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十章対決!悪女と刺客

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 あれ、よく見りゃあの大男って。

 なんだか見たことがあるような気がする。どこだっただろうか。あのハゲ具合と派手なスーツ姿……あー!

「そいつ、校長……か?」
「ふふふ、当たり。人間を捨てた元開星学園の校長のなれの果ての姿って所かしら」

 どうりで最近姿を見かけないと思っていたら、こんな姿に改造されていたのかよ。まじで白井の奴らって人権無視というか、禁忌犯し放題な組織のようだな。

 社長自体が白井と癒着があるとか言っていたので、矢崎財閥の中も相当腐敗が進んでいるのだろうか。直と誠一郎さんが苦労しているのが目に浮かぶよ。

「はははは、ぐふふふふ!」

 ぐふふって校長特有の語尾を聞いたら面影はあるっちゃあるようだ。まさかの人造人間にされていたなんて驚きだが、これで変態趣味どころか人間すら捨てた集団の仲間入りってわけか。秘密の花園とやらも改造人間にされるとは落ちたもんよ。

「秘密の花園を大きくさせてあげるって色仕掛けで迫ったら、ころっと騙されたのよね~。こういう下半身が正直で助平な男って扱いやすいわ。その代わり、白井の研究中の実験台になれって言ったの」
「なんの実験だよなんの」
「決まってるじゃない。超人間の、よ。兵器開発の一つであるロボトミー手術を施したの。自我を失う代わりに人間を捨てた超人間に生まれ変わるの。その事を伏せて校長と理事長を誘惑したわ。よほど秘密の花園の趣味を広げたかったのか誘いやすかったわね。まさか自我を失うなんて思ってもみなかったでしょうけど」
「秘密の花園って、お前ら白井が作り上げた会員制SMクラブだったのか。類は友を呼ぶわけだ」
「冗談はやめなさい。あたしはこのクソ校長やあの理事長みたいに節操のない変態趣味持ちじゃないの。元々のあいつらの作り上げた趣味が大きくなっただけ。金銭面で援助してあげていただけよ」
「それでもお前の趣味もどうかしてると思うよ。整形して本物の桐谷に成りすましてまで若返りたいお前の執念にもドン引きだ」
「いい加減に黙りなさいよ。口の減らない餓鬼ね。これから殺されるくせに、少しは高校生らしく悲壮感を漂わせたらどうなのよ!冷静過ぎてあんたにこそドン引きだわ!本当に高校生なの!?」
「あいにくと結構な修羅場を潜り抜けて来てるんでこの程度で大騒ぎするかよ。俺がただの高校生のガキだと思ったら大間違いだクソ女。今に泣かしてやる」
「本気で鳴くのは直に抱かれている時だけって決めているの。ほんとつまらない反応。もっと楽しませなさいよ。せっかくあんたの相手を用意してあげたのに」

 桐谷が指をパチンとすると、校長は俺をターゲットに指名したように勢いよく襲い掛かってきた。俺は篠宮に離れてろと合図。篠宮はみんながいる檻の方に向かって行った。

 うへー。巨体なくせして結構な素早さだな。俺めがけて素早く重い拳を振るってきやがる。それを俺は颯爽と避けながら、どてっぱらに拳を突いた。あまり手ごたえがない所を見ると、超人間となったおかげで皮膚は分厚くなったようだ。

 自我がない殺人マシーンってやつか。学園を牛耳っておいて、秘密の花園なんて悪趣味なSMクラブを作っていた割にこれがこいつの末路とは、物悲しいものがある。俺は根っからの悪党には慈悲を出さないタイプなので同情はしないがね。哀れではあるよ。

「ああ、言っておくけど、その校長の体内には起爆装置が仕掛けてあるの。心臓の代わりね。超人間にした反動で生きられるのも二分だけ。あんたが二分以内にそいつの起爆装置心臓を破壊すれば爆弾は解除される。でも二分を超えれば……わかっているわよね。あんたの大切なお仲間が吹き飛ぶわ。校長の体とあの檻は連動しているの」

 篠宮やみんなのいる檻の頭上には、時計のモニターが示しだされた。残り時間一分55秒を切っている。

「チッ……もっと早く言えよ性悪陰険女が」
「なんとでも言いなさいよゴミクソガキ!あんたなんかここで無様に死ねばいいのよ!泣け、喚け、叫べ!ゴミの分際のくせに直に近づくのが間違いなのよ!」
「矢崎にひどく同情する。こんな頭いかれたクソ女に狙われて好かれて執着されてな」

 超人間となった校長の攻撃を避けながら俺はどうすべきかと思案する。残り1分半の間にあの分厚い皮膚を突き破るには結構な破壊力が必要だ。おそらく銃弾すら跳ね返してしまえるだろう。さて、どうやって奴の起爆装置を破壊するべきか。体内の起爆装置をどうにかしないと、俺以外の檻のみんなが木っ端微塵だ。

 
「甲斐ちゃーん!伏せて~!」
「は……」

 その時、背後からいつもの軽薄そうな声と気配がした。
 その声に振り返ると同時に、真横に熱い風圧が一瞬かすめて飛んでいく。

「GYAAAAAA!!」
 
 何が何だかわからないまま、轟音と共に校長の体が爆発して炎上していた。

 唖然としながら瞬時に理解すると、相田の奴がいきなりロケットランチャーをぶっぱなしやがったのだ。桐谷も囚われのEクラスの生徒達も呆然。おっかねえ。

「このバッカ野郎!!あぶねーじゃねーか相田のドアホッ!!当たってたらどーすんだ!!」

 俺はぞっとして相田に向き直って憤慨した。あと少しずれていたらもれなく俺も巻き添えであった。

「あははは!ごっめーん!意表を突くにはいきなり登場してこうしないといけないでしょ?オイラ腕はいい方だから甲斐ちゃんに被弾する事は絶対ないし~」

 てへぺろとか可愛くない仕草をされても可愛いくねえし。怒りを通り越して呆れるばかりだ。

「ったくお前はーっ!!」

 まあ、おかげでチャンス到来だ。

「ほら甲斐ちゃん今だよ!」
「わかってるよバカ」

 黒煙で覆われ、皮膚の破片をまき散らしながら野太い声をあげ続ける校長。

 超人間になったせいでたった二分の命と引き換えなんてやはり物悲しい。騙されたと思うと少し同情もするが、今までやってきた秘密の花園悪事を思えばそうでもなくなる。もちろん桐谷や白井の奴らの考えには全く共感できないし、人間を道具のように扱う奴らにはすこぶる怒りがこみあげてくる。

 いくら最低な校長ではあったが、このまま人間の苦しみと痛みの声は聞いてはいられない。改造はされてしまったが、少しは人間のままで死なせてやる。

「今、楽にしてやる」

 俺は腰を落として力を込めて構える。校長がこちらにやってくるのでタイミングを見計らい、丁度俺の間合いに入った瞬間気合を入れた。

「はぁっ!!」

 校長の心臓めがけて渾身の一撃を放った。俺の本気を出した一撃は熊をひしゃげるのはもちろんの事、鉄すらも砕くので校長の胸を貫いた。相田のロケットランチャーで大胸筋にダメージを与えてくれなかったら、胸を貫くことはできなかっただろう。

 それにしても、校長の体はロボトミー手術をされたというが、よく見ればもはや完全ロボットだよなってくらい生物的な臓器は見当たらない構造だった。サイボーグですらない改造人間か。白井の奴らの研究や技術力に末恐ろしくなるよ。

「GUOOOOOO!!」

 校長の断末魔の叫びと共に、貫いた先からバチバチと放電する音と時計の音がする。穴の中から手で探りを入れてどれだろうと感触を確かめると、もしかしてこれが起爆装置か?と、線に繋がれた一際大きな脈動を繰り返している装置を発見した。これを破壊すれば解除されるはず。

 粘液まみれで気持ち悪いが、それを引きちぎって勢いよく踏んづけて破壊した。

 …………。

 あれ。起爆装置を破壊したが、よく見れば檻の時計のモニターが依然と止まらずに動いたままだ。おい、もしかして……

「クソ女!謀りやがったな!」

 俺はそのクソ女をひどく睨みつけた。

「くくく、あーははははははは!やーっと気づいたのね。最初から校長と檻が連動しているなんて真っ赤な嘘よ。あんたはただ校長を殺しただけ。校長と檻は独立しているの。ようは校長はあんたを引き付けるための時間稼ぎになってもらっただけだった。だってどっちみち最初から遊ぶつもりなんてなかったもの。全員殺すつもりだったの。あんたは今殺すのは無理そうでも、檻の爆弾はもう止める事はできない。お仲間はあんたのせいで死ぬ。時間切れ。ふふふ、あーはははは。ざまあみなさい。ぎゃーはっはっはっは!!ひゃーっはっはっは!!」
「っ……!」

 ちらりとEクラスの仲間達の方を向く。不安と絶望と青い顔をしてこちらを見ている面々にこちらも絶望感に苛まれる。

 このままじゃみんなが木っ端微塵に……!
 どうすれば……どうすれば……

「あはははは!あんたのせいでみんなは死ぬ!恨むならその架谷甲斐を恨みなさい!そいつのせいであんた達の運命は狂ったの。享年17か16っていう短い人生でね!あはははははは!!」

 胸糞悪い女の甲高い哄笑が耳障りだ。マジあのクソ女ぶっ殺してやりたいがそれどころじゃない。

 俺はみんなを守れないのか。誰も助けられないのか。あと12秒……11秒……。檻を破壊した所で止まるわけでもないし、みんなを逃がす時間だってない。爆発がどの程度の破壊力かもわからない。ああ、もう終わりなのか……。

「大丈夫だよ、甲斐ちゃん」

 相田の曰くありげな声に俺はハッとして顔をあげる。

「え……」
「オイラが何も考えないでここに来ると思った?そんな考えなしの無能なわけないじゃん。オイラを誰だと思ってんの。あの鉄格子の爆弾なら、事前にハッキングしてすぐに爆発しないように工作しておいたんだ。それでもかなりの高度なプログラムだったから、時間がなくてすべては解除はできなかったけどね」
「相田……っ、ほんとか!?」
「もちろん。もっと早く言いたかったんだけど、あの女を出し抜くためにはギリギリがよかったんだ。ごめんね、焦らせて」
「なんですって!?」
「爆発まで五分くらいって所かな。その間に生徒らを避難させなよ」

 檻のモニターは相田の言った通り、1秒前から急に5分に変動した。

 桐谷が焦りながら檻の方に近づこうとするが、相田が懐からマグナムを発砲して近づけなくした。慌てる桐谷は相田を睨みつける。俺は相田に感謝の念を抱きながらその間にみんなが囚われている檻へ走った。 

 相田が作ってくれた貴重な時間を無駄にはしない。今のうちにみんなを逃がさなければ。

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