1 / 18
1
しおりを挟む
コンビニのバイトは1ヶ月と続かなかった。
「オマエには責任感も勤労意欲もまったく無い!」
なんて、ショーゴにクドクド言われるまでもなく、責任感が足りないことは自分でもちゃんと解ってる。
でも言わせてもらえば、勤労意欲くらい、柊一にだってちゃんとあるのだ。
それがコンビニのバイトで上手く発揮できなかっただけのこと。
そうは言ってもこんな不平等な世の中で、ろくな学歴もなければ職歴もなく、もちろん親のコネなどカケラも持ち合わせない自分には、職の向き不向きなんて言う余地もないのだ。
柊一は、薄い掛け布団をひっぱりあげた。
2月の冷え切った空気が肩の辺りをスースーと通り抜け、オンボロアパートの壁の薄さを痛感する。
柊一は、くしゃみをひとつ炸裂させ、布団の中で海老のように丸まった。
するとなにかぬくぬくと温かいものが、柊一の筋張った足の先に触れたのだ。
それは、どうやら生き物らしかった。
そいつの方からモゾモゾと、柊一の足に擦り寄ってきた。
そして柊一の足の匂いを嗅いでいるらしく、軽い息が足指をくすぐるので、柊一は驚く以上に、笑いそうになってしまった。
大きさからして、ネズミとかネコじゃないらしい。
じゃあ、犬か?
この安普請のボロアパートなら、野良犬が入り込んできても不思議はないが。
ヘタに動いて噛みつかれでもしたらイヤだと思い、ジッと様子をうかがっていると、人懐っこい野良犬(?)は匂いに満足したらしく、そのまませんべい布団の中を行軍してきて、柊一の顔もとにポッカリと浮かび上がった。
驚いたことに現れたのは、人間の子供の顔だった。
濃い睫毛に縁取られたアーモンド型の眸が、まっすぐに柊一を見つめている。
褐色の肌に、くっきりした眉、ちんまりした鼻、ぷっくりした唇。それに薔薇色の頬を備えた、幼い子供の顔。
しかしその頭には、人間にはありえない毛むくじゃらの耳が2つ、髪の毛の間から半円形に突き出ていた。
顔の両側には、ちゃんと人間の耳が2つ付いているのに、頭のてっぺんに、もう2つ余分な耳が付いているのだ。
柊一は半分眠った思考で、その不可思議な顔を見つめ返した。
が、すぐに考えるのが面倒くさくなってしまった。
まったく意味不明だったが、とりあえず子供の顔は可愛かったし、すり寄ってきた身体はぬくぬくと温かかった。
しかもこの子供ときたら、なんだかとてもいい匂いがしたのだ。
嗅いでいると、無性に嬉しくなって、しかも安心するような匂い。
害になるようなことは何もなさそうだった。
だから柊一は、すり寄ってきた小さな身体をアンカ代わりに抱きしめて、惰眠の続きを貪り続けることにした。
「オマエには責任感も勤労意欲もまったく無い!」
なんて、ショーゴにクドクド言われるまでもなく、責任感が足りないことは自分でもちゃんと解ってる。
でも言わせてもらえば、勤労意欲くらい、柊一にだってちゃんとあるのだ。
それがコンビニのバイトで上手く発揮できなかっただけのこと。
そうは言ってもこんな不平等な世の中で、ろくな学歴もなければ職歴もなく、もちろん親のコネなどカケラも持ち合わせない自分には、職の向き不向きなんて言う余地もないのだ。
柊一は、薄い掛け布団をひっぱりあげた。
2月の冷え切った空気が肩の辺りをスースーと通り抜け、オンボロアパートの壁の薄さを痛感する。
柊一は、くしゃみをひとつ炸裂させ、布団の中で海老のように丸まった。
するとなにかぬくぬくと温かいものが、柊一の筋張った足の先に触れたのだ。
それは、どうやら生き物らしかった。
そいつの方からモゾモゾと、柊一の足に擦り寄ってきた。
そして柊一の足の匂いを嗅いでいるらしく、軽い息が足指をくすぐるので、柊一は驚く以上に、笑いそうになってしまった。
大きさからして、ネズミとかネコじゃないらしい。
じゃあ、犬か?
この安普請のボロアパートなら、野良犬が入り込んできても不思議はないが。
ヘタに動いて噛みつかれでもしたらイヤだと思い、ジッと様子をうかがっていると、人懐っこい野良犬(?)は匂いに満足したらしく、そのまませんべい布団の中を行軍してきて、柊一の顔もとにポッカリと浮かび上がった。
驚いたことに現れたのは、人間の子供の顔だった。
濃い睫毛に縁取られたアーモンド型の眸が、まっすぐに柊一を見つめている。
褐色の肌に、くっきりした眉、ちんまりした鼻、ぷっくりした唇。それに薔薇色の頬を備えた、幼い子供の顔。
しかしその頭には、人間にはありえない毛むくじゃらの耳が2つ、髪の毛の間から半円形に突き出ていた。
顔の両側には、ちゃんと人間の耳が2つ付いているのに、頭のてっぺんに、もう2つ余分な耳が付いているのだ。
柊一は半分眠った思考で、その不可思議な顔を見つめ返した。
が、すぐに考えるのが面倒くさくなってしまった。
まったく意味不明だったが、とりあえず子供の顔は可愛かったし、すり寄ってきた身体はぬくぬくと温かかった。
しかもこの子供ときたら、なんだかとてもいい匂いがしたのだ。
嗅いでいると、無性に嬉しくなって、しかも安心するような匂い。
害になるようなことは何もなさそうだった。
だから柊一は、すり寄ってきた小さな身体をアンカ代わりに抱きしめて、惰眠の続きを貪り続けることにした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ハバナイスデイズ!!~きっと完璧には勝てない~
415
キャラ文芸
「ゆりかごから墓場まで。この世にあるものなんでもござれの『岩戸屋』店主、平坂ナギヨシです。冷やかしですか?それとも……ご依頼でしょうか?」
普遍と異変が交差する混沌都市『露希』 。
何でも屋『岩戸屋』を構える三十路の男、平坂ナギヨシは、武市ケンスケ、ニィナと今日も奔走する。
死にたがりの男が織り成すドタバタバトルコメディ。素敵な日々が今始まる……かもしれない。
猫又の恩返し~猫屋敷の料理番~
三園 七詩
キャラ文芸
子猫が轢かれそうになっているところを助けた充(みつる)、そのせいでバイトの面接に遅刻してしまった。
頼みの綱のバイトの目処がたたずに途方にくれていると助けた子猫がアパートに通うようになる。
そのうちにアパートも追い出され途方にくれていると子猫の飼い主らしきおじいさんに家で働かないかと声をかけられた。
もう家も仕事もない充は二つ返事で了承するが……屋敷に行ってみると何か様子がおかしな事に……
毎日記念日小説
百々 五十六
キャラ文芸
うちのクラスには『雑談部屋』がある。
窓側後方6つの机くらいのスペースにある。
クラスメイトならだれでも入っていい部屋、ただ一つだけルールがある。
それは、中にいる人で必ず雑談をしなければならない。
話題は天の声から伝えられる。
外から見られることはない。
そしてなぜか、毎回自分が入るタイミングで他の誰かも入ってきて話が始まる。だから誰と話すかを選ぶことはできない。
それがはまってクラスでは暇なときに雑談部屋に入ることが流行っている。
そこでは、日々様々な雑談が繰り広げられている。
その内容を面白おかしく伝える小説である。
基本立ち話ならぬすわり話で動きはないが、面白い会話の応酬となっている。
何気ない日常の今日が、実は何かにとっては特別な日。
記念日を小説という形でお祝いする。記念日だから再注目しよう!をコンセプトに小説を書いています。
毎日が記念日!!
毎日何かしらの記念日がある。それを題材に毎日短編を書いていきます。
題材に沿っているとは限りません。
ただ、祝いの気持ちはあります。
記念日って面白いんですよ。
貴方も、もっと記念日に詳しくなりません?
一人でも多くの人に記念日に興味を持ってもらうための小説です。
※この作品はフィクションです。作品内に登場する人物や団体は実際の人物や団体とは一切関係はございません。作品内で語られている事実は、現実と異なる可能性がございます…
『元』魔法少女デガラシ
SoftCareer
キャラ文芸
ごく普通のサラリーマン、田中良男の元にある日、昔魔法少女だったと言うかえでが転がり込んで来た。彼女は自分が魔法少女チームのマジノ・リベルテを卒業したマジノ・ダンケルクだと主張し、自分が失ってしまった大切な何かを探すのを手伝ってほしいと田中に頼んだ。最初は彼女を疑っていた田中であったが、子供の時からリベルテの信者だった事もあって、かえでと意気投合し、彼女を魔法少女のデガラシと呼び、その大切なもの探しを手伝う事となった。
そして、まずはリベルテの昔の仲間に会おうとするのですが・・・・・・はたして探し物は見つかるのか?
卒業した魔法少女達のアフターストーリーです。
魔法少女☆優希♡レジイナ♪
蓮實長治
キャラ文芸
九州は阿蘇に住む田中優希は魔法少女である!!
彼女に魔法の力を与えたスーちゃんは中生代から来た獣脚類の妖怪である!!(妖精かも知れないが似たようなモノだ)
田中優希は肉食恐竜「ガジくん」に変身し、人類との共存を目論む悪のレプタリアンと、父親が育てている褐牛(あかうし)を頭からガジガジと貪り食うのだ!!
←えっ??
刮目せよ!! 暴君(T-REX)をも超えし女王(レジイナ)が築く屍山血河に!!
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります)
【台本置き場】珠姫が紡(つむ)ぐ物語
珠姫
キャラ文芸
セリフ初心者の、珠姫が書いた声劇台本ばっかり載せております。
裏劇で使用する際は、報告などは要りません。
一人称・語尾改変は大丈夫です。
少しであればアドリブ改変なども大丈夫ですが、世界観が崩れるような大まかなセリフ改変は、しないで下さい。
著作権(ちょさくけん)フリーですが、自作しました!!などの扱いは厳禁(げんきん)です!!!
あくまで珠姫が書いたものを、配信や個人的にセリフ練習などで使ってほしい為です。
配信でご使用される場合は、もしよろしければ【Twitter@tamahime_1124】に、ご一報ください。
ライブ履歴など音源が残る場合なども同様です。
覗きに行かせて頂きたいと思っております。
特に規約(きやく)はあるようで無いものですが、例えば舞台など…劇の公演(有料)で使いたい場合や、配信での高額の収益(配信者にリアルマネー5000円くらいのバック)が出た場合は、少しご相談いただけますと幸いです。
無断での商用利用(しょうようりよう)は固くお断りいたします。
何卒よろしくお願い申し上げます!!
ダグラス君
坂田火魯志
キャラ文芸
海上自衛隊厚木基地に赴任した勝手は何と当直の時に厚木基地にあるマッカーサーの銅像の訪問を受けた、この銅像は厚木にいる自衛官達の間で話題になって。実際に厚木でこうしたお話はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる