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いとこんドリア

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ユカイなスピンオフ

黒崎一家のらぶらぶライフ・親子合宿編1

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※らぶらぶライフ3後の話+17章前



 一時間ほど貸し切りバスに揺られて到着した先は某●年自然の家。山奥にある親子合宿の宿泊場。

 本日はここで野外炊飯で夕食を作り、その後はテントで親子共々夜を明かす事になっている。ワクワクしたクラスメート達とその保護者達が続々とバスを降り、都会にはない自然の空気に触れる。

「甲夜ちゃんと真白ちゃんのイケメンパパ、バスの中でずっと寝てたね」
「父様、すごく疲れてるから寝かせてあげてたんだ。昨日もお仕事ずっと忙しくて帰ってきたの早朝だったから」
「教師なのにそんな忙しいの?」
「ぅ、うん。家でも、やる事多い、から。でも、行事に参加してくれた。それだけで、うれしい」
「甲夜~真白~行くよ~」
「「はーい!」」

 リュックサックを担ぎ直して大好きな両親の元へと走る。両親は本当は高校生で同性同士だけど、誰よりも頼りになる憧れの夫婦。先ほどのバスの中でも、仕事で疲れている夫を妻が慈しみながら頭を撫でている姿は、本当におしどり夫婦そのもので、誰もが羨む光景だった。

 こうして仲睦まじさをひたすら周りに見せつける事で、直狙いの若い母親達は近づけず、モーションをかけさせる事もさせやしない。これも牽制作戦の一つなのだ。

「さすがに眠いからって歩きながら俺にしなだれかかるなよ。ちゃんと歩けってば」
「仕事頑張って娘の行事になんとか参加したんだ褒めてくれよ」
「あーはいはい。よく頑張ったよ、ダーリンは」
「ハニー……愛してる」
「ハイハイ。ダーリン愛してるよ」

 シレッと愛を囁きながら頬にキスをしあう仲に、もう間には誰も入れないようなピンク色の空気が漂っていた。

 しかし、そんな空気を邪魔しようとする空気の読めない保護者がいた。


「ねえ黒崎さぁん。池目の母ですぅ。あたしの旦那が仕事でこれなくてぇ、あとで手伝ってほしいんですぅ。お願いしますぅ」

 森ガールのようなフリフリの格好をした保護者が話しかけてきた。池目少年の親御さんらしい。授業参観の日は親御さんは参加しなかったのか姿が見えなかったなと思い出す。

「あー……ヒマでしたら、ね……」

 この人、キャンプなのにこんな格好をしてくるってどうなのだろう。あえて森の中だから森ガール風を装ってきたのだろうか。息子の方は森ガール親とは正反対でしっかり者。真白や甲夜にも優しい苗字通りのイケメンくんである。

「旦那さん素敵ですねぇ~。バスに乗ってた時の可愛い寝顔見ちゃってました~。名前なんて言うんですかぁ~」

 それに対して、直はぷいと顔を背けて甲斐にしなだれかかったまま何も言わない。

「あなた、一応娘の同級生の親なんだから、娘のためにと思って大人の対応」
「はあ………黒崎直ですが何か」

 甲斐に言われてしぶしぶ頭を下げながら仏頂面で名前を呟く。

「きゃ、直さんって言うんですかぁ!四天王の矢崎直様かと思っちゃった~。似てるって言われません~?」
「……や、別に」
「でもぉそっくり~。あたし、矢崎直の大ファンなんですぅ。あの俺様な感じがすっごい好きでぇ~とにかくよろしくお願いしますぅ」

 先ほどより声に甘ったるさを含んでいるのは気のせいだろうか。しかもさりげなく直の手に触れている。いろんな男を勘違いさせるような仕草だなとムッとしたが、甲斐はあえて突っこまなかった。

 
 それから教師達による説明があり、各家族に一つのかまどとカレーの材料一式が用意された。

 料理が得意な甲斐と甲夜はカレー作りに回り、直と真白はなんとなく焚火起こしに任命された。直と真白の方は少し心配だが、まあ大丈夫だろう……と、思う。

「母様、サラダのお野菜切りました!」
「ありがとう甲夜」
「ドレッシングはシーザーサラダ風ですか?」
「うん。カレーだから優しい味付けがいいと思って。あ、リンゴも入れてみようかな。自家製のマヨネーズ持ってきたし」
「ウチ、母様のリンゴサラダ好きですー」

 甲夜は家事全般得意だから本当に有能である。150年も生きて結婚も経験しているので、そりゃあ家事能力はお手のものだろうと思う。

「そろそろお父さんと真白の方の様子見に行ってきてくれる?ちょっと心配だから」
「はいです!」

 甲夜は向こうの方で火起こしを行っている直と真白の方に向かった。トテトテと小走りで走る我が娘を可愛いなと微笑ましく見送って、カレーになんの隠し味を入れようかなと考えていると、

「黒崎さんですね」

 若い男の教師が話しかけてきた。娘達の担任の先生だったはず。前回の授業参観の時は頼りにならない教師だと思ったが、一応は担任なので社交辞令的にご挨拶をする事にする。

「先生。いつも甲夜と真白がお世話になっています」
「いえいえ。二人は本当に手のかからないしっかりした子達で、それに可愛らしい。お母さんに似て美人親子ですね」
「はあ……どーも」

 本当は男だけど。娘達のことならともかく、男に美人とか言われても嬉しくねえなと顔を引きつらせる甲斐。

「それに先ほどから見ていましたが、手際もよさそうでお料理上手なんですね」
「小さい頃から料理は慣れ親しんできたのでこれくらいはどうって事はないです」
「ほお、それは頼りになりそうですね。家事は女の仕事といいますから。ぼくは嫁さんには家事をしてもらいたいですよ~。専業主婦をして家を守ってほしいので」
「はあ……そーですか」
「あの黒崎さん」

 いきなりぎゅっと両手で手を握られてびっくりする。

「ちょ」
「ぜひあなたの作ったカレーを食べさせてほしいなあ。味噌汁でもなんでも毎日」
「へ?まあ、余ったらさしあげますけど……って、毎日?あー私、忘れ物があるのでこれで失礼しますねっ!」

 いきなり手を握られて呆気にとられたが、すぐにそれを振り払う。野菜達は後は鍋に入れるだけの行程で中断し、自前のスパイスとマヨネーズを取りにその場を離れた。鳥肌が立ってしょうがなかった。




「ねえ黒崎さん、ちょっと」

 荷物を取りに戻る所をクラスのまともそうな保護者達数人に声を掛けられる。

「どうしたんですか」
「あの担任、あなたをロックオンしてるわよ」
「えっ……」
「担任に狙われてる」

 言われてみればたしかに馴れ馴れしいというか、いきなり手を握ってきたのでそうかもしれない。しかも毎日味噌汁やらを食べたいとか言われた。ちょっとぞっとしてきた。

「気を付けた方がいいですよ~!あの担任、ロリコン気質です。しかも前の奥さんを経済DVして離婚されたって話ですから。今も超女好きって有名ですよ!」
「そ、そうなんですか」
「あの人に被害に遭ったお母さんいっぱいいるんだから。美人マダムキラーって言われてんの」
「だから私もあの担任に子供を預けるのが心配だったんだけど、あの担任の親って教育委員会の偉い人って話でさ~考慮してくれないし、問題起こしてももみ消すらしいのよォ」

 話が本当なら、最悪な担任に当たってしまったようだ。そういえば授業参観の時も真白が転んでパンツ丸出しな時、あの担任は鼻の下を伸ばしながら笑っていたのを思い出す。

「それによ!黒崎さんの旦那さんて超イケメンじゃない。狙ってるお母さんいっぱいいるわよ!あわよくばいい感じになって、略奪ならぬNTR狙いしてる男好きママいっぱいいるんだから!」

 それは毎度の事なので騒ぎはしない。四天王の矢崎直って時点で日本中の女子達にモテまくっているので、もう割り切っている所はある。

「それは毎度の事なので~……あはははは……」
「笑ってる場合じゃないわよ。あの池目くんのお母さんは本当に要注意人物よ!この前の授業参観を休んだのも家で離婚騒動があって休んだって話なのよ。旦那さんは相当お怒りモード!なのに親子合宿に参加してるなんて能天気にもほどがあるわ。いろんな男と遊び歩いて不倫してるって噂があちこちから出てるんだから!」
「ええ、やだぁ!不倫とか最低~。黒崎さん、気を付けた方がいいわよ!あなた自身もだけど、あなたの旦那さんも池目君のお母さんに狙われてるの。あのお母さんって若作りだし美人でしょ。今日もイケメンやお金持ってそうなお父さんにモーションかけまくってるし。まあ、一番は黒崎さんの旦那さん狙いなのは一目瞭然だけど」
「年齢偽ってパパ活してるって話もあるし」
「うわ~~~救いようがない悪女じゃーん」

 周りから警戒しろと言われて少し不安を覚えた甲斐は、それ以降は注意深く注視ながらあの担任も警戒しておこうと思うのであった。



「あ、火が付いた!」
「すごーい」

 指定されたかまどに火が灯ったのを確認して三人ではしゃぐ。なかなか火がつかなくて戸惑ったが、燃えやすい新聞紙などを甲夜が持ってきてくれたおかげで見栄えのいい焚火となった。

「甲夜は火おこしが上手なんだな」

 昔と違い、今じゃ便利なキャンプ用道具が溢れかえっている時代だ。甲夜のように手際よく火起こしができる者は限られているだろう。

「父様もはよくしていたのに」
「面目ないな。前世の時はできたのに、今生では金持ち生活が長すぎて堕落しちまったようだ。甲夜のおかげだよ」

 なでなでと甲夜の頭を撫でると、甲夜はくすぐったそうに笑う。

「うへへ。ウチ、伊達に長生きしてないです」
「ぶー。パパ、真白も枝集め、頑張ったよ」
「どれも濡れてた枝だけどな。でも頑張った」

 真白にも頭を撫でて褒める。それに嬉しそうにする我が娘達はやはり可愛いものだ。

「父様、ウチお米洗ってきます!」
「真白はパパと「真白ちゃん」

 クラスメートの池目君が顔を赤くして立っていた。

「池目くん?」
「あ、あの……真白ちゃんい、一緒に「誰だお前」

 先ほどからオドオドしながら視線をこちらに合わせようともしないこの子供は、おそらく真白をデートに誘いに来たのだろう。ガキのくせに一丁前に色気付いて生意気だ。いろいろと気に食わないので、ここは父としてお灸を据えてやるかと少し圧をかけた。

「娘に何の用だガキ」
「あ、ま、真白ちゃんのお、お父さんですか。ぼくは真白ちゃんと仲良くしているクラスメートでっ……あの、あとで真白ちゃんと一緒に「だめだ」
「え」
「だからダメっつったんだ。娘が男と出かけるなんて早すぎる」
「え、そんな」
「そもそもだ。情けなくガタガタ震えてんじゃねーぞガキ。オレに目線すら合わせられないで娘を誘うとか、常識がなってないと思わねぇのか。お前は視線を合わせて会話もできないのか」
「あ、あの、それは……」
「出直してこい。臆病者。お前のようなヘタレなんかに娘と関わらせるか」
「す、すいませんでした……」

 顔を真っ青にして走っていく池目少年を少し不憫に思う真白。嫌いでもないが、好きでもないのでまあいいかと見送った。

「パパ、池目君、別に悪い子、ちがうよ。授業参観の時とか、いろいろ助けてくれたりする。だからまともな少年」
「あいつは悪い奴ではなさそうだが、ああやって逃げる時点でいざという時は頼りにならないへたれ男だ。オレのちょっとした圧にびびって逃げ腰になってる。鼻たれの腰抜け野郎だよ。授業参観の時にお前が転んだ時に見て見ぬふりをしていた時点でマイナス。あんなヘタレやめとけ」
「あはは、パパ、相変わらず、男にきびしーね」
「当然だ。どこの馬の骨かもわからん野郎に大事なお前をやるか。娘が好きならそれなりの度胸や男気を見せてから来いって話だ」
「うんうん。そうだね。真白の事、考えてくれる。そんなパパ、大好き!」

 娘思いのたくましくて格好いい父の腰に抱き着く。こんな父で嬉しいと改めて思った真白。

「こら、火の近くだから危ないだろ」
「真白ね、付き合う人、パパより強いイケメンじゃないといや。そんな人、なかなかいない。だから、一生独身かもね」

 ぎゅうっと抱き着いて可愛い事を言う娘だと直は微笑ましくなる。昨今の父親が娘コンをこじらせたくなるわけだと思い知る。

「いいんじゃないか。今時独身なんて珍しくねーし」
「でね、将来、野菜の研究して、バリバリ働く野菜研究家になる」
「それがお前の夢か」
「うん!ママの田舎、ひいばーちゃん、農業してるの見て、興味出た。科学や生物学、好きだけど、野菜の研究したい」
「がんばれよ、勉強」
「うん!」

 甲夜が飯盒を持ってかまどに複数セットする。大食いな母と真白のためにたくさん炊かなければならないのだ。


「あとは、ママが野菜入ったお鍋、持ってきてくれるの、待つだけだね」
「母様のカレー楽しみです。ウチ、いっぱい手伝いました」
「う……真白、料理下手。だから何も手伝ってない……」
「じゃあ真白、お母さんの手伝い少しはしてきな。何か手伝った方がカレーがもっと美味くなるぞ」
「そう、かも!ママの所、行ってくる~!」

 真白が妻の元へ行くのを見計らってか、耳障りな甲高い声に呼ばれた。

「黒崎さ~ん」

 若い母親一同が直に殺到した。
 
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