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十四章架谷家と黒崎家
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ゆっくり目を開けると、どこかの病室の天井が視界に映った。外はまだ早朝の時刻くらいだろうか。すぐ近くのスツールには悠里と母さんがウトウトしながら座っていて、真向いのベットには入院中の父さんが眠そうに医学書を読んだりしている。オレが目を覚ましたのに気づくと両親と悠里が慌てて寄ってきた。
「目を覚ましたのね!」
「体は大丈夫なの?」
「どこも辛くはないかい?」
「父さん……母さん……悠里……」
まだ体がだるくてぼんやりするけど、妙に晴れやかな気持ちなのは確かで。すごくスッキリしてるって返すと、オレの家族は泣きそうな顔で胸を撫で下ろしている。母さんはほぼ泣いていたな。ほんと心配かけてごめん。
隣のベットを見ると、甲斐が「おはよう」と笑顔で声を掛けてくれた。一足先に目を覚ましていたようだった。
「三日三晩の苦しみになんとか耐えれたな」
「甲斐……」
お互い無事に生還できた事をまずは喜ぶ。汗だくな顔や首周りを母さんがタオルで拭いてくれて、医者が簡単にオレの体を診察すると特に異常もなさそうだった。自力ですんなり歩けるし、何かの後遺症なども見当たらず、全て異常なしで健康そのものと言っていい。
「本当に体は大丈夫?」
「無理しちゃだめだからね」
父さんや母さんは心配性だなと思うけど、親ってこういうものなんだろうな。感情を失っていた時も、記憶がない間も、両親が甲斐を除いて一番心配してくれていた。世話をいっぱい焼いてくれた。
ありがとう、父さん、母さん。それになんだかんだで心配してくれた妹。
「苦しむ前より全然体が軽いんだ。今はただ寝すぎてだるいだけって感じ」
ぐっとオレは背伸びをしてぼきぼきと体を打ち鳴らす。長期間の療養生活のせいですっかり肩や首がこっているので、これからちゃんとほぐして体を鍛えないといけない。今日の夜からでもリハビリを開始しようかと思うほどだ。
「苦しんでいる間は辛かった?」
「そこまで苦しくはなかったな」
ずっと苦しんでいた間は意識がなかったのでそこまで苦しいとは感じなかった。むしろ、矢崎正之に捕まって拷問を受けていた時の方がずっと苦しくてひどい夢ばかりを見ていた。あの時よりかは全然マシで拍子抜けしたほどだ。まさか前世の自分自身と対峙する事になるとは思わなかったけれど。
「これで普通に戻れたのかな」
「多分な。だってすごく体が軽く感じて体力が有り余ってる」
「俺は以前とあまり変わらない感じだよ」
「甲斐は八尾の血が薄くなっただけだからな。でも瞳の色は元の青色に戻ってる。両方とも」
オッドアイだった瞳は綺麗な元の青色に戻っていた。さっき目覚めた時に知って驚いたらしい。
「……八尾の血が薄くなった証拠ってやつか」
「オレももう霊薬の血じゃなくなったって事。病弱な自分とはオサラバできたんだ」
「っ……よかった。これで……一緒にあんたと生きていける。これから寿命とかをもう気にしなくていいんだ」
「ああ、そうだよ……甲斐」
涙ぐんでいる甲斐のそばに寄って抱きしめて、その場にいるみんなで喜び合った。
*
早苗さんと悠里は今後の治療について医者と話しに出て行き、一樹さんはリハビリのために出払う。
入れ替わるように真白が病室にやってきた。毎日この病院でリハビリ通院しているらしいので、ついでに俺達に逢いにやってきたようだ。
「二人とも、がんばった。えらい」
そういえば真白は、この世界線とは違う前世で俺と直の娘なんだよな。本人は覚えてないだろうけど、まあ別に言わなくていいか。
「真白ね……前から、直とおしゃべり、してみたかった。前回、直は妖精、みたいだったから……」
「妖精?」
「あーまあ感情ない時にいろいろあってね」
花冠を飾ってあげた時、直はたしかに妖精みたいだったよな。
「直と、話してると、なんか、なつかしい」
「奇遇だな。オレも懐かしく感じる。まるで自分の娘と話しているみたいだって思う」
「娘……。なんか、しっくりくる。直の、娘……か。えへへへ。そうなったら、真白の、パパ、だね」
こうして見ていると、真白は直にとても似ているよな。この世界線では血は繋がっていないはずなのに、親子のように見えるよ。
「じゃあオレの事、父親だと思っていいぞ」
「っ……え?ちち、おや?おとうさん、てこと。いい、の?」
「言っただろう?娘みたいだって。だから、そう思っていい」
その直の台詞に俺はふと気づいた。
「直……もしかして……」
俺が直の方を見つめると、直は曰くありげに優しく微笑んで見せた。ああ、記憶を思い出しているんだな。すべての。
「パパ……直は、真白の、パパ、だね。なんかね、最近、よく夢、みるの。直に似たパパ、一緒に遊園地、行ったり、してた。甲斐に、似た、ママも、いたよ。家族で、いっぱい、遊んだ。楽しかった」
「真白……」
「きっと、前世は、直が真白の、パパ。甲斐が真白の、ママ。そう思ったの。だって、すごく、リアルで、本当の、家族、みたいだったの」
「そうか……じゃあ今度、一緒に遊園地に行くか?」
「え、遊園地?連れて行ってくれる、の?」
「ああ、もちろんだ。遊園地のフリーパスがたくさん余っててな……」
「パパ、だいすきっ!!」
ぎゅうっと直に抱き着く真白は、直を本当の父親として認識し始めたように甘える。真白が見ていた夢は本当の出来事で、俺が女だった前世の事。やはり、真白も無自覚に記憶を思い出しているんだな。
「甲斐のことは、今日から、ママって呼ぶ!直の方が、パパって、かんじがした!」
「ははは……パパからママってあだ名に変更も変な話だけどな」
もし俺に前世の記憶がなかったら、なんかすっげえ納得いかなかっただろうな。なんで俺が女で母親?って感じで憤っていただろう。前世が女で母親だった時があったからこそ、ママ呼びが許せた感じである。
「おはようっ!」
三人で親子だなんだとしゃべっていると、俺達が目覚めた事を知った甲夜がすっ飛んできた。
「おはよう甲夜……って、その姿は!?」
甲夜の見た目が変わっていた。
元々、昔の人だからか身長は低いのだが、腰までの長い髪は艶ある黒に染まり、八尾の血特有の赤い瞳も前世の俺の血を引いて紺碧の空のような瞳になっていた。
「母様達の血を入れ替えしてから、ウチもなんだか人間になれたみたいだ。若返ったみたいで、体も軽くなって……それに目も見えるようになった!」
くるりと甲夜は一回転して子供のようにはしゃぐ。どう見ても小学生くらいの少女だ。そして、俺達の愛娘。
甲夜は始祖の八尾の血だったから苦しみはほとんどなかったが、朝目覚めたら自分の異変に気付いたと話した。
「目を覚ましたのね!」
「体は大丈夫なの?」
「どこも辛くはないかい?」
「父さん……母さん……悠里……」
まだ体がだるくてぼんやりするけど、妙に晴れやかな気持ちなのは確かで。すごくスッキリしてるって返すと、オレの家族は泣きそうな顔で胸を撫で下ろしている。母さんはほぼ泣いていたな。ほんと心配かけてごめん。
隣のベットを見ると、甲斐が「おはよう」と笑顔で声を掛けてくれた。一足先に目を覚ましていたようだった。
「三日三晩の苦しみになんとか耐えれたな」
「甲斐……」
お互い無事に生還できた事をまずは喜ぶ。汗だくな顔や首周りを母さんがタオルで拭いてくれて、医者が簡単にオレの体を診察すると特に異常もなさそうだった。自力ですんなり歩けるし、何かの後遺症なども見当たらず、全て異常なしで健康そのものと言っていい。
「本当に体は大丈夫?」
「無理しちゃだめだからね」
父さんや母さんは心配性だなと思うけど、親ってこういうものなんだろうな。感情を失っていた時も、記憶がない間も、両親が甲斐を除いて一番心配してくれていた。世話をいっぱい焼いてくれた。
ありがとう、父さん、母さん。それになんだかんだで心配してくれた妹。
「苦しむ前より全然体が軽いんだ。今はただ寝すぎてだるいだけって感じ」
ぐっとオレは背伸びをしてぼきぼきと体を打ち鳴らす。長期間の療養生活のせいですっかり肩や首がこっているので、これからちゃんとほぐして体を鍛えないといけない。今日の夜からでもリハビリを開始しようかと思うほどだ。
「苦しんでいる間は辛かった?」
「そこまで苦しくはなかったな」
ずっと苦しんでいた間は意識がなかったのでそこまで苦しいとは感じなかった。むしろ、矢崎正之に捕まって拷問を受けていた時の方がずっと苦しくてひどい夢ばかりを見ていた。あの時よりかは全然マシで拍子抜けしたほどだ。まさか前世の自分自身と対峙する事になるとは思わなかったけれど。
「これで普通に戻れたのかな」
「多分な。だってすごく体が軽く感じて体力が有り余ってる」
「俺は以前とあまり変わらない感じだよ」
「甲斐は八尾の血が薄くなっただけだからな。でも瞳の色は元の青色に戻ってる。両方とも」
オッドアイだった瞳は綺麗な元の青色に戻っていた。さっき目覚めた時に知って驚いたらしい。
「……八尾の血が薄くなった証拠ってやつか」
「オレももう霊薬の血じゃなくなったって事。病弱な自分とはオサラバできたんだ」
「っ……よかった。これで……一緒にあんたと生きていける。これから寿命とかをもう気にしなくていいんだ」
「ああ、そうだよ……甲斐」
涙ぐんでいる甲斐のそばに寄って抱きしめて、その場にいるみんなで喜び合った。
*
早苗さんと悠里は今後の治療について医者と話しに出て行き、一樹さんはリハビリのために出払う。
入れ替わるように真白が病室にやってきた。毎日この病院でリハビリ通院しているらしいので、ついでに俺達に逢いにやってきたようだ。
「二人とも、がんばった。えらい」
そういえば真白は、この世界線とは違う前世で俺と直の娘なんだよな。本人は覚えてないだろうけど、まあ別に言わなくていいか。
「真白ね……前から、直とおしゃべり、してみたかった。前回、直は妖精、みたいだったから……」
「妖精?」
「あーまあ感情ない時にいろいろあってね」
花冠を飾ってあげた時、直はたしかに妖精みたいだったよな。
「直と、話してると、なんか、なつかしい」
「奇遇だな。オレも懐かしく感じる。まるで自分の娘と話しているみたいだって思う」
「娘……。なんか、しっくりくる。直の、娘……か。えへへへ。そうなったら、真白の、パパ、だね」
こうして見ていると、真白は直にとても似ているよな。この世界線では血は繋がっていないはずなのに、親子のように見えるよ。
「じゃあオレの事、父親だと思っていいぞ」
「っ……え?ちち、おや?おとうさん、てこと。いい、の?」
「言っただろう?娘みたいだって。だから、そう思っていい」
その直の台詞に俺はふと気づいた。
「直……もしかして……」
俺が直の方を見つめると、直は曰くありげに優しく微笑んで見せた。ああ、記憶を思い出しているんだな。すべての。
「パパ……直は、真白の、パパ、だね。なんかね、最近、よく夢、みるの。直に似たパパ、一緒に遊園地、行ったり、してた。甲斐に、似た、ママも、いたよ。家族で、いっぱい、遊んだ。楽しかった」
「真白……」
「きっと、前世は、直が真白の、パパ。甲斐が真白の、ママ。そう思ったの。だって、すごく、リアルで、本当の、家族、みたいだったの」
「そうか……じゃあ今度、一緒に遊園地に行くか?」
「え、遊園地?連れて行ってくれる、の?」
「ああ、もちろんだ。遊園地のフリーパスがたくさん余っててな……」
「パパ、だいすきっ!!」
ぎゅうっと直に抱き着く真白は、直を本当の父親として認識し始めたように甘える。真白が見ていた夢は本当の出来事で、俺が女だった前世の事。やはり、真白も無自覚に記憶を思い出しているんだな。
「甲斐のことは、今日から、ママって呼ぶ!直の方が、パパって、かんじがした!」
「ははは……パパからママってあだ名に変更も変な話だけどな」
もし俺に前世の記憶がなかったら、なんかすっげえ納得いかなかっただろうな。なんで俺が女で母親?って感じで憤っていただろう。前世が女で母親だった時があったからこそ、ママ呼びが許せた感じである。
「おはようっ!」
三人で親子だなんだとしゃべっていると、俺達が目覚めた事を知った甲夜がすっ飛んできた。
「おはよう甲夜……って、その姿は!?」
甲夜の見た目が変わっていた。
元々、昔の人だからか身長は低いのだが、腰までの長い髪は艶ある黒に染まり、八尾の血特有の赤い瞳も前世の俺の血を引いて紺碧の空のような瞳になっていた。
「母様達の血を入れ替えしてから、ウチもなんだか人間になれたみたいだ。若返ったみたいで、体も軽くなって……それに目も見えるようになった!」
くるりと甲夜は一回転して子供のようにはしゃぐ。どう見ても小学生くらいの少女だ。そして、俺達の愛娘。
甲夜は始祖の八尾の血だったから苦しみはほとんどなかったが、朝目覚めたら自分の異変に気付いたと話した。
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