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第1章 神奮励~チョコランタ王国編~
【幕間】ビターの追憶~後編~
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――昔は、俺と3つ下の弟ティスは、今と違って仲が良かった……と思う。
ティスは白金の髪と、母さんに似た淡いピンク色の瞳で、俺と違って大人しい弟だった。
俺が勉強や稽古をしてる時も、同じ場所に来ては邪魔にならないように遊んだり、眺めたりしていたし――俺がどこかへ行く度に、俺の後を付いて歩く姿は微笑ましかった。
――そして、俺が8歳になった頃、同い年の婚約者ミルクと初めて会った――ミルクは金髪で肩まで伸びた緩いウェーブがかかった髪と、淡い紫の瞳の、穏やかで優しい印象の子だった。
その時は俺とミルクの他に、当時5歳のティスも一緒だった。ティスはすぐミルクに懐いた。俺はティスが楽しそうで微笑ましく思いながら、ふたりが遊んでるのを眺めていた。
すると、ティスがミルクに突進するように抱きつき、ミルクがバランスを崩して倒れそうになった。
俺は咄嗟に魔法で飛んで、ミルクが倒れないように背後から抱き止めるも――ティスの突進の勢いも合わさって、ミルクを支えきれず、尻もちを着く形になった。
その体勢のまま「大丈夫?」と俺が声を掛けると――ミルクはこっちに振り返ったものの、何だか顔が赤くて俯き黙ってしまった。
「顔が赤い……ティスとずっと遊んでたから、疲れちゃったかな……」
そう言って、俺がミルクの頬にそっと触れたら更に赤くなった。熱が出たと思って、瞬時に親父の顔が浮かんだ(親父の魔力は【水】だから、俺やティスが熱を出した時も、よく額を冷やしてくれたんだ)
俺は親父にミルクの熱を冷ましてもらう為、ミルク達をその場に残し慌てて魔法で飛び出した――その後、親父と駆けつけ熱ではないとわかって安心したけど、ミルクの顔は赤いままだった――
――それから定期的にミルクが城に遊びに来るようになった。
基本は最初と変わらず、俺はティスが楽しそうに遊んでるのを微笑ましく眺めるだけ――親バカならぬ兄バカだった自覚はある。
――そんなティスとの関係が変わり始めたのは、ティスが10歳ぐらいの頃かな――その頃は俺も勉強が忙しくて、ミルクが来ても後から合流する事が多かった。
ティスはミルクと話してると笑うけど、俺が遠くから歩いてくるのに気付いたミルクが俺に笑いかけると、ティスは途端に不機嫌になっていた。
俺も13歳にもなれば、さすがにわかる――ティスがミルクに恋愛感情を持っているって。
母さんの勝手に決めた婚約だし、相手が俺からティスに変わっても大丈夫だろう――俺は極力ミルクに会わないようにして、ふたりが上手くいけばいいと願った。
当時、魔力的に俺が王位を継ぐのは明確とされていたから、せめてミルクだけはティスのそばにと……。
――でも、なぜかミルクは俺を探しては何度も会いに来る。
その度に「ティスのそばにいてやってくれ」と言って、サンセ達と稽古したりして、ミルクと関わらないようにしていた。
――だけど、俺が16歳ぐらいの頃……いつも通りに伝えると、ミルクが突然泣き出した。
俺が何で泣くのかと困惑していると、ミルクが「ビター様は……私がお嫌いですか?」と、涙を流しながら俺を見つめる熱を帯びた瞳に……その想いに……察してしまった。
俺はティスの気持ちばかり気にして、ミルクの事を見てなかった。何でティスの気持ちに気付かないのか……ミルクは鈍感なのかと思ってたけど……人の事言えない――俺もミルクの気持ちに気付いてない鈍感じゃないか――
「あ……ごめん。気付いてやれなくて……」
俺が戸惑いと申し訳なさが混ざった感情で言うと、ミルクは黙って首を横に振った。
「ティス様とくっつけたがっているのは分かります……それでも私は……ビター様が大好きです」
ミルクがまた涙を零しながら懸命に微笑む姿は痛々しく、その姿は俺の心も痛めた。
なんで? なんでこんな俺を好きなんだ? 何年も挨拶を交わす程度で、ティスのそばへと言い続けた俺を――最低な俺をなんで嫌わないんだ?
「……なんで?」
「……ビター様がとてもお優しい方だからです」
ミルクがまだ涙で潤んだ目で愛しそうに微笑むから、俺はドキッとして頬が熱くなるのを感じ、思わず視線を逸らした。
やめてくれ――そんなに俺が好きって顔で俺を見ないでくれ……そんな顔を向けられた事が無かったから、どうしたらいいか分からない――
「ふふ、ビター様でも顔が赤くなることがあるのですね」と、ミルクはクスクス笑って俺の頬に触れた。
は!? 急に何して――顔が……熱い――
「私のあの時の気持ちわかりましたか?」
ミルクはそう言って、更に赤くなったであろう俺の顔を見て、あの時の仕返しとばかりにクスクスと笑う。
――俺はそんなこともあったっけと、初めて会った頃を思い返す――
「私は……初めて会ったあの日から……ビター様を大好きになったんです」
「っ!」
――もう勘弁してくれ――俺が好きって顔で俺を見ないでくれ――俺は「はぁ……」と溜息を吐きながらその場にしゃがみ込み頭を抱えた(こんな顔、見られたくない)
「……ビター様は……私がお嫌いですか?」
ミルクの問いかけに、俺は姿勢を変えることなく「……嫌いじゃ……ない」と呟いた――
――そんな事があってから、少しミルクと喋る時間を作るようになった(また泣かれても困るし……)
――それから約2年後――ミルクと話した後「そろそろティスの所へ……」と俺が促すと――
「ほんとにビター様はご家族……いえ、城の者みんなにお優しいですね。周囲に目を配り、最善の選択ならば自分を犠牲にしてしまう。そんなあなただから私は……」
「っ!」
――またその顔を……。
「……わかったから! さっさとティスの所へ行ってこい!」と、俺は照れ隠しにそう言うのがやっとだった。
「……実はこの間そのティス様に、ビター様との事を応援するよと言われ、もう来なくていいと言われたのです」
「え?」
俺は一瞬何を言われたか考えてしまう程、唖然として信じられなかった。
それはティスの明らかな嘘だと思った。そんなわけない。あんなにミルクにいつもひっついて……大好きだったくせに……なんで……。
「私はティス様のことを実の弟のように思ってましたから、ティス様も私を姉のように思ってくれてたんだと思います」と、ミルクは微笑む。
弟のようにか……ティスの為にと思った事が、ティスを余計傷つけてしまった。俺はどうすればティスを傷つけずに済んだんだ?
あの時、嫌いじゃないと言わなければ……嫌いだと、顔も見たくないと言えばよかったのか? でも、出来なかった……ミルクが泣くのがわかりきった傷つける言葉を吐くのは……。
俺が好きって顔をもう俺に向けてくれなくなるなんて嫌だと――っ……そうか……俺もミルクの事が――っ……ティス……ごめん……ごめん……っ――
ティスの気持ちを考えたら、涙が溢れてしばらく止まらなかった。ミルクは突然泣き出した俺に戸惑いながらも、何も言わずに優しく抱きしめ、俺が落ち着くまで背中を擦ってくれた――
――その翌月、春を迎えると何の前触れもなく、ティスは留学したいと隣国マカダミア国へと旅立って行った――俺とミルクが一緒にいるのを見たくないから?
俺はそこまでティスを追い詰めた罪悪感で押し潰されそうだった。何かしていないと気が狂いそうだった。
今まで以上に魔力の訓練や、剣術等の稽古の時間を増やし、ミルクの訪問時には話す時間を減らした。
それでも、ミルクはその訓練や稽古をする俺を見守っていた。俺もいることに気付いてたけど、声もかけずに稽古していた。
いつまで見てるのかとチラッとミルクを見ると、あの顔で微笑んで、俺は降参のように勘弁してくれと赤い顔でしゃがみ込む――
――いつしか城の従者や兵士達が「お似合いだ」と、俺とミルクの事を冷やかす声が聞こえて来るようになった。
互いの両親達もそれを喜んでいた――みんなが喜んでもティスは……と思うと、どうすればいいのか、もうわからなかった――
――俺の思いと裏腹に、互いの両親達が嬉しそうに日取りをどうするか、どんどん話は進んでいった――
――その年の秋――女神誕生祭のパーティーの日も、貴族達に婚姻の話題ばかりを振られ、居心地が悪かった。
だから、謎の光が降り注いだ時は、調査を理由にパーティーを抜け出せる事に安堵した――
――その後、俺が20歳になる春、王位継承と共にミルクと婚姻した――
ティスは親族だから参加しないわけにもいかず、式典に参加はしてもそばに来ることはなく、またマカダミア国へ戻っていった。
俺にはもうティスに会う資格も、合わせる顔もない。俺のどんな言葉もティスの心を抉るだけ……。
あの両親だから気楽に「早く孫の顔が見たい」と、平気に言ってくるけど……そんな気になれるわけもなく、婚姻したばかりは決して幸せな婚姻生活ではなかった――
俺は昼間は王の仕事や、訓練などで気を紛らわし平静を保てたが――夜になるとそれも出来ずに罪悪感に押し潰され、心配してくれたミルクにも来ないでくれと邪険にし、触れることもしばらくなかった――
――婚姻して約1年ちょいそんな状態が続き……今思えば、あの頃の俺は心が病んでいた。
昼間は見せかけの表情を貼り付け、夜はぼんやり虚ろな目をしていた。
ミルクはそんな俺を見てるのが限界だとばかりに「あなたはとても優しい人だから……ひとりで抱え込まないで? 私にもあなたの苦しみを話して分けて?」と、涙ながらに言われた。
虚ろな目から涙が零れ、俺はミルクのぬくもりに縋ってしまった――
――婚姻して2年目の春、息子のノエルが産まれた。
髪色も瞳の色も俺に似てるけど、優しそうな穏やかな顔立ちはミルクに似ていた。
ノエルが産まれてからは、ノエルを見てると罪悪感に悩まされる暇もなく、ノエル中心の生活に変わった。これが後の親バカだと言われ出す発端だろう――
――それから約半年後の秋、女神誕生祭の日に神メシア……メティーと初対面する事になる――
ティスは白金の髪と、母さんに似た淡いピンク色の瞳で、俺と違って大人しい弟だった。
俺が勉強や稽古をしてる時も、同じ場所に来ては邪魔にならないように遊んだり、眺めたりしていたし――俺がどこかへ行く度に、俺の後を付いて歩く姿は微笑ましかった。
――そして、俺が8歳になった頃、同い年の婚約者ミルクと初めて会った――ミルクは金髪で肩まで伸びた緩いウェーブがかかった髪と、淡い紫の瞳の、穏やかで優しい印象の子だった。
その時は俺とミルクの他に、当時5歳のティスも一緒だった。ティスはすぐミルクに懐いた。俺はティスが楽しそうで微笑ましく思いながら、ふたりが遊んでるのを眺めていた。
すると、ティスがミルクに突進するように抱きつき、ミルクがバランスを崩して倒れそうになった。
俺は咄嗟に魔法で飛んで、ミルクが倒れないように背後から抱き止めるも――ティスの突進の勢いも合わさって、ミルクを支えきれず、尻もちを着く形になった。
その体勢のまま「大丈夫?」と俺が声を掛けると――ミルクはこっちに振り返ったものの、何だか顔が赤くて俯き黙ってしまった。
「顔が赤い……ティスとずっと遊んでたから、疲れちゃったかな……」
そう言って、俺がミルクの頬にそっと触れたら更に赤くなった。熱が出たと思って、瞬時に親父の顔が浮かんだ(親父の魔力は【水】だから、俺やティスが熱を出した時も、よく額を冷やしてくれたんだ)
俺は親父にミルクの熱を冷ましてもらう為、ミルク達をその場に残し慌てて魔法で飛び出した――その後、親父と駆けつけ熱ではないとわかって安心したけど、ミルクの顔は赤いままだった――
――それから定期的にミルクが城に遊びに来るようになった。
基本は最初と変わらず、俺はティスが楽しそうに遊んでるのを微笑ましく眺めるだけ――親バカならぬ兄バカだった自覚はある。
――そんなティスとの関係が変わり始めたのは、ティスが10歳ぐらいの頃かな――その頃は俺も勉強が忙しくて、ミルクが来ても後から合流する事が多かった。
ティスはミルクと話してると笑うけど、俺が遠くから歩いてくるのに気付いたミルクが俺に笑いかけると、ティスは途端に不機嫌になっていた。
俺も13歳にもなれば、さすがにわかる――ティスがミルクに恋愛感情を持っているって。
母さんの勝手に決めた婚約だし、相手が俺からティスに変わっても大丈夫だろう――俺は極力ミルクに会わないようにして、ふたりが上手くいけばいいと願った。
当時、魔力的に俺が王位を継ぐのは明確とされていたから、せめてミルクだけはティスのそばにと……。
――でも、なぜかミルクは俺を探しては何度も会いに来る。
その度に「ティスのそばにいてやってくれ」と言って、サンセ達と稽古したりして、ミルクと関わらないようにしていた。
――だけど、俺が16歳ぐらいの頃……いつも通りに伝えると、ミルクが突然泣き出した。
俺が何で泣くのかと困惑していると、ミルクが「ビター様は……私がお嫌いですか?」と、涙を流しながら俺を見つめる熱を帯びた瞳に……その想いに……察してしまった。
俺はティスの気持ちばかり気にして、ミルクの事を見てなかった。何でティスの気持ちに気付かないのか……ミルクは鈍感なのかと思ってたけど……人の事言えない――俺もミルクの気持ちに気付いてない鈍感じゃないか――
「あ……ごめん。気付いてやれなくて……」
俺が戸惑いと申し訳なさが混ざった感情で言うと、ミルクは黙って首を横に振った。
「ティス様とくっつけたがっているのは分かります……それでも私は……ビター様が大好きです」
ミルクがまた涙を零しながら懸命に微笑む姿は痛々しく、その姿は俺の心も痛めた。
なんで? なんでこんな俺を好きなんだ? 何年も挨拶を交わす程度で、ティスのそばへと言い続けた俺を――最低な俺をなんで嫌わないんだ?
「……なんで?」
「……ビター様がとてもお優しい方だからです」
ミルクがまだ涙で潤んだ目で愛しそうに微笑むから、俺はドキッとして頬が熱くなるのを感じ、思わず視線を逸らした。
やめてくれ――そんなに俺が好きって顔で俺を見ないでくれ……そんな顔を向けられた事が無かったから、どうしたらいいか分からない――
「ふふ、ビター様でも顔が赤くなることがあるのですね」と、ミルクはクスクス笑って俺の頬に触れた。
は!? 急に何して――顔が……熱い――
「私のあの時の気持ちわかりましたか?」
ミルクはそう言って、更に赤くなったであろう俺の顔を見て、あの時の仕返しとばかりにクスクスと笑う。
――俺はそんなこともあったっけと、初めて会った頃を思い返す――
「私は……初めて会ったあの日から……ビター様を大好きになったんです」
「っ!」
――もう勘弁してくれ――俺が好きって顔で俺を見ないでくれ――俺は「はぁ……」と溜息を吐きながらその場にしゃがみ込み頭を抱えた(こんな顔、見られたくない)
「……ビター様は……私がお嫌いですか?」
ミルクの問いかけに、俺は姿勢を変えることなく「……嫌いじゃ……ない」と呟いた――
――そんな事があってから、少しミルクと喋る時間を作るようになった(また泣かれても困るし……)
――それから約2年後――ミルクと話した後「そろそろティスの所へ……」と俺が促すと――
「ほんとにビター様はご家族……いえ、城の者みんなにお優しいですね。周囲に目を配り、最善の選択ならば自分を犠牲にしてしまう。そんなあなただから私は……」
「っ!」
――またその顔を……。
「……わかったから! さっさとティスの所へ行ってこい!」と、俺は照れ隠しにそう言うのがやっとだった。
「……実はこの間そのティス様に、ビター様との事を応援するよと言われ、もう来なくていいと言われたのです」
「え?」
俺は一瞬何を言われたか考えてしまう程、唖然として信じられなかった。
それはティスの明らかな嘘だと思った。そんなわけない。あんなにミルクにいつもひっついて……大好きだったくせに……なんで……。
「私はティス様のことを実の弟のように思ってましたから、ティス様も私を姉のように思ってくれてたんだと思います」と、ミルクは微笑む。
弟のようにか……ティスの為にと思った事が、ティスを余計傷つけてしまった。俺はどうすればティスを傷つけずに済んだんだ?
あの時、嫌いじゃないと言わなければ……嫌いだと、顔も見たくないと言えばよかったのか? でも、出来なかった……ミルクが泣くのがわかりきった傷つける言葉を吐くのは……。
俺が好きって顔をもう俺に向けてくれなくなるなんて嫌だと――っ……そうか……俺もミルクの事が――っ……ティス……ごめん……ごめん……っ――
ティスの気持ちを考えたら、涙が溢れてしばらく止まらなかった。ミルクは突然泣き出した俺に戸惑いながらも、何も言わずに優しく抱きしめ、俺が落ち着くまで背中を擦ってくれた――
――その翌月、春を迎えると何の前触れもなく、ティスは留学したいと隣国マカダミア国へと旅立って行った――俺とミルクが一緒にいるのを見たくないから?
俺はそこまでティスを追い詰めた罪悪感で押し潰されそうだった。何かしていないと気が狂いそうだった。
今まで以上に魔力の訓練や、剣術等の稽古の時間を増やし、ミルクの訪問時には話す時間を減らした。
それでも、ミルクはその訓練や稽古をする俺を見守っていた。俺もいることに気付いてたけど、声もかけずに稽古していた。
いつまで見てるのかとチラッとミルクを見ると、あの顔で微笑んで、俺は降参のように勘弁してくれと赤い顔でしゃがみ込む――
――いつしか城の従者や兵士達が「お似合いだ」と、俺とミルクの事を冷やかす声が聞こえて来るようになった。
互いの両親達もそれを喜んでいた――みんなが喜んでもティスは……と思うと、どうすればいいのか、もうわからなかった――
――俺の思いと裏腹に、互いの両親達が嬉しそうに日取りをどうするか、どんどん話は進んでいった――
――その年の秋――女神誕生祭のパーティーの日も、貴族達に婚姻の話題ばかりを振られ、居心地が悪かった。
だから、謎の光が降り注いだ時は、調査を理由にパーティーを抜け出せる事に安堵した――
――その後、俺が20歳になる春、王位継承と共にミルクと婚姻した――
ティスは親族だから参加しないわけにもいかず、式典に参加はしてもそばに来ることはなく、またマカダミア国へ戻っていった。
俺にはもうティスに会う資格も、合わせる顔もない。俺のどんな言葉もティスの心を抉るだけ……。
あの両親だから気楽に「早く孫の顔が見たい」と、平気に言ってくるけど……そんな気になれるわけもなく、婚姻したばかりは決して幸せな婚姻生活ではなかった――
俺は昼間は王の仕事や、訓練などで気を紛らわし平静を保てたが――夜になるとそれも出来ずに罪悪感に押し潰され、心配してくれたミルクにも来ないでくれと邪険にし、触れることもしばらくなかった――
――婚姻して約1年ちょいそんな状態が続き……今思えば、あの頃の俺は心が病んでいた。
昼間は見せかけの表情を貼り付け、夜はぼんやり虚ろな目をしていた。
ミルクはそんな俺を見てるのが限界だとばかりに「あなたはとても優しい人だから……ひとりで抱え込まないで? 私にもあなたの苦しみを話して分けて?」と、涙ながらに言われた。
虚ろな目から涙が零れ、俺はミルクのぬくもりに縋ってしまった――
――婚姻して2年目の春、息子のノエルが産まれた。
髪色も瞳の色も俺に似てるけど、優しそうな穏やかな顔立ちはミルクに似ていた。
ノエルが産まれてからは、ノエルを見てると罪悪感に悩まされる暇もなく、ノエル中心の生活に変わった。これが後の親バカだと言われ出す発端だろう――
――それから約半年後の秋、女神誕生祭の日に神メシア……メティーと初対面する事になる――
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