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十二章明かされた過去と真実
12-17
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「なあ、誠一郎さん。霊薬の血ってなんなんですか。病気やケガを治したり、兵器開発に利用できるシロモノって言うけど、なんでそんな存在が生まれたんですか」
黄金の血なら普通の人間と変わらない血だが、霊薬の血は特殊すぎて欲深い人間を狂わせる。なぜそんな存在がこの世に現れたのだろう。
「……わからんのだよ。なぜ、霊薬の血というものが生まれたのか。黒崎夫妻はいたって普通の血液型で、それ以外のいろんな検査をしたが、なぜそれが生まれてしまったのか皆目見当もつかない。まさしく突然変異というものか……ただ、霊薬の血が生まれる時、黄金の血の元に生まれるというのも文献に記録されていたが……」
文献通りなら、なぜ黒崎夫婦は普通の血液型なのに直だけは霊薬の血なのだろう……?
「まず、黄金の血というものを説明しますね。赤血球の表面には最大342種類の抗原があり、それにより血液型が決まります。血液型は、一般に知られる「A・B・O・AB」型や「Rh+・Rh-」以外に何百種類にも分類されますが、「Rh null」型は抗原を一切持たないのです。つまり、別名は黄金の血。誰の抗体に対しても陰性なので誰にも輸血する事ができる稀な血液型なんです」
久瀬さんが黄金の血について説明する。専門用語はよくわからないが、とにかく黄金の血というものはどの血液にも属さないため、この型の血液は誰にでも輸血することができるという事らしい。そういえば真白が黄金の血だったな。
「私、黄金の血……。だから、血液、あげること、できる。だけど、逆に、もらうこと、できない。そう、医者、言ってた。もしもの、時のために、定期的に、血液パック、病院に提供、してる」
「そうか。怪我をしないように自分を大事にしないとな、真白」
「うん……」
真白の頭を撫でて俺は改めて誠一郎さんと久瀬さんを見据える。
「霊薬の血は……黄金の血の元から生まれてくるならなぜ直は……」
「これは憶測にすぎんが……」
誠一郎さんが思い当たる節を語る。
「まれに普通の血液型の母体の傷口に黄金の血……いや、Rh null型が混じると、その子供から黄金の血の子供が生まれるという報告があがっている。という事はおそらく、霊薬の血もそれと似たような現象ではないだろうかと言われているんだ。確証は持てないが」
「あ、そういえば……」
ふと何かを思い出したように早苗さんが口を開く。
「私、直と悠里の双子を妊娠したばかりの頃、丁度産婦人科へ健診に訪れていたんです。その時、待合室にいた親子連れの子供が騒いでいて、走って来た私とぶつかった出来事があって、丁度その時に腕をケガしたのを思い出しました。幸い転びはしなかったんですが、腕は壁にぶつかって擦り傷を負い、子供の方も私とぶつかった事で転び、擦りむいて介抱したのは覚えているんですけど……」
「あ。そういえばそんな事があったね。ボクもその場にいたんだけど、相手の親御さんがそれはもう香ばしい人で、子供が怪我をした~!って大騒ぎしてたなぁ。対処に追われたよ」
一樹さんがトホホという顔で笑って当時の事を話す。
「それは大変でしたね……」
バカ親ならぬモンペってやつに遭遇したんですね、わかります。
「その親御さんが大声で言ってたんだけど、私の子供は特殊な血液型なのによくもケガさせてくれたわねーって怒鳴ってた気がする。もしかして……」
「その子供は黄金の血だったのかもしれませんね」と、久瀬さん。
「となると、その子供の血が早苗さんの傷口に微力ながら侵入したのが始まりだったと。まあ、あくまで推測に過ぎないので根本的な切欠かは不明ですが、黄金の血の元に生まれるとなればそれが切っ掛けの一つなのでしょう。黄金の血の子供が生まれる事があれば、さらに低い確率で霊薬の血の子供も稀に生まれる。とはいえ、黄金の血でさえ約10億分の一の確率ではありますがね」
「10億分の一ってすごい確率ですね……」
「世界の人口が60億だとすれば、黄金の血はこの世に約50人ほど存在します。人数を見ればこの地球上ではとても稀な存在なので、霊薬の血が生まれる確率となればそれの倍と言えるでしょう」
「もはや宝くじの一等が当たるか当たらないかの確率より低そう……」
それだけ直の存在は世界から見て脅威なんだろう。あらゆる病気やケガを治し、研究すれば細胞を活性化させて若返る薬としても用いられ、兵器開発の道具にも利用できてしまう。そんな存在がこの世にいるという事実が、世界中の権力者達や研究者達の目をくらませて、巨万の富を得ようハイエナのように群がってくるわけだ。
くそッ。直の存在をなんだと思ってやがるんだか。
「しかし、それだけじゃありません。霊薬の血が流れる者は寿命が普通の人間より遙かに短いという事もあります」
そうだった。忘れていた。
「あのバカ社長が言っていましたね。直の寿命が血を取られる度に短くなっているような事も。霊薬の血の寿命って平均的に一体どのくらいなんすか?」
「大体だが……長くて五十年くらいだろう。しかし、霊薬の血は長年悪事を働く者に利用される人生を歩む者が多いため、五十年も生きられるのは極めて稀だ。精神的苦痛や血液の採取を重ね続けたと考えれば、平均的に二十年から三十年が普通だろうか。あくまでもその人間の体質にもよるがな」
「しかし、直様の最近の体調を見ていると、あと数年しか生きられないほど体力や免疫力は落ちていると言われています」
「そんな……」
俺と黒崎夫妻を筆頭に悲しみにくれる。早苗さんは今にも泣き崩れそうで、一樹さんがそれを支えている。俺もショックで茫然自失だよ。
「血をとられるたびにCD4値。つまりは免疫不全。HIV患者と同じように病気に対する免疫力が減っているのです。小さい頃から時々、抗HIV薬でCD4値の数値減少を抑えていましたが、最近は体調を崩す事が増えて飲む機会が毎日と増えました。仕方なく服薬はしていましたが、薬の副作用に苦しむ事が多くなり、あまり飲まなくなって、しかし服薬しない事で免疫力が減って……今ではどちらが最善か分からず、二通りの悪循環で苦しんでいるのです」
黄金の血なら普通の人間と変わらない血だが、霊薬の血は特殊すぎて欲深い人間を狂わせる。なぜそんな存在がこの世に現れたのだろう。
「……わからんのだよ。なぜ、霊薬の血というものが生まれたのか。黒崎夫妻はいたって普通の血液型で、それ以外のいろんな検査をしたが、なぜそれが生まれてしまったのか皆目見当もつかない。まさしく突然変異というものか……ただ、霊薬の血が生まれる時、黄金の血の元に生まれるというのも文献に記録されていたが……」
文献通りなら、なぜ黒崎夫婦は普通の血液型なのに直だけは霊薬の血なのだろう……?
「まず、黄金の血というものを説明しますね。赤血球の表面には最大342種類の抗原があり、それにより血液型が決まります。血液型は、一般に知られる「A・B・O・AB」型や「Rh+・Rh-」以外に何百種類にも分類されますが、「Rh null」型は抗原を一切持たないのです。つまり、別名は黄金の血。誰の抗体に対しても陰性なので誰にも輸血する事ができる稀な血液型なんです」
久瀬さんが黄金の血について説明する。専門用語はよくわからないが、とにかく黄金の血というものはどの血液にも属さないため、この型の血液は誰にでも輸血することができるという事らしい。そういえば真白が黄金の血だったな。
「私、黄金の血……。だから、血液、あげること、できる。だけど、逆に、もらうこと、できない。そう、医者、言ってた。もしもの、時のために、定期的に、血液パック、病院に提供、してる」
「そうか。怪我をしないように自分を大事にしないとな、真白」
「うん……」
真白の頭を撫でて俺は改めて誠一郎さんと久瀬さんを見据える。
「霊薬の血は……黄金の血の元から生まれてくるならなぜ直は……」
「これは憶測にすぎんが……」
誠一郎さんが思い当たる節を語る。
「まれに普通の血液型の母体の傷口に黄金の血……いや、Rh null型が混じると、その子供から黄金の血の子供が生まれるという報告があがっている。という事はおそらく、霊薬の血もそれと似たような現象ではないだろうかと言われているんだ。確証は持てないが」
「あ、そういえば……」
ふと何かを思い出したように早苗さんが口を開く。
「私、直と悠里の双子を妊娠したばかりの頃、丁度産婦人科へ健診に訪れていたんです。その時、待合室にいた親子連れの子供が騒いでいて、走って来た私とぶつかった出来事があって、丁度その時に腕をケガしたのを思い出しました。幸い転びはしなかったんですが、腕は壁にぶつかって擦り傷を負い、子供の方も私とぶつかった事で転び、擦りむいて介抱したのは覚えているんですけど……」
「あ。そういえばそんな事があったね。ボクもその場にいたんだけど、相手の親御さんがそれはもう香ばしい人で、子供が怪我をした~!って大騒ぎしてたなぁ。対処に追われたよ」
一樹さんがトホホという顔で笑って当時の事を話す。
「それは大変でしたね……」
バカ親ならぬモンペってやつに遭遇したんですね、わかります。
「その親御さんが大声で言ってたんだけど、私の子供は特殊な血液型なのによくもケガさせてくれたわねーって怒鳴ってた気がする。もしかして……」
「その子供は黄金の血だったのかもしれませんね」と、久瀬さん。
「となると、その子供の血が早苗さんの傷口に微力ながら侵入したのが始まりだったと。まあ、あくまで推測に過ぎないので根本的な切欠かは不明ですが、黄金の血の元に生まれるとなればそれが切っ掛けの一つなのでしょう。黄金の血の子供が生まれる事があれば、さらに低い確率で霊薬の血の子供も稀に生まれる。とはいえ、黄金の血でさえ約10億分の一の確率ではありますがね」
「10億分の一ってすごい確率ですね……」
「世界の人口が60億だとすれば、黄金の血はこの世に約50人ほど存在します。人数を見ればこの地球上ではとても稀な存在なので、霊薬の血が生まれる確率となればそれの倍と言えるでしょう」
「もはや宝くじの一等が当たるか当たらないかの確率より低そう……」
それだけ直の存在は世界から見て脅威なんだろう。あらゆる病気やケガを治し、研究すれば細胞を活性化させて若返る薬としても用いられ、兵器開発の道具にも利用できてしまう。そんな存在がこの世にいるという事実が、世界中の権力者達や研究者達の目をくらませて、巨万の富を得ようハイエナのように群がってくるわけだ。
くそッ。直の存在をなんだと思ってやがるんだか。
「しかし、それだけじゃありません。霊薬の血が流れる者は寿命が普通の人間より遙かに短いという事もあります」
そうだった。忘れていた。
「あのバカ社長が言っていましたね。直の寿命が血を取られる度に短くなっているような事も。霊薬の血の寿命って平均的に一体どのくらいなんすか?」
「大体だが……長くて五十年くらいだろう。しかし、霊薬の血は長年悪事を働く者に利用される人生を歩む者が多いため、五十年も生きられるのは極めて稀だ。精神的苦痛や血液の採取を重ね続けたと考えれば、平均的に二十年から三十年が普通だろうか。あくまでもその人間の体質にもよるがな」
「しかし、直様の最近の体調を見ていると、あと数年しか生きられないほど体力や免疫力は落ちていると言われています」
「そんな……」
俺と黒崎夫妻を筆頭に悲しみにくれる。早苗さんは今にも泣き崩れそうで、一樹さんがそれを支えている。俺もショックで茫然自失だよ。
「血をとられるたびにCD4値。つまりは免疫不全。HIV患者と同じように病気に対する免疫力が減っているのです。小さい頃から時々、抗HIV薬でCD4値の数値減少を抑えていましたが、最近は体調を崩す事が増えて飲む機会が毎日と増えました。仕方なく服薬はしていましたが、薬の副作用に苦しむ事が多くなり、あまり飲まなくなって、しかし服薬しない事で免疫力が減って……今ではどちらが最善か分からず、二通りの悪循環で苦しんでいるのです」
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