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十三章Eクラスの団結

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「白井の仲間かもしれないのさ。桐谷と仲は悪そうだったけど白井の事をなんかしゃべってた。よく聞こえなかったけど」

 まさかの姫川瑠璃とやらは桐谷杏奈と仲間だったと……?桐谷自体はもういないからいいとして、その女が白井の手の者だとすれば警戒するに越したことはない。

「ごめん。今更だったね。もっと早くに言っておくべきだった。あんたが助けに入る前にあの女はいつの間にか消えてたから」
「いや、それはもういいが……」

 俺はその姫川瑠璃とやらがいるであろう方向へ視線を移す。姫川の姿はあまり見えないが、餌を待つように群がる男共に愛想を振りまいている。

 純粋な野郎を勘違いさせそうな笑顔で手玉に取っている様子だ。ありゃあ女子に嫌われるタイプだろう。

「男共があからさまに鼻の下伸ばしまくってるのがみっともねーな」

 男共を利用する気満々なんだろうけど、女に免疫がない男からすればころっと騙されちまうだろうな。お気の毒に。だが、鼻の下を伸ばしている時点でなんかムカつきもする。

「昨日からあの有様だよ。可愛いアイドルが転校してきたってだけで他クラスの男共はあの調子。一部のEクラスの野郎共も洗脳されちゃってさー。何言っても聞きゃあしないの。情けないったらありゃしない」

 由希がうんざりした様子で昨今のEクラス男子共を嘆いている。我々のクラスの男共も餌食にされているようで、白井が絡んでいるとなれば黙って見ているわけにもいかんな。

「洗脳か。新矢崎財閥……いや、白井の仲間なら油断ならねーな。おそらく俺狙いだろう。じゃなかったら百合ノ宮の女が開星に転校なんてしてこないだろうし」
「十中八九そうだろうね。めんどくさ」と、篠宮。
「……それより宮本。あんたあの女の事可愛いと思わないわけ?」

 篠宮がじっと宮本君を探るように見つめている。やっぱ彼女としては心配だろうな。

「大丈夫だよ。ぼくは恵梨ちゃん一筋だから何も思わない。他の女の子はたとえ可愛いとは思っても恵梨ちゃん以上の可愛い子はいないって思うもの。だから、信じて?」
「……ふんっ、生意気な奴。でも、信じてあげる」

 嬉しい発言に顔を赤くしてツンデレ風な返答が篠宮らしい。この二人は相変わらず仲がよさそうでよかったよかった。大丈夫そうだな。

 二人の仲睦まじい様子を微笑ましそうに眺めていると、たくさんの野郎共の群衆がモーゼのように真横に割れ、その奥からキラキラしたツインテールの女が俺にゆっくり近寄ってきた。


「ねえ、あなたが、架谷甲斐クン~?」

 ついに姫川とやら本人が俺の前に寄ってきて上目遣いで見つめてきた。そのウルウル上目遣いはあきらかに計算されているのが丸わかりだ。

「あんた誰だっけ?つかなんで俺の名前知ってんの」

 俺はあえて知らないふりをした。

「架谷クンてこの学校では有名だからぁ~瑠璃、知りたくなっちゃったのぉ。四天王と仲がいいんでしょお?てゆーか本当に瑠璃の事知らないのぉ~?瑠璃、ちょっとかなしー」
 
 と、言いながら姫川は俺の体にペタペタ触れてくる。しかも腕まで組んできやがった。随分と馴れ馴れしい女だな。こりゃあモテナイ男共がその気になって勘違いするのも無理はない。

「知らんな。俺、テレビ見ないし。ていうか腕、離してくんねえ?知らん女に触られても不愉快なだけなんだ」

 俺は鋭い眼光を女に向けて威嚇した。こいつの正体がわかっている今、警戒するに越したことはない。

「キャ……ご、ごめんなさい。瑠璃、架谷クンと仲良くしたくてぇ」
「別に仲良くしたいと思わないからほっといてくんねえ?」

 俺が腕を振り払ってはっきり拒否すると、姫川の目尻からは涙が滲む。次第にぐすぐすし出して、両手で顔を覆い隠した。

 こいつ一応女優業もしているらしいので涙すら演技にできるんだっけ。嘘泣き乙だ。

「おい架谷!さっきから黙って見てりゃあてめえ瑠璃になんて失礼な態度だ。瑠璃が泣いちゃっただろうが!瑠璃は矢崎直さんともCMで共演し、今人気のドラマ撮影で忙しいにも関わらず学校に登校してくれたんだ!そのファンにも優しい瑠璃さんを蔑ろにするようなその態度!謝れっ!」
「は……なんで俺が謝らなきゃいけねーわけ?いきなり初対面で腕組んで来て馴れ馴れしい女なんて明らかに何か企んでるだろ」

 すいませんねー。疑り深い性格でして。いきなり女が冴えない野郎相手に優しくなってくる時って、大体何かを企んでいるって相場が決まっているんだよ。入学当初は桐谷に騙されたので、同じ二の舞は二度と踏まないと決めているんだ。あと元々女嫌いだしな。

「ごめんなさいっ!ぐすぐすっ。瑠璃が悪いのっ!瑠璃がいきなり馴れ馴れしく話しかけちゃったからぁ、架谷クンが気を悪くしちゃったのぉ。ひっくひっく。仲良くしたかっただけなのにぃ。えーん」

 うわ、泣き落とし攻撃キター。うざいんだけどーって救いを求めるように隣にいる宮本君を見つめると、宮本君も同じ気持ちなのか心中察する顔で頷いている。

「おお、瑠璃ちゃん。そんな生意気なEクラスの貧乏人なんかにも気にかけて、なんて天使なんだっ!」
「天使とかアホか。ただの猫かぶり女だろ」
 
 俺が鼻くそをほじりながらヤレヤレと姫川にそっぽを向く。男の同情引こうとしているのが丸わかりで性格の悪さが滲み出てるっつーの。

「てめえ貧乏人!こんなに可愛い瑠璃をこんなに泣かせやがって!猫かぶりたぁなんだ!」
「そーだそーだ!瑠璃さんが猫かぶりなわけがないだろ!天真爛漫で生まれたばかりの雛鳥も同然なんだぞ!」

 お前らの目は節穴か。眼科行って来いよ。それかもう少し女に対して疑う心を身に着けようぜと言いたい。そもそも雛鳥だったら男限定でボディタッチはどう考えても変だろうし、だったら女にも同じような事をしてみろや。だってほら周りはどこを見ても男ばかり。男に囲まれてチヤホヤされたい姫願望が見え見えなんだよ。

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