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第一話 学校内でこっそりハグ(前編・ことの始まり)
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カサッ。
小さくくしゃっと丸められたプリントが、ゴミ箱の中に落ちる。
いつものこと。保護者宛ての手紙だ。俺には必要ない。
明日には必要のない教科書やノートも、鞄から引きずり出して机の片隅に放り投げた。
あれも、これも、必要ない。
「飯、出来たぞ」
食器の重なる音と慎吾の声が、扉の向こうから聞こえた。
ここは慎吾の家だ。
俺に手を焼いた両親が地元から離れた学校へ進学させ、通学のためと親戚の家に預けられ、俺のことなど引き取りたくなかった叔父や叔母から逃げるようにしてここへ転がり込んだのが、ちょうど一年前。
慎吾も生活指導教員である職権を乱用して、なかば学校公認で同居中。
……いや、同棲中だ。
「隼は何がいい?」
コロッケの乗った皿を俺の前に置きながら、慎吾が言う。惣菜を温めただけのやつだが、横には野菜も添えられていた。
『何がいい?』は飯のことではない。食後にやるゲームのことだ。
「ナルファイも飽きたしなぁ」
ナルシストファイターズは、慎吾の好きなイケメンしか出ない対戦格闘ゲーム。俺に似た金髪キャラを慎吾が使いこんでいて、まず勝てない。
何にしようか新しい候補を考えながら、コロッケにソースをかけた。
「じゃあこれ」
妙に嬉しそうに眼鏡の奥の目を細めて、慎吾がテーブルの下から小さな箱を取り出す。
『ホスト狂伝説・令和版』
箱にはイケメンキャラとともにそう書かれていた。
すごろく形式で日本中を駆け巡り各地のご当地イケメンをゲットして育て、ホストにしてクラブを経営するいかにも慎吾の好きそうなゲームだ。
「令和版? 新しいの出てたのかよ」
「今日発売だ」
晩飯の後にゲーム大会をするのが、俺たちの日課だった。
そういえば最初は二人でいても間が持たなくて始めたんだったっけ……
ゲームを始めて一時間半、慎吾が嬉しそうな顔をしていた理由がよーくわかった。
「やることがきたねえ!!!」
相手にどれだけ嫌がらせ出来るかが勝敗の鍵になるゲームだった。完敗だ。俺はコントローラーを慎吾に向かって投げつけた。慎吾はそれを手で受け取って爽やかに言う。
「よーし、じゃあ隼が罰ゲームな」
「好きにしろ! 受けて立つ!」
負けた方が罰ゲーム。なんでも勝った方の言うことを聞く。
それがゲーム大会のルールだった。
いつからか内容がHで過激なものばかりになっていったが……
「んー、じゃあ、こっそりハグ」
「えっ」
慎吾の要求が、あまりに簡単な内容で拍子抜けした。
「明日、学校で」
「!!!」
家ではいちゃいちゃするのも当たり前になってきたけど、俺たちが付き合っていることは学校では内緒だった。校内ですれ違っても一切そういうそぶりを見せるどころか会話も無い。
というのも俺自身が『不良の一匹狼』で通っているわけで、まさか男性教師とそんな仲、しかも俺が入れられる方だなんて絶対誰にも知られたくない。
そしてちょっとMっ気があって、えっちな罰ゲームもよろこんで受けているなんて事実は絶対に誰にも知られてはいけない。
「罰ゲームなんだから、おまえに拒否する権利はないよ?」
「はい」
時々やさしい顔で怖いことを言う。
まあそんなわけで罰ゲームは確定した。
俺は明日、学校で、慎吾とこっそりハグをしなければならない。
小さくくしゃっと丸められたプリントが、ゴミ箱の中に落ちる。
いつものこと。保護者宛ての手紙だ。俺には必要ない。
明日には必要のない教科書やノートも、鞄から引きずり出して机の片隅に放り投げた。
あれも、これも、必要ない。
「飯、出来たぞ」
食器の重なる音と慎吾の声が、扉の向こうから聞こえた。
ここは慎吾の家だ。
俺に手を焼いた両親が地元から離れた学校へ進学させ、通学のためと親戚の家に預けられ、俺のことなど引き取りたくなかった叔父や叔母から逃げるようにしてここへ転がり込んだのが、ちょうど一年前。
慎吾も生活指導教員である職権を乱用して、なかば学校公認で同居中。
……いや、同棲中だ。
「隼は何がいい?」
コロッケの乗った皿を俺の前に置きながら、慎吾が言う。惣菜を温めただけのやつだが、横には野菜も添えられていた。
『何がいい?』は飯のことではない。食後にやるゲームのことだ。
「ナルファイも飽きたしなぁ」
ナルシストファイターズは、慎吾の好きなイケメンしか出ない対戦格闘ゲーム。俺に似た金髪キャラを慎吾が使いこんでいて、まず勝てない。
何にしようか新しい候補を考えながら、コロッケにソースをかけた。
「じゃあこれ」
妙に嬉しそうに眼鏡の奥の目を細めて、慎吾がテーブルの下から小さな箱を取り出す。
『ホスト狂伝説・令和版』
箱にはイケメンキャラとともにそう書かれていた。
すごろく形式で日本中を駆け巡り各地のご当地イケメンをゲットして育て、ホストにしてクラブを経営するいかにも慎吾の好きそうなゲームだ。
「令和版? 新しいの出てたのかよ」
「今日発売だ」
晩飯の後にゲーム大会をするのが、俺たちの日課だった。
そういえば最初は二人でいても間が持たなくて始めたんだったっけ……
ゲームを始めて一時間半、慎吾が嬉しそうな顔をしていた理由がよーくわかった。
「やることがきたねえ!!!」
相手にどれだけ嫌がらせ出来るかが勝敗の鍵になるゲームだった。完敗だ。俺はコントローラーを慎吾に向かって投げつけた。慎吾はそれを手で受け取って爽やかに言う。
「よーし、じゃあ隼が罰ゲームな」
「好きにしろ! 受けて立つ!」
負けた方が罰ゲーム。なんでも勝った方の言うことを聞く。
それがゲーム大会のルールだった。
いつからか内容がHで過激なものばかりになっていったが……
「んー、じゃあ、こっそりハグ」
「えっ」
慎吾の要求が、あまりに簡単な内容で拍子抜けした。
「明日、学校で」
「!!!」
家ではいちゃいちゃするのも当たり前になってきたけど、俺たちが付き合っていることは学校では内緒だった。校内ですれ違っても一切そういうそぶりを見せるどころか会話も無い。
というのも俺自身が『不良の一匹狼』で通っているわけで、まさか男性教師とそんな仲、しかも俺が入れられる方だなんて絶対誰にも知られたくない。
そしてちょっとMっ気があって、えっちな罰ゲームもよろこんで受けているなんて事実は絶対に誰にも知られてはいけない。
「罰ゲームなんだから、おまえに拒否する権利はないよ?」
「はい」
時々やさしい顔で怖いことを言う。
まあそんなわけで罰ゲームは確定した。
俺は明日、学校で、慎吾とこっそりハグをしなければならない。
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