学園トップ~&ユカイのスピンオフ

いとこんドリア

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平和な世界線in女体化

女になっちまいました13

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「みんな迷惑かけた」

 身も心も回復できた俺は、すっかりいつも通りに戻った。依然として男には戻れていないし、まだ男に対して恐怖もあるが、普通の生活が送れるようになれるだけ万々歳である。


 恐怖症に関しては、Eクラスのみんなや信頼できる相手なら接しても大丈夫になった。だから今は健一や宮本君らもいる。入院当初は男ってだけで暴言を吐いていた気がするし、男子達に随分迷惑をかけたな。今度詫びとして肉まんでも奢ってやるか。

「そういえば元凶のあの女ってたしか行方不明なんだっけ」
「どこ行ったんだろうね」
「友里香ちゃんは知ってる?」
「いいえ。私はなにも」

 さすがの友里香ちゃんも知らないようだ。仮に知っていたとしてもしゃべらないだろう。その闇の部分は民間人である俺達が関わる必要のない部分。直とか四天王なら知っているだろうけどあえて触れない方がいいだろう。

「数日前に網走氏の父親が逮捕されたので、その娘の彼女も今までした事がマスコミによって明るみになり、タダでは済まないと思いますわ。何にせよ、彼ら一家は社会的に制裁を受けるでしょう」

 TVでは未だに大々的に報道されている。それほど世間に衝撃を与えたニュースで、彼女の不祥事も明るみになるだろうと友里香ちゃんは話した。


「それにしても驚きました。甲斐様があの網走氏と面識があった事。そして、その網走氏に目をつけられていた事に。本当に無事でよかったですわ」
「友里香ちゃんはあの女の事を悪い意味で知っていたんだな」
「ええ。それはもう……。彼女の悪い噂は社交界の世界でも有名でした。執拗に兄を狙って好意を抱いていた事も有名ですし、兄に近づく女性を片っ端から排除していた事も噂で聞いていました。そして、何も知らない上流階級の子女達に、いつも兄といい感じだとか、将来は兄と結婚する事を約束しただとか、デマを言いふらしていたみたいです。呆れてスルーしていましたが。だからこそ、妹として彼女の扱いには大変苦労しましたわ」

 今でこそ笑って話せるが、友里香ちゃんは網走梨華には相当参っていた事や、直の妹の立場として彼女とはあまり折り合いがよくなかった事を話す。いつもバチバチで口喧嘩が絶えなかったらしい。

「……そうなんだ。そこまでして、あの女は直を好きだったんだな。なんか憐れというかなんというか……ちょっと可哀想に思えてくるかも」
「ちょっと甲斐君!あんな女に同情することなんてないでしょう!キミにひどい事をしておまけに殺そうとした最低クソ女なんだから!」

 悠里が他人のことながら憤りを抑えきれない様子だ。俺のために怒ってくれている。それに便乗して、健一や宮本君や本木君も同調する。

「そうだよ。甲斐はお人好しすぎだよ」
「僕、甲斐君が精神科で入院し始めた時、あまりの甲斐君の状態に見ていられなかったよ。あんなに元気だった甲斐君があそこまで怯えてて、可哀想で友達としてすっごい腹が立ったんだから」
「俺も同じだ。あいつがした事はれっきとした薬物と強姦幇助とおまけに殺人未遂だ。そんな女は情状酌量の余地もない。中途半端に可哀想なんて思っていたら、世の中の犯罪者は皆釈放されてしまう。そこは完全に怒りを見せないとだ」
「……まあ、そうなんだけどさ。ちょっとだけ憐れな女だなって思っただけ。好きな人に振り向いてくれない辛さや、醜い嫉妬心を抱く気持ちがよくわかるしさ。だけど俺も一生許すつもりはないし、できる事ならゴキおもちゃで地獄を見せてやりたかったって感じ」

 された事を考えるとそれだけじゃ生ぬるいかもしれないが、あの女がゴキ地獄に悲鳴をあげて逃げ惑う無様な姿を見れるだけでスカッとはしそうである。動画とかに撮ってゲラゲラ笑うだけのつまらない仕返しだけどさ。

 そういえば昨日、直と相沢先生が来ていた時、俺が男性恐怖症というトラウマを持ったお返しにゴキブリ恐怖症にさせてやりたいもんだと笑いながら言ったら、直と先生が『考えておく』とか言っていたけど、もしかして実行してないよな。

 なんとなくお遊びで口にした事だから冗談だと流してくれるといいが……あの二人の事だ。流さないよな、きっと。まあ、あの女の処遇は直達が勝手にすると思うので、俺は考えない事にした。


「じゃあ甲斐君。そろそろ僕らは帰るね」
「体冷やすんじゃないよ。あと何かあったらちゃんと相談しな」
「では拙者も。帰ってゲームをするをば」
「あ、俺もゲームっと。じゃあな甲斐」

 宮本君や篠宮に続いてぞろぞろと扉の方へ向かう。オタ熊と吉村は言わずもがなエロゲだろう。

「みんな帰るのはやいなぁ」
「だって、甲斐ちゃんの王子様が帰ってきたみたいだし~アタシ達がいるとお邪魔でしょぉ」

 五反田がそう茶化すと、かしまし三人娘もウンウンと納得している。

「王子って」
「ちょっと!あたしはまだお兄ちゃんといるんだからっ!お兄ちゃんがまた男性恐怖症を再発するかもしれないし!帰りませんよーだ!」
「わ、わたくしだって甲斐様といますっ!心配ですから帰りませんっ!」
「何言ってんの。あんた達は部活や仕事で忙しいでしょ。ほら、もたもたしてないで帰るよ。おチビちゃん二人組」
「「チビじゃないわよっ(です)!」」

 南先生が妹ズ二人を引っ張っていくように連れて行くので、呆気にとられていると、入れ替わるように王子様とやらが入ってきた。

「あ……直……」

 どう見ても王子って柄ではないだろう。むしろ魔王だろと突っ込みたかったが、全員は部屋からさっさと出て行ってしまった。わざわざ二人きりにしてもらわなくてもいいのに、逆に二人きりにされて恥ずかしい。両想いになっても意識してしまうのは止まらない。

「いつものお前に戻ってよかった。妹達やEクラスの奴らはお前の事を滅茶苦茶心配していたからな」
「……ぅ、うん、知ってる。いっぱい迷惑かけたなって申し訳なくて……」

 なんだか直視できなくて、ベット上の布団を見つめている。

「申し訳ないなんて思わなくていい。いつもの元気なお前が戻って来てくれたってのが何よりなんだ。すごくホッとしている」
「そ、そうか……ありがと。その……一番は……あんたに……直に……世話になったしな……」

 顔が見る見るうちに熱く、赤くなっていくのが自分でもわかってしまう。ああ、どうしたらいいかわからない。頭が真っ白になってしまう。照れくさすぎて何を話したらいいかわからない。

「何、今更恥ずかしがってんだよ」

 そんな直は俺の様子を察して、微笑ましそうに見つめている。

「う、ただ……あんただから……て、照れちまって」
「オレにドキドキして意識してくれているの……嬉しいよ、甲斐」
「っ……」
「オレもドキドキしてる。初めて本気で人を好きになったんだから」

 その割には平然としている直。でもよく見れば直の頬は赤く染まっている。

「それでもさ、いいよなお前。なんか女の扱いに慣れてそうで平然としてそうじゃん」
「慣れて平然としている?全然だ。恵梨以外の今までの付き合った女は全部邪険に扱っていたから、本当に大切に扱うってよくわからなかった。こうすればどうせどの女も喜ぶだろうとか、調子に乗るだろうとか、教科書通りのテキトーさで女をリードしていた。だから、本当に大切にしたい人の……甲斐の扱い方なんて全然慣れてないし、わからない。この後、どうしたら甲斐の笑顔が見れるか、どうしたら甲斐がもっとオレを好きになってくれるかとか、こんなオレでも必死に考えているんだ。甲斐が嫌がる事はしたくないから……」
「直……」

 俺が立ち直ってから、直は一度も俺に触れてこなくなった。手さえも握って来なくて、今も距離が少し離れている。少し近づく時もわざわざ声を掛けてくるほどだ。

 あんな事件があったから、俺が怖がらないようにあえて距離をとっているのかもしれない。看護師も医者も全て女性にしてもらったし、面会に来るのもしばらくは妹やEクラスの女子限定だった。

 今は直が俺に向き合ってくれたおかげで少しずつ平気になってきている。Eクラスの男子や四天王など、信頼できる相手なら一緒にいても大丈夫になってきているし、直限定で二人きりになっても平気になった。だけど……


「甲斐?」

 抱き締めてほしいと思ったのは贅沢だろうか。

 たしかに俺の事を考えて距離を保ってくれているのはわかる。怯えないように配慮をして気を使ってくれている。でも、好きな人に触れられないのって思ったより寂しい事を知った。この距離感だってとてももどかしい。

 せめて手くらいは繋ぎたいなと思う。怖くて震えてしまうかもしれないが、今一緒にいるって分かち合いたいのに。

「なあ、直……」

 俺は頬が熱くなるのを感じながらおずおず口を開く。しかし、羞恥心からなかなかその先が出てこない。

「っえ、と……その……」
「なんだ。何か欲しいものでもあるなら取り寄せるが……」
「そうじゃないんだ」
 
 ああ、なんていうか言いづらい事だよな。こういうのって。

「な、直はさ……俺に、ふ、触れたい……?」
「は……」
「あ、いや、その、ぜ、全然、触れて、こないから」
「それは……」

 直は難しい顔をする。そりゃあそうだよな。返事に困るというか、俺がこんな状態だもんな。いつまたフラッシュバックするかわからないわけだし。でも……

「俺……あんたに触れたいな……」

 肌恋しいというのはこういう事なんだろう。

「っ……」
「だめ、かな。せめて、手くらいは……繋がりたいって……思ったんだ」
「甲斐……わかった」

 直は俺に近づいてきて、手をおずおずと差し出した。そっと俺の手に触れると、さわさわと指を一本一本触れて、それから甲にも触れて撫でる。まるで壊れ物を扱うような触れ方で少しじれったい。次第に掌ごと包まれて、握られて、指も絡められる。妙に艶めかしい絡め方だ。

 汗ばんだ手。直は緊張してくれているのだろうか。そんな俺も、手を絡めるだけでこんなにドキドキするなんて思わなかった。


「頭とかも……いいよ……」 

 欲求が出てきた俺は、自ら直の方に近づいた。

「頭、撫でてほしいのか?」
「……うん」

 直のもう片方の手がゆっくり俺の頭部に移動し、動物を愛でるみたいにさわさわと撫でた。何度も何度も繰り返し優しい愛撫が続けられる。愛情を感じるものだ。

 たったこれだけで今までされたキス以上にドキドキしてしまうのは、両想いになったからもあるし、触れられる喜びを感じているからだろう。心地いいどころか、気持ちがいいのかもしれない。悪意のある男だったら嫌悪感しか感じないのに、好きな人相手だと心地よくて嬉しい。

「そうやって触られるの、好きだな……」

 俺の顔は今すごくうっとりしているかもしれない。

「じゃあ、もっと……触っていいか?」
「…………いいよ」

 さらに耳や頬に触れていく。温かくて優しい手触り。前まで問答無用で触れてきたり、いきなりキスだってしてきたのに、今はおずおずといった様子だ。

「オレは……お前が思っている以上に臆病で寂しがり屋だから……」
「……寂しがり屋なのは知ってる。でも、臆病なのは意外だと思ったよ」
「お前限定でだ、甲斐。お前には嫌われたくないから。怖がらせたくないから。今は遠慮して、すっげぇ我慢してる」
「直……」

 そうだろうと思う。元男だからこそわかる事だ。

「今日は、これくらいにしておく。いきなりだと、お前の心がまだ追いつかないはずだから」
「………うん」

 物足りないが、仕方がない。これでも進展した方だ。

「いっぱい触ると、加減ができなくなって止まらなくなるから。お前を怖がらせてしまう」
「……ごめん」
「いいんだ。今はお前が元気になって、そばにいられるだけで満足しているから」

 そのうち、もっともっとスキンシップが増えて、普通に抱き合ったりできるようになればいいなと思う。


 *

 甲斐と別れて部屋を出ると、オレはその場にしゃがみこんだ。頭を押さえながら見習い修行僧の気分で悶々とする。深いため息を吐き、頭をかく。

 頬を紅潮させながら上目遣いで見つめてくる甲斐は恐ろしく色気があった。その上その憂いを帯びた表情で「触れたい」だなんて。破壊力抜群な誘惑行為に抑えがきかなくなる所だった。

 危なかった。あのままさらに触っていたら、甲斐に何をするかわかったもんじゃなかった。甲斐はだいぶ落ち着いたとはいえ、まだ男性恐怖症の片鱗を見せているのに。迂闊な言動はまだ慎まなければならない。

「はあ~」

 甲斐に似たAV女優の動画でも漁るか。久瀬に探させよう。そんでむなしくオカズにしよう。欲求不満解消は適度に発散しなければ体に毒である。

「あはは。直君てば顔やつれてる~」
「無理もない。お触り厳禁だからな。我慢に我慢を重ねているんだろう」
「お前ら、来ていたのか」

 精神科の病棟に穂高とハルが荷物を持ってやってきた。こいつらも仕事で忙しいくせによく来たもんだ。

「甲斐君に猫をお見舞いに連れてきたんだ~。キャットセラピーってやつ。メンタル的にいいと思って」

 穂高の両腕には猫キャリーが握られている。白い猫と銀髪猫の愛嬌のある顔が見えた。

「全く。我が久瀬病院の院内に猫を入れるなどご法度だが、今回だけは大目に見る。看護師や他の患者に迷惑かけるなよ」
「わかってるよ。この二匹は甲斐君の前では大人しいから大丈夫」
「それ、甲斐が飼ってる猫か?」
「そうだよ。甲斐君と同じ名前のカイちゃんとシルバーちゃんだよ。甲斐君喜ぶでしょ」

 オレが公園で拾ったシルバーの毛並みの猫は、オレを見るなり嬉しそうだった。元気そうだな。

「「ニャーにゃー」」
「あはは、二匹とも直君に懐いてるんだっけ」
「猫のカイはメスだからオレが好きみたいだ。シルバーの方はオレが拾って来たからな」

 二匹とも、オレと甲斐の思い出であり、家族みたいなものだ。これで少しは甲斐の心が癒されれば幸いだ。


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