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第2章 神奮闘~マカダミア王国編~

第25話 旅立ちの惨劇①

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――マカダミア王国へ向け出発したメティー達は、木々が生い茂った道をひたすら歩いてる所である。

 月明かりはあるものの真っ暗で、怖くてひとりじゃこんな道歩けなそうだし、カイトにおんぶされててよかったと安堵していると――

「……! 賊の気配が南方にある……こっちに気付かれる前にこの付近を離れよう」

 サンセがそう言うとカイトは頷き、ふたりは国境の門のある西へ向かって走り出す――

(っ! カイト速い!)

 カイトにおんぶされて崖を登った時以上の速さで、カイトの肩に捕まる手に力がこもる。

(サンセが言ってた“カイトなら逃げれる”ってこういう事かぁ……)

 カイトはサンセとの距離を引き離し、サンセが見えなくなった。サンセは南方を気にして走っていたから、気付かれたら賊の注意を引き付けるつもりだったのかもしれない。

 それにしても、隠れてた岩穴から少し離れてるとはいえ、賊がそばにいる所に3年も隠れていられたって奇跡じゃない?
 私が何も知らないだけで、しーちゃんがずっと守ってくれてたのかも――

(ひとりの時は岩穴から出ないように言われてたし……出ても岩穴の前までで、すぐ中に入るよう言われてたっけ……)

 思い出してしんみりしてる内に、私とカイトは賊に会う事もなく、サンセより一足先に門のそばへたどり着いた。

(サンセ達が早く気配に気付いてくれたおかげだね)


――その後、サンセもすぐ到着した。
 怪我もしてないみたいだし、出発早々危機にさらされずよかった――

 国境の門には、安全の為に衛兵がふたり立っていた。門のそばに休む部屋もあり、兵達は交代で見張りをしているそうだ。

「……絶対……動かないで」

 カイトがそう言って、マントのフードの首元を私が見えないように調整する。

「……うん、ちゃんと隠れてる。メティーは荷物として通るからじっとしててね」
「うん!」

 サンセが、私が隠れている事を確認し、いざ門へ――

(緊張する!)


「サンセ様! カイト様! 任務でマカダミアへ向かわれるんですね! お気をつけて!」
「ありがとう。ふたりもご苦労様」

 サンセが門にいた衛兵達に爽やかに話しかけ、カイトは軽くお辞儀をした。
 信頼されているのか細かいチェックをされる事もなく、すんなり門をくぐり、門が見えなくなるまで自然と歩く――

「メティーお疲れ様。もう楽にしていいよ」

 サンセの言葉を受け、カイトはマントの首元を少し緩め、私が苦しくないように再び調整してくれた。

 マカダミア王国領に無事入れた事に一安心と思いきや――

「……僕が大臣の動向調査してたのは言ったよね? まだメティーには言ってなかったけど、度々マカダミア王国領へ入る大臣を見てるんだ」
「え!?」
「その時は極秘任務だったから、さっきの衛兵達にも姿を見られる訳にはいかなくて、マカダミアで大臣が何をしてたかはわからないんだけどね……」

 大臣が門を通ってすぐにサンセも通れば、仮に大臣が衛兵さんに聞いたら、サンセが大臣の後に通った事がバレて怪しまれちゃうもんね――

(マカダミアでも気を引き締めて過ごさないと……)

「……怖がらせる事言ってごめんね」
「ん?」
「だって、緊張してるでしょ?」
「うっ……」

 私、ほんとに顔に出やすいみたい――

「大丈夫。僕とカイトがちゃんと守るから」

 サンセの言葉にカイトも頷いて私の不安を取り除いてくれた。

「ふたりとも、ありがとー」




――マカダミアの街まではまだ距離がありそうだし、親睦を深める為にもなにか話しかけよう! ふたりとはまだまだ短い付き合いなわけだしね!

 ふたりはマカダミアへ何度か行ってるみたいだったし、いろいろ聞いてみようかな?

「ねーねー? “まかだみあ”って どんなところー?」
「……いろんな勉学が盛んかな」
(ティスさんが留学するぐらいだもんね。グレイさんも機械技術をすごいと思ってるみたいだったし……)

「どんな まちー?」
「……僕らは街の中には入った事ないから」
(……なんか、サンセ不機嫌というか、愛想悪いというか……反応が冷たい?)

 話しかけても一言喋って黙られ、なんだか少し気まずい空気に――

 すると、サンセは話を変えるように――

「着いたら起こすからメティーは寝てていいよ?」
「たくしゃん“おひりゅね”ちたから まだへいき!」

 なんせ意識失ったりで、寝てた時間の方が長いぐらいだもん。ふたりは夜通し歩き続ける訳だし、私だけ寝るなんてとんでもない!

「……そう……」と、サンセが溜息を吐く。

(え!? 何で溜息!? さっさと寝ろって事!? それはそれで傷つく……。少しでも仲良くなりたいのにな……ええい、めげちゃダメ!)


「……ふたりは“てぃしゅしゃん”に あったことありゅー?」
「……昔、見かけた事はあるかな……話したことはないけど。……ティス様はビターに近づいてこないから……」

 サンセの暗い声が、これ以上聞いたら不味い事だと言っているようで――

(私、地雷踏んじゃった!?)

 やってしまった感の静まりに、詳しい事情はもう聞ける空気じゃない。

(……少なくとも、ビターさんは仲直りしたいと思ってると思う。じゃなきゃ、あんな心配そうな顔しないよね……)

 弟を心配する兄の顔をしたビターさんが脳裏によぎり、物思いにふけていると――

「メティー、そろそろ寝なよ」

 サンセが、頼むから寝てくれと訴えるような真剣さで言ってきた。

(どうしてそんなに寝かしつけたがるの? ふたりと仲良くなりたいと思ってるのは私だけなのかな……)

 仲良くしたい気持ちを打ちのめされて凹んでいると、が訪れた――

「……来ちゃったか。寝たくないなら、目を閉じて耳を塞いでてほしいかな」

 サンセの眼光が鋭くなり、前を見据える――

(え……サンセ? どうしたの?)

 突然の変わりぶりに何がなんだかわからず、サンセが見据えた先を見ると、可愛い小さな野生のウサギがいた。

「うしゃぎ!」

 私がそう言うや否や、そのウサギは「グルルルル……」と低い威嚇の鳴き声をあげ、身体がありえない音を立て

(異形生物ベリアント! 研究所の人は何でこんな酷い事を……)

 私は驚きよりもショックで手が震えた。

「……メティー……目を閉じてて」

 カイトは、私が震えているのに気付いて声をかけてくれたけど、手の震えは止まらない――

「……カイト……メティーと先に急いで街へ……」

 サンセが私を見て低めの声で告げる。

 私は本能的にを予感した――

(っ! このままじゃ、あの異形生物ベリアントはサンセに殺されてしまう……)

「……わかった……」

 カイトがそう言って走り出そうとする――

「っ! まって!」

 慌てた私の声にカイトはピタリと止まった。

 サンセは、オレンジ色の瞳になりかけたものがオレンジ色へと戻り、怪訝そうに私を見つめた。

「わたち、“べりあんと”から もとにもどちたことありゅの……」
「え……そんな事が可能なの?」
「きぜちゅさせると “いぎょうか”がとまりゅの!」

 私がしーちゃんの言葉を思い返してふたりに伝えると――

「……気絶させるって簡単に言うけど、結構無茶な話だよ?」
(そうなの? しーちゃんは一瞬で気絶させてたから……)

 首を傾げた私を見て、サンセが苦笑いを浮かべた。

「……とりあえず、やってはみるけど……無理だと思うよ?」

 サンセは溜息を吐き、鞘を付けたまま剣を構え、異形生物ベリアントに向き合う――

 あんなに小さかった普通のウサギが、もう原型を留めていない姿でサンセの背よりもはるかに大きくなっている――

(嘘……ラビ君のお父さんの時より異形化が早い!?)


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
 
――森の木の枝に、気配と姿を消して様子を窺うアビスの姿があった。

(まさか、メティー達にが襲いかかるとはね……とりあえず、お手並み拝見といこうか?)

 アビスは木の枝に足組して腰掛け、ニヤリと笑った――


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

次回、メティーがシアの謎に少し迫る!? サンセも本領発揮!? アビスは何を思うのか……。
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