉学を……研究を共にして……僕はもう必要ないと……」
クロウさんは言いずらそうに声量も次第に落ちて俯いた――
「……それはあんな早朝に出歩いたり、入り組んだわかりにくい場所にある、こんな廃墟のような所に隠れ住まないといけない事態って事?」
サンセは何かを察したのか、痛い所を突くように問う――
「……はい……命を狙われています……」
「え!?」
クロウさんは俯き言葉を濁し、私は思いがけない物騒な言葉に声を上げ固まる――
チラリと横を見ると、サンセは思った通りだったのか驚きもしていない。
「……それは“ティス様”に狙われてるってこと?」
「……いえ……他の研究者達にです……ティスは、あの者達の“操り人形”のようなもの……」
「あやつりにんぎょう!? ひどい……だから“おへんじ”できないんだね……」
「……返事?」
クロウさんは不思議そうに私に聞き返した。
「わたちたち“てぃしゅしゃん”のおとーしゃんにたのまれたの!“おへんじ”なくて しんぱいーって!」
「……そうでしたか……それは心配されているでしょうね……」
クロウさんが納得したように俯く――
「……研究って、何の研究?」
サンセは既に察したのか、怖い顔でクロウさんを見つめる――
(サンセのこの雰囲気……私のさっきの嫌な予感をサンセも予感してる?)
クロウさんは唇を噛み締め言葉を絞り出す――
「……ティスの……魔法……神の力について……」
(あ……やっぱり)
私の気持ちが沈むと同様に俯き、隣に座るサンセを横目で見ると、膝の上に置かれた拳を強く握り締めていた――
「……その研究は成功したの?」
「……いえ……成功したと思い込んでいた……といった所でしょうか……。だから……血眼になってまた……僕を探してる……」
「……君はマカダミア王国の極秘機密を完成させる上で必要な頭脳で、完成したら機密を知る者として命を狙われている……って事?」
サンセが話の流れから推測して尋ねると、クロウさんは唇を噛み締め「……はい……」と俯いた。
「しゃんしぇ! カイト!“くりょーしゃん”を まもってあげて!」
「はぁ……メティーはそう言うだろうと思った。……どっちみちティス様の手掛かりを持ってるのは彼だし……わかったよ」
サンセは呆れた溜息を吐き、カイトもコクリと頷く――
「あ……皆さん、ありがとうございます……」
クロウさんは深々と頭を下げた――
「この家でよければ好きに使って下さい……2階に休める部屋も余っていますので」
「わぁーありがとー!」
クロウさんの表情は眼鏡でよくわからないけど、口元はにっこり微笑んでいて、声も緊張が解けたのか柔らかく感じる。
(そういえば、クロウさんに尋ねるばかりで私達の自己紹介してない!)
慌ててサンセとカイトを紹介し、私も失礼のないようフードを取り「わたち、めてぃあ!“めてぃー”ってよんでねー」とにっこり笑う――
「(やっぱり白銀の――)」
クロウさんが私を見て小声で呟いて口を噤み、サンセとカイトがクロウさんに警戒する視線を送る――
「あ、ごめんなさい……勉学を学ぶ者なら知っています。……隣国チョコランタ王国に降りた……神の物語を……。決して他言はしません! ご安心を!……お疲れでしょうからベッドの準備をしてきますね」
そう言ってクロウさんは足早に2階に上っていった――
「……いいひとにあえて よかったねー」
「メティーはもう少し人を疑った方がいいと思うよ……」
ニコニコ笑う私を見て、サンセは呆れたように溜息を吐いた――
「だって、ちがうのに うたがわれりゅの かわいしょー……ふわぁーっ」
“可哀想だし”と言い終わる前にあくびが出た。
昼寝したとはいえ、夜中から日が昇って人が活動し出す時間まで起きていたのだから、当然眠気は来てしまう――
「ふっ……ベッドの準備が終わったら運んであげるから寝てていいよ」
サンセがクスリと微笑む。
「だーめー……しゃんしぇと……カイトのが……つかれてりゅ……だか……りゃ……」
私は重い瞼と必死に戦うも、どんどん閉じていき――ついに負けてしまった――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サンセの膝で眠るメティーの無垢な寝顔を眺め、ふと思う――
(メティーには本当に驚かされる……)
敵か味方かもわからない相手の出した飲み物を平気で飲むし――
さっきも彼が髪色を呟いてメティーを見ていたって事は、おそらくメティーの瞳を見ていた。なのに、メティーはあっけらかんと笑ってるし。
(あの後、誤魔化すようにそそくさと2階へ上って行ったのも……何だか怪しい……)
街の入口でペラペラと僕らの素性を話したのは、最悪始末すればいいと思っての事だった――
でも、メティーは疑ってもいないし、そんな彼が突然居なくなれば――
(僕の事を軽蔑して、二度と笑いかけてくれないかもね……)
そもそも、あの怪しい眼鏡で目元が見えないのが厄介だ。大抵、目元の動きで思考がわかったりするものだから――
少なくとも、彼の話した事は事実なのだろう。緊張しつつも真剣なのは伝わってきたから――
(彼がティス様の情報を持ってるのは確かだし……もう少し詳しく追求したい所ではあるね……)
「……サンセ……」
思考を巡らせた僕に、カイトが不意に声を掛けてきた。
カイトは任務の伝達事項は別として、基本こっちから話さないと話し掛けてこない――
(……そんなカイトが僕に話し掛ける“用件”?)
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
次回、カイトの用件とは!? サンセ動揺!? クロウへ更なる追求!?
私は再びカイトにおんぶされ、マントで隠されている。
マカダミアの街は、早朝なだけあって人影もなく、静かな朝の街並みだった。
(まずは、休む所……宿屋を探さないと! ふたりは夜通し歩いてるんだから休ませてあげたい!)
「ふたりとも ちゅかれたでちょー?“やどや”いこー!」
「……気遣いは有難いけど、宿屋はやめた方がいいかもね……」
(ん?)
「しばらく滞在する事になるだろうから、店の人に覚えられてバレちゃうかもだしね……」
サンセは、また私の顔で考えている事を察して、苦笑いしつつ教えてくれた。
「あ……」
私は言葉を詰まらせ俯く。
つくづく私はこの世界に歓迎されてないと思えてしまう――
(ただ、ふたりにちゃんと休んで欲しかっただけなのに……)
「わたちのしぇいで“まかだみあ”でも かくれなきゃで ごめんね……」
「気にしないで。見つかったら利用されるに決まってる……もちろん、全ての人がそうではないけど……警戒するに越したことないよ」
サンセは怖い顔をした。この顔の時は本気で心配してくれているからこそ、怖く感じる程に真剣なんだとわかっているのに――
(それでもビクッとしちゃうのは……やっぱり私がお子ちゃまだからなのかな……)
「……前に少し話したけど、僕自身がマカダミアに良いイメージがなくてね……主に研究所の奴らの所為だけど……」
「あ……“べりあんと”の にんむの……」
前に、サンセから聞いた“王族近衛騎士を殺す為の任務”の話を思い出し、言葉に詰まる。
「……その任務にしても、さっきの異形生物にしても、研究者達はこの世の生物を“生きる物”と思ってない……奴らこそ“最低な利用する者”だから……」
サンセの言いたい事は、私が捕まったら“実験材料”にされるって事だよね――
(ん!? それじゃあ、チョコランタの王族だけが使える【魔法】って……研究所の人が喜びそうな“実験材料”なんじゃ!? まさか、それで連絡取れないとかじゃないよね!?)
「じゃあ“てぃしゅしゃん”があぶない! はやく しゃがしゃなきゃ!」
「うん……まずは住む家を確保しないとかな。……ところで、さっきからそこに隠れてこっちを見てる君は……何なのかな?」
サンセが物陰に隠れた人物の気配に気付き、敵か判断するために、あえて喋って様子を探ってたらしい――
(全然気付かなかった……)
すると、物陰から華奢な体格で肩程の長さの茶髪の“独特な”眼鏡をかけた人が恐る恐る出てきた――
背丈的にもサンセ達と歳の近そうな男の人だろうか――
(すごい眼鏡……あれで前見えてるのかな……)
なぜなら、見た目はサングラスでもない普通の眼鏡なのに、こっちからだと反射して相手の目が全く見えないのである――
(魔法がある世界だし、不思議な眼鏡だってあるかも! どんな風に見えてるんだろー?)
「ご、ごめんなさい。は、話を聞くつもりは……なくて……そ、その……ゆ、友人の……な、名前が……聞こえて……」
その男の人は、サンセとカイトの視線に緊張してしまっているのか、オドオドと口篭る。
(ん? 友人?)
ちゃんと警戒しないといけないのに、お子ちゃま思考で“独特な”眼鏡の事で頭の中がいっぱいだった私は、その言葉に我に返る――
「“てぃしゅしゃん”のことー?」
カイトの後ろから私が声を掛けると、その人は驚いたのかビクッと一瞬固まった。
「あ……は、はい。……そろそろ人が増えてくる時間です。ここでは長く喋るには目立つので……よろしければ“僕の家”へ来て下さい」
その人は周囲を警戒して狭い路地へと歩き出した――
サンセとカイトは顔を見合わせ頷き、警戒して後ろを付いて歩く。
(サンセ、絶対疑ってる顔だったなぁ……確かに怪しいと言えば怪しいけど――)
――入り組んだ家と家の間の細い道をぐねぐね歩き続け、もはや私は道を覚えていない――
「お待たせしました……ここが“僕の家”です」
言われなければ人が住んでいなそうに見える廃墟のような外観――
サンセはその人を余計怪しむようにジロリと睨み、カイトも警戒して空気が張り詰める――
「こ、こんな外観ですが……な、中はちゃんとしてますので……」
サンセ達の痛い程怪しむ視線に、その人の口元は苦い笑みを浮かべ、扉を開けて中に入って行った――
サンセ達も警戒して中に入ると、言ってた通り中はそこまで廃墟じゃなかった。
一通りの椅子や机、照明、キッチン等々、視界に入るだけでも生活に困らない物が揃っていると思う。
「……どうぞ、そちらに座ってお待ち下さい……お茶を用意します……」と、ソファーに座っているよう促された。
「……すぐ信用出来るとでも? 僕もそばで見させてもらう」
サンセがそう言うとその人も了承し、ふたりがキッチンへ向かうのを見届けると、カイトは私を降ろしてソファーに座らせてくれた。
(とりあえず、マントのフードは被ったままでいよう)
カイトは私の後ろに立ったままだ――
「カイトも しゅわろー?」
「……大丈夫……」
カイトは無表情ながら周囲を警戒しているのか、いつものぼんやりしたカイトより少し怖く感じた――
「――お待たせし――っ」
その人はキッチンからそう言って歩いて来たものの、何かに驚いたように立ち止まった。
(あ、もしかして……部屋の中でもフード深く被ってるから、私……怪しまれてる?)
かと言って、様子を覗うにもカイトの背に隠れていた時と違い、明るいこの場所じゃ瞳を見られてしまうと思いとどまり俯く――
「あ……失礼しました……お待たせしました」
その人はハッと改め、ソファーの前の机にお茶じゃなく牛乳が入ったグラスを4つ並べていく――
(ちびっ子の私の為に!?)
さっきのサンセの疑いぶりからして、たぶん私だけ違う物だと怪しいと疑って、サンセ達も牛乳でいいと言ったんだろう――
私の前に出されると、隣に座ったサンセが「……毒味する」と言い出し、この人もここまで疑われて戸惑っているようだ――
(……なんだか疑いすぎも可哀想)
「だいじょーぶ! このひと“どく”なんて いれてないよ?」
私はそう直感的に感じたまま述べ、一口飲むとサンセがそれを見て固まる――
「……おいちー! ほら! へーきよ?」
私がにっこり笑うと、サンセは安堵の溜息を吐いた――
「……疑いすぎたようで申し訳ない……」
「……いえ……住む家を探すようなことも言っておられたので……この街に入って来たばかりのようですから……疑うのは……仕方ありません……」
サンセが謝ると、この人は怒ってはいないけど相変わらず緊張しているのか、ぽつりぽつりとゆっくり語る――
「あ……申し遅れました……僕は……クロウといいます。……ティスとは……勉学を共にした……仲間でした……」
(でした? 過去形?)
「いまは ちがうのー?」
「……はい……勉学を……研究を共にして……僕はもう必要ないと……」
クロウさんは言いずらそうに声量も次第に落ちて俯いた――
「……それはあんな早朝に出歩いたり、入り組んだわかりにくい場所にある、こんな廃墟のような所に隠れ住まないといけない事態って事?」
サンセは何かを察したのか、痛い所を突くように問う――
「……はい……命を狙われています……」
「え!?」
クロウさんは俯き言葉を濁し、私は思いがけない物騒な言葉に声を上げ固まる――
チラリと横を見ると、サンセは思った通りだったのか驚きもしていない。
「……それは“ティス様”に狙われてるってこと?」
「……いえ……他の研究者達にです……ティスは、あの者達の“操り人形”のようなもの……」
「あやつりにんぎょう!? ひどい……だから“おへんじ”できないんだね……」
「……返事?」
クロウさんは不思議そうに私に聞き返した。
「わたちたち“てぃしゅしゃん”のおとーしゃんにたのまれたの!“おへんじ”なくて しんぱいーって!」
「……そうでしたか……それは心配されているでしょうね……」
クロウさんが納得したように俯く――
「……研究って、何の研究?」
サンセは既に察したのか、怖い顔でクロウさんを見つめる――
(サンセのこの雰囲気……私のさっきの嫌な予感をサンセも予感してる?)
クロウさんは唇を噛み締め言葉を絞り出す――
「……ティスの……魔法……神の力について……」
(あ……やっぱり)
私の気持ちが沈むと同様に俯き、隣に座るサンセを横目で見ると、膝の上に置かれた拳を強く握り締めていた――
「……その研究は成功したの?」
「……いえ……成功したと思い込んでいた……といった所でしょうか……。だから……血眼になってまた……僕を探してる……」
「……君はマカダミア王国の極秘機密を完成させる上で必要な頭脳で、完成したら機密を知る者として命を狙われている……って事?」
サンセが話の流れから推測して尋ねると、クロウさんは唇を噛み締め「……はい……」と俯いた。
「しゃんしぇ! カイト!“くりょーしゃん”を まもってあげて!」
「はぁ……メティーはそう言うだろうと思った。……どっちみちティス様の手掛かりを持ってるのは彼だし……わかったよ」
サンセは呆れた溜息を吐き、カイトもコクリと頷く――
「あ……皆さん、ありがとうございます……」
クロウさんは深々と頭を下げた――
「この家でよければ好きに使って下さい……2階に休める部屋も余っていますので」
「わぁーありがとー!」
クロウさんの表情は眼鏡でよくわからないけど、口元はにっこり微笑んでいて、声も緊張が解けたのか柔らかく感じる。
(そういえば、クロウさんに尋ねるばかりで私達の自己紹介してない!)
慌ててサンセとカイトを紹介し、私も失礼のないようフードを取り「わたち、めてぃあ!“めてぃー”ってよんでねー」とにっこり笑う――
「(やっぱり白銀の――)」
クロウさんが私を見て小声で呟いて口を噤み、サンセとカイトがクロウさんに警戒する視線を送る――
「あ、ごめんなさい……勉学を学ぶ者なら知っています。……隣国チョコランタ王国に降りた……神の物語を……。決して他言はしません! ご安心を!……お疲れでしょうからベッドの準備をしてきますね」
そう言ってクロウさんは足早に2階に上っていった――
「……いいひとにあえて よかったねー」
「メティーはもう少し人を疑った方がいいと思うよ……」
ニコニコ笑う私を見て、サンセは呆れたように溜息を吐いた――
「だって、ちがうのに うたがわれりゅの かわいしょー……ふわぁーっ」
“可哀想だし”と言い終わる前にあくびが出た。
昼寝したとはいえ、夜中から日が昇って人が活動し出す時間まで起きていたのだから、当然眠気は来てしまう――
「ふっ……ベッドの準備が終わったら運んであげるから寝てていいよ」
サンセがクスリと微笑む。
「だーめー……しゃんしぇと……カイトのが……つかれてりゅ……だか……りゃ……」
私は重い瞼と必死に戦うも、どんどん閉じていき――ついに負けてしまった――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
サンセの膝で眠るメティーの無垢な寝顔を眺め、ふと思う――
(メティーには本当に驚かされる……)
敵か味方かもわからない相手の出した飲み物を平気で飲むし――
さっきも彼が髪色を呟いてメティーを見ていたって事は、おそらくメティーの瞳を見ていた。なのに、メティーはあっけらかんと笑ってるし。
(あの後、誤魔化すようにそそくさと2階へ上って行ったのも……何だか怪しい……)
街の入口でペラペラと僕らの素性を話したのは、最悪始末すればいいと思っての事だった――
でも、メティーは疑ってもいないし、そんな彼が突然居なくなれば――
(僕の事を軽蔑して、二度と笑いかけてくれないかもね……)
そもそも、あの怪しい眼鏡で目元が見えないのが厄介だ。大抵、目元の動きで思考がわかったりするものだから――
少なくとも、彼の話した事は事実なのだろう。緊張しつつも真剣なのは伝わってきたから――
(彼がティス様の情報を持ってるのは確かだし……もう少し詳しく追求したい所ではあるね……)
「……サンセ……」
思考を巡らせた僕に、カイトが不意に声を掛けてきた。
カイトは任務の伝達事項は別として、基本こっちから話さないと話し掛けてこない――
(……そんなカイトが僕に話し掛ける“用件”?)
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次回、カイトの用件とは!? サンセ動揺!? クロウへ更なる追求!?
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黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
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