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第2章 神奮闘~マカダミア王国編~
【番外編】カオスな旅支度~乱された心~
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◆カオスな旅支度◆
――メティーがベッドから起き上がって部屋を見回すと、子供服が床に散乱していて、サンセが状況説明をしてくれた。
私が意識を失った後、みんなでマカダミア王国に出発する準備をしてくれてたみたい。
けど、私の着替えの話になるやヒートアップしたモカさんとグレイさんは、新品をたくさん買いに行く勢いだったらしい。
そこをサンセが、神の居場所を勘ぐられると必死に止め、孤児院の子のお下がり服にする事に落ち着き、今のこの子供服で散乱した床に至ると――
(確かに神の背格好ぐらいの子供服を大量購入は怪しい……サンセ、ご苦労様……)
ふたりの暴走を止めるのは疲れて当然だと納得して、憐れみの視線をサンセに向けてふと気付く。
「あ! しょーいえば、カイトはー?」
「……カイトはそこに……」
サンセの疲れたような苦い笑みを向けた方向に視線を向けると――自分の世界に入って黙々と自身の旅支度(忍者道具等の手入れ)をしているカイトがいた。
(この状況で集中出来るのすごい……)
呆れを通り越して感心した後『いや、そうじゃないだろう私!』と、内心自分でツッコミを入れる程にカオスな現状。
(サンセ、本当にご苦労様……)
私は再び憐れみの視線をサンセに向け、苦い笑みを浮かべた――
――その後、私も準備を手伝い始め、ふたりに色んな服をあれこれと着替えさせられた。
貴族のお嬢様の普段着みたいなフリルのついた色鮮やかなドレスの数々に、開いた口が塞がらない。
(孤児院の子のお下がりって言ってたよね? これが!? あー……ふたりとも王族なんだった……そもそも、こんな目立つ綺麗な服着て旅立つ!?)
あげるとキリが無くなるぐらいにツッコミ所が多く、もうどこをどう突っ込めばいいのやらで、早くも疲れて考える事を諦めた――
ただ着るだけならまだしも、言われるがままにポーズをとって笑顔を要求され――最初は人前で着替えたりポーズをとる事に恥ずかしさもあったものの――今はどうにでもして状態である――
「――その服では目立ってしまうので……地味で動きやすい服の方がよいかと……」
(うんうん、サンセもっと言ってやって!)
唯一の味方のサンセだけが頼り……なんだけど、選んでる時はもっとビシッと注意してくれてたのに、私が服を着始めた辺りから注意する勢いが落ちてる気がする――
「えー! こんなに可愛いじゃない!」
「そうだよ! 似合ってないとでも言うのかい!?」
「いえ…………とてもよく似合って可愛いらしいです」
(へ!? サンセ!? なんで同調してるの!? ふたりの暴走に負けないで!)
「だろう!? ほら! サンセもメティーちゃんに似合う服を一緒に探してよ!」
「…………はい!」
言いくるめられたサンセの目は、ふたり同様に楽しげに輝き、真剣に服を吟味し始めた。
(サンセー!? あのふたりの暴走でサンセまで狂っちゃったの!?)
でも、ずっとあのふたりの相手してたら、そりゃ疲れて気が狂うのも仕方ないかも――長い物には巻かれちゃえ理論か!
(正常者まで狂わせるなんて……あのふたり、ほんとに“混ぜるな危険”じゃん!)
サンセまでおかしくなって3対1の時点でもう詰んだ。我が道を突き進んでいるカイトは、始めから戦力外なのである。
仮にカイトに助けを求める想像をしても、無表情で黙って首を傾げる姿が浮かぶ。何で助けて欲しいのかわからないから、サンセが困ってる時も助けなかったのだろう――
(私はただの着せ替え人形、着せ替え人形……)
恥ずかしさを感じないように、それだけを必死に言い聞かせて言われるがままにポーズもとって笑顔で耐えてきた……耐えてきたけど――
(おかしいと思いつつも、女の子なら1度はこんな綺麗な服着てみたいと思ってたんだよね……)
とうとう私もカオスに飲み込まれたのか、楽しくなってきてしまった――
――それでも、綺麗な服は脱ぎ着も大変で、私の疲労はピークに達そうとしていた――
「――可愛いなぁ~。そうだ! ノエル君のお嫁さんにおいで!」
私の笑顔にメロメロになったグレイさんが、急にすっ飛んだ事を言い出した。
「のえりゅー?」
「そう! 孫のノエル! 歳も近いしお似合いでしょ!」
(たしか、孫って今年産まれたばっかりってモカさん言ってたような? 気が早すぎ――)
「まぁ! それは名案ね! 結婚式が楽しみだわー♡」
私の思考を遮るように、次の服を選んでいたモカさんも乗り気な返事で会話に加わり、私が口を挟む余地もないぐらい一方的に話がどんどん盛り上がっていって――もう、お手上げ状態です――
(サンセ、ふたりを止めて――)
サンセに視線を移すと、心ここに在らずで、こっちを見ているようで見ていない。
(サンセー! お願いだから戻ってきてー!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◆乱された心◆
――カイトが帰ってきて、気を失いぐったりしたメティーを抱えてるのを見た時は、生きた心地がしなかった。
(誰がメティーをこんな目に……)
サンセは苛立ちで拳を握り締める。
カイトからメシス様に会った話を聞いて、魔力を使い果たす程の事が起こったのはわかった。
でも、メティーの目元は泣いて目を擦ったのか少し腫れていて、僕の苛立ちが収まることはなかった。
メティーが目を覚まし事情を尋ねると、シアという少年がいなくなった事で泣いたようだ――
(メティーに初めて会った日に感じた気配の人物か……)
あの時感じた気配の強さから、10代後半以上の者と思ってはいた。
その後、メシス様が16歳ぐらいの少年と聞いて、“しーちゃん”と呼ぶぐらいだからその人物もその位の年頃かと推測した。
3年前の女神誕生祭以来、ずっと一緒に過ごしていたようだから、メティーは相当ショックを受けただろう。
(ずっと守っていたのに、なぜメティーを突き放した……泣かせてまで……)
顔も年齢も知らない“シア”という少年に怒りがこみ上げてきたが、メティーがビクッと怖がったのを見て、怒りを鎮めるべく息を吐いて落ち着かせた。
表面で『何か理由がある』とメティーを優しく慰めつつ、心内は『理由はどうあれ、メティーの信頼を裏切って泣かせた罪は重い』と怒りを潜めた――
けれど、メティーの食事を取りに行って改めて魔力を使い果たす原因を尋ねる際、再び潜めた怒りが溢れ出し、メティーをまた怖がらせてしまった。
グレイさんの目には『心配してるだけ』と映ったようだけど――
(確かに心配はしてる……でも、僕の感情はそんな綺麗なものじゃない……)
このまま醜い思想へと落ちていく僕を、強引に現実に引き戻したのは、グレイさんだった――“メティーは僕の初恋”だと言われそうになるのを慌てて遮った。
(いきなり何を言い出すんだ……ほんとグレイさんは予測不能でゆっくり考える暇すらない……)
グレイさんに『その事は言わないで下さい』と釘を刺し、メティーにも『気にしないで』とは言ったけど――僕の中で何か引っかかる――
確かに、昔僕は絵本のメシア様に淡い恋心を抱いた。けど、この場に実在しない存在を想い続けてもと、いつかまたメシア様が来た時の為に強くなろうとした――
女神誕生祭の誰も覚えてない光を覚えてる程にメシア様に執着してたけど――それは“敬愛”であって、“初恋”だからなんて理由じゃ――
考え込む僕の耳に聞こえて来た『グレイさんのそばは安心する』と言うメティーの声に、なぜか苛立った――
(……なんでメティーが関わる事にこんなにも苛立つんだ……“シア”という少年にしても、グレイさんにまで……まさか、嫉妬してるとでも?)
――その後、メティーは突然気を失い倒れた。
気を失う直前まで、グレイさんに言った発言から僕をチラッと見てあたふたしていた。
(……こんな幼い子に気を使わせて倒れさすなんて……僕は何してるだ……それもこれもグレイさんが初恋だと僕の心を乱すから――)
――グレイさん達が旅支度するのに口を挟みつつ、メティーが目覚めるまでに心の乱れを正そうとしていた。僕がメティー周辺の些細な動きにも反応する度に、グレイさん達がニヤニヤと笑うから苛立つ。
――結局、ふたりに邪魔されて僕の心は乱れたままだった――
――メティーが目覚めると、早々に僕が気にしていた事をバラされて、この人達は何がしたいのか理解に苦しむ――
すると、不意にメティーに呼ばれて、笑顔でお礼を言われた。
絵本のメシア様の微笑みが一瞬重なり、その後メティーの笑顔が打ち勝つように、僕の心に鮮明に刻まれてしまった――まるで、初恋した日のように――
絵本のメシア様は儚げな微笑みだけど、メティーは愛らしい無垢な笑顔で、顔はそっくりでも全然違う。それなのに――メティーが笑った時、顔が火照って思わず目を逸らした。
(っ……なんで僕は……)
心が乱れたまま見てはいけない笑顔だった――
――その後、平静を装って冷静にふたりの暴走を受け流して旅支度をしてた筈だった。
なのに、メティーが可愛く着飾った姿を見てる内に、色んな服を着たメティーが見たくなって――いつの間にか僕まで暴走して――ノエル様との結婚話にズキッと胸が痛んで驚いた。
(……初恋か……甘く見てた。こんな引きずるものだとはね……僕の中ではとっくに、敬愛すべき人に変わったと思ってたんだけどな……)
メティーとノエル様、年齢的にもお似合いとわかってるのに――
メシス様が16歳ぐらいの少年と聞いた時、もしかしたらメティーも大きくなれるのかもと脳裏に過ってはいた――
けど、恋愛的な意味で期待するように思った訳じゃなかったのに――
(……僕が隣に並べると思ってたとでも?……“醜い僕”が?……ありえないでしょ……)
ふっと自分で自分を嘲笑う。
(僕はただ、メシア様を利用しようとする者達が許せなくて……そんな奴らがメシア様の視界に映らないよう、始末したいだけ……それだけだ……)
――恋愛感情ハ、イラナイ――
――僕が醜い思考から我に返った時には、メティーは疲れから熱を出してフラフラで、立っているのもやっとの状態だった。
原因は暴走した自分にもあるのに、グレイさんを恨みがましく睨んだりして――
メティーは倒れたにも関わらず、僕らの心配をして休むように言ってくれた。
(……心優しい敬愛できる方……その気使いを無視なんて出来るわけがない……)
――部屋で、出発時間まで休もうとベッドに横になってもなかなか寝付けず、腕で目元を覆うと余計に心に刻まれた笑顔が脳裏に浮かぶ。
(……メティーは心優しい敬愛できる方……それ以上でも、それ以下でもない……お願いだから、これ以上僕の心をかき乱さないでよ――)
自分に言い聞かせるように、再び頭の中に何度も響き渡る――“恋愛感情ハ、イラナイ”と――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
【補足】
それぞれ冒頭にタイトル入れて明確に分けたのは、あんまりにもカオスとシリアスの落差が激しいので、読者様がびっくりしないようにです(汗)
【おまけの会話~メティー&サンセ~】
ギャグのようで少しだけ甘い語られてない裏話
メティー「しょーだ! ふくは どうなったのー?」
サンセ「……目立たない動きやすい服に落ち着かせたよ」
メ(落ち着かせた!? あの後ブラックサンセが降臨してたの!?)
メ「……ん? じゃあ、わたちが たいへんなおもいしたの……ぜーんぶ……むだ?」
サ「………………そうなるね」
メ「えーーーー!」
メ(恥ずかしい思いを我慢したのに……こんなの完全に黒歴史ものだよ……)
メ「フ……ハハハ……ハハハ」
※メティーが放心状態で変な笑いで壊れ、サンセも戸惑う
サ「…………じ、実は、1着だけ鞄に入れといたから……機嫌直してよ」
サ(……言うつもりなかったのに……)
メ「ほんとー!? どれ? どんなのー?」
サ「……メティーが気に入ってそうだったやつ」
メ「あのふくかな!? わーい! しゃんしぇ、ありがとー!」
サ「……どういたしまして」
メ(あの時、内心楽しんでたのバレてる!? やっぱり私顔に出やすいのかな……)
サ(……僕自身が何で持ってきちゃったのか謎で後悔してたのに……まぁ、メティーが喜んでるならいいか)
※なろう版のおまけは“サンセの意味深カタカナ台詞の補足等含む、おまけ補足”です(公開中)
※カクヨム版おまけはメティーが熱で倒れた後の“ブラックサンセ降臨のおまけの会話”です(公開中)
――おまけおしまい――
次回は、いよいよ気になるアビスのその後が明らかに……!?
――メティーがベッドから起き上がって部屋を見回すと、子供服が床に散乱していて、サンセが状況説明をしてくれた。
私が意識を失った後、みんなでマカダミア王国に出発する準備をしてくれてたみたい。
けど、私の着替えの話になるやヒートアップしたモカさんとグレイさんは、新品をたくさん買いに行く勢いだったらしい。
そこをサンセが、神の居場所を勘ぐられると必死に止め、孤児院の子のお下がり服にする事に落ち着き、今のこの子供服で散乱した床に至ると――
(確かに神の背格好ぐらいの子供服を大量購入は怪しい……サンセ、ご苦労様……)
ふたりの暴走を止めるのは疲れて当然だと納得して、憐れみの視線をサンセに向けてふと気付く。
「あ! しょーいえば、カイトはー?」
「……カイトはそこに……」
サンセの疲れたような苦い笑みを向けた方向に視線を向けると――自分の世界に入って黙々と自身の旅支度(忍者道具等の手入れ)をしているカイトがいた。
(この状況で集中出来るのすごい……)
呆れを通り越して感心した後『いや、そうじゃないだろう私!』と、内心自分でツッコミを入れる程にカオスな現状。
(サンセ、本当にご苦労様……)
私は再び憐れみの視線をサンセに向け、苦い笑みを浮かべた――
――その後、私も準備を手伝い始め、ふたりに色んな服をあれこれと着替えさせられた。
貴族のお嬢様の普段着みたいなフリルのついた色鮮やかなドレスの数々に、開いた口が塞がらない。
(孤児院の子のお下がりって言ってたよね? これが!? あー……ふたりとも王族なんだった……そもそも、こんな目立つ綺麗な服着て旅立つ!?)
あげるとキリが無くなるぐらいにツッコミ所が多く、もうどこをどう突っ込めばいいのやらで、早くも疲れて考える事を諦めた――
ただ着るだけならまだしも、言われるがままにポーズをとって笑顔を要求され――最初は人前で着替えたりポーズをとる事に恥ずかしさもあったものの――今はどうにでもして状態である――
「――その服では目立ってしまうので……地味で動きやすい服の方がよいかと……」
(うんうん、サンセもっと言ってやって!)
唯一の味方のサンセだけが頼り……なんだけど、選んでる時はもっとビシッと注意してくれてたのに、私が服を着始めた辺りから注意する勢いが落ちてる気がする――
「えー! こんなに可愛いじゃない!」
「そうだよ! 似合ってないとでも言うのかい!?」
「いえ…………とてもよく似合って可愛いらしいです」
(へ!? サンセ!? なんで同調してるの!? ふたりの暴走に負けないで!)
「だろう!? ほら! サンセもメティーちゃんに似合う服を一緒に探してよ!」
「…………はい!」
言いくるめられたサンセの目は、ふたり同様に楽しげに輝き、真剣に服を吟味し始めた。
(サンセー!? あのふたりの暴走でサンセまで狂っちゃったの!?)
でも、ずっとあのふたりの相手してたら、そりゃ疲れて気が狂うのも仕方ないかも――長い物には巻かれちゃえ理論か!
(正常者まで狂わせるなんて……あのふたり、ほんとに“混ぜるな危険”じゃん!)
サンセまでおかしくなって3対1の時点でもう詰んだ。我が道を突き進んでいるカイトは、始めから戦力外なのである。
仮にカイトに助けを求める想像をしても、無表情で黙って首を傾げる姿が浮かぶ。何で助けて欲しいのかわからないから、サンセが困ってる時も助けなかったのだろう――
(私はただの着せ替え人形、着せ替え人形……)
恥ずかしさを感じないように、それだけを必死に言い聞かせて言われるがままにポーズもとって笑顔で耐えてきた……耐えてきたけど――
(おかしいと思いつつも、女の子なら1度はこんな綺麗な服着てみたいと思ってたんだよね……)
とうとう私もカオスに飲み込まれたのか、楽しくなってきてしまった――
――それでも、綺麗な服は脱ぎ着も大変で、私の疲労はピークに達そうとしていた――
「――可愛いなぁ~。そうだ! ノエル君のお嫁さんにおいで!」
私の笑顔にメロメロになったグレイさんが、急にすっ飛んだ事を言い出した。
「のえりゅー?」
「そう! 孫のノエル! 歳も近いしお似合いでしょ!」
(たしか、孫って今年産まれたばっかりってモカさん言ってたような? 気が早すぎ――)
「まぁ! それは名案ね! 結婚式が楽しみだわー♡」
私の思考を遮るように、次の服を選んでいたモカさんも乗り気な返事で会話に加わり、私が口を挟む余地もないぐらい一方的に話がどんどん盛り上がっていって――もう、お手上げ状態です――
(サンセ、ふたりを止めて――)
サンセに視線を移すと、心ここに在らずで、こっちを見ているようで見ていない。
(サンセー! お願いだから戻ってきてー!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
◆乱された心◆
――カイトが帰ってきて、気を失いぐったりしたメティーを抱えてるのを見た時は、生きた心地がしなかった。
(誰がメティーをこんな目に……)
サンセは苛立ちで拳を握り締める。
カイトからメシス様に会った話を聞いて、魔力を使い果たす程の事が起こったのはわかった。
でも、メティーの目元は泣いて目を擦ったのか少し腫れていて、僕の苛立ちが収まることはなかった。
メティーが目を覚まし事情を尋ねると、シアという少年がいなくなった事で泣いたようだ――
(メティーに初めて会った日に感じた気配の人物か……)
あの時感じた気配の強さから、10代後半以上の者と思ってはいた。
その後、メシス様が16歳ぐらいの少年と聞いて、“しーちゃん”と呼ぶぐらいだからその人物もその位の年頃かと推測した。
3年前の女神誕生祭以来、ずっと一緒に過ごしていたようだから、メティーは相当ショックを受けただろう。
(ずっと守っていたのに、なぜメティーを突き放した……泣かせてまで……)
顔も年齢も知らない“シア”という少年に怒りがこみ上げてきたが、メティーがビクッと怖がったのを見て、怒りを鎮めるべく息を吐いて落ち着かせた。
表面で『何か理由がある』とメティーを優しく慰めつつ、心内は『理由はどうあれ、メティーの信頼を裏切って泣かせた罪は重い』と怒りを潜めた――
けれど、メティーの食事を取りに行って改めて魔力を使い果たす原因を尋ねる際、再び潜めた怒りが溢れ出し、メティーをまた怖がらせてしまった。
グレイさんの目には『心配してるだけ』と映ったようだけど――
(確かに心配はしてる……でも、僕の感情はそんな綺麗なものじゃない……)
このまま醜い思想へと落ちていく僕を、強引に現実に引き戻したのは、グレイさんだった――“メティーは僕の初恋”だと言われそうになるのを慌てて遮った。
(いきなり何を言い出すんだ……ほんとグレイさんは予測不能でゆっくり考える暇すらない……)
グレイさんに『その事は言わないで下さい』と釘を刺し、メティーにも『気にしないで』とは言ったけど――僕の中で何か引っかかる――
確かに、昔僕は絵本のメシア様に淡い恋心を抱いた。けど、この場に実在しない存在を想い続けてもと、いつかまたメシア様が来た時の為に強くなろうとした――
女神誕生祭の誰も覚えてない光を覚えてる程にメシア様に執着してたけど――それは“敬愛”であって、“初恋”だからなんて理由じゃ――
考え込む僕の耳に聞こえて来た『グレイさんのそばは安心する』と言うメティーの声に、なぜか苛立った――
(……なんでメティーが関わる事にこんなにも苛立つんだ……“シア”という少年にしても、グレイさんにまで……まさか、嫉妬してるとでも?)
――その後、メティーは突然気を失い倒れた。
気を失う直前まで、グレイさんに言った発言から僕をチラッと見てあたふたしていた。
(……こんな幼い子に気を使わせて倒れさすなんて……僕は何してるだ……それもこれもグレイさんが初恋だと僕の心を乱すから――)
――グレイさん達が旅支度するのに口を挟みつつ、メティーが目覚めるまでに心の乱れを正そうとしていた。僕がメティー周辺の些細な動きにも反応する度に、グレイさん達がニヤニヤと笑うから苛立つ。
――結局、ふたりに邪魔されて僕の心は乱れたままだった――
――メティーが目覚めると、早々に僕が気にしていた事をバラされて、この人達は何がしたいのか理解に苦しむ――
すると、不意にメティーに呼ばれて、笑顔でお礼を言われた。
絵本のメシア様の微笑みが一瞬重なり、その後メティーの笑顔が打ち勝つように、僕の心に鮮明に刻まれてしまった――まるで、初恋した日のように――
絵本のメシア様は儚げな微笑みだけど、メティーは愛らしい無垢な笑顔で、顔はそっくりでも全然違う。それなのに――メティーが笑った時、顔が火照って思わず目を逸らした。
(っ……なんで僕は……)
心が乱れたまま見てはいけない笑顔だった――
――その後、平静を装って冷静にふたりの暴走を受け流して旅支度をしてた筈だった。
なのに、メティーが可愛く着飾った姿を見てる内に、色んな服を着たメティーが見たくなって――いつの間にか僕まで暴走して――ノエル様との結婚話にズキッと胸が痛んで驚いた。
(……初恋か……甘く見てた。こんな引きずるものだとはね……僕の中ではとっくに、敬愛すべき人に変わったと思ってたんだけどな……)
メティーとノエル様、年齢的にもお似合いとわかってるのに――
メシス様が16歳ぐらいの少年と聞いた時、もしかしたらメティーも大きくなれるのかもと脳裏に過ってはいた――
けど、恋愛的な意味で期待するように思った訳じゃなかったのに――
(……僕が隣に並べると思ってたとでも?……“醜い僕”が?……ありえないでしょ……)
ふっと自分で自分を嘲笑う。
(僕はただ、メシア様を利用しようとする者達が許せなくて……そんな奴らがメシア様の視界に映らないよう、始末したいだけ……それだけだ……)
――恋愛感情ハ、イラナイ――
――僕が醜い思考から我に返った時には、メティーは疲れから熱を出してフラフラで、立っているのもやっとの状態だった。
原因は暴走した自分にもあるのに、グレイさんを恨みがましく睨んだりして――
メティーは倒れたにも関わらず、僕らの心配をして休むように言ってくれた。
(……心優しい敬愛できる方……その気使いを無視なんて出来るわけがない……)
――部屋で、出発時間まで休もうとベッドに横になってもなかなか寝付けず、腕で目元を覆うと余計に心に刻まれた笑顔が脳裏に浮かぶ。
(……メティーは心優しい敬愛できる方……それ以上でも、それ以下でもない……お願いだから、これ以上僕の心をかき乱さないでよ――)
自分に言い聞かせるように、再び頭の中に何度も響き渡る――“恋愛感情ハ、イラナイ”と――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
【補足】
それぞれ冒頭にタイトル入れて明確に分けたのは、あんまりにもカオスとシリアスの落差が激しいので、読者様がびっくりしないようにです(汗)
【おまけの会話~メティー&サンセ~】
ギャグのようで少しだけ甘い語られてない裏話
メティー「しょーだ! ふくは どうなったのー?」
サンセ「……目立たない動きやすい服に落ち着かせたよ」
メ(落ち着かせた!? あの後ブラックサンセが降臨してたの!?)
メ「……ん? じゃあ、わたちが たいへんなおもいしたの……ぜーんぶ……むだ?」
サ「………………そうなるね」
メ「えーーーー!」
メ(恥ずかしい思いを我慢したのに……こんなの完全に黒歴史ものだよ……)
メ「フ……ハハハ……ハハハ」
※メティーが放心状態で変な笑いで壊れ、サンセも戸惑う
サ「…………じ、実は、1着だけ鞄に入れといたから……機嫌直してよ」
サ(……言うつもりなかったのに……)
メ「ほんとー!? どれ? どんなのー?」
サ「……メティーが気に入ってそうだったやつ」
メ「あのふくかな!? わーい! しゃんしぇ、ありがとー!」
サ「……どういたしまして」
メ(あの時、内心楽しんでたのバレてる!? やっぱり私顔に出やすいのかな……)
サ(……僕自身が何で持ってきちゃったのか謎で後悔してたのに……まぁ、メティーが喜んでるならいいか)
※なろう版のおまけは“サンセの意味深カタカナ台詞の補足等含む、おまけ補足”です(公開中)
※カクヨム版おまけはメティーが熱で倒れた後の“ブラックサンセ降臨のおまけの会話”です(公開中)
――おまけおしまい――
次回は、いよいよ気になるアビスのその後が明らかに……!?
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18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
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本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
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