上 下
34 / 62
第2章 神奮闘~マカダミア王国編~

第24話 月夜の攻防

しおりを挟む
――メティーが魔力切れで意識を失った日――カイトがメティーを連れ帰り、カイトの気配がこの場から遠ざかって行った――

(さてと……早速問い詰めに行こうかな)

 アビスは自身の魔法で消していた姿を現し、岩壁にある結界の亀裂を眺め、不敵な笑みを浮かべた。

――アビスが岩壁のそばまで来ると、突然地面から土で出来た巨大な動く手が生えてきた。土の手は頑丈な岩のような材質に変わってアビスの行く手をはばむ。

「……ふーん。僕の邪魔をするつもり?」

も随分精霊に好かれてるみたいだね……)

 アビスは楽しげにニヤリと笑った。

 岩の手はアビス目掛けて襲いかかる――



 アビスの瞳が赤く光を帯びて輝き、冷たく睨みつける――

 岩の手はアビスを掴みかかろうとする体勢でピタリと動きを止めたかと思うと、一瞬にして崩れ散った。

「……を持つ僕には無意味だよ?」

 アビスは歩みを進めながら冷たく言い捨てた。

――アビスは結界のある岩壁を近くで眺める。

(……結界の上にただの岩壁に見えるように細工してたのか。……結界に亀裂が入らなきゃ気付く事はなかったかもね)

「……ねえ、聞こえてるんでしょ? だったら、結界これ解いてよ」

――問い掛けになんの変化も反応もなく、アビスはまた楽しげにニヤリと笑う。

「……解かないなら力ずくで壊させてもらうよ」

 アビスは結界の岩壁に触れると、自身の魔力を結界に流し始めた――

 アビスの手が闇の力の黒いオーラに包まれ、触れている場所から火花のようなものがバチバチと音を立て飛び散り、アビスの頬を掠め血が流れる。

 結界は、壊そうとするものにダメージを与える為だ――
 結界はそれでも壊れそうで壊れない状態を維持していた。

「……まだ抵抗するんだ? 大人しく解いた方が身の為だよ?」

 アビスは余裕な表情を変えることなく、呆れたように問い掛ける。

 アビスが“身の為”と言うのは、結界が壊れる時は結界を作った者に今まで流された魔力が一気に降り注ぐ事を意味し、自殺行為だと言う警告――

 それでもなんの変化も反応もない――

「……あーあ。どうなっても知らないよ?」

 アビスは声色は楽しげにクスリと笑うが、目は冷たく前を見据え、一気に強い魔力を送り始めた――

 一層火花が激しく飛び散り、その火花がアビスの身体を容赦なく血の赤に染めていく。

 既にアビス自身も相当なダメージにも関わらず、余裕の笑みが消える事はない――

「……、君が――?」

 アビスの言葉はバチバチとした火花の音でかき消された。
 すると、その言葉を聞いたかのタイミングで結界が解かれ、岩穴が姿を現したものの、アビスはその事に違和感を感じる――

(僕の予想通りだから必死に抵抗してたんじゃないって事?)

 アビスは地面に血を滴りながら、尚も平然な顔つきで奥へと歩む――

「――っ!」

 アビスが奥で目にしたのは、血塗れで倒れたシアの姿だった――

(結界が壊れてのダメージじゃないはず――)

 アビスは自然とシアのそばへ駆け寄り、シアに触れようと手を伸ばすと、シアはその手をバシッと払いのけた。

 シアを案じたアビスの顔つきも一瞬にして冷たい表情に変わり、ふたりの間に緊迫感が漂う――

 シアは力が入らない腕で何とか起き上がり、その手は部分だけ獣化させた手で、爪は血で赤く染まり、身体にはその爪で切り裂いたような傷がいくつもあった――

「……その傷……自分でやったの?」

 アビスの問いにシアは顔を背けて黙り込む――

「……メティーが知ったら、また泣いちゃうかもね?」

 アビスの言葉にシアはピクリと反応した。

「……メティーには……言わないで」

 シアは唇を噛み締め言葉を絞り出し、この時初めてアビスをちゃんと見た。その顔は懇願しているようで、何かを恐れているようにも見えた。

「……なら、僕の質問に答えてくれる?」
  
 アビスの問い掛けに、シアは再び視線を逸らし黙り込んだ――

「……たしか、シアって言うんだっけ? シアは僕と?」

――しばらく静まり返った岩穴の中で、シアは重い口を開いた。

「…………僕が君に言える事は、僕が――――に――し――――だけ」

 シアが、アビスだけに聞こえるような声で哀しげに呟いた。

「……は? 何それ……質問の答えがなわけ?」

 アビスは平然を保とうとしたものの、動揺を隠しきれず、苛立ちにも似た複雑な気持ちに声が少し震えていた。

「…………お願い」
「……お願いされても――」

 アビスがそう言いかけた時、アビスは異変を感じ取った。

(……このムカつく……)

 普段飄々ひょうひょうとしたアビスが、珍しく全身の血が沸騰するような苛立ちや、不快、嫌悪を前面に見せ殺気立つ。

「……呼ばれたから行かないと……」
「っ……大丈夫なの?」

 シアも何かを感じ取っていたのか、アビスへ不安げに声を掛けた。

「へぇ? 僕の心配してくれるんだ?…………ううん、何でもない」

 アビスは先程までシアに冷たい目を向けていたとは思えぬ程、察したように優しい目で微笑むと、シアもそれに返すように微笑んだ――

「……はまた今度。その時は結界すぐ解いてよね……面倒メンドーだし」
(気持ち悪いし)

 アビスの言葉にシアは察したようにクスリと笑い「わかった」と返すと、ふたりの纏う雰囲気は最初と打って変わって穏やかなものへと変わっていた――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

「――様……」

 マカダミア研究所の薄暗い研究室で、宝箱のような形の鍵付きの古い木箱に入れられた【うごめく小さな塊】を見つめ、そう呟く人影があった。

の奴……勝手に使ったようだ。私が気付いてないとでも?……やれやれ、も存外面倒だ……」

 長い黒髪の白衣を着た30代半ばの男が溜息を吐くと、その男の後ろに黒いもやが現れた。

「……、僕もそのまま返したいぐらいだね」
「っ! アビス……もう戻ったのか……」

 気だるそうに黒いもやから出てきたアビスに、その男は焦ったように振り返り、血塗れのアビスに驚き言葉を失う。

って……僕を呼んだのはでしょ? ただでさえ邪魔されてムカついてるのに、呼ばれたせいで余計腹立たしい……だから?」

 アビスは木箱を睨みながら、狂気的にニヤリとわらう。

「ま、待て! せっかくこの大きさまで……」
「どうせ僕がすぐ壊すんだから……いつ壊しても同じでしょ?」

 アビスはそう冷たい声で言うと、凄まじい殺気を放ち、その反動で木箱のそばに置かれた試験管が粉々に砕け散った。

「っ……そ、そういえば、邪魔されたと言っていたな? 怪我してるようだし……何してたんだ?」

 男はアビスの殺気にひるみながら何とか話を変えるも逆効果で、アビスの怒りの矛先ほこさきが男へと移る。

「……僕がどこで何しようがアンタに関係ないでしょ?」
「そ、そうだな……」

 冷や汗を浮かべ言葉を失った男に対して、アビスは呆れた溜息を吐いて殺気を鎮めた。

「…………で? 何の用?」
「……を1匹放った……」
「……ああ、確かにいるね。それを壊していいって事?」

 アビスはを感じとってニヤリと嗤う。

「いや、データを取りたい。冒険者が居合わせれば戦わせ様子見、民間人の場合はお前が助けて戦って観察結果を教えろ」
「…………」
(偉そーに)

 アビスが内心そう思いながら無言で男を冷たく睨むと、男は咳払いをして「た、頼めるか?」と上擦った声で苦笑いした。

「……了解リョーカイ。戻ったばっかだから、少しゆっくりしてからでいいでしょ?」

 アビスは気だるく言い捨て黒いもやを出し、消えた――


「――様……やはりアビスを引き入れたのは間違いだったのでは?」

 男は古い木箱に入れられた【うごめく小さな塊】を見つめ呟いた――


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

――黒いもやは、アビスしか知らない研究所施設周辺にあるアビスの住処へと通じていた――

 アビスは、天井に人ひとり通れる程の穴が空いた地下の空洞の壁にもたれかかり、ずり落ちるように力なく座りこむ――

「……もう塞がってきた……気持ち悪」

 アビスの全身を切り刻むようについたダメージは、アビスのゆっくり塞がっていく――

(この塞がってく感覚は一生好きにはなれないね……)

「もう少しゆっくり出来ると思ったのに……」

 アビスは傷の塞がる様を眺め、思った程休めないと悟り気だるく呟く。

(――また今度とは言ったけど……)

 アビスはシアのを思い返し、長い溜息を吐いた――

「…………どうしよっか……」

 天井から差し込む月の光が、アビスの声同様に弱々しく照らしていた――


 ▼ ▼ ▼ ▼ ▼

【おまけの会話~アビス&土の精霊ノーム~】
※その後、話したらのギャグ的な会話なので実際は喋ってないです

ノーム「アビス! わしが許可出したモノを見せ場なく無力化しおって!」
※見た目おじいちゃんの土の精霊

アビス「えー……僕なりの優しさなんだけど?」
ノ「優しいなら見せ場くれてもいいじゃろう!?」
ア「……そーすると、痛め付けて最悪死んじゃうかもだけど……その方がよかった?」
ノ「むぐっ」

――アビスがニヤリと笑い、ノームは黙り込む――

ア「土爺つちじいが前怒ったから優しくしてあげたのになー」

――楽しげに揶揄からかうような笑みを浮かべるアビス――

※土爺はアビスがノームにつけたアビス風の呼び名
※前に名前すらない土の下位精霊と暇つぶしで遊んだ(戦った)結果、瀕死状態にしてノームが怒った事があるらしい

ノ「え、偉いのう! さすがアビスじゃ!」
ア「でしょ?」

――アビスの機嫌を取るように振る舞うノームに無邪気にニッコリ笑うアビス――

※風の精霊シルフの対応に関しては、メティーの件でキレてたからであって、アビスは通常時だと子供っぽい一面も持ってます

――おまけおしまい――

次回は、マカダミアへ向けて出発したメティー達……既に危険フラグが立ってるけど……どうなる!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

神々の仲間入りしました。

ラキレスト
ファンタジー
 日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。 「私の娘として生まれ変わりませんか?」 「………、はいぃ!?」 女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。 (ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい) カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

陽キャグループを追放されたので、ひとりで気ままに大学生活を送ることにしたんだが……なぜか、ぼっちになってから毎日美女たちが話しかけてくる。

電脳ピエロ
恋愛
藤堂 薫は大学で共に行動している陽キャグループの男子2人、大熊 快児と蜂羽 強太から理不尽に追い出されてしまう。 ひとりで気ままに大学生活を送ることを決める薫だったが、薫が以前関わっていた陽キャグループの女子2人、七瀬 瑠奈と宮波 美緒は男子2人が理不尽に薫を追放した事実を知り、彼らと縁を切って薫と積極的に関わろうとしてくる。 しかも、なぜか今まで関わりのなかった同じ大学の美女たちが寄ってくるようになり……。 薫を上手く追放したはずなのにグループの女子全員から縁を切られる性格最悪な男子2人。彼らは瑠奈や美緒を呼び戻そうとするがことごとく無視され、それからも散々な目にあって行くことになる。 やがて自分たちが女子たちと関われていたのは薫のおかげだと気が付き、グループに戻ってくれと言うがもう遅い。薫は居心地のいいグループで楽しく大学生活を送っているのだから。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...