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十章対決!悪女と刺客

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 カーテンの隙間から涼し気な風が流れ込んできて目が覚めた。

 あれ、俺……ああ、そうか。昨日も一緒に泊まったんだったと思い出してむくりと起き上がる。

 昨日の放課後、数学のテストで全員20点以上アップしたことにはっちゃけて、猫の世話とバイトが終わったら普通に家に帰るつもりが、直からいきなりあいたいって電話がきて、展望ラウンジに行ったらそのまま流されるように致しちゃって……。

 結局、離れがたくなってしまったからクラウンホテルで一緒に一夜を過ごしたんだった。

 当然ながら昨晩も激しく直に愛されて、風呂でもいっぱい求められて、疲れ切って寝たのが夜中の2時半ごろで、おかげでふと気づけば体の倦怠感と腰痛がひどい。おまけに声も少し枯れている。全身は赤い痕でいっぱいで、服なんて人前では絶対脱げない有様だ。見えない箇所ばかりなのが救いである。

 そんな直は隣にはおらず、早朝から出かけていなかった。まだシーツのぬくもりが残っている事にそう時間は経っていないようだ。

 彼も忙しい身だから、自分ばかりに構っていられないのは仕方がないとわかりきっていた。とはいえ、隣に誰もいない中で目を覚ますというのは結構寂しいものだと知る。

 サイドテーブルの上には簡単なメモ用紙が置いてあって、そこには「仕事に行く。気をつけて学校行け」と書かれてあった。達筆な字だなーとそのメモを眺めて直への思いを馳せる。

 自分も出ようかと立ち上がろうとすると、昨晩の営みの痛みが走った。しばらく腰の痛みが和らぐまで動けそうもない。しかし猫の世話もあるので意地でも腰痛を我慢して起き上がった。

 せめて、見送りくらいしたかったなぁ。

 最後に……いっぱいキス、したかった。 

 好きすぎて、頭の中が常にアイツでいっぱいで、こんなんだから由希達から女みたいだとか乙女みたいだとか言われちまうのに、今更止められない。いつかくる別れの時、絶対離れられなくなるのが目に見えているのに。ダメなのに……。

 どこか割り切らないといけないのに深みにはまって、すぐ会いたくなって、恋しくて、苦しい。恋は盲目とは言う。今の俺はそれに当てはまる。

 軽くシャワーでも浴びようかと脱衣所に向かうと、体は清められているので直が拭いてくれたのだろう。胎内に出された精子もかきだしてくれたようで、その様子を考えると恥ずかしくなってくる。さっさとシャワーを浴びてパンツを穿こう。

 ルームサービスの朝食を食べながらぼうっと朝のニュース番組を眺める。まだ時間は朝の六時になったばかり。

 テキトーにつけているTVのワイドショーは、くだらない芸能人の不倫やらAV出演疑惑やらのスクープを報じているが、心底どうでもよくてなんとなく眺める。

 すると、矢崎財閥に関する事も報じている。その文字を見ただけで胸がギュッ締め付けられた。

「……もう声が聞きたいって病気だろうか」

 口に出してつぶやいてしまった。昨晩愛し合ったばかりなのに、もう寂しさを感じた。肌恋しさもあいまって、急激に直に抱かれたくもなった。

 あの大きな腕で抱きしめられたいなって。キスしたいなって。

 俺……直に依存しまくってる……。


 痛む腰を我慢しながら少し早めに外に出た。ホテルから登校っていうのが新鮮だけど、とりあえずバレないようにそそくさホテル街を抜けて通学路へ走る。七時前なのできっと誰にも見られていないはずだ。

 見慣れた通学路まで戻ってきて、元気に校門をくぐった先の猫の家に入ってやっと一息。
 
「「にゃーん」」
「おはよう。カイ、シルバー。餌を用意するから」

 小さな二匹が顔を見せてさっそくもふもふ癒しタイム。
 あーこの柔らかさ。二匹の毛玉の愛くるしい顔。可愛い鳴き声。たまらんわい。気持ちよさそうだなー………あ。

 撫でられて気持ちよさそうな二匹を見て、つい昨晩の濃厚な営みを思い出す。

『お前は耳が弱いんだったな。耳に息を吹きかけながら乳首をいじられるのが好きなんだろう?』
『っやぁ、直……っ』
『ほら、もう勃ってきてる。甲斐のカワイイ反応……そそる……』

 直の色っぽい声と、俺の体を何度も愛撫する掌が生々しく脳裏によぎる。

 いかんいかん。こんな事を考えているせいで勃ちそうになっちまった。

 学校という健全な場所で直の事を考えるのは控えないと、また由希達に突っ込みが入ってしまう。と、改めて平常心平常心っと。

 猫の世話を終えて登校してくる生徒達の群衆の中を歩き、玄関で外履きから内履きに履き替えた所で、


「いっでえっ!!」

 足裏に無数の痛みが走った。

 なんなんだとすぐに靴の中を覗き込むと、大量の画鋲が靴下越しではあるが突き刺さっていた。大量なのでそれ相応の血が滴ってきてこれはさすがに痛い。

 うへー。これってよく漫画である嫌がらせのパターンその1じゃねーかよっ。しかも画鋲もだけど、よく見れば下駄箱の中が蛇とゴキブリの死骸だらけである。

 グロ耐性はある方なのでびっくりはしたが、呆れながら時代錯誤の古典的な嫌がらせキターって感じだ。よくこんなの拾って来たなあ。俺の家にもゴキはいるが、さすがに蛇は生息していないので捕まえてくるのが大変だったろうと苦労を重んじる。

 なんでこんなものが俺に……と、すぐにその画鋲を抜き取る。

 悪戯、か?俺、なんかしたっけ?まあ、恨みを買うようなことは結構してるしなー。たとえばAクラスとか工業科とかその他もろもろ。

 まあとにかくだ。日頃の仕返しと嫌がらせのつもりかは知らんが、こんな事を俺にするって事はそれだけの覚悟が出来ているって事だよな。ふっふっふっ。

「どこのどいつか知らんが、売られた喧嘩は買ってやらぁああ!!」

 
 この程度の傷は大したことはないが、足から血がダラダラ出て他の生徒達にビビられたので保健室へ向かった。

 保健室には早くからキャバ嬢みたいな南先生に手当てをしてもらい、どうしてこんな傷を負ったのかと聞かれたが、余計な心配をされたくなかったので答えを濁してすぐに保健室を出た。というか俺自身が犯人を見つけ出して闇討ちしてやる予定なので、内容を話して止めてもらいたくはない。

 犯人がAクラスだろうと親衛隊だろうとひ弱な女だろうと、もれなくギャン泣きさせてやる予定なので夜露死苦である。

 こういう奴はスルーしたりするとつけあがるし、中途半端にやめるよう言っても聞く耳なんて持たないので、二度とこんな真似をしたくなくなるほどの報復が必要だ。容赦はせんぞごるぁああ。


「おはよう、甲斐君」
「架谷、早いな。おはよう」

 悠里と本木君がもう学校に来ていた。

「二人こそ早いな。まだ8時になったばかりなのに」
「甲斐君こそ珍しいね。いつもなら猫の世話で遅刻ギリギリなのに」
「あー……まあ久しぶりの早起きって言うかね」

 直とホテルでヤリまくって目が覚めましたとは言えない。

「架谷、なんか足引きずってる歩き方してるけど……」
「ちょっと足痛めてさ」

 その時、背後からふと殺気を滲ませた視線を感じた。俺はハッとして振り向くと、そこには誰もいない。

 今のは見間違いだろうか。いやでも殺気を感じたのは確かだ。誰かにじっと見られていたはず。

 次は……逃すか。

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