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十八章ならず者国家
18-7
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「初めまして、相沢栄太です。よろしく、甲斐様」
黒髪のピアスをした爽やかな少年だ。どうやら日本人のようだ。
「どーも、架谷甲斐で……って、相沢?相沢って……」
相沢ってEクラスの亡くなった本木君の親友と同じ名前だな。しかも、本木君が持っていた相沢君の遺影と似ているし……まさか本人……か。
「ふふ、聞きたいこと、言いたい事がいろいろあるだろうが、それは後にしろ。とにかく、こいつは今日からお前の従者となる。何か用がある時はこいつを呼んで世話をしてもらえ」
曰くありげな白井だったが、目が痛くなる景色が嫌だったのでとっとと食堂を出た。離れに戻り、少し休んでから日本人街へ向かうための支度を整える。栄太君とやらも従者として着いてくるようだ。
「甲斐様……ううん、甲斐って呼んでいいか?」
「え、あ……ああ。そっちの方がいいと言おうと思ってた所だよ。そっちの方がしっくりくるし、同じ年頃だろ」
「ああ。そりゃあ同じEクラス出身だからな」
「Eクラスの出身って、やっぱり……キミは……」
彼は肯定するように笑顔で頷く。本当にEクラスの仲間だった相沢君のようで驚いた。
「かつてEクラスにいた相沢ってのは俺だよ。相沢栄太は日本では死んだことにされているからな」
「死んだことに……そうだったのか。でもどうして。何故キミが死んだことに?Aクラスに殺されたとか、姫川瑠璃に殺されたとか、いろいろ噂があがっていたから本当にそうだと思ってた」
「この島の情報を外部に少し漏らしてしまって、懲罰として死んだことにされたんだよ。Aクラスに殺されたように見せかけてね。姫川とやらは白井様からすればただの駒に過ぎないから、俺に偽造した人間を殺せと命令されて動いただけだと思う」
「そうだったのか……」
いろんな陰謀が重なって、最終的に白井とこの島にまで繋がっていたとは……なんていうか、肩透かしをくらったものだ。世間ていうのは意外に狭い。こんなに近くに白井の手掛かりや、相沢君の生存隠蔽が隠されていたなんて。Eクラスの皆は嬉しいようで悔しいだろうな。
「でも、相沢君の……栄太君の家族とか」
「栄太でいいよ」
「あーその、栄太の葬式で家族や親せき達に泣き喚かれたってクラスメート達から聞いていたけど」
「あれは周到に用意されたプロ家族だよ。俺が本当に死んだように見せかけるために必要だったんだ。あの辺にはたくさんの青龍会の諜報員が嗅ぎまわっていたから、おかしな点を一つも漏らさないために徹底的に偽造された。もちろん遺体も俺じゃない別人の者っていうか、姫川が殺した奴の者。名も戸籍もない人体実験に使われた奴だ」
青龍会はホワイトコーポレーションと敵対しているもんな。敵相手におかしな不審点に気付かれでもすればこの島の情報がバレちまうって事なんだろう。そんな相手に今までずっと隠し通せていたのがすごいもんだ。
「人体実験……か。霊薬の血の実験の事?」
「そう。日本ではそう呼ばれるみたいだけど、ここでは白井様の血……いや、【ホワイトブラッド】と言われているんだ」
「ホワイトブラッドって……なんでもホワイト付けりゃあいいってもんじゃねーだろ……」
ホワイトコーポレーションやらホワイトプリズンやら今度はホワイトブラッドって、馬鹿の一つ覚えだな。
「あはは……まあ、白井様のいう事はみんな進んで聞いている。この島ではみんな白井様を神様のように思っているから。このホワイトプリズンでは王様だし」
「王様やら神様やら、自分がトップに立たないと気が済まない野郎なのかアイツは。アホかっつうの」
「そんな風に白井様を貶せるのは甲斐くらいだよ。さすがは白井様の妃候補なだけあるな」
「う……妃候補ね……まあ……そうみたいだけど~」
本当はすっげぇ不本意で嫌だけど。暗躍するためには嫁としてやっていくしかないのだ。
「そういえば栄太は相沢せんせ……真生さんと、仲が良かったんだっけ」
「真生さんか……懐かしいな。俺が日本でまだ生きていて、裏社会で白井様の右腕として動いていた時、彼とは顔見知りだったんだ。そこで仲良くなって、相沢先生が組織に疑問を持つようになって、うっかり俺が『白井様のアジトは日々動いているんだよ』なんて言ったものだから、ここに軟禁されたんだけどさ」
「てことは真生さんは……もしかしてこの島の存在を知っているのか?」
「わからない。漠然とした言葉で漏らしたからなんとも言えない。憂鬱な時に何気なく漏らしたから。でも、ほんの些細な事でも島の事を漏らした事実には変わりない。だからここで百年は軟禁だって言われた」
「百年って……栄太……お前もしかして」
俺は深刻な表情で栄太を見つめる。
「うん……俺も白井様や牧田と同じで半不老不死なんだ。白井様の血を飲んで、ね。普通なら島の事を漏らした時点で拷問されて殺されていただろうけど、こういう事実があるから俺は殺されないんだ」
まさかの栄太が八尾の血を飲んでいたなんてな。じゃあこの島のみんなもそうだったりするのか。牧田もそうだったし。てことは、八尾の血のバーゲンセールになっちまうな。
そのうち俺もまた八尾の血を飲ませられるんだろうか。死ぬことが出来なくなるのは混血になる前の甲夜を見ていた時に辛いものがあったから、人間じゃなくなるのは少し後ろめたい。また150年前を繰り返すのかって。せっかく甲夜が俺と直を人間に戻してくれたのに。
しかし、俺は覚悟を持ってこの島に来た。
だから、白井を斃すためには身を化け物に変えてでもやり遂げなければならない。何が起きても、もう動揺なんかしたりはしないと誓った。
俺はこの島に来てから無敵な人になったのだから。
「そういえばEクラスのみんなと再会したのか?特に本木君なんて毎日栄太の遺影持ち歩いててさ」
「ああ、もちろん。ここで久しぶりにみんなと再会できてさ、みんな大はしゃぎだった。甲斐の事も日本にいる工作員から話で聞いてた。Eクラスを助けてくれた救世主だってさ」
「んま、救世主だなんて大げさだな」
「いや、その通りだと思う。俺がいなくなってから大変だったようだし。甲斐がEクラスを守ってくれたんだな。ありがとう」
黒髪のピアスをした爽やかな少年だ。どうやら日本人のようだ。
「どーも、架谷甲斐で……って、相沢?相沢って……」
相沢ってEクラスの亡くなった本木君の親友と同じ名前だな。しかも、本木君が持っていた相沢君の遺影と似ているし……まさか本人……か。
「ふふ、聞きたいこと、言いたい事がいろいろあるだろうが、それは後にしろ。とにかく、こいつは今日からお前の従者となる。何か用がある時はこいつを呼んで世話をしてもらえ」
曰くありげな白井だったが、目が痛くなる景色が嫌だったのでとっとと食堂を出た。離れに戻り、少し休んでから日本人街へ向かうための支度を整える。栄太君とやらも従者として着いてくるようだ。
「甲斐様……ううん、甲斐って呼んでいいか?」
「え、あ……ああ。そっちの方がいいと言おうと思ってた所だよ。そっちの方がしっくりくるし、同じ年頃だろ」
「ああ。そりゃあ同じEクラス出身だからな」
「Eクラスの出身って、やっぱり……キミは……」
彼は肯定するように笑顔で頷く。本当にEクラスの仲間だった相沢君のようで驚いた。
「かつてEクラスにいた相沢ってのは俺だよ。相沢栄太は日本では死んだことにされているからな」
「死んだことに……そうだったのか。でもどうして。何故キミが死んだことに?Aクラスに殺されたとか、姫川瑠璃に殺されたとか、いろいろ噂があがっていたから本当にそうだと思ってた」
「この島の情報を外部に少し漏らしてしまって、懲罰として死んだことにされたんだよ。Aクラスに殺されたように見せかけてね。姫川とやらは白井様からすればただの駒に過ぎないから、俺に偽造した人間を殺せと命令されて動いただけだと思う」
「そうだったのか……」
いろんな陰謀が重なって、最終的に白井とこの島にまで繋がっていたとは……なんていうか、肩透かしをくらったものだ。世間ていうのは意外に狭い。こんなに近くに白井の手掛かりや、相沢君の生存隠蔽が隠されていたなんて。Eクラスの皆は嬉しいようで悔しいだろうな。
「でも、相沢君の……栄太君の家族とか」
「栄太でいいよ」
「あーその、栄太の葬式で家族や親せき達に泣き喚かれたってクラスメート達から聞いていたけど」
「あれは周到に用意されたプロ家族だよ。俺が本当に死んだように見せかけるために必要だったんだ。あの辺にはたくさんの青龍会の諜報員が嗅ぎまわっていたから、おかしな点を一つも漏らさないために徹底的に偽造された。もちろん遺体も俺じゃない別人の者っていうか、姫川が殺した奴の者。名も戸籍もない人体実験に使われた奴だ」
青龍会はホワイトコーポレーションと敵対しているもんな。敵相手におかしな不審点に気付かれでもすればこの島の情報がバレちまうって事なんだろう。そんな相手に今までずっと隠し通せていたのがすごいもんだ。
「人体実験……か。霊薬の血の実験の事?」
「そう。日本ではそう呼ばれるみたいだけど、ここでは白井様の血……いや、【ホワイトブラッド】と言われているんだ」
「ホワイトブラッドって……なんでもホワイト付けりゃあいいってもんじゃねーだろ……」
ホワイトコーポレーションやらホワイトプリズンやら今度はホワイトブラッドって、馬鹿の一つ覚えだな。
「あはは……まあ、白井様のいう事はみんな進んで聞いている。この島ではみんな白井様を神様のように思っているから。このホワイトプリズンでは王様だし」
「王様やら神様やら、自分がトップに立たないと気が済まない野郎なのかアイツは。アホかっつうの」
「そんな風に白井様を貶せるのは甲斐くらいだよ。さすがは白井様の妃候補なだけあるな」
「う……妃候補ね……まあ……そうみたいだけど~」
本当はすっげぇ不本意で嫌だけど。暗躍するためには嫁としてやっていくしかないのだ。
「そういえば栄太は相沢せんせ……真生さんと、仲が良かったんだっけ」
「真生さんか……懐かしいな。俺が日本でまだ生きていて、裏社会で白井様の右腕として動いていた時、彼とは顔見知りだったんだ。そこで仲良くなって、相沢先生が組織に疑問を持つようになって、うっかり俺が『白井様のアジトは日々動いているんだよ』なんて言ったものだから、ここに軟禁されたんだけどさ」
「てことは真生さんは……もしかしてこの島の存在を知っているのか?」
「わからない。漠然とした言葉で漏らしたからなんとも言えない。憂鬱な時に何気なく漏らしたから。でも、ほんの些細な事でも島の事を漏らした事実には変わりない。だからここで百年は軟禁だって言われた」
「百年って……栄太……お前もしかして」
俺は深刻な表情で栄太を見つめる。
「うん……俺も白井様や牧田と同じで半不老不死なんだ。白井様の血を飲んで、ね。普通なら島の事を漏らした時点で拷問されて殺されていただろうけど、こういう事実があるから俺は殺されないんだ」
まさかの栄太が八尾の血を飲んでいたなんてな。じゃあこの島のみんなもそうだったりするのか。牧田もそうだったし。てことは、八尾の血のバーゲンセールになっちまうな。
そのうち俺もまた八尾の血を飲ませられるんだろうか。死ぬことが出来なくなるのは混血になる前の甲夜を見ていた時に辛いものがあったから、人間じゃなくなるのは少し後ろめたい。また150年前を繰り返すのかって。せっかく甲夜が俺と直を人間に戻してくれたのに。
しかし、俺は覚悟を持ってこの島に来た。
だから、白井を斃すためには身を化け物に変えてでもやり遂げなければならない。何が起きても、もう動揺なんかしたりはしないと誓った。
俺はこの島に来てから無敵な人になったのだから。
「そういえばEクラスのみんなと再会したのか?特に本木君なんて毎日栄太の遺影持ち歩いててさ」
「ああ、もちろん。ここで久しぶりにみんなと再会できてさ、みんな大はしゃぎだった。甲斐の事も日本にいる工作員から話で聞いてた。Eクラスを助けてくれた救世主だってさ」
「んま、救世主だなんて大げさだな」
「いや、その通りだと思う。俺がいなくなってから大変だったようだし。甲斐がEクラスを守ってくれたんだな。ありがとう」
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