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十五章因縁の対決

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 食事中、甲夜は学校であったことを楽しそうに話し、真白は学校の勉強は簡単すぎてつまらないけど友達が出来て嬉しいと話していた。二人ともそれなりに学校生活を楽しんでいるようで何よりだ。一方、直は仕事が疲れた辛いと愚痴と不満ばかりをこぼしていたな。お疲れ様です。

 夕食を終えた後は各々順番に入浴し、娘達は部屋で宿題。真白は宿題をぱぱっと終わらせていたが、甲夜は国語はともかく英語と算数に苦戦しているようで、直が娘のために勉強を見ていた。

「父様……ごめんなさい。ウチ、算数と英語が苦手で……」

 甲夜はこの150年間はずっと霊薬の血の事を調べていたため、医療や生物の事なら詳しいが、それ以外はてんでダメなようでてこずっているようだ。幕末生まれだもんな。あの時は学校なんて通えるほど裕福じゃなかったし。

「人間誰しも得手不得手がある。お前は頑張り屋だからちゃんと勉強したらできるようになるさ。お前の母さんなんてオレが教えてあげるまで数学のテストで0点ばかり取っていたポンコツだった。小学校五年生の問題もロクにできなかったバカでな、オレは教えるのに大変苦労したよ。それに比べたらお前は全然マシだ甲夜」
「父様、そうなのですか」
「おい。バカでポンコツで悪かったなバカ旦那」

 たしかに俺は勉強面ではポンコツだがそこまで言う事ねーだろ。そりゃあ最小公倍数もわかんなかったバカだったけど、今は赤点スレスレまでは点数伸ばせるようになったんだぞ。0点じゃないだけマシに成長したんだ馬鹿野郎。

「父様はお勉強得意なんですか?」
「オレもどちらかと言うと苦手だよ。無理やりやらされていただけ」

 それでもアメリカの某大学を飛び級な上に首席で卒業したくせに。苦手とは思えん。

「でも、父様の教え方、とってもわかりやすい!学校の先生より教師らしいです!」
「そうか?」
「はい!自慢の父様ですっ!勉強ができてハンサムな父様をみんなに自慢したいくらいですっ!」

 自慢なんてしたらそれこそ全国から大挙してきそうで恐ろしいよ。四天王の矢崎直だし……。

「ずるーい!真白も、パパから勉強、教えてもらうっ」

 ベットから起き上がった真白が直の腰回りに抱き着く。

「お前は教えなくてもできるだろう」
「それでも、甲夜だけずるい!真白、教えてもらいたいっ!真白のパパ、頼りになるパパだって、真白も、実感したいもん」
「じゃあ一緒にやるか。甲斐、お前もおいで」
「は、俺も?」
「当然。娘が頑張って勉強しているのに親のお前がしないなんてないよな?せめて今日やったところの復習くらいしとかないと、お前はただでさえ物覚え悪いんだからまた0点とってもしらねーぞ」
「うう……」

 直は仕事で忙しい時は学校に来ていないが、来れる日があればEクラスの数学の授業を見てくれている。本人曰く、学校来てもやることがないし暇なんだとか。

 今更高校レベルの授業など直からすれば聞くに堪えないらしく、Eクラスで勉強を教えた方が為になるし、俺と合法的に一緒にいられるからって理由。全く照れる事言いやがって。

 万里ちゃん先生も「彼が教えてくれて助かります」と言っていて、Eクラスの数学は以前と比べて成績は上がっている。真面目に聞くようになった生徒がほとんどだ。なんせ直が受け持つ際にわからないとなれば、恐ろしい直の眼力に睨まれてその日は生きた心地がしないんだと健一達が言っていた。いい緊張感にはなるよな。

 という事で、俺まで今日やった数学の復習をさせられた。もちろん全然わからなくて、直からお叱りという名の嫌味攻撃をこれでもかと受けた。直がいないからってつい気が緩んだせいもあって、以前教えてもらった因数分解の解き方もすっかり忘却の彼方になっていた。おかげで娘の真白からも呆れた顔をされてしまった。

「ママ、因数分解、できないの?真白、数学、超好きなのに」

 真白は桐谷に幽閉される前にやった全国模擬試験でオール満点をとれる天才なんだと。しかも大学入試レベルで。たしか直も小学校の時に模擬試験でオール満点とったんだっけ。

 矢崎直と久瀬晴也以来の天才現る!って感じでニュースにもなっていて、真白はその頃は結構な有名人だったらしい。ふむ、俺の周りは天才が多いな。俺がバカなだけだろうか。

「俺はね~お前とは頭の出来が違うんだよ真白。天才科学者の脳みそじゃないからね。普通の頭だから物覚えが悪いんであって」
「言い訳するな」
「いてっ」

 直にごつんっと教科書で頭をぶっ叩かれた。おいてめえ教科書の角で叩くのはやめろよアホ。地味に痛いんだよそれ。

「ママ、五年生の問題、できないの、本当?」
「あー……あははは……それは昔の事でね。今はちゃんとできますとも」
「昔じゃなくて最近の事だろ。オレが教えてやらなかったらお前は今でも0点を量産して留年の危機だったよ」
「ぐ……てめっ余計な事言うな!」
「ママ、結構お馬鹿、だったんだね」
「母様、さすがに0点はよくないです」

 娘達からジト目で馬鹿呼ばわりされてぐさりとそれが突き刺さる俺。娘達の前では毅然とした俺でいたかったのに、早くも情けない部分を暴かれてしまった。

「ううう、どうせ俺はバカですよ。ふんっだ」

 ずーんと肩を落とす俺を見かねた娘達は、慌てて「馬鹿でもママはママだよ」とか「母様は勉強できなくても他で補ってます!」とか、フォローになっているのかよくわからない慰めを頂いた。

 人には得手不得手というのがあるんだ。それがたまたま俺にとっては勉強だっただけの事。勉強できなくても生きていけるわい。

「お前の頭が足りなくても、オレがそれを今後フォローしていくからいいよ」

 娘達が寝静まった頃、拗ねた俺を見かねて直にもフォローかどうかわからん慰めをもらった。今更もういいってば。

「まだそれを引きずるかね。俺は別にもう「どんなお前でもお前の代わりは誰もいない」

 ぎゅっと直が俺を背後から抱きしめてきた。

「お前がバカでもアホでも、0点取るような赤点野郎でも、オレは全然かまわない。そんなバカがいいんだから」
「褒めてんのか貶してんのか……」
「褒めてる。どんな甲斐でも愛してんだから。言っただろう?全部オレがフォローする。お前が元気にそばにさえいてくれたらなんだっていい」
「っ……」

 そんな事言われたら不貞腐れていた気持ちも消えていくよ。

「これからもお前の勉強はオレが全部教えてやるから」
「じゃあ、直も料理は……まあ無理として、トイレ掃除や洗濯くらい手伝えよ」
「っ……なんとかやってみる」

 勉強はできても家事はてんでダメな所がまだいいかも。全部完璧すぎてたら俺の立つ瀬がないしな。真白も勉強はできるが料理や家事は全然ダメだし、甲夜は俺に似て勉強は苦手だけど家事はできるよな。150歳だからいろんな経験してるだろうし。


「いいか、この数字を……」
「……う……ん……」

 俺に眠気の限界が来ていた。時計を見れば夜中の23時過ぎだからな。かれこれ数時間は勉強しているから眠気が来てもおかしくはない。復習がんばってるよ俺。数日後の小テストの心配が少しだけ和らいだ気がする。

「そろそろ休むか。お前眠そうだし」
「う、ん……」

 意識が微睡つつある俺を、直はお姫様抱っことやらをして持ち上げた。いつもの俺だったら恥ずかしくて暴れそうな場面だが、眠気には勝てずに俺はされるがままになっている。

「ベッドまで運んでやるよ」
「……ごめ、ん………」

 俺は無防備もいいところだ。だってすごい眠いし、直の腕の中が心地いいんだ。

「明日も勉強教えてやるから」
「……う……」

 寝室の扉を器用に開けて、広いベットに優しく寝かせられる。布団をかけられて直も隣で頬杖をついて横になった。

「えっち……しなくていいの?」

 上目づかいで誘うように言ってみた。ちょっと期待してたなんて言えない。

「寝むそうなお前を襲うほど今日はがっついちゃいねーよ」
「……どの口が言うんだか……」

 いつもシテる時は獣みたいになるくせに。そんで俺をじらそうとしたり、言葉責めでドSになるくせに。

「気持ち良さにドロドロに甘やかしちゃったら、せっかく教えた所もお前忘れそうだしな。オレの奥さんは気持ちいい事大好きだし」

 直の掌が俺の頬や首筋を撫でてスリスリしてくる。

「だって……好き、だもん」
「セックスが?それとも甘やかされることが?」
「両方……だよ……」
「ふふ、可愛い欲張り」

 
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