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十三章Eクラスの団結

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 牧田という秘書が真犯人だとすれば、奴とどうにかして接触を図りたいものだ。まあ、そこは是が非でも知りたい相沢先生からすればコネでもなんでも使って奴を追うはずだろう。アサシンな相沢先生なら潜入捜査もお得意だろうしな。Eクラスのみんなも相沢君が殺された真相を知りたがっているようだから、この件は真相を必ず解明しないとならない。俺も知りたいし。



「甲斐……お前、とんでもない奴らを相手にしていたんだな」

 俺がやる気のない警察共の下衆谷と熊谷から事情聴取を終えて出てくると、警察署の前にはEクラスの皆が待っていてくれた。万里ちゃん先生も保護者代わりとしている。こんなに大勢で待っていたら出所祝いかなんかと思われちまって恥ずかしいな。

「初めて知ったよ。甲斐は俺達を守るためにあいつらと戦っているって事。恋人の矢崎直やその家族を助けるために」
「さっきの白井ってたしかあのCMとかでよく流れてるホワイトコーポレーションの事なんだろ?あそこはいろんな意味で危ないって噂だけど、本当だったんだな」
「あの会社はマジでヤバいって裏サイトとかで書き込みされてたよ。もしその会社をネットですら叩こうものなら、特定されて消されるってのも信ぴょう性を帯びてきた。恐ろしいよな」
「そんなヤバイ相手に、甲斐君は戦ってたんだ……」

 一部のEクラスは俺が新矢崎財閥と戦っている事は知っていたが、残りのクラス全員が今日初めて知ったもんな。というか、成り行きで知られちまったと言うか、危険な目に遭わせちまってごめんっていうか……申し訳ない。

 ちなみに警察では相変わらずの対応をされた。新矢崎財閥やら白井やらが絡んでいて、相沢君を殺した証拠なんてのもないから説明しようがなかったよ。国の公共機関は権力者相手には弱いからな。証拠があってももみ消されたり不起訴なんてざらだろうし。こうなりゃあ地道に奴らに真実を吐かせて斃していくしかあるまい。

「まあ、そういうことだ。お前らにはあんまり知られたくなかった。巻き込みたくなかったしな」

 俺が苦笑しながらEクラスのみんなを見据える。

「そんな、水臭いだろ。たしかに俺達は全然弱いし、戦いにおいては全く力になれないかもしれないが、甲斐は俺達を助けてくれた恩人だろ。さっきだってあんな化け物相手に怯まず戦ってさ。でも、足手まといにはならないようにできる限り援護したいと思ってる」

 なっちが力強くそう言うと、周りのクラスメート達もそれぞれ頷いている。

「甲斐君のおかげで相沢君が亡くなった真相に辿り着けるかもしれないなら、あたし達Eクラスも相沢君が浮かばれるように頑張んなきゃ」と、かしまし三人娘の小川。
「そうだ!バカで奴隷クラスだとか言われてるが、やるときゃあやる!チームワークだけは今はどこのクラスより一番だぞ!いや、日本一か」と、屯田林。
「こ、こわいけど、ぼくは持ち前のジャスティスで平和に平安を取り戻す立役者になりたいっ。つまり勇者になる」
「あ、ぁたしだって怖いけど、みんながいれば怖くないんだからんっ」

 竜ケ崎も花野も先ほどの恐怖を思い出しながらもやる気はあるようだ。Eクラスの仲間としてできる事をしたいと。

「私達はどこのクラスよりも団結力はあるよね!って事で、甲斐君……」
「「「俺達(あたし達)にも何か手伝わせて!」」」

 みんなが危険を承知の上で手伝いたいと自ら申し出てきた。すでに事情を知っている悠里達も改めて「私達もいるからね」と迷いのない顔で近寄ってくる。俺は少し目頭が熱くなった。

「いいのか?お前ら……危険な目に遭うぞ?さっきみたいな事になるかもしれないし、それ以上の恐怖を味わうかもしれない。手伝えることは人助けとか、情報収集とかそういうのばっかだけど、奴らから狙われる事にもなる」
「みんなそれは覚悟の上だよ!せっかく相沢君の真相がわかりかけているのに、このまま何もしないよりみんなで真相に辿り着けた方が嬉しいじゃない。それに直様を守りたいんでしょう?あたし達だって直様には数学を教えてもらった借りがある。いろんな味方をつけた方が甲斐君だって動きやすいだろうし」
「矢崎にはみんな数学で世話になったからな。もうあの開星の大魔王だなんて誰も思ってねーよ。俺達にとっちゃ助けたいうちの一人だ」
「みんな……」

 ははは、なんだこいつら。全員お人好しじゃねーか。全く。

 それでも、悪くないな。この団結した瞬間と仲間意識ってのは。心強いものだよ。

「架谷くん」
「万里ちゃん先生」
「あなたのおかげで、Eクラスはこんなにも団結できるようになりました。あなたはそれだけの力を持っている。自信を持ってください。そしてこれから、私達の想像もできないような恐ろしい戦いに身を投じていくのでしょうけど、私達はいつでもあなたの味方です。戦いの協力は援護以外は難しいでしょうが、心の支えが必要な時はみんな喜んで手を貸してくれます。もちろん私だって。Eクラスの担任ですからっ」

 瑞々しい万里ちゃん先生の微笑に、俺も笑顔で「そうだな」と返した。


 その後、取り調べ等で授業どころではなくなったので、周りを警戒しながら直がいるログハウスアジトへ帰る事にした。

 途中で早苗さんからメッセージアプリが来ていたので開くと、直が目を覚ましたという朗報が届いていた。俺は急いで悠里と一緒に送迎の車に飛び乗り、追手がいないのを念入りに確認してアジトへ戻った。

「早苗さん!直が目を覚ましたって」
「甲斐」
「二人ともおかえり……」
「母ちゃん来てたのか。……って早苗さん?」

 なんだか元気のない早苗さんを見て嫌な予感がする。俺は緊張した面持ちで向こう側にいる車いすに座っているを見つめた。

 彼はまるで感情が全くない顔をしていて、ぼうっとずっと壁かどこかを空虚な顔で眺めている。

「直……?」
「………」

 直は何も反応しない。声も出さない。表情も変えない。

「ど、どうしたんだよ。なんか言えよ。目、覚めたんだろ」
「………」
「なあ、直」

 俺は近寄って直の瞳をじっと見つめた。そのダークブルーの瞳には、怒りも、悲しみも、喜びも、苦しみも、何もない虚無だった。

 俺は思い当たる節が脳裏をよぎり、ゾッとして青ざめ、言葉を失う。どさりと学校のカバンを床に落とし、体の奥からガタガタ震えて、次第に過呼吸のような症状に息が出来なくなる。

「直が……なおが……死んじゃった……ひっ」
「え、甲斐君」
「直が……生きた、屍化しちゃ、た……」

 最近見た夢を思い出す。直がすべてに疲れて、ロボトミー手術を受けて無感情になってしまう悪夢を。

 感情の無くなった生きた屍化。それが現実になってしまったというのか。正夢になったという事は何もかもが手遅れだったというのか。

「なおが……なおが……俺の見た……正夢に……っうああああああっ!!」

 俺はその場で泣き崩れて慟哭していた。

「甲斐君!甲斐君!」
「おれのせいでぇ……おれのせいでぇっ……なおがぁああ!!なおがあああぁあっ!!」
「甲斐君!!しっかりしてっ!」
「おれがもっとつよかったら……ああぁあああっ!!」

 悠里が泣き叫ぶ俺を支えて労わろうとするが、俺の心は追いついていかない。深い慟哭以外何も考えられない。ついに恐れてしまったことが現実に起きてしまった。

「甲斐君!!大丈夫だから!!」
「いやだ、いやだ、なおがなおが「甲斐っ!!」

 母ちゃんが荒療治ながら俺の胸倉を掴んで強く殴った。容赦ない一撃で俺は吹っ飛んだ。

「しっかりしなさい!自分を見失うな!あんたがここで絶望してどうなるっていうの!直君は心を休ませているだけなのよ!きっと」
「え……」

 俺が涙でボロボロになった顔をあげると、早苗さんがすかさず口を開く。

「直はきっと疲れ切って心を閉じ切っている段階だと思うの。私は一樹さんみたいにメンタルの事はあまり詳しくないけれど、辛いこと、悲しいこと、すべてから逃れるために、感情や言動において防衛機制が働いたようなものだと思っているの」
「防衛機制……」
「確信はもてないけれど、そう信じているわ。私達が悲しんでいちゃ、直は余計に心を閉ざしたままでしょう?」
「早苗さん……」
「直君はね、声をかけても全く動かないってわけではないのよ」と、母ちゃん。
「ちゃんと反応する時もあるの。食事の時はちゃんと口を開けてくれるし、着替える時だって微かにだけど手が動いたりするの。だから、完全に心が消えたわけじゃない。直君はちゃんと生きてるのよ。絶望するなんて早い」
「……っ……そう、か。直は……生きてる……。取り乱して、ごめん……」

 俺はぐいっと涙を拭う。何をやっているんだか。これじゃあ、直が本当に亡くなった時、先が思いやられるよ……。

「あんたも少しの間、心を休めた方がいいわね。てことで、甲斐」
「なんだよ母ちゃん」
「一樹さんは今日も別室で直君の血の事を調べたり、治療の事でずっと書斎にこもってる。だから、今日からアンタが直君のお世話と護衛をお願いね」
「はい?」

 13章 完



 



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