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冷たい床の感触を感じてすぐに起き上がろうとする。が、力任せに押さえられて起き上がれない。
「くそっ、おい静かにしろよ!お前が言う事聞かねーからだろ!」
ばしんと頬を叩かれる。痛みなんかより恐怖の方が強い。激しく足をばたつかせる。
「いやだってば!どいてよ!変態!」
「だから黙れって言ってんだろ!」
持っていたカッターの刃先が首筋に宛がわれる。金属の冷たさを肌で感じ、恐怖で動けなくなる。元彼はあせるように私の服に手をかけ始めた。びりびりと上半身の衣服がカッターで裂かれていく。
「いや……」
生暖かい手が全身を這っていき、凄絶な気持ちの悪さに身震いする。声も出せない。声を出したら刺すと言われた。
やだやだ。なんでこんな目にあうの。元彼なんかに犯されたくない。気持ち悪い。
だれか、助けて……!
脳裏に年下の彼の事が思い浮かんだ。それと同時に、ポケットに同僚がくれた防犯ブザーの事を思い出し、急いで取り出して元彼の耳元で思いっきり鳴らした。
ピーッと大音量の音が響き渡る。元彼が至近距離での大音量に耳を押さえて怯むと同時に、扉が勢いよく開いた。
「ぐああ耳がぁ、ぎゃあ!!」
一瞬で自分の上に覆いかぶさっていた元彼はいなくなっていた。吹っ飛んだのか向こうの方で大きな衝撃音を立てている。誰かが来てくれたと、恐る恐る顔を上げると、そこには意中の人が立っていた。
「な、なんなんだお前は!よくも俺にっ」
元彼は吹っ飛ばされながらもすぐに起き上がり、カッターを突き付けて特攻する。が、彼はそれを意に介さず、避けながら元彼の顔面に蹴りを見舞った。
「ぐ、はああっ!」
元彼はあっけなく壁際に吹っ飛んでもんどりうっている。
「オレの最愛に恐怖を与えて傷つけた代償は高くつく。半殺しは確定」
凄まじい殺気を孕ませながら呟いた。元彼は鼻血を出しながら彼のただならぬ雰囲気に怯えて逃げようとするが、ひっ捕まえられて攻撃を無防備に受けている。たった数発で元彼の顔面は変形していた。
容赦ない……と、逆にこちらが彼にゾッとしたけど、助けてくれたのでその場で脱力した。
「直……」
私の呼びかけにハッとして、彼はすぐに駆け寄ってきた。今まで我を失っていたのかもしれない。
「甲斐……ごめん。すぐに駆けつけられなくて」
「妹と会ってたの?」
単刀直入に無意識に質問が口から出ていた。
聞きたくない。妹と会っていたなんて。
「あっていた」
「……っ、そう」
やっぱりデートで……
「仕事中にも関わらず邪魔してくるし、オレの社の玄関前で待ち伏せされたから、二度とそんな真似させないようにシメてきたんだ」
「え……」
「両親も同伴でうざくてかなわなかった。だから遠くへ飛ばした。これでもう甲斐は妹や両親に対して迷惑する事もなくなるだろうし一安心だよ」
「あの……遠くへ飛ばしたってどういう事?」
「それは……知らない方がいいな。甲斐は優しいから」
直は目を伏せながら苦笑して、詮索しないようにと言う。
「まあ、とにかく……バカな妹は長年甲斐に酷い事をし続けてきた。この男をそそのかして甲斐からオレを横取りするのと、甲斐に自信をなくさせるのも目的だった。そんなクズな妹と甲斐を蔑にしてきた両親を、甲斐が許してもオレは許せない。あんな奴ら家族でもなんでもないよ。小さい頃から妹ばかりを優先させるような奴らにもう甲斐を置いておけないから」
そっと直が私の手をとり、口づける。
「今度こそ甲斐をもらうな。これからはオレと家族になろう」
「直……!」
「オレの両親も甲斐が嫁に来てくれるのを待ってる。孤独にさせないし、オレが守るから。生まれ変わっても……見つける。そして、今度こそ幸せにする……。それがやっと叶うんだからな」
「くそっ、おい静かにしろよ!お前が言う事聞かねーからだろ!」
ばしんと頬を叩かれる。痛みなんかより恐怖の方が強い。激しく足をばたつかせる。
「いやだってば!どいてよ!変態!」
「だから黙れって言ってんだろ!」
持っていたカッターの刃先が首筋に宛がわれる。金属の冷たさを肌で感じ、恐怖で動けなくなる。元彼はあせるように私の服に手をかけ始めた。びりびりと上半身の衣服がカッターで裂かれていく。
「いや……」
生暖かい手が全身を這っていき、凄絶な気持ちの悪さに身震いする。声も出せない。声を出したら刺すと言われた。
やだやだ。なんでこんな目にあうの。元彼なんかに犯されたくない。気持ち悪い。
だれか、助けて……!
脳裏に年下の彼の事が思い浮かんだ。それと同時に、ポケットに同僚がくれた防犯ブザーの事を思い出し、急いで取り出して元彼の耳元で思いっきり鳴らした。
ピーッと大音量の音が響き渡る。元彼が至近距離での大音量に耳を押さえて怯むと同時に、扉が勢いよく開いた。
「ぐああ耳がぁ、ぎゃあ!!」
一瞬で自分の上に覆いかぶさっていた元彼はいなくなっていた。吹っ飛んだのか向こうの方で大きな衝撃音を立てている。誰かが来てくれたと、恐る恐る顔を上げると、そこには意中の人が立っていた。
「な、なんなんだお前は!よくも俺にっ」
元彼は吹っ飛ばされながらもすぐに起き上がり、カッターを突き付けて特攻する。が、彼はそれを意に介さず、避けながら元彼の顔面に蹴りを見舞った。
「ぐ、はああっ!」
元彼はあっけなく壁際に吹っ飛んでもんどりうっている。
「オレの最愛に恐怖を与えて傷つけた代償は高くつく。半殺しは確定」
凄まじい殺気を孕ませながら呟いた。元彼は鼻血を出しながら彼のただならぬ雰囲気に怯えて逃げようとするが、ひっ捕まえられて攻撃を無防備に受けている。たった数発で元彼の顔面は変形していた。
容赦ない……と、逆にこちらが彼にゾッとしたけど、助けてくれたのでその場で脱力した。
「直……」
私の呼びかけにハッとして、彼はすぐに駆け寄ってきた。今まで我を失っていたのかもしれない。
「甲斐……ごめん。すぐに駆けつけられなくて」
「妹と会ってたの?」
単刀直入に無意識に質問が口から出ていた。
聞きたくない。妹と会っていたなんて。
「あっていた」
「……っ、そう」
やっぱりデートで……
「仕事中にも関わらず邪魔してくるし、オレの社の玄関前で待ち伏せされたから、二度とそんな真似させないようにシメてきたんだ」
「え……」
「両親も同伴でうざくてかなわなかった。だから遠くへ飛ばした。これでもう甲斐は妹や両親に対して迷惑する事もなくなるだろうし一安心だよ」
「あの……遠くへ飛ばしたってどういう事?」
「それは……知らない方がいいな。甲斐は優しいから」
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そっと直が私の手をとり、口づける。
「今度こそ甲斐をもらうな。これからはオレと家族になろう」
「直……!」
「オレの両親も甲斐が嫁に来てくれるのを待ってる。孤独にさせないし、オレが守るから。生まれ変わっても……見つける。そして、今度こそ幸せにする……。それがやっと叶うんだからな」
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