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女体化
浮気お家騒動3
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本日宿泊するホテルと次の会議の場所が近所なため徒歩で移動。
この会議の後にある契約が何事もなく終われば明日には日本に帰国できるだろう。その事を妻にメッセージでも送っておこうか。おっと、その前にお土産も用意しておかなければ。
「社長、お待たせいたしました」
「離れて歩いてくれ」
「え……」
「一応、ホテル街だから誤解されては困る」
本日宿泊するホテルのすぐ隣には丁度ラブホテルが建っている。いかがわしいネオンと外装がまさしくそうだと物語っていて、日本のラブホと違って堂々と「LOVE hotel」と表記されている上に隣の(オレ達が宿泊する)ホテルと入り口が紛らわしいので間違えやすい。さっきオレも川田も一緒に入り口を間違えてしまって恥ずかしい思いをしたものだ。
くそ、ラブホなんて妻とすらあまり入ったことがないのに迂闊だった。そもそもラブホに隣接するホテルを手配するのもおかしな話で、あとでここを手配した部下をキツく締めなければ。
あーなんか嫌な予感がする……。
その嫌な予感が後に当たり、パパラッチにこっそり盗撮され、日本では大騒動になろうとは今のオレは知るよしもなかった。
『申し訳ありません、社長。ホテル開発の件で一部の報告書に不備があったそうで……』
「はあ!?」
その夜、やっと日本へ帰国できると喜んでいた矢先の電話に天国から地獄に叩き落とされた。その不備が原因で、やっとの思いで契約まで漕ぎ着けた話が頓挫する恐れもあるとの事らしい。
最悪だ。現場の社員だけで不備を片付けろと言いたいが久瀬のいない部下達だけでは心許ない。そこまで話がでかくなっていてはオレ直々に先方へ出向かわなければならないではないか。
この契約のために数ヵ月前から仕事一筋になり、家族に逢えない寂しい日々を嫌々送ってきたというのにこれですべてが無駄になるなんて冗談ではない。この契約が成立すれば、誠一郎のジジイすらアッと言わせることが出来、妻の甲斐を未だに悪く言う正之派の勢力を一気に黙らせ、おまけに矢崎グループの未来を担う一大プロジェクト。それをみすみす不備一つで逃す事はできない。
っ……仕方ない……帰国はしばらく延期か……。
愛する妻の甲斐や息子の直樹に土曜日の夜に逢う約束だったが、この件に関しては仕事を優先する他ない。
はあ……なんて説明すればいいやら……
『そっか……それは……残念だな』
電話で事情を話した途端甲斐の落胆する声が、その残念ぶりを物語っていてオレは苦しくなった。オレだって甲斐と直樹にあいたい。家族団らんでのんびりと過ごしたいのに。
『直樹にはすまないと言っておいてほしい』
『……うん、わかった。直樹にはうまい具合に説明しておくよ……あと、直』
「……どうした……?」
『……その……いや、なんでもない』
言い淀む甲斐を訝しげに思ったが、契約の事で頭がいっぱいだったオレは軽く流してしまった。まさかこの時に、しっかり甲斐の話をしつこく聞き出していればよかったと後で後悔することになろうとは……
*
電話を切ったあと、俺は愕然と肩を落としていた。土曜日に久しぶりに旦那が帰ってくると歓喜していた気分は、一気に奈落の底に落ちる気分に急下降していく。
旦那の仕事は日本の大半の企業を背負っているからこそ無下になんてできないけれど、だからって約束していたのに。会えると思っていたのに。
妊娠している事も伝えたかったけれど、なんだか言う気分になれなくなって、そのまま黙って電話を切ってしまった。
直樹が知れば泣くだろうな。久しぶりにお父さんに逢えるってあんなにも楽しみにしていたのに。
「おかーしゃ、おとーしゃからでんわ?」
「直樹……!」
丁度夜中のトイレに目覚めた直樹が電話していた俺の姿を見ていた。
「……おとーしゃ……おしごといそがしくてこれないの?」
雰囲気でなんとなく察したらしい。
「あー……そう、みたい。お父さんお仕事で失敗があったから謝りに行ったりで大変なんだって」
「……そっか……おとーしゃ……おしごとしっぱいしちゃったんだ……だからこれないんだ……そっか」
みるみるうちに直樹の瞳に涙が滲み出してきた。ああ、やっぱり。
「直樹っ」
俺はたまらなくなって直樹を抱き寄せた。
「うええ……いつもおとーしゃはおしごとばかり……ぼく、ぼくおとーしゃにあいたかったよ。あいたかったよおお!うわああん!」
ぽろぽろと俺の胸の中で涙をこぼして泣く直樹はどちらかといえばお父さんっ子だ。あまり家にいない父親が逆に気になって、たまに逢えた時の嬉しさに父親の背中を追いかけるようになっていた。
大好きな父親は次はいつあえるかわからない。いつ会えるかわからないからこそ、あえないショックは大きいしまた我慢の日々。
少なくとも数ヶ月は待つ事になる。また、二人だけで待つ日々が。
「おとうしゃといっしょにおえかきしたり、さっかーしたり、かめんゆかいだーごっこしたかったのにっ!うえええええん!!」
「うん、そうだよな。直樹もだけどお母さんもお父さんにあいたかった。だから悲しい。直樹の気持ち、よく分かるよ」
俺はまだ我慢できるからいい。旦那の事情はよくわかるから。でも、息子の立場からすればまた別だ。自分より仕事なんだってそう捉えてもおかしくはない。
直のバカ……っ。
しかもなんだよ、フランスで美人秘書とラブホに入店って。あほかっての。バカ旦那に限って不倫なんて絶対ないと信じているが、海外のパパラッチに不倫疑惑とかスッぱ抜かれてんじゃねーっつうの馬鹿野郎!次あった時はかかと落としだ。
『まさかあの愛妻家と有名な矢崎社長が美女秘書とラブホテルだなんてねー。ここ数年はスキャンダルとは無縁だったので、これは本当にビックニュースですよ』
『本当にそうですね。我々も元四天王を開星学園時代から見ていますが、付き合っていた奥様一筋と会見でおっしゃっていた言葉が今では霞んできておりますよ。いやはやしかし、四天王というのは世の女性達の憧れの的。それに彼も立派な男性ですからね。奥様以外に目移りするのは仕方のない事ですよ~。特に社長なんて立場はストレス過多ですし、不倫は男のサガですからね。奥様がなかなかさせてくれないから欲求不満だったんじゃないですかぁ~?クスクス』
ワイドショーのコメンテーターが好き放題好き勝手に憶測で面白可笑しくコメントをしている。侮辱されている気分でハラワタが煮えくり返るものだ。
しかもこのコメンテーターは元四天王のファンクラブ筆頭で、四天王のスキャンダルを待ってましたと言わんばかりだ。ファンの一人として、いずれ別れることを期待しているのが一目瞭然。世のファンクラブや信者達もきっと同じ気持ちでいる事だろう。妻の立場として肩身が狭いし、断固抗議の声をあげたいものである。
本日も直樹を保育園に預け、行きたくない大姑の豪邸に訪問。広がる立派な日本庭園に獅子おどしがカンっと瑞々しく鳴り響く縁側で、今日も俺は嫁修行に引っ張り出されている。今日はこの家の隅から隅まで掃除をしろと命令された。矢崎家の嫁たるもの、この屋敷全部をサッと掃除できて当たり前なんだと。
掃除はどちらかといえば得意な方だからいいけれども、この屋敷の一階部分を全部掃除って鬼だ。一体いくつ部屋があるとお思いで。社交ダンスとか英会話とかじゃないだけマシだが、終わる頃には夜中になっていそうだなーとか、直樹のお迎えを親戚に任せてもらうかーとか、考えながら雑巾やらの掃除用具一式を持ってスタート。
「埃が少しでも落ちていたらやり直しです。特にトイレ掃除は念入りにする事。矢崎家の嫁ならできて当たり前ですから。では私は忙しいのでこれで。ちゃんとやっておきなさいよ」
大姑はそれだけ言って早々に立ち去って行った。これから美容院にエステにお茶会なんだそうでお忙しゅうございますわねー。ヒマ人なお貴族様サマで、穀潰しはどっちだよと呆れるものだ。
この会議の後にある契約が何事もなく終われば明日には日本に帰国できるだろう。その事を妻にメッセージでも送っておこうか。おっと、その前にお土産も用意しておかなければ。
「社長、お待たせいたしました」
「離れて歩いてくれ」
「え……」
「一応、ホテル街だから誤解されては困る」
本日宿泊するホテルのすぐ隣には丁度ラブホテルが建っている。いかがわしいネオンと外装がまさしくそうだと物語っていて、日本のラブホと違って堂々と「LOVE hotel」と表記されている上に隣の(オレ達が宿泊する)ホテルと入り口が紛らわしいので間違えやすい。さっきオレも川田も一緒に入り口を間違えてしまって恥ずかしい思いをしたものだ。
くそ、ラブホなんて妻とすらあまり入ったことがないのに迂闊だった。そもそもラブホに隣接するホテルを手配するのもおかしな話で、あとでここを手配した部下をキツく締めなければ。
あーなんか嫌な予感がする……。
その嫌な予感が後に当たり、パパラッチにこっそり盗撮され、日本では大騒動になろうとは今のオレは知るよしもなかった。
『申し訳ありません、社長。ホテル開発の件で一部の報告書に不備があったそうで……』
「はあ!?」
その夜、やっと日本へ帰国できると喜んでいた矢先の電話に天国から地獄に叩き落とされた。その不備が原因で、やっとの思いで契約まで漕ぎ着けた話が頓挫する恐れもあるとの事らしい。
最悪だ。現場の社員だけで不備を片付けろと言いたいが久瀬のいない部下達だけでは心許ない。そこまで話がでかくなっていてはオレ直々に先方へ出向かわなければならないではないか。
この契約のために数ヵ月前から仕事一筋になり、家族に逢えない寂しい日々を嫌々送ってきたというのにこれですべてが無駄になるなんて冗談ではない。この契約が成立すれば、誠一郎のジジイすらアッと言わせることが出来、妻の甲斐を未だに悪く言う正之派の勢力を一気に黙らせ、おまけに矢崎グループの未来を担う一大プロジェクト。それをみすみす不備一つで逃す事はできない。
っ……仕方ない……帰国はしばらく延期か……。
愛する妻の甲斐や息子の直樹に土曜日の夜に逢う約束だったが、この件に関しては仕事を優先する他ない。
はあ……なんて説明すればいいやら……
『そっか……それは……残念だな』
電話で事情を話した途端甲斐の落胆する声が、その残念ぶりを物語っていてオレは苦しくなった。オレだって甲斐と直樹にあいたい。家族団らんでのんびりと過ごしたいのに。
『直樹にはすまないと言っておいてほしい』
『……うん、わかった。直樹にはうまい具合に説明しておくよ……あと、直』
「……どうした……?」
『……その……いや、なんでもない』
言い淀む甲斐を訝しげに思ったが、契約の事で頭がいっぱいだったオレは軽く流してしまった。まさかこの時に、しっかり甲斐の話をしつこく聞き出していればよかったと後で後悔することになろうとは……
*
電話を切ったあと、俺は愕然と肩を落としていた。土曜日に久しぶりに旦那が帰ってくると歓喜していた気分は、一気に奈落の底に落ちる気分に急下降していく。
旦那の仕事は日本の大半の企業を背負っているからこそ無下になんてできないけれど、だからって約束していたのに。会えると思っていたのに。
妊娠している事も伝えたかったけれど、なんだか言う気分になれなくなって、そのまま黙って電話を切ってしまった。
直樹が知れば泣くだろうな。久しぶりにお父さんに逢えるってあんなにも楽しみにしていたのに。
「おかーしゃ、おとーしゃからでんわ?」
「直樹……!」
丁度夜中のトイレに目覚めた直樹が電話していた俺の姿を見ていた。
「……おとーしゃ……おしごといそがしくてこれないの?」
雰囲気でなんとなく察したらしい。
「あー……そう、みたい。お父さんお仕事で失敗があったから謝りに行ったりで大変なんだって」
「……そっか……おとーしゃ……おしごとしっぱいしちゃったんだ……だからこれないんだ……そっか」
みるみるうちに直樹の瞳に涙が滲み出してきた。ああ、やっぱり。
「直樹っ」
俺はたまらなくなって直樹を抱き寄せた。
「うええ……いつもおとーしゃはおしごとばかり……ぼく、ぼくおとーしゃにあいたかったよ。あいたかったよおお!うわああん!」
ぽろぽろと俺の胸の中で涙をこぼして泣く直樹はどちらかといえばお父さんっ子だ。あまり家にいない父親が逆に気になって、たまに逢えた時の嬉しさに父親の背中を追いかけるようになっていた。
大好きな父親は次はいつあえるかわからない。いつ会えるかわからないからこそ、あえないショックは大きいしまた我慢の日々。
少なくとも数ヶ月は待つ事になる。また、二人だけで待つ日々が。
「おとうしゃといっしょにおえかきしたり、さっかーしたり、かめんゆかいだーごっこしたかったのにっ!うえええええん!!」
「うん、そうだよな。直樹もだけどお母さんもお父さんにあいたかった。だから悲しい。直樹の気持ち、よく分かるよ」
俺はまだ我慢できるからいい。旦那の事情はよくわかるから。でも、息子の立場からすればまた別だ。自分より仕事なんだってそう捉えてもおかしくはない。
直のバカ……っ。
しかもなんだよ、フランスで美人秘書とラブホに入店って。あほかっての。バカ旦那に限って不倫なんて絶対ないと信じているが、海外のパパラッチに不倫疑惑とかスッぱ抜かれてんじゃねーっつうの馬鹿野郎!次あった時はかかと落としだ。
『まさかあの愛妻家と有名な矢崎社長が美女秘書とラブホテルだなんてねー。ここ数年はスキャンダルとは無縁だったので、これは本当にビックニュースですよ』
『本当にそうですね。我々も元四天王を開星学園時代から見ていますが、付き合っていた奥様一筋と会見でおっしゃっていた言葉が今では霞んできておりますよ。いやはやしかし、四天王というのは世の女性達の憧れの的。それに彼も立派な男性ですからね。奥様以外に目移りするのは仕方のない事ですよ~。特に社長なんて立場はストレス過多ですし、不倫は男のサガですからね。奥様がなかなかさせてくれないから欲求不満だったんじゃないですかぁ~?クスクス』
ワイドショーのコメンテーターが好き放題好き勝手に憶測で面白可笑しくコメントをしている。侮辱されている気分でハラワタが煮えくり返るものだ。
しかもこのコメンテーターは元四天王のファンクラブ筆頭で、四天王のスキャンダルを待ってましたと言わんばかりだ。ファンの一人として、いずれ別れることを期待しているのが一目瞭然。世のファンクラブや信者達もきっと同じ気持ちでいる事だろう。妻の立場として肩身が狭いし、断固抗議の声をあげたいものである。
本日も直樹を保育園に預け、行きたくない大姑の豪邸に訪問。広がる立派な日本庭園に獅子おどしがカンっと瑞々しく鳴り響く縁側で、今日も俺は嫁修行に引っ張り出されている。今日はこの家の隅から隅まで掃除をしろと命令された。矢崎家の嫁たるもの、この屋敷全部をサッと掃除できて当たり前なんだと。
掃除はどちらかといえば得意な方だからいいけれども、この屋敷の一階部分を全部掃除って鬼だ。一体いくつ部屋があるとお思いで。社交ダンスとか英会話とかじゃないだけマシだが、終わる頃には夜中になっていそうだなーとか、直樹のお迎えを親戚に任せてもらうかーとか、考えながら雑巾やらの掃除用具一式を持ってスタート。
「埃が少しでも落ちていたらやり直しです。特にトイレ掃除は念入りにする事。矢崎家の嫁ならできて当たり前ですから。では私は忙しいのでこれで。ちゃんとやっておきなさいよ」
大姑はそれだけ言って早々に立ち去って行った。これから美容院にエステにお茶会なんだそうでお忙しゅうございますわねー。ヒマ人なお貴族様サマで、穀潰しはどっちだよと呆れるものだ。
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