学園トップ~&ユカイのスピンオフ

いとこんドリア

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平和な世界線in女体化

女になっちゃいました25

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※以前UPした結婚式の改良版


「よく似合ってるわね~!」
「ああ、ほんと綺麗だ。うちの息子……いや、娘は」

 嬉しそうな母ちゃんと今にも泣きだしそうな親父。もう息子じゃなくて娘になっちまったからな。息子であったならウェディングドレスも着れなかったし、ここまで半泣きにはならなかったはずだ。

「このドレス、甲斐君にすっごく似合ってるよね。自分でいろいろ考えたの?」

 悠里が俺の純白のドレス姿を隅々まで眺めている。プリンセスライン型で五反田がデザインして作ってくれた。

「いや。俺はデザインとか全然センスないから、夫がこういうのがいいってオーダーして五反田が全体的なデザインを考えてくれたんだよ」
「直様が考えて武夫ちゃんデザインがんばったんだね!さっすが~!」
「苦労続きだったけどね。直様ってばこだわりが強いお方でね~納期もギリギリで徹夜だったのよォ。胸元はこうで、二の腕のデザインはああで~っていっぱい注文してくれたの。でもとっても勉強になったし、甲斐ちゃんの晴れ姿って事で楽しめたわ。いい仕事させてもらえて感謝よォ」

 五反田が苦労した事をしみじみ語っている。今回の仕事は別案件をこなしながらの仕事だったので、両立は大変だったのだとか。それでもあの矢崎直が注文してくれたおかげで駆け出しデザイナーとしての箔が付いたし、将来の修行になったと喜んでいる。

「矢崎直の名前がもはやブランドっつーか影響力抜群だからな。これから五反田の元に大量に仕事依頼がくるだろうよ。忙しくなってくるだろうな」
「うふふ。まあ大変だけど、仕事が楽しいから文句なんて言えないわ。直様や甲斐ちゃんには感謝よォ」

 ちなみにヘアメイクはなっちと由希が担当。二人は実家が美容院なのでクラスメート達の髪型を手分けしてセットして回っている。今も忙しく動き回っていて休む暇がなさそうだ。

「そういえば宮本は朝からバタバタしてたけど大丈夫か」
「恵梨ちゃんがついてるから大丈夫でしょ」

 披露宴のウェディングケーキは篠宮と宮本君が共同で作ったらしい。二人は将来はパティシエになりたいので、初の大仕事に大いにはりきっていた。

 そんでもって俺の母ちゃんや早苗さんの留袖などは健一の家が呉服屋なのでそこで依頼した。健一の両親は箔がつくと泣いて喜んでいたな。テーブルの花飾りなども花野の実家が花屋なのでそちらで注文させてもらい、芸能人顔負けの華やかで豪華な式場と化しているらしい。さっきスマホでみせてもらったが、会場内はすっげぇ事になっていた。

 何はともあれ、クラスメート達の実家を大いに利用させてもらったよ。適材適所ってやつである。あの矢崎直からの注文という事で、それぞれの実家は鼻高々だろう。

「それにしてもそのティアラ。めちゃくちゃ高そうだな」
「でっけぇダイヤがついているでござる。キラキラでござるな」

 本木君とオタ熊が興味津々に眺めている。

「数百億とかするんじゃね?」
 
 吉村が冗談っぽく言うがその通りである。たくさんのダイヤが付いたティアラとヴェールは、矢崎家に代々伝わる数百億はする代物らしい。俺も値段を聞いてゾッとした。そんな豪華な代物を自分に装着させるのは歴代の社長夫人に名を残す事になるからで、半ば無理やりつけられた。

 つーか社長夫人て柄でもないし、旦那の矢崎財閥に関する仕事には一切関わるつもりもクソもないので、夫人とか言う呼び方はやめてほしいものである。貧乏人で礼儀作法の言葉を知らない様な俺は、今もこれからも普通の平民として生きていくのだ。

「いいなー私もはやく結婚したいなぁ。年収千は超える金持ちと」
「ねー。あたしなんて最近彼氏と別れたし~」
「あたしも二股かけられてさ。男って浮気性な奴多すぎ」

 かしまし三人娘が男運の悪さを嘆いている。それに対してモテないEクラス男子その1の屯田林が「顔面見ただけでキモって言われる俺らってなんなんだよ」と返すと、なんとも言えない空気になったのは言うまでもない。

「10代で母親なんて早い人はホント早いよねー。私も宗ちゃんとはやくしたいよ」

 雛もそろそろ久瀬さんとするだろうな。卒業後、一気に関係を進めるつもりですとか言っていたから、ブーケは雛か宮本君や篠宮辺りに向かって投げてあげるのもいいかもしれない。

「そういえば甲夜ちゃんは?」
「旦那が面倒見てくれてるよ。俺より先に準備整ってたからさ。でもあいつあやすのヘタだから後で様子見に行ってやらないと心配なんだ」
 

 *

 娘の甲夜が泣き止まないので苦戦していた。抱き上げてヨシヨシしてあげたり、変顔してみたりとするが、なかなかうまくいかない。昨日は結構泣き止んでくれたというのに赤ん坊というのは気分次第なのだ。

「もしかしてお腹がすいているのかもしれないわね」

 母さんに甲夜を預けて作っておいたミルクを差し出すと、甲夜はぱっと泣き止んで嬉しそうにミルクを飲んでいる。

「いや~こういうのを見ていると、直の赤ん坊の頃を思い出すよ。よく泣いてたなあ」
「そうねえ、直ってば悠里より泣き虫でよく泣いていたわね。ふふふ」
「っ、それは……今はいいよ母さん」
「あら、赤ん坊の時の事だから別にいいじゃない。直にもこういう時があったんだから」
「そうだぞ。あん時の直は泣き虫でわしがよくあやしてやったなあ」
「おじいちゃんまで……」

 知らない赤ん坊の頃を話されるとなんだか恥ずかしい。

「今日は別な意味で泣き虫になるかもね。ああ、直。そのタキシードよく似合ってるよ」
「ええ、今日の主役だもんね。一番のいい男でいなくちゃ」
「……うん」
「甲夜ちゃんは私達が見ておくわね」
「式場で待ってるよ、直」
「途中で転ぶなよ」

 両親や祖父が甲夜を連れて式場の方へ向かっていくと、入れ替わるように親友二人もやって来た。

「おお。似合ってるね、そのタキシード姿」
「ありがとう」
「直も結婚か。まさか一番最初にしちゃうとは思わなかったよ」
「そうだね。中学の頃は結婚以前に好きな人すらできないとぼやいていた直だもんね。もうすぐ私達もかな」

 あずみが昭弘に目配せすると、昭弘が頭をかいて照れたような顔を浮かべた。

「二人の時は楽しみにしているよ」
「まあ、大学を卒業して稼げるようになってから、かな」

 それが普通だろう。金銭的な事や若いからこそ遊びたい気持ちがあるとすぐには結婚はできない。しかし、オレと甲斐はそんなものはとうに超えている。甲夜という大切な娘がいる。それに離れていると寂しい。一刻も早く正式に家族になりたい。すぐにでも一緒になりたかった。

「おーい」

 そんな時、向こうから純白のドレスを纏った女神がゆっくりドレスを持ち上げて歩いてくる。

「お待たせ。時間かかっちまったけど……」

 神々しいドレス姿の甲斐だった。これがオレの嫁か?

 いつもより綺麗な甲斐を前にどうしてか直視できなくなった。こんなにも甲斐は綺麗で美人だっただろうか。前から磨けば光る原石みたいな顔だったけれど、今日は特別な日だからかいつもと違って見える。化粧や衣装のせいかもしれないけれど、きっとそれだけじゃない。


「綺麗だ、甲斐」
「っ、直」

 いきなり言われてボッと顔を赤くする甲斐。

「見違えたんだよ。だから、なんて言葉をかけていいかわからなかった」
「そ、そっか。少しはあんたの横に並んでもいいくらいには見られるよーになったということかな」

 今更こんなに恥ずかしいだなんて変だ。あんなに暇さえあればイチャイチャして、毎夜肌を求め合って、子供だって出来て、これから正式に家族になるというのに初々しい自分達が不思議だった。子供が出来てもいつまでも恋人気分が抜け切れない感じ……悪くない。

「直も……今日は見違えるよ。今日一番のイイ男だって」
「……お前に言われるのが一番うれしい」

 そうして甲斐にもっと近づこうとすると昭弘に止められた。

「俺達がいるのを忘れないでくれよな」
「そうだよっ。二人とも甘い空気はそこまでにして。そろそろ式場に行かないとっ」


 *


 式が始まる直前の礼拝堂の扉の外で、俺は親父と開始を待っていた。男だった自分がこうしてバージンロードを親父と歩くことになるなんて思わなかった。親父もそうだろう。妹の未来でしか経験できない事を俺もする事になったのだから。

「うう、甲斐も嫁に行ってしまうなんて……うっうっ」
「今からってのに親父泣きすぎだろ」
「まさか息子だと思っていた甲斐が娘になったんだからしょうがないだろっ」

 まあ、気持ちはわからなくもないがね。というかそもそも俺ってなんで女になっちまったんだっけ。今更すぎてもう理由探しを忘れていたよ。

「おお、式場はここだったか」
「あ、パンチラ博士遅刻だぞ」
「すまんすまん。つい道に迷ってしまってな。あと腹の調子もよくなくて」

 一樹さんも方向音痴だが、このパンチラ博士も案外方向音痴で遅刻する事はよくある事なのだ。そして相変わらず腹の調子が悪いようだ。

「綺麗になったじゃないか。やはり甲斐君は女になる素質があったと言う事じゃ。わしの天才ぶりは確かだった」
「……………………なんて?」
「いやな、女性のみにあるオメガという数値を高める薬を開発していてな、チョコレート味の飴玉として甲斐君に食べさせたのは成功だったという事。うむ、天晴れ」

 今、こいつは何を言っている。

「元々、甲斐君はオメガの数値が高かった。いや~開発し始めてウン十年、体質に合う人間がおらずに諦めておったが、甲斐君こそが被験者にぴったりだった」
「あの、ジジイ。さっきからオメガの数値が高いやら俺が被験者ってどういう……?」
「ん、あれ?言ってなかったか?甲斐君が女になれたのはわしの開発した性別変換薬の影響で「こんのクソジジイ!!てめえのせいかーーーー!!」

 
 扉が開き、柔らかなステンドグラスの光が礼拝堂全体を照らす中で、ゆったりとした音楽がバックに流れてバージンロードを一歩、また一歩とゆっくり歩く。ガラスのハイヒールが地味に歩きづらいが我慢。母ちゃんからのベールダウンの儀式を終え、またボロ泣きな親父と共に歩き出す。

 見知った顔が祝福するかのようにこちらを見つめていて、なんだか注目されているこの感じが恥ずかしいが、この日は自分が主役なんだと割り切るようにして笑顔を返す。

 たとえパンチラ博士のせいで女にされてしまっても、今日だけは笑顔だ。え・が・お。思わず怒りに眉間が寄りそうだが、神聖な儀式なので水はさせない。

 祭壇近くの席で、娘の甲夜が早苗お義母さんの手に抱かれてニコニコしている様子が目に入って、親心として和んだ。泣いてなくてよかった。可愛いなちくしょう。

 目と鼻の先に愛しい人の顔。祭壇で司祭と最愛の人が微笑んで待っていてくれる。なんだか旦那がステンドグラスの光に反射して美男子に見えるのは、今日が結婚式補正だからだ、きっと。


「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
「ち、誓います」

 直が静かに誓い、俺もぎこちなく同調する。誓いの言葉にも宗教などでいろいろパターンがあるらしいが、そこは昔と違って決められるらしい。最初は二人で読み上げるとかいろいろ考えていたんだけれど、きっと俺が緊張して誓いの文を間違えたり、いろいろやらかしそうだなって周囲が危機意識持ってくれたので、簡単な返事だけの誓いの言葉になりましたとさ。

 
 指輪の交換はなかなか指に入らなくて慌てたがなんとかこなし、誓いのキスはやっぱり緊張してしまって、ガチガチな俺の様子にヴェールを持ち上げながらふふって笑っている直。くそ、笑うなっての。いくらいつもしているからって言ってもみんなの前でだからわけが違うし、案外恥ずかしくてだなー……なんて考えている隙に一方的にキスされていた。

 一瞬だけのキスが俺の緊張をほぐし、されるばっかりじゃ嫌だったので、もう一度半ば強引にしてやった。今度はこちらから背伸びしてだ。直は少しぽかんとしていたけれど、してやったりな俺を見て悔しそうというより嬉しそうで、でも後で覚えてろよなって言いたげなキザ顔だった。


「おめでとうー!」
「お幸せにねー二人とも!」

 直にいきなりお姫様抱っこをされて花吹雪の中を通り抜ける。

「直ちゃーん、初夜の時張り切りすぎて甲斐ちゃんを壊さないようにねー」
 
 おいこら、こんな所でそんな事言うんじゃねーっつうのバカ相田。子供が初夜ってなぁに?って不思議がるだろうが。ほら見ろ。案の定訊いている子がいるじゃねぇかバカ。その子の親も返答に困ってるし。

「なあ甲斐、今日は寝られないな」
「っ……耳元で今そんな事言うなっつうの」
「あと数人は子供欲しいだろ?」
「っ、まあ……そうだな」
「じゃあ、今夜はがんばらないとなぁ」
「お手柔らかにたのんまさぁ」

 とりあえず後でパンチラ博士に報復してから考えよう。女になって酷い目にあった事は事実だしな。でも、今は幸せだから少しだけ手加減しておいてやろう。

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