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第1章 神奮励~チョコランタ王国編~

第13話 謎の少年①

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「……見つかったらダメなんでしょ? 黙っててくれる?」

 少年にジッと見つめられ、私は慌て頷いて返事をすると――少年はふわっと優しく微笑んで手を離してくれた。

 突然の優しい微笑みに、思わず見とれてしまった。
 なんだろう――初めて会ったのになんだか懐かしい――

 ルビーみたいな綺麗な赤い瞳――あれ!? 白銀の髪に赤い瞳って……絵本に出てきたもうひとりの神――

「めてぃしゅくん?」

 また上手く言えない! メシスって言いたかったのにこれじゃきっと伝わらない――そう思ったら少年は目を見開き、哀しげに微笑んでいきなりギュッと抱きしめられた。

――心地よくて懐かしい――そう思ったのも一瞬で、突然抱きしめられた事にドキドキして顔が熱くなり、わけもわからずパニックでジタバタと身じろぐと、少年は「ああ……急にごめんね」と離れてくれた。

――まだ顔が熱い――そもそも、絵本の子は幼い女の子だったのに……男の子の場合もあるのかな? それとも、髪色や瞳の色が似てるだけの別人?
 でも、最初にスっと自然にメシスくんと名前が出たのは――懐かしさのせい?――

「ぐはっ……」

 少年が外へと視線を向け、私は思わず少年の手を掴んでロウさんを助けて欲しいと言おうとすると――少年は、私の顔を見てふっと優しく微笑んで立ち上がり、瓦礫がれきを軽々と飛び越えるように外へ出て行った。

――サンセが私は顔に出やすいって言ってたもんね……笑われる程の懇願する顔してたのかもしれない――


「ねー……こんな所でなーにしてんの?」
「お、はいつの間に!……クックック……ほんとに神出鬼没だな」

 え!? あの少年、クックックの人と知り合いなの!?
 ドキドキと緊張が走るけど――呼び方の台無し感が否めない――

「いい所に来てくれた……そこの死に損ないを研究所に運んでくれ」
「えー……めんどくさい」
「……なら一瞬で運べるだろ」
「どーせならさ……んだけど」

 その直後ゾワッとする殺気に襲われ、ガタガタ震えて腰が抜けたように立ち上がる力も入らない。
 サンセのが可愛いと思えてしまうレベルで、桁違いの強さだとこの殺気だけでわかる程怖い。

 さすがにラビくんも、この強烈な殺気に防衛本能で目覚めたけど、私同様倒れたまま身動き出来ず震えている。

「あ、遊ぶって……あ! 勝手にどこへ行く!」

 クックックの人の焦った声がして、ドスドスと大きな足音が遠のいていく。
 もしかして、異形生物ベリアントもこの殺気が怖くて逃げ出したの?

「ふーん……僕から逃げれると思ってるの?」

――その少年の声がしたわずか数秒後に、異形生物ベリアントの断末魔の叫びが遠くから聞こえた――

 ちゃんと異形生物ベリアントの姿は見れてないけど、ひとつの命が消えた事実が恐ろしかった。
 ロウさんを攻撃した悪い存在だとしても――異形生物ベリアントにされて操られた異形生物あの子は、研究所の人間に命をもてあそばれた被害者で――何も悪くないのに――

 見つかったらダメとはいえ、隠れて何も出来ず、ガタガタ震えてる私が情けない――助けてあげられなくて……っ……ごめんね――

 泣いたってどうなるわけでもないのに――私はしばらく声を押し殺して泣き続けた――


――少年のゾワッとする殺気が消えてハッと我に返ると、クックックの人の声も聞こえない事に気付き、慌てて立ち上がり瓦礫がれきをよじ登ろうとすると――スッと少年に手を差し伸べられた。その手は私の手を通り過ぎて、私の目元を優しく拭われた。

「……異形生物ベリアントの事はごめんね……異形生物ベリアントは生きているだけでも苦痛な程ゆがめられた存在モノだから……殺してあげた方が救われるんだ」

 その言葉にまた泣きそうになる――どうして研究所の人はそんな酷い事を……。

――再び差し伸べられた手に――クックックの人と知り合いっぽいこの人の手を借りていいの? 敵なの? なんで助けてくれるの? わからない――

 グルグルと思い悩み、少年の手を見つめて躊躇ちゅうちょしていると――手を掴まれてフワッと身体が浮くように持ち上げられ、トンネルの外に降ろしてくれた。

 ビクビクと少年を見つめると――

「ん? ならもういないよ? 研究所に帰したから」

 そう言って少年は、さっき私の腕を掴んだ時の黒いもやを一瞬だけ出してすぐ消した。
 さっきの強烈な殺気を出した人と同じ人と思えない――確かに、強いと感じるものはまとったままだけど……飄々ひょうひょうとしていて、この人を信用していいのかわからない――

「うっ」
「ろうしゃん!」

 ロウさんの声がして、この人を信用するかどうか以前にするべき事があったと声の方を向くと――痛々しい血だらけのロウさんの姿に視界が涙でボヤけた。
 謎の少年がいるとか、そんな事気にしてる余裕がなかった。それ所じゃなくて、早く助けないと死んでしまうと思う程にロウさんは弱っていた――

「っ……ろうしゃん!……ごめんなしゃいごめんなしゃい……しんじゃや……の」

 駆け寄ってすぐに手をかざし癒しの力を使って、必死に傷が癒える事を強く願った――

 今まで傷を癒していた白い光が目に優しい光なら、今回は少し眩しいと感じる光がロウさんを包み癒していった――

――光が消え傷が癒えてもロウさんは目を覚まさない。お腹がゆっくり上下して呼吸してるから、命に別状はないはず……医者の知識がある訳でも無いから、不安でロウさんのそばに立ち尽くす。

「……大丈夫。そのうち目を覚ますから」

 そう言って謎の少年は私の頭を撫でてくれた。

「ほんとー?」と尋ねると「うん」と答えて謎の少年は離れた所で見ていたラビくんに声をかけた。

「ねーそこの君、この人を街の中へ運べる大人を連れて来てくれる?」

 話しかけられてラビくんはビクビクしていたけど、言われた内容に真剣な顔付きで頷いて急いで呼びに向かった。
 あの黒いもやで運んだ方が早そうだけど――少年を見るとまた言いたい事が顔に出ていたみたいでクスクス笑われた。

――どうやら行った事がある場所か、少しでも見える範囲の気配のそばじゃないと無理だと教えてくれた。つまり、さっき私の所に来たのは後者のパターンだとわかる――もし敵だったら、こんな事教えていいの? って事をあっさり教えてくれるし、ほんとに謎すぎる。

 何はともあれ街に戻れる事に少し安心したら、急に足の力が抜け、ガクッと崩れ落ちそうになると――「っ! メシア!」と謎の少年が私を支えてくれた。

――私をって事は――

「やっぱり……めてぃしゅくん?」と少年の方を見ると、少年はやっぱり哀しげに微笑んだ。

「ちがうのー?」
「んー……っていうか……」

――その言い回し、夢の中の子も似た事言ってたなぁ――

「じゃあなぁにー?」
「……何だと思う?」

 意味深に笑ってごまかされた――のかな? 何を考えているのかほんとにわからなくて、当てるのは無理に決まってる。

「おなまえわかりゃないと、こまりゅの……」
「……別に好きに呼んでくれていいけど?」

 謎の少年はクスクス笑って、楽しげな優しい眼差しに見つめられてドキッとする。こんな眼差し向けられて、敵だったらほんとに人間不信になるよ!?
 改めて見ても、男の子で大人ではあるけど、絵本の姿のメシスちゃんと特徴は似てる。あの黒いもやにしても、メシスちゃんだとしたら闇の神だから、闇の力に見えなくもないし!

――ん? 絵本の姿? もしかして――脳裏に夢の中の黒髪の女の子の姿がよぎり、言い回しの似たやりとりを思い返す。

――わたしは だけど じゃないって――

 姿はあなただけどが違うって事なんじゃ……。

 私がメシアの体の中にいるから、黒髪の女の子の方にメシアちゃんがいるのかな?

 は消すというのは……黒髪の女の子であった時の私の記憶……今の私じゃなく、……?

 すると、ズキッと頭痛が起こる。
 頭痛はするけど、今考えてた事をまだ消さないでくれてる。
 これ以上詮索するなという警告の頭痛。

――消さないでくれてありがとう……今はこれだけわかっただけ進展してる――
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