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十四章架谷家と黒崎家

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「もし、そいつがお兄ちゃんを狙ってくるようなら、あたしがお兄ちゃんを守るんだから!大事なお兄ちゃんをそんなキモイ年増化け物ジジイになんてやるもんか!」
「うん。私だって甲斐くんを守るよ!今まで甲斐くんには助けてもらってばかりだった。今度は私が甲斐くんを守る番。これでも私だって修行して強くなってる。簡単には負けないよっ!」
「未来……悠里……」
「未来や悠里ちゃんだけじゃないわ。あたし達家族もちゃんと守ってあげるから。大事な息子を160歳のジジイの餌食になんてさせないわよ。直系の架谷一族の一人として、白井って野郎はなんとしてでも倒さなきゃならない相手って事はよくわかったし」
「そうだね。いよいよ家族みんなで力を合わせる時がくるみたいだ。なんてったって、歴代の架谷一族にも黒崎一族にも関わってくる話だから、甲斐を全力で守って戦わなきゃ」
「母ちゃん……親父……」
 
 ぎゅっといつの間にか隣に来ていた直が俺の手を握る。

「おれ、甲斐を守る。甲斐が変な奴にとられるの、いやだ」
「直……」

 よくわかっていない直でさえ、俺の危機を察してこんな事を言ってくれている。今は寂しがり屋なボウヤにしか見えないけど、それでも勇気を出して言ってくれて頼もしいな。

「いい家族や仲間を持っているじゃないか。さすがはウチの子孫達だよ」
「……個性的な奴らですけどね」
「お前個人は強いかもしれんが、どうしても苦手意識を感じる相手だっているだろう。そんな時は遠慮せずに仲間を頼り、力を合わせて戦うという事が大事だ。白井汚郎はまさしくお前自身の最大の壁であり、最大の敵となる。歴代の架谷家にとっても黒崎家にとっても因縁の相手だ。心してかかれ」
「……はい!」

 震えは依然と止まらない。だけど、奴がすべての因縁と元凶なら、この時代で打倒しなければならないだろう。が。


 その後、呪いを解くためにはいろいろ準備がいるらしく、一週間後の晩に行う事が取り決められた。準備というのは甲夜さんや俺達の体調がいい時期を見極めるため、長い目で見て一週間後という事。

 今の直は病弱で体力がない。三日三晩の苦しみに耐えられるかどうかの不安が残る。幼児退行している直にこの苦しみは酷なんじゃないかって思うけど、直を救うためにはやむを得ない。

 当の本人は「甲斐のためにがんばるね」って可愛く言っていたけど、本当にわかっているのだろうか。まあ、それを信じるしかないが。

 二つの一族の中で、最も始祖の遺伝子が近い者でなければこの苦しみに耐えられないとの話だが、それでも俺や直でも下手をすれば命を落とす危険性もあるらしい。

 それほどの苦しみなのかとぞっとしたが、何であれどうであれ、この壁を乗り越えなければ直は寿命か病気で死んでしまうのだ。不安はあるが、この生きるか死ぬかの瀬戸際を乗り越えなければ矢崎正之の野望を打ち砕けず、白井汚郎という巨悪にすら手が届かない。

 みんなでハッピーエンドを迎えるにはがんばるっきゃないのだ。
 


「それにしても、架谷一族に150年以上生きているお方がいるとは驚いた」
「あの巨悪の白井汚郎も160年以上生きている化け物だったとはねー。青龍会でも知らない情報で吃驚しちゃったよ。どうりでオイラの部下でさえ奴の威圧感にビビって、あまり白井汚郎についての仕事をしたがらないワケだよ」
「その男のおかげで、父……いえ、矢崎正之は狂ったのですね。まさしく、諸悪の根源ですわ」

 本日は誠一郎さんと友里香ちゃんが、四天王や御付の南先生と久瀬さんらに連れられてアジトにやってきた。直がここへ運び込まれた以来の情報交換の場である。

 まずは直が目覚めたばかりの頃は人形のようだった事、それから感情を取り戻したが記憶を失って幼児退行している事。今は生活に支障がないレベルで車いすで動ける事などを説明した。何かと直の事はみんな心配していたので、記憶を失ったとしても意志を取り戻してよかったと話す。

 それ以降の甲夜さんの話になると、情報量が多すぎて説明するのが大変であったが、悠里も説明するのに手伝ってくれたのでなんとか伝わった。

 言わずもがな、誠一郎さんらはかなり驚いていた。150年以上も生きている人間がいて、霊薬の血のルーツがわかり、白井汚郎も八尾の血を飲んだ長寿の化け物だという事もはっきりした。全て大昔の因縁から繋がっていた事なのだから、みんなが驚くのも無理はない。

「そういえば誠一郎さんや相田は、白井汚郎の事はそれなりに知っているんだっけ?」
「まあ、ね。青龍会と白井は敵対関係だし。さすがに長寿の化け物だとは初耳だったけど」

 いろんな情報屋の青龍会でも、さすがに幕末からの長寿の化け物だとは知らなかったみたいだな。奴の素顔を見た奴なんて誰もいないらしいし。知っていたら、人の身でない人外な奴を裏社会の人間が放っておく事はないと思うしな。

「わしは社長業をしている時に何度か会話はした事がある」と、誠一郎さん。
「会った事があるんで?」
「一度だけ、な。その時はピエロの仮面をかぶっていたから素顔は当然わからなかった。体格は大柄で身長は高かったかのぅ。40代くらいとは聞いているが、160年も生きているとなると、見た目は想像つかないもんだ。いろんな奴に化けているかもしれんしな」
「何の会話をされたんすか?」
「某国のパーティーで一言二言くらい交わしただけじゃ。大した会話はしなかったよ。日本ではあまり姿を見せなかったのもあるが、やはり謎めいておった。おそらく外国で、権力欲と滑稽な夢想にとりつかれて、野望を達成するためにあえて雲隠れしておったのだろうな。あまり知られていないが、奴の絶対的権力は矢崎財閥社長であった時のわしより格上だ。数十年前から日本を影から操ってきた化け物だと言われていたからな。160年も生きておったら、誰も逆らえんわけだ」
「そんなに雲の上のような存在だったのか」

 160年以上も生きてりゃ日本の裏側を知り尽くしているだろうな。

「奴の正体や素性は依然と謎に包まれているが、人の身では決して持ちえる事の出来ぬ力があると前々から噂されていたんだ。あの狡猾さと規格外すぎる権力はそんじゃそこらでは手に負えないからな。年齢的にも不可解な点が多すぎて、奴は人間なのかとすら怪しんでいた者がいたくらいだ。明治以降の歴史の裏側では、常に奴が絡んでいると言ってもいいだろう。まさしく日本の激動の時代からこの現代までの、すべてを操る巨悪として暗躍していたわけだな」

 その言葉通り、開国当初からの日本の裏側を掌握し、現代まで姿をあまり見せずに影で暗躍していた。甲夜さんの話では、俺を手に入れようと現代までストーカー行為をしているとか聞いたが、全く勘弁してほしいものだ。

 そんな悪趣味ストーカーな化け物に俺は勝てるのか心配ではあるが、こういう時こそみんなで力を合わせて戦わなければならない。自分一人じゃ手に負えない相手はみんなの力が必要だ。

「幕末から生きている化け物とすら戦う羽目になるとは、人生って何があるかわかんないものだね。それも、甲斐ちゃん一家と黒崎一家の因縁の相手」
「奴が生きている限り、この先の日本の未来は暗いだろう。白井汚郎のすごさを知っていると、矢崎正之が小物に思えてくるから不思議だ」
「二次元でいう矢崎正之魔王の背後に白井汚郎大魔王がいたっていう仰天展開だね。ラスボスにふさわしい相手だよ」
「でも、まずは矢崎正之を倒さないといけませんわっ。あのバカクズ父はわたくしがこの手で必ず倒しますっ!もちろん、白井汚郎も矢崎財閥の令嬢として、腐敗の巨悪は放っては置けません」
「うん、そうだね。でも、友里香ちゃん。みんなで力をあわせて、だよ」
「甲斐様……はい!一緒に戦いましょう!」





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