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第二章
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玄関を開ける。
「ママおかえりー!」
さくらが走って来る。この明るい声が疲れた体を癒してくれるのは、きっと一生変わらないだろう、と思う。
さくらと一緒にリビングへ入る。
「あら、お帰りなさい。今日はいつもより遅かったのね。」
そう言って私を見る義理の母の視線に全て見透かされてるような気がして、思わず目を逸らす。
「す、すみません、いつもよりお客さんが多くて…。」
キッチンのシンクで水に浸かるさくらの食器を横目に見ながら、冷蔵庫に食材を入れていく。少しだけ、手が震える。自分がしてしまったこと罪深さが今、押し寄せてくる。
葵くんとキスをした。
明確な言葉は何もなかった。だけど、二人の中には明確な気持ちがあった。
一瞬の出来事だけれど、その一瞬で何もかもが崩れ去る。お互いに分かっていた。それでも、後戻りは出来なかった。
「………………家に、帰ろう、お互いに。」
私は何事もなかったようにその場を立ち去ろうとした。自分でも、ずるい奴だと思う。
階段を昇ろうとする私の手を葵くんは掴んで、
「三上さんは、どういう気持ちでキスしたんですか?」
と、問いかけてきた。
私は何も言わなかった。
「俺は、三上さんが好きです。三上さんに家族がいることちゃんと分かってて、それでも、好きだから、キスしました。」
葵くんを、見る。綺麗な瞳は、真っ直ぐ私を見つめている。その瞳が、いつも私を弱くする。
「………どうなっても構わない、そう思ったの。」
私はそれだけ答えて、急いで家の中へ逃げ込んだ。
指先で、唇に触れる。一瞬だったけれど、ちゃんと覚えている。
「ただいまー。」
夫の声で、ハッと我に返る。
慌てて夫に駆け寄る。
「お帰りなさい。」
「ああ。」
相変わらず私の方を見ることはないけど、今はその方がよかった。もし今、夫と目が合っていたら私はどうなっていたか分からない。
いつもの日常。ありふれた幸せ。
これで、いいんだ。これ以上の幸せを望んだらきっとバチが当たる。戻るなら、今しかない。あの一瞬は、忘れるんだ。
「ママおかえりー!」
さくらが走って来る。この明るい声が疲れた体を癒してくれるのは、きっと一生変わらないだろう、と思う。
さくらと一緒にリビングへ入る。
「あら、お帰りなさい。今日はいつもより遅かったのね。」
そう言って私を見る義理の母の視線に全て見透かされてるような気がして、思わず目を逸らす。
「す、すみません、いつもよりお客さんが多くて…。」
キッチンのシンクで水に浸かるさくらの食器を横目に見ながら、冷蔵庫に食材を入れていく。少しだけ、手が震える。自分がしてしまったこと罪深さが今、押し寄せてくる。
葵くんとキスをした。
明確な言葉は何もなかった。だけど、二人の中には明確な気持ちがあった。
一瞬の出来事だけれど、その一瞬で何もかもが崩れ去る。お互いに分かっていた。それでも、後戻りは出来なかった。
「………………家に、帰ろう、お互いに。」
私は何事もなかったようにその場を立ち去ろうとした。自分でも、ずるい奴だと思う。
階段を昇ろうとする私の手を葵くんは掴んで、
「三上さんは、どういう気持ちでキスしたんですか?」
と、問いかけてきた。
私は何も言わなかった。
「俺は、三上さんが好きです。三上さんに家族がいることちゃんと分かってて、それでも、好きだから、キスしました。」
葵くんを、見る。綺麗な瞳は、真っ直ぐ私を見つめている。その瞳が、いつも私を弱くする。
「………どうなっても構わない、そう思ったの。」
私はそれだけ答えて、急いで家の中へ逃げ込んだ。
指先で、唇に触れる。一瞬だったけれど、ちゃんと覚えている。
「ただいまー。」
夫の声で、ハッと我に返る。
慌てて夫に駆け寄る。
「お帰りなさい。」
「ああ。」
相変わらず私の方を見ることはないけど、今はその方がよかった。もし今、夫と目が合っていたら私はどうなっていたか分からない。
いつもの日常。ありふれた幸せ。
これで、いいんだ。これ以上の幸せを望んだらきっとバチが当たる。戻るなら、今しかない。あの一瞬は、忘れるんだ。
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