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第1章 神奮励~チョコランタ王国編~
【番外編】カイト④
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――父さんの汚れた身なりによる貧民差別を避ける為、僕が着ていたフード付きマントを着てもらって――やっとあの家に帰ってきた。
父さんは家に入るなり泣き崩れた。きっと、懐かしかったのかもしれない……僕の幼い頃の記憶よりも、父さんの方がこの家をよく覚えてるだろうから――
――母さんは父さんが落ち着いてから、僕が先に聞いたこれまでの事を語り――父さんも僕を虐待してしまった事や、僕がいなくなってからの事をゆっくり語り始めた……。
父さんは僕が居なくなったとわかり、最後に見かけたビターとサンセが僕を連れて行ったと思い――惨めな者を見るかのような視線からやっと解放されたと、精神が壊れたように笑い出したらしい。
――父さんに僕がそう見えていたのがショックだけど、あの頃の父さんの精神状態を考えれば、恐らく全ての視線がそう見えていたんだろう。だから、誰も近付こうとしない貧民街に逃げ込んだんだ――
でも、その笑いも長く続く事はなく、虚しさが押し寄せ抜け殻のように放心状態になり、我に返った時には部屋の中が荒らされ、僅かに備えた食料や金銭が盗まれていたらしい。
それで、父さんは更に厳しい生活になって僕を探す事も困難で、必死に仕事を探しては、僕の無事を祈りながら働くしかなかったと――
僕は話を聞きながら、その時父さんを助けてあげられなかったのが悔しくて拳を握りしめる――幼い僕がいた所で盗みに入った者を今みたいに撃退出来るわけじゃないのに――父さんの苦労や、僕を思ってくれていた事実に苦しくなる。
僕だけがビター達のおかげで良い思いをして……僕はこんな父さんをひとり置いて行って何してたんだ――僕が俯き自分への怒りに両拳を強く握りしめると、その拳の上に父さんと母さんが手をそっと乗せた。
その手にハッと顔を上げると――父さんも母さんも僕を見て、まるで次は僕の話を聞かせてと言うように涙目で微笑んだ。
僕の話はある意味嘘みたいな話だ。王子様や王様が出てくる時点で、何言ってるんだと思われても仕方ない。
父さんに起こった不幸で僕ら家族はバラバラになったけど、それがなければきっとビター達に一生関わる事もなかった。
そして、巡り巡って再び父さんと母さんに会えたのも、ブライ様や王族近衛騎士になったおかげだし――
言葉は悪いけど父さんに感謝してる――なんて……怒るかな?
父さんと母さんには苦労した分ずっと幸せに笑っていて欲しいのに――僕はふたりにこれからどう償えばいい?
――僕がずっと黙ったままだから、父さんと母さんは心配そうに僕を見つめ、母さんが優しく微笑む。
「ゆっくりでいいのよ。時間はたくさんあるわ。これからはここでまた3人ずっと一緒に居られるもの」
「ああ!そうだな!」
「っ!」
母さんや父さんが嬉しそうに笑う中、僕は心苦しく胸が締め付けられる思いだった。
――言わないと……僕はもう……この家の子供じゃなくなったって……僕は……カイト・クルスナーになったんだって――
「カイト?」
「どうした?」
「……ごめん……僕は……ここで暮らせない……」
「っ!……長く離れてたものね……私の事……母さんとは思えない?」
「いや……あんな事した父さんなんかと暮らしたくないよな……やっぱり俺は貧民街に……」
「っ!違う!……違う……」
突然、僕にしては大きな声をあげて立ち上がったから、父さんも母さんも驚き黙る。
僕の鼓動が聞こえるんじゃないかと思うくらい室内は静まり返った――数分程の静寂が僕には何時間にも感じた――
「……ごめん……」
「「カイト!?」」
僕はそう言うや否や家を飛び出した――追いかけるように背後で聞こえた僕を呼ぶ声も、家を出てすぐに僕を見失っただろう――本気で走った僕に追い付ける人はいないから。
僕は屋根の上を素早く移動しながら、さっきの事を思い返していた――
――キールが僕を引き取ってくれたから、ビター達と過ごす幸せな暮らしを貰えたのに……それなのに……父さんと母さんとも過ごしたいと思うなんて……僕は欲張りなのかな?――そう思ったら、父さん達から逃げ出していた。
僕はふたりより幸せに暮らしてたのに……それなのに欲張るなんて……だめだ……。
――ふたり共、泣きそうな顔してた……幸せになって欲しいのに……悲しい顔なんてさせたくないのに――
――城に帰ってビターに父さん達の事を話したら、驚いてたけど「会えてよかったな」と、頭をガシガシ撫でられニッコリ笑ってくれた……のもつかの間で、真剣な顔つきに変わった。
「……その割には嬉しそうじゃないな?」
僕の気持ちを見透かしているような言葉に戸惑っていると――ビターは黙ったまま僕を見て意味深な笑みを浮かべた(……今、何を考えてるの?)
「――で? カイトの父さんは何処の貴族の家に勤めてたんだ?」
話を変えたビターの顔は、苦笑いで何かを堪えてるように見えた(少し殺気に似た……ピリッとした感じがしたから……怒ってる?)
「いや、横領となると……親父にも話をつけてくる!」
そうブツブツ言いながらビターは部屋を飛び出して行った(……急にどうしたんだろう?)
――その後、ビターとブライ様の働きにより、父さんを貶めた貴族は、余程ふたりの怒りが恐ろしかったのか、抵抗する事なく罪を認め、賠償金を払い、爵位も剥奪され、国外追放になった。
――その事を伝える為にブライ様は、僕に案内を頼み、ビターとキールを連れて父さんの家に出向いた(あの日飛び出して以来だから……なんだか緊張する……)
「カイト! その格好は……!? え!? お、王!?」
父さんと母さんは、僕の王族近衛騎士の服装を見て驚き、続いて僕が招き入れた煌びやかな服装の人物の訪問に混乱していた。
――混乱している父さんと母さんに、ブライ様が事の顛末を説明し、支払われた賠償金を渡すのと同時に、父さんに深々と頭を下げた。
「貴族の不正に気付けず、長い間苦労を強いてしまった事を深くお詫びする……すまなかった!」
「お、王!? そ、そんな! 頭を上げて下さい!」
父さんがアタフタ慌てる中、横で聞いている母さんも戸惑って呆然としている。
すると、ビターがブライ様の後ろから前に歩み出た。
「気にしないで謝らせとけばいいんですよ!」
「あ、あなた様はもしや……」
父さん達も、王相手にそんな事を言える人物はわかりきっている筈なのに、こんな所に居る筈のない王族の存在が未だに信じられず混乱している(まぁ……当然びっくりするよね……)
「カイトの友達のビターズと――」
「だ、第1王子様!? と、友達!?」
父さんは混乱のあまり身体がふらつき、僕が慌てて支えると――それを見たビターはクスクス笑ってる。
父さんが、あの日最後に見たふたりの少年の内のひとりがビターだと知ったら倒れそうだと思うと可笑しくて口元が少し緩んだ――
――未だ混乱している父さん達の視線が僕へと移る。今度は僕がこれまでの事を説明する番だ――
僕はあまりふたりを驚かせないように端折ってポツリポツリ語った。
孤児院にいた事、キールが引き取ってくれた事、王族近衛騎士になった事を――
僕がやっと伝えた言葉に父さん達はすごく驚きながらも、王族近衛騎士になれた事を嬉しそうに微笑んでくれた。やっとふたりが笑ってくれて嬉しかった。
「――キール様……カイトを引き取り、ここまで立派に育てて頂き……ありがとうございます」
母さんがキールに深々と頭を下げると、父さんも続いて頭を下げた。
「いえ、私だけの力ではありません。王やビター様や友人達のおかげです」
「……本当にありがとうございます……」
「ありがとうございます……っ……」
キールの言葉に母さんは顔を上げ、ブライ様とビターに順に視線を移し、最後に改めてキールを見て頭を下げた。
父さんは混乱から落ち着き、やっとブライ様がしてくれた事も含めて理解してきたのか、頭を下げた肩は震えていた(……父さんはなんだか泣き虫になったね)
――その後も、もっと僕の事をいろいろ聞かせてくれと言われて、困ってたわいもない忍者の話をした――
――それから数日、貴族が平民に罪を擦り付けた事実が世間に明るみになると、平民達はその貴族に怒りを顕にして、ブライ様の英断を支持した。
他にもブライ様は貴族を招集し、書類のチェックを厳しくし、抜き打ちで検査官が家を訪ねて不正がないかチェックを行う事が告げられた。
――そして、父さん達の生活もガラッと変わった。ビターがお詫びにと、父さんと母さんに仕事まで紹介してくれたんだ……それも城の従者の仕事を――
「カイトの城での仕事振りが見れる仕事場所を紹介してくれるなんて……母さん嬉しいわ!」
「仕事が休みの日も仕事に行きたいくらいだ!」
ふたりともビターの心意気に感激してるけど、ビターのお詫びは、過去に父さんを魔法で吹き飛ばしたお詫びだって事は黙っておいた方がいいのかな?
ふと、ビターが意味深に笑った顔が浮かんだ――あの時からこうする事を決めてたのかもしれない(……僕が父さん達と一緒にいれないって思ってる事……気付いてたんだ……)
――あれから城で働きだした父さんと母さんは、僕の仕事振りを見たがっていたけど、当然仕事をしないとだから実質あまり見れない。
その代わり、僕が木の上で見張りをしながらふたりを見れる場所を任される事が多かった。最初は偶然だと思ったけど……こうも偶然が続くと、仕組まれてるとわかった(……ビターとキールが上手く調整してくれてるんだろうな)
見張りをしつつ2階の部屋を掃除してる母さんを眺めていると、1階の通路を掃除中だった父さんが窓を開けてキョロキョロしてる(……どうしたんだろ?)
僕が木の上から飛び降りて父さんの前に着地すると、父さんはびっくりしつつも「カイトに渡したい物がある」と優しく微笑んだ。
渡されたのは――青い勾玉の首飾り?
「カイトは危険な仕事だからな……御守りだ」
「……この石……」
「父さんはよく分からないけど、カイトが好きな忍者の国にあるんだろう? カイトが好きなものにしたくてな」
父さんは照れくさそうに笑う。
僕がちょっと話したたわいもない話を覚えてくれてたのが嬉しかった。
「……ありがとう……」
「っ!今ちょっと笑ったか?……昔はもっと上手に笑えてたのになぁ……俺のせいで……っ……ごめんなぁ……」
父さんはよく泣くようになった(笑ってほしいのに……今度会いに来る時は……笑ってくれるといいな……)
「……御守り……大事にする……」
僕が首にかけ胸元にある勾玉をぎゅっと握ると、父さんは涙目のまま嬉しそうに笑った――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
【おまけの会話~サンセ&カイト~】
おまけという事であくまでも客観的な会話です。※ギャグとしてお楽しみ下さい。
サンセ「カイト、これが俗に言う『ざまぁ』ってやつらしいよ」
カイト「……『ざまぁ』?」
サ「カイトの父さんを苦しめた貴族に復讐というか、罰を与えられたでしょ? それが『ざまぁ』らしいよ」
カ「……じゃあ……また『ざまぁ』されるの?」
サ「え!? ど、どうだろう……」
カ「……それで……また『ざまぁ』し返すの?」
サ「へ!? そ、そこまでは僕もわかんないなぁ……」
カ「……なんか……それって……悲しいね……」しょんぼり
サ(優しくて冗談も通じないカイトに軽いノリで教えちゃダメな言葉だったかぁーー!)
――おまけおしまい――
次回からいよいよ第2章スタート!
父さんは家に入るなり泣き崩れた。きっと、懐かしかったのかもしれない……僕の幼い頃の記憶よりも、父さんの方がこの家をよく覚えてるだろうから――
――母さんは父さんが落ち着いてから、僕が先に聞いたこれまでの事を語り――父さんも僕を虐待してしまった事や、僕がいなくなってからの事をゆっくり語り始めた……。
父さんは僕が居なくなったとわかり、最後に見かけたビターとサンセが僕を連れて行ったと思い――惨めな者を見るかのような視線からやっと解放されたと、精神が壊れたように笑い出したらしい。
――父さんに僕がそう見えていたのがショックだけど、あの頃の父さんの精神状態を考えれば、恐らく全ての視線がそう見えていたんだろう。だから、誰も近付こうとしない貧民街に逃げ込んだんだ――
でも、その笑いも長く続く事はなく、虚しさが押し寄せ抜け殻のように放心状態になり、我に返った時には部屋の中が荒らされ、僅かに備えた食料や金銭が盗まれていたらしい。
それで、父さんは更に厳しい生活になって僕を探す事も困難で、必死に仕事を探しては、僕の無事を祈りながら働くしかなかったと――
僕は話を聞きながら、その時父さんを助けてあげられなかったのが悔しくて拳を握りしめる――幼い僕がいた所で盗みに入った者を今みたいに撃退出来るわけじゃないのに――父さんの苦労や、僕を思ってくれていた事実に苦しくなる。
僕だけがビター達のおかげで良い思いをして……僕はこんな父さんをひとり置いて行って何してたんだ――僕が俯き自分への怒りに両拳を強く握りしめると、その拳の上に父さんと母さんが手をそっと乗せた。
その手にハッと顔を上げると――父さんも母さんも僕を見て、まるで次は僕の話を聞かせてと言うように涙目で微笑んだ。
僕の話はある意味嘘みたいな話だ。王子様や王様が出てくる時点で、何言ってるんだと思われても仕方ない。
父さんに起こった不幸で僕ら家族はバラバラになったけど、それがなければきっとビター達に一生関わる事もなかった。
そして、巡り巡って再び父さんと母さんに会えたのも、ブライ様や王族近衛騎士になったおかげだし――
言葉は悪いけど父さんに感謝してる――なんて……怒るかな?
父さんと母さんには苦労した分ずっと幸せに笑っていて欲しいのに――僕はふたりにこれからどう償えばいい?
――僕がずっと黙ったままだから、父さんと母さんは心配そうに僕を見つめ、母さんが優しく微笑む。
「ゆっくりでいいのよ。時間はたくさんあるわ。これからはここでまた3人ずっと一緒に居られるもの」
「ああ!そうだな!」
「っ!」
母さんや父さんが嬉しそうに笑う中、僕は心苦しく胸が締め付けられる思いだった。
――言わないと……僕はもう……この家の子供じゃなくなったって……僕は……カイト・クルスナーになったんだって――
「カイト?」
「どうした?」
「……ごめん……僕は……ここで暮らせない……」
「っ!……長く離れてたものね……私の事……母さんとは思えない?」
「いや……あんな事した父さんなんかと暮らしたくないよな……やっぱり俺は貧民街に……」
「っ!違う!……違う……」
突然、僕にしては大きな声をあげて立ち上がったから、父さんも母さんも驚き黙る。
僕の鼓動が聞こえるんじゃないかと思うくらい室内は静まり返った――数分程の静寂が僕には何時間にも感じた――
「……ごめん……」
「「カイト!?」」
僕はそう言うや否や家を飛び出した――追いかけるように背後で聞こえた僕を呼ぶ声も、家を出てすぐに僕を見失っただろう――本気で走った僕に追い付ける人はいないから。
僕は屋根の上を素早く移動しながら、さっきの事を思い返していた――
――キールが僕を引き取ってくれたから、ビター達と過ごす幸せな暮らしを貰えたのに……それなのに……父さんと母さんとも過ごしたいと思うなんて……僕は欲張りなのかな?――そう思ったら、父さん達から逃げ出していた。
僕はふたりより幸せに暮らしてたのに……それなのに欲張るなんて……だめだ……。
――ふたり共、泣きそうな顔してた……幸せになって欲しいのに……悲しい顔なんてさせたくないのに――
――城に帰ってビターに父さん達の事を話したら、驚いてたけど「会えてよかったな」と、頭をガシガシ撫でられニッコリ笑ってくれた……のもつかの間で、真剣な顔つきに変わった。
「……その割には嬉しそうじゃないな?」
僕の気持ちを見透かしているような言葉に戸惑っていると――ビターは黙ったまま僕を見て意味深な笑みを浮かべた(……今、何を考えてるの?)
「――で? カイトの父さんは何処の貴族の家に勤めてたんだ?」
話を変えたビターの顔は、苦笑いで何かを堪えてるように見えた(少し殺気に似た……ピリッとした感じがしたから……怒ってる?)
「いや、横領となると……親父にも話をつけてくる!」
そうブツブツ言いながらビターは部屋を飛び出して行った(……急にどうしたんだろう?)
――その後、ビターとブライ様の働きにより、父さんを貶めた貴族は、余程ふたりの怒りが恐ろしかったのか、抵抗する事なく罪を認め、賠償金を払い、爵位も剥奪され、国外追放になった。
――その事を伝える為にブライ様は、僕に案内を頼み、ビターとキールを連れて父さんの家に出向いた(あの日飛び出して以来だから……なんだか緊張する……)
「カイト! その格好は……!? え!? お、王!?」
父さんと母さんは、僕の王族近衛騎士の服装を見て驚き、続いて僕が招き入れた煌びやかな服装の人物の訪問に混乱していた。
――混乱している父さんと母さんに、ブライ様が事の顛末を説明し、支払われた賠償金を渡すのと同時に、父さんに深々と頭を下げた。
「貴族の不正に気付けず、長い間苦労を強いてしまった事を深くお詫びする……すまなかった!」
「お、王!? そ、そんな! 頭を上げて下さい!」
父さんがアタフタ慌てる中、横で聞いている母さんも戸惑って呆然としている。
すると、ビターがブライ様の後ろから前に歩み出た。
「気にしないで謝らせとけばいいんですよ!」
「あ、あなた様はもしや……」
父さん達も、王相手にそんな事を言える人物はわかりきっている筈なのに、こんな所に居る筈のない王族の存在が未だに信じられず混乱している(まぁ……当然びっくりするよね……)
「カイトの友達のビターズと――」
「だ、第1王子様!? と、友達!?」
父さんは混乱のあまり身体がふらつき、僕が慌てて支えると――それを見たビターはクスクス笑ってる。
父さんが、あの日最後に見たふたりの少年の内のひとりがビターだと知ったら倒れそうだと思うと可笑しくて口元が少し緩んだ――
――未だ混乱している父さん達の視線が僕へと移る。今度は僕がこれまでの事を説明する番だ――
僕はあまりふたりを驚かせないように端折ってポツリポツリ語った。
孤児院にいた事、キールが引き取ってくれた事、王族近衛騎士になった事を――
僕がやっと伝えた言葉に父さん達はすごく驚きながらも、王族近衛騎士になれた事を嬉しそうに微笑んでくれた。やっとふたりが笑ってくれて嬉しかった。
「――キール様……カイトを引き取り、ここまで立派に育てて頂き……ありがとうございます」
母さんがキールに深々と頭を下げると、父さんも続いて頭を下げた。
「いえ、私だけの力ではありません。王やビター様や友人達のおかげです」
「……本当にありがとうございます……」
「ありがとうございます……っ……」
キールの言葉に母さんは顔を上げ、ブライ様とビターに順に視線を移し、最後に改めてキールを見て頭を下げた。
父さんは混乱から落ち着き、やっとブライ様がしてくれた事も含めて理解してきたのか、頭を下げた肩は震えていた(……父さんはなんだか泣き虫になったね)
――その後も、もっと僕の事をいろいろ聞かせてくれと言われて、困ってたわいもない忍者の話をした――
――それから数日、貴族が平民に罪を擦り付けた事実が世間に明るみになると、平民達はその貴族に怒りを顕にして、ブライ様の英断を支持した。
他にもブライ様は貴族を招集し、書類のチェックを厳しくし、抜き打ちで検査官が家を訪ねて不正がないかチェックを行う事が告げられた。
――そして、父さん達の生活もガラッと変わった。ビターがお詫びにと、父さんと母さんに仕事まで紹介してくれたんだ……それも城の従者の仕事を――
「カイトの城での仕事振りが見れる仕事場所を紹介してくれるなんて……母さん嬉しいわ!」
「仕事が休みの日も仕事に行きたいくらいだ!」
ふたりともビターの心意気に感激してるけど、ビターのお詫びは、過去に父さんを魔法で吹き飛ばしたお詫びだって事は黙っておいた方がいいのかな?
ふと、ビターが意味深に笑った顔が浮かんだ――あの時からこうする事を決めてたのかもしれない(……僕が父さん達と一緒にいれないって思ってる事……気付いてたんだ……)
――あれから城で働きだした父さんと母さんは、僕の仕事振りを見たがっていたけど、当然仕事をしないとだから実質あまり見れない。
その代わり、僕が木の上で見張りをしながらふたりを見れる場所を任される事が多かった。最初は偶然だと思ったけど……こうも偶然が続くと、仕組まれてるとわかった(……ビターとキールが上手く調整してくれてるんだろうな)
見張りをしつつ2階の部屋を掃除してる母さんを眺めていると、1階の通路を掃除中だった父さんが窓を開けてキョロキョロしてる(……どうしたんだろ?)
僕が木の上から飛び降りて父さんの前に着地すると、父さんはびっくりしつつも「カイトに渡したい物がある」と優しく微笑んだ。
渡されたのは――青い勾玉の首飾り?
「カイトは危険な仕事だからな……御守りだ」
「……この石……」
「父さんはよく分からないけど、カイトが好きな忍者の国にあるんだろう? カイトが好きなものにしたくてな」
父さんは照れくさそうに笑う。
僕がちょっと話したたわいもない話を覚えてくれてたのが嬉しかった。
「……ありがとう……」
「っ!今ちょっと笑ったか?……昔はもっと上手に笑えてたのになぁ……俺のせいで……っ……ごめんなぁ……」
父さんはよく泣くようになった(笑ってほしいのに……今度会いに来る時は……笑ってくれるといいな……)
「……御守り……大事にする……」
僕が首にかけ胸元にある勾玉をぎゅっと握ると、父さんは涙目のまま嬉しそうに笑った――
▼ ▼ ▼ ▼ ▼
【おまけの会話~サンセ&カイト~】
おまけという事であくまでも客観的な会話です。※ギャグとしてお楽しみ下さい。
サンセ「カイト、これが俗に言う『ざまぁ』ってやつらしいよ」
カイト「……『ざまぁ』?」
サ「カイトの父さんを苦しめた貴族に復讐というか、罰を与えられたでしょ? それが『ざまぁ』らしいよ」
カ「……じゃあ……また『ざまぁ』されるの?」
サ「え!? ど、どうだろう……」
カ「……それで……また『ざまぁ』し返すの?」
サ「へ!? そ、そこまでは僕もわかんないなぁ……」
カ「……なんか……それって……悲しいね……」しょんぼり
サ(優しくて冗談も通じないカイトに軽いノリで教えちゃダメな言葉だったかぁーー!)
――おまけおしまい――
次回からいよいよ第2章スタート!
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