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「あの……直君てどういった仕事を……?」
「あら、メール等のやり取りで知らなかった?私も最近知ってびっくりしたんだけど、いつの間にか有名なIT企業の社長と知り合いになっちゃってて、そのIT企業王の援助で独立。ホテル王やら不動産王やらとも知り合いになって、今じゃ世界的に有名経営者でもあり実業家の名を連ねちゃってるのよ。まだ二十歳すぎの我が息子ながらびっくりしちゃったわ。あの子、天才なんじゃないかって時々思っちゃう」
「本当に天才だと思いますよ。まだ二十歳なのに」
いつの間にか直君は若手敏腕実業家になっていてビックリ仰天した。
小さい頃から只者ではないと思っていたけれど、専門学校でモタモタしていた私とは雲泥の差である。
頑張っていたんだなって。本当に私とは天と地ほどの差があるすごい人なんだなって改めて思い知った。
ピンポーン
「あ、直が丁度帰ってきたみたいね」
早苗さんが嬉しそうに玄関へ向かうので私もついて行く事にした。玄関を開けるとすぐに背の高い男の人が立っていて、とても端正な顔が見えた。これが直君かってくらい美しさと男らしさに磨きがかかっていて、私は固まって目を見張ってしまう。
そして、直君らしき美青年が私の姿を目に入れた途端に寄ってきて抱きしめられた。
「甲斐、あいたかった」
「な、直君、なんだ……?」
「当然だよ。オレだよ」
当然ながら声変わりを果たした低い声。私のような平均身長でもすっぽり覆ってしまうような身長と体格にドキリとする。
スーツ姿だからどこからどう見ても大人の男の人なんだと実感して、あの時の可愛らしい美少年の姿が偉く成長したものだなと感慨深くなった。
「毎日忙しそうにしてたんだね、海外で」
そのまま今晩は黒崎家に泊まる事になり、久しぶりに幼い日々を思い出しながら直君の今までの経緯や土産話をたくさん聞いた。途中で直君の父親の一樹さんも仕事から帰宅して、黒崎一家と私で夜遅くまで楽しい話は弾んだ。
「早く一人前になりたくて必死で勉強してた。日本に帰った時、甲斐に笑われないように自分を磨きまくってたんだ。だってオレ……甲斐より年下だから。ガキ扱いされたくなかったから早く大人になりたかった」
黒崎夫妻が部屋へ引き上げた頃、直君はまだ私のそばを離れずにくっついてくる。明日から日本での仕事が始まり忙しくなるというのに。
「でもそれだけ頑張ったならやっぱり異性からモテまくったでしょ。若い天才実業家だもんね」
「他の異性なんて興味ない。オレには甲斐だけだ」
いきなり真剣な顔で私の両肩を掴んできた。私はびくりとして息を飲んだ。
「直君……?」
「言っただろう?オレが甲斐をもらうって。もっといい男になって帰ってくるって。時間はかかったけど、今度こそ邪魔が入らないようにするためには仕方がなくて……一人前になるまで我慢してた」
その通り、彼は本当に立派になって帰ってきた。
海外で大成功を収めて、敏腕経営者で実業家として。私からすれば遠い存在になってしまった感じがするけど、でも彼の気持ちはあの時と変わっていないという。
「もうあの時みたいにはなりたくないから……」
「あの時……?」
「絶対守るから。今度こそ……幸せにする」
あれ……こんな事、前にも言われたような気がする。
小さい頃なんかじゃない。もっと、ずっと大昔に……
「でも、甲斐はまだ心の準備がいると思う。だからその気になるまで待つよ。もちろん、ちゃんと惚れさせるから」
私の手をとって甲にそっと口づけた。私は顔が熱くなるのを感じた。
「そろそろ寝る。本当は甲斐と一緒にいたいけど、一緒にいて何もしない程オレは紳士じゃないから」
名残惜しそうに自室へ引き上げようとする直君。
私の事、本気なんだ……。
「なあ、甲斐」
扉のノブを掴んだまま直君はこちらを振り向く。
「オレの事……君付けじゃなくて呼び捨てで呼んでよ」
「え」
「呼び捨ての方が……好き。だからそう呼んで」
そう促す直君に私はためしに呼んでみた。
「直」
あれ、どうしてか君呼びよりしっくりくる。
それが当たり前だったみたいに呼びやすい気がする。
「もう一回」
「直」
「もう一度だけ」
「直」
おかしいな。すごく懐かしく感じるなんて。
「今度、仕事が終わったらデートしよう。久しぶりの日本だから甲斐と一緒に見て回りたい」
「……安い所しか案内できないけどね」
「それでもいい。甲斐と一緒ならどこだっていいんだ。きっと、楽しいし……それだけで幸せだから」
彼の顔が、長年待ち望んだ事がやっと満たされる様な幸せそうな表情になっていた。
「あら、メール等のやり取りで知らなかった?私も最近知ってびっくりしたんだけど、いつの間にか有名なIT企業の社長と知り合いになっちゃってて、そのIT企業王の援助で独立。ホテル王やら不動産王やらとも知り合いになって、今じゃ世界的に有名経営者でもあり実業家の名を連ねちゃってるのよ。まだ二十歳すぎの我が息子ながらびっくりしちゃったわ。あの子、天才なんじゃないかって時々思っちゃう」
「本当に天才だと思いますよ。まだ二十歳なのに」
いつの間にか直君は若手敏腕実業家になっていてビックリ仰天した。
小さい頃から只者ではないと思っていたけれど、専門学校でモタモタしていた私とは雲泥の差である。
頑張っていたんだなって。本当に私とは天と地ほどの差があるすごい人なんだなって改めて思い知った。
ピンポーン
「あ、直が丁度帰ってきたみたいね」
早苗さんが嬉しそうに玄関へ向かうので私もついて行く事にした。玄関を開けるとすぐに背の高い男の人が立っていて、とても端正な顔が見えた。これが直君かってくらい美しさと男らしさに磨きがかかっていて、私は固まって目を見張ってしまう。
そして、直君らしき美青年が私の姿を目に入れた途端に寄ってきて抱きしめられた。
「甲斐、あいたかった」
「な、直君、なんだ……?」
「当然だよ。オレだよ」
当然ながら声変わりを果たした低い声。私のような平均身長でもすっぽり覆ってしまうような身長と体格にドキリとする。
スーツ姿だからどこからどう見ても大人の男の人なんだと実感して、あの時の可愛らしい美少年の姿が偉く成長したものだなと感慨深くなった。
「毎日忙しそうにしてたんだね、海外で」
そのまま今晩は黒崎家に泊まる事になり、久しぶりに幼い日々を思い出しながら直君の今までの経緯や土産話をたくさん聞いた。途中で直君の父親の一樹さんも仕事から帰宅して、黒崎一家と私で夜遅くまで楽しい話は弾んだ。
「早く一人前になりたくて必死で勉強してた。日本に帰った時、甲斐に笑われないように自分を磨きまくってたんだ。だってオレ……甲斐より年下だから。ガキ扱いされたくなかったから早く大人になりたかった」
黒崎夫妻が部屋へ引き上げた頃、直君はまだ私のそばを離れずにくっついてくる。明日から日本での仕事が始まり忙しくなるというのに。
「でもそれだけ頑張ったならやっぱり異性からモテまくったでしょ。若い天才実業家だもんね」
「他の異性なんて興味ない。オレには甲斐だけだ」
いきなり真剣な顔で私の両肩を掴んできた。私はびくりとして息を飲んだ。
「直君……?」
「言っただろう?オレが甲斐をもらうって。もっといい男になって帰ってくるって。時間はかかったけど、今度こそ邪魔が入らないようにするためには仕方がなくて……一人前になるまで我慢してた」
その通り、彼は本当に立派になって帰ってきた。
海外で大成功を収めて、敏腕経営者で実業家として。私からすれば遠い存在になってしまった感じがするけど、でも彼の気持ちはあの時と変わっていないという。
「もうあの時みたいにはなりたくないから……」
「あの時……?」
「絶対守るから。今度こそ……幸せにする」
あれ……こんな事、前にも言われたような気がする。
小さい頃なんかじゃない。もっと、ずっと大昔に……
「でも、甲斐はまだ心の準備がいると思う。だからその気になるまで待つよ。もちろん、ちゃんと惚れさせるから」
私の手をとって甲にそっと口づけた。私は顔が熱くなるのを感じた。
「そろそろ寝る。本当は甲斐と一緒にいたいけど、一緒にいて何もしない程オレは紳士じゃないから」
名残惜しそうに自室へ引き上げようとする直君。
私の事、本気なんだ……。
「なあ、甲斐」
扉のノブを掴んだまま直君はこちらを振り向く。
「オレの事……君付けじゃなくて呼び捨てで呼んでよ」
「え」
「呼び捨ての方が……好き。だからそう呼んで」
そう促す直君に私はためしに呼んでみた。
「直」
あれ、どうしてか君呼びよりしっくりくる。
それが当たり前だったみたいに呼びやすい気がする。
「もう一回」
「直」
「もう一度だけ」
「直」
おかしいな。すごく懐かしく感じるなんて。
「今度、仕事が終わったらデートしよう。久しぶりの日本だから甲斐と一緒に見て回りたい」
「……安い所しか案内できないけどね」
「それでもいい。甲斐と一緒ならどこだっていいんだ。きっと、楽しいし……それだけで幸せだから」
彼の顔が、長年待ち望んだ事がやっと満たされる様な幸せそうな表情になっていた。
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