ソナチネ

透子

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第三章

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気付けばソファーで眠ってしまっていた。

目が覚めると、夫もちょうど目を覚ましていた。私は慌てて起き上がり、朝食を作る。

夫はまるで何もなかったかのように、新聞を読んでいる。

さくらが目を擦りながら起きてきた。さくらは昨日の夜眠っていて、何も知らない。

「おはよう。」

と、私と夫に挨拶するさくらを見て、胸が痛くなった。こんなお母さんでごめんね。

三人で朝食を食べ、夫とさくらは着替えて出て行こうとしていた。ふと夫が立ち止まり、「俺が帰って来るまでに言っておくんだぞ。」と言い残し、さくらと家を出て行った。

今の時間なら、まだ葵くんは家にいるかもしれない。

私はスマホを取り出し、葵くんの連絡先を探す。

全てを捨てる覚悟だった。けれど、私は呆気なく夫と義理の母の言うことを聞いて、葵くんに別れを告げる電話をしようとしている。なんて最低な女なのだろう。

スマホに表示される《葵くん》の文字を眺めているだけで、簡単に涙が流れてしまう程、まだ心は葵くんで溢れているというのに。



私は、涙を拭い、通話のボタンを押した。



数回のコール音で、葵くんが電話に出た。

私は深く息を吸い、

「あのね、葵くん、「三上さん、ごめんなさい。」

と、切り出したが、葵くんの言葉によって遮られた。

「え、葵くん…?どうしたの…?」

突然の葵くんからの謝罪に、私は戸惑う。

「俺…もう、三上さんに会えません…。」

電話の向こうから聞こえる葵くんの声は明らかに震えていた。泣いている。私は葵くんの異常をすぐに感じ取った。

「葵くん、何かあったの!?」

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…。」

私の問いかけに葵くんはひたすら謝罪を繰り返すばかりだった。

私はスマホを手に持ったまま、家を飛び出し、目の前の葵くんの部屋のチャイムを鳴らす。

「葵くん!何があったの!?葵くん!」

ドア越しに叫ぶが、中から応答はない。ドアノブに手をかけると、簡単にドアが開いた。

私は靴も脱がずに、部屋の中へと入る。

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