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第一話 学校内でこっそりハグ(後編・放課後のハグ)

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 放課後。
 部活もしていなければ、一緒に遊ぶ友達もいない、家に帰っても慎吾しんごもいない。
 俺はいつも慎吾が帰ってくる頃まで、一人どこかで時間をつぶしていた。
 ゲーセンだったりディスカウントショップだったり、特に場所は決まっていない。
 
 今日はなぜか学校の屋上にいた。時々授業をさぼって昼寝しに来るところだ。寝るかスマホを眺める以外なにもすることがない。でも、なんとなく慎吾の近くにいたかった。

 ベンチも何もないガランとした屋上で、寝転がって空を見上げる。
(ホスト狂伝説はもう二度とやらん)
 不意に昨日のゲームを思い出して心に誓う。今日は俺の得意なゲームを選んで俺が罰ゲームをさせる番だ。
 そんなことを考えながら、ついうとうとしてしまった。


「俺が日直で良かったな」

 慎吾が覗き込む。
(日直……?)
 目を開けたら慎吾のアップが待ち構えているのは、いつもの朝の光景と同じだ。
「鍵が開いてるからおかしいと思ったよ」
(鍵………………?)
 慎吾は何を言ってるんだろう。
 視線の先を見るとそこにあるのは寝室のドアではなくて、学校の屋上にある金属製の扉。
 見上げれば、ここに来た時は真っ青だった空も、半分をオレンジ色に残して紫から紺へと変わっていた。

「あっっっぶね、締め出されるとこだった」
 慌てて上半身を起こす。後ろ髪が寝癖ではねていた。
 それを見た慎吾が、あきれたように小さくため息をつく。
「なんでこんなとこで寝てるんだ。早く帰れよ」
「……わかってるよ!」
 両手で頭をかきむしって立ち上がると、横に放ってあった鞄を拾い上げた。
 二人一緒に屋上を後にする。


「…………」
 校舎の戸締りが日直の最後の仕事なら、このまま慎吾も一緒に帰ればいいのに。
 階段を下りながらそう思ったが口にはしない。
 もう誰も残っていないだろう静まり返った校舎に、二人の足音だけが響いていた。

 どういう順番で戸締りしていたのかは知らないが、慎吾はそのまま昇降口までついてくる。見送ってくれるのだろうか。自分のクラスの下駄箱までいくと、一足だけ残っていた革靴を手に取った。
しゅん、もういっかい罰ゲームいい?」
「え?」
 どういうこと?と聞き返す暇も与えず、慎吾が俺にハグしてきた。左手に鞄、右手に靴を持った状態で両腕ごと抱きかかえられて、何も出来ない。

 日が暮れかけてうっすらと暗くなった校舎。
 誰もいない昇降口。

 ガラス扉から伸びるオレンジの光を、下駄箱が遮って二人に影を落としていた。
 それはとても長く感じたけど、多分ほんの一瞬のこと。

 すっと身体が離れたかと思うと、今度は慎吾の顔が近づいてきた。
 軽く見つめ合う。
 目を閉じれば唇が近づくことは分かっていた。
(誰もいないし…… まあいいか……)
 
 昇降口の、一番隅の下駄箱の陰で、二人の舌が絡む。
 小さな音をたてて、何度も互いに吸いつくように顔を近づけた。
 そのたびに分け入った慎吾の舌が、俺の舌を弄び、口内を舐める。
「ん……」

 人がいないとはいえ学校だ。
 なのになぜだかいつもよりキスが激しい。

 唇の隙間から漏れた音が、しんとした校舎の壁に跳ね返って響く。
 背徳感にゾクッとして、少し息が荒くなった……

「ちょっと待って、いつまでしてんだよ」
 耐えられなくなって口を開いた。
「まだ、もうちょっと」
「いや、ほら、監視カメラはないとは思うけど、いちおう学校じゃん?」
 大げさにきょろきょろと天井あたりを見回して見せる。
「うん。ちょっと興奮するね」
 いやまあ、その通りなんだけど。
「あんまり長くくっついてると、さすがにやばくね?」
 適当に理由をつけて身体を引く。
「誰もいないよ?」
 いやほんと、その通りなんだけどさ。これ以上キスするのはちょっとやばいんだって。
 ぐいぐい来る慎吾を避けるように、身体をひねる。
 
 なにか見透かしたように、慎吾は強引に俺を引き寄せて、また口づけてきた。
 わざとなのか、さっきより激しく何度も舌を舐めては唇に吸いつき、歯が当たっても構わずに生温かい舌を押し付けながら、俺の股間に手を……

「キスだけでってんの?」

 唇をほとんどくっつけた状態で慎吾がつぶやいた。フッとわずかにかかる吐息で笑っているのがわかる。
「うっ…… るせえ!」
 近すぎて顔は見えてないことを祈るけど、一瞬で自分の頬が真っ赤に火照るのを感じた。
 キスだけでガチガチに勃起してしまったことも、それを悟られてしまったことも、めちゃくちゃに恥ずかしい。

 慎吾はこっちにお構いなしで、固くなった俺の股間をズボンの上からまさぐってくる。溢れた我慢汁がパンツを濡らして冷たくなっていた。このままではそれも慎吾にバレそうな気がして、慌てて腰を引いた。

「嫌なの?」
 尋ねる声はさっきと違って真面目だ。俺が本気で嫌がったらきっと手を出すのをやめるのだろう。
 ……嫌なわけがない。
「気持ちよすぎるだけだ」
 フフッ。今度は鼻で笑ったのがちゃんと聞こえた。
「そう」
 それはよかった、と言わんばかりに慎吾が俺の唇に噛みつく。右手は激しく俺の股間を揉みながら、舌は唇を割って上顎をなぞった。

「ん、んっ……」
 あまりの気持ちよさに声が漏れる。校舎に響いた自分の声の大きさに驚いた。
 慎吾の舌は俺の上顎を何度も擦り続けてくる。俺がそこを舐められるたび少し震えてしまうのを知っているのか。
 腰のあたりがぞわぞわして我慢汁が溢れた。もう我慢できないほどに息が荒かった。

「あっ…… あ、あっ」
 出てしまう声を封じるように、また慎吾の唇が俺の唇を塞ぐ。
「んんんっ!!!」
 激しい吐息まじりに上顎を舐められながら、我慢汁でヌルヌルと濡れたパンツごと扱かれて、もう射精寸前だった。

 そんな状態なのに、慎吾はまだ気持ちいいキスを続けてくる。
 先っぽがグチュグチュとパンツの中で音をたてる。

 だめだ…… もう……

「慎吾…… やめ…… もう……」
 無理矢理顔を背けて抵抗する。声が吐息混じりになってしまった。
「なに? 気持ちよくなってきちゃった?」
 慎吾の右手が亀頭をぐりぐりと弄び、吐息をふさぐように舌が侵入する。
 舌が上顎をなぞりながら右手が根元を扱いた時、腰の底から湧き上がるそれを止めることは出来なかった。
 慎吾の手に押し付けるように、腰が動く。

 ドクンと大きく脈を打って、先端から精液が零れた。

「んっ! んっ! ん……」
 唇をくっつけたまま、全身が痙攣するように数回大きく震えた。それに合わせて何度も溢れた精液がぴちゃぴちゃとパンツの中で性器に絡む。

 頭の中が真っ白で何も考えられなかった。

 察した慎吾が、俺が落ち着くまで優しく扱き続けると、そっと唇を離す。
 俺は慌てて大きく息を吸い込んだ。酸欠になるかと思った。

「隼、おまえ…… かわいすぎるだろ」 
 どちらかというとキョトンとした顔で慎吾が俺を覗きこんでいたが、そんな表情を確認している余裕は俺にはなかった。
「はぁ…… っ、うるせえっっ! んっ、……帰る!」
 息苦しいながらもなんとかそれだけ伝えると、俺は普段肩に掛けて背負う鞄を前に抱えるように持ち、バタンと大きな音を立てて革靴を床に落として大急ぎでそれをつっかけると、うつむいたままその場から逃げるように昇降口を出た。

 いや、出ようとしたが慎吾に腕をつかまれてしまった。
「隼、帰ったら罰ゲームの続きをしよう」

 はぁあああああ?!
 これだけの辱めを受けながらまだ続くのか?!
 事は終わったのにまだパンツ濡れてるんだぞ?!
 このまま帰るんだぞ?!!
「ふざけんなバカ」
 口に出せたのは最後のひとことだけだったが、慎吾には全部お見通しだったのだろう。
「ごめんごめん、罰ゲームはもう充分だったな」

 そう言って笑いながら慎吾は掴んでいた右手を放し、その手で肩からずり落ちかけていた俺の鞄のストラップを掛けなおす。そしてそのままポンと肩を叩いた。
「帰ったら俺の一日の疲れを癒させてくれ」
 俺はもうスッキリしたから一人でなんとかしろ。とは口に出さない。
 それも察した慎吾が続ける。
「すまん、おまえじゃなきゃだめなんだ、付き合ってくれ」
「…………しょうがねえな」

 ナニをさせられるのかは分からない。もしかすると罰ゲームよりさらに恥ずかしい目に遭わされるかもしれない。

(まあ、いいや)
 この、俺のことが好きで好きでしょうがない変態教師を癒すことが出来るのは、俺だけなんだ。

 俺が、必要なんだ。

「いくらでも充電してやるから、早く帰ってこいよ」
 目も合わさずにそれだけ言い捨てると、俺は昇降口を出た。
 慎吾がそのとき笑っていたのか、手を振っていたのか、『またあとでな』とか何か言っていたのかは、見ていないからわからない。全部だったわけだが。


 俺はまっすぐ家へと向かった。
 もちろん慎吾の家だ。

 パンツはまだ濡れていたが、さすがにズボンの外までは染みないだろう。家に着く頃にはある程度乾くだろうから、慎吾が帰ってくる前に洗濯機にぶち込めばいい。
 
 夕暮れの道を行くその白い制服のシャツの背中は、いつも通りの俺だったが、
 少しだけなぜか誇らしげで、少しだけガニ股だった。

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