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平和な世界線in女体化
女になっちゃいました21
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「ん……」
ゆっくり目をさますと、隣には陽の光を浴びた美しい恋人が半裸で微笑んでいた。
「甲斐、起きたか」
銀髪がキラキラして、白い肌が神々しく瑞々しく見えた。思わず見惚れてしまう。綺麗だなって。ふと時計を見るといつの間にかもう昼前。お互いに疲れ切って爆睡していたらしい。
「仕事、大丈夫なのか?」
起きた頃にはもう隣にいないと思っていた。
「しばらく忙しかったから今日明日と休みだよ。だから、明日までずっと甲斐のそばにいる。心配するな」
「そっか。じゃあ……っいて」
動こうとすると下肢に痛みが走った。もちろん昨日捻った足首も痛い。
「大丈夫か?無理、させた」
「大丈夫。お前の愛をいっぱいもらったし」
「甲斐……」
直に手繰り寄せられて抱きしめられた。直の逞しくて広い胸の中におさまる。安心する腕の中で浸りつつ思う。この場所が今自分が世界で一番安らげる場所だって。
「朝食は出前でいいか。お前動けないし」
「うん……」
安心する腕の中で、幸せすぎて泣きそうになってしまった。
「はい、あーん」
直が動けない俺にフォークでオムレツ一切れを差し出してきた。頼んだ出前は格式高そうなレストランの朝食だ。
「自分で食べれるって」
「いいだろ。今ぐらいは甘えろよ」
「っ……」
ドキドキして嬉しいと思ってしまうなんて変だ。こんな乙女思考じゃなかったはずなのに。
「はい、あーん」
「あ、あーん……」
そのまま口に入れられてぱくり。恥ずかしすぎてどこのバカップルだよって言いたくなる。でもこのオムレツはフワフワしていて美味しい。あと10個くらい食いたい。
「甲斐」
「ん?」
味に浸っていると不意に唇を重ねてきやがった。舌が入ってきて、甘い味と快楽が口の中に広がる。
「んっ、んぅ」
口の中で甘いチョコレートが互いの舌で行き来して溶け合う。口の中が性感帯になったみたいにゾクゾクして、最終的に俺の口の中で全てが溶けた。
「甘いな。甲斐の味がしたチョコレート」
直は舌舐めずりしてニヤリと笑う。なんかキザっぽい所がムカつくな。
「その指輪、やっぱり似合ってる」
左手の薬指には、一年前に直に返したそれがまた輝きを取り戻していた。
「外して……ごめん」
「いいんだ。今はまたこうやってはめる事が出来たから」
もう外したりしない。
「これからもTVやマスコミ共は、オレと婚約者の女とが結婚するとかで騒ぎたてると思う。だけど、オレが本当に愛してるのはお前だけだから。マスコミ共が騒ごうがババアが何を言おうが、オレはあの女と結婚なんてしない。オレを信じてほしい」
直は俺の左手をとり、薬指に口づける。
「すべてが決着したらちゃんと家族になろう」
その時こそ、お互いに本当の意味での永遠の愛を誓える。どんなにすれちがっても、どんなに仲を引き裂かれようとも、この腕の中にいるだけで安心と確信が持てた。
「甲斐ちゃん、なんか綺麗になったわね」
「はぁ……?」
いちごのケーキを食べている五反田から唐突にそう言われて首をかしげる。今日は宮本君と篠宮がバイトで働くスイーツ店が特売日なので、ケーキ食べ放題というのにつられた俺ら一部Eクラスメンバーはさっきから大量にケーキを食べまくっている。これで10個目だ。
「内面がなんかキラキラしているっていうか、女らしくなったっていうか」
「そうかぁ?」
自分はいたって以前と変わりないつもりだ。制服だって未だに男装している。卒業前に今更スカートなんて穿けと言われても無理だ。
「なんかぼーっとしてるっていうか、大人っぽくみえるっていうか。直様となんかあった?」
「ま、まあな」
俺のほんのり赤くなる頬にEクラス女子達はニヤついた。
「いい事あったんだね」
「だって左手の薬指みてみなよ。婚約指輪付けてるじゃん。直様からもらったんでしょ?」
「まあ、そーでございまする」
「てことは、ついに結婚てわけだね。いつするかは決まってるの?」
「さすがにそこまでは決めてないけど」
俺は料理の専門学校に行くつもりだ。いつかは自分の店を持ちたいと思っている。だから進路とか考えるといつになるやらわからない。
「甲斐君達は直君と順調みたいだね。ボクもいつかは一丁前に恵梨ちゃんに……」
「どうしたんだよ宮本」
「あ、いや……なんでもないよ恵梨ちゃん」
宮本君と篠宮の関係は見ていて微笑ましい。一途で純情な宮本君と楽しんでいるようなツンデレ篠宮。卒業後は同じ菓子専門学校へ行くようだから遠距離にならないようだし、どうか末永く仲良くしてほしいなと思う。
「そういえばこの後、アキバに行こうと思っているんだが甲斐殿はどうする?」
「あ、悪い。この後直と約束しているんだ」
直が庶民がするようなテートをしてみたいらしい。
「なんだと。デートすんのか。リア充めっ」
「むぅ、甲斐の奴もリア充になっちまったからな。現実の恋愛と二次元嫁相手じゃあどっちを取るかなんて明白。オタ活動も縮小していくのか」
「いやいや。俺は一生キモオタとして生きていくから縮小はせんよ。たとえ結婚しても俺のヲタク人生は終わらん!終わってたまるかいな」
イルミネーションが輝くショッピングモール前にやってくると、近くにいる女の子達が頬を乙女のように染めていた。
「あそこに立ってた人超カッコよくなかった!?」
「わかる~!超カッコよかったよね!背高くて四天王の矢崎直様に似てた感じ~」
「もしかして本物の直様だったりしてっ」
「えーさすがにないよ~。直様って今超忙しくて海外にいるって話だから」
「でも、結構似てたよね~。声かけてみる~?」
「無理無理ー。平凡なアタシらなんて相手にされないって」
女子達の声に耳を傾けていた俺はもしやと思い走った。向こうの方にはすでに女の子達が何人か立っている。華やかそうな誰かがその中心にいて、数人の女の子達に囲まれている。
「連れを待ってる。失せろ」
苛立ちを口にするのは、壁に寄りかかりながら帽子を目深にかぶっている美青年。帽子の隙間から見えるサラサラした銀髪と、手足の長いすらっとした体型に女子達は釘付け。何度か荒っぽく拒絶をしても女の子達は性懲りもなく食い下がってくる。美青年はチッと舌打ちをして場所を変えようとこちらに視線を向けると、俺の姿を目に入れた途端に荒んでいた顔が一気に穏やかな顔つきに変わった。
「甲斐」
美青年はこちらに寄ってきた。
「ごめん、遅れて」
「いい。たった五分くらいだから」
待ち焦がれたと言わんばかりに腕を引き寄せられて抱き寄せられた。広くて安心する胸の中にいて、俺は慌てて離れようとしたががっしり腕を回されて離れられない。見ていた女の子達の嫉妬と羨望を含んだ悲鳴が響き渡っていた。
「さ、とりあえず行くぞ」
抱擁に満足してから俺の手を取って歩く。そのまま手を握り絡められて、前を歩く直に引っ張られるようについて行く。恋人繋ぎで歩いているのがなんだか恥ずかしくて、でもぶっちゃけ嬉しくてこれをどう表現していいかわからない。
「どこ行く?いきなりホテル直行でもいいけど」
「いきなりホテルってデートじゃないだろ。どんだけ欲求不満なんだよ」
「欲求不満なのは当たってる。お前以外の女とはぜってぇシタくねぇし、仕事で忙しいからシコる暇もなくてイライラしてたんだ。エロ本やエロDVD見てもあんま勃たねぇしな。お前の裸をオカズにして過ごしてる」
「俺の裸ねえ……まあ、他の女でヌかれるよりかはマシではあるけれども」
少し前の童貞男時代の俺を彷彿とさせるものだ。二次元嫁でよくヌいたものだよ。
「ま、何言おうと後でお前を滅茶苦茶に頂く予定だからそのつもりで」
「……どうせ嫌がっても気絶するまでヤリまくるくせに」
「そりゃあオレは相当な肉食だからな。今晩は満足するまでは寝かせられない。欲求不満だからな。悪いな」
「全然悪いと思ってねぇだろ」
それくらい直に愛されていると思うと嫌がれるはずがない。相当惚れてしまっているから何されてもいいとすら思ってしまっている。惚れた弱味という状態異常はある意味大変だ。
「甲斐にこれ似合いそうだな」
ショッピングモールを手繋ぎで歩いていると、直がそんな事を口にした。マネキンにはヒラヒラのスケスケの白が基調の下着。露出度がすごかった。隠している部分がもはや紐やフリルだけで普通の下着とは異なっている。
「お前の趣味かよ、この白いフリフリなの」
「真っ白い感じが汚れるとグッとくるんだ。見えそうで見えない部分がいいデザインだ」
直は俺にやたらと白色とかを着せる理由はそれなんだろう。汚れるとグッとくるとか卑猥である。
「これ大事な部分が穴開いてるぞ」
「ヤる時にいちいち脱がなくてもいい仕様なんだろ。てことでこれ買って後で着てほしいんだけど」
「まじかよ。しかも着ろと?」
「当然。それとも、オレが着せてやろうか」
流し目を向けて耳元で囁くのやめろっての。
「今は純粋にデートを楽しんでいるからスケベはあとでにしてくれよな」
「わかった。お前がそう言うなら後のお楽しみにしておいて我慢する。だから着ろよな。で、オレに乗ってくれよ」
「……決定かよ。しかも乗っかれと」
それを堂々とレジへ持って行ける直の度胸と羞恥心のなさに脱帽だ。さすがは矢崎財閥様だよ。参りましたよ。
「オヤジ、ラーメン大盛り一丁」
「お、よう来たな。らっしゃい」
赤い暖簾をくぐると、明るくてノリのよさそうな店主が出迎えた。店内は常連客でにぎやかで、お客のために夜遅くまで営業している。俺の最近の行きつけの隠れたラーメン屋だ。そんな直は不思議そうにキョロキョロしていて、ラーメン屋が珍しいのかもしれない。
「こういう店入ったことない?」
「あんまりラーメンなんて食べた事ないってのもあるし、こういう店もおじいちゃんの蕎麦屋以外は来た事がないからな」
「そうか。矢崎家で育ったお坊ちゃんだもんな。なら、ラーメンの味を堪能したまえよ。美味いんだぜここの店の。素朴なこの醤油ラーメンがたまに食うと美味いんだ」
ほぼ満席なのでかろうじて空いているカウンター席に座る。
「隣のイケメンは甲斐の彼氏か?」
ニヤニヤとした店主がお冷を持ちながら訊ねてきた。
「ま、まあな。彼氏ですわぁ」
未だに直の事を彼氏だなんて紹介するのが気恥ずかしい。
「ついに春がきたんだな。甲斐の彼氏にしてはキラキラした色男じゃねえか。てっきりゴリラみたいな男の彼氏ができると思ってたんだが、意外にも線の細そうなのが好みなんだな」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ~」
「おっちゃん……安心したぜ。昔からガサツで脳筋で二次元嫁しか興味がなかったから心配していたんだ」
「ははは、そりゃあコイツと出会ってなけりゃあゴリラみたいな男を狙ってたかもな~」
キラキライケメンより、俺はどちらかと言えば筋肉系野郎の方がたしかにタイプである。筋肉は正義だからな。男であった時はホモじゃないのでそんな事は考えなかったが、元々女であったならゴリゴリの筋肉男がタイプだっただろうと思う。そんな事を考えていると、直は不満そうな顔をしていた。
「お前は筋肉ごりごりマッチョの野郎の方が好きなのかよ」
「や、それはあくまで元々女であったらの話であって今は違うというか……あ、もしかしておまいさん、俺の好みを聞いて不安になった?」
「っ……悪いかよ」
「いやいや。俺ってば愛されてるなぁって思って。全く一途な男だねーチミは」
茶化しながら言うも、直は真剣な顔を崩さない。
「想像すらもしたくない。オレと甲斐が出会ってない未来なんて。お前はよくそんな事言えるよな、こんなにも愛してるのに」
「っ、気持ちはわかるがここでそんなメロドラマみたいな台詞は照れるというかだな……」
真顔で直からの求愛に恥ずかしくなる。なんとなく見ていた周りの客もそわそわしていてこちらに注目していた。
「ヒューヒューお熱いね!」
「よっ、御両人!結婚しちゃえよー!」
「お似合いだぞー!」
俺らの様子を見ていたオヤジどころか常連客まで「ラブラブだねー」と、盛り上がっている。俺は盛大な冷やかしに羞恥心で顔をあげられない。店の客全員から祝福されるとか嬉しいやら恥ずかしいやらで爆発しそうだ。そんな直は全員から祝福されてまんざらでもない様子でニヤついている。こいつってマジで恥ずかしいって感情持ってないんじゃね?
「……美味しい……」
その後、気を取り直してラーメンを食う事にした。直は財閥のお坊ちゃん育ちなせいか、ラーメンなんて食べなれていないので、すする行為に苦労している様子が可愛らしかった。だから可愛いなんて言ってさしあげれば不満そうな顔でこちらを睨んできた。
「この店、隠れた名店だからホームページにも載ってないんだ。あんたの口にあうようでよかったよ」
「コックやシェフが作ったものより美味しく感じる」
「ふふ、毎回食べているものより、違ったものをいきなり食べると美味しく感じるもんだ」
ラーメンを堪能した後、ショッピングモールを見てまわったり、イルミネーション広場を歩いてみたりしていると、カップル達が自分たちの世界に浸りあっている。おっと、ここはリア充共の集まりだった。あまり寄り付かないようにしなければと考えていると、直から肩を抱き寄せられた。
「くっついてないとはぐれるだろ」
「まあ、そうなんだけど」
カップル達は人目もはばからず堂々とキスをしていやがる。よくできるよな。家族連れもそれなりにいるのに。もし、こんな場面を家族と出くわしたら微妙な空気になって気まずくなるもんだよ。ドラマのラブシーンに出くわしてしまったみたいにな。
「オレ達もしようか、キス。あいつら以上に濃厚なの」
「対抗すんなバカ。こんなとこでしたらお前の正体ばれちまうだろ。俺も嫌だし、こういうのは見せつけたくないから」
「別にばれてもいいんだけど。それにオレは見せつけたいタイプだ。まあ、お前がそう言うならやめとく。こうして二人でくっついて歩いているだけでも十分満足だし」
直は瑞々しい笑顔を見せた。それに俺も胸がきゅんとして温かくなる。
「……そうだよ。俺はそれだけで幸せなんだから」
「じゃああとでもっと幸せにしてやるよ。ベット上で」
「……お手柔らかにたのんます」
ゆっくり目をさますと、隣には陽の光を浴びた美しい恋人が半裸で微笑んでいた。
「甲斐、起きたか」
銀髪がキラキラして、白い肌が神々しく瑞々しく見えた。思わず見惚れてしまう。綺麗だなって。ふと時計を見るといつの間にかもう昼前。お互いに疲れ切って爆睡していたらしい。
「仕事、大丈夫なのか?」
起きた頃にはもう隣にいないと思っていた。
「しばらく忙しかったから今日明日と休みだよ。だから、明日までずっと甲斐のそばにいる。心配するな」
「そっか。じゃあ……っいて」
動こうとすると下肢に痛みが走った。もちろん昨日捻った足首も痛い。
「大丈夫か?無理、させた」
「大丈夫。お前の愛をいっぱいもらったし」
「甲斐……」
直に手繰り寄せられて抱きしめられた。直の逞しくて広い胸の中におさまる。安心する腕の中で浸りつつ思う。この場所が今自分が世界で一番安らげる場所だって。
「朝食は出前でいいか。お前動けないし」
「うん……」
安心する腕の中で、幸せすぎて泣きそうになってしまった。
「はい、あーん」
直が動けない俺にフォークでオムレツ一切れを差し出してきた。頼んだ出前は格式高そうなレストランの朝食だ。
「自分で食べれるって」
「いいだろ。今ぐらいは甘えろよ」
「っ……」
ドキドキして嬉しいと思ってしまうなんて変だ。こんな乙女思考じゃなかったはずなのに。
「はい、あーん」
「あ、あーん……」
そのまま口に入れられてぱくり。恥ずかしすぎてどこのバカップルだよって言いたくなる。でもこのオムレツはフワフワしていて美味しい。あと10個くらい食いたい。
「甲斐」
「ん?」
味に浸っていると不意に唇を重ねてきやがった。舌が入ってきて、甘い味と快楽が口の中に広がる。
「んっ、んぅ」
口の中で甘いチョコレートが互いの舌で行き来して溶け合う。口の中が性感帯になったみたいにゾクゾクして、最終的に俺の口の中で全てが溶けた。
「甘いな。甲斐の味がしたチョコレート」
直は舌舐めずりしてニヤリと笑う。なんかキザっぽい所がムカつくな。
「その指輪、やっぱり似合ってる」
左手の薬指には、一年前に直に返したそれがまた輝きを取り戻していた。
「外して……ごめん」
「いいんだ。今はまたこうやってはめる事が出来たから」
もう外したりしない。
「これからもTVやマスコミ共は、オレと婚約者の女とが結婚するとかで騒ぎたてると思う。だけど、オレが本当に愛してるのはお前だけだから。マスコミ共が騒ごうがババアが何を言おうが、オレはあの女と結婚なんてしない。オレを信じてほしい」
直は俺の左手をとり、薬指に口づける。
「すべてが決着したらちゃんと家族になろう」
その時こそ、お互いに本当の意味での永遠の愛を誓える。どんなにすれちがっても、どんなに仲を引き裂かれようとも、この腕の中にいるだけで安心と確信が持てた。
「甲斐ちゃん、なんか綺麗になったわね」
「はぁ……?」
いちごのケーキを食べている五反田から唐突にそう言われて首をかしげる。今日は宮本君と篠宮がバイトで働くスイーツ店が特売日なので、ケーキ食べ放題というのにつられた俺ら一部Eクラスメンバーはさっきから大量にケーキを食べまくっている。これで10個目だ。
「内面がなんかキラキラしているっていうか、女らしくなったっていうか」
「そうかぁ?」
自分はいたって以前と変わりないつもりだ。制服だって未だに男装している。卒業前に今更スカートなんて穿けと言われても無理だ。
「なんかぼーっとしてるっていうか、大人っぽくみえるっていうか。直様となんかあった?」
「ま、まあな」
俺のほんのり赤くなる頬にEクラス女子達はニヤついた。
「いい事あったんだね」
「だって左手の薬指みてみなよ。婚約指輪付けてるじゃん。直様からもらったんでしょ?」
「まあ、そーでございまする」
「てことは、ついに結婚てわけだね。いつするかは決まってるの?」
「さすがにそこまでは決めてないけど」
俺は料理の専門学校に行くつもりだ。いつかは自分の店を持ちたいと思っている。だから進路とか考えるといつになるやらわからない。
「甲斐君達は直君と順調みたいだね。ボクもいつかは一丁前に恵梨ちゃんに……」
「どうしたんだよ宮本」
「あ、いや……なんでもないよ恵梨ちゃん」
宮本君と篠宮の関係は見ていて微笑ましい。一途で純情な宮本君と楽しんでいるようなツンデレ篠宮。卒業後は同じ菓子専門学校へ行くようだから遠距離にならないようだし、どうか末永く仲良くしてほしいなと思う。
「そういえばこの後、アキバに行こうと思っているんだが甲斐殿はどうする?」
「あ、悪い。この後直と約束しているんだ」
直が庶民がするようなテートをしてみたいらしい。
「なんだと。デートすんのか。リア充めっ」
「むぅ、甲斐の奴もリア充になっちまったからな。現実の恋愛と二次元嫁相手じゃあどっちを取るかなんて明白。オタ活動も縮小していくのか」
「いやいや。俺は一生キモオタとして生きていくから縮小はせんよ。たとえ結婚しても俺のヲタク人生は終わらん!終わってたまるかいな」
イルミネーションが輝くショッピングモール前にやってくると、近くにいる女の子達が頬を乙女のように染めていた。
「あそこに立ってた人超カッコよくなかった!?」
「わかる~!超カッコよかったよね!背高くて四天王の矢崎直様に似てた感じ~」
「もしかして本物の直様だったりしてっ」
「えーさすがにないよ~。直様って今超忙しくて海外にいるって話だから」
「でも、結構似てたよね~。声かけてみる~?」
「無理無理ー。平凡なアタシらなんて相手にされないって」
女子達の声に耳を傾けていた俺はもしやと思い走った。向こうの方にはすでに女の子達が何人か立っている。華やかそうな誰かがその中心にいて、数人の女の子達に囲まれている。
「連れを待ってる。失せろ」
苛立ちを口にするのは、壁に寄りかかりながら帽子を目深にかぶっている美青年。帽子の隙間から見えるサラサラした銀髪と、手足の長いすらっとした体型に女子達は釘付け。何度か荒っぽく拒絶をしても女の子達は性懲りもなく食い下がってくる。美青年はチッと舌打ちをして場所を変えようとこちらに視線を向けると、俺の姿を目に入れた途端に荒んでいた顔が一気に穏やかな顔つきに変わった。
「甲斐」
美青年はこちらに寄ってきた。
「ごめん、遅れて」
「いい。たった五分くらいだから」
待ち焦がれたと言わんばかりに腕を引き寄せられて抱き寄せられた。広くて安心する胸の中にいて、俺は慌てて離れようとしたががっしり腕を回されて離れられない。見ていた女の子達の嫉妬と羨望を含んだ悲鳴が響き渡っていた。
「さ、とりあえず行くぞ」
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「俺の裸ねえ……まあ、他の女でヌかれるよりかはマシではあるけれども」
少し前の童貞男時代の俺を彷彿とさせるものだ。二次元嫁でよくヌいたものだよ。
「ま、何言おうと後でお前を滅茶苦茶に頂く予定だからそのつもりで」
「……どうせ嫌がっても気絶するまでヤリまくるくせに」
「そりゃあオレは相当な肉食だからな。今晩は満足するまでは寝かせられない。欲求不満だからな。悪いな」
「全然悪いと思ってねぇだろ」
それくらい直に愛されていると思うと嫌がれるはずがない。相当惚れてしまっているから何されてもいいとすら思ってしまっている。惚れた弱味という状態異常はある意味大変だ。
「甲斐にこれ似合いそうだな」
ショッピングモールを手繋ぎで歩いていると、直がそんな事を口にした。マネキンにはヒラヒラのスケスケの白が基調の下着。露出度がすごかった。隠している部分がもはや紐やフリルだけで普通の下着とは異なっている。
「お前の趣味かよ、この白いフリフリなの」
「真っ白い感じが汚れるとグッとくるんだ。見えそうで見えない部分がいいデザインだ」
直は俺にやたらと白色とかを着せる理由はそれなんだろう。汚れるとグッとくるとか卑猥である。
「これ大事な部分が穴開いてるぞ」
「ヤる時にいちいち脱がなくてもいい仕様なんだろ。てことでこれ買って後で着てほしいんだけど」
「まじかよ。しかも着ろと?」
「当然。それとも、オレが着せてやろうか」
流し目を向けて耳元で囁くのやめろっての。
「今は純粋にデートを楽しんでいるからスケベはあとでにしてくれよな」
「わかった。お前がそう言うなら後のお楽しみにしておいて我慢する。だから着ろよな。で、オレに乗ってくれよ」
「……決定かよ。しかも乗っかれと」
それを堂々とレジへ持って行ける直の度胸と羞恥心のなさに脱帽だ。さすがは矢崎財閥様だよ。参りましたよ。
「オヤジ、ラーメン大盛り一丁」
「お、よう来たな。らっしゃい」
赤い暖簾をくぐると、明るくてノリのよさそうな店主が出迎えた。店内は常連客でにぎやかで、お客のために夜遅くまで営業している。俺の最近の行きつけの隠れたラーメン屋だ。そんな直は不思議そうにキョロキョロしていて、ラーメン屋が珍しいのかもしれない。
「こういう店入ったことない?」
「あんまりラーメンなんて食べた事ないってのもあるし、こういう店もおじいちゃんの蕎麦屋以外は来た事がないからな」
「そうか。矢崎家で育ったお坊ちゃんだもんな。なら、ラーメンの味を堪能したまえよ。美味いんだぜここの店の。素朴なこの醤油ラーメンがたまに食うと美味いんだ」
ほぼ満席なのでかろうじて空いているカウンター席に座る。
「隣のイケメンは甲斐の彼氏か?」
ニヤニヤとした店主がお冷を持ちながら訊ねてきた。
「ま、まあな。彼氏ですわぁ」
未だに直の事を彼氏だなんて紹介するのが気恥ずかしい。
「ついに春がきたんだな。甲斐の彼氏にしてはキラキラした色男じゃねえか。てっきりゴリラみたいな男の彼氏ができると思ってたんだが、意外にも線の細そうなのが好みなんだな」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ~」
「おっちゃん……安心したぜ。昔からガサツで脳筋で二次元嫁しか興味がなかったから心配していたんだ」
「ははは、そりゃあコイツと出会ってなけりゃあゴリラみたいな男を狙ってたかもな~」
キラキライケメンより、俺はどちらかと言えば筋肉系野郎の方がたしかにタイプである。筋肉は正義だからな。男であった時はホモじゃないのでそんな事は考えなかったが、元々女であったならゴリゴリの筋肉男がタイプだっただろうと思う。そんな事を考えていると、直は不満そうな顔をしていた。
「お前は筋肉ごりごりマッチョの野郎の方が好きなのかよ」
「や、それはあくまで元々女であったらの話であって今は違うというか……あ、もしかしておまいさん、俺の好みを聞いて不安になった?」
「っ……悪いかよ」
「いやいや。俺ってば愛されてるなぁって思って。全く一途な男だねーチミは」
茶化しながら言うも、直は真剣な顔を崩さない。
「想像すらもしたくない。オレと甲斐が出会ってない未来なんて。お前はよくそんな事言えるよな、こんなにも愛してるのに」
「っ、気持ちはわかるがここでそんなメロドラマみたいな台詞は照れるというかだな……」
真顔で直からの求愛に恥ずかしくなる。なんとなく見ていた周りの客もそわそわしていてこちらに注目していた。
「ヒューヒューお熱いね!」
「よっ、御両人!結婚しちゃえよー!」
「お似合いだぞー!」
俺らの様子を見ていたオヤジどころか常連客まで「ラブラブだねー」と、盛り上がっている。俺は盛大な冷やかしに羞恥心で顔をあげられない。店の客全員から祝福されるとか嬉しいやら恥ずかしいやらで爆発しそうだ。そんな直は全員から祝福されてまんざらでもない様子でニヤついている。こいつってマジで恥ずかしいって感情持ってないんじゃね?
「……美味しい……」
その後、気を取り直してラーメンを食う事にした。直は財閥のお坊ちゃん育ちなせいか、ラーメンなんて食べなれていないので、すする行為に苦労している様子が可愛らしかった。だから可愛いなんて言ってさしあげれば不満そうな顔でこちらを睨んできた。
「この店、隠れた名店だからホームページにも載ってないんだ。あんたの口にあうようでよかったよ」
「コックやシェフが作ったものより美味しく感じる」
「ふふ、毎回食べているものより、違ったものをいきなり食べると美味しく感じるもんだ」
ラーメンを堪能した後、ショッピングモールを見てまわったり、イルミネーション広場を歩いてみたりしていると、カップル達が自分たちの世界に浸りあっている。おっと、ここはリア充共の集まりだった。あまり寄り付かないようにしなければと考えていると、直から肩を抱き寄せられた。
「くっついてないとはぐれるだろ」
「まあ、そうなんだけど」
カップル達は人目もはばからず堂々とキスをしていやがる。よくできるよな。家族連れもそれなりにいるのに。もし、こんな場面を家族と出くわしたら微妙な空気になって気まずくなるもんだよ。ドラマのラブシーンに出くわしてしまったみたいにな。
「オレ達もしようか、キス。あいつら以上に濃厚なの」
「対抗すんなバカ。こんなとこでしたらお前の正体ばれちまうだろ。俺も嫌だし、こういうのは見せつけたくないから」
「別にばれてもいいんだけど。それにオレは見せつけたいタイプだ。まあ、お前がそう言うならやめとく。こうして二人でくっついて歩いているだけでも十分満足だし」
直は瑞々しい笑顔を見せた。それに俺も胸がきゅんとして温かくなる。
「……そうだよ。俺はそれだけで幸せなんだから」
「じゃああとでもっと幸せにしてやるよ。ベット上で」
「……お手柔らかにたのんます」
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