学園トップ~&ユカイのスピンオフ

いとこんドリア

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女体化

浮気お家騒動2

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『すみません、社長。ニ週間ほど私がいない間は大奥様に臨時の秘書の選抜と引き継ぎを頼んであります』

 米国支社の社長室での電話相手は秘書の久瀬だった。電話口で申し訳なさそうな声で謝罪を繰り返している。

 久瀬は眼の手術のために緊急で帰国。二週間ほど休むことになったのだ。元々はそれほど悪くなかったはずが度重なる仕事のストレス等で急激に悪化。緊急手術しないと失明の恐れがあると主治医に言われての事だった。

「あの正之の姉のババアが選んだ秘書っていうのが引っ掛かるが、有能そうならコキ使ってやるつもりだ。だからこの際ゆっくり休め。嫁に存分に甘えればいいだろ」

 久瀬は一年前に妻の友人と結婚して新婚ホヤホヤだが、オレの秘書という多忙な立場ゆえになかなか嫁と過ごさせてやれないのが申し訳ないと思っていた。だからこそ、この二週間は存分に嫁と過ごしてもらえばいいと思っている。

『ふふ、ありがとうございます。その通りお言葉に甘えさせていただきます。……あと社長』

 久瀬の声が真剣になる。

『異性関係には本当に注意してください。どこにあなたを狙うバカ女がいるとも限りません。最近は特にマスコミ関係があなたのスキャンダルを虎視眈々と狙っています』

 オレが結婚してから全くスキャンダルがない事に周りが不思議そうにしているらしい。特に芸能系のマスコミ共は、愛人が何人もいた前社長の正之のようなスキャンダルを期待しているようだ。

 オレとしては妻一筋だから愛人なんぞいないから残念だったなと嘲笑ってやりたい。今後も死んでも作る予定はないし、それ以外のスキャンダルも細心の注意を払っているのでニュースになるような事は何一つない。本当に愛する妻がいるからこそ、やましいことをしたくないのだ。

「わかっている。妻以外の女などクソだと思っているからな」

 そうして電話を切り、眼鏡をかけ直して椅子にゆっくり腰かける。久瀬には心配するなとは言ったが、ぶっちゃけると久瀬が二週間もいないとなると辛いものがある。それはオレの回りをうろちょろするハイエナ共の対策だ。

 一つ目が、下卑たお世辞とごますりとその末に持ちかけられる悪辣な企みか。

 他社を蹴落とそうと躍起になり、その大半が中途半端な権力者が矢崎財閥の権力に乗っかろうとしてくるのだ。野心にまみれた脂ぎったジジイの相手など、奴等が好みそうな女を差し出しておけば大抵はおとなしくなってくれるから楽なものだが、地味にうざったいのだ。

 二つ目が、異性関係。オレに近づいてくる目的は大体前者と同じ。これが最も鬱陶しいことこの上ない。

 女を武器にして体で近づき、矢崎財閥の腹を探ろうとする者であったり、スキャンダル狙いでハニートラップを仕掛けてくる者であったり、恋に狂った盲目な奴らからの襲撃だったりと様々だ。

 結婚して妻帯者になれば少しは落ち着くかと思ったが全然で、もし久瀬がいなければ余計なハニートラップに引っ掛かり、愛する妻に余計な心配を招いていたはずだ。そう思うと久瀬の存在はあらゆる事で防波堤になってくれていてありがたみがわかる。その久瀬がいないとなるとやはり不安が残る。

 はあ……愛する甲斐にあいたい。息子とも最近遊んでやれてないし。さっさと今の商談の契約を終わらせて帰国して家族と過ごしたい。

「社長」

 静かな社長室にノックが二度ほどして顔をあげる。入れと命令をすると、ゆっくり扉が開いた。

「はじめまして、社長。二週間ほど臨時の秘書を仰せつかった川田凛々子かわだりりこと申します」

 外国人のハーフっぽい顔立ちの女が臨時の秘書だと名乗ってきた。

 女が秘書か……厄介だな。


「社長、パリ支社の報告についてなんですけど……」

 女が秘書という事でオレの仕事についてこれるか見ものだったが、テキパキと与えられた仕事をこなし、冷静に周りを見ることもでき、気も利くようだ。こちらとしては少しでも使い物にならなければ即刻帰国させるつもりでいたのに、久瀬に匹敵するほどの立ち回りのよさだ。どんなに難しい案件や他社の社長相手にも怯むことなく対応。語学力も申し分ない。ただの女とは思えない有能ぶりだった。

 あのババアが選んだだけの事はある。あのババアとは正之の姉で誠一郎のジジイの奥方の事だが、正之そっくりでなにかと矢崎家のしきたりと口うるさい。しかし、仕事には妥協を許さない性格だからそれなりに実力のある秘書を厳選してきたはず。オレと年齢はそう変わらないはずなのに秘書としての腕は確かだろう。

「社長?」
「いや、なんでもない。続けろ」
「はい、で……売上高2%と上昇しており……」

 川田凛々子の父親は官僚エリートで母親は弁護士。百合ノ宮学園を特待生で入学してから首席で卒業。米国の権威のある大学で経済学を専攻。趣味はピアノと華道。語学に堪能で英語ドイツ語中国語など世界10カ国語は普通に会話可能。

 ふむ、履歴書だけみれば悪くはないな。問題は性格と真意か。なんせババアの回し者だから油断はできない。

「明日にはパリへ飛ぶ。準備を進めておけ」

 オレは立ち上がり部屋を出て行こうとする。

「はい、かしこまりました。……と、社長、どちらに?」
「日本にいる家族に電話だ。少しでも余裕があるうちに連絡をとっておきたい」
「家族というと……奥様にですか?」
「そうだ。それがどうした」
「いえ、奥様と本当に仲がよろしいのだと不思議に思いまして。社長には愛人がいらっしゃってもおかしくはないと事前にうかがっておりました。前社長は十人ほどいらっしゃり、仕事のストレスを愛人相手に発散されていたと」

 正之の愛人関係の話にオレは反吐が出そうになった。

「前社長の正之はその通りだが、オレは妻一筋。愛人なんて欲しいとも作りたいとも思わん。余計な誤解をするな」
「……そうですか。申し訳ございません。大奥様が社長がストレスなど仕事に悩むことがあれば、秘書として夜を共にしたり、体の世話もするようにと仰せつかっております。社長がもし性的欲求でお困りでしたらご奉仕させていただきますので。夜のお相手も社長が退屈しないように大奥様から存分に躾られました。これも仕事ですので不貞行為には当てはまりません」

 夜枷の事すら仕事の一環と言うこの女に吐き気のようなものを感じた。

「何もいらん。なにもしなくていい。余計なお世話だ。お前は事務仕事だけしていろ!」

 あのクソババア。余計な女を寄越してくれやがったな。帰国したらまじで更迭してくれる。


「甲斐、今いいか」

 日本にいる愛する妻へ電話をかけた。丁度寝る前だったらしくほっとした。

『仕事、今はヒマなの?』

 甲斐の声に高揚する。長く会話をしていたいけれど向こうは深夜。甲斐もいろいろやることがあると言っていたので、寝る前に我が儘は言えない。

「ああ。今は丁度ゆっくりできる時間だから。直樹は……」
『一時間前には寝ちゃったよ。今日は保育園で家族の似顔絵を描いたんだって。お父さんに……アンタに今度の土日にあえるって楽しみにしてた』
「そうか。何事もなければちゃんと帰国できると思う。今の契約を片付けられたらしばらくは日本にいれるし、たくさん遊んでやらないと」

 もちろん、愛しい甲斐とも存分にイチャイチャしたい。最近は当然ながらセックスもご無沙汰だしな。

『じゃあ和食中心の料理作って待ってるよ』
「楽しみにしてる。土産たくさん買って帰国するよハニー」

 はやくあいたい。結婚してから仕事ばかりで、息子に顔を忘れられていたらどうしようと不安な時期もあった。昨年なんて半年も日本を離れていたこともあったから、妻にも息子にも寂しい思いをさせた。もちろん、オレ自身も寂しかった。今も……

 フランスへ到着したその夜、いろんな重役を集めた晩餐会に出席した。晩餐会など面倒だが、重要な契約を円滑に進めるためには仕方のないこと。ビジネススマイルを顔面に張り付けていろんな重役共と談笑。ジョーダンを交えての談笑を右から左へと流しつつ、重役共の真意を探っていると、思った通りどいつもこいつも野心の事しか考えていなくて退屈そのものだ。

 食事も食べなれた各国の最高級料理。プロが作っているものだから美味といえば美味なのだが、こう頻繁に高級モノを食べていると飽き飽きしてくる。

 愛する甲斐の家庭料理が食べたい。特に日本食。日本食が恋しい。甲斐の作るかぶら寿司とか肉じゃがとか唐揚げが食べたい。あーはやく日本に帰国したい。

「きゃーMrナオよ!」
「あーん超素敵。いつ見ても超ハンサムだわぁ」
「ほんと、とても美しいお顔よねー。惚れ惚れしちゃうわ。あんなイイ男の奥さんになってる人程幸せ者はいないわよ」

 外野がうるさいが無視だ。日本と違って外国の女共は積極的で図々しいから関わらないようにしなければならない。
 そんな時、背後から今まさに揉めるような声に嫌な予感がした。

「ちょっと!あんたなんなのよ!これからMrナオに用があるから話をしようとしているのに」

 どっかの白人のご令嬢が川田ともめていた。だれが何をやらかしたのやらオレは頭が痛くなった。

「申し訳ありません。社長は晩餐会を楽しんでおりますので個人的な会話は今はお控えください」
「こっちだって晩餐会を楽しみたいのよ!あんたMrナオのなんなの?あたしはローザンヌ社の代表取締役会長の娘フランソワよ!」
「私は矢崎財閥社長秘書の川田と申します」
「ふん、だかが日本猿の秘書風情がなんなのよ!Mrナオの秘書はMrソウジロウだったはずよ。あんたみたいな女が秘書だなんてMrナオの愛人気取りかしら。秘書が愛人てよくある話だしね」
 
 愛人という言葉が出た途端、周囲にざわっと波紋が広がる。

 ちっ、面倒なことになってきやがった。久瀬だったら令嬢が不愉快にならないように紳士的な対応をして双方何ごともなく根回しも完了しているが、川田には異性関係の根回しは無理だと思っていたがやはりか。

 いくら仕事ができても秘書が女というだけで他社の重役らからはナメられやすいこの世界。おまけにあらぬ噂をたてられやすく、異性同士だと距離感もつかみにくい。

 だから女の秘書は厄介だったんだ。

「愛人だなんて薄汚い立場とっとと降りなさいよ!黄色いジャップのくせに!」

 興奮した令嬢はそばにあったワイングラスを手に取り、勢いよく川田の頭にぶちまけた。

「きゃ」

 慌てる川田の全身はワインでずぶ濡れになった。

「ふふ、いい気味だわ!Mrナオはあんただけのものじゃないんだから!」
「フランソワ嬢」

 オレは深いため息を吐き、仲裁役を買って出ることにした。あー面倒くせえ。

「私の秘書がなにか失礼をいたしましたか?」
「きゃあ、Mrナオ!失礼という事はありませんが、ミスターはこの秘書とはどういうご関係なのかと不思議に思いまして」
「そうですか。フランソワ嬢が考えているような関係はございませんよ。私には愛する妻も息子もいますからね。筆頭秘書の久瀬は事情によりこの場にはおりませんが、彼女は臨時の秘書です。至らない部分が見受けられましたらこちらとしても注意をしておきましょう」

 そうしてオレは紳士的な挨拶をして令嬢に優しく微笑みかけた。

「んまっ!そ、そうでしたのっ。私ったら早とちりをしてしまいましたわ!ただの臨時秘書でしたらそれはそれでいいのです!おほほほ」

 こうすれば大抵の女は落ち着いてくれるからな。この容姿でのビジネススマイルは昔から武器になるので活用しない手はない。




「社長、申し訳ございませんでした」

 その後、すぐに川田が頭を下げてきた。

「お前のせいではない。異性が秘書だと気にくわないとばかりにやっかみに発展する事はよくある」
「社長……」
「とりあえずその濡れた格好を着替えてこい。お前にはやってもらいたい事は山ほどある」
「は、はい、今すぐに」

 慌てたように去っていく川田を見届けて会場に戻ろうとすると、

「あの、社長」

 川田が戻ってきていた。

「なんだ」
「隣のホテルまでご同行お願いできませんか?」


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