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第2章 神奮闘~マカダミア王国編~
第21話 夜明けの語らい
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「――バイバイ……」
「しーちゃん! 待って! 行かないで!」
暗闇の中、メティーは必死に走ってしーちゃんを追いかける――それでも、しーちゃんはどんどん遠ざかり離れて行く――
「……っ……しーちゃん……どうして?……っ……」
絶望に打ちのめされたようにガクッと膝を付き、声を押し殺して涙を零す――
「――メティー……随分無茶したね」
「っ!」
――突然聞こえた少年の声に目覚め、ガバッと起き上がると――そこは薄暗いけど崖から落ちた時に寝かされていた孤児院の部屋と同じだとわかる。
「あ……ゆめ?」
それでも、あの声と言われた事に聞き覚えがある。しーちゃんがいなくなって大泣きしたあの時――泣き疲れたのか身体の力が抜けて、薄れ行く意識の中で人影が見えて、メシスくんの声で夢と同じ言葉を言ってたような気がするの――単なる気のせいだったのか、夢で寝ぼけてるだけなのか……はっきりしない。
すると、薄暗い部屋の隅から近付く影が視界に入った。
「っ!……あ……カイトかぁー」
平静を装い内心びっくりしたのはカイトには秘密(暗い部屋に、黒い服、気配まで消されて近付かれたら、驚くなって方が無理だと思うの……)
カイトは無表情ではあるけど、視線を逸らす事無くずっと見られてて、なんだか心配してくれてるような気がする。
カイトがベッド脇に来た時にガチャとドアが開く音がして、視線を向けると――サンセが水差しを持って入って来て、すぐ私の視線に気付いて笑顔になった。
「メティー! 気が付いたんだね。心配したんだよ? 丸2日も寝てたんだから……」
「え!? しょんなにー?」
まさかそんなに寝てたなんて……。寝てる間もあの水差しでお水くれてたのかもしれない。
(お礼言わないと――)
「……何があったの? カイトが見た範囲は聞いて把握してるけど……」
「え! カイトあのあとしってりゅの?」
サンセに気になる事を言われてお礼を伝え逃したまま、気になる好奇心に勝てず興味津々の眼差しでカイトを見ると――カイトは黙ったまま頷いた。
(気になるけど、まずは順番に説明しないとだよね……)
「んっと……しーちゃんに、あいにいったの」
「しーちゃん?……それがメティーを守ってくれてる人の名前?」
「うん! ほんとはシアってゆーの……」
「……今になって名前を教えてくれた訳があるわけだね?」
一瞬身体がビクッとした。
(う……ニコニコしてるのに、なんか含みがあるというか……なんというか……怖い?)
「……うん。しーちゃん、いなくなっちゃっ……」
いなくなったといざ言葉に出そうとすると、その事実が現実だと思い知らされ言葉に詰まる。
「……なるほど。シアって人がメティーを泣かせたって事だね?」
サンセに真剣な眼差しで見つめられ、声色が少しだけ低くなった。
「ちがっ! わたちのせい……しーちゃんはわりゅくないの……しーちゃんがはなちたくないこと……しりたがってたかりゃ……」
サンセは深く息を吐いて気を静めたのか、真剣な顔付きから優しげな顔付きに変わり、ふわっと優しく頭を撫でられた。
「……きっと、何か理由があるんじゃない? ずっとメティーを守ってくれてたんだから、メティーが嫌になって離れたんじゃないと思う」
「……うん……またあえりゅといーなぁ……」
「きっとまた会えるよ……根拠はないけど、そう思う方が頑張れるでしょ?」
「うん」
不安な気持ちを話したからなのかな? なんだかスッキリして落ち着いた。サンセもビターさんに負けじと私が不安に思ってる内容までも見透かしてる気がする。
(また顔に出てバレバレだったのかな……)
「カイト、メティーに詳しく話してあげて? 僕はメティーが食べる物貰ってくるよ」
「あ! しゃんしぇ、ありがとう……ねてりゅとき、おみじゅもくれてたんだよね?」
サンセは一瞬ハッとした後、クスッと笑って「……水だけじゃないよ? 身体を濡れたタオルで拭いたり、着替えも――」
「えぇ!?」
見た目は幼い子供でも中身が大人な私には恥ずかしすぎる……顔が熱い……。
すると、サンセはクスクス笑い出した。
「嘘だよ。身体拭いたのも、着替えもマロン様……じゃなくて、モカさんがやってくれたから……安心した?」
そう言ってサンセはニヤリと笑った。
(揶揄われた!)
「しゃんしぇのいじわりゅ!」
「ごめんごめん……でも元気は出たみたいだね?」
「あ……」
揶揄ったのは私に元気出させる為だったんだ……。誤解する所だった。
「……しゃんしぇ、ありがとう!」
「どういたしまして」
そう言ってニッコリ笑ってサンセは食事を貰いに部屋を出て行った。
「……じゃーカイトおちえてー?」
カイトは黙って頷き、ゆっくり語り始めた。
「……メティーがひとりで行った後……しばらくして強い風が吹いて……」
(あ……風の精霊さんモドキとお話した時かな?)
「……見に行こうか迷ってたら……メティーの泣き声が聞こえたから……走って向かったら……」
(カイトの所まで聞こえる程大泣きしたんだ……恥ずかしい……)
「白銀の髪の……赤い瞳の少年がいたから……隠れた……」
(え!? メシスくん!? やっぱり私の気のせいじゃなく、ほんとにメシスくんが来てくれてた?)
私の動揺が顔に出ていたのか、カイトが首を傾げて困っているようにみえた。
「あ……ごめんね。ちゅじゅき、きかちて?」
カイトは頷いて続きを語り始めた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――白銀の髪に、赤い瞳……あの少年はメティーがビター達と話してたメシス?
カイトが木の陰に隠れながら気配を消して様子を覗うと――気を失ったメティーを抱き上げて、どこかを睨んでる?
メシスが睨んでいる方向周辺に視線を向けても、僕には至って普通の景色にしか見えなかった。
「――ねー、そこにいるのは知ってるよ?」
メシスの声を聞いて殺気とも違う何かに背筋がゾクッとした。バレているのなら隠れてる意味はない。警戒しつつ木の陰から出ると――メシスは圧倒的なまでの力の差を感じるオーラを纏い、メティーを抱えたままこっちに歩み寄って来る。
「……そんなに警戒しなくても僕は何もしないよ? 君、メティーの魔力石を持ってるでしょ?」
メティーが作ってくれた丸い球体の白い魔力石は――ビターのみたいにネックレスになってないから、スカーフに落ちないように包み左手首に巻き付けてある――
僕はメシスの言葉に黙って頷くのが精一杯だった。
「……僕は君にメティーを渡しに来ただけ」
メシスからメティーを受け渡され――抱き上げたメティーの身体は冷たく、顔色も悪い――最悪の予感が過ぎり、僕はメシスを殺気立って睨んだ。
「ひどいなぁ……僕がやったと思ってる? メティーは魔力を使い果たして眠ってるだけ。休めば魔力が戻ってちゃんと目覚めるから安心してよ」
メシスはケロリとしていて、無表情な僕とは違う意味で感情が読めない――でも、嘘は言ってないと思う。メティーを見つめる顔が優しかったから……。
「だから早く戻ってメティーを休ませてあげて?」
「……貴方も……一緒に……」
「……僕はこれから用があるから一緒には行けないかな」
「……どんな用?」
すると、メシスはクスクス笑い出した。
「……思ったより粘るね。そんなに僕に一緒に行って欲しい?……でもダメなんだ。ごめんね……『隠密』」
メシスがそう唱えると、メシスの姿がスッと消えた。気配もしない。移動したのかすらわからないから最早探しようがない。
――僕はメシスを連れ帰る事を諦め、メティーを休ませるべく孤児院へ連れ帰った――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――メティーの悲痛なまでの叫びに飛んで来たら、まさか風が悪さしてるとはね――
上空からメティーのそばに降り立ち、魔力で作り出した背中の黒い羽を自分の魔力へと戻す。
「メティー……随分無茶したね」
倒れ込むメティーを抱きとめ目元の涙を指で拭い、微かな気配を睨む。
(……メティーを泣かしたのはアイツ?……それに、上手く気配は消してるけどメティーの魔力を感じる……たぶん魔力石? メティーの迎えかな?)
僕の右方向から感じる魔力石の持ち主に気付いてる事を悟られぬよう、向きを変えぬままメティーを抱き上げると――目の前に風が姿を現した。
風の精霊……別名【風の女神シルフ】……だったっけ?(僕がそう呼ぶ事はないけど)
――特定の人しか姿を見る事が出来ないだけでなく、僕がたまに力を借りる時だってほぼ現れない奴だ。
(……僕が君を痛め付けに行く前に姿を見せたのはいい判断かもね)
僕の視線に風はビクリと震え怯えた。
『っ! ア、アビス様……こ、これは違うんです』
『どう違うの? まだ力の使い方に慣れてないメティーに力を貸せばどうなるかわかってるでしょ?』
『ですが……あの悲痛な叫びを聞いたら黙っていられず……私が周囲の風に許可を出しました』
その言葉に、アビスの腕の中で眠るメティーを見つめ、思わず呆れた溜息が零れた。
(前に『好かれそうだから慣れれば出来るかもね』とは言ったけど……ここまでとはね)
『……わかってる……僕が問い詰めるべき奴は君じゃないね……もう行っていいよ』
(メティーに免じて、とりあえず今回は許してあげるよ……)
僕の視線に風はまたビクリと震え怯えた。
『……っ……失礼します』
風が静かに去って尚も僕が睨んでいた方向の岩壁には、以前にはない異変があった。
結界が弱まって少し亀裂がある――
(メティーの悲痛な叫びでメティーを泣かせた奴も動揺したみたいだね。まさか、こんな所にずっと隠れてたとはね……随分探したよ?)
ふっと思わず不敵な笑みが浮かび、気分が高揚していく。
(……まぁ、先に木の陰に隠れてる奴にメティーを預けてからゆっくり問い詰めるとしようか?)
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
【おまけの会話~メティー&サンセ&カイト~】
~魔力石しまう場所問題~
※設定裏話的な小説内で詳しく触れられてない謎(ギャグっぽい内容だけどほんとです。笑)
サンセ「カイトはいつの間にスカーフに包んで手首に巻いたの?」
カイト「……メティーを……待ってる時……」
メティー「いーなぁー! わたち……まりょくしぇき、おとちそうでしんぱいだなぁ」
サ「今どこにしまってるの?」
メ「ぽっけ!」
――メティー何故か誇らしげな笑顔――
サ「う、うーん……さすがにポッケは落としそうかな?」
メ「うー……じゃあ、しゃんしぇはどこなの?」
サ「僕はとりあえず手袋の中の手の甲の部分に……」
――手袋の甲に不自然な丸い膨らみがある――
メ「えいっ!」
――不自然な膨らみを叩く!――
サ「痛っ! メティー? 骨に当たって地味に痛いからやめようか?」
――にこやかだけどなんか怖い笑顔のサンセ――
メ「……はぁーい。わたちもカイトみたいにしゅるー! カイトちゅけてー?」
――モカさんに貰ったハンカチ(孤児院の子のお古)を差し出す――
カ「…………」
――黙々と付けてあげている――
メ「わーい! おしょろい!」
サ「……お揃い?……じゃあ僕も手首に巻こうかな……」
――サンセの目付きにカイト少しビビる――
メ「わーい! みんなでおしょろいー!」
――おまけおしまい――
次回はマカダミアへ向けて旅立ち!
「しーちゃん! 待って! 行かないで!」
暗闇の中、メティーは必死に走ってしーちゃんを追いかける――それでも、しーちゃんはどんどん遠ざかり離れて行く――
「……っ……しーちゃん……どうして?……っ……」
絶望に打ちのめされたようにガクッと膝を付き、声を押し殺して涙を零す――
「――メティー……随分無茶したね」
「っ!」
――突然聞こえた少年の声に目覚め、ガバッと起き上がると――そこは薄暗いけど崖から落ちた時に寝かされていた孤児院の部屋と同じだとわかる。
「あ……ゆめ?」
それでも、あの声と言われた事に聞き覚えがある。しーちゃんがいなくなって大泣きしたあの時――泣き疲れたのか身体の力が抜けて、薄れ行く意識の中で人影が見えて、メシスくんの声で夢と同じ言葉を言ってたような気がするの――単なる気のせいだったのか、夢で寝ぼけてるだけなのか……はっきりしない。
すると、薄暗い部屋の隅から近付く影が視界に入った。
「っ!……あ……カイトかぁー」
平静を装い内心びっくりしたのはカイトには秘密(暗い部屋に、黒い服、気配まで消されて近付かれたら、驚くなって方が無理だと思うの……)
カイトは無表情ではあるけど、視線を逸らす事無くずっと見られてて、なんだか心配してくれてるような気がする。
カイトがベッド脇に来た時にガチャとドアが開く音がして、視線を向けると――サンセが水差しを持って入って来て、すぐ私の視線に気付いて笑顔になった。
「メティー! 気が付いたんだね。心配したんだよ? 丸2日も寝てたんだから……」
「え!? しょんなにー?」
まさかそんなに寝てたなんて……。寝てる間もあの水差しでお水くれてたのかもしれない。
(お礼言わないと――)
「……何があったの? カイトが見た範囲は聞いて把握してるけど……」
「え! カイトあのあとしってりゅの?」
サンセに気になる事を言われてお礼を伝え逃したまま、気になる好奇心に勝てず興味津々の眼差しでカイトを見ると――カイトは黙ったまま頷いた。
(気になるけど、まずは順番に説明しないとだよね……)
「んっと……しーちゃんに、あいにいったの」
「しーちゃん?……それがメティーを守ってくれてる人の名前?」
「うん! ほんとはシアってゆーの……」
「……今になって名前を教えてくれた訳があるわけだね?」
一瞬身体がビクッとした。
(う……ニコニコしてるのに、なんか含みがあるというか……なんというか……怖い?)
「……うん。しーちゃん、いなくなっちゃっ……」
いなくなったといざ言葉に出そうとすると、その事実が現実だと思い知らされ言葉に詰まる。
「……なるほど。シアって人がメティーを泣かせたって事だね?」
サンセに真剣な眼差しで見つめられ、声色が少しだけ低くなった。
「ちがっ! わたちのせい……しーちゃんはわりゅくないの……しーちゃんがはなちたくないこと……しりたがってたかりゃ……」
サンセは深く息を吐いて気を静めたのか、真剣な顔付きから優しげな顔付きに変わり、ふわっと優しく頭を撫でられた。
「……きっと、何か理由があるんじゃない? ずっとメティーを守ってくれてたんだから、メティーが嫌になって離れたんじゃないと思う」
「……うん……またあえりゅといーなぁ……」
「きっとまた会えるよ……根拠はないけど、そう思う方が頑張れるでしょ?」
「うん」
不安な気持ちを話したからなのかな? なんだかスッキリして落ち着いた。サンセもビターさんに負けじと私が不安に思ってる内容までも見透かしてる気がする。
(また顔に出てバレバレだったのかな……)
「カイト、メティーに詳しく話してあげて? 僕はメティーが食べる物貰ってくるよ」
「あ! しゃんしぇ、ありがとう……ねてりゅとき、おみじゅもくれてたんだよね?」
サンセは一瞬ハッとした後、クスッと笑って「……水だけじゃないよ? 身体を濡れたタオルで拭いたり、着替えも――」
「えぇ!?」
見た目は幼い子供でも中身が大人な私には恥ずかしすぎる……顔が熱い……。
すると、サンセはクスクス笑い出した。
「嘘だよ。身体拭いたのも、着替えもマロン様……じゃなくて、モカさんがやってくれたから……安心した?」
そう言ってサンセはニヤリと笑った。
(揶揄われた!)
「しゃんしぇのいじわりゅ!」
「ごめんごめん……でも元気は出たみたいだね?」
「あ……」
揶揄ったのは私に元気出させる為だったんだ……。誤解する所だった。
「……しゃんしぇ、ありがとう!」
「どういたしまして」
そう言ってニッコリ笑ってサンセは食事を貰いに部屋を出て行った。
「……じゃーカイトおちえてー?」
カイトは黙って頷き、ゆっくり語り始めた。
「……メティーがひとりで行った後……しばらくして強い風が吹いて……」
(あ……風の精霊さんモドキとお話した時かな?)
「……見に行こうか迷ってたら……メティーの泣き声が聞こえたから……走って向かったら……」
(カイトの所まで聞こえる程大泣きしたんだ……恥ずかしい……)
「白銀の髪の……赤い瞳の少年がいたから……隠れた……」
(え!? メシスくん!? やっぱり私の気のせいじゃなく、ほんとにメシスくんが来てくれてた?)
私の動揺が顔に出ていたのか、カイトが首を傾げて困っているようにみえた。
「あ……ごめんね。ちゅじゅき、きかちて?」
カイトは頷いて続きを語り始めた――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――白銀の髪に、赤い瞳……あの少年はメティーがビター達と話してたメシス?
カイトが木の陰に隠れながら気配を消して様子を覗うと――気を失ったメティーを抱き上げて、どこかを睨んでる?
メシスが睨んでいる方向周辺に視線を向けても、僕には至って普通の景色にしか見えなかった。
「――ねー、そこにいるのは知ってるよ?」
メシスの声を聞いて殺気とも違う何かに背筋がゾクッとした。バレているのなら隠れてる意味はない。警戒しつつ木の陰から出ると――メシスは圧倒的なまでの力の差を感じるオーラを纏い、メティーを抱えたままこっちに歩み寄って来る。
「……そんなに警戒しなくても僕は何もしないよ? 君、メティーの魔力石を持ってるでしょ?」
メティーが作ってくれた丸い球体の白い魔力石は――ビターのみたいにネックレスになってないから、スカーフに落ちないように包み左手首に巻き付けてある――
僕はメシスの言葉に黙って頷くのが精一杯だった。
「……僕は君にメティーを渡しに来ただけ」
メシスからメティーを受け渡され――抱き上げたメティーの身体は冷たく、顔色も悪い――最悪の予感が過ぎり、僕はメシスを殺気立って睨んだ。
「ひどいなぁ……僕がやったと思ってる? メティーは魔力を使い果たして眠ってるだけ。休めば魔力が戻ってちゃんと目覚めるから安心してよ」
メシスはケロリとしていて、無表情な僕とは違う意味で感情が読めない――でも、嘘は言ってないと思う。メティーを見つめる顔が優しかったから……。
「だから早く戻ってメティーを休ませてあげて?」
「……貴方も……一緒に……」
「……僕はこれから用があるから一緒には行けないかな」
「……どんな用?」
すると、メシスはクスクス笑い出した。
「……思ったより粘るね。そんなに僕に一緒に行って欲しい?……でもダメなんだ。ごめんね……『隠密』」
メシスがそう唱えると、メシスの姿がスッと消えた。気配もしない。移動したのかすらわからないから最早探しようがない。
――僕はメシスを連れ帰る事を諦め、メティーを休ませるべく孤児院へ連れ帰った――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――メティーの悲痛なまでの叫びに飛んで来たら、まさか風が悪さしてるとはね――
上空からメティーのそばに降り立ち、魔力で作り出した背中の黒い羽を自分の魔力へと戻す。
「メティー……随分無茶したね」
倒れ込むメティーを抱きとめ目元の涙を指で拭い、微かな気配を睨む。
(……メティーを泣かしたのはアイツ?……それに、上手く気配は消してるけどメティーの魔力を感じる……たぶん魔力石? メティーの迎えかな?)
僕の右方向から感じる魔力石の持ち主に気付いてる事を悟られぬよう、向きを変えぬままメティーを抱き上げると――目の前に風が姿を現した。
風の精霊……別名【風の女神シルフ】……だったっけ?(僕がそう呼ぶ事はないけど)
――特定の人しか姿を見る事が出来ないだけでなく、僕がたまに力を借りる時だってほぼ現れない奴だ。
(……僕が君を痛め付けに行く前に姿を見せたのはいい判断かもね)
僕の視線に風はビクリと震え怯えた。
『っ! ア、アビス様……こ、これは違うんです』
『どう違うの? まだ力の使い方に慣れてないメティーに力を貸せばどうなるかわかってるでしょ?』
『ですが……あの悲痛な叫びを聞いたら黙っていられず……私が周囲の風に許可を出しました』
その言葉に、アビスの腕の中で眠るメティーを見つめ、思わず呆れた溜息が零れた。
(前に『好かれそうだから慣れれば出来るかもね』とは言ったけど……ここまでとはね)
『……わかってる……僕が問い詰めるべき奴は君じゃないね……もう行っていいよ』
(メティーに免じて、とりあえず今回は許してあげるよ……)
僕の視線に風はまたビクリと震え怯えた。
『……っ……失礼します』
風が静かに去って尚も僕が睨んでいた方向の岩壁には、以前にはない異変があった。
結界が弱まって少し亀裂がある――
(メティーの悲痛な叫びでメティーを泣かせた奴も動揺したみたいだね。まさか、こんな所にずっと隠れてたとはね……随分探したよ?)
ふっと思わず不敵な笑みが浮かび、気分が高揚していく。
(……まぁ、先に木の陰に隠れてる奴にメティーを預けてからゆっくり問い詰めるとしようか?)
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
【おまけの会話~メティー&サンセ&カイト~】
~魔力石しまう場所問題~
※設定裏話的な小説内で詳しく触れられてない謎(ギャグっぽい内容だけどほんとです。笑)
サンセ「カイトはいつの間にスカーフに包んで手首に巻いたの?」
カイト「……メティーを……待ってる時……」
メティー「いーなぁー! わたち……まりょくしぇき、おとちそうでしんぱいだなぁ」
サ「今どこにしまってるの?」
メ「ぽっけ!」
――メティー何故か誇らしげな笑顔――
サ「う、うーん……さすがにポッケは落としそうかな?」
メ「うー……じゃあ、しゃんしぇはどこなの?」
サ「僕はとりあえず手袋の中の手の甲の部分に……」
――手袋の甲に不自然な丸い膨らみがある――
メ「えいっ!」
――不自然な膨らみを叩く!――
サ「痛っ! メティー? 骨に当たって地味に痛いからやめようか?」
――にこやかだけどなんか怖い笑顔のサンセ――
メ「……はぁーい。わたちもカイトみたいにしゅるー! カイトちゅけてー?」
――モカさんに貰ったハンカチ(孤児院の子のお古)を差し出す――
カ「…………」
――黙々と付けてあげている――
メ「わーい! おしょろい!」
サ「……お揃い?……じゃあ僕も手首に巻こうかな……」
――サンセの目付きにカイト少しビビる――
メ「わーい! みんなでおしょろいー!」
――おまけおしまい――
次回はマカダミアへ向けて旅立ち!
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