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序章 神降臨
第2話 癒しの力
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――約3年前、私が始めてこの世界に来て感じたのは、苦しさだった――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『――ミツケタ』
その声がどんな声だったか、聞いたそばからもう思い出せない――
暗い闇に呑まれるように、次第に息が出来なくなって、私は苦しさから逃れるように勢いよく目を開け――目を覚ました。
(――あ……ゆ……め?)
寝ぼけた視界に、心配そうに私をのぞき込む姿が映る――
白銀の髪に、猫のような耳、綺麗な青い瞳の幼い男の子だった。よく見ると、所々に殴られたような傷がある――
「うなされてた……だいじょうぶ?」
その5歳ぐらいの男の子が、私を心配してくれてる。
「あぅあうーあ!」
(あれ? 私よりあなたが大丈夫? って言いたかったのに喋れない……なんで?)
そう思った所で、体の違和感に気付く――
(え!? 手ちっちゃ! 足も! 赤ちゃんになってる!?)
「ぼくが そらをみあげてたら、きみが “そらからおりて”きたんだよ」
自分の姿を不思議がってる私を見つめ、男の子がそう言った。
(え!? 空!? 普通の人は、空飛べないよね!?)
どういう事なのか混乱する――
「……みつけたのが ぼくで ごめんね」
その男の子は、申し訳なさそうに哀しげに俯く。
(どうして、私を助けてくれたのに謝るの?)
「……だって、ぼく“じゅうじん”だし、こどもだし……」
(“獣人”?……って! 私が考えてる事わかるの!?)
男の子はコクリと黙って頷いた。
それも“獣人”だからなのかな?【獣人】がいる世界という事に“違和感”を感じる。でも、なんでだかわからない――
とりあえず、獣人は心の声がわかると覚えておこう。
そういえば、“近所の猫”は鳴きもせず視線だけで会話してると思った事がある。だからわかるのかな?
(あれ? “近所”ってなに? 私はこの場所を初めて見るのに……さっきから知らない事が浮かんできて変……)
「……きおくを どこかへ、おとしちゃったの?」
男の子の言葉に、ビクッと震える――
(確かに、私が誰かわからない……)
「……だいじょうぶ……きっと、いつか おもいだせるよ」
男の子は、哀しげに微笑んで私の頭を撫でた。
どう見ても男の子の方が年上なのに、“自分より幼い男の子に気を使わせた”と、不思議となぜかそう思った――
優しい子だなぁ……こんなに傷だらけなのに、私の心配をしてくれるなんて――
私は未だ違和感のある短い手を伸ばし、その男の子の頬に触れた――
(いたいのいたいの、とんでけー!)
――すると、私の手のまわりが白くぼんやり光り、触れている男の子の全身を包むように光りが広がってみるみる傷が癒えていく――
(え!? 子供騙しな言葉だと思ったのに……なんで!?)
男の子は、目を見開き驚いているのかと思ったら、ふっと目を細めて微笑んだ――
「……やっぱり “めしあ”!」
男の子はそう言って私のそばを離れ、ガサゴソと物音を立てて何か探し始めた――
(“めしあ”?……私の名前?)
私はそう思いながら、その間に辺りを見回す――
見える範囲を改めて見ると、ここは“普通の家”ではなさそう――
入り口から光が差し込み、洞窟のような自然な岩壁が見える。私が寝てる場所も、少量の藁が敷かれて痛くはないけど、ベッドみたいな安定感はない。
「おまたせ」
男の子はそう言って汚れた絵本と、割れた鏡の破片を持って来て私に見せた。
絵本の表紙には、白銀の長い髪の幼いふたりの女の子が描かれていた。
ひとりは、サファイアのような青い瞳。もうひとりは、ルビーのような赤い瞳。
そして、鏡の破片には、白銀の髪と、サファイアのような青い瞳の可愛らしい赤ちゃん――
(え!? これがわたし!? 成長したら絵本の子そっくりになるんじゃ!?)
すごい他人行儀な感想を思った事に、やっぱり私は何か忘れてる?
絵本の表紙に書いてある英語の筆記体に似た字は、見覚えないのになぜか読める。
(【メシアとメシス】あ! メシアってさっき言ってた名前?)
「うん! “ひかりのかみ” めしあ」
(……え? 光の神!? 私って神なの!?)
驚愕して尋ねると、男の子はコクリと頷いた。
「ぼくのきずを なおしたから、まちがいないよ」
男の子は絵本のページを見せて微笑む――
見せてもらったページには、光の神メシアは【癒しの力】と【願いの力】が使える事が挿絵を使って描かれていた――
(読めるのは神の力のおかげ? ほんとに私、神なんだ……?)
いまいち実感が湧かなくて信じ難い。
それに、姿が似てるといえば、この男の子も白銀の髪に青い瞳。猫耳やしっぽは違うけど、なんだか似てる――
(あなたのお名前は?)
「……ない」
(え?……じゃあ、パパとママは?)
「……しんだ」
あ……私はこんな幼い子に、なんて事聞いちゃったんだと自己嫌悪する――
(つらいこと聞いてごめんね……)
私が、気まずい空気にあわあわしていると、男の子は私に気にさせない為なのか、全部話してくれた。
男の子は獣人と人間のハーフで、人間に近い見た目ゆえに、獣人からは半獣と差別される事――
獣人の暮らす街に行って見つかると「半獣はくるな!」と暴力をふるわれ、人間の街に行けば「獣人はくるな!」とやっぱり暴力をふるわれる事――
パパとママの結婚についてもそんな差別のせいで当然よく思われず、精神的に追い詰められ弱り、ママは男の子を産んで亡くなり、パパも最近亡くなったそうだ――
生きていく上での必要最低限なことを教えてもらったから平気と男の子は言うけど……こんな幼い子を殴るなんてあんまりだと、さっきの傷の意味や境遇に泣きそうになる――
(……名前、私に似てるからメシアのメシは?)
私は何とか話題を明るく……この子に、悲しい事を思い出させた罪滅ぼしじゃないけど、笑顔になって欲しかった。
「メシ? ごはんみたいで へん……」
(ちがう! メシ!……もう! じゃあメシアのシアね!)
私が頬を膨らませると、男の子は複雑そうな顔をした。
(ネーミングが単純すぎるのはわかってるもん! でも名前無いよりいいでしょ? シアが嫌ならメシだよ?)
私のその言葉が決定打になって「……シアでいい」と、シアは仕方なさそうに苦笑いした。
半ば強引というか、強制というか……なんか、ほんと申し訳なくなる――
けど、気を取り直して思えば、初めて出会ったシアは言わばお友達――
(これからよろしくね! しーちゃん!)
仲良くしたいからあだ名で呼び、にっこり笑うと、しーちゃんは顔を真っ赤にして照れた。
「し、“しーちゃん”って……」
(シアのあだ名だよ? 可愛いでしょ?)
私がそう思って笑うと、しーちゃんは顔を赤くして照れたまま、諦めたように溜息を吐いた――
――しーちゃんと暮らし始めて数日経った頃。
夜になって肌寒くなると、しーちゃんは毎晩獣化して“白銀の毛並みの青い瞳の子猫”になって、私を温めるようにそばで眠ってくれた――
食事に関しては、しーちゃんが私のミルクを手に入れる為に街に行ったのか、いつも怪我をして手ぶらで帰ってくる。その度に私は【癒しの力】で、しーちゃんの傷を治してあげた――
(……私のせいで、いつもごめんね)
すると、しーちゃんは首を横に振った。
「ぼくが まだこどもで よわいせい……ごめんね」
申し訳なさそうに言うしーちゃんに、私は力になれず申し訳なくなる。
ふと、私が寝てるそばを見ると、小石が転がっていた。
(頑張って手を伸ばせば届きそう!)
私はその小石を拾おうと、バタバタともがいた。それをしーちゃんが察して、小石を拾って渡してくれた。
(ありがとう……)
私がそう思いながら微笑むと、しーちゃんも微笑みつつ“そんな小石どうするの?”と言いたげに不思議そうに私を見る――
(しーちゃんは、しーちゃんを殴った人達みたいに、弱い者いじめするような子になっちゃダメだよ?)
殴られる痛みを知ってるからこそ、同じになって欲しくなかった。
(この小石はしーちゃんのお守り! きっと、しーちゃんを守ってくれるよ!)
その私の思いに反応するように、しーちゃんに手渡そうとした小石が白く光り、銀色の鈴に変わった――
(え!?)
何が起こったのかと呆気にとられた私に、しーちゃんは――
「……【ねがいのちから】だね……ありがとう……だいじにする! “よわいものいじめ”もしないよ」
嬉しそうに微笑んだしーちゃんは、今までで1番年相応で可愛かった――
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『――ミツケタ』
その声がどんな声だったか、聞いたそばからもう思い出せない――
暗い闇に呑まれるように、次第に息が出来なくなって、私は苦しさから逃れるように勢いよく目を開け――目を覚ました。
(――あ……ゆ……め?)
寝ぼけた視界に、心配そうに私をのぞき込む姿が映る――
白銀の髪に、猫のような耳、綺麗な青い瞳の幼い男の子だった。よく見ると、所々に殴られたような傷がある――
「うなされてた……だいじょうぶ?」
その5歳ぐらいの男の子が、私を心配してくれてる。
「あぅあうーあ!」
(あれ? 私よりあなたが大丈夫? って言いたかったのに喋れない……なんで?)
そう思った所で、体の違和感に気付く――
(え!? 手ちっちゃ! 足も! 赤ちゃんになってる!?)
「ぼくが そらをみあげてたら、きみが “そらからおりて”きたんだよ」
自分の姿を不思議がってる私を見つめ、男の子がそう言った。
(え!? 空!? 普通の人は、空飛べないよね!?)
どういう事なのか混乱する――
「……みつけたのが ぼくで ごめんね」
その男の子は、申し訳なさそうに哀しげに俯く。
(どうして、私を助けてくれたのに謝るの?)
「……だって、ぼく“じゅうじん”だし、こどもだし……」
(“獣人”?……って! 私が考えてる事わかるの!?)
男の子はコクリと黙って頷いた。
それも“獣人”だからなのかな?【獣人】がいる世界という事に“違和感”を感じる。でも、なんでだかわからない――
とりあえず、獣人は心の声がわかると覚えておこう。
そういえば、“近所の猫”は鳴きもせず視線だけで会話してると思った事がある。だからわかるのかな?
(あれ? “近所”ってなに? 私はこの場所を初めて見るのに……さっきから知らない事が浮かんできて変……)
「……きおくを どこかへ、おとしちゃったの?」
男の子の言葉に、ビクッと震える――
(確かに、私が誰かわからない……)
「……だいじょうぶ……きっと、いつか おもいだせるよ」
男の子は、哀しげに微笑んで私の頭を撫でた。
どう見ても男の子の方が年上なのに、“自分より幼い男の子に気を使わせた”と、不思議となぜかそう思った――
優しい子だなぁ……こんなに傷だらけなのに、私の心配をしてくれるなんて――
私は未だ違和感のある短い手を伸ばし、その男の子の頬に触れた――
(いたいのいたいの、とんでけー!)
――すると、私の手のまわりが白くぼんやり光り、触れている男の子の全身を包むように光りが広がってみるみる傷が癒えていく――
(え!? 子供騙しな言葉だと思ったのに……なんで!?)
男の子は、目を見開き驚いているのかと思ったら、ふっと目を細めて微笑んだ――
「……やっぱり “めしあ”!」
男の子はそう言って私のそばを離れ、ガサゴソと物音を立てて何か探し始めた――
(“めしあ”?……私の名前?)
私はそう思いながら、その間に辺りを見回す――
見える範囲を改めて見ると、ここは“普通の家”ではなさそう――
入り口から光が差し込み、洞窟のような自然な岩壁が見える。私が寝てる場所も、少量の藁が敷かれて痛くはないけど、ベッドみたいな安定感はない。
「おまたせ」
男の子はそう言って汚れた絵本と、割れた鏡の破片を持って来て私に見せた。
絵本の表紙には、白銀の長い髪の幼いふたりの女の子が描かれていた。
ひとりは、サファイアのような青い瞳。もうひとりは、ルビーのような赤い瞳。
そして、鏡の破片には、白銀の髪と、サファイアのような青い瞳の可愛らしい赤ちゃん――
(え!? これがわたし!? 成長したら絵本の子そっくりになるんじゃ!?)
すごい他人行儀な感想を思った事に、やっぱり私は何か忘れてる?
絵本の表紙に書いてある英語の筆記体に似た字は、見覚えないのになぜか読める。
(【メシアとメシス】あ! メシアってさっき言ってた名前?)
「うん! “ひかりのかみ” めしあ」
(……え? 光の神!? 私って神なの!?)
驚愕して尋ねると、男の子はコクリと頷いた。
「ぼくのきずを なおしたから、まちがいないよ」
男の子は絵本のページを見せて微笑む――
見せてもらったページには、光の神メシアは【癒しの力】と【願いの力】が使える事が挿絵を使って描かれていた――
(読めるのは神の力のおかげ? ほんとに私、神なんだ……?)
いまいち実感が湧かなくて信じ難い。
それに、姿が似てるといえば、この男の子も白銀の髪に青い瞳。猫耳やしっぽは違うけど、なんだか似てる――
(あなたのお名前は?)
「……ない」
(え?……じゃあ、パパとママは?)
「……しんだ」
あ……私はこんな幼い子に、なんて事聞いちゃったんだと自己嫌悪する――
(つらいこと聞いてごめんね……)
私が、気まずい空気にあわあわしていると、男の子は私に気にさせない為なのか、全部話してくれた。
男の子は獣人と人間のハーフで、人間に近い見た目ゆえに、獣人からは半獣と差別される事――
獣人の暮らす街に行って見つかると「半獣はくるな!」と暴力をふるわれ、人間の街に行けば「獣人はくるな!」とやっぱり暴力をふるわれる事――
パパとママの結婚についてもそんな差別のせいで当然よく思われず、精神的に追い詰められ弱り、ママは男の子を産んで亡くなり、パパも最近亡くなったそうだ――
生きていく上での必要最低限なことを教えてもらったから平気と男の子は言うけど……こんな幼い子を殴るなんてあんまりだと、さっきの傷の意味や境遇に泣きそうになる――
(……名前、私に似てるからメシアのメシは?)
私は何とか話題を明るく……この子に、悲しい事を思い出させた罪滅ぼしじゃないけど、笑顔になって欲しかった。
「メシ? ごはんみたいで へん……」
(ちがう! メシ!……もう! じゃあメシアのシアね!)
私が頬を膨らませると、男の子は複雑そうな顔をした。
(ネーミングが単純すぎるのはわかってるもん! でも名前無いよりいいでしょ? シアが嫌ならメシだよ?)
私のその言葉が決定打になって「……シアでいい」と、シアは仕方なさそうに苦笑いした。
半ば強引というか、強制というか……なんか、ほんと申し訳なくなる――
けど、気を取り直して思えば、初めて出会ったシアは言わばお友達――
(これからよろしくね! しーちゃん!)
仲良くしたいからあだ名で呼び、にっこり笑うと、しーちゃんは顔を真っ赤にして照れた。
「し、“しーちゃん”って……」
(シアのあだ名だよ? 可愛いでしょ?)
私がそう思って笑うと、しーちゃんは顔を赤くして照れたまま、諦めたように溜息を吐いた――
――しーちゃんと暮らし始めて数日経った頃。
夜になって肌寒くなると、しーちゃんは毎晩獣化して“白銀の毛並みの青い瞳の子猫”になって、私を温めるようにそばで眠ってくれた――
食事に関しては、しーちゃんが私のミルクを手に入れる為に街に行ったのか、いつも怪我をして手ぶらで帰ってくる。その度に私は【癒しの力】で、しーちゃんの傷を治してあげた――
(……私のせいで、いつもごめんね)
すると、しーちゃんは首を横に振った。
「ぼくが まだこどもで よわいせい……ごめんね」
申し訳なさそうに言うしーちゃんに、私は力になれず申し訳なくなる。
ふと、私が寝てるそばを見ると、小石が転がっていた。
(頑張って手を伸ばせば届きそう!)
私はその小石を拾おうと、バタバタともがいた。それをしーちゃんが察して、小石を拾って渡してくれた。
(ありがとう……)
私がそう思いながら微笑むと、しーちゃんも微笑みつつ“そんな小石どうするの?”と言いたげに不思議そうに私を見る――
(しーちゃんは、しーちゃんを殴った人達みたいに、弱い者いじめするような子になっちゃダメだよ?)
殴られる痛みを知ってるからこそ、同じになって欲しくなかった。
(この小石はしーちゃんのお守り! きっと、しーちゃんを守ってくれるよ!)
その私の思いに反応するように、しーちゃんに手渡そうとした小石が白く光り、銀色の鈴に変わった――
(え!?)
何が起こったのかと呆気にとられた私に、しーちゃんは――
「……【ねがいのちから】だね……ありがとう……だいじにする! “よわいものいじめ”もしないよ」
嬉しそうに微笑んだしーちゃんは、今までで1番年相応で可愛かった――
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