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第1章 神奮励~チョコランタ王国編~
第20話 進むべき路と居場所~続きと記憶~
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――私が思い耽っている間に、ビターさんがサンセとカイトとの魔力石の連絡を試したみたいだけど――ビターさんの最初の推測通り、私を通していない点で魔力はないから連絡出来なかったみたい。
そう考えると、やっぱり不便なのかも……。
――ふと、マカダミアに行く件で思い立った。
しーちゃんに伝えて、一緒に行こうって言おう! しーちゃんも白銀の髪に青い瞳だから、チョコランタでは紛らわしい容姿で危ないもん!
サンセ達もいるけど、何とか会って仲良くなってもらいたい。しーちゃんもサンセ達も良い人だから、お互いを知らないなんて勿体ないし。
「あ……いったん、おうちかえっていー?」
「ああ、例の裏山か……どんな所に住んでる? 食事や寝床はちゃんとしてるのか? 風呂は?」
「……うっ……」
ビターさんに畳み掛けられ、言葉に詰まる。
孤児院に来て、初めて快適なベッドに横たわったから、藁を敷いただけのベッドもどきに寝ていると言い出しにくい。
食事は、しーちゃんが狩った獣を獣の街ザルクの住人に分ける代わりに、調理してもらったものを貰うという物々交換をしていた事がザルクに行った時に判明した。
だから、食事に関しては子供の身体で満腹になるくらいには食べれている。
お風呂なんて岩穴に当然ない! 雨の日に水浴びのように遊ぶだけだし……。ラビくんは臭くないって言ってくれたけど、まさか私臭う!?
「……その顔は、微妙そうだな?」と、ビターさんがクスクス笑い出した。
ほんとにバレバレ……ビターさんに隠し事は不可能じゃない?
私は苦笑いでごまかすしかなかった。
「守ってくれてる奴が良ければ、出発まで孤児院に居たらどうだ? 風呂や食事はもちろん、部屋も余ってるし」
「っ! ほんちょ!? いいの!? しゅぐきいてくりゅ!」
「おいっ! どうやって行くつもりだ?」
慌てて部屋を出ようとした私をビターさんに止められ、自分の考え無しの行動に気付き反省する。
そうだよ……孤児院の子にバレたらダメって言われてたのに、堂々とドアから出て行ける訳ないじゃん!
「……カイト。メティーを頼む」
ビターさんの言葉にカイトは黙ってコクリと頷き、私のそばに来て背中を向けてしゃがんだ。何だろう? と首を傾げた私に、カイトがボソリと「……乗って……」と呟いた。
乗るって……まさか! おんぶ!? カイトがおんぶ!?
想像つかない等と失礼な思考が頭を巡り、頭を振ってその思考を追い出し、カイトの背にしがみついた。
おんぶしてもらったものの、どうやって行くんだろう?
「……ちゃんと捕まってて……」
そうカイトが呟き、カイトは勢いよく窓から飛び出したぁ!?――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
窓から飛び出したカイトを横目に、サンセはビターに視線を向け、気になった事を尋ねる事にした。
「――さっきの伝記の話……僕らが聞いてよかったの?」
「……王だけが知ってても、なんの解決にもならないと思ったしな」
「……解決? 何か問題でもあるの?」
僕の問い掛けにビターは目を見開き、失言したとばかりに視線を逸らして溜息を吐いた。
「教えてくれないと、解決策を立てようがないけど?」
僕が続きを促す視線をビターに送ると、ビターは僕の目を見たものの、また逸らされた。
「――伝記には……絵本の続きが書かれてるとだけ……伝えておく」
ビターが言いにくそうに視線を逸らしたまま答えた。
ビターは昔から王族としての教育を受け、内心を悟られないようにしていた。そんなビターが僕に目を合わせない時は――
「……僕に知られたらダメな事?」
ビターが焦ったように僕の方をバッと見て、言いにくそうに顔を顰めた。
「……悪い……今はこれ以上は言えない……俺自身が……サンセに伝える勇気が……まだない」
ビターが口籠もりながら答えると、これ以上の追求から逃げるように「そろそろ城に戻る」と、窓から魔法で飛んで出て行った――
「パーティーに王が不在はまずいしね……」と、ビターの遠ざかる背中へうわの空にぼんやり呟きつつ、僕は頭の中を巡っているビターの意味深な発言をしばらく考えていた――
――絵本の続きで、僕に話せないような事?――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――カイトが勢いよく窓を飛び出し、思わず下を見てしまって後悔した。メティーが落ちた崖より低いけど、普通はこの高さから飛び降りたら大怪我しちゃうって!
怖くて目をギュッと閉じて、しがみつく手に力が入る。
タトンと軽やかな着地の音がして、ゆっくり目を開けると、平然としたカイトが私を見ていた。
「……なんかいかりゃ、とびおりたー?」
「……3階……」
「え!? あしへーき? いたくない?」
カイトはコクリと黙って頷いた。
なんでそんなに平然と何事もなかったかのように振る舞えるの!? 重力はどこに行ったの!? 3階からタトンって! おかしいよ!
「……危ないから……捕まってて……」
「へ?……わぁ!」
私の心の中の疑問を問答無用とばかりに、カイトは崖に向かって猛スピードで走り出した。
そして、腰に付けていたと思われる先端に錘が付いたロープを取り出し、勢いよく振り回して崖の上にある木にクルクルと巻き付けると、ロープを頼りに崖を軽々駆け登って行った。
――なんということでしょう! ものの数秒で崖の上に到着とか!
唖然と呆けた私を地面に降ろし、ロープを回収するカイトを眺めて思う。
崖から落ちた私を助けたのも、きっとこの方法だ! さっきの軽やかな身のこなしは、まさしく忍者そのもの! だから、軽傷で済んだんだね!
納得して思わず感嘆の溜息が漏れた。
――そういえば、しーちゃんに詰んだお花ないなぁ……。
地面をキョロキョロ見て探したけど落ちてない。やっぱり、風で飛ばされちゃったかな? すぐ帰るつもりが遅くなっちゃったし、真っ直ぐ岩穴へ向かおう。
くるっとカイトの方を向き「ここでまってて?」と伝えると、カイトは首を横に振った。
「……護衛……だから……」と、呟く無表情な顔は頑なな意思があるように見えてしまって、説得するのは無理そうだと付いてきてもらう事にした。
――もうすぐ岩穴が見える場所で「しゅぐしょこだから……ここでまってて?」と、再び真剣な目でカイトに訴える。
しーちゃんの許可を貰ったら、カイトを呼びに行くから――
カイトはジッと私の目を見て、渋々頷き「……でも……変だったら……行く……」と、ぼんやりした声とは裏腹に目は真剣で、異変があればお願いを守らずに駆けつける気だとわかる。
それならしょうがない事だし……と、私はカイトに頷いてから岩穴へと駆け出した。
――駆け出して視界に入ったその異変を見て驚愕した。
岩穴があった場所のはずが、岩壁が並び岩穴がない!? どうして!?
岩穴があった場所の岩壁に触れると、間違いなくそこに岩壁がある――そんな事は見ればわかるのに、信じられなくて周辺の壁を闇雲に触れた。
焦りから次第に叩くように触れ、涙で潤んだ瞳から涙が零れ落ちた。
痛い……。叩いた手も、心臓もギュッと強く握られたように痛くて苦しい――このまま握り潰されてしまうんじゃないかってくらいに――
「……っ……しーちゃ……しーちゃ……っ……なんで?」
――しーちゃん……私に何も言わず、どこに行ったの? なんで勝手にどっか行っちゃうの?――
しーちゃんと過ごした日々がよぎって、更に目頭が熱くなって涙がどんどん溢れていく。
――しーちゃんの事、何もわからないまま――あ……心の声が聞こえるしーちゃんには、私がしーちゃんに本当の事を聞こうと思ってたの、きっとバレてるよね? だからなの?
――こうなるならわからないままでいいのに――
行き場のない悲しさと、しーちゃんが嫌がる事をしちゃったんだっていう自分に苛立ち咽び泣く。
「……どこに……いりゅの?……おちえて?……だれか……」
――しーちゃんの事教えてよ!――
自分に苛立ちをぶつけるように強く心の中で思うと、ふわっと優しい風が吹いた。
『メシア様……私の見た記憶で良ければお見せしましょう……』
突然、頭に響くように聞こえた声に驚き、周辺を見回しても誰もいない。
『だ、誰?』
『私はこの周辺に吹く風……』
優しい風が、まるで私の頬の涙を拭うように吹いて語りかけてきた。
メシスくんが土の中にある闇の力に目を借りたって言うのは、こういう事だったのかな?
まさか、喋れる存在と思ってなくて驚きを隠せない。
『風?……風の精霊みたいなもの?』
『……個々の私はそんな大それたものではありません――お見せしても?』
個々の……この周辺に吹く風と言ってたし、たくさん存在するのかもしれない。
『見たい……見せて?』
そう思うと瞬時に周りの景色が変わり、まるで風の記憶の世界に入り込んだように、風が私の目であり、耳でもある不思議な感覚になった。
――風となって吹き進むと、教会と孤児院の建物が見え、崖の上に人の姿が見えた――あれは、お花を持ったしーちゃん!?
私が落としたお花、しーちゃんが拾ってくれたんだーとわかり嬉しくて口元が緩む。
ん? しーちゃんの口元が動いて……何か言ってる?
風がしーちゃんのそばを吹いた時、哀しげに顔を顰めて呟く声が聞こえた。
『――バイバイ――』
――え? バイ……バイ?――
思いがけない言葉に衝撃を受けると、風の記憶の世界がガラスが割れたように砕け、元いた場所に佇んでいた――
――しーちゃんが哀しげに顔を顰めながら呟いた声が、ずっと頭の中に響いていた……泣きそうなか細い声が――
しーちゃんの苦渋の決断が別れを選んだ事が悲しくて、そうさせてしまったのは私のせいだと思うと自分が許せなくて――
「っ……しーちゃ……ひっく……しーちゃん……うわあああああん!」
今度は泣き叫ぶ声を抑える事が出来なかった――
――第1章 神奮励~チョコランタ王国編~ 完――
――第2章につづく――
そう考えると、やっぱり不便なのかも……。
――ふと、マカダミアに行く件で思い立った。
しーちゃんに伝えて、一緒に行こうって言おう! しーちゃんも白銀の髪に青い瞳だから、チョコランタでは紛らわしい容姿で危ないもん!
サンセ達もいるけど、何とか会って仲良くなってもらいたい。しーちゃんもサンセ達も良い人だから、お互いを知らないなんて勿体ないし。
「あ……いったん、おうちかえっていー?」
「ああ、例の裏山か……どんな所に住んでる? 食事や寝床はちゃんとしてるのか? 風呂は?」
「……うっ……」
ビターさんに畳み掛けられ、言葉に詰まる。
孤児院に来て、初めて快適なベッドに横たわったから、藁を敷いただけのベッドもどきに寝ていると言い出しにくい。
食事は、しーちゃんが狩った獣を獣の街ザルクの住人に分ける代わりに、調理してもらったものを貰うという物々交換をしていた事がザルクに行った時に判明した。
だから、食事に関しては子供の身体で満腹になるくらいには食べれている。
お風呂なんて岩穴に当然ない! 雨の日に水浴びのように遊ぶだけだし……。ラビくんは臭くないって言ってくれたけど、まさか私臭う!?
「……その顔は、微妙そうだな?」と、ビターさんがクスクス笑い出した。
ほんとにバレバレ……ビターさんに隠し事は不可能じゃない?
私は苦笑いでごまかすしかなかった。
「守ってくれてる奴が良ければ、出発まで孤児院に居たらどうだ? 風呂や食事はもちろん、部屋も余ってるし」
「っ! ほんちょ!? いいの!? しゅぐきいてくりゅ!」
「おいっ! どうやって行くつもりだ?」
慌てて部屋を出ようとした私をビターさんに止められ、自分の考え無しの行動に気付き反省する。
そうだよ……孤児院の子にバレたらダメって言われてたのに、堂々とドアから出て行ける訳ないじゃん!
「……カイト。メティーを頼む」
ビターさんの言葉にカイトは黙ってコクリと頷き、私のそばに来て背中を向けてしゃがんだ。何だろう? と首を傾げた私に、カイトがボソリと「……乗って……」と呟いた。
乗るって……まさか! おんぶ!? カイトがおんぶ!?
想像つかない等と失礼な思考が頭を巡り、頭を振ってその思考を追い出し、カイトの背にしがみついた。
おんぶしてもらったものの、どうやって行くんだろう?
「……ちゃんと捕まってて……」
そうカイトが呟き、カイトは勢いよく窓から飛び出したぁ!?――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
窓から飛び出したカイトを横目に、サンセはビターに視線を向け、気になった事を尋ねる事にした。
「――さっきの伝記の話……僕らが聞いてよかったの?」
「……王だけが知ってても、なんの解決にもならないと思ったしな」
「……解決? 何か問題でもあるの?」
僕の問い掛けにビターは目を見開き、失言したとばかりに視線を逸らして溜息を吐いた。
「教えてくれないと、解決策を立てようがないけど?」
僕が続きを促す視線をビターに送ると、ビターは僕の目を見たものの、また逸らされた。
「――伝記には……絵本の続きが書かれてるとだけ……伝えておく」
ビターが言いにくそうに視線を逸らしたまま答えた。
ビターは昔から王族としての教育を受け、内心を悟られないようにしていた。そんなビターが僕に目を合わせない時は――
「……僕に知られたらダメな事?」
ビターが焦ったように僕の方をバッと見て、言いにくそうに顔を顰めた。
「……悪い……今はこれ以上は言えない……俺自身が……サンセに伝える勇気が……まだない」
ビターが口籠もりながら答えると、これ以上の追求から逃げるように「そろそろ城に戻る」と、窓から魔法で飛んで出て行った――
「パーティーに王が不在はまずいしね……」と、ビターの遠ざかる背中へうわの空にぼんやり呟きつつ、僕は頭の中を巡っているビターの意味深な発言をしばらく考えていた――
――絵本の続きで、僕に話せないような事?――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――カイトが勢いよく窓を飛び出し、思わず下を見てしまって後悔した。メティーが落ちた崖より低いけど、普通はこの高さから飛び降りたら大怪我しちゃうって!
怖くて目をギュッと閉じて、しがみつく手に力が入る。
タトンと軽やかな着地の音がして、ゆっくり目を開けると、平然としたカイトが私を見ていた。
「……なんかいかりゃ、とびおりたー?」
「……3階……」
「え!? あしへーき? いたくない?」
カイトはコクリと黙って頷いた。
なんでそんなに平然と何事もなかったかのように振る舞えるの!? 重力はどこに行ったの!? 3階からタトンって! おかしいよ!
「……危ないから……捕まってて……」
「へ?……わぁ!」
私の心の中の疑問を問答無用とばかりに、カイトは崖に向かって猛スピードで走り出した。
そして、腰に付けていたと思われる先端に錘が付いたロープを取り出し、勢いよく振り回して崖の上にある木にクルクルと巻き付けると、ロープを頼りに崖を軽々駆け登って行った。
――なんということでしょう! ものの数秒で崖の上に到着とか!
唖然と呆けた私を地面に降ろし、ロープを回収するカイトを眺めて思う。
崖から落ちた私を助けたのも、きっとこの方法だ! さっきの軽やかな身のこなしは、まさしく忍者そのもの! だから、軽傷で済んだんだね!
納得して思わず感嘆の溜息が漏れた。
――そういえば、しーちゃんに詰んだお花ないなぁ……。
地面をキョロキョロ見て探したけど落ちてない。やっぱり、風で飛ばされちゃったかな? すぐ帰るつもりが遅くなっちゃったし、真っ直ぐ岩穴へ向かおう。
くるっとカイトの方を向き「ここでまってて?」と伝えると、カイトは首を横に振った。
「……護衛……だから……」と、呟く無表情な顔は頑なな意思があるように見えてしまって、説得するのは無理そうだと付いてきてもらう事にした。
――もうすぐ岩穴が見える場所で「しゅぐしょこだから……ここでまってて?」と、再び真剣な目でカイトに訴える。
しーちゃんの許可を貰ったら、カイトを呼びに行くから――
カイトはジッと私の目を見て、渋々頷き「……でも……変だったら……行く……」と、ぼんやりした声とは裏腹に目は真剣で、異変があればお願いを守らずに駆けつける気だとわかる。
それならしょうがない事だし……と、私はカイトに頷いてから岩穴へと駆け出した。
――駆け出して視界に入ったその異変を見て驚愕した。
岩穴があった場所のはずが、岩壁が並び岩穴がない!? どうして!?
岩穴があった場所の岩壁に触れると、間違いなくそこに岩壁がある――そんな事は見ればわかるのに、信じられなくて周辺の壁を闇雲に触れた。
焦りから次第に叩くように触れ、涙で潤んだ瞳から涙が零れ落ちた。
痛い……。叩いた手も、心臓もギュッと強く握られたように痛くて苦しい――このまま握り潰されてしまうんじゃないかってくらいに――
「……っ……しーちゃ……しーちゃ……っ……なんで?」
――しーちゃん……私に何も言わず、どこに行ったの? なんで勝手にどっか行っちゃうの?――
しーちゃんと過ごした日々がよぎって、更に目頭が熱くなって涙がどんどん溢れていく。
――しーちゃんの事、何もわからないまま――あ……心の声が聞こえるしーちゃんには、私がしーちゃんに本当の事を聞こうと思ってたの、きっとバレてるよね? だからなの?
――こうなるならわからないままでいいのに――
行き場のない悲しさと、しーちゃんが嫌がる事をしちゃったんだっていう自分に苛立ち咽び泣く。
「……どこに……いりゅの?……おちえて?……だれか……」
――しーちゃんの事教えてよ!――
自分に苛立ちをぶつけるように強く心の中で思うと、ふわっと優しい風が吹いた。
『メシア様……私の見た記憶で良ければお見せしましょう……』
突然、頭に響くように聞こえた声に驚き、周辺を見回しても誰もいない。
『だ、誰?』
『私はこの周辺に吹く風……』
優しい風が、まるで私の頬の涙を拭うように吹いて語りかけてきた。
メシスくんが土の中にある闇の力に目を借りたって言うのは、こういう事だったのかな?
まさか、喋れる存在と思ってなくて驚きを隠せない。
『風?……風の精霊みたいなもの?』
『……個々の私はそんな大それたものではありません――お見せしても?』
個々の……この周辺に吹く風と言ってたし、たくさん存在するのかもしれない。
『見たい……見せて?』
そう思うと瞬時に周りの景色が変わり、まるで風の記憶の世界に入り込んだように、風が私の目であり、耳でもある不思議な感覚になった。
――風となって吹き進むと、教会と孤児院の建物が見え、崖の上に人の姿が見えた――あれは、お花を持ったしーちゃん!?
私が落としたお花、しーちゃんが拾ってくれたんだーとわかり嬉しくて口元が緩む。
ん? しーちゃんの口元が動いて……何か言ってる?
風がしーちゃんのそばを吹いた時、哀しげに顔を顰めて呟く声が聞こえた。
『――バイバイ――』
――え? バイ……バイ?――
思いがけない言葉に衝撃を受けると、風の記憶の世界がガラスが割れたように砕け、元いた場所に佇んでいた――
――しーちゃんが哀しげに顔を顰めながら呟いた声が、ずっと頭の中に響いていた……泣きそうなか細い声が――
しーちゃんの苦渋の決断が別れを選んだ事が悲しくて、そうさせてしまったのは私のせいだと思うと自分が許せなくて――
「っ……しーちゃ……ひっく……しーちゃん……うわあああああん!」
今度は泣き叫ぶ声を抑える事が出来なかった――
――第1章 神奮励~チョコランタ王国編~ 完――
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