ユカイなスピンオフ

近所のひと

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ユカイなスピンオフ(本編スピンオフ)

触らぬ直に祟りなし

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※14ー10辺りの記憶なしの直のエピソードから17章前にかけての話。

直に惚れたでしゃばりOBモブ視点の話。




 初めて見た時、この世の何よりも美しい天使だと思った。 

 彼の双子の妹や母親の美しさは言わずもがな。その父親や祖父までもが極上のイケメン。家族全員そろいもそろって国宝級美形一家とは、俺もついているなぁとほくそ笑んだ。

 まあ何より、一番心惹かれたのは長男息子だがな。

 俺はこう見えてTVに出るほどのイケメンドクターと言われていて、顔がいいとよく言われる。元無才学園出身のゲイで、生徒会にも在籍した事があるのだ。むろん生徒会長だった。

 それでこの容姿と医者という職業のおかげでモテモテ。女の子は勿論の事、そっち系の男からもたくさん声がかかり、毎日よりどりみどりのウハウハ。

 まあ何が言いたいかというと、自分に手に入らない子はいないと思っている。極上のテクを持つゴールデンフィンガーを持ち、アナルを開発する名人でもあり、ノンケをそっち系に引き込む事など朝飯前なこの俺は、通称可愛い男の子ショタコンキラーと呼ばれているのだから。

 どんな可愛い子も俺にかかればアヘ顔ヘロヘロセックス狂いのメスに大変身である。

 そんな生粋のゲイホモだから綺麗な女を見ても勃たないし、俺は男にしか惹かれない。いくらの妹や母親とはいえ論外なのだ。

 まあ、ぽやぽや天然で方向音痴の一樹さんも、イケおじ風だが涙もろい勝さんも、微笑ましい程可愛いくて俺好みだが、やはりさすがに年齢が離れているからな。おっさんは許容範囲ではあるが、男の娘キラーとしては今回はこの超絶美少年をロックオン。この俺には珍しくガチな一目惚れだからな。本気の本気だ。

 こんな超Sランク級綺麗美人はなかなかお目にかかれない。それなりな芸能人と関りがある俺でも、これほどまでの上玉は見た事がないしまずいないだろう。あの四天王を除いて。

 その四天王の矢崎直にどこか似ている気もするが、まあ他人の空似だ。あの矢崎直も性格は俺様ドSさいあくではあったが、容姿だけは好みなので、この矢崎直にそっくりな長男息子は俺の好み超ドンピシャ中のドンピシャ。ガチ恋するのも必然だったというわけだ。

 一目見て俺のモノにしたい。ヤリたい。めちゃくちゃに可愛がりたいと思った。




「直、僕が仕事でいない間を診てくれる臨時の主治医だ。何か具合が悪くなったら彼に診てもらうんだよ」

 一樹さんは俺の上司にあたる人で、俺が働いているクリニックの院長先生だ。かなり好みではあるが、今回は恋愛対象としては外している。もし長男息子君がいなかったら彼をロックオンしていただろう。それを除いても憧れではあるけどな。


「わかったよ、おとうさん」

 素直に頷くこの世の何よりも天使な生物。この子が俺がガチで一目惚れした黒崎直くんだ。

 色白でハーフっぽい顔立ち。昔から体が弱かったらしく、今も車いすで生活をしながら万年風邪をこじらせている病弱系美少年である。

 ああ、マジかんわいぃい~!笑顔がすっげえ可愛いぃ。見れば見るほど俺好みでデレデレしちまう。色白病弱設定なんて医者の俺得じゃん。

 サラサラストレートの銀髪に、宝石のような深海の瞳。ふさふさの長いまつ毛に、陶器のような真っ白いキメの細かい柔肌。形のいい鼻に、ぷるっと柔らかそうな唇。

 見ているだけで勃ちそう。吸い付きてえ。触りてえ。

「おとうさん、お仕事いそがしい?」
「最近は風邪が流行ってるからね。ちょっと忙しいかな。帰りも遅くなると思う」
「大変……だね。体には気を付けてね」
「ありがとう。直も体調には気をつけていい子にしているんだよ」
「うん」

 見た目の身長の高さとは裏腹に、17歳とは思えないほど色気があって幼い話し方だ。でも幼い感じが庇護欲をそそられる。色気もあるなんて愛されるために生まれてきたようなもの。仕草も言動も可愛すぎて悶絶しそうだ。

「直くん、よろしく。俺は藻部川もぶかわモブ助だ。きみのお父さんの後輩の医者となる。よろしくね」
「よろしく……おねがいします」

 握手を求めると、直君は少し緊張気味にそれを握り返した。他人に警戒しているのだろう。

 まあ、初対面てのは誰だってそういうものだ。気長に行こうと思う。

 先ほどの天真爛漫な可愛い笑顔をこちらに向けてほしいなと願望を抱きながらも、まだ出会ったばかりだからと自らに言い聞かせて抑える。急ぎ過ぎるとますます警戒されちまうからな。急がば回れだ。

 キザで優しく口説いて、時に強引に迫って、ゆっくり落としていくつもりだ。こういうおとなしめな子は優しく近づけば大抵騙されてくれる。天然で無知で警戒心が薄い。実に言う通りにしやすいタイプだ。

 院長の一樹さんもそのタイプで、親子そろって見た目もだが性格もそっくりでやりやすい。長男息子を手に入れた暁には、一樹さんも手に入れて親子丼として一度に味わうのもいいかもしれない、デュフフフ。

 前に付き合った可愛いショタ風の子もすぐに騙された。そのうちセックス狂いのメンヘラに豹変し出したので、面倒くさくて別れるのが大変だったが、今度は失敗しないようにしないとな。

 この直君は幼すぎてすぐに言う事を聞いてくれそうだが、何事も順序と限度と引き際が大事である。俺はその道のテクニシャンではあるが、慎重派タイプなのだ。


「さっそく血圧と体温とサチュレーションを計らせてもらうね」
「はい」

 幸薄い感じがまた陰があっていい。見れば見るほど、今までで見た中で最高に一番美しい子だ。この世の何よりも美しいと言ったのは無論本気で、自分自身の容姿さえ劣ると思ってしまった程に。

 ああ、ほしい。マジで俺のものにしたい。一生そばにおいてセックス狂いにさせたい。可愛く俺色に染めたい。たとえこの子が面倒くさいメンヘラになっても許せてしまえるほどだ。

 こんな極上で上玉中の上玉美人を逃すかよ。絶対オトしてみせる。



「直くんはすごく白いね。それにすごく痩せている。ちゃんと食べないとだめだよ」

 痩せてても全然OKだが、ちょっと痩せすぎではある。なんでこんな痩せてんだと、カルテなどを見ても詳しくは書かれていなかった。訳ありなのか?まあいいけど。後で一樹さんに訊いてみるか。

「……あの、すみません……」

 細々と小声で話す直君はひ弱そうで声までひ弱な感じだ。思った通り、大人しくて弱弱しい。こりゃあ簡単に落とせそうだ。かんわいぃ。

「ぐふっ」

 そんな時、体温計を脇にいれる際に病衣から一瞬だけ存在を確認できた。そう、見えたのだよあれが。tikubiがっ。

 やべえ、トイレ行きたい。一瞬見ただけでこれって破壊力抜群すぎる。興奮が止まらない。

 俺がデレっとして思わずよだれを垂らしそうになっていると、


「おい、あんた」
「あん?」

 興奮を邪魔された苛立ちに振り返ると、知らない高坊のガキが立っていた。

「何だらしねー顔してんだよ、きめえな。医者のくせしてそんな顔してんじゃねえよ。直が怖がるだろうが」

 誰だこいつ。生意気そうなガキだな。顔も悪くはないが地味な印象だ。そこらにいるモブとかわんねーって印象。普段の俺の視界にはまず入らない存在だろう。


「甲斐、おかえりっ!」
「ただいま。直」

 直くんがこのガキの姿を目に入れた途端、花開くような極上笑顔をそいつに向けた。

 は、なんでそんな地味モブに笑顔を向けているんだ!?どういう関係だよ。


「今日は外で花冠を作ったんだな」

 直くんの手には頑張って作ったとされる花冠が握られていた。先ほどテーブルにあったやつか。そんなもんをその容姿で頑張って作るなんてまじでこの世の天使じゃね?17歳の子が花冠ってどんだけ純粋培養なんだよ。今時の子とはとても思えんよ。可愛すぎだろ。

 
「甲斐のぶんもあるよ」
「俺は似合わないよ。直なら似合うよ。きっと花嫁みたいに綺麗になりそうだ」
「花嫁……ねえ、オレ……甲斐の花嫁になりたい」
「「えっ」」

 車いすに乗っているから自然と上目づかいでそのガキに言う。

「花嫁……だめ?」

 おい、なんだそのメスみたいな顔は。しかも花嫁になりたいだと!?直くんを花嫁にさせたいのは俺なんだよ。そいつじゃねえ。

「だ、ダメじゃないよ。まぁ……いつか、そうなる、かも、ね」

 もじもじと顔を赤くさせるこのガキもまんざらでもなさそうな反応である。クソムカつく。

「えへへ。じゃあ楽しみにしてるね、甲斐」
「あ、ああ。楽しみにしてて、直」
「……っ」

 このクソガキめ。俺を完全に無視して二人の世界に入ろうってか。そうはイカのイカ焼きだ。直くんは俺のもん。モブは引っ込んでろ。

「あはははは~」

 俺は笑いながらわざと二人の間に割り込んだ。ガキを押し除けるようにわざとらしくエルボーをかまして足を踏んずけてやってな。

「直くんはもっとイケメンな子がお似合いなんじゃないかな~」

 たとえば俺とか。俺ドクターだから金あるし。キミだけなら一生養えるし。どう?

 遠回しにお前は平凡地味男だから直くんとは釣り合わねーよバァーカ!と牽制する。それを向こうも察したのか、そのガキは目を鋭くさせて「ふぅん」と腕を組んでいた。

 ふん。ガキにしては大人な反応だな。足を思いっきり踏んづけてやったのに全然痛がる様子がなかったのが悔しいが。


「おれ、甲斐がいい。甲斐じゃないと花嫁やだ」

 そうして直君は甲斐とやらのガキの腕にしがみつく。

 チッ、なんでや。そんなガキのどこがいいんだ。モブ地味だろ。俺の方がイケメンだろうが。直くんは地味専なのか。
 
「直くんっ、そんなのがいいなんて地味専なのかな~?キミみたいな天使には合わないんじゃない~?」

 俺は苦笑しながら遠回しにやめときなよーと説得を試みる。

「地味なのはその通りっすけど、失礼じゃねえですかい、あーた」

 さらにガキから睨まれた。てめえには聞いてねーよ。勝手に睨んでろ三下め。

「あーいやーごめんねー。俺、はっきり言うタイプなんだ~。キミと直君はどう見ても釣り合わないと思ってね。こんだけ美人なんだから相手も超イケメンとか超男らしい人が似合うなって」
「イケメン、男らしい、ねぇ………どうせ俺は平凡地味男ですよっと。けっ」

 その通りだろ。自虐的にンな事言っても誰も突っ込まねーよバァーカ。やっぱ勝つのは金あるイケメンってわけ。お前はお呼びじゃねーんだよ。と、中指を立てながら、もう片方の手で親指を下に向けてマウントを取る。

 ぎゃはは、こいつの悔しそうな顔がマジじわるわ。所詮は感情論でしか考えられない高坊のガキ。イケメンで金持ってる大人には勝てネ~ってわけ。年季が違うわけよ。

 それにそんなに睨んでも無駄だぜ。俺はキックボクシングもかじっているんだ。そういう部分でも一樹さんに信頼されてここへ連れてこられたんだよ。お前如き俺がグーパンで潰してやるからよ。


「そんな事ないよ!甲斐は男らしいよっ!誰よりもかっこいいっ!」
 
 チッ……直くんは相変わらずこのガキを贔屓すんのか。

 たぶん社交辞令ってやつだろうけど。惚れた弱みで言ってるだけのやつ。惚れたといっても所詮は一時的な熱病みたいなもん。さらにいい男がいるとわかれば直君もこのガキを捨てて乗り換えるはずだ。

 だってマジで雑魚そうじゃないかこのガキ。あとで俺がノシて力の違いを教えてやるので、そいつに期待してもダメだぜ。俺の可愛い直くん。

「直……そう言ってくれてありがとうな」

 そんな甲斐というガキは直くんの頭をナデナデしている。それに対して気持ちよさそうにしている直くん。

 くそっ、俺も可愛い直君をナデナデしてえよ。そこどけよクソガキ。


 とりあえず直君がいる前で揉めるわけにはいかないので、悔しいがこの場はこれで終息した。甲斐とかいうガキは俺を探るように見ていたが、俺は睨み返して舌を出してやった。あとで力の違いを見せてやるって牽制してな。そんで無様な姿を直君の前で晒してやる。そっからは俺が直くんのハートもゲットだ。




 夕食後、直君が入浴している風呂場で俺はいろんな葛藤と戦っていた。

 普段は直君は一樹さんかあのガキに介助してもらいながら風呂に入るのだが、今回は一人で入れると言い切って今、浴室で一人頑張って入浴中である。

 だからいろいろ妄想が止まらない。湯煙の中の直君の裸が。秘密の花園が。想像するだけで鼻血が出そうだ。

 覗きたい。いや、でも嫌われたくないし。いや、一瞬だけ。直くんの心配をするふりをして覗きたい。いいだろうか。あのガキは直君の体を見て触った事があると聞いてムカつくしな。

 そうして心配して声を掛けたら、直君に一人でも入れますからと口酸っぱく言われた。ちっ、だめか。

 だからまた扉の前で立ち往生だ。何かあれば声をかけると言ったので、声をかけてくれないだろうかと絶賛声掛け待ち。

 顔見たいな。どさくさに紛れて全裸も拝みたい。あわよくば触りたい。

 直くんの裸……ピンク色の乳首……。下はどんな可愛い性器をしているのだろうか。どんな形で何色だろうか。んでもって可愛らしい蕾……いや、おまんこはどんなものだろうか……。想像するだけで股間がもう勃起してしまう。はあはあ。

 直くん……直くん……。ああ、可愛くて美しい直くん。俺の天使。この世で一番美しい美少年。最高の男の娘。

 もう我慢できねえ!俺は理性より股間の方を優先する!


「直くん!やっぱり心配だから俺が背中を流してあげるよ!」

 そして、どさくさに紛れて体を触る!という目的を駄々漏れにしながら戸を開けた。
 
「っ!?あ、あの!?」

 ちょうど直君は椅子に座ってシャワーで泡を洗い流している所だった。白い湯煙漂う直君の躰は、言わずもがな最高に美しい裸体。俺は鼻血が出そうなほど大興奮した。

 先ほど見た乳首はもちろん健在。色気のある鎖骨、長い闘病生活で筋力がなくなった柔肌胸、火照った頬や肌、手足も長く女性的ですらっとしている。もちろんお尻もとてもいい形でぷりぷりだ。そうして股間の方に目を移す手前、視界が一瞬で衝撃と共に薄暗くなっていた。

「ひdfでぶうう!!」

 俺が吹っ飛んでいたのだ。

「絶対覗きにくると思ってた。近くで見張っててよかったよ。この変態クソドクターが!!」

 鬼の形相で佇んでいるガキがうっすら見えた。俺は気が付けば壁を破壊して吹っ飛んでいたらしく、壁にめり込んでいた。今の一撃で完全にあばら骨と足どころか内臓もやられたようだ。

 今の蹴り、なんていう破壊力だ。化け物かこいつは。

 俺は度肝を抜かれながらも意識をかろうじて保っていた。それなりに格闘をかじってはいたが、どうやら相手ガキは次元が違う規格外だったようだ。

「んじゃ、変態覗き魔の制裁といきますか。殺しはしねえが生き地獄を味合わせてやる。覚悟しとけよ」


 ガキはボキボキと手を曲げながら黒く微笑している。さっき見た姿が嘘のように恐ろしい殺気を放ち、俺は金縛りにあったように動けなくなった。

 なんだこれ。恐怖で体が動かねえ。どうなってんだよ。

「俺の殺気は本気を出せば肺まで凍らせちまう威力があるんだ。手加減してやってるだけありがたいと思え」
「ひ………」

 なんだそりゃ。マジかよ。殺されるっ。

 俺は触れてはならない存在に手を出してしまったらしい。ガキの顔が末恐ろしくて見ていられない。

「あとさぁ~てめえは直に好意を抱いているようだが、直はてめえなんぞ全く眼中にないから。イケメンだ医者だからと今まで持て囃されて調子こいていたようだが、そんな低スペックで惚れるようなタマじゃねーから。直は」
「な、なんだと。低スペックとかそんな事っ」
「あるんだよボケが。直はお前如きが扱える奴じゃねえ。身の程を知れや」

 このガキの睨む威圧感に押し黙る。

「てことで、腹ァくくれよ」

 ガキはもはや高校生のガキには見えなかった。まるでやくざ……いや、それ以上の存在に思えた。

 このまま気を失ってしまえれば、どんなによかっただろうか。

 
 その後、地獄のような辱めを受けた俺の意識は知らぬ間に暗転し、気が付いたら病院のベットの上だったというオチ。しかも重傷患者並の包帯グルグル巻きにされてな。

 ちくしょう。あんな美人の恋人がやくざ以上に怖いとかきいてねーよ!!二度とあんな場所行くか!!
 


 *



 月日は少し流れ――……


「おい、見ろよ。すっげえ美人。色気すげえ」

 向こうの方で目が覚めるほどの美人がスマホ片手に立っている。着用している服はどこにでもある安物ではあるがよく似合っていて、モデル並みに手足がとても長い。サラサラのプラチナブルーの髪が風になびいていて、通り過ぎる人々の誰もが振り向いて見惚れているほどだった。
 
 眠たげに細める目と長い睫毛が憂いを帯びていて、陰がある儚い感じがまた美しさを引き立たせている。それに剥き出しになった白い鎖骨から色気が恐ろしいほど放たれていた。

「バカ。あれは美人だけど男じゃねえか。骨格とかよく見れば結構筋肉質だし。しかも四天王の矢崎直に似てる」
「そこがいいんだろー。矢崎直似なんて最高じゃん。俺、ああいう綺麗な子なら男でも抱けるからな。筋肉質でも男の娘のカッコしてくれたらマジで数発いける」
「お前、矢崎直のファンだもんな。人の趣味に文句は言わねえが、俺は男はごめんだわ。つか似てるからって手を出すなよ。ああいうのは必ず恋人か伴侶持ちなのはお決まりだ」
「そうだぞ。ほら子連れみたいだし。そっくりな美少女二人が寄って来てる」

 ビスクドールのような銀髪美少女と日本人形のような黒髪美少女が、美人男の前にやってくるとじゃれ合っている。目の保養になるくらい綺麗な空間だ。どこからどう見ても微笑ましい美男美女親子って感じである。

「奥さんと待ち合わせってやつだろ」
「いいよなあ~可愛いロリ美少女二人の娘がいるなんて羨ましい。俺も早く彼女ほしーぜ」
「俺は断然男の方がいいわ。矢崎直似のあの子しか目に入らん。あの色気を俺のモノにしてえわ。ヤリてえ。屈服させてセックス狂いにさせてぇ」
「お前なぁ……相変わらずだな」

 仲間の一人が顔をだらしなくデレデレさせて見惚れている。やばいな。これはいつもの性癖の始まりだ。今にも獲物を前にして突っ走る気満々である。

 昔からそうだった。こいつはいろんな自分好みの男にけしかけておいて、彼女や妻子がいてもお構いなしの問題児あぶないやつだった事を思い出す。それで後々、相手彼女や相手の妻に訴えられて散々な目に遭っているにも関わらずだ。

「お前如きが相手にされねーから。しかも子持ち。バカな真似はよせ」
「そうだ。そのせいで今まで何度俺達が迷惑を被った事か」
「うるせーな。好みなんだからしょうがないだろ。あんな上玉見た事ないし。もしかして離婚して二人の美少女引き取ったってやつかもしれネ~じゃん」
「それでも邪魔しちゃ悪いだろうが。ほら見ろ。やっぱり離婚どころか奥さんとさらに小さい子供二人もいたじゃねーか」

 黒髪の綺麗な美人奥さんがやってきた。その両隣には手を引かれて歩くさらに小さい双子の男女までいる。買い物に行く所だろう。

 四人の子持ちとは幸せいっぱいだ。あの幸せ家族の中には誰も入れない空気が漂っている。さすがのこいつもあきらめるか。というか諦めてほしい。いつものように巻き込まれたくない。

「ほら奥さんめっちゃ綺麗だろ。金はあってもちょっと顔のいいだけのお前じゃ相手になんねーから。家族団欒を邪魔しちゃ悪いし。やめとけって」
「んーライバルは奥さんか。強敵だがモーションかけてみよっと」

 空気の読めない男はそれでも突っ走るつもりだ。

「ちょ、お前マジやめとけってば!家族の仲を壊してやるなよ。迷惑極まりないから。最低だぞ」
「最低どころか最悪だろ。略奪不倫なんてロクな目にあわねーから」
「それでも止まれないのが俺なんだよな。あんな可愛い子を前に俺の下半身は黙ってられねーんだワ」

 強く止める仲間を完全無視をして、興奮の止まらない男が足を止める事はなかった。

「相変わらずだなあいつ。さすがに非常識すぎ。懲りないところがやってられん」
「付き合ってらんねーよな。あいつのせいで過去何度も面倒に巻き込まれたしよ。もう絶交しようぜ」

 仲間達はこれまでの事を根に持ち、愛想をつかせて去っていく。それを知ってか知らずか、鼻の下を伸ばしながら空気の読めない男一匹は目当ての超絶美人旦那に近づいた。奥さんや子供達はトイレに行ったようだ。

「ねえ、キミ超綺麗で可愛いね。よかったら俺と一緒に遊びに行かない?」
「…………」
「ねえってば」
「…………」

 物の見事にスルーだ。まあ、これくらいで自分は引き下がりはしない。反応があるまでアタックあるのみだ。長年そうしていろんなノンケを落とし、恋人持ちだろうが妻子持ちだろうが、関係なく自分のモノにしてきたのだ。
 
 狙った獲物は確実に落とすタイプ。それによって相手とは揉めに揉めて泥沼化し、慰謝料を請求されたり、社会的制裁を受けたりと、散々な目にあってきた。だが、今更自分の性癖を我慢できるとも思えない。

 それに金ならある。元無才学園OBで現在も会社を複数持っているので、相手から訴えられようが騒がれようが、金でもみ消せばいいだけの事。

 今回も軽い気持ちでこの美人旦那に声を掛けたのだが……

「ねえ、聞いてる?俺ヒマしててさーキミに一目惚れして遊び行こうって誘ってんの。あ、もしかして奥さんと子供らとか心配してる?ダイジョーブダイジョーブ。しばらく戻ってこないと思うし。なんか別の男と遊びに行ったの仲間が見ててさ~。残されてるキミが可哀想で~」

 嘘も方便だ。奥さんや子供達はしばらくは戻ってこないだろう。その間に少しでもモーションを掛ける。

「だからさー俺と一緒に慰めデートってやつ行こうよ~」

 そう言いながら美人旦那の白い手に触れようとすると、

「オレに気安く触るなゴミカス野郎」

 え……?

 やっと反応をくれたと思ったら、想像以上に鋭い眼光で睨まれた。しかも声も思った以上に低いし口も悪い。てっきり引っ込み思案タイプで声も可愛い女の子風と思ったら、全くそうではなさそうだった。

「このオレに声を掛けるとはいい度胸だな。死にたいのか」
「え、あ、あー……いや、あの、可愛い女性かと思っちゃいまして」
「あ?」
 
 美人旦那の目が吊り上がり、殺気が宿る。

 やばい。間違えたかもしれない。さすがに女性に見えただなんて失礼だし無理があるだろう。ならば――

「じゃ、じゃあちょっと遊ぶだけ!ワンナイトラブってやつ。そんな綺麗な顔してんならどうせ男相手にヤリまくってんでしょ?奥さん相手じゃマンネリする事もあるだろうし、時には相手やシチュエーションを変えたりして俺とy」

 そう言っている最中、一瞬だけ美人旦那の脚が振り上げられたのが見えた。えっ――と、思う暇もなく壁際に吹っ飛んでいた。どうやら蹴飛ばされたらしい。

「い、いってえ。まじいってえ。なんだこれ」

 骨が折れているみたいだった。地面に倒れこみながら突然の痛みにいろいろパニックになっていると、蹴りを入れてきた美人旦那と目があった。

 髪をかき上げたり、舌を見せてぺろりと下唇を舐めたり、ドキッとする仕草をしながら流し目を向けてくる。

 ああ、すごい色気だ。たまらない。こんなのをされてはゲイとしては惚れないわけがないだろう。煽られているのだろうか。ああ、もっと――


「おい、こいつの素性を洗い出しておけよ」

 美人旦那が誰かに向かって話している。

白井の仲間スパイかもしれない。あきらかに気持ちの悪い奴だからな。バラしたきゃ好きにしろ」
「ハイハイ。仕事承りましたよっと。新鮮な若者を殺すのは勿体ないからラボに連れて行くよ。最近新しいヤクの実験台になってくれる被験者探しててさ~ぴったりかも」

 いつの間にか現れた赤茶髪のイケメンが美人旦那とそんな会話をしている。ヤク?被験者?

「それにしても男にナンパされるだなんてマジウケルんだけど。よほど好みだったんだね~よかったじゃない。野郎に綺麗ですねって誘われたお気持ちは如何なもので~?」
「ぶち殺すぞテメェ」
「んまあ、勇気を出して誘ってくれたんだからそこは認めてあげなよ~。可愛い女性だと思われたんでしょ~?お礼に女装でもしてあげたら~?」
「ふざけるな。死ね」
「きゃーん。冗談で言っただけなのにぃ」

 遠くで銃声の音や笑い声が聞こえたと思ったら、もう一度こちらに衝撃がきた。謎の第三者からの攻撃に意識は暗転する。

 どうやら触れてはならない者に触れてしまったようだ。


 次に目が覚めた時、知らない研究施設のような場所にいた。自分がナンパをしかけた美人旦那はとんでもない権力者の人間で、運悪く彼のだと思われたらしい。

 目的を尋問され、洗いざらい吐かされ、それで解放されるかと思われたが、新薬の被験者に丁度いいとかなんとか言われてこの場で飼われる事になった。自分の戸籍は消され、世間では死亡したと思わされたのだ。

 後悔した。友人達の言う通り調子に乗るべきではなかった。今回もイケると思っていたが、最悪によくない相手をナンパしてしまったのが運の尽き。

 世の中には触れてはならない者が一定数いる。
 
 薬で理性を失う前に、やっと教訓として身に染みたのだった。


 終

数日後くらいにもう一本up予定


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