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平和な世界線in女体化
女になっちまいました9
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※流血や無理矢理な暴力など多め
「ここは……」
ぐるりと見渡せばどこかの廃工場の跡地だった。先ほど出会った姫とかいうバカ女に、腕に刺されたおかしな注射器のせいで意識が朦朧とする。動悸が激しくなり、めまいもする。一体なんの薬なのだろう。ただの睡眠薬とは思えない。ちょっと苦しい。熱っぽいし、体がだるいな。
それに身動きを取ろうとすると両腕が全く動かない事に気づいた。背後の柱に手錠のようなもので両手首が拘束されている。当然ながら力を入れても外れない。自分が男であったなら力づくで引きちぎる事はできただろうが、意識が朦朧とする上にひ弱な女の状態ではびくともしない。
「やっと目を覚ましたんだね」
バカ女が向こうから姿を現し、その隣にはあの女もいる。
「よく架谷甲斐を連れてきてくれたわね、バカ姫」
「何そのひどい呼び方っ!瑠偉姫か姫って呼びなさいよ性悪女!」
プンプンと頬を膨らませて怒るバカ女をあっさりスルーする網走。二人の仲はよろしくない。
「ねえ、どうしてここに連れて来られたか心当たりはあるわよね?」
「まあ、一応」
こうなる事はなんとなくわかっていた。直の気持ちを受け入れた時から。
「自分から直とはなんでもないとハッキリ言いながらも、陰で直に近づいてたぶらかしているんだから。相当な性悪じゃないとできないわよね」
「…………」
自分だってこんな事になるとは思わなかった。あいつの今後のためと自分に自信が持てないために身を引こうと思ったのに、直が涙ながらに自分を一途に求めて離さないために受け入れたようなモノ。
自分個人としては嬉しいけれど、それがよかったのかどうなのか後にならないとわからない。反対の声は当然あるだろうから、自分としては何も言い返せない。この女の事は大嫌いだが、約束した事を覆す形になってしまったのは申し訳ない。
「だからさ、誓いなさいよ」
「誓う?」
「もう二度と直に近づかないって。関わらないって。そうしたら何もしないで返してあげる。修復不可能なくらい直をあんたが突き放すのよ」
「…………」
「できないの?」
網走がぎろりと睨む。俺は視線をそらした。
「まあ、あたしに嘘までついて隠れて直と親密になっているんだものね。そう簡単に直を譲れないわよねぇ。直をたぶらかした泥棒猫さん」
「…………」
もし、今度アイツを突き放せば、本当にアイツは壊れてしまうだろう。保健室で直に襲われそうになった時、初めて本当の恐怖を感じた。この俺が泣くほどに。
ただただ、恐かった。本当に怖くて、壊れかかった玩具のような兆しを見せつけられたのだ。あれは今にも人を何人も殺してしまいそうなほどの狂気の目。できればあんな直はもう二度と見たくない。見ていられない。
壊れそうになるほど俺に対して一途に想ってくれている。そんな直を突き放す事なんてもう二度と出来ない。
「泥棒猫でかまわない。そのための罰ならいくらでも受けてやる」
もう気持ちに嘘はつけなかった。
「そう、そうなの……」
静かにつかつかと網走が俺に近づき、殺意の眼差しを向けられた。そして、
「今更あんたの本性表してんじゃないわよッ!!」
頬を思いっきりぴしゃりと殴りつけられた。続けざまに腹をピンヒールで強く蹴りつけられる。
「ぐっ!」
鳩尾の痛みに顔を歪めて仰け反る。咄嗟に体を縮こませて腹部に力を入れていなかったら痛みどころではなかった。柱の拘束のせいでうまく避ける事もできなかった。俺はそのままずるずる倒れ、ぼやける視界のまま網走を見上げる。
「ただの苦痛じゃへこたれないのね。どうやらあんたにはただの暴力より、特殊な暴力の方が堪えそうだから前もって準備しておいてよかったわ。あんた達、来て」
網走は背後の方に待ち構えていた数人の獰猛そうな男達を顎で呼んだ。男達はアンダーグラウンドの世界にいそうな人相の悪そうな面々で、俺を一目見るなり「美味そうだ」と厭らしく笑った。
「わぁ~性悪女さいてー。そこまでしちゃうなんて倫理観狂ってるぅ~」
「ふん、なんとでも言いなさいよ。こんなアバズレ……滅茶苦茶にされてしまえばいいのよ。むしろ死ねばいいんだから。男共にヤラレながらね!」
「ッ……」
やっぱそうきたか。女になった時点でそういうイカガワシイ展開のリスクもよぎる。
「へへへ、本当にいいんですかぁ?」
「あたしの直に近づいてたぶらかした報いを受ければいいんだわ」
「ちょっとぉ、あたしの直とか違うし~!直様は姫のものだもん!姫の王子様だもん!」
「あーうるさいわね!用が済んだのならアンタは帰りなさいよッ!直は渡さないわよ!」
「きーっ!直様は姫のモノなんだからっ!今にみてなよねっ。瑠偉姫、あんたの事パパに言いつけてやるんだからっ!直様にもねーだっ!」
意地川は悔しげに捨て台詞を吐いて走り去って行く。
「ふん、直に言っても痛くも痒くもないわ。言ったところで今回だって溜息吐かれて終わるだけ。どうせそれがどうした、大勢の中の愛人の一人や二人どうなろうが知ったこっちゃないで済ませるんだもの。今回のこの女だってそう。あの人がたった一人の女に本気になる筈がないんだから」
網走は俺に寄ろうとしている男達を見据えて言う。
「さあ、今宵は楽しいショーの始まり。あたしはそのショーを見ないけれど、ちゃんとカメラに収めて裏ルートでばらまいて売ってあげるから感謝しなさい。純情そうな顔をして実は四天王をもたぶらかす女。その末路は肉便器に成り下がるってタイトルつけてね!アハハハ!じゃあね」
そう言い残してその場を通り過ぎると、網走は去り際にふと思いついたように振り返る。喜悦を秘めていた。
「ああ、言い忘れていたけど、あのバカ女があんたに打ちこんださっきの注射器ね、今裏ルートで流行ってる特殊なドラッグだから」
「は……?」
「もちろん海外で出回ってる違法性薬物。表では出回っていない強力なやつで、数時間後には思考力を鈍らせたり、強い不安症状を引き起こしたり、錯乱させる効果がある。あんたのその激しい動機やめまいはそれからくるものよ」
「なんだと……!」
ゾッとした。だからこんなにも苦しくて眩暈が止まらないのか。思考力もいつもより鈍っている気もする。それらは全てその違法性ドラッグの効果だというのだろうか。
「あまりに強力な薬だから、一回の投与で依存性を高めてしまうわ。ある意味猛毒ね。裏の世界でも危険視されているんだけど……アンタ、薬物中毒になるかもね。まあ、中毒になる前にあんたがいろんな意味でくたばってるかもしれないから知っても無駄だけど。んじゃ、これで本当にバイバイ」
今度こそ網走は愉悦に浸りながら去って行った。
「いやだ!!やめっ……ンンッ!」
唇にナメクジが這うような感触がして気持ちが悪い。口臭い。汚い。触るな。無我夢中で襲ってくる男の舌に歯を立てた。
「くっ、この女ッ!歯ァ立てやがった!クソ、大人しくしやがれ!」
「うッ……ぐ!」
二度頬に拳が飛んだ。
「でもよぉ、抵抗されると逆に興奮しねえ?俺、嫌がる女を無理やり犯すの大好きなんだよなぁ」
「俺もそれには同意だ。所詮、女は男の力には勝てねぇんだからよォ。それに思いっきり殴れるサンドバックときた。オラァ!」
今度は腹を蹴られた。
「ッか、は……!」
思わず血を吐いて地面に仰け反る。
「おいおい。あんまり殴るなよ。商品価値がなくなるじゃねえか。それにカメラまわってるしよ」
「別にいいだろ。暴力がお好きな過激なセックスを売りにするんだから。その手の被虐物が好きな奴にはきっと好評だろうぜ」
「うう、さい、あく。おま、えら……趣味悪……っ」
男達を睨みつけて罵る事しかできない。
「なんとでも言えよ。こういうアングラなのが俺らの仕事なんだ。それにたんまり金もらってるからなァ。あの女から。矢崎財閥さんによォ」
「……や、ざき……ざい、ばつ……?」
その言葉に茫然とする。
「矢崎財閥ったらすげぇ金持ちの日本一の財閥だもんなァ。そこんところにコネのある女はやっぱ違うぜ」
直が……あの女と……繋がってた……?俺を好きって言ったの……うそだった……?
ふと、網走が言っていた言葉を思い出す。
『彼の浮気性や飽き性は知っているでしょう?つまらなくなったら飽きて捨てるってね』という言葉を。通常時に考えればそれは昔の事だと簡単に否定できるのに、今の俺のぼんやりとした思考力ではそれが真実だと鵜呑みにせざるをえない。
俺は……捨てられた……。すてられていたんだ……。
「うしし、あの女は正之社長の愛人らしいからなァ。愛人経由っちゃあアホみたいに金もらえて贅沢三昧。その金で息子の御曹司様に近づく女を排除するために俺達が雇われたってわけだ」
「その御曹司様には見向きもされてないって話らしいけどな。振り向いてもらおうとありとあらゆる悪事に手を染めて、美人なくせして憐れな女だぜ」
「性格は悪い女だからな。美人だが俺だったら勘弁だぜ。体とセックスはよさそうなんだがよォ」
そんな会話が聞こえているが、俺にはもう何も聞こえていなかった。ただただ、いろんな事がショックで茫然自失に涙がこぼれた。
「ははははは……すて、られ、たんだ……」
そして、絶望感を感じてひたすら笑った。涙を流しながら。
「おれは……直、に……はははは……あははははははははははは」
「おい、なんかこの女怖くね?不気味に笑ってやがる……」
「薬の影響だろ。その状態じゃあ壊れちまったかもな」
「強力な薬だって噂だからよォ、数時間後には俺らのおかげで快楽地獄。そんで肉便器となって明日には廃人同然になってるかもなァ。もしくは死んじまうかも。薬の成分が体とあわなさすぎて死んじまう奴もいるって話だからな」
「仮に死んだとしても、あの女が後処理してくれるらしいからケーサツ沙汰にはぜってぇなんねーし、社長の愛人てコネでもみ消してくれるから万々歳だ」
男達は制服をナイフで切り裂き、俺の体に貪りついた。数人の男のごつごつした手があらゆる場所を這いずりまわっている。
「へへへ……結構いいカラダだな」
「処女らしいぜ。可哀想だが死ぬ前に大人の世界に引き入れてやろう。それがこいつへの手向けだ」
好きな人にあきてすてられて……おれは……ようなし……。
「オラ、ちゃんと俺のちんぽしゃぶれってんだ。歯ァたてやがったらブン殴ってやるからよ」
「ん、ふ、ぅ……んちゅ、ふ……」
「そうそう。そういう風にしゃぶれよ」
「んぐ……んぐ……」
ああ、くるしいな……。
いろんなところがいたくて、だるくて、あたまがふわふわして、めがまわって、はきけもして。おれ、このまましんじゃうのだろうか。りょうしんにも、いもうとのみらいにも、くらすめーとにもあえず、ぶざまにしんじゃうのだろうか。
それも……いいかも……。
あいつにすてられたおれに……もういみなんてない。
「おい、はやくイレろよ!順番がつかえてんだよ」
「ちょっと待てよ。コイツ処女だからなかなかすんなり奥へいかねーんだよ」
「チッ、下手くそが。だから処女は最初が面倒くせーんだよ」
その時、向こうの方で扉が開く音がした。
「おい、今なんか向こうの方で音がしなかったか?もしかして誰かが来たんじゃね?」
「あ?しらねぇよ。どうせあの女の仲間で」
パーンと音がした。
率先して圧し掛かっていた男が倒れた。男の体はいつの間にか真っ赤に染まっていて、何が何だかわからない二人の男は呆気にとられて茫然としている。
そして、向こうから数人の人影がこちらにやってくるのが見え、徐々に鮮明になってくると、銀髪の美青年がこちらを見据えていた。右手には銃を持ち、絶対零度の瞳を宿したその表情は、殺意と憤怒があわさった冷酷無情の支配者の顔。
男達にはそれがとてつもなく恐ろしいものに見えた。そのあまりに恐ろしくも美しい姿に、言葉に出来ないような恐怖を感じ、そして気が付けば残り二人の視界は暗転していた。
「ここは……」
ぐるりと見渡せばどこかの廃工場の跡地だった。先ほど出会った姫とかいうバカ女に、腕に刺されたおかしな注射器のせいで意識が朦朧とする。動悸が激しくなり、めまいもする。一体なんの薬なのだろう。ただの睡眠薬とは思えない。ちょっと苦しい。熱っぽいし、体がだるいな。
それに身動きを取ろうとすると両腕が全く動かない事に気づいた。背後の柱に手錠のようなもので両手首が拘束されている。当然ながら力を入れても外れない。自分が男であったなら力づくで引きちぎる事はできただろうが、意識が朦朧とする上にひ弱な女の状態ではびくともしない。
「やっと目を覚ましたんだね」
バカ女が向こうから姿を現し、その隣にはあの女もいる。
「よく架谷甲斐を連れてきてくれたわね、バカ姫」
「何そのひどい呼び方っ!瑠偉姫か姫って呼びなさいよ性悪女!」
プンプンと頬を膨らませて怒るバカ女をあっさりスルーする網走。二人の仲はよろしくない。
「ねえ、どうしてここに連れて来られたか心当たりはあるわよね?」
「まあ、一応」
こうなる事はなんとなくわかっていた。直の気持ちを受け入れた時から。
「自分から直とはなんでもないとハッキリ言いながらも、陰で直に近づいてたぶらかしているんだから。相当な性悪じゃないとできないわよね」
「…………」
自分だってこんな事になるとは思わなかった。あいつの今後のためと自分に自信が持てないために身を引こうと思ったのに、直が涙ながらに自分を一途に求めて離さないために受け入れたようなモノ。
自分個人としては嬉しいけれど、それがよかったのかどうなのか後にならないとわからない。反対の声は当然あるだろうから、自分としては何も言い返せない。この女の事は大嫌いだが、約束した事を覆す形になってしまったのは申し訳ない。
「だからさ、誓いなさいよ」
「誓う?」
「もう二度と直に近づかないって。関わらないって。そうしたら何もしないで返してあげる。修復不可能なくらい直をあんたが突き放すのよ」
「…………」
「できないの?」
網走がぎろりと睨む。俺は視線をそらした。
「まあ、あたしに嘘までついて隠れて直と親密になっているんだものね。そう簡単に直を譲れないわよねぇ。直をたぶらかした泥棒猫さん」
「…………」
もし、今度アイツを突き放せば、本当にアイツは壊れてしまうだろう。保健室で直に襲われそうになった時、初めて本当の恐怖を感じた。この俺が泣くほどに。
ただただ、恐かった。本当に怖くて、壊れかかった玩具のような兆しを見せつけられたのだ。あれは今にも人を何人も殺してしまいそうなほどの狂気の目。できればあんな直はもう二度と見たくない。見ていられない。
壊れそうになるほど俺に対して一途に想ってくれている。そんな直を突き放す事なんてもう二度と出来ない。
「泥棒猫でかまわない。そのための罰ならいくらでも受けてやる」
もう気持ちに嘘はつけなかった。
「そう、そうなの……」
静かにつかつかと網走が俺に近づき、殺意の眼差しを向けられた。そして、
「今更あんたの本性表してんじゃないわよッ!!」
頬を思いっきりぴしゃりと殴りつけられた。続けざまに腹をピンヒールで強く蹴りつけられる。
「ぐっ!」
鳩尾の痛みに顔を歪めて仰け反る。咄嗟に体を縮こませて腹部に力を入れていなかったら痛みどころではなかった。柱の拘束のせいでうまく避ける事もできなかった。俺はそのままずるずる倒れ、ぼやける視界のまま網走を見上げる。
「ただの苦痛じゃへこたれないのね。どうやらあんたにはただの暴力より、特殊な暴力の方が堪えそうだから前もって準備しておいてよかったわ。あんた達、来て」
網走は背後の方に待ち構えていた数人の獰猛そうな男達を顎で呼んだ。男達はアンダーグラウンドの世界にいそうな人相の悪そうな面々で、俺を一目見るなり「美味そうだ」と厭らしく笑った。
「わぁ~性悪女さいてー。そこまでしちゃうなんて倫理観狂ってるぅ~」
「ふん、なんとでも言いなさいよ。こんなアバズレ……滅茶苦茶にされてしまえばいいのよ。むしろ死ねばいいんだから。男共にヤラレながらね!」
「ッ……」
やっぱそうきたか。女になった時点でそういうイカガワシイ展開のリスクもよぎる。
「へへへ、本当にいいんですかぁ?」
「あたしの直に近づいてたぶらかした報いを受ければいいんだわ」
「ちょっとぉ、あたしの直とか違うし~!直様は姫のものだもん!姫の王子様だもん!」
「あーうるさいわね!用が済んだのならアンタは帰りなさいよッ!直は渡さないわよ!」
「きーっ!直様は姫のモノなんだからっ!今にみてなよねっ。瑠偉姫、あんたの事パパに言いつけてやるんだからっ!直様にもねーだっ!」
意地川は悔しげに捨て台詞を吐いて走り去って行く。
「ふん、直に言っても痛くも痒くもないわ。言ったところで今回だって溜息吐かれて終わるだけ。どうせそれがどうした、大勢の中の愛人の一人や二人どうなろうが知ったこっちゃないで済ませるんだもの。今回のこの女だってそう。あの人がたった一人の女に本気になる筈がないんだから」
網走は俺に寄ろうとしている男達を見据えて言う。
「さあ、今宵は楽しいショーの始まり。あたしはそのショーを見ないけれど、ちゃんとカメラに収めて裏ルートでばらまいて売ってあげるから感謝しなさい。純情そうな顔をして実は四天王をもたぶらかす女。その末路は肉便器に成り下がるってタイトルつけてね!アハハハ!じゃあね」
そう言い残してその場を通り過ぎると、網走は去り際にふと思いついたように振り返る。喜悦を秘めていた。
「ああ、言い忘れていたけど、あのバカ女があんたに打ちこんださっきの注射器ね、今裏ルートで流行ってる特殊なドラッグだから」
「は……?」
「もちろん海外で出回ってる違法性薬物。表では出回っていない強力なやつで、数時間後には思考力を鈍らせたり、強い不安症状を引き起こしたり、錯乱させる効果がある。あんたのその激しい動機やめまいはそれからくるものよ」
「なんだと……!」
ゾッとした。だからこんなにも苦しくて眩暈が止まらないのか。思考力もいつもより鈍っている気もする。それらは全てその違法性ドラッグの効果だというのだろうか。
「あまりに強力な薬だから、一回の投与で依存性を高めてしまうわ。ある意味猛毒ね。裏の世界でも危険視されているんだけど……アンタ、薬物中毒になるかもね。まあ、中毒になる前にあんたがいろんな意味でくたばってるかもしれないから知っても無駄だけど。んじゃ、これで本当にバイバイ」
今度こそ網走は愉悦に浸りながら去って行った。
「いやだ!!やめっ……ンンッ!」
唇にナメクジが這うような感触がして気持ちが悪い。口臭い。汚い。触るな。無我夢中で襲ってくる男の舌に歯を立てた。
「くっ、この女ッ!歯ァ立てやがった!クソ、大人しくしやがれ!」
「うッ……ぐ!」
二度頬に拳が飛んだ。
「でもよぉ、抵抗されると逆に興奮しねえ?俺、嫌がる女を無理やり犯すの大好きなんだよなぁ」
「俺もそれには同意だ。所詮、女は男の力には勝てねぇんだからよォ。それに思いっきり殴れるサンドバックときた。オラァ!」
今度は腹を蹴られた。
「ッか、は……!」
思わず血を吐いて地面に仰け反る。
「おいおい。あんまり殴るなよ。商品価値がなくなるじゃねえか。それにカメラまわってるしよ」
「別にいいだろ。暴力がお好きな過激なセックスを売りにするんだから。その手の被虐物が好きな奴にはきっと好評だろうぜ」
「うう、さい、あく。おま、えら……趣味悪……っ」
男達を睨みつけて罵る事しかできない。
「なんとでも言えよ。こういうアングラなのが俺らの仕事なんだ。それにたんまり金もらってるからなァ。あの女から。矢崎財閥さんによォ」
「……や、ざき……ざい、ばつ……?」
その言葉に茫然とする。
「矢崎財閥ったらすげぇ金持ちの日本一の財閥だもんなァ。そこんところにコネのある女はやっぱ違うぜ」
直が……あの女と……繋がってた……?俺を好きって言ったの……うそだった……?
ふと、網走が言っていた言葉を思い出す。
『彼の浮気性や飽き性は知っているでしょう?つまらなくなったら飽きて捨てるってね』という言葉を。通常時に考えればそれは昔の事だと簡単に否定できるのに、今の俺のぼんやりとした思考力ではそれが真実だと鵜呑みにせざるをえない。
俺は……捨てられた……。すてられていたんだ……。
「うしし、あの女は正之社長の愛人らしいからなァ。愛人経由っちゃあアホみたいに金もらえて贅沢三昧。その金で息子の御曹司様に近づく女を排除するために俺達が雇われたってわけだ」
「その御曹司様には見向きもされてないって話らしいけどな。振り向いてもらおうとありとあらゆる悪事に手を染めて、美人なくせして憐れな女だぜ」
「性格は悪い女だからな。美人だが俺だったら勘弁だぜ。体とセックスはよさそうなんだがよォ」
そんな会話が聞こえているが、俺にはもう何も聞こえていなかった。ただただ、いろんな事がショックで茫然自失に涙がこぼれた。
「ははははは……すて、られ、たんだ……」
そして、絶望感を感じてひたすら笑った。涙を流しながら。
「おれは……直、に……はははは……あははははははははははは」
「おい、なんかこの女怖くね?不気味に笑ってやがる……」
「薬の影響だろ。その状態じゃあ壊れちまったかもな」
「強力な薬だって噂だからよォ、数時間後には俺らのおかげで快楽地獄。そんで肉便器となって明日には廃人同然になってるかもなァ。もしくは死んじまうかも。薬の成分が体とあわなさすぎて死んじまう奴もいるって話だからな」
「仮に死んだとしても、あの女が後処理してくれるらしいからケーサツ沙汰にはぜってぇなんねーし、社長の愛人てコネでもみ消してくれるから万々歳だ」
男達は制服をナイフで切り裂き、俺の体に貪りついた。数人の男のごつごつした手があらゆる場所を這いずりまわっている。
「へへへ……結構いいカラダだな」
「処女らしいぜ。可哀想だが死ぬ前に大人の世界に引き入れてやろう。それがこいつへの手向けだ」
好きな人にあきてすてられて……おれは……ようなし……。
「オラ、ちゃんと俺のちんぽしゃぶれってんだ。歯ァたてやがったらブン殴ってやるからよ」
「ん、ふ、ぅ……んちゅ、ふ……」
「そうそう。そういう風にしゃぶれよ」
「んぐ……んぐ……」
ああ、くるしいな……。
いろんなところがいたくて、だるくて、あたまがふわふわして、めがまわって、はきけもして。おれ、このまましんじゃうのだろうか。りょうしんにも、いもうとのみらいにも、くらすめーとにもあえず、ぶざまにしんじゃうのだろうか。
それも……いいかも……。
あいつにすてられたおれに……もういみなんてない。
「おい、はやくイレろよ!順番がつかえてんだよ」
「ちょっと待てよ。コイツ処女だからなかなかすんなり奥へいかねーんだよ」
「チッ、下手くそが。だから処女は最初が面倒くせーんだよ」
その時、向こうの方で扉が開く音がした。
「おい、今なんか向こうの方で音がしなかったか?もしかして誰かが来たんじゃね?」
「あ?しらねぇよ。どうせあの女の仲間で」
パーンと音がした。
率先して圧し掛かっていた男が倒れた。男の体はいつの間にか真っ赤に染まっていて、何が何だかわからない二人の男は呆気にとられて茫然としている。
そして、向こうから数人の人影がこちらにやってくるのが見え、徐々に鮮明になってくると、銀髪の美青年がこちらを見据えていた。右手には銃を持ち、絶対零度の瞳を宿したその表情は、殺意と憤怒があわさった冷酷無情の支配者の顔。
男達にはそれがとてつもなく恐ろしいものに見えた。そのあまりに恐ろしくも美しい姿に、言葉に出来ないような恐怖を感じ、そして気が付けば残り二人の視界は暗転していた。
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