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第2章 神奮闘~マカダミア王国編~
第23話 誓いの旅立ち②
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「――――も可愛いと思うの!」
「いいね! これも可愛くないかい?」
(ん……?)
「……そんなにたくさん持って行けませんよ」
(……話し声がする……?)
不思議に思って目を開けると、窓から差し込む光の眩しさに「う……」と思わず声が漏れ目を細めた。
「メティー!? 気がついた!?」
サンセがメティーの声にいち早く反応して駆け寄ってきた。
(……あれ? 私、また寝てたの? 起きてサンセ達と話してた気がするのに……)
ベッドで目覚めた自分に違和感を感じ、まだ寝ぼけているのか記憶がぼんやりとボヤけてハッキリしない。
サンセは私を見て悲しげに眉を顰めた。
「……話してる時に急に意識を失ったんだよ」
(え? 何で意識を失ったんだっけ?……思い出せない……。やっぱりまたあの子の所為?)
“思い出せない=あの子の所為”という私の中での暗黙のルールが、私の不安な思いを打ち消して行く。
(思い出せないのは仕方ない事なんだから……)
――誰かの所為にするのは嫌い。自分で何とか出来るならそうしたい。でも、自分でもどうにも出来ない事だから、そうでも言い聞かせないと不安に押し潰されてしまう――
不意にサンセに頭を撫でられ、ぼんやりした意識の中から我に返った。
「やっぱり、疲れさせちゃったよね……ごめんね(グレイさんを部屋に連れてくるんじゃなかった)」
「へ!? だぁれも わりゅくないよ?」
サンセが小声で低く呟いた内容に怒りがこもってる気がして、慌ててニッコリ笑って違うとアピールした。
それに、私からすれば疲れて見えるのはサンセの方。少し老けたんじゃと思う程――
「あら? 今度はちゃんと起きてるみたいね?」
「あ! ほんとだぁ! サンセったら、何度もメティーちゃんが起きてないかって、ほんのちょっとの空気の動きにすら反応してたからね」
「っ! そんな事いちいち話さなくていいじゃないですか!」
サンセの後ろからひょっこりとモカさんとグレイさんが顔を覗かせ、サンセは慌てて反論している。
(サンセ……心配してくれてたんだ……)
サンセの優しさに心がホッコリ暖かくなって、自然と口元が緩む――
「しゃんしぇ! ありがとう」
「……っ……うん……」
サンセは顔を赤くして、私から顔を背けて返事をした。
(ん? どうして赤く?)
サンセを生暖かい視線でニヤニヤと見つめるモカさんとグレイさんに気付き、ふたりに揶揄われてるからだと推測した。
(サンセが揶揄われる立場だなんて……。ビターさんですらモカさんの相手に疲れてたぐらいだもんね……。あ、モカさんとグレイさんって……もしかしなくても……混ぜるな危険ってヤツでは!? サンセが疲れて見えるのもその所為!?)
――のちに私にも襲って来るであろう疲労感を思うと、早くも想像だけで目眩がしそう――
――その後“カオスな旅支度”は何とか終わり、予想通り疲労困憊した私は、知恵熱で再びベッドに横になっていた――
グレイさんの魔力は【水】で、プルプルしたゼリー状の水の塊を手から出して、その手を私のおでこに乗せてくれている。
(……気持ちいい……。疲れて熱が出るとか……ほんとお子様すぎる……。迷惑かけてばっかりで情けない……役に立ちたいのに……)
ぼんやりと天井を見つめ、自分の不甲斐なさに落ち込む。
「……やっぱり、今夜の出発はやめて、体調良くなってからの方がいいんじゃないかい?」
グレイさんが心配そうに私を見つめ優しい声で呟いた。
でも、早く出発しないと連絡が取れないビターさんの弟のティスさんが心配だ――私は首を横に振った。
「……でも、サンセやカイトも出発の為に休まないとなのに、ちっとも休もうとしなくてね」
「え?」
グレイさんの言葉に視線を足元に向けると、熱の所為か霞んで見える。それでも、サンセとカイトが壁に寄りかかってこっちを見ているのがわかった。
「ふたりとも……やしゅんで?」
マカダミアへは、目立つ馬や馬車は使えないから歩いて向かい、孤児院の子達が寝静まる頃に出発して明け方に着く距離だという。
(夜通し歩くのなら、ふたり共ちゃんと寝ておかないと……)
「……メティーの熱出した原因を置いて休めると思う?」
サンセの低い声が、表情はぼやけていても、きっと怖すぎるほど真剣な顔をしているんだろうと思った。
(心配してくれてる?……熱出した原因って、グレイさんの事?)
グレイさんは反省しているのか、サンセの言葉に言い返す事なく申し訳なさそうに顔を顰め、黙って魔力を送る事に集中している。
(なんだかグレイさんが可哀想で居た堪れない……)
「わたちは、だいじょーぶだかりゃ……やしゅんで? はやく しゅっぱちゅ しないと」
「……ふたり共、ここは私に任せて休みなさい。メティーちゃんの気使いを無視するのかい?」
「…………わかりました」
サンセは真面目モードのグレイさんに渋々返事をして、カイトと共に部屋を出て行った。
窓から見える夕焼けで、もうすぐ日が沈むぐらいの時間だろうか――
(ふたり共、少しは休めるといいなぁ)
「さぁ、メティーちゃんも寝ないと……熱下がらないと出発出来ないよ?」
グレイさんの優しい声で言われた事が、本当にこの世界のお父さんが看病してくれてるようで嬉しい。
まだ熱はあるものの、グレイさんが冷やしてくれているお陰で熱が少し下がったのか、身体はしんどい筈なのに気持ちは元気で――寝ないとなのに寝たくない。
「もうしゅこし おきてりゅの!」
グレイさんは困った顔をして、私が眠くなるまで話相手をしてくれた――
「……ビターに聞いたよ。ティスを探してくれるんだってね……ありがとう」
「とーじぇんなの!」
私がニッコリ笑うと、グレイさんも優しく微笑んだ。
「……やっぱり、まかだみあにいりゅの しんぱい? ちょこらんたは きらわれてりゅって……」
「……そんな事メティーちゃんに吹き込んだのはサンセかい?」
(う……サンセごめん……告げ口したみたいになっちゃった……)
「……嫌われてるのは……事実ではあるけど、マカダミアの人全てが嫌ってるわけじゃない」
(そっか、そりゃそうだ!)
「……私はマカダミアの勉学や機械技術等を素晴らしいと思っているし……マカダミアに良い人がたくさんいる事も知ってるから……」
グレイさんの声は段々不安げに小さくなっていった。
(嫌う人ばかりじゃないとわかってても、やっぱり心配だよね……)
「……ティスが留学してから、魔力石でちょくちょく連絡は取ってたんだ。でも、1年ぶりにティスを呼んだんだけど返事がなくて……こんな事今までなかったから……」
「……なんで、いちねんぶりー?」
「……くだらない事で連絡し過ぎて勉強の邪魔って言われちゃってね……」
グレイさんは言いにくそうに苦笑いした。
(……それはティスさんに同情だわ……)
容易に想像出来ちゃうのは、私も身を持ってカオスぶりを経験したからだろう――
「それでも連絡した時は、一言でも返事はくれてたんだよ……」
グレイさんは心配そうに顔を顰めた。それはビターさんの時と同様で、まさに息子を心配する親の顔で、そんな顔を見たら何とかしてあげたい――
「まかしぇて!」
私がにっこり笑うと、グレイさんも「ありがとう」と優しく微笑んだ。
――ふと、ティスさんがどんな人か知らないと思い至る。探さないといけない人の特徴も知らずに探すなんて無理な話だ。
「てぃしゅしゃん、どんなひちょー?」
(サンセやカイトが知ってるんだろうけど……。隠れてないとダメな私は堂々と探せないし、知ってても役に立てないかもだけど……)
考える程に、迷惑をかけるだけの役立たずと思えて虚しい。
「……最近の写真ではないけど……」
そう言ってグレイさんは、ベッド脇にある収納付きのサイドテーブルの1番上の引き出しを開けた。中を見るや否やふわっと優しく微笑み、大事そうに取り出して私に見せてくれた。
写真には魔力石を見せるようにして3人写っていて、ひとりは今より少し若く見えるグレイさん。ふたり目はしーちゃんと同じ年頃で、髪と瞳の色から子供の頃のビターさんだとわかる。隣の子と肩を組んでニッコリ笑ってる。
(ビターさん可愛い! 子供の頃から既にイケメン……そうなると、じゃあ……)
ビターさんが肩を組む3人目の人物に視線を移す。ビターさんよりも幼く、グレイさん達よりも淡い白金の髪、瞳はモカさん譲りな淡いピンクで儚げに微笑んでいた。
(この子がティスさん……可愛いけど……美しすぎる。美少年って言葉はティスさんの為にあるのでは!?)
「――この写真はティスが初めて魔力石を作って、お揃いの首飾りにした時に記念に写したものなんだ」
「しゅてきな しゃしん!」
この写真を見たら、仲が悪くて10年以上も話してないなんて信じ難い程に、仲良し兄弟そのものだった――
(仲直りさせてあげたいな……)
「ビターは成長したとはいえ、すぐわかるだろう? ティスも同じで、このまま大きくなった感じと言えば雰囲気は伝わるかな?」
私はコクコクと頷き、成長した姿を思い浮かべてみる――
(……絶対イケメン……)
あまりの麗しさに思わず溜息が零れてしまった。
(ほんとこの世界イケメン多すぎでは!?)
イケメン耐性をつけないとって痛感はしてたけど……どうやって慣れろと!?……子供なのを利用して抱き着くとか!?……それが出来たら苦労しない――
(てか、変態か!)
自分でツッコミする程に変なテンションで、また熱が少し上がってきたのか、瞼が重くなってウトウトしてきた。
それを見たグレイさんは、再びおでこを魔法で冷やしながら「おやすみ」と優しく呟いた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――真っ暗な暗闇を熱で意識も朦朧の中、フラフラな足取りで彷徨うメティー。
(あつい……くるしい――)
――グレイは、うなされるように苦しむメティーのおでこを冷やしながら、もう片方の手で身体を優しくあやす。
「……嫌な夢でも見てるのかな……可哀想に――」
――どれだけ歩いたかも暗闇でわからず、ついにメティーは暗闇に倒れ込んだ――
すると、真っ暗な場所が一際眩しい白い光に包まれた。光はすぐに目にも優しい光へと変わり、白い球体状の光となった。
メティーは朦朧とする中、無意識にその光へと手を伸ばし――光を抱きしめた――
光は再び白く輝き、まるでメティーを抱きしめ返すように帯状の光がメティーを優しく包みこんだ――
――グレイがうなされるメティーをあやし続けていると、突然メティーの身体全体がぼんやりと白く光り出した。
グレイは驚愕してメティーから離れ、今起こっている現象をまじまじと眺める。
「こ、これは一体……」
すると、苦しそうだったメティーの顔が安らかな顔へと変わった。
まさかとグレイは再びメティーのおでこへと手を伸ばす。
「……熱が……下がってる?」
(癒しの力?……メシア様自身が自分へは力を使えないはずでは……)
グレイは【伝記】に書かれている内容を思い返し考え込む。
(サンセにも言った通り、初代王が見たものだけが記されているわけだから……元々使えたのかもしれないし……仮に違うならば、実際使えているメティーちゃんの説明がつかない。……念の為ビターに知らせておくべきか――)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――孤児院の子供達が寝静まる頃、さっきまで熱があったのが嘘のようにすっかり回復していた。
(……なんだか懐かしいぬくもりを感じたような気がしたけど……寝てたんだし……気のせいだよね?)
不思議だけど治った事を良しとして、出発準備の会話へと加わる。
「――メティーみたいな小っちゃい子が、夜中に外歩くだけで目立つから……カイトがおんぶして、その上からマントを着てメティーを隠そう」
(……どこで誰が見てるかわからないんだもんね)
カイトは自身の荷物をサンセに預け、私をおんぶして隠すようにマントを羽織る。
「……苦しく……ない?」
カイトが振り返り、通常運転のマイペースでゆったりと聞いてきた。
「うん! ありがとー!」
「……最悪何かあっても、カイトの速さなら余裕で逃げれるでしょ?」
カイトは黙って頷いた。
「なにかあってもー?」
「街から離れた辺りからマカダミアの国境までの道は、賊の住処がいくつもあるから危険なんだ」
(賊!?)
以前、岩穴のそばまで探しに来た人達が思い浮かび、急に身体がこわばる。
「大丈夫だよ! サンセもカイトもすごく強いんだから!」
グレイさんが私の頭を優しく撫で、私を安心させるように明るく笑う。
(うん……サンセの強さは知ってるし、カイトも崖を軽々登ったりしてる時点で強そう)
――孤児院の子供達を起こさないよう静かに移動して、1階の孤児院の出入口の前にやって来た。
「メティーちゃん、寂しくなったらいつでも連絡してくれていいからね!?」
グレイさんは淡い水色の魔力石を見せて、ニコニコ笑う。
(……これは連絡しないとグレイさん泣いちゃいそうだな……)
「もう! 私だってメティーちゃんと話したいのに!」
モカさんが会話に乱入し、またカオスな展開になりそうになり「ぐれいしゃん! もかしゃん! ありがとー!」と、お礼で出発する空気を作り出す事に成功した。
(カオスで大変だったけど、これでふたりとお別れだと思うとなんだか寂しい気も……ちゃんと連絡しないとね)
「――気をつけていってらっしゃい」
モカさんとグレイさんは優しく微笑み、手を振ってくれた――いざ出発だ!
「いってきましゅ!」
グレイさんとモカさんに元気よく告げ、マカダミアへと旅立つのだった――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
【後書き&補足】
途中なるべく短くまとめる為に、三人称視点でメティーの夢の中と、看病中のグレイを交互に書いてみたのですが…わかりにくかったらごめんなさい。
次回は番外編として、今回文字数的にカットした『カオスな旅支度』シーンと、それだけじゃ短いかと『夜明けの語らい~カオスな旅支度』までの気になりそうなサンセ視点をまとめてお送りします!
「いいね! これも可愛くないかい?」
(ん……?)
「……そんなにたくさん持って行けませんよ」
(……話し声がする……?)
不思議に思って目を開けると、窓から差し込む光の眩しさに「う……」と思わず声が漏れ目を細めた。
「メティー!? 気がついた!?」
サンセがメティーの声にいち早く反応して駆け寄ってきた。
(……あれ? 私、また寝てたの? 起きてサンセ達と話してた気がするのに……)
ベッドで目覚めた自分に違和感を感じ、まだ寝ぼけているのか記憶がぼんやりとボヤけてハッキリしない。
サンセは私を見て悲しげに眉を顰めた。
「……話してる時に急に意識を失ったんだよ」
(え? 何で意識を失ったんだっけ?……思い出せない……。やっぱりまたあの子の所為?)
“思い出せない=あの子の所為”という私の中での暗黙のルールが、私の不安な思いを打ち消して行く。
(思い出せないのは仕方ない事なんだから……)
――誰かの所為にするのは嫌い。自分で何とか出来るならそうしたい。でも、自分でもどうにも出来ない事だから、そうでも言い聞かせないと不安に押し潰されてしまう――
不意にサンセに頭を撫でられ、ぼんやりした意識の中から我に返った。
「やっぱり、疲れさせちゃったよね……ごめんね(グレイさんを部屋に連れてくるんじゃなかった)」
「へ!? だぁれも わりゅくないよ?」
サンセが小声で低く呟いた内容に怒りがこもってる気がして、慌ててニッコリ笑って違うとアピールした。
それに、私からすれば疲れて見えるのはサンセの方。少し老けたんじゃと思う程――
「あら? 今度はちゃんと起きてるみたいね?」
「あ! ほんとだぁ! サンセったら、何度もメティーちゃんが起きてないかって、ほんのちょっとの空気の動きにすら反応してたからね」
「っ! そんな事いちいち話さなくていいじゃないですか!」
サンセの後ろからひょっこりとモカさんとグレイさんが顔を覗かせ、サンセは慌てて反論している。
(サンセ……心配してくれてたんだ……)
サンセの優しさに心がホッコリ暖かくなって、自然と口元が緩む――
「しゃんしぇ! ありがとう」
「……っ……うん……」
サンセは顔を赤くして、私から顔を背けて返事をした。
(ん? どうして赤く?)
サンセを生暖かい視線でニヤニヤと見つめるモカさんとグレイさんに気付き、ふたりに揶揄われてるからだと推測した。
(サンセが揶揄われる立場だなんて……。ビターさんですらモカさんの相手に疲れてたぐらいだもんね……。あ、モカさんとグレイさんって……もしかしなくても……混ぜるな危険ってヤツでは!? サンセが疲れて見えるのもその所為!?)
――のちに私にも襲って来るであろう疲労感を思うと、早くも想像だけで目眩がしそう――
――その後“カオスな旅支度”は何とか終わり、予想通り疲労困憊した私は、知恵熱で再びベッドに横になっていた――
グレイさんの魔力は【水】で、プルプルしたゼリー状の水の塊を手から出して、その手を私のおでこに乗せてくれている。
(……気持ちいい……。疲れて熱が出るとか……ほんとお子様すぎる……。迷惑かけてばっかりで情けない……役に立ちたいのに……)
ぼんやりと天井を見つめ、自分の不甲斐なさに落ち込む。
「……やっぱり、今夜の出発はやめて、体調良くなってからの方がいいんじゃないかい?」
グレイさんが心配そうに私を見つめ優しい声で呟いた。
でも、早く出発しないと連絡が取れないビターさんの弟のティスさんが心配だ――私は首を横に振った。
「……でも、サンセやカイトも出発の為に休まないとなのに、ちっとも休もうとしなくてね」
「え?」
グレイさんの言葉に視線を足元に向けると、熱の所為か霞んで見える。それでも、サンセとカイトが壁に寄りかかってこっちを見ているのがわかった。
「ふたりとも……やしゅんで?」
マカダミアへは、目立つ馬や馬車は使えないから歩いて向かい、孤児院の子達が寝静まる頃に出発して明け方に着く距離だという。
(夜通し歩くのなら、ふたり共ちゃんと寝ておかないと……)
「……メティーの熱出した原因を置いて休めると思う?」
サンセの低い声が、表情はぼやけていても、きっと怖すぎるほど真剣な顔をしているんだろうと思った。
(心配してくれてる?……熱出した原因って、グレイさんの事?)
グレイさんは反省しているのか、サンセの言葉に言い返す事なく申し訳なさそうに顔を顰め、黙って魔力を送る事に集中している。
(なんだかグレイさんが可哀想で居た堪れない……)
「わたちは、だいじょーぶだかりゃ……やしゅんで? はやく しゅっぱちゅ しないと」
「……ふたり共、ここは私に任せて休みなさい。メティーちゃんの気使いを無視するのかい?」
「…………わかりました」
サンセは真面目モードのグレイさんに渋々返事をして、カイトと共に部屋を出て行った。
窓から見える夕焼けで、もうすぐ日が沈むぐらいの時間だろうか――
(ふたり共、少しは休めるといいなぁ)
「さぁ、メティーちゃんも寝ないと……熱下がらないと出発出来ないよ?」
グレイさんの優しい声で言われた事が、本当にこの世界のお父さんが看病してくれてるようで嬉しい。
まだ熱はあるものの、グレイさんが冷やしてくれているお陰で熱が少し下がったのか、身体はしんどい筈なのに気持ちは元気で――寝ないとなのに寝たくない。
「もうしゅこし おきてりゅの!」
グレイさんは困った顔をして、私が眠くなるまで話相手をしてくれた――
「……ビターに聞いたよ。ティスを探してくれるんだってね……ありがとう」
「とーじぇんなの!」
私がニッコリ笑うと、グレイさんも優しく微笑んだ。
「……やっぱり、まかだみあにいりゅの しんぱい? ちょこらんたは きらわれてりゅって……」
「……そんな事メティーちゃんに吹き込んだのはサンセかい?」
(う……サンセごめん……告げ口したみたいになっちゃった……)
「……嫌われてるのは……事実ではあるけど、マカダミアの人全てが嫌ってるわけじゃない」
(そっか、そりゃそうだ!)
「……私はマカダミアの勉学や機械技術等を素晴らしいと思っているし……マカダミアに良い人がたくさんいる事も知ってるから……」
グレイさんの声は段々不安げに小さくなっていった。
(嫌う人ばかりじゃないとわかってても、やっぱり心配だよね……)
「……ティスが留学してから、魔力石でちょくちょく連絡は取ってたんだ。でも、1年ぶりにティスを呼んだんだけど返事がなくて……こんな事今までなかったから……」
「……なんで、いちねんぶりー?」
「……くだらない事で連絡し過ぎて勉強の邪魔って言われちゃってね……」
グレイさんは言いにくそうに苦笑いした。
(……それはティスさんに同情だわ……)
容易に想像出来ちゃうのは、私も身を持ってカオスぶりを経験したからだろう――
「それでも連絡した時は、一言でも返事はくれてたんだよ……」
グレイさんは心配そうに顔を顰めた。それはビターさんの時と同様で、まさに息子を心配する親の顔で、そんな顔を見たら何とかしてあげたい――
「まかしぇて!」
私がにっこり笑うと、グレイさんも「ありがとう」と優しく微笑んだ。
――ふと、ティスさんがどんな人か知らないと思い至る。探さないといけない人の特徴も知らずに探すなんて無理な話だ。
「てぃしゅしゃん、どんなひちょー?」
(サンセやカイトが知ってるんだろうけど……。隠れてないとダメな私は堂々と探せないし、知ってても役に立てないかもだけど……)
考える程に、迷惑をかけるだけの役立たずと思えて虚しい。
「……最近の写真ではないけど……」
そう言ってグレイさんは、ベッド脇にある収納付きのサイドテーブルの1番上の引き出しを開けた。中を見るや否やふわっと優しく微笑み、大事そうに取り出して私に見せてくれた。
写真には魔力石を見せるようにして3人写っていて、ひとりは今より少し若く見えるグレイさん。ふたり目はしーちゃんと同じ年頃で、髪と瞳の色から子供の頃のビターさんだとわかる。隣の子と肩を組んでニッコリ笑ってる。
(ビターさん可愛い! 子供の頃から既にイケメン……そうなると、じゃあ……)
ビターさんが肩を組む3人目の人物に視線を移す。ビターさんよりも幼く、グレイさん達よりも淡い白金の髪、瞳はモカさん譲りな淡いピンクで儚げに微笑んでいた。
(この子がティスさん……可愛いけど……美しすぎる。美少年って言葉はティスさんの為にあるのでは!?)
「――この写真はティスが初めて魔力石を作って、お揃いの首飾りにした時に記念に写したものなんだ」
「しゅてきな しゃしん!」
この写真を見たら、仲が悪くて10年以上も話してないなんて信じ難い程に、仲良し兄弟そのものだった――
(仲直りさせてあげたいな……)
「ビターは成長したとはいえ、すぐわかるだろう? ティスも同じで、このまま大きくなった感じと言えば雰囲気は伝わるかな?」
私はコクコクと頷き、成長した姿を思い浮かべてみる――
(……絶対イケメン……)
あまりの麗しさに思わず溜息が零れてしまった。
(ほんとこの世界イケメン多すぎでは!?)
イケメン耐性をつけないとって痛感はしてたけど……どうやって慣れろと!?……子供なのを利用して抱き着くとか!?……それが出来たら苦労しない――
(てか、変態か!)
自分でツッコミする程に変なテンションで、また熱が少し上がってきたのか、瞼が重くなってウトウトしてきた。
それを見たグレイさんは、再びおでこを魔法で冷やしながら「おやすみ」と優しく呟いた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――真っ暗な暗闇を熱で意識も朦朧の中、フラフラな足取りで彷徨うメティー。
(あつい……くるしい――)
――グレイは、うなされるように苦しむメティーのおでこを冷やしながら、もう片方の手で身体を優しくあやす。
「……嫌な夢でも見てるのかな……可哀想に――」
――どれだけ歩いたかも暗闇でわからず、ついにメティーは暗闇に倒れ込んだ――
すると、真っ暗な場所が一際眩しい白い光に包まれた。光はすぐに目にも優しい光へと変わり、白い球体状の光となった。
メティーは朦朧とする中、無意識にその光へと手を伸ばし――光を抱きしめた――
光は再び白く輝き、まるでメティーを抱きしめ返すように帯状の光がメティーを優しく包みこんだ――
――グレイがうなされるメティーをあやし続けていると、突然メティーの身体全体がぼんやりと白く光り出した。
グレイは驚愕してメティーから離れ、今起こっている現象をまじまじと眺める。
「こ、これは一体……」
すると、苦しそうだったメティーの顔が安らかな顔へと変わった。
まさかとグレイは再びメティーのおでこへと手を伸ばす。
「……熱が……下がってる?」
(癒しの力?……メシア様自身が自分へは力を使えないはずでは……)
グレイは【伝記】に書かれている内容を思い返し考え込む。
(サンセにも言った通り、初代王が見たものだけが記されているわけだから……元々使えたのかもしれないし……仮に違うならば、実際使えているメティーちゃんの説明がつかない。……念の為ビターに知らせておくべきか――)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――孤児院の子供達が寝静まる頃、さっきまで熱があったのが嘘のようにすっかり回復していた。
(……なんだか懐かしいぬくもりを感じたような気がしたけど……寝てたんだし……気のせいだよね?)
不思議だけど治った事を良しとして、出発準備の会話へと加わる。
「――メティーみたいな小っちゃい子が、夜中に外歩くだけで目立つから……カイトがおんぶして、その上からマントを着てメティーを隠そう」
(……どこで誰が見てるかわからないんだもんね)
カイトは自身の荷物をサンセに預け、私をおんぶして隠すようにマントを羽織る。
「……苦しく……ない?」
カイトが振り返り、通常運転のマイペースでゆったりと聞いてきた。
「うん! ありがとー!」
「……最悪何かあっても、カイトの速さなら余裕で逃げれるでしょ?」
カイトは黙って頷いた。
「なにかあってもー?」
「街から離れた辺りからマカダミアの国境までの道は、賊の住処がいくつもあるから危険なんだ」
(賊!?)
以前、岩穴のそばまで探しに来た人達が思い浮かび、急に身体がこわばる。
「大丈夫だよ! サンセもカイトもすごく強いんだから!」
グレイさんが私の頭を優しく撫で、私を安心させるように明るく笑う。
(うん……サンセの強さは知ってるし、カイトも崖を軽々登ったりしてる時点で強そう)
――孤児院の子供達を起こさないよう静かに移動して、1階の孤児院の出入口の前にやって来た。
「メティーちゃん、寂しくなったらいつでも連絡してくれていいからね!?」
グレイさんは淡い水色の魔力石を見せて、ニコニコ笑う。
(……これは連絡しないとグレイさん泣いちゃいそうだな……)
「もう! 私だってメティーちゃんと話したいのに!」
モカさんが会話に乱入し、またカオスな展開になりそうになり「ぐれいしゃん! もかしゃん! ありがとー!」と、お礼で出発する空気を作り出す事に成功した。
(カオスで大変だったけど、これでふたりとお別れだと思うとなんだか寂しい気も……ちゃんと連絡しないとね)
「――気をつけていってらっしゃい」
モカさんとグレイさんは優しく微笑み、手を振ってくれた――いざ出発だ!
「いってきましゅ!」
グレイさんとモカさんに元気よく告げ、マカダミアへと旅立つのだった――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
【後書き&補足】
途中なるべく短くまとめる為に、三人称視点でメティーの夢の中と、看病中のグレイを交互に書いてみたのですが…わかりにくかったらごめんなさい。
次回は番外編として、今回文字数的にカットした『カオスな旅支度』シーンと、それだけじゃ短いかと『夜明けの語らい~カオスな旅支度』までの気になりそうなサンセ視点をまとめてお送りします!
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美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
四条雪乃は結ばれたい。〜深窓令嬢な学園で一番の美少女生徒会長様は、不良な彼に恋してる。〜
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